雑談配信と──

【アストロシミュレータ】星を眺めて晩酌しながら雑談配信《指宿アキラ》

同接:215人


「皆さんどうもこんばんは。Vすきアキラこと、指宿アキラです。今日は不定期開催の夜飲み雑談配信です」



コメント:おっすおっす

コメント:こんばんは~

コメント:画面暗いね

コメント:なにこのゲーム?

コメント:月か?

コメント:初見です



 画面の中には、宇宙が広がっていた。漆黒の海の中にはキラキラと輝く小さな小さな星たち。


 その中心には、グレー一色いっしょくの天体があった。


 その天体の表面は隕石が何度もぶつかったのか大小さまざまなクレーターがあり、自転によってその表情をクルクルと変えているようにも見える。


「初見さんこんばんは。ゆっくりしていってね。いま画面に映しているゲームはアストロシミュレータって言うゲームです」



コメント:アストロシミュレータ?

コメント:聞いたことある気がする



「このゲームはですね、言ってしまえばプレイヤーが操作をしないゲームなんですよ」



コメント:操作しない?

コメント:それってゲームなの?

コメント:逆に興味沸いてきたわwww



 画面の真ん中にあるグレーの天体は、俺の操作するキャラクター。まぁ実際は操作しないんだけどね。


「まぁ見てもらった方が早いので、さっそくやっていきましょう。このゲーム、いま現在で全世界でやっている人が20人ということで非常に人気のあるゲームなんですよ。せっかくなのでどこかの誰かさんが作ったオープンルームにお邪魔しますか」



コメント:全世界で20人!?

コメント:くそワロタwww

コメント:にんき?

コメント:オンラインゲームなのか



 オープンルームに入ると、画面の中には自分のを含めて5つの天体がゆっくりと自転していた。


 天体の上には『Lv.○○○』と表示されていたが、俺の天体の上には『Lv.1』とあった。


「このゲームはですね、自分の天体を眺めると時間経過によってレベルアップできる。ただそれだけのゲームです」



コメント:え?

コメント:眺めるだけ?

コメント:なにそれ草



「レベルは1分毎に1レベル上がります。これはどれだけレベルが上がっても一律なので、100レベルの天体は100分このゲームに費やしたということになりますね」



コメント:へー

コメント:あ、いまレベル2になったね

コメント:ちょwwwルームにヤバいやついるんだけどwww

コメント:レベルが上がるとどうなるの?



「レベルが上がると、このルームのみなさんみたいになります」


 同じルームには俺の天体とは全く違う天体が浮遊していた。


 それぞれの天体は大きさも違えば自転の角度、速度も違う。


 色だって俺のグレーとは違って土色や青色、太陽のようにオレンジにメラメラしている天体や絵の具をぐちゃぐちゃに混ぜたような天体もあった。


 ちなみにこのゲーム、1時間毎に天体の自転が止まりレベルアップも停止する。天体を再び自転させるには天体をクリックする必要があるため、ゲームを付けて放置するだけではレベルが上がらない。


 そんな中、このルームには『Lv.100000』という猛者もいた。絵の具ぐちゃぐちゃ天体の人だ。



「という訳でね、皆で天体を眺めながら雑談配信していこうかなって思いまーす」



コメント:ま、雑談だし

コメント:背景動かないよりかは多少動いてた方がね

コメント:ちょっと面白そう

コメント:切り抜きみました!!



「『切り抜きみました』あ、俺も見たよ。めちゃくちゃ見やすく編集されててスゴいなって思った」


 切り抜き動画というものがある。


 ワオチューブにアップされている尺が長めの動画の見所を投稿者じゃない第三者が切り抜き編集したもので、興味があるけど長い動画を見るのを躊躇している人や、面白いところだけ見たいという人にとってとても便利な短めの動画だ。


 元動画の投稿者と切り抜きする人物は動画編集や収益についてやり取りをする、もしくは完全にフリーでお任せなどなどがあるようだが、俺は切り抜き動画については自由にしていいよと配信上で言っているので、誰がどう編集しようが収益を得ようがフリーだ。


 まぁ俺の切り抜き動画を作ってくれる人なんているのかなとは思っていたが、つい昨日そんな変人が現れ動画をアップしてくれたのだ。


 アップされた切り抜き動画は2つ。


 ひとつめはこれ。


 『こんなところにアキラくん【指宿アキラ】』


 この動画は個人勢企業勢問わず、さまざまなVTuberがスパチャを読んでいるところを切り抜いた動画だ。一見変わった動画だが、共通しているのはそのスパチャを送っている人物がすべて『Vすきアキラ』という人物であるということ。


 これは、俺が活動休止中に見たVTuberにスパチャを送っている場面だ。そして自分が記憶している限りでそのすべてが網羅もうらされていること。


 この動画を見たとき、ちょっと背筋が凍る思いをした。


 いまや万を越えるほどのVTuberが存在しているこの業界で、俺がスパチャを送ったVなんてそれほど多くないはずだ。


 にも関わらず、的確に俺が送ったVTuberをすべてピックアップしている。


 俺が誰にスパチャを送ったかなんて、俺と家族くらいしか知るはずがないのに。


 ネットって怖いね。本心でそう思った。


 動画のコメントには『V好きって本当だったんだ』『これ活動休止中のやつだよね』『底辺っぽいVにもスパチャ送ってるのは本物だろこれ』などが書かれていた。



 もうひとつの動画はこれだ。


 『【ゼータの伝説】新バグ発見?遭遇から検証まで【指宿アキラ】』


 つい先日『ゼータの伝説』というゲームをやっている時にバグに遭遇した。


 ゲーム序盤の大地からゲーム終盤のボス部屋にワープするというバグだったのだが、これがどうやら調べてみると新発見バグだったらしい。


 その後、検証してみるとどうやらランダム要素のあるバグだということがわかった。このバグを発生させることはできるのだが、ワープ先が毎回ランダムなのだ。


 スタート位置固定のランダムワープバグ。


 結論としてはそんな風に落ちついた。


 切り抜き動画では、そのバグの遭遇場面から検証までの一連の流れが字幕付きで見やすく編集されていた。


 動画のコメントには『アキラ普通にキャラ操作うまくね?』『ランダムとはいえ夢があるなぁ』『これRTAに使えるかな?』などがあった。


 今日の雑談配信の同時接続者数が増えているのは、切り抜き動画の影響が大きいと思っている。


 自分に対する評価が変わった人が少なからずいたのはコメントを見ればわかる。


『切り抜き作ってくれた人には頭が上がらないねこれは』


 そんな思いを馳せながら、カチッと気持ちを切り替える。


 今日の雑談配信ではマシュマロを消化しようと思っていたのだ。


 マシュマロとは、匿名の質問を受け付けることができるサービスであり、その質問自体のことも指す。


 AIによって悪意のあるメッセージが弾かれる仕組みになっているため、ぶつけられても痛くないのだ。


「それじゃあ、こんな俺にもマシュマロが届いているので、消化していきますね」



コメント:よっ

コメント:おー

コメント:俺のマロ読まれるかな

コメント:もう天体のレベル6になってる



◇◇◇



「次は……どんらゲームを……しょっかな……」



コメント:なにする?

コメント:呂律回ってないぞwww

コメント:酒飲みすぎたか?

コメント:難しいゲームやって欲しい!!

コメント:終わる?



 少し眠気がまわってきた。


 酒が入り過ぎたのかもしれない。


「……z」
























コメント:アキラ氏?

コメント:あきらっち?

コメント:なんか眠そうだね

コメント:ん?

コメント:あれ? もう寝てない?

コメント:ぐーぐー聞こえるぞ

コメント:あ、これガチなやつだ

コメント:ホントに寝てる?

コメント:寝てるね

コメント:配信終わりかな

コメント:天体の色なんか変わってない?

コメント:いつの間にかもうレベル100行ってんのね

コメント:どーすんだこれ

コメント:いつ起きると思う?

コメント:朝まで起きないんじゃね?

コメント:ん?

コメント:あれ?

コメント:ガチャ?

コメント:なんかガチャって音聞こえたぞ

コメント:誰か部屋に入ってきたんじゃない

コメント:え、ヤバいんでない?

コメント:事故ったな

コメント:誰だ

コメント:不倫相手とか

コメント:おもしろくなって来ました!!

コメント:キタ!!

コメント:不倫の証拠が

コメント:止められないのこれ

コメント:マズいんじゃない

コメント:コメント加速してるwww

コメント:おまえら黙れ気付かれる

コメント:なんか聞こえた?

コメント:これは?

コメント:あ?

コメント:女の声?




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