第12話 笑顔の意味02

「女はまだ見つからないの!!??」


 クラブ『ネオ・カサブラン』の薄暗いフロアにダヴィデの怒号が響いた。


「「「も、申し訳ございません!!」」」


 黒服の部下たちは肩を竦めてダヴィデの顔色を窺うことしかできない。ダヴィデはこめかみに血管を浮かべてアリオの顔写真をかかげた。


「まったく、みんなだらしないわね!! これからカルナン連合やビッグシックスとやり合うっていうのに……ねえ、アンタも本当にこの女を知らないの?」


 ダヴィデはフロアの隅に向かって写真をかざした。そこには、だらしなく胸元をはだけて椅子に寄りかかるマッケインがいる。マッケインはウイスキーの入ったグラスを煽りながら目を細めた。


「だから、知らないと言っているだろ。そんな貴族みたいな殺し屋を見たら、忘れないよ」


 マッケインはヘラヘラと笑いなが空になったグラスにウイスキーを注ぐ。そして、小ばかにするように再び口を開いた。


「それにしても、メチャクチャをするお前らが手を焼くなんて、面白いじゃないか」

「あら、余計なこと言ってると頭をカチ割るわよ」

「ふん……」


 監禁されて開き直ったのか、ダヴィデが凄んでもマッケインは鼻で笑った。


「表だろうが、裏だろうが、社会っていうのは秩序立ったものなんだ。秩序を乱そうとするヤツがいれば自然と排される……ちゃんと仕組みができているんだ」

「何が言いたいの?」

「いや、別に……お前らが社会を混乱させる害虫なら、その女は害虫駆除業者。どこの組織が雇ったかは知らないが……ぜひ、カルナン連合でも雇いたいもんだ」

「……」


 マッケインの顔が歪むとダヴィデは自分を落ち着かせるように深く息をついた。


「笑っていられるのも今のうちよ。カルナン連合とビッグシックスから連絡が来ているの。カルナン連合は『マッケインを返せ』、ビッグシックスは『マッケインを渡せ』って喚いているわ。あなた、モテモテじゃない♪」

「……」


 ダヴィデがからかうとマッケインの顔から笑みが消えた。赤ら顔で恨めしそうに睨みつけてくる。その目は『どうするつもりだ?』と問いかけていた。ダヴィデは腰から『暴虐トンファー』を抜くと片手でクルクルと回しながらマッケインに近づいた。


「カルナン連合にはアンタを『返す』、ビッグシックスには『渡す』と伝えたわ。間もなく、ヴィネアでが開かれる」

「簡単に組織を騙せると思っているのか?」

「思ってるわ。そのためにアンタを攫ったのよ♪」


 ダヴィデは回していたトンファーを肩に担いだ。そして、勝ち誇ったようにマッケインを見下ろした。


「アンタにはになってもらう。板挟みになってすり潰されるがいいわ♪」

「……そんなことになったら、ヴィネアで戦争が起きるぞ」

「だから? わたしたちはギャングよ? 戦争は望むところ。カルナン連合、ビッグシックス、そして『狂信者たちの聖夜ギル・デ・バレンタイン』……どこが生き残るのかしらね?」


 ダヴィデは愉快そうに笑う。マッケインは苦々しい顔をしながら小さく「呪われろ」と、呟いた。

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