第8話 初めての報酬

「今日の報酬なんですけど……私の身体、好きなところ触ってもいいですよ?」


 ――一瞬、何を言われているのか、全く理解ができなかった。


「葵ちゃん、冗談だよね……?」

「……いいえ。私の身体に魅力があるか、自信はありませんけど、報酬の替わりになったらいいなと思いまして」


 葵ちゃんはどうやら冗談で言っている訳ではないらしい。


「さっきレンタル彼氏の時に充分手も握らせて貰ったし、報酬は貰ってるよ」

「それとはまた別なんです。それともやっぱり、私に魅力無いですか?」


 葵ちゃんはうるうるとした目で見つめてくる。

 これで逆に俺が触れなかったら、葵ちゃんを傷つけてしまいそうだ。


「魅力的過ぎて、触るのに躊躇していたというか……。わかった。触らさせて貰うね」

「はい……」


 葵ちゃんはどこを触られるのかわからないため、顔を赤くして、身体を少し縮こまらせている。


 俺はそんな葵ちゃんの赤くなった頬に片手を添えた。


 葵ちゃんの頬は赤くなっているだけあって、暖かく、とても柔らかい。


 すると、葵ちゃんはゆっくりと目を閉じる。

 変な空気になってきた俺は、ドギマギとして、葵ちゃんの頬から手を離した。


 葵ちゃんは目を開ける。


「私、ドキドキしてしまいました。キスされるのかと思って……」

「いや、そんな恐れ多いことしないよ」

「キスもいい勉強になりそうですから、私としてはされても良かったですけどね」


 葵ちゃんは冗談か本気かわからないことを言って笑う。


「これからたまにレンタル彼氏をお願いするかもしれないですけど、大丈夫ですか?」

「うん、俺で小説の執筆のお役に立てるのなら」


 報酬はまたちょっとエッチなことなのかな……。

 こんな美少女を前にして、俺がずっと自分を抑えていられるか自信がない。


「それじゃ、明日7時半に悠くんの家の前で待ってますから。一緒に登校しましょう」

「うん、わかった」


 葵ちゃんと一緒に登校したら、学校で一騒動ありそうだな、と思いながら帰宅した。



 朝のうちに結愛に合鍵を渡しておいたので、帰宅すると、カレーを作ってくれていた。


「悠、どっか出かけてたの?」

「ああ、友達の家に遊びに行ってたんだ」


「あんた、ぼっちって言ってたのに家に遊びに行く友達なんているの?」

「んん……まあね」


 確かに俺は今まで休みの日も遊ぶ友達がおらず、ずっと家でアニメを見たり、ラノベを読んだりしていた。

 女の子の家に行っていたとは、何となく言いづらい。


 ――ガチャッ!


「ただいまー! 結愛ちゃんに会いたくて、仕事急いで終わらせて帰ってきちゃった」

「さくらちゃんありがとー!」


 美少女二人が抱き合っていて、何ともかしましい。


 その後、夕飯を三人で食べているいる時にさくらが話していたのだが、アルバムのリリースイベントも終わり、春先から続いていた激務からようやく解放されたらしい。

 さくらの体調面を心配していた俺は、少し安心した。



 翌朝。


 いつもより少し早く目が覚めて、顔を洗い、リビングに行ってみると、そこには高校の制服に身を包んださくらがいた。


「さくら!? 制服着てどうしたんだ?」

「学校に行くからに決まってんじゃん! さすがにこのままじゃ留年しちゃうから、これから少し仕事減らして、学校にも行くことにしたの」


 現在五月中旬だが、さくらは仕事の関係で、一回も学校に登校したことがない。

 入学式もだ。


「そうか、ようやく登校なんだな……」

「何か一言言うことあるでしょ?」


 そうだ、制服を来たさくらはめちゃめちゃ可愛い。

 華奢な身体に合わせて買ったであろう、小さめ制服は、さくらのスタイルの良さを際立たせている。


 葵ちゃん程ではないが、中学の頃から比べると、胸も成長しており、女性らしさも感じられる。


「可愛いよ、さすがさくらだ」

「!? おにぃ、ストレート過ぎ!」


 怒った顔をしているが、決して悪い気はしていなさそうだ。


 ――ガチャッ


 結愛がやってきたようだ。


「さくらちゃん、制服着てるってことは登校するの?」

「うん、今日からできる限り登校するつもりだよ」

「そっか、じゃあ一緒に登校しようね!」


 さくらはまだ高校までの道もあやふやだろうし、結愛がついていてくれると助かる。


「悠も一緒に登校するでしょ? もう悠をひとりぼっちにはさせないんだから」

「いや、今日は一緒に登校する約束をしている人がいるんだ」

「え、そうなの!? 悠の高校での初めての友達、会ってみたい」


「……ああ、いいよ」

「さくらは何となく想像つくな……」


 それから朝食を摂り、三人揃って家を出る。時刻はちょうど7時半だ。


「悠くん、おはようございます」

「悠くんって何!? 友達って柚月さんのこと!?」

「一昨日は名前呼びじゃなかったのに……」


 結愛は男友達を想像していたのか、葵ちゃんが現れたことにかなり驚いていた。

 さくらの内心は伺い知れない。


 俺はこれから美少女三人と登校することに、居心地の悪さを感じながら、葵ちゃんに向けて言った。


「葵ちゃん、おはよう」

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