第7話 レンタル彼氏

『たぶん外出しないので、リラックスできる服で来てくださいね』


 と、柚月さんから連絡があり、難しいなと思いながら、俺は可もなく不可もない、ジーンズにTシャツ、その上にシャツを着て、柚木さんの家に向かうことにした。


 家を出て、向かいのマンションのエントランスに入ると、伝えられた部屋番号を押し、オートロックを開けて貰った。

 エレベーターに乗り、12階へと向かう。


 柚木さんの家は最上階のようだ。

 家の前に着き、インターフォンを押すと、柚月さんが出迎えてくれた。


「戸塚くん、いらっしゃい。どうぞ入ってください」

「お邪魔します」


 柚月さんはネイビーのチュニックに、グレーのワイドパンツを履いている。

 昨日の格好とかなりギャップがあり、ドキドキとしてくる。可愛すぎる……


 家の中に入ると、かなり広く、間取りは3LDKのようだった。

 リビングに向かうと、置かれている家具は、やはりどこか北欧っぽさを感じさせる、オシャレなものだった。


「戸塚くん、もうお昼ご飯は食べましたか?」

「うん、食べてきたよ」

「あ、そうなんですね。食べてなかったら、カレー作り過ぎたんで、食べて貰おうかと思ってたんですけど」


 ああーーー!!!

 俺は何をやってるんだ。


 ここは嘘でも食べてきてないって言うべきだった。

 ……しかし、もう訂正はできまい。


「それじゃ、エロゲしましょっか、と言いたいところなんですが、実は今日、戸塚くんにお願いしたいことがあるんです……」


 柚月さんは少し恥ずかしそうにして、うつむいている。


「どうしたの?」

「えっと、誤解せずに聞いて欲しいんですけど、私の“レンタル彼氏”になって貰えませんか? 実は今書いてる『未来の貴方に、さよなら』で、この後主人公とヒロインの一人が付き合うことになるんですけど、私、恋愛経験が全く無くて、そういった描写ができそうにないんです……」


 ――主人公とヒロインの一人が付き合う!?

 そっちにも驚いたが、それよりもレンタル彼氏って何だ?


「えっと、小説書くのに恋愛経験が無くて困ってるのはわかったんだけど、レンタル彼氏って具体的に何をするの?」

「私もあまり詳しい訳ではないんですけど、“レンタル彼女”って聞いたことないですか? あの有名なアニメの『彼女、貸して下さい』みたいな」


「あのアニメは見たよ。面白いよね。ってことは、あれの性別逆転版ってこと?」

「はい、そういったイメージかと思います」


 アニメの中では、レンタル彼女は依頼者の希望に沿った彼女になりきって、デートなどをしていたはずだ。

 ということは、レンタル彼氏は依頼者の希望に沿った彼氏になりきって、依頼者をデートに誘ったりするのだろうか。


「イメージはついたけど、何で俺なの?」

「私、身近にレンタル彼氏を頼めるような男性の知り合いなんて、戸塚くん以外にいないんです。それに、バーチャル彼氏のるかくんをやってる戸塚くんが相手なら、私としても嬉しいです。色々囁いて欲しいですし……」


「知ってると思うけど、俺学校でもボッチだし、彼女いたことなんて一度もないよ?」

「私は逆に彼女がいたことのない人の方が助かります。主人公もヒロインも初めての恋愛という設定なので、慣れていない方がいいです。もし嫌になったらやめて貰っていいんで、何とかお願いできませんか?」


 ここまでアピールされて、憧れている柚月さんの彼氏役を、俺が断る理由なんてないだろう。

 逆に俺が柚月さんにレンタル彼女をお願いしたいくらいだ。


「わかった。俺でよければ」

「ありがとうございます。報酬はお支払いしますので」

「いや、柚月さんからお金なんて貰えないよ」


「では、報酬はお金以外の戸塚くんが喜びそうなものでいいですか?」

「うん、わかった」


 俺が喜びそうなものって何だろう?

 書き下ろしのSSとかだろうか……


「じゃあ、今日はお家デートの彼氏役をお願いできますか? えっと、演技とかして貰うと変な空気になっちゃいそうなので、ゲームしてる間、手を繋いでて欲しいです……」


 柚月さんは恥ずかしいのか、少し顔が赤くなっている。


「わかった、頑張るよ」


 それからエロゲをするため、柚月さんの部屋に向かう。

 柚月さんの部屋は、クールな感じなのかと勝手にイメージしていたが、カーテンもベッドのシーツもピンク色で、とても女の子らしい感じだった。


 すると、柚木さんはデスクの上に置いてあったノートパソコンをベッドの上に置いた。


「こっち座ってください」

「柚月さん、俺がベッドの上に座るのはマズいんじゃ……」

「彼氏なんですから、ベッドの上くらい座ります。それに、柚月さんじゃないです。葵って呼んでください……悠くん」


 柚月さんに下の名前で呼ばれたことにドギマギとしてしまう。

 俺は意を決してベッドの上の柚月さんの隣に座った。


「悠くん……」

「葵ちゃん……」

「何だか照れますね……暑いです」


 俺も興奮で全身が熱くなってきていた。


「悠くん、手握っていいですか?」

「うん」


 すると、俺の右手に柚月さんの左手が重ねられる。

 白くて小さくて柔らかい手の感触に、俺はどうしようもなく興奮してしまう。


「じゃあ、恋人繋ぎもさせてください」


 そう言うと、柚月さんは指と指を絡めてきた。

 俺も柚月さんも、興奮からか、手が湿っており、少しねっとりとした感覚がある。


 俺はベッドの上で、恋人繋ぎをしている状況に、頭が真っ白になりそうだった。


「葵ちゃんは、恥ずかしくないの?」

「恥ずかしいですよ、とっても。でも、恋人同士がすること、やってみたいです。このドキドキしている気持ちも、とても勉強になります」


 俺の方はこんなことしてると、元々柚月さんに憧れていただけに、本当に好きになってしまいそうだ。

 柚月さんは勉強のためにやってるんだ。


 割り切らなきゃ……


「じゃあ、エロゲ始めましょっか」

「そうだね。そっちがメインで来たんだから」


 それからずっと恋人繋ぎをしながら、エロゲを二人でプレイした。

 エロゲのエロシーンよりも、柚月さんとベッドの上で恋人繋ぎしていることの方が、余程俺を興奮させていた。


 そして、晩御飯の時間が近づき、エロゲを一旦セーブして止める。


「悠くん、これからレンタル彼氏の時以外も、友達として悠くんって呼びたいんですけど大丈夫ですか?」

「うん、大丈夫だよ。俺も慣れないけど、葵ちゃんって呼ぶね」


 教室でも下の名前で呼び合ったとしたら、周りのクラスメイトは驚くだろうな。

 いや、その前に学校一の美少女とぼっちの俺が会話をしているだけでも衝撃か……


「あの、悠くん……」

「どうしたの?」


 すると、葵ちゃんは恥ずかしそうに、顔を赤らめて言った。


「今日の報酬なんですけど……私の身体、好きなところ触ってもいいですよ?」

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