第19話 院長先生の授業・4

 魔法書により会得した治癒魔法を、訓練する事約200日。

 やっと完璧に制御できるようになりました。

 これからはいよいよ、物理的な医療を学びます。


 赤いタイルに乗り「チェンジ!」


 いつもの図書室、いつものデスクに院長先生。そして雷ちゃん。

 いつものようにわたしはデスクまで小走りで向かいます。

「おはよう、リリジェン。今日は「介護の仕方」と「看護の仕方」を教えるから」

 まずは教科書を「記憶球」で呼んで頂戴と院長先生は言った。

 ちなみに、これは雷ちゃんは知識は吸収するけど、体の大きさから物理的にできない事が多いので、見学になるそうだ。


 記憶球を作り出し、例によってクッション部屋に放り込んだ院長先生は、「早くしなさい」という態度だった。

 がんばります!

 だけど、今までのモノと、今回のモノは違った。

 患者さんを、徹底的に介護・看護するもの。

 私は心から、全力で「善意」を引き出さなくてはならなかった。

 それがなくては、この仕事は出来ない。

 幸い、異空間病院で仕事するうちに、その種は育っていた。

 私は善意のままに、それを受け入れる。

 その記憶球は、苦しい、痛いというより、圧迫されてる感覚だった。

 介護、看護の辛さを、余すところなく味わい尽くした感じだ。


 それを、今度は実習でやる。

 人造人間を使うので、本物と変わらない。

 サイボーグの私でも、キツイ、と思った。

 やり方は分かっていても、力のかけ方が絶妙なのだ。

 何より汚物が………。

 今までとは別種の苦労です。

 患者さんのすべての動作を、この身で行う。半端じゃありません。

「痛いよ」「何やってんの」という人造人間の言葉が心に刺さります。

 それでも、私は3日かかりましたが「介護」と「看護」をやってのけました。

 雷ちゃんはふわふわ浮きながら、私のしていることを見ています。

 人造人間が「ありがとうねえ」「いつもリリジェンさんならいいのに」と言ってくれた時、本当に嬉しかったです。涙が出ました。


「………その言葉を引き出せた時点で、リリジェンは合格とする」

「えっ………その………ありがとうございます!」


「最後は、一番難しい課題よ」

 外科手術―――ミリでも手が狂ったら、患者さんを殺してしまいかねない手術。

 これは、雷ちゃんも参加するそうです。大丈夫かな。

「まずは知識を会得して。後で私が実演するから、それも見てもらう」

 いつものように、院長先生は記憶球をクッションルームに放り出す。

 かなりの圧縮度………苦戦は必然。

 ですが、私はその記憶球に取り掛かりました、これが出来なくては、完璧なドクターにはなれないからです。

 2日間、ソレを吸収するのにかかりました。

 雷ちゃんは一日で吸収し終わり、後の一日は心配そうに私に抱き着いていました。

 ごめんね。


 けれど2日間で、私は外科手術の「知識」を手に入れました。

 一旦自室で休養となりましたが、雷ちゃんに

「おれはリリ姉といっしょにべんきょうするからね」

 と言って貰えてジーンとしました。

 下働きの仕事は休みっぱなし。「ドクターの免許を取りに行ってて、今佳境です」とルカさんに説明したら、何とかしとく、と返事が返ってきました。感謝です。

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