第28話「アンタがエメラルド様の後継なんて認めないから!」



 シエラも一緒に、服を買いに行くことに。

 アレクに思いっきり、自宅の服を処分されてしまったし。

 女性用の下着とかのお店では、オルセンさんとアンディさんはお店の外で待ってもらうことになった。

 二人は「え、別に気にしないけれど」と言ってたけれど、あたしが嫌なので。

 まあ、あれだよね、アンディさんはあんまりわかってない感じだろうけど、オルセンさんは普通に平気なんだ。

 大人なんだ、はははは……。

 切った張ったのダンジョン攻略者、しかも深層階攻略者ともなれば、モテモテだろうし、彼女の一人や二人はいるんだろう。

 この場にアダマント様がいた場合も想像するけど、あの人も気にしなさそう。

 ルビィ様に「お前のそういうところだよ」と突っ込みが入りそうだけど。

 商会の会合で時々顔を合わせていた店長が自ら接客してくれた。

 そりゃ、アダマント様の紋章の馬車で買い付けにきた客なら、店長自ら接客しないとって感じだろうけど。

 あたしが客なんで、驚いていたみたい。

 他の客もざわつく。


「あら。エメじゃない。まだ生きてたの」


 あたしに声かけてきたのは、宝石商の一人娘のサンドラだった。

 あたしより、二歳下だけど、相変わらずおとりまき連れて、羽振り良さそう。

 このセントラル・エメラルドじゃ、一、二を争う豪商の娘だからそりゃもう我儘いっぱいに育てられてあんまりいい噂聞かないのよね。

 噂ではエメラルドに弟子入りを希望したらしいけれど、エメラルドになんか言いくるめらて、また普通にお嬢様してたけれど。

 ていうかさ、アンタがここで呑気にお買い物できるの、あたしがダンジョンに入ってるからなんだけど、わかってんのかな。

 わかんないか、お嬢様だもんね。

 この子がいるなら、落ち着いて買い物できないな。


「アレク、シエラ、別の店に行きましょ」


 あたしが言うと、シエラはサンドラに向かって、なんか可哀そうな子を見る目で一瞥をくれていた。


「そうね」


 あたし達が店を出ると、まだなにか突っかかりたいのか、サンドラも後を追って店を出る。

 オルセンさんとアンディさんは意外に早かったなと思ったらしいが、追いかけてきたサンドラを見て眉間に皺を寄せていた。


「アンタがエメラルド様の後継なんて認めないから!」


 ちょっと人を指さすの止めない?


「ちょっとぐらい魔法が使えるからって、なんでアンタなのよ。あたしの方がずっとエメラルドの後継に相応しかったのに!!」


 シエラは「負け犬の遠吠え」と呟く。でかい声で言わないあたりが、シエラも大人よね。


「そう――……じゃあ、アンタがダンジョンに潜る?」

「ゾンビ一直線ですよ。運よくならなくても、スタンピード発生」


 アレクもぼそりと呟く。

 ですよね。

 アンタはここで、美食とファッションと恋愛に現を抜かしてる方が似合うわ。

 あたしもそんな生活に憧れるわ。

 ちゃんとご両親がいて、なんでもわがまま言えて、生活に困ったこともなくて。

 あたしが咽喉から手が出る程、欲しいものを持ってるのに、まだ欲しいっていえるの、すっごく羨ましい。


「エメラルドの後継になりたいの?」


 あたしが一歩前に出ると、サンドラは一瞬怯む。


「ねえ、オルセンさん、過去に鍵付きダンジョン攻略でこういう事案ある?」

「こういう事案とは?」

「すでに魔女の後継がダンジョンに入ってるのに、魔女の後継を自ら名乗り、ダンジョンに入るってやつ」

「ないかな」


 アンディさんが答える。


「ないんだ。そう。サンドラ……よかったわね、アタシの代わりに頑張ってくれるのね。何かと突っかかってくれたけれど、今日ほど、アンタの存在が嬉しいと思ったことはないわ。大丈夫よ、あたしにもできたんだもの、貴女なら、やってくれるのよね。エメラルド・ダンジョンは超深層階ダンジョンだけれど」


 あたし、こんな優しい声を出せたのかと思うほど、優しい声音でサンドラに声をかける。

 あたしがまた一歩近づくと、サンドラは二歩下がる。


「いい検証材料よね? アダマント様の覚えもめでたくなれば、貴女、迷宮の王の嫁にだってなれるわよ? 実家で婿探しするよりも、贅沢三昧の生活が約束されたようなものよ。

 その為に貴女はダンジョンに入らないとならないけれど、そんなことは、些細な事よね?

 鍵付きダンジョンは、常にトライ&エラーを繰り返して、今後の対策を立てて行かなければならないんだから。今後発生するダンジョンの為に」


「ひっ」


「さ、サンドラ、行きましょう? 貴女をただのお金持ちの我儘お嬢様、気に入らないことがあると、当たり散らすし、あたしやシエラみたいな孤児を蛇蝎のように嫌っているなんて思っていたけれど、それは違ったのね。貴女は、セントラル・エメラルドにおいて、救世主だわ。魔女の後継どころか、聖女と言っていいかもしれないわ。貴女のお父様もお母様も鼻が高いでしょう。さあ、この馬車に乗って。案内するわよ。新規エメラルド・ダンジョンへ――……」


「いやああああああ!」


 まるで、あたしがダンジョンに入った時にゾンビと遭遇した時の第一声みたいな声を上げて、サンドラは自分の取り巻きを置き去りにしてあっという間に去って行った。

 その後ろ姿を見送りながらあたしはため息をつく。

 わけがわからんわ。

 あの子が好きそうな言葉を選んだつもりなんだけど。


「……エメ……、そういうところ……エメラルド様にめっちゃ似てる」


 シエラが呟く。


 まじで!?



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