第20話「魔女が許可をしたので」
アダマント様が建てた対策棟の方に戻って、オルセンさんが事の次第を会議室っぽいところにいるブルヘルムさんをはじめとする方々に報告すると、ブルヘルムさんは頭を抱えた。
アダマント様が留守の間、この場の統括を任されている立場だから、地元のクランが勝手に鍵付きダンジョンに入ったことは頭が痛いことだとは思う。
あたしの死亡率が上がるってことだもんね。
「アクアマリン・ダンジョンだって、当時は同じだったと思いますがね」
「アクアマリンと比べるな! あの子は斥候だった。ダンジョンの実戦経験も積んだ彼女と、この娘は違うだろう」
アレクがとことこと、一人の人の袖を引っ張る。
「セドリックさん、エメさんに魔法教えて」
「うん。そうしようか」
セドリック氏が立ち上がるとブルヘルムさん顔を上げる。
「オルセン、お前はなんで止めなかった」
「魔女が許可をしたので」
え? あたしのせいなの?
そうは言っても、あれを止めるとか無理でしょ。散々危ないからって、ダンジョンカードで知らせても、ダンジョンに潜り込もうとする奴等が、聞く耳なんて持ち合わせてないわよ。
「エメラルド様!」
ブルヘルムさんがそう叫んで、おっかない顔であたしを睨むけれど、別に怖くもなんともないよ。
ダンジョン潜ってゾンビに絞殺されそうになった時の方が命の危険があって怖かった。
スタンピード対策に注力した方が建設的じゃないですか。
「素人がダンジョン潜るんですから、どのみち死ぬでしょ。遅いか早いかの差ですよね?」
この場の誰もが口にしないことを、当の本人が口にすると、その場にいる人は鼻白む。
「貴女自身のことですぞ!?」
わかってるわよ。そんなこと。
「アクアマリンの文献や資料とかは、どうなってるんですか? 今回みたいに、わさわさ他の攻略者が入っていったんじゃないんですか?」
思うことはある。
これまでの魔女のダンジョンも――さっきの連中みたいに何も考えない攻略者は、入って行ったんじゃないかなって。
50年前のラピスラズリは失敗した。
20年前のアクアマリンは成功。20年前は魔女自身が攻略者だった。アダマント様からの支援も今回みたいにあっただろうけれど。
「失敗したラピスラズリだってゾンビに殺されたんだから、魔女以外の人間が入ったんでしょ?」
「父親だ」
え?
「当時13の実の娘が魔女の後継になって、不憫に思った父親が先にダンジョンに入ったらしい。真偽はさだかではないが」
――親かあ……そりゃ、やるか……入っちゃうだろうし、魔女の後継に選ばれた子もゾンビになったって父親は父親、ましてや自分の為に命張ってくれたんじゃ、ゾンビ討伐なんて無理だもんね。
「ブルヘルムさんの言いたいことはわかるけれど、この新規のエメラルド・ダンジョンは誰が止めても入ってくるわよ」
あたしは投げやりにそう言った。
そんな他所の鍵付きダンジョンの歴史なんて、覚えてる人なんて少ないんじゃないかな?
思うに、20年前のアクアマリン・ダンジョンは今回のエメラルド・ダンジョンみたいに敢えて攻略者を招きいれたんじゃないだろうか?
ゾンビなら、倒せる。まして斥候ならば逃げ切れる。
他のモンスター討伐してダンジョン攻略するよりも、当時の魔女の後継には楽だったんじゃない……?
ド素人のあたしだって12体は倒せたもの。
そういうことを指示しそうな人ならやっぱり、アダマント様かなとも思うけど。
見張りの人は、12人は見過ごしたってっていうよりも、わざと通したってことか。人数の調整をしている?
そうなると……。
あたしは顔を上げて、ブルヘルムさんをはじめとするこの場にいる全員を見つめる。
――この人達は、そういうところも含めて、アダマント様から後を任されていた?
この中で屈指の魔法使いと言われるオルセンさんが、わたしの傍にやってきて、別室へ行くように促した。
「とにかく30体近く出現すると思われる、ゾンビ攻略に必要な火炎魔法の講義をしましょう」
「はい」
あたしは素直に頷いて、セドリックさんとアレクと一緒に会議室を後にした。
あたしができることなんてたかが知れているけれど、やるだけやらないと、三馬鹿もシエラも死んじゃうし。
◇◇◇
「同じように12体ならば2階層攻略できると思ったんだが」
「やはりエメラルドの後継だ。勘がいい」
「え? 今のでバレてる? すげえなあの子いや、新たな深緑の魔女」
「それにしてもダンジョンのゾンビ化は実際目にするのは初めてだな」
「アクアマリン攻略時はこの機能、アダマント様もご用意できなかったからな」
オルセンが、アレクからわたされたダンジョンカードから映像を映し出して、その場にいる者に回す。
「人数の調整をしてない状態で、果たしてあの魔女様は攻略できるだろうか」
「アダマント様に連絡を――……」
「オレ達はダンジョンの入り口に向かう。これ以上は侵入する攻略者を増やせない」
◇◇◇
扉を閉めた会議室の中でそんな会話があるなんて、もちろん、魔法の練習を始めたあたしは知る由もない。
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