第19話「戦闘の訓練は対人戦に絞った方がいいでしょうね」
「で、アンタ達どうするの? このまま帰る?」
三馬鹿トリオに視線を向けると、三馬鹿トリオはようやく我に返った様子だった。
「帰リマス」
「帰ル」
「帰リタイ」
くっそ腹立つな~。
あたしの方が帰りたいよ!
「じゃあ帰れ、アンタ等との付き合いもこれまでだからね」
あたしがそういうと、三馬鹿トリオはあたしにすがろうとする。
やめてよ、ゾンビ思い出すから!
「そんな~」
「エメ~」
「怒っちゃやだ~」
情けない声を上げてんじゃない!
「アンタ達、今の見たでしょ!! さっさと帰って、セントラル・エメラルドを引き揚げろっ! 家族連れて別のダンジョンエリアに移住しな。シエラにもそう伝えて」
あんなのがいるんじゃ、早晩あたしはダンジョンで死ぬわ。
下手したら二階層でアレがでるかもしれない。
スタンピードがいつ起こってもおかしくないじゃん。
「なんで、お前なんだよ」
「そうだよ、お前も逃げよう!」
「付与魔法が使えるだけだろ?」
心が折れるようなことを言うな。この三馬鹿。
見張りの二人が追い立てるように三馬鹿をセントラル・エメラルドに続く街道の方へ追いやっていく。
「あたしはあと三日後に二層に挑戦するから、アンタ達は荷物まとめて、マジで移住しておきなよ。家族がいるんでしょ? 早く行け、ほら、駆け足!」
パンパンと手を叩くと三馬鹿達は何か言いたげに何度もあたしの方を振り返りながらも、街へと戻って行った。
「エメさん……優しい……」
三馬鹿を見送ったあと、エメラルドの家へと戻る道すがら、アレクが呟く。
「え、優しくないよ。あの三馬鹿は幼馴染だから、追い払っただけだし、アレ見てもダンジョンに入る気満々だったら止めなかったよ」
ダンジョン入ったらあんなのが出てくるなんて想定外でしたけどね。
鍵以外がゾンビになるって言われてたから、アイツ等が入ったらすぐにゾンビになると思ってたけど、まさかのモンスターに蹂躙されてからのゾンビ化とか。
魔女のダンジョンえげつなっ。
「それはともかくも、戦闘の訓練は対人戦に絞った方がいいでしょうね」
オルセンさんが口を開く。
「なんで対人戦!? そこはケルベロスとかマンティコアとかの対策じゃないんですか!?」
あたしが食いつくと、オルセンさんは冷静に切り返す。
「二階層、さっき入った奴等が待ってると思うので」
「え?」
「そーですねー20年前のアクアマリン・ダンジョンの資料にもありますから。多分、二階層、さっき入って行った攻略者のゾンビですよね」
アレクもそう言って、二人は顔を見合わせてうんうんと頷く。
「いきなりケルベロスはないでしょう。わりと雑魚いモンスターはいるかもしれません。あと、さっきの攻略者の慣れの果てが、二階層に出現する可能性は高いですね」
ええ~。
明らかに質量が違い過ぎるモンスターと対峙するよりは、まだアンデッドの方がましなのかもしれない。
ゾンビならなんとかなるかもだけど、ただ、量が多いとな~。12体は倒せるかもだけど、さっき、30人近く入ってったよね、ダンジョンに……。
「ゾンビは頭が弱点なので、打撃でいけますよ」
「あと火ですね、燃やしちゃえばいいんですよ」
オルセンさんの言葉に、アレクが付け加える。
「燃やす……」
「エメさん、メイスの先端に火魔法つけたんじゃないですか、火力ガン上げして、骨まで焼いちゃえばいいですよ」
そうは言うけれど、メイスの先端についたあの火って魔法なんだろうけど、一階層の最後でほんの少し顕現しただけで、発動条件とかわからないのよ~。
「あと、やっぱり打撃。頭部を一撃必殺で」
オルセンさんは言う。
「後追いを止めないと、絶対に追いかけてくる」
「ねえ、ほんとに、あの黒い四足獣みたいなモンスターは出てこないよね? 二階層で」
「多分……」
「多分……」
何よ、多分って……うううう、おうち帰りたい……。
「このあとセドリックから魔法の講義を受けるといいですよ。アダマント様もお墨付きの魔法使いだから」
そんな人までここに来てるのか……来てるよね。街一つ消滅するスタンピード阻止の人員だから。
しかし、オルセンさんでドラゴンクラスのモンスター出現かあ~。もしかしてドラゴンバスターの称号とか持ってる? 持ってないか。
「付け焼刃の魔法で、しかも魔力があんまりないあたしが……」
「でも、エメさんは魔女の素養やっぱり、あります」
「はい!?」
「19で新たな魔法を習得できるんですから」
「ねえ、魔女の後継って、アレクの年齢ぐらいからが一番いいの?」
「そうですね、わたしは12歳ですが、10歳の頃、ルビィに拾われました。西側からの逃亡者です。そこから二年です。学校にも通わせていただいて、魔法の習得も頑張りましたし、他国への留学もさせてもらって、準備を整えてダンジョンの出現を待ってましたが、エメラルド・ダンジョンの方が先だったので、ルビィもアダマント様も驚いてました」
なんかすごいな。魔女の後継。
修行と実践を組んで、ダンジョンに臨むのか。
他の魔女のダンジョンもそうなのかな……。
あたしが沈黙してそう思いめぐらすと、アレクが励ますように声をかけてくれた。
「大丈夫! エメさん、パワーありますから!」
アレクさん……うら若き乙女にその言葉、あんまり嬉しくないものなのよ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます