Column7 「拝読させていただきました」は二重敬語か否か

 今回は「~させていただきます」と二重敬語について取り上げます。


     ☆


 ――カクヨムに投稿されている『〇△□』という作品を読んだので、コメントに「拝読させていただきました。面白かったです」と書いた。



「拝読させていただきました」ですが、二重敬語だという人もいます。とある大手企業のサイトに、親切に「させていただく」の使い方を説明していたので拝見したところ、「『拝見させていただく』は二重敬語で間違いです」と書いてありました。

 しかし残念ながら(っていうのも変ですが)、これは二重敬語ではありません。



【二重敬語】『明鏡国語辞典 第三版』

 同じ種類の敬語を重ねて使うこと。尊敬語の動詞「おっしゃる」に尊敬の助動詞「れる」を付けた「おっしゃられる」など。敬意過剰で誤りとされることが多い。



 ここで重要なのは、「一つの語について」同じ種類の敬語が重なっているということ。

 例えば「おっしゃられる」ですが、これは「おっしゃる」という「一つの語」で敬意が十分であるのに「れる」を付けています。これが二重敬語として扱われるものです。


 では「拝読させていただきました」や「拝見させていただく」はどうか。

 まず「拝読させていただきました」を見てみましょう。


「拝読」は元々「読む」ですね。「させていただきました」は元々「させてもらいました」です。

 つまり「読む」が「拝読」という謙譲語になっており、「させてもらう」の「もらう」が「いただく」という謙譲語になっているので、二重敬語ではないのです。「拝見させていただく」も同じ理屈です。


 二重敬語は「敬語を二つ使っていたらダメ」という認識があるのかもしれませんが、よく調べてみるとそうではありません。しかし、そういう認識をしてしまうのも無理からぬ事情があるようにも思います。


 世の中には「丁寧に話さないといけない」という気持ちがあって、敬語を使いすぎてしまう傾向があります。

 先日、ニュースで取材に応じていた店員さんが、やたらと美化語を使っているのを聞いたとき、「ちょっとやりすぎかも……」と感じました。

 私自身、人様にとやかく言えるほどきちんと使い分けていると堂々と言えませんが、それでもやりすぎている敬語はやはり慇懃無礼に感じます。

 思うに二重敬語として「敬語を二つ使っていたらダメ」という認識が広がっているのは、敬語を使いすぎている背景があるせいなのかなと思います。


 ちなみに「拝読させていただきます」を対等な相手同士でするのであれば、確かにちょっとやりすぎだとは思いますが、自分よりも偉い人や尊敬しているが書いたものを「読んで良いよ」と言われて、「(恐縮して・恐れ多いために)拝読させていただきます」と答えるのは問題ありません(ここでも許可をする人と許可される人が存在するので、この敬語は成り立ちます)。


 しっかりと場面に合わて使うことができれば、「拝読させていただきます」「拝見させていただきます」は使ってよい敬語です。


 敬語は本来、使うべき場面を弁えてその度合いも変えながら使う必要があるのですが、中々に難しいものです。その上、今回のように大手企業がネットに出している敬語情報も間違っていることもあるので、読み手の情報の取捨選択能力が問われてるなと感じます。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る