作用反作用
シロいクマ
第1話
『 機長。 小隊1番機離陸完了、2番機滑走を開始 』
『 よし。 離陸開始地点に移動する、出力15% 3秒 』
『 出力15% 3秒、了解 』
機長命令を了解した副機長が、機内に指示を出す。
「 出力15% 3秒! 」
「 出力15% 3秒だ! 」
機長命令が薄暗い機内で反復され伝達される。
クルー全員の意思が統一されないと、兵器はその性能を充分発揮できない。
私は出力計についた指示器を ”15”にセット、両足に力を入れて背中をシートに押し付け、青ランプの点灯を待つ。
座席の正面には大きな出力計が1つ、その上に青と赤のランプがある。
下には小さな出力計が3つ。
3つの出力計は私の班の班員のもの、私は班長だから班員の出力にも気を配らないといけない。
青ランプ点灯中は出力を指定値に維持する、赤ランプが点灯中は緊急時非常出力だ。
青ランプが点灯した、出力を始める。
背中がシートに押し付けられる、青ランプが消えたので出力を止める。
シートには下からゴツゴツとした振動が伝わってくる、機体は地上を惰性走行中のハズだ。
「 いよいよね、班長 」
「 ええ、そうよ 」
隣の席の班員が私に話し掛けてきた、戦闘行動中の私語は厳禁なのだけれど。
初出撃でクルーは皆緊張しているからね、士気向上のためここは大目にみることにする。
「 反撃開始よ、気を引き締めていきましょう 」
隣の席のクルーだけじゃ無く、班員全員が頷いている。
「 出力8% 2秒 」
「 出力8% 2秒だ! 」
新たな命令が下った。
離陸開始位置に着くため機体を地上で旋回させる必要がある、旋回すると機体は減速する。
減速分を補うための、お手本のようなタイミングで加速指示だ、うちの機長は腕が良い。
「 離陸開始位置に着いた! 離陸準備! 」
新たな命令が機内で復唱されているなか、班員が私に話し掛けてきた。
「 見て班長、あそこ 」
窓越しに班員が指差すほうを見ると、見送りのクルーに交じって司令官の姿が見えた。
彼はこの計画の指揮権を持っていて、この機体の設計者で、この基地の司令官でもある。
「 班長の見送りに来たんでしょ! 」
「「 うわ~ 」」
そして私の恋人。
エルフの村は魔王の攻撃で燃え尽きた、生き残ったのは薬草を採りに出かけていた娘たちだけ。
彼はそんな私達に住む場所と、食事と、そして生きがいを与えてくれた。
「 この作戦が終わったら、結婚するって本当ですか? 」
1番若い班員が聞いてくる。
「 ええ、そうよ 」
別に隠す必要も無いわね、ホントのことなんだから。
「「「「 おめでと~ 」」」」
他の機関員からも声が掛かった、観測員もだ。
私たちが乗る機体は世界初となる爆撃機 『 リターナー 』 、4発の爆撃機。
大きなブーメランに、小さなブーメランが垂直にいくつも食い込んだような形をしている。
操縦席と機関部の移動は、天井にある狭い通路を寝そべって移動する。
通路が狭くなっているのは、プレゼントを目一杯積み込むため。
魔王へのプレゼントだ。
操縦員は機長と副機長の2名、機関員は16名、爆撃員は3名、観測及び射撃員が3名、人員は最低限で余裕は無い。
リターナーは、最初垂直に離陸できる様に設計された。
滑走路に使えるほど、広い場所が無かったから。
でも機体は完成したけれど、操縦できる者がいなかったみたい。
飛んでしまえば問題は無かったんだけど、離陸や着陸する時に事故が多発したんだって。
結局、これを操れるのは魔王だけだろうと結論づけられ、初期の機体案は破棄された。
次の機体案からは、操縦は操縦員、風魔法は機関員、爆撃は爆撃員と分けられたみたい。
「 STOLやVTOLは、積載量が大幅に少なくなる 」 から、ちょうど良かったって、彼は言ってた。
『 機長! 地上クルーから滑走開始指示です! 』
『 よし。 出力20、離陸シーケンス開始 』
『 出力20%! 離陸シーケンス開始! 』
機長命令を復唱した副機長の声が機内に響く、観測員が命令を復唱し静かな機内に命令が行き渡る。
機体には、離陸限界重量までプレゼントが積み込まれてる。
最初から最高出力で加速なんて出来無い。
いきなり最大加速を行うと、機関出力の左右のバランスが崩れて滑走路を外れてしまう。
少しづつ加速して、長い滑走路が終わる頃にやっと出力が100%、離陸出力になる。
( 行ってきます )
私達は進行方向に背を向けて座ってる、その座席を前方に傾ける。
脚や背中、体全体を使って魔法の反動を伝えるためだ。
心の中でつぶやいてから目の前の計器に集中する。
青ランプが点灯した、滑走開始だ。
基地上空で編隊を組み終わり、目標へと飛行する。
「 所定のコースに乗った! 機関員は順次休憩に入れ! 」
「 1号と4号の機関員は休憩に入れ! 2号と3号の機関員はそのまま! 」
『 リターナー 』 は4発の重爆撃機、風魔法の
改良された風魔法の魔法陣は、4人掛かりじゃ無いと発動しない大出力。
でも大丈夫、私たちは風魔法が得意なハイエルフ、使いたい放題の魔力回復ポーションも在る。
休憩に入った1号と4号の機関員は、魔力回復ポーションを飲んでからトイレに直行する。
1gでも機体を軽くしないといけないから、ポーションのビンも機外へポイ捨てだ。
1号と4号の機関員の休憩が終わると、次は私たちの番。
編隊は、一度海上に出てから目標に向かう。
目標は魔王の国の首都、魔都だ。
事前の計画では魔都の真南からアプローチする事になっている。
今日は快晴、波もそれほどないから地上付近の風も弱いはず。
「 心配なのは迎撃機だけね 」
「 班長! トイレ空いたよ 」
「 ありがとう、直ぐに入るわ 」
魔力回復ポーションを飲み干してからトイレに入る。
トイレに入ったら、制服の上着を脱いでシャツも脱ぐ。
風魔法の反動で飛ぶから、椅子に擦れて皮が剥ける。
ポーションを掛けて傷を治してから、新品のシャツを着る。
もうすぐ旋回点だ。
----------
「 先導機より発光信号! 風はあれども爆撃に支障なし! 」
「 了解した。 速度、コース、そのまま。 5分後に爆弾倉を開放する 」
「 5分後に爆弾倉開放! 爆撃員は準備にはいれ! 」
魔都爆撃には3個小隊で12機、パスファインダーと特別攻撃機を含めて14機が出撃してる。
各小隊は魔都の右側、中央、左側を担当する、特別攻撃機は魔王城がターゲットだ。
爆弾倉では、爆撃員が最後の魔力をチャージしてる。
最初からギリギリまで魔力をチャージしてると、被弾したとき危ないから。
高度が高度だから爆弾倉はかなり寒い、空気マスクが無いと気を失う。
「 爆弾倉を半開放する! 」
背中が背もたれに押し付けられる、爆弾倉を少し開けたから機体の速度が低下したみたい。
ここで慌てちゃダメ、出力を維持しないと。
「 爆弾倉全開放! 爆撃まで20秒! 」
「 目標上空に小型機! 」
「 爆撃体勢を維持! 迎撃要員は配置につけ! 目標まで15秒! 」
もう少し、もう少し。
「 投下まで5,4,3,2,1 投下! 」
「 投下! 投下! 投下!・・・全弾投下を確認、爆弾倉閉鎖します 」
「 閉鎖を許可する 」
「 左旋回しつつ、高度を上げて退避する 」
プレゼントは届けた、爆弾倉も閉めた、凄く軽くなった機体が加速を始めた。
機体が左にバンクする、旋回に入ったから魔都が視界に入った。
「 燃えてる! 燃えてるわ! 」
班員の1人が叫んだ。
あれだけの量の魔法爆弾を投下したんだから、無事では済まないはず。
私達はその為にここまで来たんだから。
真っ赤に燃える魔都、被害は大きい、あとは。
「 あとは魔王だけね 」
私は燃える魔都を睨み付ける。
「 小型機! 特別攻撃機に向かう! 」 観測員が叫んだ。
特別攻撃機には 『 キャッスルバスター 』 が搭載されてる、特別製でたった1発。
それで魔王城にいる魔族を殲滅する。
特別攻撃機は私達より一段上、さらに高い位置から投弾することになってる。
『 魔王の小型機は下に向けて攻撃していた 』 って言う情報があった。
それが本当なら、特別攻撃機は安全なはず。
「 小型機、飛行不安定! 下降を始めました! 」
当然ね。
密閉されていない機体じゃそうなって当たり前よ。
下にしか攻撃出来ない魔王小型機で特別攻撃機を攻撃しようとしたら、特別攻撃機より高度を上げないといけない。
高度を上げれば、空気不足でパイロットは意識を失う。
マスクを装備しているかもって言われたけど、マスクは無かったみたいね。
身体強化の魔法だけじゃ酸素不足は解決出来ない、強化魔法でも水の中じゃ苦しくなるし。
「 全小型機、スピンしつつさらに下降! 」
「 特別攻撃機、キャッスルバスターを投下! 」
「 旋回終了! 」
機体が水平飛行に移った、増速している、もう地上は見えない。
爆弾を投下して、軽くなったリターナーの速度には、魔王の小型機じゃ追いつけない。
もう安心だ。
これでキャッスルバスターが命中すれば、魔王軍の首脳は殲滅出来る。
「 キャッスルバスター命中! 命中しました! 」
「 全小型機! キャッスルバスターの攻撃で砕け散りました! 」
「 各員! 衝撃に備えろ! 」
これで。
「 班長!! 私達の勝ちね!? 」
「 ええ、そうよ。 でも! 」
私は班員達に大切なことを伝えなくちゃいけない。
「 家に帰るまでが出撃だからね? 」
彼が私に教えてくれた言葉だ。
----------
俺は司令室から滑走路を見てる、攻撃隊が次々と着陸してくる。
全機が無事に帰還したんで一安心だ。
タバコに火を付けると、ドアがノックされる。
「 入れ 」
「 失礼します! 」
副司令が部屋に入ってくる、デスクの前まで来ると敬礼する。
答礼は省略だ、俺は軍人じゃない。
「 報告します。 王都の爆撃に成功、キャッスルバスターも命中、全機損害無く帰還しました 」
「 ・・・・・・ 」
静かに頷いて、報告を続けるように促す。
「 王都上空にて小型機に会敵しましたが、特別攻撃機に向かう途中で墜落。 キャッスルバスターの衝撃波で砕け散った模様 」
「 ヨシ! 」
小型機を撃破か、1番良いニュースだ。
「 地上部隊の攻撃に向かった別働隊も全機帰還、損害無し。 但し・・・・・・ 」
「 ん? どうした? 」
「 別働隊も小型機を確認、王都攻撃隊と同時刻です 」
「 まだ小型機が在るのか 」
地上部隊と諜報員の情報から、敵の小型機が複数在る可能性は指摘されていた。
数が少ないから、集中運用するものと思ってたんだが。
「 どうせなら、地上で撃破したかったな 」
「 今から攻撃隊を発進すれば、地上で撃破出来るかもしれません 」
「 第2次攻撃か 」
「 はい 」
「 別働隊が小型機を見たっていうのはどこだ 」
「 ここになります 」
「 ここか 」
地図を見る、結構遠い。
敵の王都からは近いって事だ。
天井を見上げて、頭の中でざっと計算する、敵機が魔都まで帰るのに30分ってところか。
「 奴が補給と王都の損害確認に、どの程度時間がを掛けるか。 だな? 」
「 はい。 そうなります 」
ザックリ計算して、今から出撃しても地上で撃破できる可能性はかなり低い。
それより、ヤツが怒って補給もしないでかっ飛ばしてくるとしたら、ここまで最短で1時間30分もある。
副司令がコッチを見てる。
「 発進を許可する。 但し、予定通りにだ 」
副司令が直立する。
「 了解しました! 第2次王都攻撃隊として2個小隊、地上攻撃に2個小隊を発進させます。 残りは地上で待機。 予定通りに 」
「 そうだ。 予定通りにな 」
司令室のドアが突然開く、ノックも無い。
入ってきた張本人は、副司令を見て固まった。
視線は俺と副司令の間を、忙しく往復してる。
「 ・・・・・・ 」
「 お帰り。 今、報告を受けてた所だ、任務は成功だったみたいだな 」
「 え~っと、ただいま? 」
こっちへおいでと手招きして、抱きしめようと背中に手を回す。
「 無事で良かった。 でも、背中の傷は治してきて欲しかったな。 これじゃ、抱きしめられない 」
「 ごめんなさい。 でも、早く無事な姿を見せたくて 」
副司令が微笑みながら部屋を出て行く。
「 気を遣ってくれたのかしら? 」
まだ作戦中だ、そんなことは無いと思う。
「 第2次攻撃の準備だな 」
「 やるの? 第2次攻撃? 」
「 やる。 徹底的に叩く 」
モニタを見る、まだ止まってない。
彼女も俺に抱き付いたままモニタを見る。
「 魔王を倒さないと止まらないのね? 」
「 たぶんな 」
「 だからと言って、あなたが囮になることないのに 」
「 その話もしただろ? 俺にしか出来ないんだよ 」
ギュッと抱きついてきた。
「 無事でいてね。 魔王なんか何時でも倒せるんだから 」
「 出来る準備はしたさ。 後は・・・・・・神様次第だな 」
----------
水平線に日が沈む、基地の照明に火が入る。
5杯目のコーヒーと、何本目になるのか忘れたタバコに火を付ける。
そろそろ、胃薬の出番かも知れない。
滑走路上で爆発、出撃しなかった機体が燃え始めた。
機体が次々と炎上していく。
基地に鳴り響くサイレン、消火中隊が飛び出していく。
格納庫と地下弾薬庫は無事のようだ。
締め切った室内で煙草の煙が流れる。
「 やっと来たか 」
ユックリ振り返る、部屋の中央、俺の机の前に人影。
神様から聞いていた通りの顔立ち、ヤツだな。
服はアチコチ汚れてるし、血が滲んでる。
手に持った剣からは血が落ちてる、何人か犠牲が出たか。
「 よくも、やってくれたな! 」
煙を吐き出す、ユックリとだ。
「 それはコッチのセリフなんだが? 」
『 彼は何も判っていない 』 、ヤツは俺にそう言った。
まさか、そんな事は無いと思ったんだが。
なぜ俺がここに居るか、コイツは理解出来ていない。
それを確信した。
「 先に手を出したのは 「 お前だな 」 だ! 」
「 何を言ってる! 俺が、俺達が攻撃したのは皇国だけだ! お前達の国には
モニタを見る、まだ止まらない。
「 本当にそうに思ってるのか? 」
「 当たり前だ! 俺は皇国を倒して、助けたい人達を助けただけだ! 」
ダメだな、こいつ判ってない。
「 それだよ! それ! 」
コーヒーを1口飲んで、カップを机に置く。
「 なに好き勝手やってんの、って話なんだが 」
「 何のことだ! 」
タバコを消す、お子様の相手は疲れる。
「 お前、ストーリーを替えたな? 」
「 お前・・・・・・何者だ! お前も日本人なのか?! 」
「 お前と同じ日本人だ。 ただし、お前とは違う 」
「 どう言う事だ! 」
モニタを見る、身体の向きを変えてハッキリ見る。
「 これ、何だと思う? 」
「 何かの映像だな。 ソレがどうした 」
「 よく見ろ 」
モニタにはピクセルとなって崩れていく風景が映ってる。
山も川も海も、花も木も動物も。
そして、人々も崩れ去っていく。
「 判るか? コレがお前のやったこと、そのエンディングだ 」
----------
俺がこの世界に来たのは2ヶ月前。
『 あなたの世界から来た人が、私の世界を壊そうとしている。 助けて欲しい 』
そう言われて連れて来られた、好きで来たんじゃない。
異世界が壊れようとしている、同じ世界の、同じ日本人のせいで。
許せなかった、何てのは後付の理由だ。
1番の理由はトラックに撥ねられたから。
帰っても死ぬだけだって判ってたんで、仕方なくコッチの世界に来た。
来て驚いた。
いきなり戦場のど真ん中に放り出されて、空を見たら中世の世界に航空機が飛んでた。
兵器として。
剣と魔法のファンタジーな世界って聞いてたんだが。
俺を助けてくれた兵士が言ってた。
『 飛行機を飛ばしているのは魔王 』 そう聞いた。
魔王ってのは、この世界を壊そうとしてる日本人のことだろう。
最良の対空兵器は航空機、だから俺
したんだが、足りない物ばかりだった。
「 何の事だ! 何を言ってる! コレは何の映像だ! 」
「 俺がコッチに来たのは2カ月前だ。 何もかも足りなかった。 技術者も材料も、滑走路用の広い土地も無かった 」
「 それがどうした! 」
「 翌朝起きたら滑走路が
「 何を言ってる!? 」
「 夕方には、ハイエルフの娘達が保護を求めてやってきた。 風魔法が得意なハイエルフがな 」
俺は煙草の煙をユックリ吐き出す。
嫌な顔してるな。
人それぞれ
「 彼等は言ってたよ、『 魔王に村を爆撃された 』 ってな 」
この世界で
つまり、コイツがヤッタって事だ。
「 俺はそんなことしていない! 」
「 そうか? でも、やった事に
「 どうせ、お前達が偽装したんだろ! そこまでして戦争をしたいか! 」
「 まだ判らないのか? この世界のリセットが始まってる、原因はお前だ 」
モニタの画像が切り替わった、また監視用の魔道具が分解された。
少しづつコチラに近づいてきてる。
世界の崩壊はまだ止まっていない。
「 先に言っておく。 俺はお前と同じ、ストーリーに出てくることのない
ヤツは血走った目でモニタを見てる。
「 もう一度言うぞ。 リセットが始まっている、お前はやり過ぎたんだよ 」
気持ちは判る。
お気に入りのキャラクターが活躍しない、途中で退場する。
納得出来ないのは判る、結末を変えたくなるのも判る。
「 気持ちは判る、判るけどな。 助けたいから助けたって、バカだろ!? 殴りたければ殴って良いのか? いい女が居れば押し倒して、気に入らないヤツは蹴飛ばすのか? 思ったことをそのまま行動に移して、それで良いと思ってるのか? 」
ちょうど、小さな村が巻き込まれて消えた。
逃げ惑う人々、その助けを求める声は聞こえない。
映像だけなのが幸いだ。
「 見ろ! 全部、お前の責任だ 」
食い入る様にモニタを見ていたヤツが、俺の方を見る。
「 本物なのか? 」
「 お前なら判るはずだ。 感じるだろ? 世界が消えていく、この感じ 」
俺も感じてる、コイツも感じてるはずだ。
徐々に無になっていく感じ、嫌なもんだ。
「 俺は・・・・・・助けたかっただけなんだ・・・ 」
「 それはもう聞き飽きた。 もっと良く考えるべきだったな 」
床に崩れ落ちる魔王。
「 歴史の、ゲームの強制力か・・・・・・ 」
「 そうとも言えるか? まぁ、ヤッタ分だけ返ってくるよな、当然だ 」
窓の外から入ってくる光が減った。
滑走路上の火災は鎮火したようだ。
「 それで。 何で風魔法で飛ぼうとしたんだ? 」
「 ・・・・・・ 」
何言ってんだ? って、顔で見られてもな。
コイツに会ったら、聞いてみたいと思ってただから仕方が無い。
「 E=Mc
「 ・・・・・・ああ 」
「 なら、何で風魔法で空を飛ぼうとしたんだ? 」
「 何でって・・・ 」
俺は手を上げて、やつの発言を遮る。
「 良いか。 空気の重さは、1リットルで約2gだ。 水は1リットルで1000gだ 」
俺は話を続ける。
素人のコイツにも判るように説明する、航空力学じゃなくて物理のお話しだ。
土は種類がイロイロ有るし含水率もあるから、比重がかなり変わる。
魔物を突き刺せるような土だと、土って言うより岩だったが。
固められた土、岩だと1リットルで2500g位だろう。
鉄は更に重いんだが、鉄魔法って見たことが無いから省略だ。
「 風を出して飛ぶんなら、水を出して飛んだほうが速く飛べる。 質量が大きい分、得られるエネルギーが大きいからな 」
ペットボトルロケットを見てみろ、空気だけじゃ殆ど飛ばない。
水を入れるから飛ぶんだ。
水が反動を得るための質量、空気が加速剤ってことだ。
「 そもそも空気はエネルーギー密度が小さい。 水魔法の反動のほうが、風魔法の反動より500倍大きい。 風魔法で飛べるなら、水魔法使えば宇宙まで行けるぞ? 」
「 水魔法で飛べる訳がない。 空を飛ぶのは風魔法に決まってる 」
「 そうか? それは
俺は魔法は使えないから、詳しいことは判らない。
針より小さくなるんじゃないかな、質量が1/500だと。
もっと小さいのか、水分子1個の水魔法って効果があるんだろうか?
「 質量が変わらないなら、速度が落ちるのか? 同じエネルギーなら速度は1/√5×10か、1/22.36、遅すぎないか? 」
野球のピッチャーの投球が時速約160km、テニスのサービスなら約200km。
その1/22.36だとすると、それぞれ時速約7.15kmと時速約8.94km。
「 早歩きと同じ位の速度だぞ、そんな魔法で当たるのか? それとも必要な魔力が500倍になるのか? 」
全部複合した条件もあり得るか。
質量を1/2にして、速度を1/5、必要な魔力が10倍か。
もう少し調整が必要だな、質量を・・・
「 そんな事より、コレをどうにかするのが先だ!! 」
ヤツはモニタを指差す。
「 お前は何か勘違いしているな 」
椅子に腰掛け、新しいタバコを取り出し火を付ける。
コレは1番重要な事なんだが。
「 ストーリーを変えすぎた、それも原因の1つだ。 だがもっと重要な事がある。 お前はこの世界の法則をねじ曲げた 」
この世界がゲームの中なのか、それともゲームを参考にして創られた世界なのか俺には判らない。
どっちにしても、俺らがどうこう出来るレベルの話じゃない。
だが、E=MC
「 この世界のモノ、生物も非生物もだが、全部地面や床にくっついてるよな? 何故だと思う? 」
「 ・・・・・・ 」
「 引力があるからだよ。 こうやって・・・ 」
煙草の灰を灰皿に落とす。
「 いいか? ここがゲームの世界なのか、ゲームを模倣した世界なのかそんなのは関係無い。 ここでも引力は有効なんだよ!・・・ 」
ゲームの世界でも物理法則は有効だ、そのようにプログラミングされる。
木の棒より鉄の剣が強力なのも、矢や魔法に射程があるのも、現実世界を参考にしているからだ。
プログラミングしてる人が、現実世界の住人だからってのもある。
ゲームの主人公はジャンプしたら地面に戻ってくる。
何処まで飛び上がるのか、落ちたときのダメージはどうするか。
引力と言う形では無いにしても、似たような現象は必ず設定される。
そこを敢えて外して非現実感を出す場合も在る。
小さな段差でやられる主人公も居るが、あれは例外だ。
「 ジャンプ1つだけでも操作感に影響する。 いくらストーリーが良くても、操作感が悪ければ全てが台無しになる。 クソゲー認定まっしぐらだ! 」
VR系のゲームは特にシビアだ。
操作感、没入感、物理法則からかけ離れると、ゲームは成立しない。
コイツはそこを判って無い、だから俺が説明してやる。
ゲーム内のご都合主義は、ストーリー上どうしてもある。
リアルタイムと言いつつ、1回行動したら何もしないで待っててくれる敵とか。
主人公はほぼ確実に死なない、ドンドン強くなって仙人や神様より強くなる。
だが、あくまでも
ゲームを創ってる
神様を創ってるのが、外の人なのだから。
だから俺が説明してやる。
コイツがやったことがどれだけ罪深いことか、
「 ・・・だからだ、良いか? お前がやった1番の罪は、世界の法則をねじ曲げた事なんだよ! 」
小一時間説教した。
『 水魔法じゃ濡れる 』 『 土魔法じゃ傷になる 』 とか言い出しやがった。
水魔法で濡れて、土魔法で傷になるなら、人を浮かせて飛ぶ位のエネルギーを持った風なら、真空波的な何かで身体はボロボロになるって説明してやった。
エネルギー量は変わらないんだから、エネルギー密度が低い風魔法じゃエライ事になるってんだよ。
「 ・・・・・・ 」
「 どいつもこいつも、ストーリー、ストーリーって。 そんなにストーリーだけが重要なら本でも読んでろ! ゲームをやるな! グラフィックデザイナーに謝れ、プログラマーに土下座しろ! ゲームはストーリーだけじゃ成り立たないんだよ! 」
「 ・・・・・・ 」
ヤツの目のハイライトが消えた、何も言わない屍のようだ。
そろそろ終わりにしよう。
足元のスイッチを踏む。
光、衝撃、熱が同時に襲いかかる。
あと、腹部に熱を持った衝撃。
「 指令! 」
「 !!! 」
ヤツの足元と天井、左右の壁に爆薬を仕掛けておいた。
俺の机の前にもだ。
「 机にも、破片防止用の鉄板を入れたんだがな 」
ヤツ持ってた剣が腹に刺さってる。
「 シッカリして! 直ぐに治療士が来るから! 」
「 ヤツはどうなった? 」
「 細切れになったわ。 大丈夫、私達の勝ちよ! 」
「 ・・・・・・そうか 」
椅子から滑り落ちた。
彼女が、膝枕してくれる。
どうやら、俺も
やればやるほど反発も強くなる、作用反作用だ。
「 それとも、特異点は対消滅ってか? 」
『 その通りよ 』
『 あんたか 』
時間が止まった。
『 ありがとう、世界は救われたわ。 貴方のおかげよ 』
『 どう致しまして。 でも、リセットするんだろ? 』
『 ごめんなさい、それは止められないの 』
『 そんな事だと思ったよ 』
痛みは無くなった。
いつの間にか、剣も無くなった。
手を伸ばして、彼女の頬に触れる。
『 もう少し、一緒に居たかったんだけどな 』
『 世界を救ってくれたお礼に、次の世界でも一緒にしてあげましょう。 幸せに、静かに、末永く暮らせる様にしておきましょう 』
『 嬉しいね。 もう戦いはゴメンだ 』
「 こんにちは。 こんなとこで何やってるの? 」
異世界に転生して2日目。
森で迷って居ると、木の上から声がした。
「 こんにちは。 何やってるのかね、俺にも判らないよ 」
「 ふ〜ん 」
声の主はエルフの女性だった。
転生した事は黙っておこう。
「 チョット迷ったみたいでね、休んでたんだ 」
森で迷ってもう2日だ。
「 そうなの。 じゃあ、うちに来る? 」
「 いいのか? 」
「 構わないわ、悪い人じゃないみたいだしね 」
「 助かる 」
「 じゃあ行きましょ! コッチよ 」
木から飛び降りた! エルフが、俺の手を握って引っ張る。
俺の転生は当たりのようだ。
ーーーーーend
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