いつも笑顔の君に会いたい

NOTTI

第1話:あの日の記憶

 2022年春、優莉は10年間住んだマンションから近くにある新居に引っ越しをすることになっていた。


 その引っ越しの準備をしていた時にある日記を見つけた。


 それは長女・優心を身ごもったときにやっていた友人の愛海との交換日記だった。


 その日記にはいろいろな思い出が書かれていた。


 例えば、優心が妊娠6ヶ月だった頃に彼女は抗がん剤の治療をしていたが、優心がすくすく成長している事を知ると“優莉が小さな命を身ごもっている。私も治療頑張らないと”と綴っていた。


 彼女は当時23歳だったが、15歳の頃から入退院を繰り返しており、学校に来たことはあったが、中学校3年間で出席できたのは3分の1程度でほとんどが病院内で生活する日々が続いていたため、高校も非番の医師が同伴する形で無事に卒業した。


 そして、彼女が高校を卒業して、大学に進学して初めての健康診断で乳がんの疑いがあると診断され、病院で精密検査をした結果、乳がんのステージ2と診断された。


 その時はまだ余命を宣告されていなかったが、抗がん剤の副作用が強く出る事が多く、彼女の容態が安定しない事も以前に比べると増えていた。


 そのため、当時付き合っていた彼氏や友人たちと交換日記をするために小さなノートを買って、自分のメッセージを書き、看護師さんに渡して、両親が荷物を取りに来たときに持って帰ってもらい、妹に彼氏や友達に渡してもらっていた。


 そして、彼女が22歳の時に容態が急変し、一時面会謝絶になっていたこともあった。


 その後、容態が回復し、医師から治療再開の許可が下りたため、通常治療を再開したが、彼女はその日の日記で「私は今日から治療を再開したけど、これからどうなってしまうか分からないのが不安」と綴っていた。


 この時、優莉が「愛海ならその不安に打ち勝てるから!安心して!」と応援メッセージを書いて返していた。


 その後、愛海から返信が途絶えた。


 彼女は今まで約束を破ったことも一方的に辞めることもなかった。


 そして、優心が生まれた時に彼女の友達が「愛海、容態が急変して今はICU(集中治療室)に入院している」と言われたことは今でも覚えている。


 そんな思い出に浸りながら小学3年になる長女・優心とこの春から小学生になる莉心、年中さんになった活発な茉心・菜心の姿を見ていると今でも思い出す。


 今は愛海もがんを克服し、大学の時に診断された乳がんも寛解とまではいかないが、再発することは今のところないという。


 そして、彼女も当時付き合っていた彼氏と結婚して、娘3人・息子2人のお母さんになった。


 1時間後、新居の鍵を持って不動産屋さんが新居の前に着いた。


 今度の家はこれまで生活していた2LDKよりも大きい6LDK+3Sという今までよりも3倍以上の大きさで、子供たち4人に部屋を与えられたことは両親にとっても一安心だった。


 引き渡し前の立ち会いチェックや設備などの説明を受けて、住んでいたマンションから荷物を運び出しが始まった。


 今回は学区内ということもあり、引っ越し業者さんも父親の知り合いがやっている会社が引き受けてくれた。


 その日の夜、引っ越しが完了し、以前住んでいた家は分譲マンションで旦那さんが結婚した時に購入した物件だったため、賃貸として貸し出し、不動産屋さんに管理してもらうことにした。


 コーヒーを入れて、一息ついているときに愛海からメッセージが届いた。


「優莉、明日からうちの子預かってくれない?」


 このメッセージを見たときに「何かあったのかな?」と優莉は思っていた。


 優莉は「今空いている部屋が2部屋あるからそこでいいなら。」と返したが、胸のモヤモヤが時間を追う毎に増していった。


 翌日、愛海が子供たちを連れて家に来た。


 チャイムが鳴って、玄関ドアを開けると目を疑う光景が広がった。


 そこには、今まで会ったことがない中学生の女の子と高校生の男の子と会ったことのある中学1年生の女の子から小学1年生の男の子までいた。


 女の子たちを茉心と菜心の部屋に、男の子たちを1階の部屋にそれぞれ通した。


 そして、優莉が愛海とリビングで話していると今回子供たちを優莉に預けた理由や今後についてまさかの話を聞いてしまった。


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