第20話EX 毛を探せ

 さて、大変だったのは龍の亡骸からメイデンを救い出す作業だった。派手に真っ二つにしてしまったためにそこらじゅうが生臭くて大変だったが、どうにかをかき分けて胴体の前半分、即ち胃袋の付近にうずくまっているメイデンを救い出すことが出来た。だが・・・この作戦はメイデンにちょっとした――と言うよりも全ての女性タイプの半機械人間にとっては重要な――副作用をもたらしてしまった。


「め・・・メイデン・・・どうしちゃったの!?その頭!!」

「・・・!?」


 実はメイデンは密かに自らの”毛”を鉄針に造換する能力も身に着けていた。今回もその作戦もその能力を見込んでクノナシが発案したものであったが、龍の内部は意外にも弾力があり、”全ての毛”を使い果たしてようやく龍を貫いたのであった。当然、それには髪の毛も含まれていたので、目の前の彼女がスキンヘッドになっていたのはごく自然の事であった。


「お、お願い・・・み・・・見ないで・・・」


 あのメイデンが顔を赤らめて恥ずかしがっていることさえ珍しかったが、男3人の注目は見事に”つるつる”のその頭に向けられていた。すかさずこの作戦の発案者であるクノナシが詫びを入れた。


「す、すいませんメイデンさん!!まさかメイデンさんが”ハゲ”になるとはさすがの俺も想定外で・・・なんとお詫びしたらよいか・・・」

「べ、別に気にしなくていいわよ・・・あとハゲって言わないで」

「でもご安心ください!たとえメイデンさんが”ハゲ”になろうと私は差別したりしません!”ハゲ”であろうとなかろうとメイデンさんはメイデンさんです!!」

「ハゲって言うな!!」


 口の減らないクノナシに鉄拳制裁を食らわせたメイデンは、とりあえずそこらへんに”毛”が落ちてないか手分けして探すように皆に頼んだ。一本でも毛があればその遺伝情報を基に体毛を再生できるそうなのだ。いつの時代においても、女性にとって髪は重要なアイデンティティだ。それが一本もないと心が落ち着かないといわんばかりの彼女の必死な表情を見るだけでもよくわかる。


「お願い、何でもいいからとにかく”毛”を捜して・・・一本でもいいから!」

「と言われても・・・龍の胃の中にいたんでしょ?もしかしたら残った胃液で消化されちゃったかも・・・」

「・・・見つからなかったらみんな班長命令で”つるつる”にするわよ」

「ええっ!!」


 ファラリスは、自分を含め皆が”つるつる”になった姿を思い浮かべて身震いした。いつの時代になっても”つるつる”にはいいイメージがつかないものだ。


「・・・どこだ、メイデンの”毛”はどこだ・・・」


 普段とは比べ物にならないくらい無茶苦茶なことを言うメイデンの様子は彼女の焦りがどれほどのものかを密使たちに知らしめて、彼らの毛髪探索に真剣さを与えた。

 そして、龍の亡骸に手を突っ込み続けて半時がたった・・・


「・・・?」


[体毛]

[遺伝子情報:501号]

[体毛種類:・・・」


「・・・見つけた。」

「見つかった!?流石ギロチン、仕事が早いわね!」


 ギロチンが見つけた”毛”は短く縮れた体毛であった。髪の毛ではなかったが、これさえあればメイデンは毛髪組織を復活させることが出来る。


「・・・よかったな、メイデン。」

「感謝するわギロチン、本当に・・・ん?これって・・・」


 ギロチンから手渡された”毛”を見たメイデンは突然押し黙った。そして、見る見るうちに顔がさっきよりも真っ赤になっていった。


「・・・どうした、メイデン?」


 刹那。


 パアァンッ!!


 痛覚。


「・・・ふん!」


 メイデンは顔を赤らめたままその”毛”を持ち去ってつかつかと先に行ってしまった。

 ギロチンにとっては二回目の平手打ちだった。しかし、理由が分からない。


「な、何でメイデンさんは、旦那にビンタしたんですか?」

「さ、さぁ・・・僕も良く分からないや・・・」


 二人はギロチンに駆け寄るとなぜビンタされたかを真っ先に聞いたが、彼自身も理由が分からない。いったいどうして・・・


「・・・」

「あっ、旦那もしかしてどこか変な場所の毛を拾ったんじゃないですか?」


 何だよ変な場所の毛って、とファラリスがクノナシに尋ねた。


「そりゃあ例えば・・・鼻毛とか!」

「・・・鼻毛にしては長すぎる・・・それに・・・女性タイプに鼻毛はない・・・」

「うーんじゃあ、腋毛とか?」

「・・・いいや、腋毛にしては”太かった”・・・」


 となると一体どこの”毛”であろうか。ギロチンは先ほど疑似網膜に写った”毛”データーを確認してみた。すると、彼は重要な部分を見落としていたことに気づいた。・・・ああ、そうか、その”毛”であったか。ならばあのような態度もうなずける。


「・・・分かったぞ。どこの毛か。・・・の毛だ。」

「・・・え?旦那ごめんなさい聞こえませんでした、もう一回どうぞ。」

「・・・の毛だ。」

「ギロチン、肝心の部分が全く聞こえないよ、一体あの毛はどこの毛なんだよ?」


 ギロチンは、その言葉をできれば口にしたくなくてその部分だけ超低音量で喋っていたが、今度ばかりは二人にもはっきり聞こえる音量で言い切った。




「・・・あれは・・・メイデンの・・・」




「陰毛だ」




「「えええええええ!!!!」」



 真昼の空。崩れた龍潜洞。龍の亡骸。男二人の断末魔。ワイズ山は今日もその図体を大地にそびえたたせていた。




「(・・・最初の時より・・・痛かった・・・)」











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