第2話 惑星安楽死任務

 真夜中に停電で照明が消え、わずかな非常電源の明かり以外は何も納電管理局を照らすものはない。管理局の人間たちが暗闇の中でせわしなく動きまわる中、それとは別に後ろから声が聞こえてくる。


「おーい!ギロチン!」


 声のする方を見てみると、これまたスッキリとしたバトルスーツの男と女が近くに駆け寄ってきた。


「・・・ファラリス。メイデン」


 ギロチンと呼ばれた男が、彼らに向かって発した名前。どうやらメイデンというのは女の方の名前のようだった。


「全部見てたわよ。貴方、私があれほど攻撃はするな、と忠告したのもう忘れちゃったの?」

「・・・俺は、この人の願いを聞いただけだ」

「全く、お人好しなのもいいけど最低限忠告は聞かなきゃだめだよ!」

「・・・すまん」


「お、おい・・・」


 三人の会話に蚊帳の外だった村長が割り込む。


「あんた等、いったい何者なんだ?どこから来た?都市警備隊でも管理局の人間でもないようだが・・・」

「・・・」


 男は黙って上を指さした。

 曇り一つない星空は、停電という事もあってやけにはっきりと、輝いて見えた。

 まさかこの人たちは、この星空の向こうからやってきたのか・・・?


「それは後で説明するわ、とにかく今は逃げましょう」

「ギロチン、行くよ!」


 男三人と女一人は、暗闇に包まれた管理局から早々に離脱した。




 納電軽減請願を出しに行った村長が、日が落ちても一向に戻ってこないので村の人々は心配でたまらなかった。そんな村長が、謎の三人組を連れて帰ってきたのは、もう日をまたぐかまたがないかの時間帯だったという。

 村長は、管理局であった一連の事柄を事細かく話した。


「そうか・・・結局ダメだったか・・・」

「みんな、すまない・・・私がもっと食い下がっていたら」

「村長さんのせいじゃないべ、悪いのは聞く耳を持たないお役人さんたちだ」


 人々は村長を慰めた。そして、突然現れたギロチンと名乗る男と、その連れたちを客人として盛大にもてなした。憎たらしい管理局に一矢報いた彼らは、村ではちょっとした英雄扱いされたのだ。


「あんたらが管理局の送電線を、そのちっこい刀でぶった切ったんだって?」


 村人はギロチンの武器をしげしげと眺めて尋ねた。


「・・・そうだ」


 送電線は少なくとも人の腰回りほどの太さがあることが確認できた。しかもその周りを核爆発でもびくともしないとされる強化ガラスで覆っていたというのに、それをこの出刃包丁と同じくらいの大きさの刀で真っ二つにしたという。


「へぇ~あんなぶっとい線でも切れるときは切れるもんなんだねぇ」

「おやじさん、それはただの刀じゃなくて、高熱度振動剣だよ、俺たちもの炭鉱で使ってる削岩機と同じ仕組みの武器さ」

「武器図鑑で見たことあるけど、強力なエネルギー切断波を発生させていろんなものをぶった切るんだって!」

「メインの送電線がそんなもんでぶった切られたら、復旧は相当時間がかかりそうだな、少なくとも今夜は眠れないだろうよ」

「いやああんたらはよくやったよ、管理局め、ざまぁ見ろってんだ!」


 その夜は、久々に村が活気に沸いた夜であった・・・




「・・・俺たちは、この星を滅ぼすために、銀河連邦からやってきた。・・・この星は、滅びなければならない」


 英雄とたたえた男、ギロチンから発された言葉は、朝一番に村長から呼び出されて村の集会場に来ていた村人全員の眠気と祝賀ムードの余韻をすべて吹き飛ばした。


「ほ・・・滅ぼすって、あんさん朝からきつい冗談はよしてくれよ・・・」

「冗談でも何でもないわ。ただ、もっと正確にいうと、私たちはこの星をあるべき姿に戻すために銀河連邦から派遣されたのよ。人間に例えていうなら、安楽死ってものかしら」


 メイデンが、無口で言葉足らずな彼の発言を修正し、続ける。


「この星は、すでに死にかけているという事を承知の上で、我々がかつて船団を用意してまで行った新天地への移民も拒否した、あなたたちの先祖によって無理な延命措置を何度も施されて、通常では考えられないくらい長生きしているわ」

「俺たちの先祖の時点で、もう先が長くないことが分かってたっていうんだべか?」

「そうよ。できれば全員移民させたかったけど、銀河連邦はあなたたちの先祖の意思を尊重して、あえて残していったのよ」

「余計なことしやがって・・・おかげで俺たちは一日生きるのも苦労だってのに」


 悪態をつく村人をよそ目に、彼女は話を続けた。


「残念だけれど、星にも寿命というものがあるわ。寿命を迎えた星はいずれ自らの重力で崩壊し、跡形もなくなる。それらをこの大陸の人々たちは都にある延命装置とそれらを支える発電ネットワークでどうにか繋ぎとめているけど、それももう限界ね。」

「それらを破壊して、この星の延命を終わらせるのが僕たちに課せられた任務です。そして、その最初の目標に選ばれたのが・・・」

「わしらの村、というわけか・・・」


 村人たちはがっくりと肩を落としたが、自分の村を破壊しにやってきた連中に不思議と嫌悪感は感じなかった。むしろ、どこか安堵さえ感じていたというのが正直な所だ。


「でも、そんなこと俺たちにべらべらと喋っていいんだべか?破壊するだけだったら何もここまで丁寧に説明する必要ないべ?」

「その通りよ。発電ネットワークの破壊さえできればそこに住む人たちのことはどうなろうと私たちには関係ないわ。・・・でも、どこかのお人好しがこの村の人々達にチャンスを与えてくれって夜通しせがむもんだから、こうしてみんなを集めて事細かに説明したの」


 村人の目線がすべてギロチンに向けられた。寡黙で、どこか物騒な名前とは裏腹にとても人情に厚いこの男に村長が最初に出会ったことは幸運なことだった。しばしの沈黙を、村長の声が破る。


「それで、それを聞いた私たちはどうすればいいんだ?」

「あなた達には、この村から立ち退いてもらうわ。全員がこの村から離れたことを確認したら、この村・・・火力発電所村を破壊する」

「立ち退いた後、どこに行けばいいんだべ・・・?」

「私たちが用意した難民輸送船に乗って銀河連邦に向かい、与えられる新天地に行くか・・・それともこの星の別の場所に移動して、この星と運命を共にするか。選ぶのはあなた達よ」


 かつて先祖が経験したであろう運命の分かれ道を再び目の前に提示されて、村人たちは動揺し、しばし激しく議論した。議論は数時間にも及んだが、どうやら意見がまとまって手打ちとなったようだ。して、その選択とは・・・




「では皆さん、いいですね?僕たちがこの船を渡したことは銀河連邦には黙っててください。『偶然入り込んだのが宇宙船とは知らず、誤って起動してここまで来てしまった。』って言うんですよ」

「ここから銀河連邦までは300光年かかるわ、食料は十分足りる量を用意してあるけど、なるべく節約を心掛けてね」


 村長を含め、全員で新天地に向かう事を決断した村人たちに、二人がモニター越しに注意事項を伝える。今、惑星の大気圏上に駐留している彼らの乗ってきた宇宙船は村人全員を収容してもまだ空きスペースのほうが目立つくらいの広さであった。


「どうかお気をつけて!」

「はい、ギロチンさん、メイデンさん、ファラリスさんも、どうかご武運を・・・」


 村長の通信が切れると同時に、宇宙船は銀河連邦へとむけて旅立っていった。


「さあ、これでこの任務の成功なしに、連邦本部へ帰ることは出来なくなったわよ」

「・・・二人ともすまん。責任は俺が取る」

「何言ってるんだよギロチン。君のお人好しは今に始まったことじゃないし、もう慣れっこだよ。それにギロチンのそういう所、僕は嫌いじゃない」

「なんだかんだで私たちも手を貸したことだし、一蓮托生よ。・・・もっとも今回は、始末書100枚ではすまなさそうね」

「コピペすれば一瞬さ」

「そういう問題じゃないわよ・・・」


 宇宙線を見送った3人は任務遂行のために村へと戻っていった・・・


 だが、ギロチンら3人の他に、昼頃にどうにか復旧した納電管理局から要請を受けて、火力発電所村へと向かう武装集団がいた。




 ・・・都市警備隊だ!








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