第8話 内務卿と陞爵

「続いてだが、先ほど、余の決定に意見を言ったフィリップス卿。」

「は。」

「余に意見を言えるのは非常に貴重だ。それに、余もまだ10歳の小娘。間違うこともある。そういったときに諫言できるものが必要だ。よって卿を内務卿に任ずる。」

「は、内務卿を拝命いたします。」


 そう言って私に忠義の礼をするフィリップス卿。


「頼む。宰相に相応しい人物がいなければ宰相の椅子に座ってもらうかもしれんが、その時はよろしく頼む。正式な就任式は戴冠式の前に行おう。さて、余の戴冠式と先帝およびその親族の葬儀だが、最後に伝えることとしよう。その前に、皆に紹介したいものがある。入ってまいれ。」


 そう言うと、袖からリー姉ちゃんが入ってくる。


「彼女はリクラウドの離宮を管理していたアイランド男爵家の唯一の生き残りになる。たまたまご友人の家に遊びに行っていて難を逃れた――――余と同じだな。余は夏風邪で離宮に行けなかったから難を逃れたのだから……。」


 大広間が私の話で静かになる。


「余は、殉職したアイランド男爵に敬意を払い、彼女にアイランド男爵の爵位を継いでもらい、子爵に陞爵してもらう。そして、リクラウド離宮跡周辺を領地として与えることとする。」

「陛下、よろしいでしょうか。」


 一人の貴族が手を挙げて声をあげた。


「あなたは、……クレゾール侯爵ですか。申してみよ。」

「は、まだ成人してもいない少女に家督を継がすなどあり得ません。他の貴族に与えてはいかがですか?」

「ふむ、侯爵の言い分を聞くなら、10歳の余が皇帝を継ぐのも問題があると言っておると聞こえるのだと思うのだが。」


 私の返答を聞いて、侯爵の顔がみるみる青くなっていく。


「ま、そこまで考えず発言したのであろう。クレゾール侯爵、もう少し考えて発言するように。」

「は、ははぁ。」


 そう言って頭を下げるクレゾール侯爵。


「さすがに、右も左もわからぬだろう。なので、アイランド子爵が逗留していたご友人の家に後見人になってもらおう。確か、フィリップス伯爵家だったな。」

「はい、フィリップス伯爵には大変お世話になっています。」


 この時、一部の貴族は気付いてしまった。フィリップス伯爵が今日突然内務卿に就任したのではなく、すでに事前に内定していたことに。


「では、フィリップス卿も陞爵しよう、内務卿就任の祝いとアイランド子爵の後見人になってもらうことを陞爵理由とする。正式には内務卿の就任式と合わせるが、今日より侯爵だ。ちょうど先ほど1つ侯爵家が減ったしの。」

「は、承りました。」

「アイランド子爵には、タウンハウスを下賜しよう。フィリップス卿、世話を頼むぞ。では、最後に余の戴冠式と先帝一族の葬儀に関して話す。」


 すべての者が聞き逃さないよう、静まり返る。


「まず、葬儀についてだが、そもそも山体崩壊で埋まったの土砂の下に遺骸がある状態で、掘り返すのも難しい。よって、離宮跡地そのものを広大な墓所とし、簡易的な祭壇ができ次第、葬儀を行うこととすることにした。また、同時に殉職した者たちの合同慰霊祭も執り行う。次に、余の戴冠式だが、帝冠は離宮に持っていており、今は土砂の下だ。よって、新しい帝冠を作り、完成し次第戴冠式を行うこととする。数日で仕上がると聞いているので、それほど時間を空けず戴冠式を行えるそうだ。以上で余より伝えることは全てである。」


 そう言うと、私は立ち上がった。


「皇帝陛下がお下がりになられる!」


 侍従長の言葉に、一斉に臣下の礼をとる貴族たち。私はすべての貴族が頭を下げていることを確認し、大広間を退出した。

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