転校生

「転校生」でいることが好きな子どもだった。

父親の仕事の関係で、小学校を3つ、中学校を2つ経験している。


大人になり注目される事は苦手になってしまったが、当時はそれが楽しくて仕方がなかった。



所詮子どもの世界とはいえ、そこには「社会」が出来上がっていて。

誰も自分のことを知らないコミュニティーに飛び込むということは、自分自身も新しく生まれ変わるような感覚さえもあった。


休日は電車に乗ってテーマパークへ遊びにいくような都会の学校も、交通手段が親の車しかないような田舎の学校も経験した。

良し悪しはあったが、そういう対極にある環境と、そこに属する人間の特性を外野から見ることができたのは貴重だったと思う。


自分自身も環境に適応しようと周りを良く観察するので、そこにある人間関係やパワーバランスを把握する能力が身についた。

また、やっと新しい土地に慣れた頃に再び引っ越すことになるため、「時の流れに身を任せ」的な精神も鍛えられたように思う。


一方、その裏側には「どうせ、また誰も自分を知らない場所へ行くんだ」という逃げも存在していた。それは社会人となった今、初めて自分の足枷となっている。


遠い未来を想像することが苦手。

その行為自体、意味がないとさえ感じてしまう。


大人というステージで経験が自らのハードルになってしまったが、それを乗り越える日は来るのだろうか。

それとも、「それでもいい」と納得できるような答えが見つかるのだろうか。


その答えを見出したいと願うあまり「存在しているコミュニティーから抜け、新しい環境へ飛び込む」という行動を躊躇するようになってしまった。


何とも皮肉な話である。


鴨の羽

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