キミの創作意欲はホンモノか?

柴田 恭太朗

音楽と小説を愛する男の日記

■3月28日(月)晴れのち曇り


 俺がアマノジャクのせいもあるけれど、今年に入るまで聴いてなかったんだよ。あれを。髭男ひげだんを。何年か後にこの日記を読み返した俺が、どう感じるかに興味がある。だから、未来の自分に送るメッセージとして、いまの気持ちを詳細に書いてみようと思う。


 ◇


 初めて耳にして失敗したなと思ったね。聴くんじゃなかったと、心の底から後悔した。

 だってダメだろう、アレ。髭男。音楽を作るヤツが聴いたら絶対ダメなヤツ。天才でしょ彼ら。

 ああいう曲を作られちゃったらさ、俺らができることといったら、もう絶望すること以外に選択肢が残されてないんだよ。


 たとえば「Cry Baby」。冒頭のへんな軍国調のモノラル部分。あそこまでは良かったんだ。ニヤニヤしながら「何これ?」って具合に聴いてたの。


 でも、そのあとがいけない。メロと歌詞の「パンチ」をかましてくるじゃん。アレでぶっ飛んだね。心がガチーンと掴まれっぱなしよ。髭男って、こういう曲をサラッと作っちゃうんだよな。レベルが格段に違うバンドの出現に、プロなら絶望するよね。俺はアマだからショックで寝込むぐらいで済むけど。


 ところで俺ね、いま小説も書いてんの。だから、そのCry Babyを聴いてて思ったんだけどさ、短編小説はこう書けって言われている気がする。

 冒頭のフックからの、聴き手を掴んで離さないストーリー展開。せつない心情描写を加えたところで、また手厳しいパンチが飛んでくる。ときおりアレンジの小技を効かせちゃったりしてね。


 できのいい短編の構成ってホントこれ、Cry Baby。まぁ、ラストで和音が完全解決するのは、ちょっとシロウトっぽいかなと思うけど。そのへんは好みでアレンジすればいい。とにかくCry Babyは短編小説だ。間違いない。


 それと「Pretender」ね。これはなるべく耳にしたくない。それほどの絶望曲。なにこれ? こんな曲、人間が作れる? プロならちょっと人生考え直すよね。次の職を探しはじめるかもしれない。俺はアマだから熱だして二日寝込んだ程度で済んだけど。


 Pretenderを聴いてごらんよ、メロディーで殺され、ボーカルに殺され、歌詞で殺され、コード進行で殺される。

 この曲を聴いて生き残れるミュージシャンっていますか? もし平然としてられるなら、自分の感性とか創作意欲とかを疑った方がいいですよ。マジで。


 こういう「何か言っている」音楽って気持ちいいんだよね。聴きたくないのに、聴いてしまう。習慣性のある危険な中毒曲。


 ただ救いは、彼らの曲も神曲(ダンテに非ず)ばかりじゃないってこと。

 聴いてみて「あー、はいはい」みたいな並レベルのヤツとか、「ひょっとして、こういうことやりたかったのかな?」とか、「それヒネリすぎて全体を壊してる」みたいな曲まであって、髭男もやはり万能じゃないな、人間だったなと、ちょっと安心する。その一方で、「まだ奥の手があるんだろう? もったいぶらないで出してよ」って次の神曲を期待してやまない俺もいるわけよ。


 ともかく、数年後の俺がこの日記をどういう思いで読んでいるか。楽しみです。


 おわり

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