異世界交換日記ってもうだれかやってそうだけど

闇谷 紅

啓蒙書で見たんだったか

「日記をつけてみるといい」


 そう勧められて半ば流されるように買った日記帳。買ってしまったからには使わなくては意味がないと開いた最初のページに文が書き込まれていたのに気づいた時には、俺は目を疑った。


「『すでにだれかネタにしてそうな気がする異世界との交換日記ネタを私もやってみんとす』って、小説の前書きか何かかよ……」


 誰かのいたずらだとしてもやりそうな人物に心当たりがない。日記を置いておいた部屋にはいれるのは家族だけだが、両親にそんな悪ふざけするような趣味はないし、姉は一人暮らしを始めてこの実家には最近戻ってきていない。弟は進学校に入学して寮暮らしでこっちも家にいない。


「落書きしてあったって取り替えてもらうのもめんどくさいしな。もういいや」


 そもそも日記を交換するためだけに出かけていたら、気持ちがなえてしまいそうな気がして、とりあえず謎の文をネタに一日目の日記を書き始める。こう、半分くらいは人の日記に妙なモン書いた奴への不満なりなんなりだったが、別に誰かに見せるでもない。


「あ、日記って一日の終わりに書くもんだったか?」


 書き終えて日記を閉じてからふとそう思ったが、そもそも誰かに見せるつもりのモノではないのだ。


「まぁ、いいな」


 とりえず一日目は書いた。これが三日坊主にならないよう続けていければいい、そう思っていたのだが。


「は?」


 翌日、またしても俺は目を疑った。文章が増えていた。ただ、それを文章と言っていいのか。全く知らない言語で書かれたそれを不思議なことに俺は読むことができて二度驚く。


「『わたくしの日記帳にどなたがこのような』ねえ……」


 異世界との交換日記がどうのという文章が嘘でなかったのか。


「ひょっとして最初の文は俺の方にしか出てなかったとかか、それとも……」


 気になる点はいくつもあるが、無断で異世界との交換日記にされてしまったのはあちらさんも同様だろう。二日目は事情説明と自己紹介になりそうだなと思いつつ俺は日記帳のページに鉛筆を走らせた。

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異世界交換日記ってもうだれかやってそうだけど 闇谷 紅 @yamitanikou

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