第8話

「起きろ」

 まだ夜が明ける前、五十嵐が須藤を起こした。

「……」

 須藤が口を開こうとした時、五十嵐がその口を押え、首を横に振った。五十嵐は無言で窓の方へ視線を向けて、何かの気配を感じた事を、須藤に伝えた。


 五十嵐はスマホの灯りが漏れないようにしながら、榊原にメッセージを送った。蓮宮はすみやはまだ、すやすやと眠っている。どうやって起こそうか考えて、声を立てられないように、まず先に口を押えた。

「むっ……」

 驚きと恐怖で蓮宮は目を見開いた。五十嵐は自分の口に人差し指を当てて、静かにするように伝えると、蓮宮は怯えながら頷いた。まったく状況は飲み込めない。五十嵐に何かされるのではという考えがよぎったが、須藤も同じように声を立てずじっとしているのを見て悟った。あれがどこかにいるのだと。


 もう間違いない。あれは普通の人間ではないと、五十嵐は確信した。

「いなくなったようだ」

 五十嵐が言うと、須藤と蓮宮は目を合わせ、息をついた。二人とも緊張で息も出来なかったようだ。

「呼吸を止める必要はないだろう」

 五十嵐は、呆れたようにそう言った。しばらくすると、廊下を歩く数人の足音が聞こえて来た。部屋の前でそれは止まり、小さくノックをした。

「榊原です」

 声をひそめてそう言うと、五十嵐がドアを開けた。榊原、その他三人の刑事が入って来た。

「俺もあれを見た。間違いなくいる」

 五十嵐が言うと、

「鑑識の結果、あの手形をつけた者は、身長は百三十センチから、百四十センチほどで、九条の別荘で出た指紋の一つと一致。九条家が昔住んでいた家でも検出されています。九条があれを知っているはずです」

 榊原が報告した。

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