和製ケン・リュウによる胸が締め付けられるSF

 愛情をチューブでいろいろなものに分け与えられる世界。彼女に愛情を注いでいたのに、その彼女はシナモンパン、そして自分自身にそれを注いでしまう。

 私自身もどうにもならない人間関係の果てをよく書くので、どうしても共感してしまいます。愛情はどこに向かうのだろう、伝えきれなかった思いは体のどこに残るのだろう、それはやがて雪のように跡形もなく消えてしまうのか、それとも膨らみ続けて爆発してしまうのか。読みながらだんだんと、その結末がわかってきて、胸が締め付けられます。

 私が読んだ中ではケン・リュウの『紙の動物園』の読後に近い、なんとも言えないほろ苦さ、やるせなさを感じさせます。SF系の文芸コンテストに出品したりして、ぜひ世に出て欲しい内容と思いました。皆様にお勧めします。

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