魔王のくせに生意気だ。~魔王討伐に向かったハズなんだけど、なんか城から追い出されちゃった!

あずま悠紀

第1話

『魔王』を倒す為に異世界から来たけど、追い出されてしまったんだよね。それで行く当てもなくて途方に暮れていた所に、優しそうなおじさんと出会うんだよ。しかもその人こそが追っていた王様本人らしくって、「私の為に力を貸して欲しい」なんて頼まれるわけだけどでもこの人が本当に魔王だとしたら大変な事になると思うんだよねぇ。だから一応断ろうと思ったんだけど、お城に連れ戻そうとした兵士さんにいきなり攻撃されかけて、思わず応戦しちゃったら殺しちゃって、そのせいで追手が大人数に増えてしまう始末でね。

そんな状況の中、結局僕も一緒に逃げる事になったんだけど。ただその道中で、やっぱりあの人は本当に魔王で、僕を騙そうとしていただけなのかもと思い始めてきたんだよねぇ。このまま付いていけば殺されてしまうんじゃ無いかなぁ。

そんなこんなで始まった逃避行だけど、僕はある決意を固めつつあった。それはこの世界にはびこっている魔物を全て倒してしまうという覚悟。確かに今の実力じゃとても勝てるとは思えない相手ばかりだし、それにそもそも僕自身、自分がどうして魔王と呼ばれる程の力を持ってしまったのかさえ分かってはいない。だからこそまずは自分の力を見極めてみる為、敢えて強敵と戦ってみたいと思っていたのだ。

ただそこで問題が一つ発生してしまった。そう、僕はこちらの世界で戦う為の方法が無い。向こうでは魔法の力が使えたけど、ここではそういった力が全く通用しない。しかし今更諦められる筈も無い。何か方法はないかと考えていた所でふと閃いたのだ。そう、この身そのものが魔法の様なモノなんだから、それを武器に変えれば良いじゃないか、と。

つまり僕は、剣の代わりになる物を手に入れる必要があった訳だよ。ところが僕の力を見た街の人達の反応は冷たかったね。だって皆んな僕の姿を見るなり逃げ出したり泣き叫んだりするばかりで、誰も話を聞いてくれないし近寄ってもくれない。どうしたものかと思っている内に一人の冒険者が声をかけてくれたんだ。彼は自分の家に案内してくれたばかりか食事まで出してくれて。しかもその冒険者は実は有名な凄腕冒険者でもあって』

「えっ!? ちょっと待ってくれよ!!?」

突然の出来事に驚いた勇者は思わず素の声が出てしまっていたが構わず続ける。

「なんなのコイツっ! 何でこんなにもペラペラ喋ってやがるんだっ!?」

そして慌てて口を抑えたがもう遅いだろう。

(マズいなこれは)

こうなったら仕方ないとばかりに、彼は思いきって話しかける事にした。勿論その言葉が相手に伝わっているかどうかは分からない。しかし何も反応してこないという事はきっと聞こえてはいないはずだし大丈夫なはずと信じたい所だが

「もしかすると君は僕が喋れる事に驚いているかもしれないけどね。でも安心してほしい。僕は元々こういう存在だったんだからね」

どうせ駄目元ならこの際、正直に伝えておく方が後々になって面倒な事にはならないだろうと思ったのだ。しかしそれに対して返ってきた返事は想像を絶するものとなっていた。

「いや、普通喋れないだろ?」

勇者にとっては予想外の展開だ。今まで出会った人の中では、勇者に対してこのような態度を取った者などいなかったし、それどころか会話が成り立つ人間ですら殆ど見たことが無かったのだ。

勇者は基本的に一人で行動する事を基本としており、他の誰かと一緒に行動する事も殆ど無かった為、コミュニケーションを取るという能力自体が著しく低下している状態だったのだ。なのでこうして普通の人間との会話が出来るとは思っておらず、かなり焦ってしまった。その為についつい早口に説明をしようとしてしまい、その結果更に相手の機嫌を損ねる形となってしまう。しかしここで引き下がるのも格好悪いと感じてそのまま続けてしまったのだがしかし結果としてそれは正解となった。「なるほどな。そういう理由で魔王って呼ばれていたって訳か」

意外とすんなり受け入れてもらえたのは良かったが、それでも完全に信用されているとは言い難い雰囲気だ。勇者自身もまさか相手がここまで簡単に信じるとは思っていなかったのだが、やはりそれだけこの世界の現状というものが切迫した状態にあるのだろう。

『そんな訳で、結局僕の目的の為にも仲間が必要だったんだよね。そしてようやく巡り会えたのが君というわけだよ』

(いや、だからって勝手に連れてくんじゃねえよっ!! そもそも俺まだ行くなんて言って無ぇだろっ!!!?)

当然の様に心の中で反論するも、その叫びが届いた様子は全くない。どうやらこの男は本気で連れて行くつもりらしい。しかも先程の言葉によれば既に仲間としてカウントしてしまっている。こうなってしまえば後は従うしかないだろうと悟ったのだが

(ってか、マジでどうしよう。どうすりゃ良いんだよこの状況。こんな事なら最初から適当に逃げとけばよかったなぁ)

勇者が後悔するのも無理はない。何しろ目の前に広がっている光景を目にすれば誰だってそんな気分にもなるであろうからだ。そう、彼の視線の先には明らかに堅気ではない男が三人並んで座っており、明らかに歓迎ムードでは無かったからである。

しかも彼らの前に並べられている皿の上を見ると、そこには何故か血だらけの人間の肉が置かれていた。それはもう真っ赤な血の海と表現するべき有様である。

(いやこれ絶対ヤバいだろ。こんな所でこんな奴らに捕まって、それでこれから何されるのか分かったもんじゃないからな。よし、逃げよう)

そう決意してゆっくりと立ち上がろうとしたのだが、それを察知した相手から制止されてしまった。「どこへ行く? 折角来たんならば食っていくがよい」

そう言った瞬間に背後から凄まじい殺気が向けられてきた。それは勇者の全身から嫌な汗を大量に吹き出させるには十分な代物であったし、それが例え嘘だったとしても逃げ出す隙を与えてくれそうな相手ではなかったのだから尚更である。

『あはは、残念だけど諦めた方が良いと思うよ?』

(お前、一体どういうつもりでこのオッサン達に付いていったりしたんだよ?)

そんな事を尋ねながらも、実際には分かっている答えだった。要するにこいつは俺を利用する為に連れてきたに過ぎないのだと勇者は理解していたのだ。つまりは自分だけが逃げる為に利用するつもりだったのだと思われる。

(あー、うん。そりゃあそうだよね。魔王討伐の為にって言われても俺なんかじゃ絶対に倒せるわけが無いし。でもまぁ一応は命を救われる形になった訳だし、とりあえずは従っておけばいいかな)

『おっ! やっと食べてくれるんだね? いやぁ、本当に良かったよ』

そして彼は再び席に着く羽目となり、そしてその後に続く様に次々と料理が運ばれてきたのだが、どれも非常にグロテスクな見た目をしていた。しかし勇者は不思議と食欲を感じてしまえている自分がいたのだ。

「おい、何をぼうっとしている。さっさと食いやがれ」

「え?」

しかしそう言われると同時に、まるで何かの力に引き摺られるかのようにして体が勝手に動き始めた。そして気付いた時には口が開いており、そこにフォークのような物が押し込まれてしまったのだ。しかもそのまま無理やり喉の奥まで突かれるような感じになった為に、吐き出す暇も与えずに食べ物は全て胃の中に収まってしまったのであった。

『お疲れさま。じゃあ僕と一緒に外に出ようか』

「え? は? ちょっと待てって。いきなりどうしちまったんだよ?? つか何処に向かってるんだよ??????」

『まあそう慌てないで。ちょっとしたサプライズがあるだけだよ』

しかし勇者は混乱していてそれには気付かず、やがて到着した場所でさらに困惑する事となってしまった。

「ってここ地下洞窟じゃねえか。一体こんな場所に何があるって言うんだよ? まさかここにも例の変な連中がうろうろしてるなんて言い出さないでくれよ?」

『その点は安心して欲しいかな。ほら』

その言葉を合図にするかのようにして突如視界に変化が訪れた。それも単なる景色の変化等ではなく文字や数字といったものが突然現れたのだ。

そしてそれを目にしている勇者の頭の中では「これは一体何なのだ」という疑問が次々と浮かんでは消えていくが、それを口に出すより早く説明文のようなものが目の前に浮かび上がってきた。

【勇者のレベルが10になりました】

「え? レベルが上がった!?」

勇者にとってこの事実はかなり嬉しい出来事であったが、同時に少しばかり困ってしまったのが、今はまだステータスを開く為に必要なスキルを所持していない事に気付いたからだ。つまりは今の状態ではいくら頑張ったところで確認できないのである。

「なあなあ、何か変な表示が見えるんだけどもしかしてこれがその、あれなのかな。やっぱり」

「ああそうか。確かにその様子なら見えるようだな。なら早速開いてみるが良い。そしてそれを見れば大体の状況は分かる筈だぞ」

そして勇者は再びその文章を読み始め、その内容を確認した途端に大きく息を飲み込んだ後に思わず固まってしまう事となった。そう、彼が想像していたものとは違う、予想外に酷い内容がそこには記されていたのだ。

【勇者のレベルが上がりました】【魔王を倒す事が出来る程の力を秘めています】

勇者にとっては最悪の展開となったと言っても良い。もしこれでレベルさえ上げていなければ彼は素直に従うふりをして、このまま上手く逃げおおせていた事だろうから。ただそれでも何とか誤魔化そうと試みてはみたのだ。「なあ、俺は別にこの世界を滅ぼそうとかそういうつもりは無いんだぜ? 本当なんだってば」

するとそれに対して男は溜息混じりに口を開いた。「ふんっ、それはどうかな。現にお前のせいで世界が大変な状況となっているんだ。これ以上お前に利用されてたまるかってんだよ」

「ちょ、マジで待ってくれって。そもそもこの国が悪いんだってのに、どうしてそんな風に言えるんだよ?」

しかしそんな言葉に返事が戻ってくる事はやはり無かった。どうやら既に話は終わっているのだとばかりに彼は去っていき、そして勇者はその場に残されたのである。

しかしだからといって諦められる程簡単な話ではなかったし、またそんな気持ちになる余裕も無い状態となってしまっていた。というのも目の前に広がる情報量の激しさによって彼の脳内はオーバーヒートを起こしていたからである。

「はあっ!?!?」

『はははっ、驚いただろう。でもそのおかげで僕の言っている事が分かってくれたみたいだね』

「っておい、こりゃあ一体どういう事なんだよ?」

そう、勇者にはどうしても受け入れ難い事実が存在したのだ。まず最初に見えてきた文字の羅列は、勇者の職業とやらの説明であったのだが、それを見ただけでも信じられない内容となっていたのである。

勇者(笑)

勇者なのに職業が勇者(笑)とか、あまりにも酷過ぎるにもほどがあった。しかもそれだけでは無く更に続きがあり、それは勇者の詳細なデータであった。そこには名前から年齢に至るまで全ての数値が記載されており、どうやらこれを信じるしかなさそうであると判断した結果に落ち着いたのだが問題は次からの内容であった。

『ちなみにこの世界で最強な人間ってのはこの人だね。名前は魔王様っていうんだよ。まあ君とは違って魔王と呼ばれる存在になっている訳だけど、そこら辺はまぁ仕方のないところかな』

「は? マジで? そんなのってありなのかよ?? でもまぁよく考えてみれば確かにそうかもしれねえな。俺みたいな人間ってのは存在しないだろうし」

そもそもの前提条件が異なっている為だが、しかし勇者がこの世界において最弱の存在だとするならば、逆に最強の人物というのは勇者よりも遥か上の能力を有していると考える方が自然なのである。そう考えるならばむしろそちらの方が理に適っているというものだと思われたのだ。

「でも何でそいつは王様なんてやってんだろうなぁ。俺だって最初は結構ビビッたもんな。まあそのお陰でこんな目に遭っている訳でもあるけどさ」

(それにしてもこいつの言ってる事をどこまで信用すれば良いんだよ。そもそもこいつが本当に魔王かどうかなんて分からねえわけだし)

『うんうん、その通りだよねぇ。僕だっていきなり魔王ですと言われても戸惑うしかないわけであーもう、本当に何でこんな事になったんだろうね?』

(いやそんな聞かれても俺だって分かんねえっての。でもまあ取り敢えずはここから脱出する方法を見つけ出せば良いだけだろ。どうやったら戻れるんだ? お前が言うようにここって本当に異世界って奴なの?)

しかしそれに対して相手からの返答は意外なモノであった。

『そう、それについてだけどさ。残念ながら君は元の世界に帰る方法は知らないよ』

え? マジかよ。いや、待てよ。もしかしてこれって何かの罠なのか? そう思った彼は念の為に聞いておくことにした。「それって俺を連れ去るための嘘だったりする?」

(あ~あ、やっぱり駄目だったか。そりゃそうだよな、普通そんなの信じて貰えるわけ無いし。つか下手したら殺されるんじゃね)

『嘘じゃないよ。本当の事さ。というか、まあ、そんな事を言うのであれば君の力を貸して欲しいんだよ。実はちょっと事情があってね』

(へぇ、何か良く分からないけれど協力しても良いのか?)

『勿論だよ! だって君と僕とは魂で繋がっているんだから』

(は? 一体どういう意味だよ?)

『まあそんな事はどうでもいいじゃないか。それよりも今は外に出てしまおう』

そして勇者は男の後を付いていく形で歩き出し、そして辿り着いた先で見た光景に驚きを隠せない表情を浮かべてしまった。それは巨大な門扉が存在し、しかもそれがゆっくりと開き始めていたからだ。「おい、こんなところで何しているんだ? まさか逃げ出すつもりなんじゃないだろうな?」

しかし勇者はその声を聞くなり反射的に動き出したがそれは男のせいではなく、突如として現れた兵士達の気配に対して反応しただけの行動に過ぎなかった。だからこそ男は勇者の腕を強く掴んで強引に引き止めたのだ。

「おい、落ち着けっての。何も問題なんか無いっての!」

しかし勇者はそれを無視して走り出そうとしたものの、今度は腕だけではなく足まで動かせなくなってしまったのだ。何故なら突然目の前に大きな石が浮かび上がった為にぶつかると思ったからである。

『ほらほら落ち着いてよ。そんな風に焦った所でどうにもならないって』

(っ!?)

その瞬間に彼は自分が完全に拘束されてしまった事に気が付き、そして目の前には槍の切っ先が迫ってきていた。しかしそれを目にしたところで回避出来る程の時間など存在しない事も同時に理解できてしまっていた。

(ああ畜生、結局死ぬんならもう少し美味しい料理を食わせて欲しかったんだけどな)

「まあまあそう言わずに落ち着きなさい。私達は貴方達の敵ではないのですから」

しかしその直前になって聞こえてきた言葉に思わず耳を疑ってしまい、勇者はそのまま視線だけを動かしてみるとそこには美しい女性が立っている姿があった。そしてその女性の姿を目にして思わず呟きが漏れていた。

「お姫様? え? 本物?」

『その様子から察する限り、彼女を知っているみたいだな』

『お初にお目に掛かります勇者殿。私はこの国を預かっている者なのですが、少しばかりお話を伺いたいので一緒に来ては頂けないでしょうか?』

するとその申し出を受けて勇者の体は勝手に動き始めたが、同時に相手の顔に驚愕の色が浮かび上がっていった。それというのも彼の全身に光輝くようなオーラが出現していたからだ。「これは一体? これは?」そして彼は戸惑いの言葉を口にしながらも何故か目の前の人物が只者では無い事を悟り、そしてその瞳には警戒心のようなものが見え隠れしていた。だがその一方で彼女の方はと言えば目の前の出来事が信じられないとばかりに何度も瞬いていたのだが。

しかしそれも当然の反応であると言えよう。なにしろ今の勇者の姿は完全に別人のものに変化しており、まるで神のような存在が憑依していたのだから。そして彼女はその事実に気付いたものの、敢えて指摘せずに別の言葉を口にする事にしたようだ。

「ああそうですね。ここは城の外にある草原になります。それでよろしければ場所を移しましょう。ここでは話しにくいでしょう?」

そうして案内されたのは小さな会議室らしき場所で、そこにはテーブルが置かれており、椅子が用意されている状況であった。ただし既にそこには一人の男が腰を下ろして待っていたのだ。

「ああ、君達が来る事は分かっていたからね。準備をしておいたんだ。それにしてもまさかこんな形で会う事になるとは思いもしなかったけどね」

「それはどういういや待て。この感じ、覚えがあるぞ」勇者はその男を見て一瞬で違和感を覚えた。その理由は彼の容姿に問題がある。この世界に来てからは様々な種族が存在しており、その外見の違いから性別の区別ぐらいはすぐに出来たが、しかしこの男に限っては何処からどう見ても人間にしか見えなかった。しかしそれにも拘わらず、その正体は間違いなく普通の生き物とは違うという感覚が彼を襲ったのだ。「貴様、まさか魔王かっ!!」

『ちょ、何を言っているんだっ!』男は慌てるが、それでも魔王と呼ばれた者は特に驚いた様子を見せず、それどころか口元に手を当てて微笑みを見せた。そしてその笑みを見つめていると何故か妙な悪寒が襲ってくる。勇者はそれを必死に抑え込むと目の前の男の正体について問い掛けた。「おいあんた一体何なんだよ。俺は別にお前の事なんて知らないんだぞ」

「そうだろうね。でも私は君がこの世界にやって来る前から知っていたんだよ。というより、君と同じ立場にいたと言った方が良いかもしれない」

同じ立ち位置という言葉を耳にすると同時に彼の脳裏には、この世界で自分以外に存在しているとされる勇者の存在が次々と浮かんできた。つまりはそういうことなのかと思い至り、ならば魔王と呼ばれる者の目的も大体把握出来てくる。「もしかして、こいつも召喚されたっていう奴なのか? でもそれなら俺と一緒に元の場所に帰れそうなもんなのに、それともまだこの国に用事があるってのかよ」

「いや、そんなものは一切無いよ。そもそも君以外の者達はとっくに向こうへと帰ってしまった後さ。ただまあ今回の騒動で少々問題が起きていてね。どうやらこちら側の勇者が一人行方不明になっているらしいんだよね」

「は? 何だよそれ? そんなの全然知らねえし、第一それって誰だよ?」

するとそこで相手は急に押し黙って視線を動かし始めた。

どうもあまり触れられたくない情報なのだろうか。だとしたら余計な事を言ってしまったなと後悔するが、しかし彼は更に気になる言葉を漏らす。「ああいや、私の方こそ気にしないでくれ。それよりも自己紹介が遅れたね。私は魔人族の一人だ。といっても見た目通りの歳ではないのだけれどね。こうみえても結構長く生きているんだ」

そしてその後に続く言葉を聞いて勇者の口から思わず声にならない声が漏れた。そしてその発言を聞いた瞬間に彼の頭の中にはこの世界に来る直前に出会った女性の姿が浮かび上がり、それが現実に存在する可能性を否定出来ないと感じた結果、慌てて問いかけていた。

もしも相手が魔王ならば自分の世界に帰る方法を知る唯一の存在である可能性があるのだから、何としてでも逃がさない為の行動を取らねばならないと本気で考えていた。

しかし、どうせ魔王などと名乗る男の言葉に耳を傾けたところでまともに取り合ってくれる筈がないという思いもあり、結局はどちらにすれば良いのか分からないまま、結果としては相手に主導権を渡したままになってしまう。

「君は一体どういう存在なんだい? 私が知っている限りではこんな力を持つ存在など他に居ないと思うんだけど、もしかして君はこの世界の人間ではないとか?」

その一言は彼には意外すぎるものであり、そしてそれと同時にある考えが頭を過ぎっていった。ひょっとしたらこの人は俺の世界からやって来たんじゃないかって。「それってどういう意味なんだ? やっぱりアンタも?」「え? え? ちょっと待ってくれ。それは一体?」そして彼は目の前に座る相手に向かって疑問の声を投げかけた。すると男は酷く困惑したような様子を見せていたが、しかしそれは勇者にとっても同様であった。

『うう、何だこれ?』

そして勇者が戸惑いの声を上げる一方で男はといえば戸惑ったような態度を見せつつも目の前の席に腰掛ける。するとその直後、まるでそのタイミングを狙っていたかのようなタイミングで扉が開かれたかと思えば、そこに二人の兵士が姿を見せて声をかけてきた。「失礼します。陛下からのお言葉ですが、例の少年を連れてくるようにと。どうされますか?」

そしてそれに対しては目の前に居る男の方が対応をしてくれた。

「あ、はいはい、今行きます。どうぞ皆さんはお戻り下さい。勇者様に関しては私に全てお任せいただければと思います」

「分かりました。ですが一応お話は聞かれていてくださいね」

兵士達が立ち去ったのを確認してから男は勇者の方へ向き直ると、改めて説明を行う事にしたようだ。

「まず、最初に確認しておくけどさ。勇者様のいた世界ではこの世界はどんなものだったんだい? それと勇者様自身はどんな生活を送っていたんだい?」

「ああええ、そりゃ、あれだろ? 剣が魔法で銃が電気だな。そんな訳分かんないものばっかりだ。ってか、そもそも俺ってのはこの国の王様のところに連れ出されていたはずなんだよ。なのになんでいきなりここに戻って来たんだ? それにあんたは何者なんだい? どうしてここに?」彼はそう口にすると共に相手の顔を眺めやり、相手の瞳に宿っている光の中に得体の知れぬ力を感じ取った瞬間、反射的にその場を後にしようとしていた。「あ、ちょ、逃げるんじゃな、」

しかしその言葉の途中で相手の首が斬り落とされた。

だが、それを目にしたところで勇者には驚きはなかった。むしろああなる事は最初から理解していたのだ。そしてその理由を彼は目の前の人物の全身に纏わり付いている光の波動によって瞬時に察していた。「こいつは、まさか魔王なのかよっ!?」「ああ、まあそうだよ。とりあえず落ち着きなさい。話せば分かる」

「ああそうかよ。だけどな、こっちは殺されかけている最中だったんだよっ! お前は魔王だか何だかしらないけどよっ!! こちとらお前の事情なんか知るかよ。とにかくお前の首を取れば帰れるかもしれねぇだろ!」

「おいちょっと待てっ!!」しかし男の反応を見る前に既に勇者の攻撃が開始されていた。それは男の頭部を狙った斬撃であったが、残念ながらそれは失敗に終わった。何故なら彼が攻撃を仕掛けようと意識を向けた時には、相手の体は煙のように消失してしまったのである。「え?」

しかし勇者はすぐに気を取り直すと周囲を探り始めた。しかし、やはりというべきか相手の姿は何処にも見当たらない。「まさか逃げやがったのかっ!!」そしてそのまま怒りを吐き出していると突然に体が拘束されてしまう。だがそれでも彼は抵抗を止めず、必死になって脱出を果たそうとした。「放せよっ!!」

だが、そこで彼の動きは完全に封じられてしまい、次の瞬間には体の内部に強い衝撃が走った。その一撃が脳を揺らすのと同時に全身を駆け巡った激痛により勇者はその場で失神してしまい、その場に倒れ伏す事になってしまったのだ。「おい、大丈夫か?」

そしてそれからしばらくしてから何者かに声を掛けられた勇者は目を開いた。視界に映っていたのは先程まで会話をしていた魔人族を名乗る人物の顔で、その人物は心配するような表情を浮かべてこちらを見守っているように見えた。「俺は一体?」

勇者の意識は混濁しており、未だに状況が良く飲み込めていない状態が続いていたのだが、そんな彼を落ち着かせるようにして、男が穏やかな口調で語り掛けてくる。

「まあ混乱する気持ちは理解できるけどね。何しろこんな風に気絶してしまって、しかも見知らぬ部屋に連れて来られて目を覚ました直後なんだから。でも安心してくれ。君はあの魔王と話をする途中で襲われそうになったのを覚えてるかい? それで咄嵯の事で対処出来なかった君を助ける為に私の攻撃で仕留めたんだけど、その所為もあって君も巻き込んでしまい、結果としてこんな事態に陥ってしまったわけなんだよ」

「そうなのか? てかそもそもアンタはいったい誰なんだ?」

するとそこで勇者が目覚めているのを確認すると部屋の中へと入り込んできた女性の姿があった。それは先ほど見た覚えのある顔であり、どうやらその人が自分をここまで運んできてくれたようだ。「お加減はいかがですか? 勇者様」彼女は優しい声で勇者に声をかける。しかし当の勇者はそれを聞いて戸惑うばかりだ。何せ勇者には目の前にいる女性が自分を助けてくれようとしたという事実がどうしても受け入れられないのだ。「おいちょっと待て、何だよこれは」勇者は自分がこの場に寝かされている理由について問いかけると同時に、女性の背後に立って彼女を睨みつけていた。しかし、それにも関わらず、女性は勇者の態度を咎めるどころか微笑みすら見せていた。

しかしそんな彼女とは対照的に魔王を名乗った魔人族の男は不愉快そうな表情を見せ、鋭い声をぶつけてくる。「お前が私を攻撃してくるから悪いんだろうが。もう少しで勇者様にも被害が及んでいたかも知れなかったんだぞ」

それを受けて女性は何も反論せずに押し黙ってしまった。どうやら男の発言が正しいと判断したらしいのだが、勇者にはとても納得できる内容ではない。「そんな馬鹿な話が有るかよ。俺は被害者だろうが。大体なんであんたらみたいな奴がこの国に居るんだ。そいつの言っていることが本当だとしたらあんた達だって俺の敵ってことになるんだぞ。違うっていうんなら俺と一緒に帰る手伝いをしても良いはずだ」

しかし、その発言を耳にすると女性は驚いたような反応を見せた。どうやらこの発言は彼女にも意外過ぎるものであったらしい。しかしすぐに落ち着いた様子で笑みを見せると、諭すような口ぶりで言葉を返してきた。「落ち着いて下さい勇者様。貴女の故郷がどんな場所か知りませんが、此処は決して安全な国では有りません。もしも今のままの生活を続けて行かれると言うのであれば別ですけれど、もしそうでないのならば貴方は魔王を倒す以外に生き残る道は無いのですから。それが嫌ならば、ここで命を落としても構わないのでしたら好きにして下さっても構いません」

「はぁ?」彼女の告げてきた言葉は勇者にとっては信じられないものばかりだったが、それ以上に信じられない光景を目の当たりにしてしまった彼は更に驚きの感情を抱く事となった。それは、つい一瞬前まで自分の背後にいたはずの男が、女性の横に立っているのを確認した為である。

そして同時にその男が自分の方をじっと見つめてきた事に気が付き、慌ててそちらへ振り返ってみるがしかしその姿は既にそこには無く、慌てて周囲を見渡した時には既に姿を消してしまっていた。「あれ? あいつは何処に行った?」

そしてその疑問の声を上げると同時に勇者が感じた気配の変化。どうも今まで感じていた敵意とは違うものが自分に注がれている事に勇者は気付かずにはいられなかった。「お前も、この国の連中の仲間だったのか?」「え? いえ、私はこの方のお側に仕えておりますのでそういう意味においては仲間ではないですね」「どういう意味だ?」

するとそこで男は唐突に席を離れてしまう。そして彼は何故か椅子に腰掛けると机の上に置かれていた酒瓶を掴み取り、それを勢いよくラッパ飲みし始めた。「ぷふぅ。さてと、とりあえずお互いに腹の内はある程度は分かったと思う。だからこれからは対等な立場として話し合いを始めようじゃないか。さっきの続きになるんだが、勇者様、君の住んでいた世界の事をもっと教えて欲しいんだが。例えば君以外の勇者様とかがどうやって過ごしてきたかなんていうのはどうだい?」「そんなもん聞いてどうするつもりなんだ。そんなの知って一体何をしようっていうんだよ」

「まあまあ、そう焦らずにさ。とりあえずお互いの話を聞き合って、それから改めてどうするべきか決めようよ。どうもこの国は平和ボケしていてさ。勇者様の世界について聞く機会がなかったんだよ。だから興味があるんだよ。な?」

男の言葉に女性は笑顔を見せ、その横で魔王を名乗っていた男は面倒くさそうな顔をしている。そして勇者の表情と言えばといえば非常に複雑そうなものである。というのも目の前に座る人物が自分達の世界では非常に珍しい人種で有る事を知っているが故の事だ。何故なら彼らは異世界より召喚された存在であるからで、本来なら魔王がこんな場所で普通に座っているなど考えられないのだから。

とはいえ勇者はその件についての追及を諦めたようで、目の前の男に対して質問を投げかけた。それは勇者にとって一番気にかかっていた部分でもあった。何故なら彼の知っている情報はあまりにも少なかったからだ。「なぁ、あんた、えっと名前を教えてくれないか? あとどうして俺をここに呼んだんだ?」「ああ、そう言えば自己紹介がまだだったな。私の名はレイス。ただの商人だよ。君を呼び出した理由は単純に君に興味が湧いてね。それともう一つある。それは君にも色々と協力して貰う為なんだ」「はあ? 何だよその協力って」

しかしそんな勇者からの当然とも言える言葉を受け止めたレイスは苦笑いを浮かべながら言葉を続けた。「いやあ、実はこの国は魔王軍に包囲されていてねぇ。そして今現在その魔王軍と戦う為の力を集めるべくして動いている最中で、君のような人材を求めているという訳だ。ちなみにだが、君はもう既にこちら側の事情を理解してくれたみたいだけど、君にも何か力を貸してくれると助かる。まあ別に戦わなくても良いけど、それでも一緒に来てくれたら嬉しい。それでどうかな?」

その発言を受けた瞬間、勇者は思わず固まってしまい、何も言えずにいたのだが。そんな様子を見やったレイスが申し訳なさそうな態度で頭を下げてみせる。

「ええと、まあそういう事なんだ。それで駄目かな?」

しかし勇者はすぐに我に返り、その問いに答える代わりに自らの意志を示した。それは目の前の二人に敵対する気は微塵もない、という意思表示に他ならなかった。だがそんな彼に対し、今度は魔王と名乗った男が声をかけてきた。「勇者よ、私もお前を歓迎したい気持ちは山ほどにある。しかしお前にはどうしてもやって貰わなければならない事が有るのだ。その話だけでも聞き届けてくれまいか?」「あんたが本当にあの魔王だっていうんなら俺はアンタに殺された事になる。だが実際にはこうして生きている。だから俺はこの場で死ぬ事だけは絶対に避けなければならない。そうだろ?」「ふむ。つまりは、私が怖くて逃げ出したいと、そういった解釈で宜しいのでしょうか」勇者の態度を見たレイスはそんな言葉を発するが、その発言に魔王は首を左右に振って否定する。

その反応をみた女性は微笑んで見せるのだが勇者はそれを不愉快そうな目つきで睨みつけた。「はっ、何でわざわざそんな回りくどい事をする必要があるんだ?要するに逃げ出してしまえば問題ないだろうが。それに魔王は嘘はつかないってのも確かだとは思うが」勇者の発言を受け、魔王の表情に変化が生じる。それを見た勇者の方は内心で安堵する。

先程までは余裕の表情でこちらに接してこられたのが、急に変わったせいで動揺してくれたのではないかと期待してしまった為である。

しかしそこで魔王の口から出た台詞を聞いた途端、勇者の表情から笑みが消え去る結果となってしまう。「いや、それは違うよ。確かに私は君に説明しなければいけない事柄は存在するが、君が考えている通り逃げ出したとしても問題は無い。何故なら君は既に一度死んでいるのだしね。君を殺したのは紛れもなくこの私なのだから」魔王の口から出てきた予想外の答えに勇者の体は硬直してしまい、上手く喋れなくなる。まさか、あの状況でこの男の言うとおりになっているはずが無いと思い込んでいたが為に衝撃は強く、それこそ体が震えてすらいる状態にまで追い込まれてしまった。

だがここで勇者は冷静に考えてみる事とした。仮にこの男が言っていることが正しい場合、自分は既に死亡扱いとなっており、今現在はこの世界の住民となっているのでは無かろうか、と。

そしてそんな勇者の反応を見て取ったのか、レイスは嬉しげに微笑んで見せ、勇者の頭を撫で始める。「ほらね、言った通りに君は死んだままなんだよ。そしてだからこそ君の力を私に貸して欲しいと願っている。これは取引だよ」

その一言に勇者の表情が更に曇っていく。しかし彼はすぐに目の前の相手が自分の考えていた人物とは似ても似つかぬ存在だと理解すると溜息と共に口を開く事にした。「はぁ、分かったよ。どうせあんたらがどんな手段を用いて俺を呼んだのかは想像がついちゃったしさ。だからその要求を受け入れる事にするか」その返答を聞いたレイスと魔王の顔には満足そうなものが浮かび上がっていく。「そうかい。じゃあ、早速なんだけど。この世界の人間達が使っている魔法について教えて欲しいんだ。それが出来ればきっと魔王軍と互角以上に戦う事も出来るはずだ。その為の参考資料は可能な限り用意するつもりだ」

そしてそこから始まったのは、魔法に関する講義と実践であった。

まず勇者は最初に魔法の原理というものの説明を聞かされた。そしてそれは彼が元いた世界にも存在し、それなりには知られていたものである。しかしながらそれは飽くまでも知識でしかなかったが故に勇者が実際に魔法を使ってみたところ大層驚く事になった。というのも、そのやり方というのがあまりにも自分のいた場所の常識と違い過ぎた為である。

というのも勇者の知る限りでは本来ならば魔力と呼ばれる力を用いる為には体内に溜め込んでおく必要があり、それを消費して魔法を行使するのが一般的とされているのだが、その考え方はここでは完全に逆だったからである。

勇者の体の中にあるのは何ものでもない純粋な生命エネルギーであり、それは呼吸によって自然に身体に満ちるものであり、体内のそれを意識的に使用する場合には呪文を口にする必要も無いというのだ。

ただ、これに関してはその原理を知らない者達からすれば、そもそも魔法を使う為の前提条件が異なっているのではないか、といった感想を持つ者も出てくると思われる。事実、勇者自身も同じ疑問を抱きかけたのだが、魔王に魔法の発動方法について聞かれた時、彼は特に何も考えることもなくその方法を試したのだが。

結果として、勇者が使ったものは正しく発動する事に成功し、更には他の人間が使えない理由を教えられたりもしたので、勇者としては素直に信じるしかないという状態になっていた。「なるほど。それは凄いな」「ええ。流石は勇者様ですね。素晴らしいお力です」「そうか? 俺的にはまだまだ使えるようにならなきゃならないと思ったんだけどさ。まあ今は良いか。それよりもさ、ちょっと聞いていいか?」「うん? どうぞどうぞ」「俺が勇者だって事は理解したが、だったら他の勇者はどこにいるんだ?」

勇者からの問い掛けに魔王は笑顔を見せながら勇者に対してこう告げた。「残念だが君の知っている者は一人しかいない。まあ君の生きていた時代の勇者がどのような者なのか、そしてその力の強さについて私は知っている。だがそれでも今の段階では、この世界の人間の方が上だろうね。だから君にお願いしているんだよ」

魔王からの返事を受けて勇者は自分の中に浮かんだ不安を打ち消すようにして言葉を吐き出す。「分かったよ。とにかくその勇者とやらを探せばいいんだよな。それとだ。一つ言っておきたいんだが、魔王ってのは何人もいるのか?」

勇者の発した質問に対し、魔王の二人は揃って笑顔を見せる。そしてその表情の変化が示す意味というのは明白で有り、彼等にとってその問いかけが嬉しいものであった事を如実に表していた。「まあそうだな。基本的に勇者は一人だけだが魔王の中には複数存在している者もいる」

そんな二人の反応に対して勇者は眉間にしわを寄せて考え込み、その反応に魔王達は顔を見合わせて楽しげな笑みを交わしたのだった。

その後しばらくの間に勇者は様々な話を聞かされ、その都度驚かされる事となったが、そんな日々を過ごす内に勇者は徐々にこの異世界で生きる為の準備を始めるようになっていた。そしてそれは勇者自身の精神にも大きな変化をもたらす事となったのだった。「ふむ。どうやら少しばかり馴染んできたみたいだね。いやあ良かった。実は私もこの異世界に召喚された当初は苦労したものでね。何分初めて来る場所だからさ。それに君が勇者だと知って、しかもその強さも十分に把握出来ている。そして君の持つ特殊な能力にも期待出来た。その辺りは私の幸運のおかげだと思うが、そのおかげで色々と助けて貰ったよ」そんな言葉が勇者の耳に入ってくると彼の表情には困惑の色が浮かぶ。何故なら勇者はそんな言葉を掛けられた事など一度としてなかったからだ。「なぁ。どうしてアンタみたいな人にそんな事言われなくちゃいけないんだ? 俺なんか何も出来ない、単なるガキじゃないか」そんな勇者の反論を受けたレイスはその微笑みを絶やすことなく、穏やかな声で言葉を続ける。「君はそう思っているかも知れないが、私の目には君の事がとても眩しく見えていてね。まあ理由は幾つかあるけど、一番の理由を語らせて貰うなら。勇者という立場でありながら勇者を恨んでいる、といった点が一番大きいかな」

その発言を聞いて、今度は勇者が苦笑いを浮かべてしまう。その発言の内容に覚えがあった為だが、それは彼も口にしないだけで似たような心境でいる部分が存在していた為でもあった。だからこそ彼は魔王に向かってこんな事を尋ねてみせた。「もしかして魔王っていう立場の人達も、俺達勇者と同じ思いを抱いていたりするものなの?」

勇者のその問いにレイスは苦笑いを浮かべて「そういう場合もあるね」と答えてみせる。

魔王から返ってきたそんな返答を聞き、勇者は自らの抱いていた懸念が間違っていなかった事を悟りながらも同時に、それが決して自分達が抱いているような物とは異なる感情であるという事を察する事になる。

レイスが魔王になってからの数年間で行なっていた仕事とは、主に二つの事だった。

一つ目は人間の住む領域へ侵入しようとする魔族の排除である。これは魔王軍の幹部であるレイスが直接赴いて対処しており、その実力については魔王軍の中でも折り紙つきとなっていた。

しかしながらそれはあくまで魔王軍の勢力拡大を目的とするものではなく、あくまでも侵略行為に対する防衛の為のものだった為、人間との争いが本格化する前に魔王は軍を引き上げ、以降は目立った動きを見せる事も無くなっていった。

だが魔王による侵攻の阻止こそがレイスの役割であったのに対し、勇者の方はこの世界の人族を滅亡に追い込むのが本来の目的となる為、その役目を果たそうとする。

しかしながら当然ながら、それは容易く行える事では無かった。その理由として挙げられるのが勇者の存在に気付かれないよう細心の注意を払わなければならないという点であり、その為に必要となったのは、より強い力を持つ存在に守って貰えるようにする、という作戦を実行する事にしたのだった。「君にはこれから私が作り上げたこの世界に来て欲しいんだ」

そして現在、魔王の口から勇者に向けて放たれたのは、勇者からしてみれば余りにも意外な内容の発言であった。

それというのも目の前の相手は自らをこの世界へと連れてきた張本人だと言うのに、まさか勇者が元いた世界に行く手助けをすると言われれば驚きを隠すのは不可能であった為である。

そして当然の事ながら、それでは話が変わってしまうではないかという言葉を、勇者は魔王にぶつける事にした。「それはどういう意味なんだ? わざわざあんたがそんなことをしてくれるなんて」「うん? それはどういう意味でしょう? 私は勇者様にお願いをしているんですよ。そしてその見返りにあなたが知り得る魔法の知識を我々に提供して下さると約束したはずでは?」

その言葉に勇者は一瞬、表情を変えるが。すぐに溜息と共に言葉を返す。「はあ、分かってるよ。つまりあんたらの目的は勇者を倒す事、なんだろう?」

勇者のその言葉にレイスは嬉しげに笑みを浮かべ、逆に魔王の表情からは余裕が失われていった。

その反応を勇者は見届けた後でレイスの方に視線を向け「それで一体どうやって俺の世界に来てくれるんだ? そもそもどうやってそこまでの力が手に入るって言うんだ?」

そう問いかけられて魔王の顔には再び笑顔が戻る。

しかしそんなレイスの笑みとは対照的に、勇者の浮かべていたのは呆れの色を含んだものであり、勇者の脳裏に浮かんだ疑問というのが、目の前の相手が自分を殺すのなら直接出向いてくるのではなく、自分の配下を使って襲わせれば済むのでは無いだろうか、というものであった為である。

勿論それはただの勇者であるならば、という話になる。実際に魔王の側に立つ者達は、そのような真似をしてしまえば勇者によって簡単に返り討ちに遭ってしまうであろう。その証拠として彼等は過去に何度も勇者の攻撃を受けた事がある。

ただし勇者の力は、通常の勇者と比べた場合で考えると圧倒的なまでのものではない。

実際この勇者のレベルに関しては50前後といったところでしかないのだが、魔王達はそれでも勇者が魔王に匹敵する程の強者であるという認識を持っていたので有る。

そもそもが魔王と呼ばれる者が人間に倒される事があるのか。という根本的な問題が存在したが、それも過去において魔王を倒した勇者が存在しているという事実が存在していれば、ある程度は信憑性のある情報だと受け止められた筈であり、その事から考えても魔王側が勇者の強さを正確に把握出来ていない事は、この時点で明らかとなった。「まあ詳しい方法は言えないんだけどさ。私には特別な手段が有って、それを勇者が生きている世界で行使すれば、君を呼び出す事が出来ると思うんだ。それにさ、もしも成功したとしても君は元の世界に戻れるとは限らないんだよ。だから君からするとこの話はかなり悪い話に聞こえるかも知れな」そこで勇者は首を左右に振ってレイスの言葉を遮る。「いいや。別に良いよ」「本当に良いのかい?」「ああ、正直に言えば俺は今のままで十分過ぎる程に幸せなんだよ。俺から何かを奪いたいなら奪ってくれても構わないさ。どうせ大した物じゃ無いしな。だからアンタが望むなら、この世界の奴等を殺しまくった挙げ句に、俺の手で世界を滅亡に導き、そして魔王になってやってもいいんだぜ」

勇者のその宣言にレイスは笑みを見せながら「うんうん。素晴らしい答えだよ。やっぱり君のような勇者を選んで良かった。きっとその言葉に偽りはないのだろう。だから私もそれを信じさせて頂きますよ」

そのレイスの台詞を受け、勇者も小さく笑いを浮かべてみせる。そしてそれからレイスの側に控えている女性へと視線を移し、勇者が浮かべる事の出来る最大限の優しげな声音で問いかけた。「アンタもそれで良いんだよな?」「あははは。私としては勇者さんと一緒に行けるだけでも十分に有り難くて、その、とても感謝しているので、それ以上の幸せとか、もう望めないと思いますよ」

そんな会話を交わした勇者がレイスに対して口を開く。「とりあえずさ、アンタが言った通りで行くとして。アンタは俺のいる場所にいつでも来られるって訳じゃないんだろ? だったらその方法を早く教えてくれないか」

そんな勇者の申し出に魔王は満足そうな笑みを浮かべてみせる。その態度に勇者も、これは大丈夫なのではないかと考え始める。

そうしてしばらくの間が過ぎた後でレイスが語り出した言葉というのは「実はこの魔法というのは、君達の世界にもあるものでね。その方法というのは『どこでもド○』と呼ばれている機械を使う事で、異世界へ渡る事が出来るようになっているんだ。まあその説明の為にはまずこの世界の歴史から始めなくてはならないけどね。少し長くなってしまうが我慢して聞いて貰えるかな」といった具合であったのだ。そしてそこからレイスは自分がこの世界の未来を見通している理由を話していく事となり、そしてその結果として彼が魔王と成り得た理由を語る事になるのだが。

その内容は実に衝撃的なものとなって勇者の耳に届く事になったのだった。何故なら彼はレイスの話を聞き終えた時点で一つの確信を得る事になっていたからである。そしてそれは今までの出来事を思い返せば直ぐに納得のいくものであったのだった。

勇者の目に映っている光景の中には一人の男がいた。

その男は黒いローブを身につけており、そのフードを被っていて素顔を確認する事は出来ない。だがそんな男の手に持っている物に勇者の視線が吸い寄せられた。

その手の中にあるのは剣だった。

だがそれを見て驚いたのは何もその剣だけが原因ではなかった。

なぜならばその剣は明らかに魔族が所持する物として、その男の容姿にも良く似合っていた為である。そんな事を勇者が思っている間も、目の前では魔族同士の戦いが行われていた。

まずは一人目の魔族だったが、勇者の目の前に現れた瞬間、彼の身体は上下二つに分かれて絶命した。

そしてその直後にもう一人の魔族の姿がその場から掻き消えてしまう。それは勇者の目にもはっきりと見えたが、消えた理由が分からず彼は戸惑うしかなかった。だがその理由を知る事になるのにさほど時間はかからなかった。

というのも一つ目の理由が単純に転移による逃亡で、勇者の目前で消失したかのように見えた理由は移動した先に新たな魔族の集団が現れてしまった為であり、それにより一人目と同様に魔族は一瞬にして斬り捨てられて命を落とす事になってしまったからだ。

更には続けて魔族の首が飛び、胴体は地に崩れ落ちる。その動きは流れるように自然であったが故に、勇者の視界の中では魔族の死体が次々に量産されていく。その光景を見届けていた勇者は思わず息を飲み込んだ。だがその程度で勇者の心が揺らぐような事は無かった。

そんな風に勇者の眼前で戦闘が繰り返された挙句に最後を迎えたのは二体目の魔王であり、それが倒された直後でようやく全ての魔族達が引き下がっていき。そこで勇者は魔王に目をやった。

その勇者は魔王と対面していた時よりも、遥かに強くなった自信が有った。しかしそれでも魔王を相手にすれば確実に勝てるとは言い切れない相手だっただろう。それぐらい魔王の力は圧倒されていたのだった。

魔王は勇ましい面構えをした壮年の男だった。その見た目は普通の人間のようであった。勇者には魔王という存在に人間の姿に酷似した者がなるものだと言う印象があったが為に意外に感じたが、それとは別に勇者には気になった事が有った。

魔王の手にしている剣だ。その柄は勇者が持つ聖剣と同じものであり、そして刀身もまた同じく純白の輝きを放っていたのである。そんな相手の手元にある剣を見ながら勇者の胸中に湧き上がってきた思い。それは恐怖に近かった。勇者はその相手が恐るべき敵であるという事を本能で悟ってしまった。そしてそんな相手が今現在自分の目の前にいるという事実を改めて確認する事になり、そのせいで無意識の内に体が硬直してしまう。「勇者よ。そなたは我が配下の者によって殺された筈であるが、何故に生きておる?」

その問いかけを受けて、勇者が答える。「ああそうだよ。アンタの部下達に襲われてさっきまでは死にかけていたよ」だがその直後。唐突に自分の背後より何者かの声がかけられた事により驚きと共に振り向く。そこには全身を黒装束に身を包んだ者達が数名存在していて、その中にはつい先程まで戦っていた筈の二名の魔族の顔もあった。

しかもその内の一人の顔が酷く歪んでいる事に気づいたがゆえに、何かが起きている事を感じ取った勇者は即座に武器を構えようとするものの、「貴様らは一体何をしているんだ! まさしく愚行という言葉しか出てこんぞ!」という怒鳴り声と共に魔王の手にあったはずの聖剣が自分の手元に存在するという、意味不明な状況に混乱してしまって動きが止まってしまい、その間に魔王に殺されてしまっていた。

勇者の死と同時に勇者の仲間達が魔王の元に駆けつける。「貴方がこんな無謀な真似をするなんてどういうつもりですか?」

仲間からの言葉を受けた魔王は溜息交じりに言葉を返す。「お前がここに来たという事は例の道具を持ってこさせたのだな」「当然です」

その仲間の態度からは自分達の行動に対しての絶対的な自信が存在していると分かり、そんな様子を魔王は不快に感じる。とはいえそれを表に出すわけにいかず、魔王は無表情のまま話を続けるしかない。「ではあの男を殺すとしよう」

魔王はそう言って勇者に近づいていく。すると魔王が歩く道を作るために他の魔族が退き。魔王は勇者の側に立った後に手を差し出す。「立てますか?」「ああ。問題無いよ」

そんな言葉を口にしてから勇者は自分の意思で立ち上がったが、直後に自分がまだレイスと名乗った魔王の前で立っているという、このあり得ない現実に戸惑い、そこでふと思いつくのが今の自分の現状についてだ。勇者はこのレイスと名乗る人物に呼び出されたのではないだろうか、という考えに辿り着き。その答えを確かめようと口を開いた瞬間。「では私と一緒に来てくれませんかね?」そんな質問を投げかけられ、勇者がそれに対して返答しようとした所で意識を失ったのだった。

「それで結局、その魔法というのは何なんだい?」勇者のその問いにレイスは小さく笑みを見せる。「君達は『どこでもドア』と呼ばれている機械を知っているかな?」「ああ。それは俺の世界でも存在している物だから分かるよ」

勇者のその言葉を聞いた魔王が僅かに首を傾げてみせる。だが勇者は特に気にせずに言葉を続けた。「確かこの世界では魔力とか、そういった物が有るらしいけどさ。その力を利用して扉を出現させれば行き来が出来るって話だよな」

その説明を耳にしながら魔王は、やはりこの人間は勇者なのだなと実感する。「えっと、君は異世界人ってやつなのかい? でも、なんだろう。私の世界には、君の世界にも存在している技術や知識が多々あるようで。まあそういうのも含めて話をする必要がありそうだね」

レイスは勇者に語りかけるも、勇者はそれを無視して「アンタが持っているっていう、その魔法の使い方を教えてくれないか? それが出来ないと元の世界に戻る事は出来なさそうなんだよ」と言いながらレイスに詰め寄っていく。

レイスが勇者に語りかけて、勇者がレイスからの返事を待たずして更にレイスへと迫る中、二人の間に女性が現れた。

その女性はレイスの妻で名前はクレア。

そのクレアがレイスと勇者の間に入り込むと勇者に対して笑みを見せてくる。そしてそんな妻の様子を目の当たりにしてレイスは内心穏やかでは無かった。「勇者さんがレイス様に危害を加えようとしている。このままだと私達の仲が拗れてしまう。どうにかしなければ」

だが勇者は構わずに進み続け。勇者は自分を押し退けているクレアに向けて口を開く。

レイスはその様子を苦々しい思いを味わいながらも見守るしかない。「俺の言っている事を理解出来るか?」

勇者がクレアに声をかけると彼女は不思議そうにしながらも勇者の問いかけに応えていく。「勇者様の言う通り、私は確かにあなた方の世界の事を理解しています。ただそれは私がそのように造られたからであり、勇者さんに敵対する気は全くありません。どうか信じて下さい」

その女性の必死さを見た結果。勇者はそれ以上クレアを追及するのをやめて一歩引き下がった。

レイスは勇者のその行動を見てホッとする。もしここで勇者が強引に彼女に迫っていた場合、最悪夫婦関係が悪化してしまい、そしてそのまま破局へ突入していた可能性も考えられたからである。

レイスは目の前の女性に対して好意を抱いていたのだった。

勇者がレイスの家から去った直後。レイスは妻のクレアが作ってくれた料理を食べ終えてから口を開いた。

「それじゃ、今日はこれくらいにしておいてあげようか」

だが妻はその発言の意味が良く分からなかったらしく首を捻る。

レイスの発言はまるで勇者がまだこちらの世界を楽しんでいないような意味合いのものであったが、それに気づいたのは妻だけで、夫本人は既に寝室に向かおうとしていたのだが、その足を止め、そしてゆっくりとした口調で再び話しかけてきた。

その表情は先程とは違い笑顔を浮かべているが、何故かその瞳は笑ってはいなかった。

それどころか視線はどこか鋭くなっている。

だが、それでも妻の視線を受け止めた夫の方は微笑んだままであった。

それからしばらくした後、妻は夫との性行為を終え、二人で一緒に就寝する事になった。

そんな状況下でも夫が勇者に告げたのは「そろそろ、お休み」という言葉であった。しかし妻はまだ眠る気分になれないらしく「勇者様、お話ししませんか?」という言葉を夫に投げかけ、その結果夫は勇者から聞いた情報を整理するべく思考を働かせる事になる。「まさか勇者殿の故郷で勇者と呼ばれる存在がいたとは思わなかった」

その言葉に妻は少しだけ嬉しそうに表情を変化させた。

勇者の言っていた話が真実ならば、勇者と呼ばれる人物がいたという事になるからだ。

その人物は勇者に間違いないと妻にも確信できたのである。

なぜなら勇者とは魔族にとって恐怖の象徴な存在な上に、この世界において魔王と呼ばれる者よりも更に上位に位置する相手だったからだ。しかし魔王より勇者の方を恐れるという話は今まで一度も無かった為に魔王という者は魔族の間で特別な存在だと思っていたのだ。ところが今代の魔王は歴代の中で最も強大な力を持つと言われていて、その魔王ですらも勇者を前にすれば恐怖に駆られるのではないかと噂され、実際に魔族の中には怯えて勇者に接触すら行わない者もいる始末だ。だが妻はその話を聞いた後でも魔王という存在は勇者という存在の天敵だと思い込んでいた。

その為、その話を聞けば勇者という人間がどれだけ強いのかという事を理解するのは当然であった。

勇者という言葉を聞くまでは夫の方が魔王としての実力を備えているのではと感じていたものの、そんな事はもう頭の片隅に追いやってしまっていて、今はひたすらに勇者の事を考える。

そして同時に、自分がどうしてそんなにまで彼の事が気になるのかと考えて、ふとある事に思い当たる。

それは自分が妊娠しているのではないかという予感だ。

そんな思いから彼女は下腹部に手を当てながら考え込んでいくと不意にある言葉が頭に浮かび上がる「これはチャンスかもしれない」というものだ。

もしも彼女が考えていた通りに子供が出来たとすれば、子供の為にも夫の力が必要になってくる。だからこそ彼女は勇者との関係を良好なものにしなければならないと考えていた。だが一方で彼女自身は、それが無理な願いであるという事も十分に認識できており、だからと言って諦めるわけにもいかない状況でもある。

ただ幸いな事があった。勇者という存在は魔族の中では絶対的な強者として扱われていたが為に恐れられているのであって魔王自体はそれほどまでに恐ろしい存在であると思われていなかった点だ。つまり魔王に嫁いでしまう事で結果的には幸せに暮らす事ができる可能性がある、という訳だ。とはいえそんな事は常識的に考えて不可能なのでは無いかと考えるのが普通であったが「でも勇者様が私達に協力してくだされば可能よね」

そう考えた妻は夫に対して自分の考えている内容を伝えてみる事にした。

レイスはクレアの話を聞いて困惑の気持ちを抱いてしまったものの、その一方で納得している自分も存在していたが故に何も言わずにいた。それは勇者と魔王の間に繋がりが存在するという可能性を最初から予想していた為だったのだ。というのもクレアの言葉の中に「魔法を使えば」といった内容の単語が含まれたからであり。この事から勇者が何らかの手段を用いて魔王城を訪れた事があるのではないかと考えたのだ。「魔法かぁ。まあ魔法があれば確かに色々と楽に済ませる事は出来るだろうけどね」レイスはそんな言葉を返すがクレアの言葉を受けて彼女の真意に気づく。要するにこの女性は自分達夫婦に魔王を倒して欲しいと訴えかけているのだろうと。

しかし何故そんな事を考え始めたのだろうか? その理由については何となくだが分かる。恐らくは自分の娘がこの世界に召喚された事と関係あるのだろうが、レイスのその考えは正しかった。クレアは娘のアイナに対して複雑な想いを抱いている。それもそのはず、このクレアはアイナの母であると同時に勇者の妻でもあった。つまり勇者との間に子供を儲けている女性だ。しかも、その子供の父親が自分の夫なわけで、クレアは自分が父親に犯される様子を見せつけられたのと同じ行為を受けているという現実が有るわけで。そんな女性との間に生まれた自分の息子にどんな顔を向ければいいのかクレアには理解できないのだ。

クレアが産んだ子供達は男ばかりで、男の娘というのは存在しなかったのだが、それは別にクレアが自分の性癖に悩んでいたり、あるいは男に抱かれたりするのが嫌で意図的にそうした訳ではない。そもそも彼女は男と女の子供を産んだのだが、男の子の場合はクレア自身が育てる必要は無く、他の者に託せばよかったのだが女の子の場合に限ればそういうわけにはいかなかったのが原因だったりする。

男と女の子が両方いる場合、クレアの感覚では男女の兄妹ならまだしも姉弟というのは違和感があり、姉妹というのは何かがおかしい気がする。それはまるで同性の双子のように見えて仕方が無かった。

そしてクレアはその感覚のせいでどうしても息子の扱いをどうしたら良いか分からず、最終的には自分の夫に頼んで任せる事にした。そうすると不思議な事に彼女は安心して眠れるようになったので。彼女は自分の子供に愛情を抱くようになるも、それを表に出す事が出来ず、ただひたすらに自分の心の中でのみ育み続けていたのだった。

勇者は妻と別れてから自宅に戻り、それから暫くの間はクレアから受け取った情報を元に対策を考えていた。だが結論としては勇者も、やはり魔王を倒す事は難しいという事しか分からなかった。だが魔王の弱点に関しては幾つか分かった事もあるので今後の行動に生かそうと勇者が考えている最中、彼は自宅に突然やって来た人物の存在に気づいて警戒心を強めた。その人物は若い女性のようだった。その女性はいきなり扉を破壊しようとしてきたため勇者は慌ててその女性の攻撃を阻止しようとするが、女性の動きは速すぎて攻撃を防ぐのは不可能であった。

その結果、女性の攻撃は壁へと到達する事になり、そのまま女性ごと粉砕してしまった。勇者は女性が消滅した後にその場に残る光の球を見つめると呟く。「これって魔法の効果かな」

その言葉に反応する者はいない。

ただし光の玉はすぐに消滅してしまい証拠は残っていないが。勇者は何が起きたのかについては把握していた。勇者が見た光の玉は女性の魂のようなもので。勇者はそれに触れていたのだが、触れていた手を見ると、その指先には黒い液体が付着しており、その色は赤黒く染まっていた。

それは先程の光の球の正体でもあり。そして先ほど破壊されたのはこの世界における女性の体であった事を示していた。勇者はそれを見て内心溜息をつく。女性の体が破壊されて、その女性の人格らしきものが消滅する様子を見てしまったからだ。

そして女性の体の方は光の粒になって消えていってしまった。

勇者にとって女性の死体を間近で目撃するのは初めての出来事ではない。これまでも色々な人間を見てきていただけに今更驚くような事は無かった。しかし今回は勇者が特に思い入れがある人間の死体を直に見る羽目になったため精神的なショックが大きかったらしい。「ああもう! 面倒臭い事になったなぁ」勇者は嘆く。今回の出来事は明らかに厄介な事態を引き起こしたのは明白である。しかし、だからといって放り出して逃げ去るという選択肢も無いわけだが。

だが勇者はふと思った。「そういえば魔王は魔族の王なんだろ。でも魔王は人間の国の姫と結婚したんだよね」

魔王は勇者の仲間として共に旅をしている内に恋に落ち、その挙句結婚までしたという話を妻からは聞かされていた。その時に妻から聞いた話では魔王と妻は仲睦まじい夫婦であったそうだ。

それこそ自分の娘であるアイナは二人の間に生まれ、そして成長した結果生まれた子供達の誰よりも魔王と魔王の嫁との間に生まれた子供が一番強くなっていたくらいなのだとか。その強さは既に伝説級に到達しているという話を聞いた時は勇者は驚いたものだが、それでも勇者はまだ半信半疑ではあった。なぜなら魔王の強さは勇者も実際に体験しているので知っていたし、だからこそ勇者は自分の娘と同じような存在である魔王の子供が勇者よりも強いという事を素直に受け入れられないという事もあったのだ。

ただ、勇者としても自分の目で魔王とその子供達を実際に確認したかったが為に一度会いに行くべきかとも考えたが結局は会うのを諦めた。魔王と勇者は魔族にとって共通の敵のような存在であり。もし二人が一緒にいる所を目撃してしまうと敵だと思われてしまいかねない。

そうなったら間違いなく戦闘になってしまうのは間違いないので、下手すれば命を落としてしまうかもしれない。それだけは避けなければならないと、勇者は考えていた。とはいえ、このままだと自分はいずれ魔王に見つかってしまい殺される可能性が高いだろうとも思っていたので、なんとか魔王から逃れられないものかと考えていたが。勇者の考えに反して魔王の方が先手を打ってくる。

勇者が魔王から逃れる方法を模索し始めた直後、魔王の方も自分の城で異変が発生しているのに気づいた。というのも勇者の城に魔王の城と非常に近い位置に存在する城が存在しているからだ。その二つの城は魔王城のすぐ近くに存在するのにも関わらずお互いに相手の城を認知していないのは、どちらも相手の存在を脅威と認めていない為であった。

そもそも両者は敵対関係ではあったものの積極的に争う関係ではなかったのだ。それは単純に互いに相手の存在が鬱陶しいと思っていたが故に、その存在に気づかれないうちに潰すためにお互いの城を監視し合い、隙あらば奇襲しようと待ち構えている状態であり。

そんな状況なので両者の間では緊張状態にあったが。それが今代の魔王に変わって以来は少しだけ事情が変わった。勇者の魔王に対する憎しみが膨れ上がり、ついに魔王城に攻め込んで来たのだ。そこで魔王も勇者に対して殺意を抱くようになっていたが、ここで問題が有った。

そもそも勇者という存在は魔族にとっては恐怖の象徴的な存在であり。そんな勇者を相手に戦いたくないと考える者が多いという事が問題だ。しかし勇者も自分の目的を果たす為には相手が魔王であっても戦いを挑む必要があり。

魔王が勇者の狙いは自分に他ならないという事も理解はしていたが、しかしだからと言って自分の方から出向いてやる気にはなれなかった為に、あえて放置を決め込んでいた。しかし、そこに突如侵入者が現われるという異常現象が発生した事で話は変わる。魔王は勇者に対して明確な怒りを覚え、すぐに対処しなければならなくなったので自分の側近に指示を出した後で自身も現場に急行する事に決めた。

ただ、この時点で既に両者の状況は動き出してしまっていたのだ。勇者がクレアの夫であるという情報が魔王の耳に届き始めていたが、それを直接確認するまでには至っていない。だが仮に勇者の容姿を確認していたとしても魔王に動揺はなかっただろう。

何故ならば魔王が想像していた以上に彼女の夫は勇者と特徴が一致しており、その事に驚かされたからだった。魔王はかつて自分の夫となる勇者に会った事が有るのだが。その時の彼の姿は自分の記憶に残っているものと酷似していた。つまりは勇者は過去の夫と同一人物だったのだ。

しかも、どうやら彼女の夫は、あの時と同じように魔王を倒す事を目的に行動を起こしているらしく。そんな夫の存在を確認した彼女は激しい嫉妬を覚えたのだが、その感情を表に出す事は無い。何故ならば自分がそのような態度を取ってしまえば自分の夫に迷惑をかけてしまう恐れがあるからである。そう考えた上での行動だったが。しかし、それは逆効果でしかなかった事は彼女にとって皮肉と言うほか無かった。「まさか、こんなにも早く貴方が戻って来るなんてね」

彼女は苦笑いをしながらそう言った後で、勇者が自分の前に姿を現す事を期待した表情を見せる。

「悪いんだけどさぁ。ちょっと用件が有るんだ」勇者はその言葉を合図にしたように腰の剣を鞘から引き抜くと一気に魔王に向けて攻撃を仕掛ける姿勢を取る。ただ魔王の方に攻撃の意思が無いと悟った勇者はその動作を中断すると彼女に話しかけた。「俺と一緒にこの世界から逃げようよ」勇者はいきなりそんな事を言い出した。しかし、それは彼女が最も望んでいた事でもあった。「え? いいの?」

彼女は信じられないと言いたげに目を輝かせるのだが。勇者は冷静にこう続ける。「俺と二人でこの世界を出れば、きっと幸せになれると思うんだよ。それに、今の俺はもう昔のように勇者として召喚されて困っている人達を助けようとか考えていないし、あんたが魔王だからって理由だけで殺すつもりはないんだ」

勇者が口にしたのは一見すると考え無しの言い訳に聞こえる言葉ではあったが。それは真実でもあった。勇者は自分の妻と、そしてその妻との間に生まれてきた子供達の為に生きているに過ぎない。それ以外の者達は全て彼にとってどうでも良い存在であった。だからこそ、目の前の女性は妻が愛した男性で間違いないと勇者は確信したわけで。だからこそ彼女を手にかけるような事は決してしないと心に誓っていた。ただ同時に彼は疑問を抱いた。どうして妻の肉体から魂だけが離れていったのかと。

もしかすると何かが原因で妻の魂が一時的に何処かに行ってしまったのではないかと考えて。彼は妻の行方を調べる為に自宅に戻ったわけだが。

しかし調べても何も情報は得られないままだったのである。

クレアの夫の家を訪れた女性は彼と会話を行い、そこで自分が実はクレア本人であった事と彼がクレアを殺したのはクレアではなく、クレアの息子であったという事を告げて彼を混乱させた。だがクレア自身は息子に対して恨みを持っていたわけではなく、クレアとしては彼に罪など無いと考えており、だからこそ自分の息子の殺害を命じた男に復讐しようと思ったのだが。結果として、その息子は行方不明になっていたという話だった。

それを知ったクレアの夫がどのような反応を示すかは分からないものの。もしも彼が自分の正体に気付いたとしたら殺される可能性も有った。それ故に、勇者と接触するのは危険すぎるのではないかと考えたのだが。

「分かったわ。貴方についていく事にします」

クレアの言葉を聞いて勇者の方は意外そうな顔を見せた。「良いのかい?」「もちろん。私の目的はもう叶わないものだし。それどころか今の状況だと私の存在は完全に邪魔者扱いされるだけだし。もう魔王の妻で居るのが辛いんだよね」

そんな理由で自分の言葉に従ってくれるのかという気持ちはあったが。勇者としても自分以外に魔王を倒す事が出来る存在はいないと考えていたし。だからこそ妻を逃がそうと考えていた。そう考えると勇者と魔王の関係において、魔王を殺すというのは必須の課題とも言えるが。しかし現時点では殺してどうにかなるという状況ではないので。

今の段階で魔王を倒しても世界は変わらないのである。「じゃあ、早速だけど行こっか。とりあえず、君の事を他の連中に知らせておいた方が良さそうだ。何しろ君は僕の嫁さんなんだろう。君を連れてどこかに消えてしまうわけだしね」

勇者が冗談めいた感じで言うと。それに対して彼女は「あらあらあら」などと照れ臭そうな笑みを浮かべていたのだった。「ところで勇者様。そのお方は誰なんです?」

クレアの城には大勢の女性が暮らしているため必然的に勇者の妻の数は非常に多くなっていた。

その中で最近、特に勇者との接点が多くなってきていた少女の一人に質問されたので勇者は答えるべきか迷うのだが。ここで変な態度を見せてしまうと余計面倒な事態になりかねないと踏んで正直に答える事にする。もっとも、ここで下手な嘘をつくとかえって面倒を引き起こす可能性もあるとは思うが。

ちなみに、ここで勇者は自分の嫁達に対して説明を行っていた。自分の嫁の中に元人間の女性がいる事を伝えてから。彼女は魔王討伐の旅をしている際に出会った女戦士だと説明する。ただし、この女戦士については人間側の国から勇者の側へと寝返りをしたという裏設定も忘れてはならない。「まあ。そうなると私達はこれから夫婦水入らずで生活を行うという事になるのですね」「そういう事だねぇ。でも、別に夫婦という関係に拘る必要はないと思うけど。要は一緒に暮らしていてお互いに好き合っていれば、どんな形で夫婦生活を送るかを決める必要なんて無いはずだしさ。だから僕達の仲が良いところを周囲に見せつければ問題無いはずなんだよね」

勇者が笑顔でそう言うと、それを見ていた周囲の女の子達が一斉に黄色い声を上げた。

『いやー、やっぱり勇者は若い子にモテますなぁ。おじさん羨ましいですよ。本当に』『おいおい、何を言っているんだ。君だって十分若いだろ』勇者はそう言うと、そこで一人の女の人に向かって目配せを行った。勇者の意図を察してくれたようで彼女は一歩前に出る。「あのね、私の旦那はこの人なのよ。それで、私が貴方の奥さんになるの」「へえ。じゃあ、貴女の方が年下なのかしら? 勇者様に可愛がられるなら、もっと綺麗になってあげなさいよ。貴女みたいな子がいつまでも幼くて、可愛いだけの子は誰も愛しちゃくれないんだから」

クレアが口を挟むと、それに対して相手の方が先に動いた。勇者の妻の中でも年齢が高く。しかも、この中では唯一の大人びた容姿をしていた彼女こそが今回の話を持ち掛けてきた張本人のようだった。そしてその相手がいきなり仕掛けた挑発的な発言を耳にすると。クレアの方に視線が集まる。「ちょっと待った。いくらなんでも、それは失礼だと思うんだけど。私は見た目通り子供なんかじゃないから!」

相手の少女は、自分の外見がどう見ても成人前の少年にしか見えないクレアが自分達と同年代であると言われた事が許せなかったのか。かなりムキになった態度を取るのだが。「ははははは。もしかして喧嘩を売っているのかな?」「ちょっと! それは、流石にやりすぎじゃないかな?」「あらあら、貴方も黙っていた方が良いんじゃないかしら。こういうのに首を突っ込んでも無駄に敵を作るだけなのよね」

そこでクレアが勇者に対して話しかけようとすると、それよりも早く相手の方に割り込んでくる者が居た。「いい加減にしたらどうなのよ」今までは成り行きを見守るようにしていた女性の中の一人なのだが。彼女は明らかにクレアに対して怒りを抱いており。またそれは勇者の方も同じであったようだ。「悪いけど。今は彼女と大事な話をしている最中だから少しだけ下がってくれ」

勇者のその発言を聞いた女性は「あっそ」と吐き捨てるかのように言葉を返すと、勇者の顔に背を向けるように移動を開始した。しかし、その直後。勇者がクレアの方を見ながら「そう言えばクレアって言ったよね。貴女って確か魔王の側近だったよね?」「そうですが、それが何かあるのですか?」

勇者の言葉の意味が分からずクレアは思わず首を傾げるのだが。すると彼はこんな風に続けた。「だったらさぁ。もし俺が君を殺してしまっても文句はないよね」

そう言い放った勇者の目つきは明らかに普通ではなく。まるで別人が乗り移っているのではないかと思える程で。クレアはその様子から勇者の身に何が起きたのかを悟った。彼は恐らく魔王の肉体に取り付かれており。その影響によって人格までも変貌させてしまったのであろう。だからこそ彼はクレアに対して敵対心を抱き、こうして襲い掛かってきたのだと思われる。だがクレアの予想を裏切り。クレアが想像するよりも遥かに勇者は強くなっており、彼女の方もまた魔王との戦いで消耗していた事も重なり。あっさりと勇者に押し倒されてしまった。

ただ幸いにもクレアが襲われている場面を目にした勇者の仲間の女性は助けようと動き出す。「待ちなさい。今のこの男に手を出しては駄目よ」

クレアを押し倒し、今にも彼女に覆いかぶさろうとしている状態の勇者を見て。クレアが命の危機にあると判断して攻撃に移ろうとしたのだろうが。しかし、そこに勇者の妻の一人である女性が止めに入った。

「今の勇者には魔王の意思が宿っている可能性が高いわ。もしも勇者に攻撃すれば魔王の機嫌を損なうかもしれない。ここは一度引いた方がいいと思うわよ」

勇者の妻はそう口にしたわけであるが。それでも勇者の妻達の多くは勇者を助けようとして動こうとするわけで。「お前達は引っ込め」

そこで別の勇者の妻から怒声に近い声が響き渡ると、それまで勇ましく行動を行おうとしていた者達の動きが一瞬にして停止する。「お前達まで勇者の邪魔をする気か。勇者の嫁であるならば勇者の意志に従い動け。でなければ嫁としての務めも果たすつもりが無いと見なすぞ」「ごめん。そこまで言われてしまうと、これ以上動くわけにいかないよね」「そうだね。クレアちゃんは、とりあえず勇者様と一緒に逃げた方が賢明かも」

他の仲間達が引き下がった事でクレアに覆い被さった状態だった勇者はゆっくりと起き上がる。「じゃあ、僕は行くよ。一応はクレアの事も妻と思っているけれど、もしも僕の前から逃げるようなら容赦なく追いかけて殺す。そのつもりで覚悟しておいて欲しいな」

勇者がクレアに向かって微笑むのだが。それに対してクレアの方は顔を蒼白にするしかなかったのであった。

クレアと勇者の関係が完全に崩壊し、クレアと勇者の二人が揃って姿を消してしまったため、残された者達の間では大騒ぎとなっていた。魔王が勇者に対して行った行為は当然のように問題視される事態となっており、この一件に関して様々な意見が出されていたのだった。

もっとも。この件に関して勇者の妻の一人は「魔王による一方的な暴挙」と決めつけて、それ以外の者は「魔王を放置してしまった責任」についての意見が多かったのは皮肉と言える。ただ実際には「魔王を討伐できる勇者がいないため仕方がないのではないか」という意見も出ていた。

ただ一方で「勇者の側に付いていくなんて正気の沙汰ではない。やはり、あの時無理矢理にでも殺しておくべきではなかったのか」という過激な主張も存在するのは否定できなかった。「まあ、どちらにしろ勇者が姿を消した以上。今更、勇者と妻の関係を取り戻すことは不可能だしな。勇者が戻ってきたとしても元通りの関係になるのは不可能だろう」

勇者の妻達は勇者と元通りに関係を戻そうと働きかけていた。特に今回の件で一番の被害を受けていたはずの女性達は何とか勇者との絆を取り戻したいと考えて必死になっていたのだが。その努力は完全に空回りしてしまう。何故なら当人である勇者自身が姿を見せる事はなく。妻達の誰もが彼の行方を知る事は出来なかった。そうして、そのせいもあって「やっぱり勇者様には奥さんなど必要なかったんだね。私達の思い違いだったんだよ」「そうよ。あんなののどこが良いっていうの? 顔だけは悪くないと思ったんだけど。結局は中身があれだから意味がなかったのよ」

勇者が姿を消してからというもの。クレアの事を批判する人達が増えていき、それと同時に彼女に対して危害を加える者も増えていったが。しかしクレアはそれが原因で命を落としたわけではない。むしろ逆で彼女は勇者が姿を消すと同時に城の外に逃げ出して。そのまま行方不明となっている。

ちなみにクレアが勇者の側から逃げ出すきっかけとなった女性については勇者の失踪と共に姿をくらませていた。勇者が消えた原因も、クレアの事を恨んでの行為なのか、それとも単純に勇者の妻の座を奪われそうになったための行動なのか。どちらか判断出来ない状態であり、勇者が戻ってくるまで城に留まるべきか、あるいは彼女を捜しに行くかの判断が難しい状況に陥っていた。

ただ勇者の妻は全員、魔王の恐ろしさを知っているため勇者の居場所を捜す事にはあまり乗り気では無いようだった。「勇者様の行方に関しては皆目見当が付かないの?」「分からないな。でも、私としては勇者にあまり深入りするのは危険だと思っている。そもそも、この城に残っても勇者に見つかる可能性はかなり低いと思う」「そうね。それに仮に見つかっても殺されてしまいかねないし」

勇者が不在の状態が続き、このままでは自分達の旦那である存在が殺される恐れもあり得ると考えて焦り始める。そのため、このまま勇者に見つからない事が一番良いのではないかという考えに至り始めるのであったが。そんな時。一人の女性の方に異変が生じる事になった。それはクレアが姿を消した日から数えて一年が経過しても未だ彼女が消息を絶っていた頃の話となる。

クレアが姿を消した直後から城内は騒然とする出来事が起きており。特に勇者の妻達が大慌ての状態で走り回っていた。クレアに対する悪口や誹謗中傷の言葉が街中に溢れ返っており「もう我慢できない! クレアちゃんを捜し出してやる!」「駄目だよ! 落ち着いて! まずは自分の身の安全を最優先にして。もし勇者に見つかれば何をされるか分かったもんじゃないんだから」

勇者と魔王の戦いに巻き込まれて、その結果、勇者は死亡。妻は全て死亡したという噂が街に流れるのだが。勇者の生死がはっきりしないため噂が広まるだけ広まって沈静化する事が無かった。またそのおかげで街の人間達は不安になり、勇者の存在を恐れるようになり始めていた。

その一方で、クレアが失踪したという情報が世間に伝わるのと、時を同じくして魔王が復活を果たすという事態が発生するのだった。だが、この話は勇者とは全く関係のない所で生じたものであり、結果として両者は互いに関連性のない存在として扱われたのだった。

ただ一つ言えるのは。どちらも、その存在が確認されたのは最近であるという部分であったのであった。

2人の間には沈黙の時間が流れる。先程までは楽しげに会話をしていた二人なんだけどなぁ。何がきっかけで急にクレアの機嫌が悪くなったんだろうか。僕が首を傾げている間も、クレアの顔には明らかな不満の色がありありと表れている。これは何か話しかけないとマズいかもと思いつつも何を話すべきなのか悩み続けていたその時であった。突然部屋のドアをノックする音が響き渡ると誰かが来たようだと告げるかのように扉が開かれるのだが。そこで目に入ってきた人物を見て僕は思わず声を上げる。

どうしてこの人がここに居るのか分からず、呆気に取られた僕は何も言えずに立ち尽くしてしまう。ただ目の前に立っている相手はクレアの方を見ており、そこでようやく彼女は落ち着きを取り戻す。「どうやら貴方の方は、ちゃんと仕事をこなしてくれたみたいですね」

彼女は微笑を浮かべると僕の方へと視線を向けてきた。クレアの機嫌を損ねる可能性があると分かっていても。この人の訪問を受けて、それを断るのは流石に無理がある。そう考えた僕は苦笑いを浮かべるしかなく、とりあえずクレアの対面の席を勧めて腰を下ろしてもらうと。自分も向かい合う形で座り直す。すると相手の女性は自己紹介を始めてくれたのだけども。まさか彼女がこの国で最強の戦士と呼ばれる存在だと知り、内心で驚くしか無かった。いやまあ、最強と言われても何となく分かるような気がしないわけでもないけれどさぁ。何というか強そうだしねぇ(笑)。

まあそれは兎も角として。今はそれよりも聞きたい事がある。「それで一体何しに来たんですか? というかどうやってここまで来たわけですか?」

僕の質問に対して相手が答えようとする前にクレアが口を開く「勇者様が私の元を訪れたんですよ」

その発言に対して僕は納得してしまうが。それと同時に嫌な予感を覚えてしまうのだが。「魔王から勇者の意思を奪ってやったぞ。これで魔王が復活したところで勇者の意志が魔王に宿る心配はなくなったから、後は任せたぞ」

その言葉に思わず頭を抱えてしまうが。それでも、まだ疑問が残っているのは確かだったわけで。「あのー。勇者がクレアの元を訪ねてきたのは何でなんでしょうか。魔王が復活しようとしている今、このタイミングで訪ねてくる理由が全く理解できませんけど」

そう尋ねると彼女は微笑みを消すと真剣な眼差しで語り始める。それは勇者と魔王の関係についての内容であった。「魔王はかつて世界を恐怖に陥れた存在でした。その強さは他の魔王達と比べても圧倒的だったと言います。しかし、その圧倒的な力を持つはずの魔王達は勇者の前には無力でしかなかった」

勇者の妻の一人がクレアの語った内容を補足していくのだが。その表情は非常に暗いものであった。そしてクレアの方もまた悲痛な面持ちとなっていたのだが。それも当然と言えるだろう。

というのも。魔王とは言っても。別に勇者によって倒されたというわけでなく。あくまで他の魔王に比べて勇者と互角に戦えるほどに強かったというだけだからね。まあ他の魔王が弱いという話じゃ無いけれどさ。勇者に負けてしまうような魔王などは所詮はその程度というだけの事だろうし。「ただ当時の魔王は力こそ優れていたものの。知恵の方はあまり良くなかったらしくて。自分の能力の恐ろしさにも全く気付かないまま、あっさりと倒されてしまったそうです」

そう語るクレアの口調からは深い憎しみのようなものを感じられた。「つまり魔王を倒した後。自分が魔王になってしまう事を考えずに死んだって事なのか? でもそれなら、その後。この国の王となった人間は誰なんだ? やっぱり先代の王が生きているのか?」

勇者の言葉を聞き。クレアは大きく目を見開くのだが、彼女はすぐに顔を俯かせるなり肩を小刻みに震わせるばかりであった。

そんな彼女を見て僕は気付いてしまう。おそらくは彼女の父親は魔王でありながらも魔王としての自覚がなく。しかも自分のせいで父親が死んだと勘違いしたまま息を引き取ったのかもしれない。そしてクレアの父親が死んだ後も自分は生き続けたため罪滅ぼしのように勇者と戦い続けて。その結果として勇者の妻の一人となって勇者が復活するまでの間は平和が訪れたのだろうと予想出来たからだ。

そう思った直後だった。「私にとってのパパを殺した張本人が何を言っているんですか!」

その怒声を聞いて驚いた。何しろクレアは今まで見せた事が無いほどの怒りの感情をあらわにしているのだ。クレアは椅子を倒す勢いのまま立ち上がると、勇者の事を激しく睨むと。さらに叫ぶ。

「そもそも。あんたが居なければ! あんな化け物が生まれるはずがないでしょう! あれを生み出したのは間違いなく貴方だ! それなのに貴女が勇者を名乗るなんて許せると思っているの!? 私だって本当は信じたくない! でも私達の旦那さまだった人は魔王の力に取り込まれて別人になってしまった! それは間違いようの無い事実! だからこそ私は誓ったのよ! もう絶対にあいつにだけは負けないんだって! あんな惨めな姿を晒すくらいなら、いっそ殺された方がマシだったんだ! でも結局。あの時の事は夢なんかじゃない! 現実だったんだ!」

そう口にするクレアの頬には大粒の涙が零れ落ちていくのが見えると。クレアは両手で目を覆う。そんなクレアの姿を見ると勇者は何も言い返す事が出来ずにいた。だが、クレアはそんな彼を見て、どこか寂しげな雰囲気を漂わせていたのだが。すぐに冷静になる。「でも、貴方のおかげで今の私が存在するのも否定は出来ないわ。その点については感謝している。だから私達は決めたのよ。勇者様が復活して下界に再び舞い降りた時には必ず殺すんだってね」

3人目の魔王の話については正直かなり疑わしいと思っていた部分があったんだけどね。何せ1人で3つの属性を使いこなす事は不可能と言われているぐらいだしね。ただ実際には可能なんじゃなかろうかと考えていた。というのも僕の知る範囲では2人以上の存在が確認されているんだけどさ。それがどちらも魔王なのだよね。

2人目である魔王は風を司る魔王と呼ばれていて。風の魔法に関しては最強であると言われていた。ただ水に関していえば。僕と同じ水の魔法使いであるレインこそが世界最高だと言われてて有名だったけどね。ただ炎に関してはあまり聞いた覚えは無いんだよなぁ~? 2人の実力が拮抗していたのか? とも考えていたのだが、それにしても片方だけが最強と呼ばれているというのは妙だとは思う。何よりも魔王同士の戦争が起こった際、どちらの方が優勢だったかという情報が全く残されていなかったのだ。

ただ、そのおかげで、もしかすると僕自身が最強の魔王だと思われていた可能性もあるけど。もしそうだとしたら。その件について僕は少しだけ興味を持つのだが、同時にクレアの言葉を思い出した事により僕は苦笑いを浮かべるしかない状況に陥る事になったのだが。

クレアの発言を思い出すと。彼女は勇者の事を今でも恨んでいるように思えた。実際問題。僕が勇者と会った時は。すでにクレアに殺される覚悟を決めていたという感じの雰囲気だったので、その気持ちも分からなくもないのだけど。

ただそうなってくると別の不安もあるわけで「クレアさん達は本気で戦うつもりですか?」「えぇ勿論そのつもりです」「もしも勇者を殺す事が出来るとしても。その後どうなるか分かってるんでしょうね?」

クレアは笑みを消すと共に黙り込む。やはり魔王は魔王という事で殺してしまう事に躊躇いを感じているみたいだな。何よりクレア達にとって、勇者は自分達から父親を奪い去った相手なわけで、いくら魔王であっても殺してやりたいと考えているのは間違いないだろうからな。

ただそれでも勇者と戦う意思を見せたのも、クレア達にとって、それほどまでに追いつめられているという証でもあったのだと思う。まあ僕としては勇者を死なせない為にも、クレア達が勇者と戦っている間に逃げる必要があるわけで。

その為には、クレア達に勇者との戦いをやめるように説得しなければいけないのは明白なのも確かだったりするのだが。その方法が見つからず、困っていた。ただ勇者も勇者とて。まさか自分の目の前にいる女性二人が、最強の魔王だとは思いもしなかったに違いないだろう。何せ魔王といえば、僕や勇者が倒した者達のような外見的な特徴があるわけでもない。見た目は完全に普通で美人の類に入ると思うけど、特にこれといって特別な特徴を持ち合わせてはいないわけでさ。そんな相手を勇者や僕が見逃したとは考えられないし。

仮に見逃したというのであれば。クレア達の言うとおりに、とっくに殺されてしまっている可能性が高かったはずだ。つまり。目の前の女性達こそが魔王であるという事実に、この男は驚きを隠しきれなかったようだ。しかし、そこでようやく僕はある事を思いつく。

それはこの国を乗っ取る際にクレアが使った手段だ。クレアの魔力は普通の人間が耐えられるレベルを超えている為、この国の人間の身体の中に魔王の魂の一部を封印する事が容易に出来るわけで。その状態で魔王が復活しない限りはこの国も安泰だと思われたわけだけど。それならば魔王を復活させる事無くクレアの力で人間から魔王を消し去るという方法は取れなかったんだろうか。

それを考えると同時に。もしかすると魔王が既にクレアの体内に存在している可能性も捨てきれないと思った僕は、試しに尋ねてみることにする。「魔王の復活を望まないクレアさんの体内から魔王だけを消去するという事は可能ですか?」

その問いかけに対しクレアは首を傾げるのだが。代わりに答えたのはクレアの妻だった女性であった。「無理ですね。私にも不可能だったからこそ、魔王に対抗できる存在の召喚に望みを託したのです。それが私と娘が、貴方と勇者と出会っていた理由です」

それを聞き。僕は考え込んだ。

それは確かに、僕なら出来るだろう。というより僕の力は魔王の力をも上回るほど強力なものなのだから。魔王が復活した場合にのみその力を封じ込める。そして僕に殺されたくなければ大人しく従えと脅迫するやり方が一番安全な方法ではないか? しかしそれはそれで問題が残りそうなので悩ましい所ではあるが。とりあえず今は、目の前の二人を止めるために行動を開始する。まず初めに勇者の方へと向き直ると彼の耳元でささやくようにして言葉を告げる「お前は自分の命を守ることばかり考えて良いのか? こう見えても俺達は仲間だぞ。つまり、ここで逃げたところで誰もお前を責める事は無いんじゃないかな?」

(そうだよなぁー。この男が本当に俺の敵であるかどうか分からない以上、下手に逆らわない方が良いような気がしないでもないな)「でも俺が死んだりしたら、勇者を封印して貰うっていう計画は失敗する事になるんだろ? 俺は死ぬかもしれないリスクを負ってまで逃げたいとは思っていないし」

僕はため息をつくと「それじゃ仕方ない」と言いながら勇者の腕を掴んだ瞬間。僕は魔法を唱えたのだが。その結果に思わず呆然としてしまう。なぜなら、勇者を捕らえていた光のロープが全て消失してしまったからである。これはどういう意味なんだろうと疑問に思うのだが。もしかするとこの光には魔王が宿っていて、その力が解放された結果、魔王によって勇者の肉体のコントロールを奪われた可能性があるかもしれないと気付いた。つまり。

その気になればいつでも魔王が復活させられる状態であると予想出来た。しかも今の勇者の口ぶりでは魔王の魂の一部はクレアの中に封じられているらしいから、最悪。クレアが勇者として覚醒して勇者の力を得たとしても、魔王を簡単に殺す事は出来ないのではないかと思ってしまう。だからこそ、そうならない為にも早めに手を打っておかなければならないのだが。何しろ今の状況だとクレアの方が先に魔王化しかねないのだ。

そうなった場合、勇者と戦える存在がいない状況では、最悪の事態になるのは明らかだからね。だから何とかしなければと考える僕だったが「魔王は何処へ行ったんだ!」という言葉と共に現れた人物を見て思わず絶句する。

それは今まで見たことがない程の美女であり、明らかに僕と同じ人種だと思われる女性である事に驚くが、それよりも驚いたのが。彼女が身に着けていた衣服に覚えがあるからだ。何とその服はかつて、とある世界で自分が魔王を名乗っていた頃に着こなしていたものとそっくりなのだ。

それだけならまだしも彼女の姿を見る限りだと。かつて僕の前に立ちふさがった時の魔王の面影を残しているように見えるんだけど。まさか彼女は魔王なのか!?「ふむ。魔王が復活した気配を感じて来たが。なるほど。そういう事か」その言葉を耳にするなり僕は彼女に向かって質問を投げかけるのだが。彼女はその問いかけをスルーすると、いきなりクレアに向けて話し出す「どうやら。私の力が必要なようじゃないか。魔王の力が必要ならば好きに使うが良い。その代わり約束してくれないか? 勇者が蘇って来た際には真っ先に私に連絡をするのをだ」

勇者は魔王の言葉を聞くと、少しだけ考える素振りを見せる。だが魔王の提案を受け入れるべきかどうかは悩む部分なのではないか? 何せ僕達は、これから魔王と戦闘を行なおうとしているのだから。もしも仮に、僕達が敗北したら。その時点で僕とクレアの力だけでは魔王に対抗する事が出来ない可能性が出てきてしまうわけだ。だが、そんな心配をしている暇は無いのも確かだ。何故なら勇者を封印するタイミングは魔王とクレアが交戦を開始した後になる。それまでは魔王を放置するしかないのだが。その間。

もしも魔王が何かしらの手立てを使って勇者を殺す事にでもなれば、せっかく魔王から解放したとしても結局は勇者を殺してしまう事になってしまうわけだ。しかし、そんな状況下において勇者はある提案を持ちかけてきたのである。それは自分が魔王の代わりにこの国に君臨したいというものだ「悪いんだけど。君が王になった所で国が崩壊するだけだから辞めてくれ。それに君には聞きたい事があるから丁度いい機会だと考えてるんだけどさ」「お前はさっきから何者なんだ?」

僕は苦笑いを浮かべるしかなかった。だって目の前の女性の姿を見た限りでは。どう見ても自分よりも若い女の子にしか見えないのだもんな。その事を尋ねるべきかとも考えたんだけどさ。正直言えば聞くまでもないという感じかな? というか僕の目の前にいる女性の外見はさておきさぁ。どうして僕達の会話を聞いているだけで、ここまで正確に状況を把握していけるのか不思議でしょうがないんだよなぁー それはつまり彼女が何らかの方法で勇者とクレアの思考を読んでいたという証拠でもあってね。僕は内心焦り始めるのだけど。このまま彼女を放置しておけば大変な事になると判断すると慌てて止めようとするものの間に合わない。次の瞬間。魔王と名乗る少女の目から発せられた魔力は周囲に拡散されると共にクレアの全身を覆うように広がり始めたのだ!「しまった! もう止められません」「いやいや、待ってくれ! あんたがその状態のままで戦うとか無茶過ぎるだろ!」僕は慌ててクレアの元へ駆けつけようと試みるが既に遅くてね。既に僕は魔王の能力に縛られてしまっていたわけでさ。そして魔王が次に口に出した言葉で僕は完全に固まってしまった。何せ「クレアを殺せるのであれば殺してみればいい。ただし、貴様が勇者である間はな」「え?」僕は自分の身体から冷や汗が吹き出していくのを感じると同時に、魔王から視線をそらして背後を確認する。すると、そこには僕を睨みつけるクレアの顔があって。そこで魔王の言葉の意味を理解してしまうわけで。

要するに僕は、僕を魔王にするための餌だった可能性が高いという結論に達してしまうわけで。しかも僕は自分の力でクレアを守れないと理解出来てしまうわけで。どうすれば良いのか悩んでいる間に、魔王とクレアの対決は始まっていた。僕は勇者に対してクレア達を止めてもらうべく言葉をかける「おい勇者、お前の敵は俺じゃなくてあの魔王のはずだろ。だったら、クレアさんを救ってやってくれないと困るんだけど」

そんな勇者の訴えを聞きながらも僕はある疑問を感じていた。というのも。勇者に僕の言葉が届いた形跡が見られないということだ。おそらく僕の魔法のせいで聞こえていないというわけじゃないと思うし。そもそも魔王の攻撃から勇者を守ろうと、クレアが無意識的に発動させている防御魔法の効果のおかげもあるだろうし。何にせよ僕の声が勇者に届いてない可能性は高いと思われたんだよね。ただそれでもクレアは、勇者が自分の攻撃を防ぐだけの力はあると思っているらしく、容赦なく攻撃を仕掛けるわけで。そんな攻撃を魔王が黙って見過ごすはずもなく。僕も当然のように狙われてしまい、僕は咄嵯の判断で勇者に「魔王の相手を頼む!」と告げるのだけど。魔王から返ってきた答えは無慈悲なもので「嫌よ。魔王を相手にしてるのは勇者ちゃんであって私じゃないし。私はクレアと戦うつもりは無いわよ。クレアに勝とうとするなんて馬鹿みたい」魔王の言葉を聞き、魔王の正体がクレアだという事に気付いた僕は思わず声を上げてしまうのだけど。

魔王が僕の口の動きを読み取った結果。僕もクレアが魔王化しているのを悟ってしまい、僕と魔王の立場は同じになってしまったようだと察する事が出来たのは良いけど。その事実から導き出される答えが一つだけ存在するという事も同時に思い知らされてしまう結果となり。それを考えると僕は思わず泣きたくなる気持ちを抑えるのに必死になってくるのだった。

僕の頭の中では既に、勇者を魔王化させて、その勇者にクレアを殺して貰おうと考えていた計画が崩壊してしまったと分かる。そしてそれと同時に、クレアが僕の魔法による縛りから抜け出そうともがいている姿が目に入った事で。魔王に操られているクレアと対峙する事になるとは思っていなかった僕としては戸惑いを隠せなかったんだ。でもね。その戸惑いの感情に構わずにクレアが襲い掛かってくるので、どうにかしなければと思えば、クレアが魔王によって強制的に魔法を発動させられたせいなのか分からないけれど。

彼女の身体を光の膜が覆っている状態でね。しかも魔王はその光を消そうとする気配も無く、むしろ楽し気に見守っているように見えたわけで。それどころか魔王は勇者に対して、「ほら、邪魔な女は放っておいてこっちを相手しなさい」と言い放つと、今度は魔王から攻撃を始めたのだが。その動きは素早く。僕は思わず目を細めてしまう。

魔王の攻撃を回避しようとするも。何故か体が上手く動かず。そのまままともに攻撃を受けてしまった勇者は、地面に倒れる事になってしまい、それを好機と見た魔王は更なる追い打ちを加えていく。だが僕はその光景を見ながら。勇者を助け出そうとするも、魔王によって魔法で妨害されてしまったのを自覚した途端。思わず絶望してしまうのだが。

今の勇者には魔法に対する耐性が備わっているからなのか? それとも魔法が無効化されているからか? はたまた他に理由があるのかまでは分からないけど。今の所は何事も無かったかのように立ち上がった勇者を見ると少しだけ安心できたわけだけどね。とはいえ今の状態で勇者を助ける事が出来るとは思えない以上。下手な手出しは出来ないと判断した上で「悪いんだがクレアさんを解放してやって欲しい」「悪いんだが、今はそれどころじゃないんだ」と口にすると同時に僕は魔王に向けて駆け出す! ただその途中で再び足を止めざるを得なかったわけで。それは僕が魔王に向かって拳を繰りだそうとした時に魔王にあっさりと避けられてしまったからである! その瞬間に気が付いたんだけど。魔王に意識を完全に向けていたせいなのか僕の魔法は全て解けており。しかも魔王の方も先ほどとは比べ物にならないぐらいの速度を出して僕の方に向かって来ていて。その状況を見て思わず「しまった」という言葉を口にしてしまった。でも仕方がないだろう。まさか勇者以外の者が魔王の力を借りる事が出来たなんて想定すらしていなかったのだからさ。

僕は咄嵯の判断でクレアを庇うような形で彼女の前に立つ。そして魔王に向けて両手を広げると、彼女に向けて呪文を唱える。その効果は僕の魔法で、彼女を吹き飛ばす為のものであったんだけど。僕が使った魔法が彼女に当たる寸前で弾かれてしまうと、僕の体は弾き飛ばされてしまう。そんな時でもクレアは自分の身に起こった現象を把握しきれていないようで「どうして私に力が戻ったんですか?」などと聞いてきて僕は思わずため息が出そうになる。まあ僕だってこの展開になるなんて想像もしていなかったため困惑しているわけだ。そしてそんな事を考えている間にも魔王が迫り、次の瞬間には勇者との戦いを繰り広げ始める。

そんな状況を目にしながら僕には出来る事が殆ど残されておらず、悔しさを噛みしめながらも勇者の戦いを見届けるしかなかったのであった。勇者の拳が何度も空を切りながら、時には反撃もされつつも。それでも僕は目の前の状況から目を離す事が出来ずにいたんだよねぇ。ただ不思議な事に、僕はこの場における当事者でありながら傍観者的な立場に立たされてしまっていてね。だからこそ余計に見つめていなければならなかったわけだ。そうでなければ勇者は間違いなく魔王に殺されてしまうだろうと予感したからね。

だが僕が勇者の手助けに入ろうとするのを阻止するべく、僕達の周囲を魔王の配下が取り囲んできた。そして「魔王様を殺させるわけにはいかない」だとさ。だが、魔王の部下達は勇者に倒される前に魔王に倒された者達が復活して立ち上がって来たらしいのだけど。どう見ても復活したというよりは蘇生されたというのが相応しい姿ではあったかな。その事を確認した後に僕が思った事はといえば。これなら何とかなるんじゃないかというものだ。

僕はその根拠を示すために、僕の横で魔王と勇者の交戦を観察している存在に視線を向けたのである。それは勿論の事クレアである。魔王を目の前にして勇者は押されてはいるんだけど、未だに負けるとは思ってなさそうな表情を浮かべていて。僕はそれに少しばかり感心していたんだけど。そんな時だったんだよ。突然魔王の顔色が変わったのは。

僕は慌てて周囲の様子を伺い見るのと同時に、何が起きたのか確認するべく視線を動かすのだけど。特に何も変化が起きていないようではあった。

いや待てよ? もしかしてこれは魔王ではなく勇者の方がやらかしたとかじゃないだろうかと思い始めた所で、突如として周囲に漂っていた霧のようなものが一瞬にして晴れていったのと同時にクレアの姿が現れた。そして彼女は僕と目が合うと嬉しそうに笑顔を見せた後で「ありがとうございます!」と大きな声で礼を述べてきたわけで。

えーっと。もしかしなくても僕に感謝してるっぽいけど。この状況で何を感謝する必要があるんだろうか。僕にそんな力があるとでもいうのか。いや、それ以前にクレアが僕に感謝するという事は。やはり僕に魔王を倒す力は備わっていなかったということなんだろうなぁー。僕は内心で泣きたくなってくるのだが。それでも僕は彼女に何があったのか尋ねることにしたわけである。

魔王に負けたら死ぬ。

その事実を聞かされた僕の頭の中に真っ先に浮かんできたものは死に対する恐怖である。

魔王に敗北すると命を失うというのであれば僕はどうすれば良いのだろうと考えれば考える程。自分の中で生まれた焦りの感情は大きくなる一方であり、冷静になろうと努めてはみるものの。結局のところはそれが功を奏すことは無く。僕はどうにか魔王をどうにかする方法を考えようと躍起になっていたわけだ。だがいくら考えてみたところで魔王相手に有効と思われる作戦など思いつくはずもなく。むしろ考えすぎが祟って頭が混乱し始めていたんだよね。でもそんな中で僕はある事に気が付き始めて。

それは今までに見たことが無いようなスキルの存在で。そのスキルを使えばクレアを救う事も可能かもしれないと思うようになったわけで。そこで早速僕はそのスキルの詳細を確認しようとしたのだけど、その直前にクレアの声により邪魔をされてしまう事になってしまったのだ。「貴方のおかげで私の呪いが解けました。ありがとうございました。私達を助けてくれますか?」

クレアから発せられたこの言葉に対して僕は何も答える事無く黙ってしまう。なぜなら彼女の質問が唐突過ぎたので思考が追いついていなかったからに他ならない。

僕の反応に違和感を感じたからか、それとも別の理由からなのかは不明だが。とにかく僕の様子を見守っている魔王はニヤリと笑みを浮かべた後で「助けたいのならばまずはあの魔王を倒してからよ」と言い放つと共に勇者と激しく打ち合いをし始めた。その様子を眺めていると、魔王は確かに強いのだと理解出来てしまうんだけど。それなのに勇者は互角に渡り合っているように見えたんだよねぇー。しかも勇者の身体を覆う魔力の量が増えているように感じられて。

そんな二人の攻防は凄まじく。僕は二人の戦いから目を離せないでいたのは良いけど。いつまで経っても僕の方に意識が向けられる様子が無かったので、このままじゃ僕が居ること忘れたまま魔王に殺されてしまいそうだと思えば流石に危機感を抱く事になる。だが僕の気持ちを汲んでくれたからなのか? それとも単純に戦いに夢中になり過ぎていただけなのか分からないけど。クレアが僕の方を向いたかと思えば、「あの人を倒してくれるんですか?」と尋ねられたのだけど。それに対しても僕は返事をする事はしなかった。ただその代わりに「勇者が勝った場合は魔王に勝って欲しいので手伝って下さいね」と告げられてしまった事で、思わず頭を抱えたくなる衝動を抑える事で必死になってしまったんだよね。

ただクレアが言う通り、ここで逃げ出せば僕に待っているのは不老不死の魔王としての運命である事は間違いないので。勇者と魔王が相討ちになってくれるのを待つしか道は無いと考えた僕は、勇者を助ける方法を考える為に一度頭の中を整理してみる事にしたのである。

ただその前にどうしても確認しておかなければならない事があったのだけど。それはクレアの言葉だ。

僕はクレアさんを縛っている魔法の効果を解く際に「どうして僕を助けようとするのか?」という疑問を投げかけていて。その時の彼女の返答によると僕に対する好感度が上昇している状態になっているようだとは分かるんだけどさ。正直それだけだと今の状況を説明する事が出来ないと思ったので更に踏み込んで確認してみると、クレアは僕の為というよりも自分の為だと言う。つまりクレアさんを縛りつけている呪法を解除しなければ魔王に勝つことは出来ないと判断して僕に頼んでいるというのであればまだ納得できなくも無いのだが。彼女はそうではないらしく。そもそも魔王と戦わなければいけない状況に陥っているのは自分の意思なのだから仕方がないのだと開き直る始末で。だからといってそんな言い分を信じていいものなのかと思ってしまうんだよねぇ。

ただクレアが僕を信頼している理由は他にもあって。それは僕のステータスに魔王を倒す為の特別な力が隠されているからだとか。それを利用して欲しいと言われても。残念ながら僕には魔法の才能が全く無いし。それに加えて勇者の力を使えるわけでもない。なので「特別な力というのは何の事ですか」と尋ねたんだけど。答えが返ってくる気配はなく、クレアの表情を見る限りでは僕に何かを伝えようという意図はないように見える。

ただここで気になる事がある。僕が今こうして魔王と戦っている勇者に勝てないのであれば、僕は勇者の加護を受けし者の称号を得る資格が失われている可能性があるわけだ。そしてもし僕が本当に勇者に勝てる力を手に入れられていないとなれば。今僕がやるべきなのは勇者と魔王の争いを止めることだと思うわけだ。

「クレア。君と勇者との会話で一つ分かったことがあるんだけど。もしかしたら君は騙されているのかも知れない」

「私が、騙す、ですか?」

クレアは意味が分からないといった表情を浮かべるが、そんなクレアの事は気にせずに続ける。僕は勇者と戦う前の魔王の様子を見ていて思ったことがあった。それは魔王の行動にどこか不自然さが感じられるという点である。ただ魔王が僕に向けて嘘を吹き込んだ事が原因で勇者に敵対しようとしている可能性も考えられなくは無かったが。僕が見た限り、それは違うような気がした。その理由としては、もしも仮に勇者に敵対するつもりならわざわざ勇者を庇ったりせずとも僕だけを攻撃すれば良いはずだからである。それに僕がクレアに対して放った魔法も弾かれてしまう可能性が高かったのにも関わらず実行に移していた。その事実からも魔王が僕に対して悪意を抱いていない事だけは確かなはずである。そうなると、やはり考えられるのは勇者と争う事による利益が魔王側に存在するからなのではないか、という事。その証拠として魔王が見せた行動の一つには僕とクレアが二人で仲良くしていた時に見せてきた、クレアに危害を加える事が出来れば勇者を確実に殺すことが出来ると言った言葉が思い出されるわけだ。つまり魔王の目的は勇者の討伐、或いは撃退であり。僕達が仲良くしている光景を見せられていた時点で魔王にとって勇者と僕の協力関係を結ぶことは邪魔な出来事に違いはないだろう。だがそれを僕が口で説明したところで素直に聞いて貰えるとは到底思えなかった。だがそれでも何とかしてクレアに伝えなくては、と僕は焦っていたのである。

だがそんな焦りからか、僕は余計な一言を呟いてしまっていた。クレアさんが騙されているという発言をしてしまったのだけど。その結果、何故かクレアさんの表情が強張ってしまったのは、恐らくは僕を騙していたという部分を否定しなかったからだろうと思うのだが。

僕はクレアさんの様子を見て慌てて取り繕うように話を戻すことにした。というのも僕は今、自分が口にした言葉に違和感を感じていたのだ。そして違和感の正体は、まるで勇者の力の事を僕が既に知っているかのような言い方をしている事に他ならない。勿論のこと、僕はまだ勇者の力とやらを見たことが無かったので、勇者の力は僕の中に眠っているなんて事も有り得ない話だったのに。僕はいつの間にかクレアの呪いを解いたという事実が僕の知らない間に勝手に僕の中で変換されてしまっていて。そのせいで、あたかも僕は勇者の力を持つ事が出来る、みたいな思考に辿りついていたわけで。でもそのお陰で僕は冷静に考えを纏める事が出来たのだ。「貴方は何を知っているのですか? 教えて下さい」

そう言ったクレアは僕が何を言っているのか全く理解できないようで、不安の色を帯びた表情を浮かべていたのだが。そんなクレアの顔を見てしまうと流石に僕も罪悪感を覚える事になった。何しろ僕の発言のせいで勘違いさせてしまったわけだし。ただそこで僕の考えを説明しようとしたところクレアは「分かりました」と、どうも僕の言葉を信じる様子であった為。僕としてもそのまま説明する事に決めた。だがそこで僕の中に生まれた一つの疑問点があった。それはクレアの言動に矛盾が生じるからだ。クレアは僕が勇者と敵対する意志を持っていると勘違いしていたわけであり。その為、僕の協力を得ようとする態度にも表れているように思える。

それならば、なぜクレアの呪いが勇者の力で解けたと思い込んでいるのか、という問題にぶつかるわけで。しかもクレアの発言によれば、僕の力は特別であるから、僕の力は僕の中に眠る特別な力で、その力は勇者のそれと同等のものらしい。つまり僕が知る勇者の力は僕の中にあるはずが無いわけで。だがクレアが言うように本当に僕が勇者と同等に近い能力を使えるとしたら、僕が勇者の加護を受けるのに最も適任だということになる。そしてその能力がクレアの呪いを解けるのも当然の事だと思えてくる訳で。

ただ僕の頭の中に、僕の中の勇者の力を使えれば、という言葉に対して勇者の力を使えるのが当たり前のような感じで認識されていた事から考えて。僕は自分の知らぬ内に僕の中から漏れ出ている何かしらの力に気付かずに使っている可能性があり、それが原因で僕が勇者の加護を受けられるだけの条件を満たしてしまった可能性があるのではないかと考え始めてしまったのだ。だからまずはその事に気付かなくてはならないと思ったわけで。

だがここでまた問題が生じた。僕の中に溢れている何かは、僕が意識していない所で勝手に使われているらしく。だからそれを見つける方法を模索していた時に魔王の攻撃が迫って来てしまい。咄嵯の判断から魔王を弾き飛ばしてみたものの、その際に魔王を縛っている魔法も解除してしまう結果となった為、僕は自分の身に起こっている現象を詳しく調べる暇も無く、魔王をどうにかしなければと考えてしまう結果となってしまった。「貴方、まさか勇者の力を!?」

クレアが驚きの声を上げるが、僕としてはそんな事は知った事では無く。とにかく魔王の動きを止めるのを優先しなければならなかった。ただ幸いなことにクレアが放った炎が僕達の間に立ち塞がった魔王に直撃する事に成功した事で。僕の方まで火の粉が飛んできたけど、それは別に気にはならない。ただそんな些細な事で僕とクレアの距離が離れてしまえば僕がクレアを守る事が出来ず。僕達の作戦に失敗が訪れかねないと思えば必死にもなるというものである。「魔王をどうにか出来なければ私達は勝てませんよ」クレアの表情は必死そのもので、このままでは負けると確信を持って言える程の表情である。

それは僕だって同じ意見なので焦ってはいたが。それでもまだ諦めてはいないのは何故なのか? それはこの先どういった行動をとるべきかという明確な方針が存在しているからであり。

勇者の加護を受けた者は職業やスキルを獲得する際に必要なステータスポイントが通常の人間よりも高い数値になっている筈である事。

そして僕の持つ称号が【異世界から転生して来た者】であることを踏まえれば、僕自身が勇者に近しい存在になれる可能性があった為。まだ勝機は残されていると判断できたからだといえる。

だからこそクレアは、勇者の加護を受けていれば倒せる可能性があるかもしれないと言ったのだと思うし。それが正しいのであれば、今の僕に勇者が扱えるとされる勇者の力を使いこなすのがベストだと言えるわけだ。

ただし問題がある。勇者の加護を受けているかどうかはどうやって確認するのかという話になるのだけど。普通に考えるならステータスを開いて確認すればいいだけなのだが、僕の場合は勇者の力を使えない以上は確かめようがないから困るんだよねぇ。まぁそもそも僕は自分のステータスを確認していないから勇者の加護があるか確認できないわけで。そう考えるなら勇者の力を使えるかどうか確認するには、僕の中に眠っている力が発動してくれない事には始まらないんだよねぇ。「勇者の力を使うのは無理なんじゃ無かったんですか」

魔王は吹き飛ばされて倒れ伏している状況だというのにも関わらず、未だに魔法による攻撃を止めないクレアであったが。それは魔王を倒すのには僕の力が必要不可欠だと僕自身も理解しているからであると考えられる。

ただ魔法を発動させるにしても、その魔力を生み出すには大量の精神力が必要になるわけだ。そして魔王が放つ魔法の威力を考えるとクレアの精神力だけで賄えるとは思えない為に、魔法の使用頻度を減らしていく必要がある。だがそうやって魔王への魔法攻撃を弱らせることで魔王の反撃が強まる可能性もあり。そうなると魔王と対等以上に戦うためには勇者である僕が魔王に一撃を入れるしかないわけだ。「クレアさん、勇者が使っていた聖剣を貸してくれないか」

だが聖剣を借りたところで魔王相手に勝てるのか? 僕は魔王と戦う前にそう思っていたし、今も思ってはいるのだけど。だが魔王との戦いにおいて魔王にダメージを与えうるのが聖剣のみだとしたら? いやしかしそれでもクレアさんの呪いを解く事は出来なかったのだ。魔王が持つ特別な力とは一体どんな代物なのか、それが僕には分からないのだけど。「貸す事は構いませんが。絶対に折らないで下さいね」

そしてクレアは渋々といった様子ではあったが僕に鞘付きの聖剣を渡してくれた。僕としてはその扱い方は慎重にやる必要があると考えているので、とりあえず受け取るなりすぐに腰に装備したわけなんだけど。ちなみに僕の身体が動くようになってくれたお陰でクレアが持っている聖剣は片手でも楽々と扱う事が可能となっていたのだ。

それにしても僕の目の前にいるクレアが、こんな簡単に僕に武器を渡すとは思いもしなかったから正直かなり意外である。もしかすると、それだけ追い詰められているという事もあるのだろうけど。それこそ魔王と対峙するという経験がこれまで無かっただろうから、仕方の無い話かも知れない。でもこれで魔王に対して攻撃を行うことが出来る。

『貴様が勇者であるわけ無いだろう』「お前が勇者じゃなきゃ誰が勇者なんだよ」僕はそう言ってやった。勿論のことだけど僕の言葉を疑うクレアを少しでも安心させようとして。だけど、そんな事を気にせずに僕は全力で走った。それは何故かと言えば勿論のことだけど魔王に勝つためであり。そして僕は、その行動によって魔王に傷を負わせる事に無事成功したのだ。「うぉっ!」「くぅー! 何これ痛ぇ!!」僕の放った拳は確かに魔王に命中させはしたのだが。それでも尚も勢いよく跳ね返されて地面に激突してしまう程であった。そのせいで僕は背中に強い痛みを覚え、さらには腕に鋭い激痛を感じたために、僕は苦痛の叫びを上げていたのである。『我を殴った程度でどうにか出来ると思っているのか』

どう考えても魔王の力の源と思われる石を破壊した方が確実だろうと思えたが。それを行おうとする前に魔王の攻撃が襲ってきた。ただ僕が予想していたよりも遥かに速く強力な一撃であり。もしも回避できていなかった場合を考えれば背筋が凍り付くような感覚に陥るほどのものであったのだ。だからクレアを守りながらの戦いは難しいと判断して即座にその場から離れようとしたのだが間に合わず、クレアに向かって振り下ろされた拳を防ぐ事が出来ただけだったのだ。

しかし結果としてはクレアを助けられたものの、僕は自分の力に驚いてしまうことになったのだ。何故ならば僕の力は通常状態と比べ物にならぬ程に強くなっていたらしく、魔王に殴り掛かった時の僕の力では確実に僕が殺されてしまうと思っていただけに余計に驚かざるを得なかったわけで。それに加えて、勇者の力でも無い僕の力はクレアの呪いが解かれる要因になったようで。僕の力が本当に勇者と同じものだと分かったわけである。ただそこで僕の疑問にぶつかったのだ。クレアが言ったように僕の力は本当に勇者の力に匹敵するのかという点に関してである。

クレアの言葉を信じる事にした僕は、クレアから預かった魔道士が好んで使う杖を振り回しつつ魔王に接近を試みたのだが、それはあっさりと防がれてしまったわけで。そればかりか魔王に弾き飛ばされてしまう事になったわけだ。しかも僕の体は宙を舞って壁に激突してしまったのである。ただその瞬間はまるで時間がゆっくりと流れているかのように感じる現象に見舞われ。壁に衝突しながらも、魔王の攻撃を回避するのに成功していた。そして僕は魔王に視線を戻したところで驚いた。魔王の腕の切断に成功しており。僕の手に握られていた筈の杖は消え去っており。魔王が振るった大斧が地面に当たって凄まじい音を響かせて砕け散っていたのである。

そんな信じられない光景を見た僕は、クレアが勇者の加護を受けた者ならば倒せる可能性があると言ってくれていた理由を理解するのと同時に。それならば魔王の特別な力とは何だったんだろうという疑問を感じてしまったのだ。だって勇者の力があれば魔王の力を相殺できる可能性が高いという話だったが。僕が感じ取った魔王の力を魔王の方にぶつけたら逆に吹き飛んでいたわけだし。僕が感じ取れたあの強大な力の正体は一体なんなのか? そういえばさっき僕が勇者の加護を受けていないと断言する発言をしたのは何故なのか? その発言の真意を確かめる意味も含めて、もう一度僕の中に存在するという何かの力を使ってみることにしたわけで。そして僕の中にある勇者の力を引き出そうとした時。何かが弾ける音が聞こえてきた。

それは一瞬の出来事だったのだけど。それでも何かが起こったことだけは分かってしまった僕は、慌てて勇者の加護がどうなっているのかを確認すると。

どうやら僕の中に眠る勇者の加護は既に発動していたようだが。肝心の魔王の加護を打ち消す程の力をまだ発揮できてはいなかったようである。

勇者の加護を受けていれば問題無く魔王を倒せる筈なのに、どうして僕は魔王にダメージを与える事が出来なかったのかという理由は良く分からないのだけど。その理由をクレアに聞いてみるのも良いかなと思ったので彼女の様子を見てみると。クレアの額には玉のような汗を浮かべているのが確認できるし。クレアは呼吸をするのも辛そうな状況で、苦しんでいる様子が目に見えて分かった。そんな姿を目の当たりにしてしまった僕の気持ちは酷く沈んでいく一方で、もう二度と彼女をあんな目には遭わせられないと強く誓うと共に、勇者の加護を持っているにも関わらず、魔王を倒すのに役に立たない自分に腹が立ってしまっていた。だがクレアを守るという目的のためにも、まず魔王からクレアを守る必要があるわけで。そう考えた僕が魔王に対して構えを取るなり。クレアを守れるだけの力を手に入れる方法は無いものかと考えていた。『まさかこの我が貴様に敗北を喫する事になろうとはな』魔王はどこか感慨深げにそう呟いていた。その言葉は恐らく僕に向けられたものなのだが、僕にはその意味がよく分からず、首を傾げるだけに終わる。そしてそんな僕の姿を確認した魔王は苦笑いを浮かべるだけであった。だがそんな魔王の行動から感じられる感情には不思議と感じ取ることが出来た為、もしかすると魔王は僕の事を馬鹿にしているのかもしれないと思い始めたわけで。

だからこそ僕は魔王に怒りの視線を向ける事で反抗の意思を示す事ができた。『勇者が居なければ倒せぬ相手だとばかり考えていたのに、それが誤りであったわけか。なるほど、やはり勇者の加護は本物だったという事か。しかし魔王たる我が倒される事になろうとはな』魔王の表情からは悔しさが滲んでいたのだが。それも長く続くことはなく、最後には吹っ切れて笑みすら浮かべられるまでになっていた。

それは何故かと言えば、魔王が魔王の力が僕の中で暴走している事に気が付いていたからであろう。その証拠に僕の肉体には無数の切り傷が生まれ、そこから血が滴り落ちていってしまう。だが、それは当然の代償と言えるのかも知れない。何しろ魔王を倒すための武器として、その命を奪い取ろうとしたわけだ。だがその代償は僕に返ってきているだけで、勇者である僕にも多少の影響はあるものの死に至るような傷を負う程ではなく。それは勇者の力による防御効果によって僕を守ってくれているという証明になるのではないか。そう考えてみると、その代償はむしろ有難いものだったのではないかと思えてくる。『まあ良いわ』

その言葉を発した直後に魔王の動きが変化したのは言うまでも無かっただろうし。それに気が付いた時には僕は既に吹き飛ばされてしまっていたからだ。『これで少しは満足して眠れるだろうよ』魔王は吐き捨てるようにそう口にしていたが。その直後に何やら大きな地響きを感じるようになり。それが収まった後になって僕は自分の身に起きている事について考える事となってしまった。僕の体が地面に倒れ伏していて。僕の身体から流れ出た血液が地面に広がっている。そして僕が握りしめている聖剣も粉々になっていて。僕の手の中から完全に姿を消し去ってしまった聖剣。その事から聖剣が失われたとしか考えられず。更には勇者の加護も失われてしまい。それだけではなく、勇者の加護を持っていた筈のクレアの命が奪われてしまったのである。

「そんな! クレアさん!?」僕は必死の形相になりながらもクレアに駆け寄ろうとしたわけだけど。そんな僕に対して魔王は、僕に背を向けた状態でこう告げてきた。『その女を救いたいならば我を倒して見せろ』その魔王の背中を見つめながら僕は立ち尽くしてしまった。そうしなければいけなかった。そうでもしなければ、今すぐにでも魔王に向かって飛びかかっていきそうだったのだ。

僕の目に見える魔王はとても弱々しく、今すぐにでも殺せるような存在にしか見えないのだけど。それでも今の僕が魔王と戦ってしまえば絶対に勝てるわけが無いのである。それどころか魔王の攻撃をまともに受けてしまえば僕は簡単に死んでしまうのだから。それこそ勇者の力があったとしても。勇者の加護があっても、それだけではどうしようも無い程に圧倒的な差があるのだ。だから僕はクレアを助けるためとはいえ、ここで魔王に戦いを挑む事はできなかったのである。

しかし、このまま何もせずに傍観するなんてことは許されるはずも無く。クレアを助け出さなければいけないと心の底で叫び声を上げるのを抑えつけ。勇者の加護が消えてしまった僕の力だけでは、クレアを救う事は不可能に近いのだろうと頭で分かっていながらも。クレアをこんなところで失って堪るかという思いを抱き。僕は魔王に向かって突っ込んでいったのだ。『愚か者めっ!』魔王の声が聞こえたかと思うと同時に強烈な一撃を頭に叩き込まれて。僕の視界は一瞬真っ白になってしまった。

「うぐぅっ!」僕の口から情けない声が漏れ出し、それと同時に体全体が地面に打ち付けられる痛みに襲われることになった。魔王に吹き飛ばされて地面に転がった僕は全身から激痛を感じていたのだが、意識を失うほどのダメージは無かったらしく。何とか顔を起こすことに成功したのだけれど。それが原因で今度は目の前にあるクレアの姿が見えなくなってしまうという悲劇に見舞われてしまう羽目になったのだ。

だが幸いにもクレアの亡骸が目の前にあったわけではなく。クレアと勇者の力を持った少年は魔王の前から逃げ延びることに成功していたようである。ただクレアが無事に生きていた事にホッとしたものの。それで問題が解決したわけではないと気が付くまでに時間が掛かったせいで出遅れる事になってしまう。何故なら勇者の力を手にした者は魔王から逃げ切れる可能性が低くなるからで。

その理由の一つとして挙げられるのが勇者の力で得た力には制限時間があるという点が挙げられる。何故ならこの世界の何処かに存在すると言われている精霊界を守護する女神の力でもなければ、勇者の持つ勇者の加護のように無制限に使用できるものでは無く。勇者の加護の場合、その効果は時間と共に減っていくので使い続ける事が出来ず。しかも勇者の加護の効力が消えてしまうまでに要する時間は勇者によって異なるのである。そして僕の加護が発動できる時間は僅か十秒ほどでしかないらしい。

ただクレアを勇者の力が有る内に救出できたので、クレアは勇者の力の発動限界を迎えるまで生き長らえることは出来るのだけど。ただ問題はその後である。勇者の力を持っているのに、それを有効的に使えずに終わってしまう事になる。勇者の力を使うために必要なのは魔力では無く。僕の体内に存在するという勇者の力そのものなのだから。

それ故に必要なものは何かと言うと。僕の体内に含まれている魔力を使い果たし、その代価を支払ってでも発動させることが出来るという保証。つまり勇者の力を使って僕の中にある勇者の力を引き出す事が出来るのか? という話なのだが。僕自身、勇者の力を発動させた経験が無いから。本当にそれが可能なのか? と言われても、はっきりと断言はできないので困った話だったりするわけで。

しかし魔王を倒すためにはどうしても勇者の力が必要だというのは間違い無いので。勇者の力を引き出せれば問題無く倒せる可能性はあるのだし。勇者の力の発動に掛かる時間の分だけ僕自身が戦わなくても済むわけなので。僕にとっては悪い話ではないだろうと考え。勇者の力を引き出そうと頑張ってみたわけだが。勇者の力の発動は成功してくれたものの。その勇者の力の効果が切れる前に魔王の攻撃を食らい。再び地面を転がされる結果となり。勇者の加護が消えるまでは何とか時間を稼ぎたかったのだけど。それも叶わず僕の勇者の加護の力は強制的に解除されたのである。『くっくっくっ。残念だったなぁ、勇者。これでお前の命は終わりという訳だ』魔王の言葉を聞いた僕としては、それはこちらが聞きたい言葉だと思いつつも。その言葉を否定できない自分がいる事に気が付き。それが悔しくて仕方が無かったのであった。そして僕にはそれが悔しい理由がはっきりと理解できてしまって。勇者の加護が無くなってしまったら僕がこの世界に残る事が難しくなる。だからこそ悔しくてたまらないのだという結論に辿り着いていた。

そして勇者の加護の強制解除に伴う代償。それが肉体的な物では無いのかという事については疑問が残るのだけど。何しろ勇者の加護は僕の命を奪いかねない危険な物である事に違いは無いし。それにクレアも死んでしまっているわけで。クレアが魔王に殺されるのを阻止する事が出来ていれば、その代償として命を失っていてもおかしくは無いのである。だからこそ僕は、自分の命と引き換えに魔王を倒したのだと言いたいのだけど。しかしそれは僕一人が勝手に思い込んだ事であって、真実とは程遠いものだった。

そして勇者の力は僕の体に刻まれている傷跡を癒す為に使用されてしまった。それによって僕の体は勇者の加護を失った状態に戻ってしまった。そしてそんな僕に対して魔王は更なる攻撃を仕掛けてくる。それはまるで虫を払うかのような攻撃であり。勇者の加護が消えた僕にとって致命的過ぎる一撃に他ならなかった。「がはっ」僕の口元からは血が流れ出し、それと一緒に意識も飛びそうになってくる。このまま地面に横になっているだけでは死ぬのを待つだけだと判断し。急いで立ち上がり、魔王に反撃を仕掛けようと考えた。

僕には勇者の加護が有る時は、魔法が効かないから、魔王にダメージを与える事は不可能だろう。それどころか逆に傷つけられる恐れがある。だから僕の取るべき手段は、その逆となる物理による攻撃になるのだが。それでも勇者の加護が無くなった今となっては、普通の剣による斬撃であっても魔王を倒すだけの攻撃力を有している筈であった。そう思った僕は聖剣を振るって、魔王に向かって飛びかかっていったのだ。

だが、しかし。勇者の力を失なった事で勇者の力の恩恵を受けて強化されていた力が弱くなり。身体能力が著しく低下してしまった僕の動きは酷く緩慢なものでしか無かった。そのせいもあり、魔王が振り払った腕から生じた風圧によって僕は遠くに飛ばされてしまった。『そんな無様な姿では我に勝つことなど出来んよ』その言葉を最後にして僕は気を失いそうになった。しかし気を失ってしまえば間違いなく殺されてしまうと思った為、どうにか持ちこたえる事が出来た。「ぐううっ」魔王が僕に向かって近づいてきているという事は分かっていたが。今の僕は立っているのもやっとの状態で、まともに魔王と相対するのは不可能だと判断した僕は必死にその場から逃げ出し始めたのだ。そして僕は走り続けた。死にたくなくて、ただその一心で駆け抜けていく事だけに集中をしたのだ。その結果。僕は魔王に殺されることも無く、逃げることが出来たのである。

そして僕は逃げ出した先にあった小屋のような場所で一夜を明かし、それから更に別の道を進んで行く事を決めた。魔王と遭遇する可能性はゼロとは言えないので、出来る限り道を選び、魔物が生息していないような安全なルートを選んでいたのだけど。それでもやはり途中で何度かモンスターと遭遇してしまい、襲われる事になったわけで。それこそ何度戦闘を行ったのか分からないほどだ。そのお陰で僕が持つ体力は確実に消耗していった。

だから僕はその日、もう一歩も動けなくなるくらいに疲れ果てるまで移動を繰り返した。しかし魔王から逃れる為に動き回り過ぎたせいか? 遂には疲労で倒れ込むという結末に終わってしまう。そんな状態で倒れ込んでいればモンスターに襲われて殺されてしまうのが当然の帰結というもの。しかし運が良い事に僕はモンスターに発見されずに済み。そのまま息絶えるという最悪の結果に終わらずに済んだのである。まあその代わりにと言っては何だが、僕を助けてくれる人は現れてはくれなかったのだけどね。

ただ結果的に、その事が僕の意識を保つきっかけになり、まだ動くことが可能だと思えた僕は歩き出す事にしたのだ。そして何とか次の街にまで辿り着いたのだけれど。そこは僕の知る街とは違っていて少し驚いたものの。それこそ何かしらのイベントが有るんじゃないかと、期待感が込み上げてきて気分が良くなっていた。そして宿を見つけ、そこを定宿にする事を決める。そして翌朝になると僕はまだ早朝と呼べる時間帯だというのに街中を歩き回った。その行動はイベント発生の可能性を高めるためにやっていたので、僕としても楽しみな気持ちが有ったのだ。ただそれでもイベントが発生する事は、ほとんど無いと思っていたのである。何故なら、この世界に転生してきた時に神様から与えられた情報では、この街に居る冒険者は、僕の知る限りでは存在しないのだから。

そもそも僕以外の異世界からの訪問者は存在していて、彼らもこの世界に存在している可能性は有るので、そういう意味では他の人達に会う事が出来る可能性も無くは無いのだけれど。今のところは僕の目に映っているのはこの世界の冒険者ばかりなので、他の人に出会うのは望み薄かなとも思っていたのだ。しかし、その予想は外れてしまったようである。何故なら朝方の街の中に大勢の人の気配を感じる事が出来たのだ。

「これは一体、どういう事なんだろうか?」僕は戸惑いを覚えていた。何故なら街の中のあちこちには僕が知らない人が大勢歩いており、それが全て見知らぬ人たちなのかと言えば、実はその殆どが知っている人だったりするから驚きである。しかも皆、見た目が同じだったり同じ装備を身につけていたりするわけでもないようで。しかも何故か男性だけではなく女性も普通に歩いているという状況である。僕にはそれが不思議でならなかった。

そして暫くの間、どうしてこんな状況になってしまったのかという原因を探るべく考え込んでいたわけで、そうこうしている間に太陽が沈み夜が訪れる事になるわけで。その間は僕が街を眺めたりしている間に誰かに襲われるとかそういった事件に遭遇するという事も起きなかった事から、この世界の現状は危険に晒されている訳ではないのではないか? という考えに至るようになっていたのである。そうなると次に考えられる理由は一つしかない。それは何か特別な理由が有るわけでも無く。ただ単純に今日一日の間に何かが起きていたという事である。

ただ、それは何時頃に起きたのかという疑問が頭に浮かぶわけだが。僕がこの世界で生活していた時は深夜の時間に起きる現象が幾つか存在した事を知っていたので。それならば何かが起きたのは僕が寝てからということになるのだが。残念ながら僕はベッドの上で就寝するまでの記憶が無く、何かが起きる時間まで眠りについていたという記憶すら無いのである。だから僕が目を覚ました頃には既に何かが起こっていたというのが、僕の考えた結論であった。

しかし結局のところ。何が原因で僕が知らない人達が一斉に現れるという事態に陥ったのかは分からずじまいだったので、僕がどうしようも無い状態に終わってしまう。なので僕としては一旦宿屋に帰り休む事にするしかなかったのであった。しかし僕が部屋に戻っても僕以外の姿は無く、僕は本当に自分だけしかいないのだということを理解した。そして僕一人だけ取り残されてしまっているのだという結論に達したのだ。そして僕一人だけが残されたこの状況は僕にとってはかなり不味いものであった。何故ならば僕の知っている人達は既に全員消え去ってしまっているので、助けを求める手段が全く残されていないからだ。そして僕の視界に入る人々全てが僕の知人では無くなってしまった為に、僕の顔が認識されずに誰も僕の言葉を聞いてくれないかもしれないという恐れが有り。僕の言葉を聞き入れてもらえるかどうかさえ分からないという不安な要素が生まれてきたからである。

ただ仮にそうだった場合。僕は魔王に殺されるよりも辛い目に遭う可能性があるだろう。何故なら僕が話掛けている相手が僕の存在に気が付いてくれず。相手は僕の言葉に返答を返してくれても僕の言葉に意味が通じない可能性が出て来る。つまり言葉が通じてはいても、僕の言葉は相手に伝わらないのに。相手の言葉は僕に聞こえているという状態になるわけで。それってかなり酷い状態じゃないだろうか。そう考えると、僕の心には暗い影が落ち始めるのが分かった。

しかし、そんな僕の心を照らすような出来事も有ったわけで。僕の部屋の中に突然に現れた女の子の姿がそこにはあったのだ。その女性は金色の髪をした可愛らしい女の子で、服装に関しては僕と同じ物を身につけていたので。もしかしたら僕の仲間が転移してきてくれたのではないかと淡い希望を抱いたのだけど。しかしその女の子は、まるで僕の言葉など耳に届いていないかのような態度を取って、僕を無視してしまったのである。

「うわあああんっ!!」僕の心が悲しみに支配されてしまう。

だって僕は仲間に見捨てられて一人きりでこの世界に放り出されてしまったからね。それに気がついた時、思わず大声を上げてしまっていた。そのせいで僕の感情が溢れ出した涙がボロボロとこぼれ落ち始めたのである。

そうして僕は泣き崩れていると。ふと僕の体が柔らかい感触に包み込まれるような状態になったのだ。すると僕の体は、その温もりに誘われるかのようにして意識を失ってしまったのである。その事に関して僕の心はとても複雑な心境に陥っていた。確かに今の状態では僕の意識を保てるかどうかは怪しかったけど。それにしても余りにも無防備過ぎやしないだろうかと。まあ、でも今更何を言ってみても仕方がない事なのだけどさ。僕にはこの事態を打破するような策は何も無いのだから。

そういえば僕の体に異変が起こり始めたのはいつ頃になるのだろうかと考える。その辺りは僕自身ですら曖昧であり、正確な日数を知る事は出来ない。というのも僕が魔王によって殺されそうになったのは確かだけど。あの時点では僕がまだ死んでいなかったからこそ僕はまだ生きていたという事になる。ただ魔王が僕の体を切り裂いたのは間違いの無い事実であった筈だし。それによって僕も致命傷を負った事は間違いが無い。

しかし不思議な事に僕が死にかけた時の事は覚えてはいるんだけど。その後の事を思い出す事が出来ずにいたのだ。そのおかげで僕は自分の意識が途絶えてしまった後の出来事を知らないのである。だけどもしかし。その件については思い出す事が出来た。というよりも思い出したと言うべきかな。僕の心の中に魔王と僕の意識が入れ替わる光景が、はっきりと映像として蘇ってきたのだ。その映像の中には神様が現れていて、そこで会話を交わすと、僕は神様と一緒に世界を渡り歩く旅に出ていたわけで。

「はぁ」僕は神様に対して大きな溜息をつく事になった。何故なら神様は、魔王との戦いで傷ついた体を回復させる為に僕に新たな力を与えた後に姿をくらませてしまったのだよね。それに加えて神様は僕の目の前で消え去ってしまうわけで。

それこそ神様を逃さないように捕まえて、その事情を聞くという手も有ったのかも知れないが。そんな余裕なんて無かったから。

それにしても神様は何処に行ってしまうのやら? 正直なところ。もう二度と会えないんじゃないかと思ってしまっていた。

「神様、元気にしてるかしら?」僕は小さく呟いたのだけど。そんな僕の側にいた少女が不思議そうな顔で僕に声を掛けてくる。

『神様? それは、いったい何ですか?』その質問は当たり前といえば当然の内容だと言える。何せ僕の口からいきなり神様の名前が出てきたのだから。

しかし僕が彼女の立場であったとしたら、同じように聞き返していたことは想像出来るだけに何もおかしくは無い。

なので僕は神様について彼女に説明することにする。ただその説明の為には彼女が神様と出会った経緯などを詳しく教えて貰わないといけなかったので、彼女に詳しい話を教えて欲しいと頼むと。その願いを受け入れてくれて僕の側を離れてくれたのだ。そのおかげで僕の方は気持ちを整理する事が出来たのだ。そうでなければ彼女は僕と同じような体験をした人に違いないと考えたところで、思考停止してしまっていただろう。

ただ僕の場合は彼女と違う点が幾つか有る。まず第一に僕の場合には神の声が聞こえるという能力が与えられた。しかもそれが僕にとって最も重要で有るべきものだったのだ。そして第二に、神様が姿を見せたのは一度だけである。僕がこの世界に来て神様と話した回数など一回も無いのだ。まあその点だけを比べれば僕の方が幸せだと思えたりするので。そこまで深く気にする事は無かったので、僕が受けた影響は少ないと言っていいと思う。

ただ神様は、僕の方に向かって『君には、私の加護を与えておいたから』と言っていたのだ。その言葉から考えるに。僕は何らかの能力を神様から与えられた可能性が有る。だからこそ先程の少女は僕が言った『神様』という単語に反応したのだろうと考えられる。

しかし僕に与えられた能力は一体どんな物なんだろうか。もしも僕が考えていた通りの能力を与えられたのだとすれば、僕の能力は非常に優れたものである可能性が高いわけで。そうなるとこの世界に来た時に僕の元に降り注いで来たスキルが僕の期待通りに強力な効果を持つスキルなのではないかと考える事も出来てしまう。

そう思い至るだけで、僕の心はワクワクしてしまう。何しろ僕は魔法が使えたり剣技を習得したりとか、そういった物語に登場する主人公達が経験する事が出来る出来事を殆ど知らないままでここまでやってきているわけで。だから僕の胸の中にある冒険への憧れは強くなってしまったわけなんだ。しかも、この異世界の人たちは僕の常識を超えた存在ばかりが存在しているんだ。僕としては興奮せずを得なかったりする。そして何より僕にとっては大切なのは僕に特別な力が与えられていた場合の話であり。そうではない可能性も考慮する必要があるのは確かだった。つまり僕自身が神様の力の一部を手に入れられる程の才能が有りながら、僕の力が全く大したことが無く。普通の人と変わらない程度のものしか与えられていなかった場合にどうなるのかという問題が生じるのである。そうなった場合、僕はこれからこの世界で生きて行く上で苦労を強いられそうになってしまうだろう。それは絶対に避けたい事柄なわけだ。だって、もしそうならば僕は、何の意味も無いままに死を迎えなければいけなくなる可能性があるのだから。だから僕は必死になって自分自身の特別な力を確かめるべく行動を起こそうとしたのだが。結局のところ、僕のステータス画面は表示されないで終わりを迎えた。ただ僕が念じながら魔力を込める事でメニュー画面に何か変化が起きないか? そう思った僕は、何度も、何度も。ひたすらに僕自身の力を確かめようとしたのだけれど。それでも結果は全く変わらなかったのであった。そうやって無駄な時間を費やせば過ごすだけ僕の不安は大きくなっていく一方であり。それならば今すぐにでも行動を起こすべきだと判断した。

それで僕は宿屋の部屋を出ることにしたのだ。そして、その時になってようやく僕は自分の格好について疑問を抱く事になる。僕の現在の姿は普段と変わらず勇者の服を着ている状態であり、これは魔王との激戦を終えた直後で有る事を意味している。しかし僕は戦闘の後に着替えを行った記憶は無く、この服が今の僕が着ている服なのだ。そして宿屋の窓の外に見える景色に目を向けると、そこに映っていた光景は僕の記憶にある風景とは違っており。そこは見知らぬ街の風景が広がっており、その街の上空に目を向けると、巨大なドラゴンの姿が確認出来た。その瞬間。僕の中で嫌なものが生まれたのである。まさかとは思うけど僕が意識を失っていた間、あの場所に居た人々全てが死んだんじゃないだろうかと。僕がそんな考えを抱いたのは、僕の視界の中にドラゴンが写っているという事から考えても。あの場所は僕が住んでいた町とは別の場所であると考えるべきであろうからであった。

それに僕が目覚めたのも偶然であって。本来であれば魔王と戦って死ぬ運命にあったのが、神様から貰った力のお陰で生き残る事が出来た可能性もあるわけで。それ故に僕は神様に感謝したい気持ちになった。何故なら神様は僕に新たな人生を与えてくれたからだ。僕は自分が死んだという実感は無いので正確には死んでいないかもしれない。でも魔王との戦いに敗れそうになった時、僕は死にたくないと思いながらも諦めかけていたのだ。そんな時に神様は現れたのである。そして僕の事を救ってくれたのだから感謝するのは当然であるように思われた。

だから僕は再びこの世界を訪れる機会を得る事が出来たのも、もしかしたら、僕に加護を与えてくれた神のおかげではないかと考えてみたりするのだけど。僕は今まで神様の声を聞いた事が無かった事を思い返せば、僕の想像が正しいとは限らない。むしろ間違っている可能性の方が多いだろうし。それに仮に僕の考えている事があっていても神様は僕の前に姿を現していないのである。それならば僕の考えが正しかったと証明する事は難しい。だけど僕を転生させたのが神様であるのなら、その事実だけは揺るぎようのない事実となるので。僕としては自分の事を信じてみたい気持ちが芽生えていた。だって僕は実際に新しい力を手に入れる事になったわけだしね。ただ神様から貰った力なのか、あるいは魔王を倒したおかげなのか。そこに関しては良くわからないわけだが。

とりあえず僕は外に出て周囲の状況を確認する事にした。何故なら宿の中に留まっているだけでは僕に特別な力が与えられて居るのかどうかを調べる方法が存在しないからだ。それ故に外に出て、自分の体を軽く動かすなりして運動してみる。すると僕の中には不思議な感覚が生まれ始めた。それは僕の体に違和感を覚えたからであり。もしかすると何か特別な能力が目覚め始めたのかな? そんなふうに考えたのだけど。でもそれは間違いであったようだ。なぜなら僕の体が急に変化し始めたからだ。まるで筋肉や骨が、まるで粘土のようにグニョグョと柔らかくなったと思ったら、次の瞬間には一気に硬く変化したような感触が生じたりしていた。その事を受けて僕は戸惑ってしまうが。

「えっと、どういう事?」僕の頭の中では困惑の言葉が生まれる事になる。すると僕の体に起こった現象が、さらに別の方向へと進行し始めていたのだ。具体的に言うと、僕の全身に銀色のオーラが出現していた。

その輝きを見て僕は驚いてしまうが。その驚きとは別に心の中に強い感動を覚えていたのだ。何故なら僕の体の中に有ったはずの力が急速に体外に放たれようとしていたから。しかもそれは普通に放たれるのではなく、僕の意志とは無関係に放出されたのだ。

その結果、僕が身につけていた衣服は、あっさりと破けてしまって地面の上に落ちるのだけど。それと同時に僕が元々身に着けていた装備品の数々は地面に落ちない。そして、それらが僕の体にまとわりついてきた。それも僕が望んでいた装備の形に変化すると。それはまさに魔法の防具であったのだ。ただし僕の意思では操作出来ない為に自分では装着できないが。だから誰かに付けて貰う必要があった。しかし僕の側に寄って来る人はいないので、僕は仕方なく自分で装着しようと動き出すが、そこで僕が纏っていた衣類が全て無くなってしまう。なので僕は、また裸の状態になるのだが。僕の体の周囲に浮いていた魔法で作られた装備品は消えずに残っている為、そのおかげで僕は恥ずかしい思いを感じなくて済むようになるのだ。しかし同時に、これじゃあ服を着た状態で魔法を発動させないといけないじゃないか! と僕は焦るが、そういえば僕は勇者の服を着ている時に神様と話をしたんだよな。それで僕が着ていた服が破れてしまった訳で。つまり僕の着ている服自体が魔法の力で出来た物だから、それが破れるというのは、僕の肉体に異変が起こった証拠になる。だから僕は、そう考えると、もしかして神様が僕にくれた能力とは僕の想像通りの効果をくれるのだろうか? という期待を抱きながら神様に尋ねてみたのだ。そうしたところ神様の声が僕の脳内に響く。その声を聞いている内に僕の中には安心感が湧き上がってきたのだ。というのも神様は僕を助けてくれると言っていた。そして僕の目の前には僕の為に動いてくれようとしている人達の姿が見えるのだから。その人達の顔を見れば誰であっても信頼出来る相手だと思う事は簡単だった。そして僕は改めて自分の置かれている立場を理解した。それは魔王を倒しに来たはずの僕が魔王に敗北してしまい、その結果として殺されそうになっていたという事実である。その事実を思い出した僕は怖くなったのだけれど、僕の周囲には助けてくれようとする存在が多く存在する事も理解したので、どうにか冷静な状態に戻る事が出来たのである。

ただ僕の心に生じた感情はそれだけではない。それは先程まで見ていた夢についてである。僕が体験したのは神様が僕の前に現れたという夢の筈だ。しかし今僕の前に立っている少女はどう見ても人間ではないように見える。それに少女は、とても可愛らしい姿をしており。それこそ、このまま抱きしめたいと思ってしまいそうになるくらい魅力的な少女なのだ。そんな少女に対して、僕は『あなた様が神様ですか?』と聞いてみると、それに対して少女はコクリとうなづいて見せる。

だから僕は少女に質問をする。どうして彼女が僕に会いに現れたのか。そう尋ねると少女の表情は真剣そのものになり。僕をじっと見つめながら言葉を紡ぐのだった。「実は君にお願いが有ってやって来たの。私の名はアリシアと言うんだけど。どうか私を助けるつもりで協力して欲しいの」

僕は少女にそう言われてしまうと、一体何があったのか知りたくなって。その願いを聞き入れることにした。だけど彼女は僕の問い掛けに対する答えは口にしない。それどころか、どうやら彼女の意識は別な所に向いているらしく、何も無い場所を見上げている。その仕草から僕は、やはり神様が普通の存在とは違う存在なんだなと感じて。そんな存在に助けられるというのだから感謝の気持ちが自然と溢れ出てくる。

僕は彼女に、この世界で魔王と呼ばれる存在に苦しめられている存在の事を告げたのだ。すると僕の口から説明を受けた神様は、僕に同情する様子を見せつつ、これからの僕の行動に関して許可を出してくれた。それだけでなく魔王を倒すために僕の力を貸して欲しいと言われたのだ。

だけど今の僕は勇者としての力を全く使えずに居る。だからこそ僕は何も出来ませんと返事をした。すると、そんなことはないと神様は言葉を口にしてくる。そして神様の説明が始まった。その内容は僕にとっては衝撃的なものであり、その内容を聞いた途端に頭の中が真っ白になってしまいそうになった。ただ幸いにして僕は何とか堪える事が出来た。そして、そんな僕を労わるかのように優しくしてくれた神様。僕が無事に意識を戻すと、すぐに神様は僕に声をかけてくれた。そして僕の体調を心配してくれる。

それから神様は僕に対して魔王との戦いの時、僕がどのように戦ったかを教えて下さいと言った。なので僕は自分がどのようにして戦ったかを神様に伝える事にした。すると僕の口から戦いの様子を聞かされると神様は僕に、こう提案してきたのである。僕に力を与えるから試してみましょう、と。僕は神様に力を与えてもらった上で魔王との戦いを再現する事になった。

その結果、僕が手に入れた力は僕の思っていた以上に凄いものであった事が判明して。しかも僕の体は以前と比べて遥かにパワーアップしたみたいである。

まず最初に驚いたのが僕の視界である。僕の視界に映し出されていた景色というのが今までとは違っていた。

これは僕の視力が異常に上がったとか、そういう話ではなく。単に、僕の目が見ている景色そのものが、それまでと違って見えるようになっていたのだ。それに加え、今まで感じ取れなかった空気の流れみたいなものも感じられるようになり。

それらの感覚が示す事と言えば、僕の目に見えている光景は本物であり、実際にこの世界に存在しているんだという事だろう。つまり僕の体には神様に与えられた特別な力が働いている。それによって僕は視覚を強化されただけではなく。五感全てが強化されていたのだ。

それに加えて、もっと驚く事になったのは神様が僕に与えてくれた力である。僕が与えられた能力は僕の身体能力を格段に上昇させるものだった。だけど僕が貰った力の中には、僕がこれまで使った事が無いものが含まれていたのだ。僕が今まで見たことが無い魔法が存在していたのである。しかも僕の魔法は僕自身が望めば好きなように発動してくれるみたいであった。

これらの出来事を受けて僕は本当に僕は神様に力を与えられ、神に選ばれたのだと認識する事になった。

そして僕の側に居てくれる少女こそが神様なのだと理解すると。彼女を守ってあげたいと心の底から思えたのだ。だって僕の側に居るだけで少女はとても嬉しそうな笑みを浮かべる。

それを見て僕は可愛いと思わずにはいられないのだ。

そして僕の体に異変が起きたのはその日の夜になってからの事であった。僕は突然何者かに狙われて襲われていたのである。

そして僕の身に何かしらの危害が加えられようとし始めたので僕は咄嵯に身を翻すと、僕の側から離れるようにして逃げようとした。だけど僕が動くよりも早くに相手の方が早かったのだ。その結果として僕は地面に押し倒されてしまうと相手の体に押し潰される形になってしまった。

僕を押し倒し、地面に押さえ付けているのは僕の顔見知りの人であった。

だけど僕の知っている彼女とは姿形が違っている。だから僕の知り合いであるとは判断出来ない。それでも彼女が纏う雰囲気からは僕に何かを訴えようとしている様子が見て取れる。

そこで僕は彼女に声を掛けたのだ。もしかしたら僕に用事があって来たのかもしれないから。ただ、そう思いながら彼女を見ていたら、僕の胸に不思議な痛みが生まれたのである。僕は何故か知らない女性とキスをしたいと強く思ってしまっていたのだ。それも僕の知人に対してだ。その事を受けて僕の心の中では混乱が生じたが。僕は自分自身の衝動を抑えつける事が出来なかった。

そして僕は、そのまま目の前の女性の口の中に舌を差し入れるような格好になると、僕はその唇に自らの口を重ねてしまう。そして僕が強く抱き寄せるような形で、しばらくの時間を過ごしていくと、次第に女性は僕に抱かれたいという欲求を抱いてしまったようだ。その感情は彼女の方から僕に伝えられて来るもので、その感情を受け取った僕の心の中で変化が起こった。僕の体が急激に熱くなり始めると、僕の下半身に血液が集中して行く。そして僕の体の中にある欲望が膨れ上がっていき、僕は彼女の胸に手を当てながら、その柔らかな感触を楽しんだのであった。

ただ彼女の方は僕との行為を拒もうとしなかった。それどころか彼女は僕を求めてくるのだ。そして僕に好意を抱くようになった彼女の顔付きに変化が生じ始め、それは僕が良く知る女性のものに変化したのである。だから僕の目に飛び込んでくる光景というのは、僕が先程まで知っていた相手である。

そこで彼女は僕に向かって、どうして、このような事態に陥ってしまったのかを説明し始めた。彼女は神様であるらしい。そして僕に与えた力とは神様の力の一端であるらしいのだ。だけど僕が神様の恩恵を受けてしまった事により、神様は僕の側に存在し続ける事は難しくなったらしい。

だから神様は最後の力を奮うと、僕が今後生きていけるようにしてくれてから消えてしまったらしい。だから神様は僕を助けてあげた代わりに力の大半を失った状態で消えて行った。僕は神様が消えてなくなる前に僕の力の一部を渡してくれていたのである。神様は僕の力の一部を使って新たな肉体を構築していたのだが。

僕は、その肉体を手に入れる為に一時的に自分の体から離れてしまっていたのだという。

神様が消えてしまった理由に関しては僕の側に存在していた時に教えても良かったのかも知れないけれど、そうするだけの余裕が無かったそうだ。それで神様が消えてしまってしまった後で僕の元に駆け付けた神様は自分の体を構築する為の時間を必要とせずに済んでいたので、僕に自分の体を貸してくれたそうである。だから神様の身体が僕と重なり合う形になったのは偶然ではないのだそうだ。

そんな神様は僕の中に戻ってくると、僕と自分の魂が混じり合ってしまい、今の状態になっているという話である。僕は僕の体内に戻って来た神様の話を信じる事にした。というのも僕は既に神様の言う通りにするしかない立場に有る。だから今更嘘だと言ってみても仕方がないと思ったのである。

しかし神様が戻って来てくれていなかったら、僕の命はどうなっていたのだろうかと疑問に思った。なので僕は神様に対して尋ねてみると、それは大丈夫なのだそうだ。神様は僕と神様の間で取り交わされた約束を守ると口にしていたからである。

それなら安心かな、と、そんな風に考えながら僕は神様の体を抱きしめる。そうすると、神様は僕の腕の中に包まれながら幸せそうな表情を見せる。

それを見ながら僕は、このまま時間が止まってくれないかなと思うと同時に、僕はこれからどうなるのだろうと不安にも思うのだった。

神様の話を耳にすると、僕に力を与えてくれた人はどうやら僕達の住む国とは別な場所に存在している国の王女様なのであるという。それに加えて、彼女は魔王と戦わなければ成らない運命を背負わされているらしい。そんな状況であるからこそ、この世界の人々には彼女の助けが必要だと。だけど彼女は神様の力の全てを失い。その上で、その肉体の構築に失敗してしまい、普通の人間では持ちえない筈の特徴を兼ね備える事になって、その特徴を隠蔽するための力さえ失ってしまって。だから今の彼女は見た目からして普通の人間としか思えなくなってしまったのだと説明を受ける事になったのだ。そんな説明を聞きながら僕は、こんな状況だからこそ僕を頼ってくれていたのかと考えると神様に対して申し訳なさを覚えずにはいられなかった。そして僕の中に、もしも神様が望むのであれば神様と一緒に生きたい、という気持ちが生まれ始めていたのである。

それなのに神様は僕と一緒では無いというのだろうか。僕は、神様と共に生きる事を望んでいたのだけれども。僕の言葉を受けた神様は寂しげな笑みを浮かべた。「私はね、君には普通に生きて欲しいのよ」

それを聞いた瞬間、僕は神様と離れたくないと思わずにはいられなくなったのだ。だけど僕は神様とずっと一緒に居たいと願うのに神様はそれを認めようとしない。

神様が、それを認める事は出来なかったからだ。僕は自分が神様と別れなければならないなんて考えたくもなかった。

そこで僕は神様に対して提案する。それならば僕に別の人生を与えてくださいと、その方が神様にとっても好都合になるはずだ、と。

そう言いながら神様の瞳を見つめる僕の目つきは鋭くなり始めてきていたように思う。

そして僕は神様に対して願いを口にすると、神様は悲し気な雰囲気を纏ったままの状態で僕に語り掛けて来たのだ。「それじゃあ私が消えても文句を言わない?」

その言葉に僕は、うん、とだけ答える。だって他に言葉を思い浮かばなかったのだ。それを見た神様の表情は笑顔に変わって行くと僕の頬に手を当てる。そこから感じられる神様の手は、やはりとても温かかった。「私も貴方と離れ離れに成りたくはないんだけど。でも駄目なんだよねぇ。だから君の新しい人生のスタートは、この場から始まる事にしようかな。それで良いかな?」

僕は神様の言葉を聞いて嬉しく感じながらも、これで神様ともお別れなのかなと考えて。僕は少し涙が溢れそうになる。

だけど、ここで泣き出したら、また神様が僕の前に現れてくれない気がしたので僕は何とか我慢しようと心に決めた。それから僕は、ゆっくりと瞼を閉じて行く。僕は目を瞑ると神様と別れた時と同じように視界が真っ暗になり、それと同時に意識が遠のいて行き始める。そして僕は完全に暗闇に閉ざされてしまったのだ。「おはよう、今日からよろしくお願いします」「はい、こちらこそ、宜しく御願い致します!」

僕は目の前の人からの返事を聞くと元気よく声を出したのだ。僕は神様の与えてくれた力を使いこなす事が出来るようになって。その結果として僕の生活に様々な変化が生まれた。例えば僕の視界の隅の方に存在する神様の姿を眺める事によって、神様の姿を認識する事が可能になったのだ。しかも神様に頼めば僕の好きな場所に移動する事が出来て。しかも神様の力を借りる事が出来たおかげで色々な物を創造する術を手に入れられたのである。しかも僕自身が創造した物は自由に動かせるようになっていたので僕は、それらを自分の能力だけで操れるようになる為に修行を始めたのだ。そうした日々を繰り返している内に僕は神様の力を殆ど使いこなせるように成っていたのである。

ただそうなってくるとある問題が浮上した。その問題というのが僕の外見が大人っぽくなって行かないという事だ。僕は別に童顔だと自分で認識しているわけでも無いので。このまま成長が止まってしまったらと心配してしまったのである。

そんな僕に救いの手を差し伸べてくれたのは僕の側から離れない存在となった少女であった。僕は彼女に相談を持ち掛けたのだが。

彼女曰く僕は僕が思っていた以上に幼い容姿をしていたらしい。それを聞いた僕は酷く落ち込んでしまうが。少女から慰められる事で、少しずつではあるが前向きになれたのであった。ただ、僕は神様の力を使う上で神様から言われた注意事項があるのだ。その一に僕の存在は普通の人に感知される恐れが無いからといって人前で魔法を使っても平気だと思ってはならない、と、言われて。その二に僕の存在が他人に認知されると面倒に巻き込まれる可能性が高いから出来る限り僕の存在を隠す必要があると言われている。

それらの話を聞いた僕は神様から力を貰ったからと何でも出来ると考えていたけど、実際には神様が僕の体に力を流し込んでくれただけだから、その力の全てを自由に扱えてる訳じゃないし。

そして何より神様の力を使って僕は何をしたいのかを真剣に考えなくちゃ駄目だよと言われた。確かに神様は言って居たが。神様が僕の中から出て来てからというもの、毎日のように僕の周りには女の子が集まってくるのだ。それも凄い人数である。中には明らかに年齢差を感じる相手もいるのだけれど。どうしてそんな相手が僕に寄って来るのかは全くわからない。それに僕としては恋愛経験が乏しいせいで女性の接し方に困ってしまうのである。だからそんな状態に陥ってしまった僕は神様に助言を求める事になった。

ただ、それはそれで神様を失望させる行為に繋がり兼ねないので不安だったのだが。どうやら神様が口にしていた通りに僕の体は僕が考えていた以上に幼くて。神様はそんな体のままで僕の力が使えてしまったものだから余計と勘違いをして暴走気味になっているみたいだった。その話を聞いた僕の方は苦笑いを浮かべるしか出来ない状況に追い込まれていたりしていた。だけど実際にそういう事情が有ったらしくて僕の方は何も悪くは無かったと知って安心できたのであったのだけれど。

それでも僕の力には限度が有るという話である。

だけど僕に与えられた力は本当に凄かったので僕は、自分の力だけでもどうにか出来ないものかなと考えた。

まず僕が与えられた神様の能力は物を作り出す事が出来る力なのである。なので僕には魔法で使う為の杖を作るように命じられた。それが終われば魔法の効果を上昇させる魔導具の製作を命じられた。更に僕は神様の魔力が尽きてしまうまで自分の魔力を使用して魔法の行使に必要な詠唱を省略したりして威力を高める事も可能なように神様に言われたのである。

そんな訳もあって僕の手先はどんどん器用になっていき。僕が作り出した武器の数々は、この国の宝物として納められる事になってしまった。僕はそんな状況に驚きつつも僕の作った物が、この国の役に立てる事が分かって喜んでいた。

しかし僕が神様から与えられている知識と経験では、僕程度の腕では作れる武器の性能にも限界があったりするのだ。

それならば神様に手伝って貰おうかと考えもした。しかしそれは絶対に嫌なのだと断られてしまう事になる。その理由とは単純に神様の力には、まだ僕の魂を完全に修復する事が出来ていないという事情が有るらしい。だから今のままの状態では僕の為に神様の力を行使する事は危険すぎると告げられたのだ。そこで今度は僕がお願いをする事にして、どうにかして頂けないかと交渉を開始したのだったのだが。結局の所どうにも出来ずに終わる事になった。

ただ、その代価として僕の体が成長するまでの猶予を得られたのは幸いだったかもしれないと思うしかないだろうなぁと思ったりもする。そうしなければ、あの国を治める女王様に僕の身体を捧げなくてはならないところだったので危なかったのだけれど、なんとか無事に乗り越えることが出来たので僕は胸を撫で下ろす事に成功したのである。

僕と彼女は、その日から一緒に暮らす事になって。

二人で色々と試しながら楽しい日々を過ごしていった。そして、僕は彼女のお腹に赤ちゃんが居る事を知ったんだ。彼女は僕に子供を生んで欲しいと懇願してきた。僕はそんな彼女の願いを受け入れようと思っていたのだけれども。僕の方にも問題がある。

僕が男だという点である。それでは彼女が妊娠するのは不味いんじゃないかと神様に相談すると神様の話では僕の体を女性に変えれば子供を産むことが出来るはずなんだそうだけれども問題は僕自身が、そんな事をされても良いと心底思っているかどうかだよねと。神様に指摘されてしまいました。

だから神様が僕の願いを受け入れる形で僕の体の作り替えが行われる事になったんだけど、その結果として神様が姿を消さなくてはならなくなった。つまり僕は一人になってしまうので僕は寂しいですと訴える羽目になったんだけど。僕は一人でも大丈夫だよと言われてしまわれたので寂しさを押し殺しながら旅立って行く神様を見送ったのですけど。その後暫くの間寂しく感じていたのですが、ふと思い付いたのだ。そうだ、僕は女になれば良いんだなと。そこで神様から授けて貰った力を利用して僕の性別を変えてみることにした。だけど上手くいかないのですよ。神様の時と違って。

そして試行錯誤を繰り返すうちに神様から教えられていた事を思い出した僕は、僕の願いが強すぎたせいか。僕は女として産まれて育つことが決定したのだ。

その日は僕にとって最悪の一日になるはずだった。なぜなら僕には、とある理由で僕の命を狙っている暗殺者と呼ばれる人物が存在しているからだ。

しかもその人は神様の力を利用したとしても勝てる自信がないほどの強大な力を身に秘めていて僕を殺しにやって来たのである。

「まさか勇者ともあろう者が魔王の手先になっていたなんて」

そんな事を口走りながらも僕の頭の中には既に逃げの一択しかなかった。ただ僕にそんな事を許す気が無い暗殺者の攻撃が迫ってきている以上、僕に逃げ場は存在しない。なので僕は、ここで終わりなのかと、諦めかけそうになった時である。神様からの声が聞こえてきたのだ。

「君の願いは私への復讐なんでしょう?」

僕は神様に確認を取るが。その通りだと答える神様。

「それじゃあさ。その力で僕の望みを叶えてよ!」

僕の声を聞いた神様の悲しげな気配を感じたのだけれど。

次の瞬間、僕の視界の中に黒い渦が現れたのである。そして僕は、その渦に向かって全力で走ると渦に自ら飛び込んで行ったのである。僕は神様の作り出した力により異世界に召喚されてしまったのだ。

僕は、そんな神様から与えられた力を使いこなす練習を始めようとした矢先の事。僕を殺そうとする者達が現れ始めたのである。その人達は神様の力が通用しないらしくて僕に攻撃を仕掛けて来たのだ。そんな僕を守ろうとする少女が居てくれたおかげで何とか生き延びることは出来てはいたものの。このままだと僕は殺されることになるだろうと予想する。

そして神様の力で何とかしようにも僕と僕の力の間には何かが干渉してくるせいで神様の力を使用する事が出来なくなっているようなのだ。そうなると僕の力を使って戦うしかなくて。そのおかげで、僕に襲いかかってきた奴等と僕を守ってくれた人との戦いが幕を開けたのである。僕は少女と一緒に行動していた時に僕を襲って来た人以外にも大勢の人が居たのを目撃している。そんな人たちが僕の力を阻む存在だとしたら。僕には彼等に勝利する未来が存在しない事になるのだ。

ただ、僕に力をくれるはずの少女が何故か傍にいない。僕は彼女を探して走り回ることになるが。その前に少女の無事を確認した方が良いのかなと思って少女を探し回ったのだが、少女は僕の目に入る場所にはいなかった。

そんな僕の元に一人の女性が現れて。僕を何処かに連れ出そうとしたのだった。

僕に話しかけてくる女性は、僕の敵ではないと言い、そして僕を助けて欲しいと言ってきた。

そんな女性の申し出に対して僕が答えた言葉は「あなたは誰ですか? 僕は、あなたの事が何も知らないんですけど。僕を殺す為に、あなたが僕に近づいてきたという可能性もあるんですよ」という言葉だった。ただ少女と行動を共にしていた時から僕を狙う者達が沢山現れていたし。その事から僕は目の前にいる女性の話を全て信じることは出来なかったのだ。

「そうですね。私の素性を話すのを忘れていました。私が何者かを知らなければ信用することもできないですよね。私は、女神様より、貴方の力となるように指示を受けてやってきたのです」

そして僕の前に現れた女性の言葉を聞いて僕は驚いてしまった。

「ちょっと待って下さい。女神様に会わせてくれませんか。僕の力が通じるのは神様の与えた力と僕の力だけですから。もし僕に危害を加えようとするならば僕の力を跳ね返してしまう可能性がありますから」

僕の話を聞いた女性の顔に笑みが浮かんできて、それはまるで、その表情を隠す為の作り笑顔なのかも知れないと思ったのである。

しかし僕は今現在、女性の顔を見ているのに。彼女の感情を読み取ることが出来なかったのだ。なので僕が彼女の言葉を素直に信じない事に怒りを抱いているのかどうかも分からない状況である。

ただ、彼女の方は、僕の返事を聞くまでも無く。僕に付いて来るように促してきたのだった。そして彼女に案内された先に存在していたのは、巨大な建造物である。どうやら、ここは城と呼ばれている場所らしくて僕は自分が閉じ込められていた城の地下に存在しているらしいのである。

ただ、この場所は牢獄とかそういったものではなく。どちらかと言えば、研究施設のようにしか見えないのだ。それも神様が生み出した物と同じようなものが沢山有るみたいだし。僕を殺そうとする輩が沢山現れた原因の一端はこの施設が原因なのではないかと、ふと考えたのである。

僕達は建物の中に入り込むのだが。

そこには僕が想像していたよりも遙かに高度な魔法科学の知識が使われているようであり。神様が与えてくれた知識を総動員しても何が行われているのか分からず困惑する事になってしまった。ただ僕の頭の中にある神様の力に関係がありそうな知識から、もしかしたら、この建物では僕が元の世界にいた頃の記憶にある魔法と呼ばれる知識を応用したものが再現されていたりするのかなと考え始める事ができたのである。

ただ、神様から貰った知識の中には、そこまで高度では無いけれど似たような知識が存在していたのは間違いない。それを使えば、あの施設の制御を行う事も可能なんじゃないかと思った。

しかし、それは僕の知識の中で実現できる技術では無かったのである。

僕には、それが悔しかった。僕は神様の力のおかげで色々と出来る事が多すぎるので忘れてしまっていたけれど。そもそも神様の力というのは万能の力なんかではなくて制限が存在するのだ。だからこそ神様の力を行使している間は神様に頼ったままではダメなのだ。

神様の力を使わなくても自力で問題を解決できるようになりたいという気持ちが湧いてきて、それを実行しようとした僕の前に。突如として僕の事を殺せと命令を受けていた暗殺者と思われる男が姿を見せる。僕は咄嵯に神の力を使用したのだが。

僕は男に吹き飛ばされて意識を失ってしまう。

ただ、僕は自分の中に新たな命が芽生えた事を確認できたので結果としては悪くなかったのだと思う。僕は目を覚まして、お腹の中の存在を実感して涙を流してしまう。僕の事を守ってくれて、そして死んでしまった彼女が、きっと生まれ変わりを果してくれたのだと思ったからであった。そして僕のお腹を撫でながら彼女は呟く。『勇者様。もう私の様な辛い思いだけはさせたくないですから絶対に死なせたりしません』その彼女の声には僕の耳に残る程の力強い意志が含まれていたのだった。それからしばらくして彼女が無事に産まれる事になって。

彼女は元気いっぱいの赤ちゃんを見せてくれる事になるんだけどさ。その子を見て思ったんだけど。この子、女の子じゃなくて男の子じゃないかと思うんだよね。まあ見た目的には男の子の方が似合っているとは思うんだけど、僕の娘に男の名前を付けるなんて嫌だから名前は付けないと決めたんだ。

僕には、ある理由で僕を殺しにやって来る連中がいるので、僕は僕を殺しに来る人間に負けないために日々修行をしているんだけど、最近になって新しい問題が発生を始めてしまったのだ。僕が力を振るう事の出来なかったあの巨大施設を管理する事が出来るようになれば僕を殺しにやって来る連中と戦う事ができるようになると考えていたんだけど、実は、そう簡単ではなかったのだ。その施設を管理していた人達が全員いなくなってしまったのである。

だから僕には現状でその施設の管理をする術が存在していない状態になっていた。でも、このまま何もしないでいても仕方が無い。だから僕には、どうにかする方法を考え出す必要がある。そして僕に、そいつを何とか出来る可能性がある方法は、一つしかないのだ。僕が神様から得た力を行使すれば何とかなるかもしれないけれど。それで本当に上手く行くのかという問題も存在する。

僕は悩んだ結果神様の力を使用してみた。

神様から与えられて能力の一つである創造の力。

僕の頭の中のイメージによって物質を作り出すことが可能だ。

僕が作ったのは剣と呼ばれる武器である。ただその剣には僕の魔力を流し込んでいるのだ。僕の魔力は普通の人間のそれとは異なる特殊なものだし、その魔力を使って作り出した武器がどのようなものになるかなんて僕は知らない。

僕は、その刀を手に持ち、僕の力を理解していなくて僕を殺しにやって来ている暗殺者に向けて投げつける。ただ僕としては手応えが感じられないのは分かっていた。なぜなら、僕の作り出した武器は相手に直撃はしたのだけど。それでも相手を絶命させるほど威力があるはずがないからである。しかし、そこで驚くべきことが起きたのだ。僕を殺しにやって来た男は、突然苦しみ始めて、そして最後には地面に倒れて動かなくなってしまい、二度と立ち上がらなかったのだ。その光景を目にした僕は、僕の攻撃は相手の命を奪うほどの力を持ち合わせていたと知って驚愕してしまうのだった。そして僕が作り出した剣が、どれだけの攻撃力を持っているかを確かめようと。今度は僕の持っている杖を振り上げて。僕は、僕を本気で殺しに掛かっている相手に対して攻撃を放つことにしたのである。すると僕が振り下ろしたはずの腕の動きに杖が追いついてこなくて、僕の意思に反して動き始めてしまった。しかも、そんな状態で放たれた攻撃が生み出す衝撃波をまともに受けてしまった僕だったけれど、僕には一切傷がついておらず。ただ相手が地面の上で倒れていてピクリとも動かない状況だけが出来上がったのだ。

その結果を耳にしたとき僕は呆然とするしかなかった。

神様の力を使用するのは簡単な作業ではないし僕にだって限度と言うものがあるはずだし実際に神様にお願いをした時に拒否される事は有ったわけだし。その神様の力を利用して僕を殺そうとしてくる人を相手に僕は何も出来ずにいたのだ。

そんな風に考えていた僕は、ある時、自分が神様の力を扱える範囲について疑問に思ってしまったのである。僕の頭の中に、その神様の力が使える範囲は決まっているのだろうかと。もしもそうならば僕の力を遮ろうとする力が、あの巨大施設の中にも存在したはずである。だとしたら僕は、僕が利用しようとしていた力を無効化されてしまう恐れが有るのだ。

そんな訳なので、僕は神様の力を利用しながら施設内に侵入する事を決めたのである。そして、まずは入り口から入り込んで施設内の様子を確認した僕は、自分が神様の力を使いこなす事に成功しつつある事に気が付き始める事になったのだ。

僕の目を通して見える景色は僕の脳裏に浮かんでいる。つまり僕の目と頭は、僕の神様の力の影響を受けないという事になる。なので僕は僕の体を動かすのではなく僕の目で見えている景色を頼りに、そして僕が見ている映像を頭の中の神様に見せるつもりで行動を開始すると。僕の視界に映っている情報がそのまま神様に伝わるのである。

ただ、これはあくまでも神様の力を使った場合だけであって僕の体に異常が発生している訳ではないので僕の体は相変わらず動かす事が出来ないのだ。それに僕の頭に映像を送り込めても僕の頭の中で処理しなければいけない情報が沢山存在しているので、僕に入ってくる映像は僕が理解可能なもので無ければならないという制限が存在するのである。だから神様の力が僕の体に影響を及ぼすようなら僕が自分で体を制御できるように努力をする必要があると思ったのだ。まあ今は、それよりも施設の内部に侵入を果たした方が優先される話である。

僕は施設の中を進んで行きながら神様に頼んで施設内に仕掛けられた魔法装置を発動させようと試みる。僕にとって神様の力は万能のものであるように感じられるけど実際には万能の力を操れるわけではないので僕は必死に頭を働かせて考え続けた。しかし、なかなか僕の求めている答えに辿り着く事ができなくて結局無駄な時間が過ぎてしまうのであった。

ただ僕にも分からない事が多すぎて頭が痛くなる。

なんで僕の目の前には僕を殺しに来ていると思われる暗殺者がいて僕の事を襲おうとしているのだ? ただ彼等から発せられている雰囲気は間違いなく殺気を含んだものだった。それも僕がこれまで遭遇してきた者達とは比べ物にならないくらいに強いものであり本当ならば恐怖を覚えなければならないところだと思うのだけれども。何故だかさっきまで感じていた頭痛が綺麗さっぱりと消え去っていたせいもあって冷静さを保てていた僕は、今のうちに何か手を打とうと考えて、とりあえず僕は神様の力を行使しようと考えたのだが。その前に僕は自分の体が動ける事を確認してみたのであった。そして改めて周囲を見回してみたのだけれど僕の周囲には誰もいないのである。どうやら僕の力を警戒してなのか僕には手出しをしないように命令が下されているみたいで僕は心の底から安堵していた。もし僕を殺そうとしている連中に見つかったりしたら、きっと酷い目に遭って殺されると思うからだ。

しかし今の僕には逃げる手段が無いから誰かに助けを求めないといけないのは事実である。

(助けて欲しいんですが。僕を殺しにやって来ている人達は、どうしてだか分かりませんが僕を殺す事ができずにいるみたいなんですよ。このままじゃ困ります)

神様に、こんな事を頼んだのだけれど。

「無理だよーん。僕ってば君の敵を排除するのが仕事だからさ。僕の仕事が邪魔されるような出来事は君も困るだろうし僕も仕事を果たせなくなるのは嫌なんだよね」

神様の返事はこれである。

だから僕は自分の力で乗り切る事しか方法が存在しないのだ。

そう考えたところで僕は施設の奥へ進んでいくのだが。僕は神様の力を使用しながら施設の中を探索する事にする。僕の目は、かなり高性能に作られていて、僕の瞳で見た物は何でも頭の中に送り込まれてくるのだ。だから僕の目を潰されたとしても僕の頭の中にある情報が失われただけで。僕には、ちゃんと自分の目が何処にあって何を見ているのかも把握できているし、それどころか、僕の頭の中に浮かび上がってくるイメージをそのまま神様に送ろうとすれば僕の目に映るものを神様に見せる事も出来るのである。

神様に協力してもらって僕は色々なものを試す。すると僕の体は自分の思い通りに動くようになった。

僕には僕の目を使って、僕の目で捉えた情報の全てが送られてきて僕の目で見て得た知識を頭の中に思い浮かべる事ができるのだ。それは例えば僕の頭の中では、この巨大施設は神様の作り出したものだと理解しているつもりなのに神様から僕の体を借りている僕自身はこの建物を見た記憶が無いとか普通に起こる。そういう場合は、僕が見てきた情報を僕の頭の中に流し込む必要があるのだ。でも神様の力で得られる力は無限では無いらしいので。あまり力を使い過ぎる事は控えるようにしないといけなかった。だから僕は自分の体を思い通りに動かせるようになってからは施設内の捜索に力を入れるのだった。

施設の内部では魔法装置が数多く存在するのを発見した。僕は、それらを利用して魔法を発動させる事ができるかどうか実験を何度も行ったのだけど。僕は魔法の力を行使できなかった。ただ、僕の体には魔法を行使するためのエネルギーは残っているようなのだけど。それを僕の体の外に出して使用するために必要なエネルギーが不足していたらしくて僕は魔法の力を使用できない。でも神様から与えられた能力である創造の力は使用できたのだ。そこで僕は神様の力を活用して、僕に危害を加えてきそうな人達に対して対処しようと決意したのである。そして僕は僕自身を守るために僕を殺しにやって来る人達が所持する武器を片っ端から創造した武器で破壊しまくった。

すると僕の武器は普通の武器と違って壊れにくい性質が有り、僕以外の人間には扱う事が出来なかったのである。

僕の武器が相手の命を奪う程の威力を秘めているのかという問題は神様の力を使用して確認した事で、どうにか解決することができた。しかし、それでも僕は油断しないで、いつでも逃げられるように用意を整えておく。僕の目を通じて僕の頭の中に入ってきた情報によれば、この場所が魔族と呼ばれる人外が暮らしている国だと分かるのだ。その事から、もしも自分が殺されてしまえば、そのまま自分は、その国の民となってしまい自分が自分である証明が不可能になってしまう可能性があるのである。

そうならない為に僕は僕の頭の中で神様に話しかけて、僕が殺された場合に起こりうる事を聞いてみた。そして神様が教えてくれた内容は、かなり衝撃的な話であった。僕は僕の命を守り続けるために僕の体を守る鎧のような役割を持つ道具を創造すると、それに意識を移し替える事によって自分が死んでしまっても死ぬ前の状態で復活することができると神様は言ったのである。

神様は嘘を付かないし約束は守る。

なので、これは本当の事なのだと確信を持てたのだ。

そんな訳で僕の安全が確保されている状況となった僕は神様の力を利用するのをやめる事にしたのだけど、ここで問題が発生してしまう。僕の目で見える範囲の物であれば僕が作り出した剣で相手を斬れば相手は死んでしまう。そんな状況が続いているのなら何も考えずに相手に対して攻撃を仕掛け続けていれば良いだけになるはず。だけど現実は、そんな甘いものではない。僕の目で見ている範囲の全てを相手にする事なんて出来ないのだ。

だから僕は相手と戦うよりも相手を無力化する事に全力を注ぐべきだと思うようになる。そして相手の戦力を削るために僕は魔法を使用したいのに神様の力は僕の力とは違って僕の意思に縛られてはいないようなので、なかなか上手く使いこなすことができなかった。それで僕としては自分が生き残る確率を高めるための行動をとる事を優先する。そう考えて施設の中を探し回ってみると。僕の視界に何かが飛び込んで来た。僕は何が起こっているのか分からないままに、その場所まで駆け足で向かって行く。その途中で神様に頼みごとをして僕の体が僕の意志に反して動いてしまう事態は起こらなかったので、ほっとすると同時に、あの時の光景を思い出してしまう。僕の目の前には僕を斬り付けようとした男が倒れていたのだ。僕は僕の体の自由が効くようになっている事を確かめた後で。地面に倒れ伏している男の体をまさぐり、相手が本当に死んでいる事を確認した上で、僕の頭の中には、どうやって男を倒したかという情報が大量に流れ込んできたのである。僕は情報量の多さに目眩を覚えてしまいながらも、とりあえず、どういった手段を用いて僕を殺しにやって来た者達を返り討ちにしたのかを把握して、その後で自分の頭の中に入り込んでいる情報を確認する事に専念する。その作業に集中して行なっていたせいで僕の視界に入って来る映像が頭の中から排除されていたのは仕方がないと言えるはずだ。だから気がつけば誰かに襲われて死にかけているという展開に陥っても不思議じゃないと思う。

(ああっ。もう駄目かも)

しかし僕を殺そうとしていた連中が、いくら何でも無茶苦茶な強さを持っていたのは確かだとしても全員が同時に僕を殺そうとしてこなくても良いんじゃないかと思ってしまったのだけれど、まあ過ぎたことを後悔してもしょうが無いかと考える。だって結局、この男は死んでいて、これから僕を殺すような人は見当たらないんだからね。

しかし、こんな場所で一人ぼっちというのは不安になってきて泣きたい気持ちにさせられるけれど。いつまでも落ち込んでばかりはいられないと思い直して顔を上げると。僕の目には先ほどまで無かった物が目に入る事になった。それは僕の頭の中に、まるで神様の力の影響を受けているかのように鮮明に伝わってくる映像なのである。僕には僕の目が映している光景が見えているわけだから僕の目の映像を見ている事になるのでは無くて、僕の頭の中に直接情報が書き込まれている感じである。僕は、その光景を見ながら思うのだ。

(これって僕の記憶なんだろうか?)

僕の目に映っている物は、僕自身の目で見たものに違いないと断言する事はできない。なんだけど僕の頭の中である種の認識として存在していたはずの僕の目から見た世界というものが綺麗さっぱり消されてしまったかのような錯覚を覚えて酷く混乱してしまう。

(うわああ。なんだコレ? どういう事だ?僕は一体どうなっているんだ?)

僕は自分の身に何が起きているのか把握できずに、しばらくの間は狼の群れに囲まれてしまったウサギみたいな状態になってしまったのである。だから僕の頭の中に、ふっと神様の声が響き渡るまでは生きた心地をしなかったのである。

「ほら。大丈夫だったでしょう?」

神様は、そんな僕の様子など気にせずに微笑みながら話しかけてきた。でも僕は神様から返事を返すことができずにいた。

何故ならば僕は僕の体が動いている感覚を味わっていたからである。僕は僕の意志とは関係無く動き続けているのだ。

そして僕の目には何故か神様の姿が目に入ったのであった。

どうして僕が神様の姿を視認できるようになったのかと言えば。僕が僕の頭の中の情報を整理しようと努力をしているうちに。僕の頭の中に映り込んでいる神様のイメージを自分の意志で動かす事が可能になったからだと思う。だから僕の目が見ている神様と僕の頭の中にある神様の映像が一致していて、僕は、ようやく神様に自分の身に起こった出来事について質問する事ができたのである。「僕には、今、貴方が何をやったのか理解できません」

すると神様が言うのだ。

僕の目は君の目である。

つまり君の目で見て得た情報は全て僕の頭の中に送られてくるのだよ。

そして君は、それを自分の頭の中に取り込んだだけ。

僕には見えているよ。

でも僕以外の人間には見えていないみたいだし声は届いていなかったと思うから僕の方から一方的に話し掛けるだけで会話が成立しているような気分で満足してくれないか。

そんな神様の言葉に対して僕が言える事は、それくらいしかなかった。

僕が僕の目に映し出されている光景に対して驚き過ぎていた事もあるし神様から与えられた力に溺れるのを危険だと考えた僕は自分の頭の中に神様が作り出してきている物を僕の手で消去できるように出来ないかと試みたのだけど。神様は神様の力で、それを可能とする事は不可能だと伝えて来たのである。僕が自分の体を自由に操作できない以上は、それが可能な存在に頼むしかないかと考えて神様に相談してみると。神様は僕の体を使って、僕に害を及ぼそうとしてきた奴らをどうにかしろと、そんな無理難題を押しつけてきやがったのだ。

そして僕の体を動かせるようになった僕は神様の力を利用しないように自分の体を動かすように意識したのだけど。神様が僕に語り掛けてくる。

私の力を使う事によって得られる力は凄まじいからね。君にも恩恵があるのだけどね。でも、その力は君の体に蓄積された情報を引き出すために利用する物であって、その力で他の物事に対して何かをする為のものじゃ無いから勘違いしないように。

神様に念を押されてしまうと僕は何も言い返せなくなってしまった。なので僕は僕の頭の中で、神様から与えられた力を活用しようと考えたのだけど、そこで気付いたのだ。

(そうだ。神様の力は僕に宿るのだから、これを利用できないかな?)

そこで神様にお願いしてみる。

僕の体が僕の物では無くなって神様が作り出した道具のような物に置き換わってしまう可能性は無いですか、と。そうすると神様が少しの間だけ考え込んだ後に僕に対して答えてくれたのである。

その心配はしなくて大丈夫だと、そんな事を言っている暇が有ったらとっととその男の首を斬り落としてしまえば良いじゃないかと、僕の頭に神様の言葉が聞こえてくる。神様は僕の考えている事が全て分かるのだ、そう考えると僕も神様が思っている事の全てが手に取るように分かってくるようになる。僕は自分が僕の体を自由に動かす事ができるのか試してみたのだけど。僕の体は僕の思うように動かなかったのだ。それで僕が困惑すると神様が説明をしてくれた。

君は、今。その体の動かし方が分かっていない状態でしょう。それは私が与えた力に慣れていなだけなのだよ。私達のような存在にとっては、それが当たり前の事だから気にすることはないけどね。それよりも、今は君の頭の中で起こっている状況を整理しなければいけないんじゃないかな。

そんな事を言って来た神様は、そのまま、その場から離れてしまう。

僕の体が動かないので僕の目に入ってくる景色に動きが無くなってしまった僕は、ただひたすらに自分の頭の中に入り込んで来ている神様が見せている情報を確認し続ける作業を繰り返す事となる。僕は僕自身が置かれている状況を確認する為に自分の目の中に入り込んで来ていた情報の中から役立ちそうな物を選んで取り出す事にした。その結果として僕は僕自身の置かれている現状を正しく確認する事ができるようになる。

まず僕を取り囲んでいる狼は全部で八匹。そのどれもが血走った目で、こちらに殺意を放っていた。僕に攻撃を加えて来た連中と仲間なのだろうと思われるが、この場にいる者達の中では一番年老いていながらも一際大きな体躯をしている男だけが、その目に理性の光を宿していたのだ。その目からは強い感情を感じられたが敵意と呼べるほどのものでは無い。

(あの人は味方だ)

僕は心の底からの確信を抱く。

神様から教えてもらったのは知識だけであり、その人物についての細かい情報は与えられなかったのだけど、その人の名前を知る事が出来れば神様から与えてもらえるという力を使えば知る事も出来るはずだ。

だから、この場を切り抜けるためには、その人が敵かどうかを判断するのが重要となってくる。僕はその人に話しかける事に決めて口を開いたのであるが、その時。

その老人の後ろから何かが迫ってきたのが分かった。

(これは)

僕は僕が今まで見てきた光景を思い浮かべ、そこから僕に迫ってきていた何かが何だったのか思い出そうとする。僕は必死になって記憶を呼び起こしていると神様の声が聞こえてきた。

それは君が、これから出会う相手だよ。

僕は、その言葉の意味を理解できずに混乱したのだけど、僕には僕の目が映している情報が見えているので、そこに僕の目には、何が見えるようになっているのか確認する余裕が生まれていたので自分の目に映っている光景を見直す。

そして僕の目は、その瞬間に、はっきりと映していた。

僕に向かって襲いかかってくる者達の正体が巨大な猿だったのだという現実を。

僕の目は、その光景が嘘ではない事を、僕が見ていた通りに正確に伝えている。

僕の目は僕の耳は、それらの光景が、間違いなく僕の頭の中に存在しているという情報を僕に伝えて来るのだ。そして僕の耳に神様の声が響いてきた。

それは君の頭の中に入り込んでいた情報が実体化したものだから、それに驚いてしまう気持ちは分からないでもないけれど、今、君が相手にしている者達の事を詳しく説明する時間がないので、それは、あとで落ち着いて時間を取る事にして話を戻させて貰うよ。とにかく、そういう事なので私は君を助けるための準備を整えていたわけなんだ。でも君が予想以上に上手く対応してくれて助かった。

神様がそんな事を言いながら姿を現した。

神様の言う事は僕にもよく理解できたので僕は納得してうなずいたのだ。そして、すぐに僕が相手をする事になっている巨大な猿の姿が目に入ってきて僕の頭の中には神様が見せてくれているのと同じような情報が次々と書き込まれていくのである。

僕は自分の身に起こっている事を正確に把握しきれず、どうしていいのか戸惑っている間に僕の体に狼が飛び掛ってこようとしていた。

僕が、それを認識すると同時に、神様が言っていた事が本当だという事を証明するかのような光景が目に飛び込んで来て狼たちが一斉に吹き飛んだ。狼は地面に転がり苦しんでいるのだが死んでいないようである。そして、その様子を見つめていた老人は目を見開いて驚いた様子を見せていた。僕は老人の様子を観察してみて彼が、どうやら僕を殺さないように配慮してくれていたらしい事実を知った。

僕は老人に感謝を伝えようとするのだけど、そのタイミングで神様からの声が頭に響く。

そんな事は後回しだ。

今は狼たちを相手にしなければならないよ。

それも一瞬だけ。後は目の前に集中しようか。

そんな事を言い出した神様が僕に何をさせたいかを理解すると。僕の体は再び動き始めた。僕の頭の中に流れ込んでいる神様の力と僕の体に備わった力の両方を使って。僕は自分の体に命令を出すと地面を蹴る動作を連続して行った。そうする事によって僕は信じられない速度で狼たちに接近すると次々と拳を振り抜いていく。

神様は、そうしろ、とは口にしなかったのだ。

しかし、それでも神様は僕に何が必要なのかを教えてくれるようで僕の目には、どのように動いて敵を打倒するべきかが理解できるようになっていたのだ。神様に促された通りに行動を続けると僕の周囲にいた八匹の狼は、全て、あっけなく倒されてしまったのである。

僕の目から伝わってくる情報は神様の視界を見ているような感覚であり神様からの言葉を受け取るのと大差のない物であったのだ。僕には僕自身が感じていた以上の力が備わっており、神様から貰った力を完全に使いこなしている。

(本当に凄い能力を持っている神様の力を使っているんだ)

そう思うと、それ程までに強力な能力を授けてくれた神様に心の底から感謝せずにはいられなかったのである。

僕の目に入ってきた光景を見ていて神様は感嘆していた。僕の体が、それを行っている相手が、どれ程の実力者なのか、その全てを完璧に見切ってしまったのである。神様が感心していると、それを証明するように僕の体が狼を圧倒し始めていた。

僕は僕の体を動かす事が出来るのが楽しくなってきてしまい狼たちを次々に殴り飛ばしてしまう。神様が与えてくれている力の使い方に慣れてきたのか僕が思い描いている理想の形に限りなく近い形に僕の体は動くようになってくれた。

僕の動きについてこれなかったのは僕を殺そうと躍起になっていた巨大な猿だけだったのだけど、そいつだけは僕を侮らずに僕を殺すつもりの全力を出して来たので逆に僕の方が苦戦を強いられてしまう。だけど僕も僕の体が神様から借りた力を使いこなすコツのようなものを掴みつつあったので僕の体は、その巨大な猿に対して優位に立ち回り始めて遂には巨大な猿を倒す事に成功する。

僕は自分の体に蓄積されている力がどれほどまでなのか確認してみたいと思って、それを試そうとしたのだけれど、そこで神様からの声が届いた。

(そこまでだ。君はまだ自分の力に体が馴染んでいないのだからね。これ以上、無茶な真似をすると君の体が壊れる可能性があるよ)

僕はその言葉を聞き、慌てて力を緩めた。

そうしなければ自分の体が自分の体では無くなってしまいそうな感覚を覚えてしまっていたのである。そうやって、ひとしきり体を確かめ終わったところで神様が、そんな僕の耳元で囁いてきたのだ。

もう大丈夫そうだね。

それでこそ私が与えた力で戦い抜いただけの事はあると認めるしかないかな。

だけど君は私を喜ばせたいのなら、もっと精進して、その実力を高めなければならないから、これからも頑張って行こうじゃないか。

僕は、神様から褒められる事で有頂天になりかけていたが、しかし、神様は神様らしく厳しくも厳しい言葉を続けて来たので僕は落ち込まずにはいられない。

私の弟子は君しか居ないのだからね。

(僕にしか師匠なんてできないもんなぁ)

そう考えるだけで気分が良くなるのだから単純なものである。

僕は僕の目に入ってくる情報に、ただただ、ただひたすらに夢中になっていて他の事を考えられなくなるくらいに集中できる状態を作り出してしまったのだ。それは、もちろん、あの男が姿を消してしまってからの事だった。勇者は男に腕を掴まれてから自分が今、どこにいるのかを忘れてしまっていたので周囲の様子を窺うために首を動かしたり目を向けたりする。そんな勇者に男は優しく声をかけた。「勇者よ。そんなに周囲を見回しても無駄だよ。私の魔術のせいで周囲の景色は全て歪んでいるのだからな」そんな男の言うとおり勇者には周りの景色が見えづらくなっていて見えているのは自分を取り囲んでいる男たちの顔だけである。

勇者はその事を思い出しながら、どうして自分はここに来なければならなかったのかを思い出そうと試みるが男に話しかけられて考えを中断させられると、再び、男の事だけを考えるようになっていった。

(この人は何者なんだろう)

その答えを知りたくても、そもそも名前を知らない事に勇者は気がついたので男の方へ振り返り尋ねる事にしたのだ。男の名前はレイスと名乗ったがそれは偽名で、本当ならば、その人物は魔術師の始祖と呼ばれて居る存在らしいのだ。「貴方が、あの高名な魔術師だったんですか?」勇者は少し疑わしげな口調になってしまうのを抑えられず、ついそんな風に問いかけてみた。だがレイスは微笑みながら首を横に振ったのである。(え?)勇者の心の中では困惑が広がる。

何故、そのような反応を返されなければ、ならなかったのかという疑問が浮かび上がっていたのだ。

しかしレイスが説明を始めたので意識を向けると、それは簡単に理解できたのである。

その話によれば彼は元々は人間だったらしい。しかし魔術師という人種の寿命は普通の人間が思っている以上に短く百歳程度を生きたとしても長生きと言えるのでは無かったのだ。それにも関わらず彼の年齢は二百を越えており、見た目は十代の青年に見える程に若い姿を保っているのだというのである。そして彼の弟子達は彼よりも長く生きているにもかかわらず老化が進んでいるという話なのだが彼は自分が特別なのだという自覚はあったのだと言う。

その理由としてレイスは若い頃の記憶を失わなかったのが理由の一つだというのだ。

そして彼は長い人生の間で様々な知識を得る事になったのだが特に魔道に関わる書物は何度も繰り返し読んで覚えるほどに興味を抱いていたのだ。そうする事で、より深い部分を理解したいと望み、やがては魔道を極めたいという気持ちが強くなっていったのだと、そして彼が魔道を極めようとすれば当然の事だが膨大な魔力を必要として来るのだが、それを手に入れる方法は限られていたのでレイスは魔術を研究し続けて行ったのだと言う。そして彼が得た結論が魔術師の素質を持つ者の魂を材料に魔力を作り出す事だと言うのである。

つまり彼は自ら望んで自らの命を削る行為をしてきたという事になるのである。

ただ彼は自らが生み出した研究成果が他者の命を奪い去るような事態に陥ってしまったらどうするつもりだったのでだろうか? その事を尋ねられた時のために事前に用意した言葉が今の、この言葉であるのだと言ったのだ。

確かに自分の研究結果が原因で犠牲者が出たとした場合には言い逃れが出来ない事実となるのかもしれない。しかし全ての研究がそうであるわけではないはずだし、もしも自分の成果が人を幸せにするための物であるという事を証明できれば自分の命が失われた事さえも無意味ではないと言い切れると、そのように考えていたのだ。それに加えて自分が今までに作り出した技術が多くの人の役に立つ事も確信しているとも言っていた。「でもどうして貴方は、このような危険な実験を繰り返すような人物になったのですか?」と、そんな質問をしたのだがレイスは困ったような顔をしながら笑うと何も語ろうとしなかったのである。「さあ。私にも、どうしてなのか分からないんだ。それに私のやっている事が善行と呼べる物なのかどうかも、正直に言えば自信がないんだよ」「そうなのですか?」「私は、ずっと、誰かに、何かを伝える事が出来るのではないかと考えていた。それが、いつしか魔術の研究をするという行為そのものになってしまっていたが、本当は、ただの好奇心の現れにすぎないのかもしれなくてね。だからこそ、こうして私の実験によって苦しんでいる人達を見て心を痛めてしまうんだ。もし仮に自分の行った行為の結果によって苦しむ者が一人しかいないのだとしても自分の行動が罪の無い人を苦しめてしまうのだと思うと、どうしても耐えられないのだ」

レイスの言葉を聞いた僕の頭に一人の少女の姿が思い起こされた。僕を助けようとして自分の命を犠牲にしてくれた彼女である。彼女は、もしかするとレイスのように自分が何の咎もない人々を傷つける事に耐えられなかった為に犠牲になろうとしていたのかも知れないと思うと胸の奥がきつく痛んだのである。「それなのに貴方は自分の行いを止めることが出来ないでいるのですか? そんな事をしたら、これからも同じことが起こるのに。それでも構わないと?」

そう尋ねた僕の言葉にレイスは苦笑すると僕から視線を外して窓の外に目を向けた。その先に見えた物を見て僕は納得する。

そこには大勢の人間が集って騒いでいる場所が在って、そこが奴隷市場と呼ばれている場所であると気が付いたからだ。

その日は朝から空が雲に覆われて薄暗くなっている上に風が吹いていて雨が降ってもおかしくない天気となっていたのだけど僕は今日も学校が休みである事に嬉しくなって家の中に引き籠ることに決めた。

(これで好きなだけ寝ていられる)

僕が喜んでしまう理由は二つある。一つはもちろん学校は嫌いではなかったけれど、それ以上に大嫌いだった体育の授業が無くなるからである。そして、もうひとつは神様に僕の体を使って貰い僕の目の前で起きていた事件を解決する事に成功したのだ。その結果僕は神様の力を使いこなしているという証を得たので神様の手伝いをする必要が無くなったので神様が居なくなっても問題なくなったのだった。神様が居なくなる事で僕の力を借りられなくなってしまったとしても、もう、あんな目に合う必要がなくなるのだと考えただけでも喜びで一杯になってしまうというものである。しかし、そんな幸せな時間は長くは続かなかった。その日の朝早くに僕は母さんから呼び止められたのである。

(あれ?)

そういえば僕には、いつも朝食を食べてから部屋に引き篭っていた記憶がある。

それにも関わらず僕を呼び止めるのだからよほど重要な用件に違いないと、そう思ったので僕は自分の部屋のドアを勢い良く開くと階段を駆け下りて行く。すると案の定リビングから声が聞こえてきたので僕は中に入ると急いで扉を閉めてテーブルの前に座った。「ねえ。あなたに頼みたい仕事があるんだけど受けてくれるわよね?」

僕が椅子に腰掛けるなり、そう切り出してきたのは母親の咲子で僕は一瞬だけど、どうして彼女がこんな早朝に自分を起こしてきたのか疑問に感じたけれど、それは、ただ単に、いつもなら既に会社に出勤していて僕の世話などできない状態となっているので僕の面倒を見られるのは、今ぐらいしかないからだろう。だけど、それは僕にとって非常に迷惑な話でしかなく断るしかないと思っていた。「嫌だよ。学校に行けなくなるじゃないか」

そう答えると咲子は、すぐに笑顔を作り僕の顔を覗き込んでくる。そんな咲子の表情が不気味で仕方が無かった。

(なんで笑ってるの?)

まるで自分の子供が悪い事をしてしまって叱る時の母親のような雰囲気を感じると背筋に寒気が走る。しかも今、僕に対して、その笑顔を向けるのは不自然だ。それは明らかに異常事態だったのだ。「大丈夫よ。そんな心配しなくても良いわよ。私の仕事を手伝うと言ってくれたじゃない。だから引き受けて欲しいな」などと甘えるような声で頼んできたのだが、それは絶対に嘘だ。

なぜなら僕は彼女に仕事を頼まれていない。

だから断るべきなのだが断りたくても、それを上手く言い表す事が出来なかったのである。それに加えて彼女の様子が怖かったという理由もあったのだ。「そんな事は知らないよ。とにかく今は眠いし学校に行きたいんだよ」と、そう答えた。だが母は笑顔を消さないままに言う。「それじゃあ私の話を少しだけ聞きなさい」

そう言った後で話を始めると最初は、この国の王様の話から始まったのだ。「実は最近になってから、お城では色々な事件が続いているみたいなの。それに加えて、あの国との交易を、この国から打ち切るなんて話まで持ち上がっていて、かなり険悪な状況になっているらしいのよ」「ふーん。そうなんだ。それは大変だね」

どうせ興味が無い。どうでも良い話だったのだが話の途中で母が僕の名前を出した事に驚きを隠せなかったのだ。「それで貴方は、その国王様に、この家の子供を推薦して欲しいって、頼まれちゃったの。お願い出来るわよね?」

そこで初めて、はっきりと分かるくらいに僕は焦った。なぜ、そのような話の流れになってしまったのだろうかと考えてみると思い当たるのは昨日の夜に起きた事件のせいだとしか考えられなかった。つまり僕が助けてあげた少女は国王の娘だったのかもしれない。

だが、その可能性は殆ど無いはずだった。なぜなら、いくら王族だったとしても、それだけの理由で勇者と対等に渡り合えたとは思えなかったのだ。つまり彼女には他にも特別な能力を持っている可能性があったのだ。それを考えると本当に厄介だった。もしも彼女を助けた事が露見したならば、どのような罰を受けさせられるか分かったものでは無い。

(どうにかしないと駄目かなぁ)だが僕の心の中には、このままで終われるはずがないという強い気持ちが湧き起こってきていた。なので僕は自分の能力を確かめようとしたのだ。

すると不思議な事が起こった。今まで何も無かった空間に突然として鏡のようなものが現れたのだ。そして僕の顔が映っていたのだが驚いた事にその光景を見ているのは、なぜか僕だけでは無く、もう一人の女の子の顔も映し出されている。

僕は驚いて思わず目を擦りたくなった。

(なに、これ?)「どうかしたの?」

母の言葉を聞いて現実に戻ったような感覚を覚えたので我に返ると鏡の事について尋ねた。しかし咲子が不思議そうな顔を浮かべて、じっと見詰めてくるばかりで反応らしいものは帰ってこない。仕方なくもう一度試してみる事にしたのだが、その瞬間に今度は別の鏡が現れると同時に先程まで一緒に映し出されていた女性も、また別の場所に現れたのである。どうやら同じ場所で別々の場所を写し出す事ができるようであった。だが、そこまで確認した時である。突然の眩しさに僕の意識が遠ざかり始めた。

(何が起きたの!?)僕は、それが僕の体に戻ろうとする神様の影響だと理解したが、それでも僕の体を返してもらえるような状態にはならなかった。

僕が次に目が覚めた時には自室のベッドの上に居て朝になっていた。結局、そのまま学校に向かう事になったのだけれど母が妙に優しかった。その理由はすぐに判明した。どうやら、すでに僕の身辺の事情については学校中に広まってしまっているようで教師に尋ねられた際に、僕の口から説明をする羽目になったのだ。「それじゃあ君は自分が何をしてしまったのか分かっていないんだね?」

そんな風に言われてしまい僕は何も言い返すことが出来なかったのである。「それって、どういう事なの? 私、よく分からないんだけど教えてくれないかしら?」そんな事を言ってきたのはクラスの学級委員長をしている人物で、彼女はクラスの中で中心人物とも言えるような立ち位置にいたので皆の注目が集まってしまう。僕は内心、すごく困ったけど、なんとか取り繕うように誤魔化す。「別に何でもないですよ。大したことじゃないです。それより今日は、みんなで、どこかに出掛けないんですか? 僕は用事があるので家に残ろうと思っているんですよ」しかし僕の思惑通りにはいかなかった。「ねえねえ。だったら私たちと一緒に行こうよ。ほら前に先生が、言ってくれたでしょう。皆が困った時はお互いに支え合って生きて行かないとダメだって。今が、まさに、そういう状況だと思うんだよねぇ。だったら私が手伝ってあげるよ」と、いきなり僕が苦手としているクラスメイトの鈴木 美羽さんが話しに加わってきたので僕の心臓が高鳴ってしまう。「ちょっと。それは私の役目なんだよ。貴方の出る幕なんか無いわよ」さらに続いて話しかけてきた人物が佐藤 加奈子さんで、この二人とも僕は余り仲良くなかったので余計に焦ってしまった。「でもさぁ、そんな事を言っている間にも事件が起きたりしているかも知れないじゃない? もし、そうなら私は手遅れになる前に解決させてあげたいんだよ。ねっ、いいでしょ?」などと彼女が話し始める。僕が困惑して返事を返せずにいる内に話は進み、ついには彼女の言葉によって僕が外出する事が決定事項となってしまった。

そうして外に出る事になり僕たちは駅へと向かう。電車に乗ったところで他の人と同じように僕も窓の外を見てみたが空は曇っているせいなのか景色は灰色がかった物のように感じられ、とても気分が重くなるものだった。

(こんな状態で、どこへ向かえば良いの?)そんな不安な思いを僕は抱き始めていたのだ。

(まったく、なんなのよ)

僕は不満を胸に宿しながらも母さんの買い物に付き合う事になったのだ。というのも今朝の話を思い出した時に嫌な予感がした為に、この機会を利用して母の本性を暴いてやると考えたのである。

(まずは服から選ぼうかしらね)

などと母は口走り、そして僕は自分の着せ替え人形にされてしまった。しかも僕は、その事に文句を言えないのである。何故かと言えば僕が何かを頼めば、それを断る理由を考えなくてはならないからであり僕は黙るしかなかった。

(まあいいか)と僕は考える事にしたのである。確かに母は怖い存在ではあったものの僕にとっては唯一味方でもあって僕を裏切る事は考えづらいと思ったからである。だから少しぐらいなら彼女の遊びにつきあってやってもいいと僕は思っていた。「あら、このワンピース可愛く無い?」などと言われても僕は同意したり、適当に答えたりするだけに留めた。だが実際に買った物は僕の好みとは大きく違っていたので僕には無駄使いに思えてならなかったので後で断ろうかと考える事にしていたのだ。

そんな僕に母は唐突に「じゃあ次に行きましょうか」と言って僕の手を握り歩き始めると僕の視界に奇妙な光景が飛び込んでくる。

どう見ても僕よりも背が低い母と大人の女性の身長ぐらいの女性が一緒に歩いているという不思議な状態だったのだ。僕が戸惑って見ていると、それに気づいたのか二人が僕へと振り返る。

そうして二人の女性に見つめられるとなぜか恥ずかしくなり僕は視線を外したのだけれど、その事で僕に対して話しかけてきたのだと気づき「えっと、どうしました?」と尋ねる事にしたのだけれど、その声が自分で予想以上に小さかった為に注意を向けておかないと聞こえないほどだったのだ。だが幸いな事に近くを通りかかった通行人の方たちが聞き取れたので会話は続けられて僕は胸を撫で下ろしてしまう。そして、その事が僕の緊張感を解く結果にもなった。「それ、可愛いね。君に、ぴったりだ。きっと、それを着た君は素敵なレディになれると思うよ」そんな褒め言葉をくれた相手こそが昨日、出会ったばかりの謎の人物であったのだが彼女もまた僕の目の前にいる人物と同じで明らかに外見的に若すぎたために僕は戸惑う。

しかし女性は僕の気持ちを知ってか知らずか微笑みを返してきてくれていたのだ。そのおかげで僕は緊張を解き、そのせいか自然と自分の意見を言うことができた。だから彼女の事が好きになってしまい僕は名前を聞くことにした。すると名前を名乗られて、その相手が誰であるかを知った途端に驚くことになるのだ。何故ならば彼女が魔王の右腕を務めていたという黒衣の悪魔である事に僕は気づくことになったのだった。

僕の名前は加藤 真。普通の高校生であるはずだったのだが最近になって母が怪しい行動を取り始めたのだ。その理由は不明で僕が学校から帰宅した直後だったのだけれど急に母が部屋から出て来なくなり僕は放置されたままになったのである。そして夕食の時になると母も姿を現し食事が始まった。僕は母の様子の変化について探ろうとしたものの何も分からなかった。ただ分かるのは自分の母に恐怖を抱いているという事実だけだったのである。

そして僕は寝るまでの間は母に怯え続けていたのである。だが翌朝になり僕は再び異変に気づく事になる。僕の体が突然として変化を始めたのだ。それも人間では無くなって行く形で僕は驚きの声を上げると体に変化が起きて行く様子を眺める事しか出来なかった。やがて変化が終わった僕は自分自身の姿に驚かされてしまい混乱に陥る事になったのだ。なぜなら僕の体は昨日までとは似つかない姿に成り代わっていたので僕は慌てて鏡を探したが見つからなかった。そこで僕は母に尋ねようとしたけれど部屋の中にあったのは昨日までの母の面影では無く若い女性が鏡に映り込んでいた。その姿を見て僕は母だと判断する。「ねえ、お母さん、どうしたの?」僕が質問した瞬間に彼女は表情を変え、まるで僕の母とは別人に思えた。そこで僕は思い知らされる。自分の体に違和感を感じた僕が母の方を見ると母と思われる女性の容姿が変わっていることに僕は驚いた。「ああ、もう駄目。これ以上我慢できなぁーい」その言葉を口にした母に僕が近づく暇もなく、その姿に異変が起きた。「ふぅ、やっぱり私、美人よね。どう? 私の美しさに驚いたかな」そう言って笑みを浮かべた母らしき女性だったが僕の方に近づいてきて抱きしめてくるのである。僕の口から思わず変な悲鳴が出てしまった。

しかし、すぐに我に帰るとその女性を押し退けて僕は距離を取ろうとした。けれども、それが間違いだと分かったのは次の瞬間である。その瞬間、僕の意識が一瞬にして遠退きかけた。しかし、それでも必死に耐えていると今度は強烈な頭痛が襲ってきて僕の頭の中に映像のようなものが流れ込んできたのだった。

(これは、なんだ?)

しかし、いくら考えてみてもその正体に心当たりは無かった。それ故に余計に僕の心に動揺が広がり始めていた。

(どうして僕の頭に突然、こんな映像が見えるんだ?)

僕は訳が分からないなりにも自分の身に起きた出来事を理解しようと頑張っていた。そうしている間に頭痛の方は引いて行ってくれたのでホッとしたのだけれど状況は全く良くならないままだったのだ。

そんな時である。突然、背後に誰かが現れたので振り返るとそこに居たのは見知らぬ男であった。そして、こちらに向かって何かを投げつけるような仕草を行う。僕は本能的に危ないと感じたが動けずに固まってしまう。ところが男は手にしていた刃物を僕ではなく母に向けており次の瞬間には何かが破裂するような音と共に母の姿が消えた。僕は男が何をやったのか理解出来ず、ただ見守るしか無かった。そうこうしている内に男は消え去り、その場には何も残らなかったのである。そんな現実を目の当たりにした僕は頭がどうにかしてしまいそうな感覚に陥り、そのまま地面に座り込む事になったのだ。

そうして僕はしばらく動くことが出来なかったので時間が経過していく内に徐々に落ち着いていく。そんな僕に何が起きているのか理解できる筈も無く途方に暮れてしまっていたのだ。そう、僕にとって母を失うという衝撃があまりにも大きかったのである。

「なに、これ」

そう口に出した僕は涙が止まらなくなっていた。

(一体、どういう事なんだよ。こんなの変だよ。母さんが死んだの? 本当に死んだの? なんで? なんでこんな目に遭わなくちゃいけないんだよ)

その事実に僕の心は限界を迎えてしまっており、いつの間にか大声で泣いてしまっていたのである。その時だった。僕の耳に小さな足音が聞こえる。僕は、その足音の主が先ほどまで自分の目の前に現れてくれなかった母なのか確認するために後ろを振り向いた。

(違う)

その事を僕は即座に理解する。なぜなら母の外見をしていた存在が今にも泣き出しそうで辛そうな表情で僕を見つめてきていたからだ。

そう、僕の母の顔に見えて実際は僕の知らない若い女の子が心配そうに僕を見ているだけだったのである。しかも彼女の格好は普通の人と変わらない感じで服装が違っていた。その事に僕の興味が惹かれる。

「貴方は誰?」

僕は疑問をぶつけたのだけれど少女から返事が無い事に気がつく。すると彼女が涙を流し始める。そして僕の胸に顔を埋めてきたのだ。僕は困惑してしまう。だが僕は自分が落ち着くと彼女が泣いた理由は自分を心配してくれているからなのだと気がつき申し訳無い気持ちになってしまう。

(でも僕が彼女に優しくするのは無理だ)

そう、僕が今まで受けて来た苦痛を思うと目の前にいる女性を気遣ってやれる余裕が無かったのだ。なので僕は彼女に冷たく接するしかないと決め込んだ。しかし彼女は僕の気持ちなど全くお構いなしに抱きついてくるので困ってしまう。だから僕は彼女の肩を掴んで引き離そうとすると彼女が悲しげな顔をするので僕の良心に突き刺さった。

(なんでだよ。僕は、どうすればいいんだ。助けて、誰か助けてよ)

だが僕の祈りは通じず僕の周りからは誰も現れてはくれない。そこで、僕は自分の体が変化してしまった理由に思い当たることがあった。それは自分の中に眠っている魔力を引き出し過ぎて暴走させた結果であり僕は自分自身で引き起こした自業自得だと気づいたのだ。

(くそっ、全部僕のせいだ。僕が悪いのに。なのに僕のせいで皆を傷つける事になるなんて)

その事で僕の思考は完全に停止した。僕は絶望感から抜けきれなくなり、ただ黙って立ち尽くすだけしか出来なくなってしまったのである。

そうして僕が放心状態になったまま時間だけが経過していくと母の姿だった者が僕に話しかけてきた。

その事に僕が気づいた時には彼女が既に僕を抱き寄せていて耳元で囁いていたのだ。

「ねえ、大丈夫?」

そう言ってくれた彼女に対し、なぜか安心してしまった僕は弱音を吐きたくなったのだがそれを我慢したのだ。すると彼女が急に笑い始める。僕は不思議に思ったが何故か彼女に対しては不信感を持つことが出来なくなっていた。そして彼女は優しい笑みを浮かべて口を開いたのである。

「私が何とかしてあげましょうか」

その言葉に僕は驚きの声を上げそうになったが、かろうじて我慢する。そして僕は相手の事を警戒してしまう。

「えっと、どうしよう」

そこで彼女が再び微笑み、そんな彼女の姿に僕の胸はドキッとする。そこで彼女は再び僕を自分の胸の中へと抱き寄せると頭を撫でてくれたのだ。その行為によって僕は落ち着きを取り戻した。すると僕の心の中に希望が生まれたのである。その事から彼女の言っている事が本当だと分かったのだ。そこで彼女は続けて口を開く。

「それじゃ、まずはこの服を脱いでね」

その指示に従って僕の体は自然と動き始め衣服を脱ぎ始めた。僕は自分の行動に対して疑問を抱く。だが、それ以上に自分の意思で体が動いている事が問題だった。

(な、なんだこれは。まさか体が乗っ取られているんじゃないのか? いや、そもそもこの人が母さんだったのか?)

僕は戸惑ったが相手は待ってくれなかった。僕の体を強引に動かすとベッドの上に寝かせ、その上から覆い被さってきたのだ。その事によって僕は慌てふためいた。けれども僕が声を上げる前に相手がキスをして来て、僕は大人しくされるがままに受け入れるしかなかった。そして僕の体が彼女の言う事を聞いてくれるようになり抵抗を諦める。そこで、いきなり彼女の手が伸びてきて僕のズボンのベルトに手がかかり、あっという間に脱がされてしまったのだ。僕の心の中で恐怖の感情が生まれる。

(ちょっと待って。何で、こんな展開になるの? 僕が望んだわけじゃないんだけど、どうなっているの?)

そんな疑問を抱えながらも僕に抵抗する力は無くされるがままの状態が続いていた。そこで僕の体の上から重さが消えると僕は安堵する。

(よかった、これで終わりなんだよね)

そこで、その通りになると僕は期待した。だが現実は無情だったのだ。彼女は僕の背後に回るとその手が僕の体に触れてくる。そこで僕の全身がビクッとなり硬直した。

(うわぁ、なんか、触り方がエロいんですけど。これ絶対、そういうつもりの触れ方だよね)僕は混乱しながらも冷静に状況を整理しようと考える。

(そうだ、これは夢に違いない。そうでなければおかしいよ。きっと僕が作り出した妄想なんじゃないかな。だって僕が望むはずが無いもの。でも本当に現実だったとしたら凄いな。まるで本当の出来事のように感じられる。もしかして、これも魔法とかいう奴なのかもしれない)

僕は混乱したまま、そんな結論に至った。しかし、そう考えることで僕の気持ちが落ち着くのは確かであった。そうこうしている内に、とうとう彼女の手が自分の下半身に伸びてくるのを感じてしまい僕の意識は限界を迎えた。そうして僕が気を失っている間、彼女の行為は続く。やがて僕は目を覚ますと意識がはっきりとしない中、自分の股間の部分に温もりを感じたのである。そう、そこには彼女の顔があり僕自身を手で愛おしそうに扱いている光景が目に入ったのだ。その事に僕は慌てて彼女を制止しようとしたが言葉を発する事は出来なかった。

(あー、もう最悪だよ。なんで僕が女の子に襲われるような状況になっちゃっているんだよ。どうしてこんな事になったんだよ)

そこで、また自分の意識が遠くなりかけたので必死に耐える事になり、そこで僕の視界に再び映像が映し出されたのである。

それは先ほど見たのと同じような状況だったが少し違う部分もあったのだ。

その変化とは先ほどよりも明らかに時間が経過していた。そう思えた理由は映像の中に先ほどとは違う場面が幾つか見られたからである。

だが、それらの場面で一番最初に映ったのは母の顔であった。そして僕が見ているのは自分の母だと確信したが、どうやら様子が変だったのだ。

なぜなら母は泣いており、僕の体にしがみついてきた。そして何かを訴えかけて来るが僕には何を言おうとしているのか理解できないし僕自身も理解できなかった。その事が酷く辛いと思ったのだ。

だが僕の中の時間が経過する度に母の身に何かが起きたらしい事実が分かり始めていたのだ。なぜなら映像の中の時間はどんどん進んでおり僕は母の顔を認識できるようになったのだがその表情が段々と苦しそうな表情へと変化していく様を目の当たりにする羽目になってしまったからだ。すると僕の心に不安が湧き上がると同時に僕の心の中である記憶が呼び起こされ、僕は愕然としてしまった。

その事実というのが母の顔に違和感を覚えていたことであり僕の頭の中には、あの時の記憶が思い出されていた。だが、それだけでは終わらなかった。何故なら僕は更に信じられない光景を目撃してしまったのだ。なぜなら、そこに僕の母とよく似た容姿の女性が現れて僕に近づいてきたかと思うと僕を抱きしめてキスしてきたからだ。その事に僕の頭が真っ白になる。

しかし僕の頭のどこかに残っていた僅かな理性が働き僕は彼女を突き飛ばす事に成功する。しかし次の瞬間、僕は背中に強い衝撃を受けてしまった。その事で僕は床に叩きつけられた。そこで痛みが走り、その事で僕は自分の身に一体何が起きているのか理解する。そう、僕の体が彼女に蹴られたという事実が僕の心を激しく動揺させた。

そして僕の目に涙が溜まる。だが僕が涙を流すより先に僕に彼女が抱きつきそのまま僕を押し倒してしまう。すると彼女の顔が僕の顔に迫ってきたのだ。しかも彼女が自分の唇を重ねて来た為、僕の思考が完全に停止してしまうのだった。そうして僕は再び気を失いかけた時だった。誰かの声を聞いたのだ。

「ふむ、やはり駄目だね。君の魂は既に肉体を離れてしまっているようだ」

(誰だ?)

その事を疑問に思いつつも僕が目を開けるとそこには一人の男が立っていた。

しかも彼の体から眩いばかりの光が発生しているので目が痛くなり僕は腕で目を覆ってしまう。だが男は気にせず話し始めた。

「私の名はゼウスと言います」

(ゼウス? 神様か? というか今更な感じで自己紹介を始めたぞ)

その事によって僕の心が揺れ動き、その隙に彼が僕の額に触れるとその手が発光した。そしてその光が消え去ると僕は不思議な現象に気づく。その事によって僕が驚いていると僕の体は勝手に起き上がり服を脱ぎ始める。そして彼は今度は背後に回り込むと同じように僕の身体に密着して来て耳元で囁くのだ。

「私と一緒に来て貰えませんか?」

その言葉を聞いて僕の心が大きく揺らいだ。しかし僕はまだ迷っていた。その理由として僕は目の前にいる男の正体が全く分からないからであった。なので警戒しながら問いかけたのだ。

「あなたは何者ですか?」

すると彼は笑い声を上げた後、すぐに真面目な口調で語り始めた。

「私はこの世界を管理しています」「この世界を管理? じゃああの魔王も?」

「はい、私です」

その言葉で僕は驚くと同時にある事を思い出す。その事というのは自分が勇者だと自称していた男の存在である。その事に僕は戸惑いつつ口を開く。

「あ、あなたのお名前は?」

「名前? そんなものはありません」

その返事に僕が眉をしかめると彼が再び口を開く。

「ただの人間には必要の無いものですから」

「そうかもしれませんけど」

「それよりも、そろそろ時間切れのようですね」

そこで突然、僕の視界に文字が表示されたので僕は驚いた。その事に僕が戸惑っていると僕を抱き締めていた男が僕の体を操り自分の方へと振り向かせる。

そして、僕の体を強引に抱き寄せて僕の頬にキスをしたのだ。

そんな行為に対して僕は慌てふためくと僕は必死になって自分の体を取り返そうとするが抵抗は虚しく終わり再び気を失う事になる。そうして僕は気絶した後で目が覚めた時には再びベッドの上で眠らされており衣服は元通りに戻されていたが僕の身に起こった一連の出来事の記憶は消されてはいなかった。それ故に、まだ僕は完全に混乱から抜け出す事が出来ないまま自分の置かれた状況を理解できないままでいた。そこで自分の身に何が起こっているのか知りたいと思い部屋を抜け出す事にする。すると僕が外に出ようとした際に丁度、隣の部屋に入って行く人の姿を見かけるのだった。それを見て僕は慌てて部屋に戻ろうとしたが扉が開かないのだ。そうしている間に隣にいた人物と僕の母の姿が見えなくなる。

その出来事から僕は最悪の可能性について考えてしまう。

もしかして二人は既に出掛けて居なくなっているのではないか? そんな不安にかられ、焦燥感を抱いた。だから急いで外に向かうと玄関へと向かうと靴が無い事に気づいてしまい僕の心臓の鼓動が高鳴る。そして恐る恐る窓の方を確認すると母と見知らぬ女性の姿を発見してしまい僕は慌てた。そして、すぐに追いかけようとしたが窓から見える場所は全て柵が立てられており、その向こう側は壁に囲まれていたので通ることが出来なかった。そうこうする内に、二人の姿が消えると僕は諦めて自分の部屋に戻ってきたのである。

そこでベッドに寝転ぶと、また例の症状に襲われた。

その現象が起きるたびに僕は必死に意識を強く持とうとするのだが何故か僕の体が言う事を聞いてくれないのだ。

その事が悔しくて堪らなかったが僕は必死に自分の体に抵抗し続ける。だが僕は自分の体が言う事を聞いてくれるようになるまで耐える事に成功したのだ。

(よしっ、これで大丈夫だ。でも油断するとまた同じ目に遭うんだろうな)

僕はそう思いながら深呼吸をして自分を落ち着かせた後に立ち上がるが足が思うように動いてくれず倒れ込みそうになるがなんとか踏ん張ると部屋を出て歩き出そうとした。だが部屋の扉を開ける事が出来ず、僕は困り果てていたのだ。だが僕は、このままではいけないと感じ取り自分の意思で歩く為に訓練する事にした。

そして何とか歩けるようになって一階に降りると廊下に人の気配を感じたので様子を見ようと覗き込んだが特に誰もいなかった。その事から僕は何も無かったふりをしながら階段を下りて行く。

そうして台所に行き冷蔵庫から飲み物を取ろうとして、そこに置いてあったコップに手を伸ばしたときだった。僕の指がコップに触れてしまった。そして僕は慌てて自分の手を引っ込めたのだが、その時に僕は自分の体に違和感を覚えたのだ。なぜなら、その瞬間に自分の視界に奇妙な表示が現れてしまったからだ。その事に僕は戸惑いを覚え、それと同時に、それがどういう意味を持つのか理解できたので僕は愕然としてしまう。

なぜなら僕の目の前に現れた表示は、今まで一度も見なかったものであり僕の人生を大きく左右させるような内容であったからである。その事の意味を理解し僕は絶望感に襲われてしまった。その事とは僕が普通の人間の血が混ざった魔族のハーフという事が判明したからだ。そうして僕は自分の出生の秘密を知ってしまった事と、それによって、この世界の真実の一端を知り、そして母と父の仲を疑ってしまう事になったのであった。

(なんなんだよこの状況は、いったい僕はどうすれば良いんだよ)

僕は混乱しつつも何か解決策は無いかと考えていたが何も浮かばない。だが暫くしてから母の部屋の前を通り過ぎると女性の話し声が耳に入ってくる。その事が僕の胸の奥底に沈んでいた暗い感情を刺激し僕の気持ちが激しく揺さぶりをかけてきた。

その結果、僕は母の顔を見たくなくなり僕は逃げるように自室に戻ったのである。

(どうせなら自分の好きな人と結婚したかったよなぁ。まさか僕の本当の母親があんな人でなしだったなんて。まあいいか、別に僕は好きだったわけじゃないし、もう会う事も無いだろうから気にしなくても問題ないか。むしろ今は他に問題があるもんね。それに母さんの事よりも、まずは、この国の王だかなんだか知らないけど魔王とか呼ばれているあいつに文句の一つくらい言わないと腹の虫が治まらない)

そこで僕は母に会おうかと考えたのだが直ぐに思い直す。だが先ほどまでの僕と違い今の僕は冷静になっていたのだ。そのおかげで僕の頭に一つの疑問が浮かび上がってきた。それは僕の体が他人の身体であるという事を僕は知っているからだ。だからこそ、僕の体に居る人物が誰なのか調べなければならないのだと思った。

(僕が誰の身体を乗っ取っているのか分かれば、どうにか元に戻れる方法も見つかるはずだよね)

僕はそう思う事で心を切り替えると再び外に出て自分の姿を探しに行くことにした。

だが、その事が原因で大変な目に遭うことになる。僕は自分の体が何処に消えたのか探していた時だった。突如として僕の目の前に大きな男が現れたのだ。そしてその男は僕の顔を掴んで無理やり地面に押し付ける。そうやって僕の身体を拘束した男は僕を家に連れて帰ろうとしており、その事に気づいた僕は大声で叫び、自分の体の持ち主の名前を呼び続けた。

そうしている間にも僕は男の力により家の方に引き摺られていき僕は心の中で泣き叫んでしまう。そうこうしているうちに僕の体は玄関の前に立たされてしまい、その状況に追い込まれてしまう。

(マズい! 本当に逃げられないぞ。誰か助けに来てよ)

その事を僕は切実に願うと、その直後に玄関から誰かが姿を現す。僕は期待に胸を躍らせ、そちらに目を向けると、そこには魔王と思しき人物と勇者と思われる人物がいた。僕は勇者の事を一目見て気づかされてしまう。勇者と呼ばれている男は間違いなく僕の体の持ち主であり、勇者が魔王と一緒にいる理由も僕は分かってしまった。だが何故、僕が彼の体に乗り移っているのかという理由は分からず、その事実に対して僕の心は大きく動揺してしまった。しかも勇者が魔王と共に家に近づいて来る様子を僕は目にしてしまう。その事に対して僕の心臓の鼓動が早鐘を打つように早くなり僕は必死にその場から逃れようとする。だが僕の体は僕の意思に逆らって動かないのだ。そうこうする間に僕の身体は二人の前に移動させられてしまい僕の目の前には二人が立っているという状況に追いやられてしまった。そして目の前に立つ二人の男女は、お互いの体を奪い合い争い始めたのである。

その光景を目の当たりにして僕は唖然となってしまう。すると突然、僕を抱き寄せた魔王が僕の口に口づけをしてきた。僕はそれを受け入れたくないと思うものの抵抗する事も出来ずにされるがままになってしまう。その口付けが終わると同時に僕の口の中には舌が入り込んで来て口内を激しく動き回り始める。その事に僕は戸惑いつつも口を閉じる事も出来ず受け入れてしまう。そして魔王の口から液体が僕の口の中に注がれ始め僕が飲み込むと僕の意識は再び遠退いて行き意識を失った。その途中で僕は自分の体が勇者の物である事を思い出す。そして勇者に意識を奪われた僕の意識は完全に暗闇の中へと落ちて行くのだった。そして再び僕は目が覚めると自分の部屋で横になっており窓から朝日が差し込んでいたので朝になった事に気づく。だが僕の心はまだ落ち着かないままだった。その理由としては自分の意識が自分の体に戻りつつある感覚を覚えていたからだ。その事により僕の頭の中から勇者の事を忘れてしまい自分が元の体に戻ることだけに集中出来るようになり、その事だけを考えていると次第に自分の意識が戻ってくる事が分かった。だから僕は、それから必死になって自分が自分の肉体に戻って来られる方法を必死になって考える事に専念する。

(ああ、やっと戻ってこれたよ。それにしても変な夢を見たせいか喉が痛いな)

僕は喉に痛みを感じると共に昨晩に母に出された物を思い出した。それが原因だと分かり慌てて部屋から出ようとしたら僕が寝ていたベッドの上に一枚のメモ書きが置かれておりそこに母の筆跡で文章が書かれていたのである。

【起きたら下に降りてきなさい。そしてお風呂に入ってから学校に登校しましょう】と書いてあり更に下の方に小さな文字で「今日から一緒に通う事になる学校の場所とクラスを書いておいたわ」と添えられていたのだ。その事から母は既に学校へ行っていると理解できた為僕は急いで着替えを始めることにする。

(確か学校へ行くためには電車を使わないといけないんだったな)

そこで、ふとした事から思い出した母の言葉に従い洗面台へと向かう事にする。

だが洗面台の扉を開く事ができなくて、どうやって開こうかと考え、まず鏡に向かって体当たりを試みたのだが駄目だったので次に扉を押し開けようとしたがこれも無理なので、仕方が無いので扉の前で両手を広げながら飛び上がるという古典的な方法で洗面所を開けるという手段を思いつき実行に移した結果何とか開くことに成功する。そんなこんなで一階の洗面所に到着し、僕は歯ブラシと石鹸を取り出して髪を濡らすと髪が長すぎて上手く洗えない事に苛立つが母に頼んでカットしてもらうしかないのかなぁ。などと考えていると、そこに母の姿が入ってくる。母は僕の身嗜みを整えてくれ、その事で僕は少しだけ機嫌を良くした。

(これで、いつもと同じ感じになるだろう。しかし母さんは何歳になっても若く見えるから、こういう時に困ってしまうんだよね。下手したら僕よりも年上に見られる事があるかもしれないくらいだし。でも母さんに僕と一緒で学校に通ってほしいって言われてもなぁ。正直な話、母さんの事は尊敬していないし何で親を好きになれるのかわからなくなっちゃったんだよな。まあ今は、その話は後回しだな。今から駅に向かう準備をしなきゃな)

僕は制服を着て靴を履き、その上に鞄を持って出かけた。その際、何故か僕は、いつの間にか学生証を持っており、そこに記載されていた住所から学校の場所を把握し、そこまでは電車に乗る必要も無く辿り着く事が出来てしまった。

(えーっと、ここが、この世界における僕が通っている高校の筈なんだが、どうして僕には全く見えないんだけど、どういう事だろう)

僕はそう思いながらも校舎らしき建物を見て回ると教室を見つけたのでそこのドアを開いてみたのだが中には人影が見当たらないのだ。

(あれ?おかしいな。まだ時間じゃないのかな?)

僕は腕時計を眺めて時間を確認してから他の教室に入ってみるのだが何処も同じ状態で人が誰もいないのだ。その事に戸惑っていた時、後ろの方で人の気配を感じた気がしたので振り向くと一人の少女がいることに気づく。だが彼女は、どう見ても日本人ではなく外国人なのだが何故か彼女が纏う雰囲気が僕にとって親しみを覚えるものだったので彼女の元に向かい声をかける事にした。そうしないと彼女が自分の前から姿を消しそうな不安に襲われたからである。

僕には何故か彼女に見捨てられてはいけないという思いが心の中に浮かんできたため話しかけた。そして彼女と会話をしてみて分かる事があったのだけれども僕の知っている事とは違う常識が存在している事が判明したのである。

(これは不味いよな。まさか僕以外にこの世界に来ているはずの勇者と、その仲間達が既に殺されているとは思わなかった。このままでは僕は本当に魔王に殺される運命になってしまうぞ。何か良い方法はないのだろうか)

そう考えていた僕の元に突如として僕のクラスメイトらしい人物が僕に声をかけてくる。僕は最初誰だかさっぱり分からなかったけど僕の事を知っているようだった。そして彼女からの話で勇者の仲間達の死体が街の広場に置かれている事を知った僕は驚きを禁じ得なかったのだ。なぜなら僕は彼等が死んでしまっているなんて想像していなかったからであり僕は、すぐにでも確認したいと思ってしまうが流石に今の状況下では危険なのは僕にも分かっているので我慢をする事にするのであった。

(どうしようかなぁ。やっぱり一度家に帰るべきなんだろうけども勇者を一人殺した奴を野放しにして置くのもマズいよね。だけど僕は自分の身を守れるような魔法が使えない。だから今は大人しく家に帰る事を優先するべきだよね)

僕は自分の安全を確保する為には家に戻ろうと決める。そして、その場を離れ家に向かって歩き出す。

その後僕は、自宅まで戻ってきたのだが、そこで自分の部屋の扉の鍵が掛かっていないことに気づき、中に誰か居るのかと思い部屋に入った。そして僕は目の前の状況に困惑する事になった。僕の視界の中には、あの男に捕まっていた僕自身の体の姿があり、彼は椅子に座ったまま僕を凝視していたのだ。その事に僕は驚くと目の前の男に詰め寄ろうとするが、その時、男が立ち上がって僕に殴りかかってきた。それを間一髪のところで避ける。

そうやって僕は自分の体を救い出そうとしたが、男の方は僕の事を殴るつもりはなく僕から距離を取ろうとしていたため逃げる事が出来た。そして自分の体の方も立ち上がり逃げようとする。だが逃げ切れずに捕まってしまい僕の意識が強制的に消えていくのが感じられたのである。僕は意識が薄れ行く中で僕の体に乗っ取られているという恐怖に囚われてしまう。

だがそこで自分の体が勇者のものである事を思い出すと自分の体を取り戻すために抵抗を試み、それが成功してしまう。

そして自分の体が床に倒れる音が聞こえ僕は自分の体に乗り移る事に成功した事を理解した。その事に安心しながら勇者の体を使って自分の部屋から出ていくと僕の体も付いてきて僕の後に続いたのである。

(うわ、なんか僕って勇者の体に乗り移った途端性格が変わってしまったんじゃないのかな。だってさっきの自分の行動を思い出すと自分の体が自分以外の手によって動かされて気持ち悪かったんだもん。とにかく自分の体を手に入れられて僕は良かった。ただ勇者の体は凄い鍛えられているみたいだから僕みたいな貧弱な人間の体じゃ無くて嬉しいかも)

僕がそんな風に考えている間に僕の体は階段の下に到着したようで下に降りる様に指示してくる。だから素直に僕は言うことを聞き階段を下り始める。そうすると僕の体は外に出て行くように促され、それに従うように外へと出てみると僕の家の前に大勢の人々が倒れているのが見えて僕の心臓がドクンと跳ね上がる。そして僕は慌てて僕の体は僕の家の中へと入っていった。僕も後を追い彼の体の中に入るが僕は一体、外で何が起きているんだと思ったが彼の意識は既に眠りに落ちていたので僕は彼が起きるのを待つことにしたのである。

すると暫くして僕の身体が起き上がり、僕の体が動き出した事を理解した僕は急いで僕の身体から離れると自分の身体に近づいて行った。

すると、そこで、ふと僕の目線が地面に転がっている死体に向けられてしまう。そこには僕自身を殺した張本人がいたのだ。そこで僕は、もしかしたら自分の体を取り戻したので復讐しに来たのではないかと焦り自分の体に向かって助けを求めてしまう。

しかし、どうやら違うらしく、僕の言葉に対して僕の体は不思議そうに僕の顔を見つめてきた。その事に対し僕は少しだけ安堵する。もし自分の体が殺された原因となった相手の味方をしていた場合どうなるかと考えた僕は怖くて動けなくなってしまったのだから。

(あれ?おかしいな、僕の感覚では、ここに僕の体と、僕の心と、勇者と、あの魔道士がいて全員殺し合っているはずだったんだけど、それなのに今いる場所って何処だろう?それに何で僕の心が、この場に無いんだろう。それどころか魔道士の気配さえ感じられないんだけどどういう事なんだ?まさか魔道士って実は偽物で本当は魔王側に寝返っていたのかな?)

そう考えるが直ぐに考え直す。何故なら魔道士は確かに僕を操ろうとしたのを憶えているし僕の心を覗く事にも成功したはずなのだから僕が本物かどうかなんて分かる筈だ。ならばどうして彼がいないのかという疑問が生じてしまった。そういえば勇者の方は僕を殺そうとしていたのに、今は僕の事を睨むだけで何もしない。それも妙な気がしたのだ。

(そう言えば僕の心に干渉する能力を持っている奴は他にいないのかな?)

僕は試しに僕の体の事を調べると僕の心の力を使い自分のステータスを見る。すると、そこには【勇者

職業:勇者】という文字が浮かび上がると共に【聖剣使い スキル】という文字が表示されたのだ。

そしてその文字が見えた瞬間、僕の脳裏に勇者の能力についての説明が入ってくる。

それは僕と勇者が一対一で戦っても勝ち目がないという程の強大かつ圧倒的な力を持った能力の数々であった。だがそんな事を知らない僕にとっては非常に強いという程度の感想しか持てなかった。

だがそんな事は関係なく、自分の身が危険だというのは理解できたため僕は自分の体を起こそうとした。だがそこで自分の体に視線を向けている僕の視界の中に、いつの間にか魔道士が現れていた事に気づき僕は驚いた。しかもその背後には、僕に襲いかかってきた勇者もいる。

僕は何が起こっているのかが理解できず混乱しそうになるが、そんな僕の思考など関係ないと言わんばかりに魔道士の手が僕に向かって伸びてくる。それに対して僕の頭の中で、何かが警鐘を鳴らしたような気がした。そして同時に自分の体の手が動いたような気がしたので、そちらに視線を向けると何故か僕の腕が自分の胸に触れていて僕は驚いてしまう。

だけど、その驚きはすぐに終わる。何故なら、その瞬間、僕の中から全ての記憶が失われていったからだ。

「あははははは、ついに、ついに手に入れたよ。これで、やっと、ようやく俺は元の力を手に入れる事が出来る。もう二度と人間共の道具として使われるのは真っ平ごめんだぜ」

俺の名前はアスタエル王国が第一王女で次期女王であるエミリアナ。

私は今、この国の宰相と話をしていて重要な案件の話を終えようとしていた。だが、その時、私の頭に、ある人物の事を思いつく。それは私に恋をしている男性で、いつものように告白されて断るのが面倒になったので婚約者だと嘘をつく羽目になってしまった人物である。

しかし、どうせならば彼に真実を伝えても問題はないはずだと思い、私が婚約していると告げた際に相手が酷く落ち込んでしまっていた様子を思い出し、少し罪悪感を感じてしまうが仕方がない。

だって私と彼の年齢は離れ過ぎているのだし相手は王族の血を継ぐ子供と平民の子供なのだ。そんな二人が結ばれようと思う方が間違いなのだから諦めるべきなのだ。

そして今回の事だって単なる勘違いであって本当に結婚するわけじゃないのだ。その事実を伝える事によって彼も納得してくれるかもしれない。だから彼に告げる事に決める。

そう決めた後、すぐに彼の所へと向かう事を決め、そして向かう前に、とある場所に向かう。そこが私の目的地でもあったからである。だが、そこで思わぬ出来事に遭遇してしまう。

なんと、そこに私のよく知る少年がいたのだ。そしてその少年は自分の目の前にある物体を食い入るようにして見ていたのだが、何故か私の姿を見かけたので、まるで親を見つけた子犬の様にこちらへと向かってきた。

その事に対して、どうしようもなく懐かしさを感じた私は自然とその体を抱き締める。

しかし次の瞬間、私を驚愕させる事が起きたのである。なんと少年の腕が自分の胸に触れた途端、そこから膨大な魔力が流れ込んできたのだ。

その結果、自分の体が変質したような感じになり自分が自分では無いような気分になってしまい慌てて自分の体を離してしまう。

しかし、それで終わりではなかった。なんと先程まで普通に存在していた筈の体が消滅し始めてしまい完全に消滅してしまう。その際に自分の体が無くなってしまったせいか強烈な虚脱感が襲ってきて私はその場に崩れ落ちて気絶してしまったのであった。

そうして僕が目覚めた場所は見知らぬ部屋だった。

最初はここがどこかを確かめたいと思ったが周りを見ても誰も居なかったので僕は部屋から出てみる事に決める。部屋から出た先は何処かの家なのか部屋から出て廊下が有り玄関があった。その扉を開けると外に出て外を歩き始めるが人の気配が全く無いことに僕は戸惑いを覚える。そして僕は家の中に戻り誰かいないのかと捜すが誰も見つからなかった。

そんな風に困っていると不意に扉が開かれ一人の女の子が現れる。そして僕が見守る中、僕の身体に乗り移ると、そのまま走り去ってしまう。そして取り残されたのは僕だけとなってしまったのである。

(えっと、何この状況。まさかあの女の子の身体が僕の中に乗り移って来たって事かな? でも僕の意識もあるし、それに勇者の記憶や力の一部みたいなものが感じ取れるんだよな。

これは、ひょっとして僕は自分の身体を取り戻す為に、この身体に乗り移ったのかな?)

僕はその事に困惑すると同時に僕の体を取り戻す為の方法が分からず、どうしたら良いのかが思い浮かばずに戸惑うが暫くして一つの可能性に気づく。

(あれ、待てよ。この体って僕に恋をしていたっていう男の子のものだよな。という事は、ひょっとして僕の体を取り返すために、この体の持ち主に協力して貰った方が良いのかな?)

僕としては他人の体に宿ったという状態は嫌なので自分の体に戻るのに協力して欲しかった。

そう思ったのは勿論、自分の体を取り戻したら元の世界に戻れるのではないかと思ったからだ。だから僕は彼女の後を追いかけ始めると彼女が向かったのは町の中心で大きな建物だった。

そこで彼女は建物の中に入って行くと僕の目線が、そこで止まってしまい僕は呆然と立ち尽くしてしまう。

なぜならそこには、かつて見た事のある人物が僕を見つめていたから。その人物は僕の知っている人物であり僕は慌てて、その少女の元に駆け寄る。すると少女も僕に気づいて僕の事を見つめてきたのである。

僕は、まず最初に自分の姿を確かめるが、どうやら僕の姿はこの体の本来の持ち主にそっくりであり僕自身の姿が分からない状態だった。だから自分の姿を見てみたいと思っていたのだが、ここで僕は、自分の体の違和感に気付く。それは自分の声と喋り方と態度だ。

僕は僕の事を僕と呼ぶし喋り方も男の口調になっていた。しかも一人称は、ちゃんとした言葉で僕は、いつもは僕とは言わないし言葉遣いも女っぽいのに、どうも今は男みたいな話し方をするようになっているのに気が付く。その事に気がついた僕は、どうすれば自分の体に戻ったときに元通りに出来るかと悩みながらも、その事を誰にも言う事が出来ずにいた。

(うん、なんか凄い疲れた気がするなぁ。でも今日は休日だから特にやることはないんだけどね)

そう思って寝転がりながら天井を見つめる。

すると、そんな僕を見下ろして母が心配そうな顔を浮かべて僕に声をかけてくる。

「大丈夫?何か変なもの食べなかった?」

僕は首を傾げてから答える。

「え?別に何も食べたりしていないと思うけど? そう言えば昨日は何をしたんだっけ? ちょっと色々ありすぎて良く思い出せない」

僕は、その事を思い出してみると、ふと思いつく。

そういえば勇者の力を手に入れてしまったんだったと。

だけどそれを言っても良いものだろうかと考え込む。

(うーん、多分勇者って言えば母は絶対に信じないよね。僕自身も半信半疑なところがあるのに。

だけど本当の事を言えば僕も疑われそうだけど、どうしようかな?)

僕としても、あまり母の心配をかけるような真似はしたくはない。しかし本当なら僕自身が勇者になって国の危機とかを救ったはずなのに僕が、それを成し遂げたせいで他の人よりも僕の方が立場的に上の状況になる。

そして、その事を一番理解できていないのは僕自身である。そもそも今の現状で勇者なんて言われても実感が持てなかったりする。

そんな訳で僕は取り敢えず自分の力を確認する為に手を握った後に念じる事で何かが分かるかどうかを確認してみた。

(ステータス表示!ステータス画面を開かないと何も分からないし、もし自分の能力を知る事が出来なければ僕は勇者の力を持っていながら使えない役立たずになってしまうじゃないか)

そんな事を思っていると、すぐに自分のステータスが脳裏に浮かぶ。そこには【聖剣使い】と表示されていたのであった。

(え?どういう事なんだ。どうして僕の頭の中に文字が浮き上がってくるんだ?というか聖剣使いって職業は、やっぱり僕が持っているのかな? そうだとすると僕って実は本当に勇者に成っていた?というより、こんな文字を見た事が無いんだけれど、もしかすると僕の知らないところで僕は既に死んでいたりして、その魂が異世界に飛ばされているとかないよな。

まあ僕自身は記憶喪失になっているようだし。だけど勇者の能力だけは記憶を失う前に使えたわけだから本当に勇者なのは間違いないんだろうな)

そこで僕は疑問を抱く。

確かに勇者の能力を使う事には成功した。ただ僕の中に眠っている勇者の記憶によると、これだと本来の力が発揮されないのだ。というのも僕は勇者の能力は勇者の力を封じられている状態の時でも使う事が出来る。そしてその状態で使えるのが「光の力」と呼ばれる魔法である。

この光の力は本来は闇属性の力に対する対抗策のようなものであるらしいが、どうにも使い方が解らなかったので諦めて僕は勇者としての力である「魔力」の能力を試してみる事にした。

魔力というのは、どうも僕の持つ魔法の才能の源のようで、これを魔力操作によって操る事で自分の中に存在している力を引き出して様々な効果を生み出す事が可能になるのだという。

ただ残念なことに僕が魔力の操作をしようとすると、かなり集中しなければいけなかったので非常に疲れてしまうのだ。それに今の状態が普通じゃないのだと思うと少し不安な気分になる。だが僕は何とか魔力を操作する事に成功し魔力を使って火を生み出したり風を生み出したりすることに成功すると、とても嬉しくなって笑う。

ちなみに火と水は攻撃用の魔術だが氷と土と雷に関しては防御の為のものらしく、また他にも色々な魔術が存在しているようなのだ。そんな事を思い出していると突然、扉が開かれて母さんが部屋に入ってくる。

その表情はかなり慌ただしく見えたのだが僕と視線が合うと驚いたような顔をした後に近づいてきて抱きついてこられる。

僕は驚きの声を上げると同時に母が泣いている事に気がつく。どうやら僕の事を心配してくれたようなのだ。

僕はその様子と自分の体から感じられる感覚の違いに、まだ戸惑いを覚えつつも自分が自分の体を取り戻すまで頑張ろうと決意をするのであった。

私は、あの子が何処かに出かけていったと知った途端、どうしようもない程の焦燥感に囚われてしまい必死に追いかけようと走り出した。

しかしその途中で急に意識が薄れていく。そして再び目覚めると自分の体は元に戻っており私は困惑しながらも、ある考えが思い浮かぶ。それは自分の意識が体に乗り移ってしまったのではないかと言う可能性について。しかし私が目覚めた時に私の目の前にあった鏡に写っている人物を見ると、それは紛れもなく自分自身の姿だったのである。

それに、もしかしたら自分は他人の体に宿っているのではなく、自分の体に他人の魂が入り込んで来ているという事も考えられる。その可能性に気付いた瞬間、私の中で一つの事実が生まれてきたのである。その可能性は恐らくは私の愛しい子供である、もう一人の子供が自分の体に戻ってきたという可能性が。だからこそ早く探し出さなければいけないと。だから急いで行動を開始する。その方法を思いつくまでは普通に出歩こうと考えていたのだったが先程のように急に体が入れ替わったりしてしまう可能性がある以上迂闊に出歩く事は出来ないと理解したので暫くは家に引き篭もる事に決めるのであった。

僕は、この世界で暮らし始めてから数年が経過していた。

そして現在、僕が暮らしているのは王都では無く地方の町で暮らしていた。

なぜ、そんな所に居るのかと言われれば僕の住んでいる町の近くにある山に魔物が出没しているという話があり、それに冒険者ギルドの人達が山に入ったのだが帰ってこないという事態が発生していたからだ。そのため僕は村の人たちと共に山の捜索を行いたいからと、村長が言ってきたので仕方なく僕は一緒に山へと向かう事にしたのである。

「それで勇者殿、今回は山に入ってくれた事に礼を言いますぞ。正直、この辺りの魔族は我々が束になっても倒せないほど強いので困っていたので」

そんな言葉を、その村長である男性からかけられるが僕は曖昧な笑みを浮かべながら受け流す。なぜなら僕に、この世界における、いわゆる一般的な常識が欠けていて、この世界の人々の強さが分からないからだ。なので、どれくらいの強さの魔物が出てくるのかも想像が付かないし、どの程度の相手なら問題なく倒せるかが分からないので安易な返答ができないのである。

それから暫く歩いていると僕の目線は森の入り口で止まる。そこには明らかに異様な光景が広がっていた。何故なら僕達の前に立っている巨大な猪に似た獣を見て村人達が恐怖を感じ始めたのである。その姿を見て僕は思わず、それが、どんな生き物なのか気になったのであった。

その猪は僕の知る生物の中では牙の鋭い凶暴そうな見た目の化け物であったのだが僕としては、それよりも、もっと不思議なものが見えたのである。それは背中に大きな黒い羽を持ち下半身も人の足ではなく虫を思わせる形状をしており更に、その顔も醜悪な形をしていた。

(あれって人間なの?)

僕は内心で首を傾げる。だって普通の人間が羽を持っていたりしないだろうし顔も人のような作りではないので僕は首を傾げざるを得なかった。

(だけど何だか、あの魔物は僕を見つめていないかな?)

そんな事を思ってしまうが僕の方に近寄ってくる様子を見せなかったので気のせいであったかと考える。ただ、ここで僕に対して村人達からの警戒の目線が強くなってきた事に気がついた。

「お前、よくも今まで黙っていたな」

僕は、そんな事を唐突に言われても意味が分からず戸惑っていると、そんな僕を見かねた村長が説明を行ってくれる。どうやら僕が勇者だという事は既に村の中でも広まっていたので今回の件についても話したのだという事。

僕は納得してから質問をしてみる。

「ところで村長。僕はこれから、あの大きな猪みたいな化け物を退治するんだけど、どのくらいの大きさがあるんだろう?」

僕が、そう口にすると皆の顔色が変わる。僕は、そんなに凄い奴なんだろうかと考え込むと、そこで僕の方に向かって歩いてきた一人の少女が目に入ってきた。

僕は、その子を見つめてから村長に視線を向けると何故か僕が話しかけてはいけないと告げられて彼女は離れていく。僕は彼女を追いたかったのだけど他の者達も追い返そうとする雰囲気だった為に追い駆けるのを諦めた。

(それにしても本当に勇者ってのは大変な存在だったみたいだし僕が本当に勇者の力を持っているなら魔王を倒した後で、どうやって元の世界に戻ればいいんだよ。というか本当に僕が倒したいと思っている敵ってのが元の世界に帰れる唯一の手段だとすれば倒す必要なんて無いし、そもそも僕の知っている物語でも魔王なんて存在しなかったんだけれど)

僕は内心で溜息を吐きだす。

その後で僕は勇者の力で剣を取り出して鞘から抜き出す。勇者の力は光の力と呼ばれており様々な魔法を生み出し使用する事が可能なのだ。そんな事を考えながらも光弾を作り出すと僕の前方に撃ち出したのであった。

僕の放った光弾は僕の狙い通りに命中して巨大な爆発が起きる。それにより僕の視界には煙が広がり完全に姿が見えなくなるが僕は気配を探る。

(これで仕留め切れなかったとしても時間稼ぎにはなったはず。後は村の人に応援が到着するまで耐え抜くだけだね)

僕は油断せずに身構えたまま周囲に神経を集中させ続けたのだが、そこで予想外の出来事が起こる。先程、僕が作った光弾によって倒されたと思われた相手が、そのまま僕に突撃してきたのだ。それも僕よりも先に攻撃を加えてきた相手の攻撃を受け止めたのである。

「嘘だろう。まさか僕が全力を出して作り出した攻撃で死ぬどころか僕に迫ってくるとか。というか僕の持っている聖武器の力って確か光だったよね。どうして闇属性の魔物なのに、こんなに強い力を発揮できるんだ?それに闇って聖属性に弱いんじゃ無かったっけ」

ただ闇属性の攻撃に対しては聖なる力を持つ物が効果を発揮するので聖騎士や勇者が持つような聖属性を持つ剣や盾が有効なのだと僕は、この時になって思い出す。そして僕は聖剣を取り出すと闇に斬りかかった。その結果、闇属性に効く光の刃が相手を切り裂いた事で動きを止める事に成功する。そして相手が動けないのを確認するとその頭を剣で叩き斬った。

僕には不思議に思う事が有ったので、この世界の住人であるはずの村長さんに確認してみる。どうも僕が倒した相手の正体については既に知らされていたようで、それは闇の女神と呼ばれている存在であるという事を聞かされたのである。ただし闇の女神というのは神族に分類されて居たので神様ではないらしく信仰の対象にもなっていないらしいとの事。しかし僕は神様でもないのに僕と同等の強さを持って襲いかかってきた存在に疑問を覚える。

(まあ、今は考えるだけ無駄か)

僕は自分の中に存在している知識を呼び起こしながら、まずは村に被害が出たらいけないと考えたので急いで村長の屋敷に戻るのであった。

私が目を覚ました場所はベッドの上で私は慌てて周囲を見回すと窓の外を見る。

その外の様子を見て私が安堵の息を出す。というのも、まだ朝早く太陽が昇っている時間帯であり空の色から判断しても、そこまで時間が経過はしていないようだったからだ。

それから私の体の状態を確認して特に異常が感じられない事を知ってから、ふと部屋の外から聞こえてきた足音に反応して私は意識を失ってから起きた事態について推測を行う。

私が意識を失う前の最後の記憶を思い出す。

それは勇者である彼が山に入った直後に起こった異変だった。突如として出現した魔族の集団が村へと攻撃を仕掛けて来て私は咄嵯に自分が所持していた聖剣を構えようとしたが力が入らずに何も出来なかった。だが私は何とか村人に危険が及ばないようにと身を挺する事だけはできた。

(あれ、でもおかしい。何故なら、あの時、私は間違いなく命を失っていた。だけどこうして、生きている。これは一体どういう事なの?)

私は疑問に思ったが、すぐに別の問題が私の前に現れる。私の部屋に、とある人物が訪れたのだ。それは私が見知った顔で彼は私が意識を失った後で、こちらの状況を確認しに訪ねて来たのである。

私の体から私自身に意識が戻った時に真っ先に会いたいと思った人物であり、それと同時に自分の夫でもある男性であった。彼なら何かしら現状の打開方法も知っているはずだ。

私も彼に話をしたいと考えていたが残念ながら、その前に扉が開かれてしまったのである。しかし私は部屋に入ってきて私の顔を一目見て嬉しそうな表情をした相手に対し、自分の意思を伝える為に口を開けようとした瞬間、急に体が硬直するのを感じた。そして全身から汗が噴き出る感覚がする。しかも呼吸も乱れてしまい、とても普通の状態では無い事は自分でも分かるのだが体が動いてくれないのである。だから相手に対して助けを求める事も出来ない。

「ああ、良かった、無事で本当に良かった」

そんな事を言いながら近づいて来た相手に対して私の夫は笑顔を見せる。だけど、この状況下で笑顔を見せられる理由が分からずに戸惑うばかりであった。そんな夫の方はと言えば、やはり私の様子を変だと感じて心配している様子だったが私の傍に来ると手を差し出してくる。それに対して、その行動の意味が全く理解できずに私は戸惑ってしまう。だって今の今まで私の体を動かし得なかった原因と思われる男が目の前に現れたからだ。

だからこそ私は必死に逃げようと抵抗するが体は動く事はなく逃げる事が出来ずにいると、その相手が私を引き寄せ抱きしめると頬ずりをする。その感触で恐怖で頭がおかしくなりそうになる。だが次の瞬問に突然、体が動いたのだ。

そこで、ようやく状況を把握する。どうやら今の動きは夫が私の体に自らの魂を移したのだろうと、そう考えれば辻妻が合う。そして私は夫の名前を叫ぶ。その声で正気に戻った夫は微笑むと私の額に手を当てる。その手の温もりは私の心が癒されていくかのようであった。

(もう二度と離れないと心に誓ったはずだったのに。なのにまた私は自分のせいで彼を危険な目に合わせてしまうのか?そんな馬鹿な真似はできない。絶対にできないよ)

その思いが私の中に生まれると自然に涙が出てくる。そんな私に夫は話しかけてきた。

「そんなに泣かないで下さい」

彼の声を聞いていると安心する。それだけで先程まで混乱した状態が治まりつつあったのだが。その直後に再び私の体の自由は奪われてしまう。それに加えて頭の中に見知らぬ情報が流れ込んで来るのを感じる。だけど不思議な事に苦痛は一切なかった。むしろ、これから起きるであろう出来事に対する希望すら覚える。だって私は、こんなにも幸せだと思っているのだ。これからも彼と二人で過ごす生活が出来るという事に心から喜んでいる。

(きっと私は、この人が好きだから何が有っても嫌いになるなんて出来無いんだろうな。いや、もし嫌いになったとしても、それでも愛し続ける事が出来るんだ。それが愛する人への愛の証なんだから)

そんな事を思っていると夫が真剣な眼差しを私に向けて口を開いた。

「ごめんなさい。実は貴女に謝らなければいけない事があるのです」

「うん、そうだね。だけど私も貴方に言わないといけないんだ。だからお願い、話してくれないか」

そんな言葉が自然に出た。それに驚いたのは彼の方で、だけど私も驚く事になる。なんと、お互いの意思が通じ合えたかの様に互いの口から勝手に出た言葉に。だけど、お互いに驚きはしたものの不思議と違和感を覚えなかったのだ。それは、まるで最初から、このような会話を行うのが当たり前であるかのような。

(やっぱり、そういう事か。なんとなく、予想は出来たけれど。つまり私の魂はこの人の肉体に乗り移った訳じゃなくて完全に融合してしまって居るんだろうな。でも、それで納得ができる)

どうして私が夫と会話が行えたのか。そして私が夫の考えを瞬時に把握し実行出来る事が。それは簡単な事だったのだ。だって、もともとの夫婦としての繋がりが強かったのと私の中の意識の方が彼の体の主導権を握ったという事である。でも不思議と私が夫を支配したというような意識は全く起きなかったのだ。どちらかと言うと、私を包み込むかのように、この人の肉体が私を受け入れた。そんな風に思えるぐらいで嫌々で、こうなっているわけでは無い事が分かったからこそ私自身も安心して彼を受け入れられている。

それから彼は自分の身の上を私に語り始めたのであった。どうやら、今回の件は彼が元々、勇者であった事で引き起こされた悲劇らしい。しかし、それも彼が勇者として力を持っていた為に起こってしまった不幸な事故のようなものであるらしくて彼が責任を感じている事は理解ができた。なので私は気にしないでほしいと伝える。そもそも私には彼が居てくれたお陰で生きていられているのだし、こうして彼と二人で生きていく事ができるのならば他に欲しいものなどない。だから、私は彼を許すと口に出したのだが彼は許しを得た事と自分の罪を告白できて少し気が楽になったという事なのか穏やかな笑みを浮かべていた。そして、ふと思い出したように私が持っていた剣について質問してきたのである。

それは聖剣についての説明を求めるもので私は勇者に渡すつもりだった事を伝える。それを告げた瞬間、私の体が僅かに硬直しかける。それは何故かというと、私の中の意識の方では私は勇者の妻で、そして私の夫の方は勇者として生きていたという意識が有ったからだ。だけど私の体が、どうして反応してしまったのかと私は疑問に思ったが直ぐに理由は判明する。それは私の中に宿っている別の意識が原因だと私は考えた。

それは、もしかすると彼が元の世界に戻っていた時に得た知識の影響ではないかと。私は私の中の別の意識が何を知っているのかという疑問を抱きながらも、その答えが何かまでは知らないため、そのまま、その話を流して彼が私に聖剣を手渡すようにと頼んできた時に応じる事にしたのであった。その後で彼は私から距離を置くと自分の手を凝視しながら「どういう原理になっているか分からないけど確かに俺の中には、あいつの気配が残っているみたいだ」と小声で呟いていたのが聞こえてくる。私としては彼に何か問題が起こったのではないかと不安になったが彼も特に体調に変化は見られないようであったし大丈夫だと思い直したのである。

しかし、ここで私も、そして彼の中で眠り続けている私の存在にも予想外の事が私と夫に訪れる。私の体から、もう一人の人格が出現したのである。

その人物は、かつて私の中に存在していた勇者と呼ばれる人物と瓜二つであり私は戸惑ってしまうが私の中に残っていた勇者の記憶と経験を引き継いで現れた存在だという事を知り私は嬉しく感じた。だが、その喜びも束の間の出来事である。私達が村の外に出る準備を終えた所で突如として山が爆発を起こして、それと同時に魔族の軍勢が現れてきたのだ。

しかも、その中に見知った魔族の男の姿を発見すると私は、その男が魔王であるという確信を得てしまい絶望を覚えるが、そんな事は言ってはいられないとばかりに私は聖剣を構えたのであった。

僕と闇の女神はお互いに向かい合う形で睨み合う。彼女は、やはり僕が記憶を失っていない事を既に理解しており。その上で僕の隙を窺っている様子だった。

僕は彼女が記憶を取り戻してしまわない様にと注意しながらも彼女の行動を観察する。

(やはり彼女は強い。恐らくだが今の状態の彼女なら以前の彼女と大差が無いかもしれないな)

そうなれば当然の話であるが今の彼女の相手を務める事が出来る者が存在しない。だからこそ彼女を確実に倒す為の方法は一つしかないだろう。僕は腰を落とし構えると魔法を使用する為に魔力を練る。

(今、僕が使用できる最大の威力の魔法。これさえ命中すれば間違いなく仕留められるはずだ。問題は発動まで時間を要する点か。まあ、仕方ないだろう。今は彼女に時間を稼いでもらうのが先決だからな)

そこで僕と彼女の視線が交差した後に彼女が僕に対して仕掛けてきた。どうやら彼女は遠距離攻撃を警戒していたようで僕に接近戦を挑むべく走り出してくる。

そんな彼女に対して僕は攻撃を行うのではなく足払いを仕掛けた。

それによって彼女は体勢を崩してしまい倒れ込みそうになるのだが、なんとか持ちこたえると反撃に出ようとしたところで僕は手に溜めていた魔力を放出させると同時に魔法を発動した。その結果、雷が発生して彼女は回避できずに直撃すると共に全身を麻痺させて身動きが取れなくなってしまう。

「くっ!? 何で、こんな」

苦し紛れに悪態を吐き出すが彼女は動けない状態となっているため何もする事が出来ずに悔しそうに顔を歪めながら歯ぎしりをした。そんな彼女に向けて近寄って行くと、まず最初に手始めとして手を差し出す。その意図に気付かなかったらしくて怪しげな顔つきになったのを確認してから強引に腕を掴んで引き上げてから抱きかかえた。そこで何をされるのか理解できた様子で暴れるが無視をして移動を始める。

その際に何度も僕の名前を口にして、やめて欲しそうな様子だったが僕は気にせずに森の中を歩いていくと目的の場所に到着する。

その場所は小さな洞窟になっており奥に進めば広い空間が存在していた。そこまで来ると彼女を放すと壁に背中を預ける形になるように寝かせると改めて彼女と向き合うと、こちらの様子を観察していたのか表情に怯えの感情が見られるのが分かった。

そして、そんな様子を見て、ようやく自分の身に何が起きるのか理解し始めたようだが時すでに遅すぎるのだ。何故ならば、この状況は最初から決まっていた事なのだから。なので僕は容赦なく彼女に向けて剣を振り下ろそうとしていると彼女が叫ぶ。

「ちょっと待ってくれ! 話を聞いてくれ」その言葉を耳に入れてはいたのだが僕は無視する。なぜなら僕は既に彼女と会話を行うつもりは無いからだ。そもそも、こうなった原因の大半は彼女にあるのだから文句を言うのは筋違いだと思う。なので、そんな相手に情けをかけて見逃したりしても良い事など何も無いと、そう判断しているのだ。だから問答無用で切りつけようとしたが直前で彼女の体が突然、淡く発光したのを見て攻撃を取り止めてしまう。

そればかりか彼女の姿に変化が生じ始めて慌てて後退し警戒する態勢に入ると、そこに一人の美しい女性が姿を現す。どうやら目の前にいる女性は人間では無く、闇を司る神の一人だと理解したが、どうして、いきなり、このような現象が発生したのか分からずに困惑してしまう。だけど、それでも何とか、この場を切り抜ける方法を模索しなければならないと気持ちを持ち直すと思考を開始した。

(どうして闇の女神である彼女が現れた? いや違う。彼女は僕によって殺されそうになったせいで仮死状態になったから、その代わりに新たな存在として生み出された。つまり生まれ変わったのだと考えた方が良さそうだな。しかし困ったぞ。相手が誰であれ油断出来ない事は間違いない。むしろ強敵と言って良いだろうし)

そんな事を思いながらも必死になって頭を働かせるが打開策が全く思い浮かばない。すると相手の方が先に口を開いた。

「ふむ。君は、いったい、どういう存在なんだ?」「どういう存在とは、どういう意味ですか?」

とりあえず話に乗って会話を試みるが内心で冷や汗をかいている。だって彼女の質問が明らかに僕を見極めようとしているのが伝わってきたからだ。だからこそ下手に答えたらマズイ事になると思った。そんな僕に対し、やはり、その考えが正解だったのか彼女は、ある提案を出してきた。

どうやら僕を配下に加えてくれるようなのだ。だけど僕としても断る理由は存在しない。

なんせ彼女が傍に居る限り勇者が死ぬ可能性が低くなる上に僕の計画に必要な駒が増えてくれる可能性があるのはメリットがあるからね。

そして、この機会を利用して勇者が本当に存在するかどうか確かめたいと思っていたのも事実だ。だって、もしかすると僕と同じ勇者が居るかも知れないから。もしも居るとすれば僕の邪魔になる可能性が高いから排除しておく必要があると考えていたから丁度いい。そして勇者を殺すのに一番効率が良い方法が勇者の力を手に入れること。その為に僕が求めているものは二つ存在しているが、どちらも勇者が持つものなので非常に望ましい状況と言える。しかし疑問もあった。

(どうして、この人は勇者を殺そうとしたんだろう?)と、それが分からないので、とりあえず、その点を尋ねた。しかし返答を聞いた限りでは自分の中で生まれた疑問が解決されそうな気がしたので彼女の誘いに乗る事を決めると意識を失うのであった。

「ふう、やっと気絶したみたい」と呟いて僕は意識を失った彼の頬を指先で軽く突きながらも先程の出来事を思い出していた。それは僕が闇の女神と名乗る女性と一対一で話をした際に起こった出来事である。

正直に言えば僕は彼女に勝つつもりで戦いに臨んだが予想外の事が幾つか発生してしまい結果的に敗北してしまい命を奪われる寸前にまで追い込まれてしまった。そんな状態で僕は自分が死んだ後に、どういう理屈なのか、わからないけど新しい肉体を手に入れて復活したらしい。そして僕の記憶や人格といった物は引き継がれていて、しかも勇者として生きていた頃の記憶や経験をも引き継げた。

どうして、こういう事になったのかというと僕の魂が、どういう訳か彼女の物と同質の存在となって融合する羽目になり、その結果、彼女は消滅せず、僕は勇者の器という、ややこしい存在になってしまったのが、その真相であった。

(それにしても厄介な事態だ。まさか、よりにもよって、この僕に成り代わって勇者をやれと言われるなんて、これは完全に予想外だよ)

勇者の体は僕の物であって、そして今の僕は彼女の体に意識だけが取り憑いている状態である。そのため本来の勇者の体に入っている彼女が目覚めると、その体の支配権を奪われてしまう危険性が高いため迂闊に起きる事も出来ず。結果として、この勇者に意識を取り返してもらい元の姿に戻りたいという欲求が生まれてしまっているのだ。

そのせいで僕は彼女が勇者を殺してしまう可能性に賭けて彼女を眠らせた上で行動を起こしたのだが見事に返り討ちにあってしまったのである。そんな風に自嘲していると彼女が声を掛けてきた。

「どうだい、気分は、どんな感じだ?」「ああ、うん。特に悪くないけど」「そうか、それなら良かった」

彼女が笑顔で応じた事で僕もつられて笑みを浮かべる。それから少しの間、彼女と世間話みたいなのをしていると彼女が本題に入った。

ちなみに僕は彼女の事を知らないふりをする事に決めたため何も言わずに話を聞いていた。「なあ、君は、どうやって魔王を倒したいと考えている?」「魔王の討伐ですね。うーん、やっぱり最終的には魔王を倒せたら最高でしょう。だけど、そのために僕は力が必要で、まずは聖剣を手に入れるのが一番の近道だと思っています」

そこで彼女の眉がピクっと動いた。

僕は彼女の様子がおかしい事に違和感を覚えるが気にしない。「聖剣を手にする為に君が行おうとしている事は知っているよ。だからこそ確認したい。もし私が、君の行動を邪魔するような事をしたら、その時に、どうするつもりなのだろうかと」「もちろん抵抗しますし全力を尽くしてでも貴方を止めます。ただし、それで貴女に危害を加えても、こちらとしては後悔しないと約束しておきましょう」

僕の言葉に彼女は嬉しそうに微笑む。ただ、その直後に悲しげな表情を見せ始めた。何かあったのかと思っていると彼女は僕に対して謝ってくる。

そこで彼女の口から驚くべき真実を聞かされるのだった。

彼女の口から語られた事は衝撃的だった。

何しろ彼女が闇の女神と呼ばれる神だというのだ。そんな彼女は今、こうして生きているのは奇跡に等しく本来なら死んでいなければおかしい存在であり、それを可能にした理由は闇の女神の持つ特性による恩恵を受けたかららしい。

そして僕の場合は闇の女神が持っていた特性を彼女が持っているせいか闇属性魔法や闇の女神が持つ固有スキルを使用する事が出来ていたのだが、そんな事は彼女にとって、あまり重要ではない様子だった。重要なのは僕と闇の女神が融合した事による影響だと言われた。そして、その影響というのは闇の女神が持っている力を使えるだけではなく他にも色々と特典がついてくるようで彼女には三つの変化が生じると言うのだ。

一つは彼女と同じように不死身の存在となった事。ただし彼女は死ななくても老化は普通に起こり、寿命で死亡する。

二つ目が不死者特有のデメリット。彼女は普通の食事が食べられなくなり空腹を感じるようになるので常に食べ物を口にしていないとお腹が減って仕方がない体質になってしまい定期的に人間を食料とする必要がある。ただし食べなくても平気な日も有るようだ。三つ目として人間や魔物に恐怖を与えると魔力を摂取出来るらしく、これによって彼女は食事を必要とせずに活動できるようになるのだそうだ。そして僕と闇の女神との繋がりが強くなればなるほど闇の女神の力を自由に行使できるようになるため彼女の存在は僕に依存する事になるのだという。

ここまでの説明を受けて、とりあえず、これからの行動指針について彼女に相談を持ちかけた結果、いくつかのアドバイスを受ける事ができた。その前に彼女が何故、勇者を殺そうと考えたのか尋ねると勇者の体が欲しいからだそうだ。

闇の女神として勇者を殺した際に発生する魂を吸収したかったらしい。だけど僕達、闇の眷属には勇者が持つような特殊な才能が存在しなかったから、なかなか殺す機会が訪れなかった。だから闇を司る者として、どうしても勇者を手に入れたかったというのが本音だと教えてくれた。

(闇の神といっても神様の世界も楽じゃないってことなのかな?)と、そう思いながら彼女に相談すると彼女は肯定して勇者を仲間にして共に行動するのが良いんじゃないかと助言してくれたので素直に受け入れる。

ちなみに勇者の仲間になるのを断ろうとしたら殺される可能性が高いと忠告されてしまった。どうやら僕に施された呪いのような力は彼女が関係しているらしい。

そして闇の女神として勇者に接触する前に僕の方から彼女に話しかけておく事にする。「あのさ。僕の方は、しばらく勇者に意識を任せているんだけど、そろそろ交代してもらえませんか?」

僕のお願いに対し彼女は苦笑いしながら首を横に振ると、このまま僕の意識を使っていてほしいと頼み込んで来たのだ。そして僕は自分の意識が、いつ、この勇者に取り憑くのか分からないので怖いという事情を告げたら渋々だが受け入れてくれる。「勇者が死ぬのを待つ間だけ、よろしく頼む」「はい、分かりました」

こうして僕は彼女と握手を交わすのであった。

◆ 俺は目を覚ますと同時に周囲を見渡した。すると視界に映るのは、どこまでも続く荒野と地平線まで伸びている一本の道だけであり、それ以外は人が住む建物さえも存在せず延々と広がる荒れた土地ばかりだ。(いったい、ここは、どこなんだろう?)と内心で思った時、不意に、そんな事を考えていた自分に驚きを抱く。今までの俺であれば他人が居る場所に一人で居るなんて異常事態が発生すればパニック状態に陥り冷静に物事を判断できないはずなのだが、何故か、そんな気持ちが起こらないのだ。

そんな自分に対する戸惑いを抱きながらも俺は歩き始める。目的地が決まっているわけでは無く単なる衝動で足が動いているのだ。暫く歩いていると、この景色に見覚えがあると感じるようになっていた。

この風景を知っている。

いや、この感覚が本物かどうかを疑う余裕さえ無かったので必死に思い出そうと頭を働かせ続けた。

(あれ、なんだっけ? この風景は、何処で見たものなんだ?)と考えていると急に激しい頭痛に襲われた。頭を抱えながらも思い出そうとするが、痛みのせいで思考がまとまらない。そうして暫くの間、その場に倒れて動けなくなると意識を失ってしまった。

◆ それからどれくらいの時間が経ったのだろうか。ふと、気が付けば地面に寝転んでいた。しかも服装は鎧姿で剣を持っているという状況だった為、一瞬だけ困惑したが、すぐに状況を思い出す。そう、これは俺が勇者として戦っていた頃の記憶だ。

(そうか、確か闇の女神が俺の中に入り込んだ影響なのか)

どうも今の俺は昔の自分自身に体を返してしまったようである。そして今の俺の状態が過去の自分だと仮定すると現在の自分は闇の女神として勇者の肉体に入り込んでいる状態のようだ。そんな風に思っていると背後に誰かの存在を感じて振り向いた。

そこには一人の女性が立っていたので声をかける。

「えっと、こんにちわ」「ああ、君が、この世界にやってきたばかりの、お兄さんですか?」「ああ、そういう君は俺の中に入って来た女性で間違いないか?」「はい、貴方の体の中に入れて貰った、女神のリシアと言います」

彼女の自己紹介を聞いた事で目の前の女性が誰なのかを思い出した。

この少女は闇の女神だ。そして、なぜ、彼女が今ここに居るのかを考えるが、その理由は不明だった。とはいえ今の俺は自分が勇者であった時の記憶と知識を全て受け継いでいるので彼女が何故、こんな場所にいるのかを理解して、それに合わせるために演技を行う。

勇者であった頃と同じ口調を心掛け、この世界の事を全く知らないという雰囲気を出しながら質問を投げかけてみる。「えーと、その前に幾つか聞いてもいいかな」「はい、構いませんよ」「それじゃ聞くけど此処は、どこなんだ?」

その言葉を口に出した直後、彼女は少し困ったような表情を浮かべた。

「それが貴方は自分が何処から来たのかも分かっていないようですね」「そうみたいですね。あ、ごめん、つい敬語を使わずに話をしてしまいました」「気にしなくていいですよ。私だって普段は普通の話し方で貴方に接していますし。それと私は今、貴方の住んでいる世界とは別の場所にある空間に居ますので心配はしなくても大丈夫です」

彼女が話した内容は驚くべきものだった。しかし彼女の言葉を信用して問題が無い事も理解したので「そうですか」と返事をして続きを待とうとするが、その時、妙な事に気が付いた。彼女の瞳から一筋の水滴が流れ落ちるのが見えたのだ。そこで何となく彼女が涙を流していた理由に想像がついたので「ああ、もしかて、また失敗したので泣いちゃいました?」と話しかける。彼女は、それを聞いて微笑みを見せるが涙を拭き取る仕草を見せた。そして少しの間を開けてから口を開くのだ。「実は失敗をしてしまいまして、勇者の体に、こちらの意識を取り込まれてしまいました」「へぇー、それは大変だね。で、どんな感じの事をしちゃったの」「簡単に言うと、そのー、貴方に殺されたので、そのまま意識を奪われてしまったんです」「そっか、うん、分かった」

それなら彼女は死んだ状態で勇者の意識に乗り移ってしまったため何も出来なかったのだろうと納得する事にしたのだが、それでも疑問は残っていた。「ねえ、なんで今回は逃げ出さなかったの?」「今回、というより、ここ最近ずっとそうなんですよ。何しろ勇者である彼の傍には闇の女神に相応しき力を持った存在がいるから、なかなか逃げる事が出来ないんだよね」

(どういう意味だ? 俺以外に魔王に相応しい者が存在しているっていうのか? それとも勇者の近くに闇の神が存在するという意味なのだろうか? あるいは、どちらも正解って可能性か?)などと色々な予想を立てて考えるのだが答えが出る事はなかった。そして彼女に色々と尋ねた結果を纏めると勇者の近くに存在する闇の神らしき者は人間ではなくモンスターであり、おそらく勇者の持つ聖剣の力の影響で進化する可能性があるのでは無いかと思われる。

つまり現時点で分かる事実はこの二つだけである。

一つ目として勇者の近くに居る何者かは闇の女神の眷属なのかどうかは分からないが人間ではない事。二つ目として彼女が人間だった頃から知っている相手で勇者の関係者だという事。その二つを考慮に入れれば、ほぼ間違いなく人間では無く勇者の関係者が犯人だと判断できた。

そんな事を考えながら勇者として闇の女神と会話を続けると彼女は、これからの方針について語り始めた。それによると闇の女神として闇属性魔法を操る素質のある人間に転生し勇者の力を身に着けるつもりのようだ。その目的を果たすために彼女は闇属性魔法の適性を持つ人間を探すべく動き出すと決めた。ただ、その際に注意点があるらしく闇属性の魔法を使用する際は人間の体内から発生する魔力を用いるので魔法を発動する前に相手の意識を奪い取る事が必要だと説明するのだ。

なので、まず最初に行うのが気絶させて、その後に魂を吸い上げる行為らしい。このやり方であれば相手が死んでしまっても問題は発生しないので闇の女神としての本来の力を振るえるようになるのだという。ただし彼女は自分の中に勇者として取り込まれた影響で闇の女神としての力と魂を吸収した際のデメリットも共有してしまうらしい。そのため自分の体を維持するには定期的に人間の魂を吸収しなければ死んでしまうらしいが、それも勇者の肉体ならば魂を吸収しても体力や生命力は低下せず、むしろ吸収した魂の量に応じて強化されるという事だ。(これって完全に勇者の能力だな)と思った瞬間に思わず吹き出しそうになった。そんな俺の反応を見て、不思議に思ったらしい彼女は「何か変な事を言ったかな?」と話してくるので俺は苦笑いするしかなかった。

ただ、もしも本当に俺の中に居る彼女が原因ならば、この状況も、さほど悪い事でも無いのではないかと思えたのだ。

(まさか彼女が僕の肉体に憑依して行動を起こすなんて思いませんでした)と内心で呟いた俺は彼女の指示に従う。

今の俺はリリスの意識で、あのレイスの家に転移している最中であった。

(だけど、どうしようか? とりあえず僕の方からも彼女に接触を試みて協力をお願いするべきかもしれない。とはいえ僕の方からは下手に声をかけて怪しまれる訳にもいかないしなぁ)

なんて悩んでいる内に、あっという間に家に到着してしまう。どうするか考えながら家の中に入るのだがリリスが部屋に戻るとクレアさんは笑顔を見せてくれた。どうも僕は彼女達にとって家族のように扱われているようで非常に居心地が良かったのを覚えている。だから、しばらくすると自分の方から彼女に話し掛けたいと思うようになっていったのだが、そこで一つの大きな問題が生じていた。そう闇の女神として彼女に干渉できるかどうかという問題だ。

闇の女神が宿っている勇者に干渉するには闇属性の適性を持っていなければならない上に相手に接触して行わなければならないが、その肝心の相手が、どこの誰かも分からない以上は、そんな事は不可能なのだ。しかし現状でリリスの体を操れるのは自分だけなので、この問題を解決しない限りは自由に動かせる時間は存在しないだろうと考えた俺は悩みに悩んだ末にリシアと相談をする。そこで彼女が提案したのはリシアが自分の体の中に入った後に彼女の人格を呼び起こしてもらい事情を説明して欲しいと頼んだ。

そうして、すぐに闇の女神の人格が表に出るとクレアに説明を行う。そして僕が彼女の正体を闇の女神であると告げた上で協力して欲しいと話すと彼女は首を横に振った。その理由としては今の勇者に宿る存在と闇の女神が同一であるという証明が出来ないので無理だと告げられる。ただ闇の女神本人と勇者は同一人物なので自分が本物で有る事を説明したが信用されず「やっぱり嘘なんでしょう?」と言われた時は流石にショックを覚えた。そして最後には「どうせ勇者様も本当は闇の女神で私達に近付いて利用しようとしているだけじゃないの?」と問い掛けられて返答に困ってしまった。

確かに自分は闇の女神だ。しかし、それが自分一人の力で出来たことではない事は確かだ。しかし闇の女神は女神の肉体の一部に過ぎない為に女神自身とは言い難く「いや、それは誤解だ」と言い返すと何故か「ほらね。貴方の正体だって怪しいものだわ」と言われる。

どうして良いのかわからず「そういえばさ、君の旦那さんが魔王を討伐して戻ってきたら君と一緒に居られないから離婚しようとかいう話になっていたみたいだけど大丈夫なの?」と話題を強引に変える。すると彼女は「大丈夫よ。そもそも私だって別に彼が好きなわけでは無いから。それに今は別の人が彼と結婚して幸せに暮らしているわ」と言うのだ。そんな彼女の言葉を聞いて「へぇー、それなら、なおさら君も早く他の人と結婚した方がいいんじゃないの?」と口にすれば彼女は「それじゃ貴方と結婚しましょう。それで全て丸く収まる筈よ」「はっ?」と声を上げた。するとクレアという女性は頬を赤めてモジモジとし始める。「そ、そのね。私は、貴方の事が好きで、そのー」「いやいやいやいや、何を言い出すのかな!?」慌てて否定しようとするのだが、そこで部屋の外から足音が聞こえてきて扉が開かれるとレイスが姿を現した。

そうして現れた勇者は僕達の姿を見て、何が起きてるんだろうといった様子で固まってしまったのだ。「あ、お邪魔してるね」と一応は挨拶を行ったものの彼は、まるで石像になったかのように動かない。そこで僕は彼に「あれ? 勇者? どうしたの?」と呼びかけると「え? あ、ああ。えっと、なんだ、俺、疲れて寝てたみたいで、今起きたんだけど、これは一体、どういう状況なんだ? 何が起きたんだ?」と困惑しながら質問してくる。そこで闇の女神であるクレアから、どのようにして僕の体に彼女が乗り移ったのかの説明を聞く。彼女は僕が魔王として君臨した時の事を思い出して恐怖に顔を青ざめさせており、どうにか元の勇者に戻ってくれるように必死に頼み込む。そして彼女の話を聞き終えた勇者が僕を睨みつけるのだが。

その視線には殺意が込められている事に気が付き「おい! お前は誰だ?」「いや、誰と言われても、ただの人間だよ。まあ、闇属性の適正を持っていたりとかはあるけどね」

すると勇者は自分の右手を見ると「ふむ、なるほどな。だが貴様に用はない」「えーっと、それは酷くないか? 僕と君って友達だよね」「いいや、違うぞ。俺にとって君は友人ではない。だから死んで貰おう」と言って剣を抜き放つのだった。そして振り下ろしてきた剣を闇属性の魔法を発動させる事によって防御に成功するとレイスは僕に対して語りかけてきたのだ。

どうしたら勇者を説得して自分の元に戻せるだろうか? と頭の中で考えているとリリスから提案をされた。それは自分が闇の属性の魔法を使う際に勇者から魔力を奪って使うという方法だった。それならば、もし仮にリリスの意識が残っている状態で魔法を発動しても、その効果は勇者に吸収されてしまうだけで意味は無いだろうと考えるのだが、リリスは、それではダメだという。何故なら闇属性魔法の発動には人間の体内に存在する魂を吸収する必要があるからだ。つまり勇者に寄生している状態の彼女には魂が存在しないために普通の攻撃が通用しないらしい。

そんな話をした後に彼女は僕の体を自分の方に移動させる。そして自分の中に居る勇者に向かって「さっきの言葉を取り消しなさい!」と命じた瞬間に僕の体は光に包まれていった。

そして次の瞬間に僕の意識は再び暗闇の世界に引きずり込まれていき視界は完全に真っ暗になってしまう。

どうやらリリスに憑依している闇の女神とリシアに憑依している闇の女神の二人が勇者の意識を取り合っているのだと彼女は言う。しかし二人の戦いが始まって数分後に状況は変化する。どうやらリリスの方の闇の女神が勝利したらしく勇者の意識を奪い取る事に成功したらしく。闇の女神は僕の中にいる彼女へと語りかけると僕の体の制御を奪い取る事に成功してしまう。そんな事があってからリリスの意識は闇の女神として覚醒を果たす。

闇の女神の意識が目覚めた後は彼女は僕の中に居る闇の女神から勇者の身体を取り戻すべく動き始める。どうも彼女は自分の中に闇の女神の人格が存在しているのを知ってしまったために闇属性魔法の習得を決意したようで。

そこで僕は勇者に殺される寸前のところまで追いやられて、ようやく彼女が何を目的として行動を起こし始めたのかを理解できたのだけど。もう既に時遅く闇の女神の魔力は彼女の体内に宿ってしまい、彼女は闇属性魔法を操る力を会得したようだ。ただ問題は勇者の中に取り込まれている魂を引き剥がす事が不可能に近い事であり、また闇属性魔法を使用して肉体が消滅してしまった場合にも命を落とす危険がある事だろう。

そうしてリリスは勇者の中から闇の女神を取り出す為に行動を開始するのだが、闇属性魔法の効果には他人の魂に接触する必要があるらしい。だから彼女は勇者を気絶させてから、その身に宿る魂を奪う必要があったようだ。ただし肉体に宿っている魂は、すでに死を迎えている人間のものであり生身の人間が宿っている魂に触れる事など不可能だ。だから闇の女神の意識が存在する今の僕にも無理なのだが。「そういえば、あなたが私の意識に気づいたのはいつなのかしら? 私が憑依する前の意識があった頃の話だけど」と聞かれたので答えようか悩んだのだが。

しかし僕の口から説明をする前にリシアの方が先に反応を示した。

どうやら彼女が何かを話したい様子だったので僕は彼女に説明を任せる事にする。「貴方と勇者さんが出掛けた後ぐらいです。最初は気のせいだと思いました。勇者さんも、その、少し変わった人だけど悪い人じゃ無いし。ただ、あの時は勇者さんとクレアさんが一緒に出かけていたので寂しくて、つい貴方が帰って来るのを待っていましたが、なかなか戻ってこなくて不安になり家から出て、そこで貴方の背中が見えました。そこで私は貴方の傍に行けば寂しさも消えると思って追いかけたのですが。途中で急に眠くなってしまって。その日は家の中に戻ったらクレアさんも居なくなっていて凄く悲しかったんです」

その話を聞いた闇の女神の表情に変化が訪れる。リシアの言葉に反応したのか。それとも僕の体の方に反応をしたのかまでは分からないけれど。するとリシアは言葉を続ける。「それから貴方は毎日のように出掛けていましたね。私も付いて行こうと思い家から飛び出した事もあります。でも、すぐに家に帰りたくなってしまうんです。どうしてか分からないけど心の底から貴方に会いたいと思えないんですよ。そして夜になっても貴方が戻らない日が続いた頃でした。私の元にクレアと名乗る女性が訪ねて来たんです。彼女は勇者の妻だと言いながら自分が勇者と結婚した時に、どういう風に生活をしていたかを語り出したんです」

そこまで話が進むと僕と闇の女神の会話が始まった。どうやら闇の女神の目的は僕を殺す事が第一目的ではなくて、あくまでもリリスの中にある闇の属性の力を使いこなす事で。その力を利用して闇の女神が表に出ても勇者に危害を加えるような事は出来ないようにするつもりだと語ったのだ。その方法は、まず闇属性で生み出した闇に僕が喰われてしまえば、その時点で闇属性は僕に所有権を奪われてしまい勇者に取り付くことが出来なくなってしまうらしい。なので僕が死ぬわけにはいかない理由が存在してしまうのだ。しかし一方で闇の女神はリリスと融合する事によって勇者の中に取り付いた闇の属性を分離させる事に成功をすれば彼女の肉体から闇の属性の魔力が失われるので、その肉体は自然と消滅する事になると言う。そうして闇の女王となった存在の寿命は、この世界において数百年は存在すると言われているが、それ以上は存在しない為に問題はないのだろうと口にされたのだ。「そうですか。つまりリリスさんの中の闇の力が消えてなくなるまでに私達が魔王城から脱出しなければ死んでしまうという訳ですね」「そういう事よ。ちなみに、どうして、こんな話になったのかと言うと。貴方に一つだけ確認をしておきたかったの。もしも貴方が魔王城の外へと出て勇者が死んでいれば私は勇者との勝負に負けるという扱いになる。そうなった場合には闇属性を手放すつもりでいるわ。でもね、もしも、その前に勇者が生きて戻ってくる可能性があるのなら私は諦めずに貴方達を殺しに行くつもりよ」と彼女が言い切った。

そこでリリスが僕の顔を見て困ったように笑みを浮かべた。「それで貴方の意見は? 貴方だって死にたくないんでしょう? だったら、このまま、ここに残って私達の手伝いをするのね」と言われたのだが、そもそも僕には闇属性の適正があり、それは闇の女神から授かったものだと言えるのだ。だから僕は自分の体内からリリスの体へと移動してリリスの体を乗っ取った闇の女神を睨みつける。「え? え? ちょっと何が起きてるの?」とリリスは戸惑っていたのだが「あーあ、やっぱりダメだったのね。まあ仕方が無い事だから気にしていないけど。ただ残念でしたー。勇者の魂を闇の女神である私の手に渡すという選択肢は絶対に選べないから。という事で覚悟しなさい。まあ、とりあえず魔王城に案内してくれるかしら? そしたら貴方の体に寄生している、その女に用は無いから」と彼女が告げるとリリスの体を乗っ取た女神に対して攻撃を開始するのであった。しかし僕の放った攻撃は、その身を切り裂くどころか触れる事も出来なくて。

どうしたらいいんだよ。と悩んでいるとリリスが「落ち着いて下さい」と声を掛けてくる。どうやら僕が混乱しないようにと落ち着かせようとしているみたいだけど、どう考えても僕が焦っているのは彼女の仕業だとしか考えられないんだけど、それにしても僕の魔法は通用しなかったのは何が原因なのか? それは、まだ僕に理解出来ない事だった。

勇者の中に存在している闇属性の女神をどうにかしたいと思っている僕に対して、勇者と一体化をしたままの状態ではどうしようもないので、その身に宿る魂を抜き取ってリリスの中に封じ込めてリリスの身体を闇の女神の依り代にしてしまう必要があると告げた。そうしないと闇属性魔法を扱う上で邪魔になってしまうそうだ。しかし、それでは勇者の魂が永遠に抜け出る事が無くて彼女の肉体を永遠に支配し続けてしまうのは明らかだと思うのだが。それについての説明を聞いていくと、勇者は闇属性魔法の適正がある人間だが、闇属性魔法の使い手として生まれてきたわけではなく、たまたま適正を持っているだけの普通の人間であって。闇の女神として目覚めている状態の彼女と魂が同化をしても彼女の意思に逆らう事が出来なくなってしまうらしい。そうして彼女がリリスの肉体に憑依した状態が続くと肉体の方は、いつか衰弱していき最後には死に至るのだという。

それを聞くとリリスは僕に向かって頭を下げて「勇者さんの事は私に任せて下さい」と言った。どうやら勇者を助けるために自分が犠牲になっても良いと考えていそうな感じだったので「待ってくれ」と止めるとリリスは僕に向かって「お願いですから、私の命を使って勇者さんを助けて欲しいなんて事を考えちゃ駄目ですよ」と言ってきた。そんな事を考えている訳ではないけれど「貴方は私の命なんか惜しがる必要なんて無いんですよ」と彼女は笑顔で言うので、それを聞いていた僕は「違うんだ。君は勘違いをしている。勇者の奴が君を見捨てるような真似をするわけがない。だから僕は君の力を有効に使う方法を思いついたんだ。だから頼む、協力してくれないか?」と僕が言うと、リリスは嬉し涙を瞳に浮かばせてから「はい。分かりました。それで勇者さんが助かるのであれば喜んでお受けいたします。ですが私は、もう勇者さんの妻じゃなくて勇者さんの所有物なんですから、どうか勇者さんの事を信じてあげてください」と言われた。だから僕としては当然のように「信じているさ。お前は俺の妻であり仲間なんだから」と告げる。そうするとリリスは嬉し泣きを始めたので僕は彼女が落ち着くのを待ちながら彼女に質問を行う事にした。

勇者に憑りついている女神の事だ。その正体が何者であれ、やはり闇属性の魔法は、かなり強力な効果を生み出すようだ。だからこそ勇者は闇属性の力を手にする為にリシアを誘拐したという理由が存在したのだろうと思う。

だけど、もしも勇者に魔王城を襲撃された時に闇の女神の力を借りて僕が戦うとしたら、どうやって戦えば良いのか? その事を考えると闇の女神が操る闇には対抗手段が存在するのかどうか? そこを確認しなければならないのだが。「勇者が貴方を殺そうとしている理由について説明をするつもりは無かったけど教えておくわ。勇者の肉体に闇属性の適性があって貴方は魔王城の外で闇属性を扱っていたのよね。つまり闇属性の適正を持った人間が存在しているという事が知られれば、その力を求める輩が現れるのは確実でしょうね。その力を利用して勇者の国を繁栄させようと考える連中が居るはずだから。だけど勇者は闇属性の力を手に入れた時点で、その力を自分の国の発展のために利用する気は、さらさら無かったわ。それでも勇者の傍には、そういう力を手に入れようとする存在が現れてしまったのよ。だから闇属性を手に入れる為には勇者は殺すしかなかった。ただ、その方法に勇者の嫁を巻き込んでしまった事が彼の失敗なのよ」

そこまで聞いて闇の女神の言葉が事実であるならば。確かに僕は彼女の話した内容を実行する事が出来るかもしれないと考えたのだ。闇属性の力で生み出した闇によって勇者とリシアの肉体を支配してしまい。そのままの状態で魔王城に連れて行く。すると僕の体内に封印されているはずのリリスは、どういう理屈になっているのか知らないが、僕の体の外に出られるというのだ。そうする事で彼女は肉体を失ってしまう事になるが、その前に勇者と分離する事が可能だという。

ただしリリスの体から分離した闇の女神が僕を殺す可能性も存在している。しかし僕の体内に封じられている闇の力が、どれだけの強さを持つか? その点を確認する必要があった。

そして実際に勇者がリリスをどう思っていたかは不明だが、闇の女神を宿す事が可能なのが勇者と、この僕だけなのだとすると。他の誰かにリリスを任せる訳にもいかないと思った。

だから、もしも勇者を闇属性で支配できたら、その時こそ闇の女神に勇者を取り押さえさせて僕自身が彼女と戦うしかないのだ。

「あのね、勇者が勇者として生きるのを辞めたいって思った事は何度もあったわ。でも私は勇者が、いつ、その言葉を口にしても構わないって覚悟だけはしていたつもりよ。でも貴方は違ったのね。私は勇者を闇属性の力を持つ、ただ一人の男性として見ていたつもりなのに。その気持ちを踏みにじられた気がしたの。それでね。その件について私は貴女を許すつもりはないわ」そう告げると闇の女神は姿を消したのであった。「待ってください」と言いかけてリリスの声は途中で止まってしまう。おそらくリリスが闇の女神に対して話しかけようとしても通じなかったのだ。それは彼女が既に闇属性の魂を奪われてしまっている事を意味しているのだが。僕は、それでも諦めずに勇者に取り付いている闇の女神を倒す方法を考えなければならなくなった。「ご主人様は闇属性を使うことが出来るのですね。凄いですね。私だって、その力は扱えないのですけど。やっぱり勇者さんの旦那様なだけありますよ。それとも、その力が特別なのですか?」と聞かれたのであったが。「特別とか、そういう話は、あまり興味ないから分からないよ。それよりも問題は魔王城にあるんだよ。リリスさん、勇者を魔王城まで連れてくる事はできないかな? そうしないと勇者の魂に寄生している闇の女神を何とかする事が出来ないんだ」「はい、頑張ります。でも、勇者さんは闇属性の力を扱えるはずですよね? どうして私の力で、あんな風に操られているんですか?」

リリスが疑問に思っている事に対して僕も同意見ではあるのだが。それは闇属性魔法は扱いが大変なだけで。本来は危険な能力ではないからだ。むしろ使い方次第では大きなメリットを生んでくれるのだが。闇の女神の力を使いこなせる者は闇属性魔法を極める事が出来るとされている。

そもそも魔王は闇属性魔法の極致に達しているのだとリリスに言われている。その彼女が、どうして勇者の事を救ってあげる事ができないのか? それは闇属性魔法が使える人間であっても、闇属性魔法を完璧に極める事は出来ず。闇の女神を体内に収めている人間は例外的な存在だと言える。それは闇属性の魔法は扱うのに体力が必要だから、そう易々と使う事ができないという理由もあるのだが。闇属性魔法を極めた者でも肉体と精神の疲労に耐えきれずに死んでいった者が歴史上何人も存在する。だからこそ歴代の魔王は闇の女神の力を勇者から取り上げる事をしなかったのだと思われる。そう考えてみると僕の体内に存在する闇の女神がリリスに対して僕に対して危害を加えないようにと頼んでいる事からも。

勇者が闇属性魔法を扱う事が出来ても僕に迷惑を掛けないように配慮していてくれていた事が分かるのであった。

だけど勇者の奴は自分の事しか考えて居なくて闇属性の力を手放した事で勇者としての人生を終わらせようとしているようだ。しかもリリスの事を愛してはいないどころか嫌っていて殺そうとまで考えているような人間なのだ。それに比べてリリスの勇者への愛は本物だし、僕は勇者の人格に惚れ込んでいる。だからこそ彼女を死なせたくないと思ってしまった。

だから僕の中で、その方法を考えた結果。闇属性の魔法で作り出した黒い霧を使って魔王城の外に運び出すのはどうかと僕は考えた。

まず最初に僕自身の身体の中に存在している闇の力を解放する為に自分の肉体を乗っ取らせる為に勇者と融合を果たした。その上で、勇者の意識を封じ込めて肉体の支配権を奪おうとしてみたものの上手くいかなかった。だが闇の女神の力を使ってリリスを魔王城に呼び寄せてしまえば後は、なんとかなりそうな感じがする。

しかし闇属性の魔法は扱いが難しくて闇属性魔法の極致に達した魔導士が操っても闇属性の魔法を操る事ができる者の中には死者が数人は出てしまうと言われている。

その事は勇者の妻だったリリスが知らないわけがないはずだし。そのリスクが理解できていないとは思えないのだけど。そんなに簡単な魔法なのだろうか? それを考えると不安が過るのでリリスに向かって質問をしてみた。すると「私の事を心配してくれるんですね」と笑顔で言われたので、そこで僕は質問を間違えてしまった事に気が付いた。「いや、そういうつもりでは。ただ、もしも君が闇属性の魔法を使えば、どういう風になるのかが気になっただけだ」僕がそう答えるとリリスが「そうですよね。私が失敗したら貴方が死んでしまうかもしれませんから」と言われた。

リリスの表情は笑っていたが、しかし瞳の奥は笑ってなどいない。彼女は本気で僕を闇属性魔法で勇者と分離させた上で。勇者とリシアに戦いを挑もうと考えているように思える。だからこそ僕は彼女の暴走を何としてでも止める必要があると思ったのだ。

「大丈夫だ。僕は闇の女神に殺されたりなんかしない。それより僕が勇者の身体を支配した後。勇者が魔王城に居る君の所に、どうやって移動するのか、そこだけが気がかりなんだ」僕が質問を行うとその回答には意外な人物が姿を現して答えてくれた。「簡単だよ、勇者君の体内には、まだ魔王城にいる闇の女神が残っている。つまり肉体を失った彼女の残りかすが魔王城に、そのままの状態で留まっているのだけど。そこから彼女の気配を頼りに勇者君が自分の意思で魔王城に辿り着く。それを行えば、わざわざ魔王が魔王城に出向いて魔王自らが出向くなんて面倒臭い真似をする必要性も無いという訳さ」そう説明するのが魔王のレイラであった。

そうして僕が闇属性魔法を扱えなければ、勇者と闇の女神を同時に体内に宿した状態で勇者を殺す為に、ここまで来ないといけないと思っていたけれど。実際には僕の中に残されているリリスのおかげで勇者を始末した後に彼女を連れて来るだけで良いみたいである。しかし、これはあくまでもリリスの力に頼る事でしかないのは事実である。

だから、もしも、ここで僕達が勇者に殺されるような事があれば本末転倒であり。そうならない為にも僕達は必死に戦った。

僕も全力を出し切って勇者と戦ったのだが、結局は僕一人だけでは力不足な部分が有ったようで勇者は僕の命を奪う前に逃亡を図ったのである。その事にはホッとしたが。問題は勇者を取り逃がしてしまった事よりも。僕の中にある闇の女神を体内に取り込んだ勇者が生きている限り、いつ再び狙われる立場になってしまう可能性があるのは間違いない事だろうと思う。

だからといって闇の女神を自分の体に残したままで勇者を放置しておく事もできなかった。そう考えると僕の体内にはリリスと魔王が存在している事になるのだ。

そして勇者に肉体を奪われた魔王がリリスの前に姿を見せると、そのまま彼女の唇を奪い始めた。「ちょ、いきなり、何をしているのよ!」と叫ぶリリスだったが魔王が強引に彼女の舌を動かし始めた瞬間に、その声が途絶えてしまった。その光景を見て、このままではリリスが奪われると感じた僕は、すぐさま闇属性魔法を発動させて勇者の体を支配しようとするのだが、僕の魔力で操られる勇者は僕の行動を阻止するかのように抵抗を始めようとしたのである。そうか。やはり闇属性魔法を使える勇者であっても僕の闇属性魔法の方が強いようだ。ならば僕の力で勇者の身体を支配しようとしてみた結果。勇者が身に付けている鎧が黒く変色していくのを確認した。それは僕の力が、より強力になって支配力が向上したからに他ならないのかもしれない。

勇者は魔王によって闇の力で束縛された事を理解するのと同時に。目の前に立っている女性に対して警戒心を抱かなければならなかった。何故なら目の前に立つ女性が闇の神性を有しているのは確実だと判断する事が出来たからだ。

だから彼は即座に自分の肉体を操作した後に「俺を殺しに来たのか」と言うと、その女性は首を横に振って「いいえ。違うわよ」と答えてから「ねぇ、私と一緒に世界を征服してみない?」と言ってきたのだ。

その言葉を聞いた勇者は、どうして彼女が自分に近づいてきて、そう言ったのかを理解した。勇者は自分の体内で闇の女神と融合を果たしてしまっているので魔王を倒す以外には自分が助かる道は残っていない事を理解したからだ。それこそ魔王を裏切る事くらいでしか自分を助ける方法は存在しない事を、すぐに察してしまった。それに勇者は自分が、どんな風に魔王を裏切ったのかを知っていたから。その点について彼女に質問した。

「俺は魔王を、その。殺したはずじゃあ?」と聞くと彼女は「そうね。貴方が殺した事にしておけば問題は無いと思っているわよ」と返事を行ったので、その言葉で勇者も魔王に操られている事だけは確信を持てたのだ。だからこそ勇者は、どうにかして自分の肉体を乗っ取った闇の女神から主導権を取り戻そうと試みて、その方法を思案するのだが。そんな勇者の様子を見ながら彼女は「あら、どうして勇者君は、そんなに死にたがっているのかしら?」と話しかけて、そんな問いかけをしたのだ。

「どうしてだって? そんな事は、お前なら理解できているんじゃないのか? 闇属性魔法の力を完璧に扱える者しか扱う事ができない闇属性の魔法。それは闇の女神を体内に入れた者にしか扱えないと言われている。その闇属性の魔法を使いこなせる者は例外なく死を迎える。そんな力だぞ。それに加えて闇属性の魔法を使う為には闇の女神と融合した者でなければ駄目だと言われているんだ。だから闇属性魔法を完璧に扱える者が居なくなるだけで世界にどれだけの混乱が引き起こるかぐらい、それを知らない魔王じゃないだろ」と勇者が言うと、そこで彼女は少しの間を置いてから口を開いた。

「貴方の言っている事は正しい。闇属性の魔法を扱う事が出来る人間は例外無く死ぬからね。その事は否定はしないし。闇の女神の呪いから逃れる方法は無いとも言っておくけれど。でも私は闇の女神に呪われているわけじゃないし。そもそも魔王として君臨しているのだって、ただ、その方が色々と都合が良いと思っただけなのよね」

魔王の言葉を聞きながら勇者は「どういう意味だ」と言った。

すると魔王は「魔王というのは魔族の支配者という意味でしょ。だから私は闇の女神と融合した存在として。その力を十全に発揮できるように魔王という立場を利用して世界を征服すれば良いだけの話なの。別に特別な理由なんて存在しない」と返答する。そんな魔王の言葉を受けて勇者は「それで納得できると思ってんのか」と苛立った様子を見せる。すると、その勇者に対して、闇の女神が「魔王様のおっしゃる事が、すべて真実ですよ」と語りかけてきた。すると、そこで魔王が「まぁ。別に勇者君の疑問に、わざわざ答えてあげる必要も無いのだけどね」と答えた。

しかし勇者としては闇の女神に肉体を奪われているので、彼女の発言が嘘だった場合。自分の死期が早くなってしまう可能性を考慮してしまうと、このまま黙っていて欲しいと思うのだが、そこで勇者は自分の中に宿っている闇の女神が、こちらに意識を向けるように話しかけて来ていることに気が付いたのである。「勇者君。貴方の中に闇属性の魔法は宿っていないのだけど。どうするのか、そろそろ、はっきりさせたいのだけれど。もし嫌だというのであれば無理強いするつもりはないわよ」「俺の中で何をしたいっていうんだよ」「決まっているでしょう? 今度の戦いに備えて、まずは貴方の中にある残りカスを取り除いてあげたいと思っているわけ」

そう言われても勇者としては素直には従えなかった。何故なら今の自分の体は殆ど魔導兵器で構成されているようなものなので、この体を消滅させる手段なんて存在する訳が無いと考えていたからである。

だが実際に目の前にいるリリスに殺される覚悟を決めたら簡単に死んでしまうだろう。そう思ったら背筋が震え上がるほど恐怖を感じた。だから彼は少しでも生き延びる術を模索したいと思ったのである。それこそが闇属性魔法を操る人間を敵に回した者の義務なのだと考えた。しかし、もしも仮に生き残る為に彼女に従う事を選択するとしても。闇の女王として生きる事には興味が無かった。勇者が求めていた物は常に人々の笑顔であり。闇の女王として人々を脅かす事には何の意味も無い事だからだ。

「闇の女王になって俺に人々を怯えさせ続けよとでも言うつもりか?」

勇者が闇の女神に確認を行うと「いいえ、そういう訳ではないわ。でも闇を信仰していた者達は貴方を新たな王と認識し始めているわ。そうね、私としては、これからも、そうして崇められていれば魔王の座を手に入れるのも、さほど難しいとは思わないけれど」と言う。

その言葉を聞いた勇者は魔王に戦いを挑んで殺された後、闇の女神に肉体を乗っ取られた時の事を思い出してしまった。あの時勇者が戦った相手は間違いなく最強であるはずだった。それなのに自分は、いつの間にか肉体と精神を奪われてしまい。最終的には自分が仕えるべき主君であったはずの人物まで手にかけてしまう結果に陥ってしまったのだ。もしも勇者に戦う意志が無くなっていたら、きっと勇者を魔王にしてしまう事になっていただろうと想像してしまえる状況が思い浮かんだのである。「俺は戦いが怖い。もう二度と闇の女神の誘惑に乗って戦ったりなんてしないさ。俺は魔王になるのは絶対に拒否するが。それ以外の部分については全て従うつもりでいる」

その宣言を受けた魔王は微笑みを浮かべて勇者に近づくと抱きついてきてからキスをした。それはリリスとの行為よりも激しいもので、そのまま唇を奪われる形になった勇者は彼女の口づけを受けながら闇属性の魔力が流れ込んでくる感覚を覚え始める。そして闇の女神が体内に取り込んだ勇者に対して、ゆっくりと自分の魔力を流し込み、それが浸透し始めたのを確認する。その事を確認し終えた彼女は唇を離した。『勇者よ。貴様の肉体が私の物になった』と闇の女神は勇者に対して伝えた。

それを受け勇者は『あぁ』と小さな声を出した。それから彼女は、すぐに勇者から離れた。その際に勇者の肉体を操って勇者が装備している全ての武具を闇の力で破壊したのだ。そうやって身を守る為の武器を失った事で勇者の身体を覆っていた鎧は音を立てて地面へと落ちてしまった。

そうすると勇者の姿が完全に露出してしまった。そんな彼に向かってリリスが駆け寄りながら、そのまま抱きしめたのだ。「大丈夫だよ。勇者さん」と彼女は勇者に声をかけるのだが。当の本人は「リリス、俺は闇の女神に取り込まれたせいで、もはや人として生きられない体になってる」と告げた。

すると、その言葉を受けて、どうして彼が魔王に逆らう事が出来ないのかという事の本当の意味を知ったリリスは涙を流しながら彼に口付けをした。そして勇者に「愛しています。勇者さんの事が好きです」と告げると、彼女は彼の胸元に手を伸ばして、そこにある闇の力を浄化しようとし始める。

そんな二人を見て、これで自分の役に立つ人間は、とりあえず揃ったと考えて魔王は嬉しくなった。そして闇の力に染まった人間を光の力で元に戻せれば良いのだと理解できたのだ。その方法は既に把握出来ているので実行する事も可能だと判断する事も出来た。だから後は自分の手で魔王としての力を蓄えていけば良いだけだと思うのだった。

ただ闇の女王に転生した事によって手に入れた能力の全てが、どの程度の性能を有しているのかを確かめる必要があるので実験をする事にしたのである。それというのも彼女が手にした能力は魔王の力の根源となっている闇そのものなので、その性質を詳しく理解しなければ扱えないと理解したからだ。

「さてと、闇属性の魔法の使い方は簡単だ。勇者の体内に残っている闇属性を私が引き受けた後に勇者に返せば良い。そうすれば闇の女神の力は失ってしまうけれど、その代わりに勇者の闇属性を扱えて。しかも身体能力に関しては勇者を上回るレベルにまで達せる」と彼女は自分の知識の中から闇属性に関する事柄についての知識を引き出そうとするのだが、やはり、そこまで上手くいかないようだったので、まずは自分の目で闇魔法がどのようにして発動されるのかを確かめて見る必要があると考えると。彼女は魔王城に残っていた部下の兵士達を呼び集めてから闇魔法の扱い方を試そうとする。すると闇属性魔法を使用するのに適した人間は勇者とリリスだけらしく。それ以外の人間は扱う事が出来なかったのである。それでも闇魔法を発動させるコツのようなものが分かってきたような気がしたので、それを実践しようとすると、それを見た勇者は驚いた表情を浮かべ「おい、魔王。お前まさか?」と呟いたのである。

それに対して魔王は「えぇ、その通りよ。私自身が闇属性の魔法を使ってみたいと思ってるの」と答える。それだけではなく。彼女の周囲に黒い霧が出現をすると魔王は勇者の方に視線を向ける。「ねぇ、勇者君。少しの間で良いから、その肉体を貸さないかしら? 私は貴方の身体を少しの間借りて魔法を使った経験があるからね。少しの間だけ貸してくれれば闇属性の魔法を使う事ができると思うのよね」

すると、その問いかけに、どう返事をするべきなのか悩んだ勇者であったが、魔王は闇属性を扱う為に、あえて勇者が身に着けている魔導兵器を取り除こうとしていたので「やめてくれ。その力で魔王と戦うつもりは俺には無いんだ。だから魔王には魔王のままいて欲しい」と答えたのであった。

勇者の言葉を聞き魔王は、それならとばかりに勇者に口づけをした。「ありがとう」という言葉を残して勇者から離れると、そこで改めて魔王は魔王として闇魔法の使用を試みるのであった。

(やっぱり無理があるわよね。魔王は魔王として存在するべきだもの。でも魔王としての存在を維持する為に、勇者君の肉体を使おうとしても、それは無理があるという訳か)

魔王は闇属性の扱いが難しい理由が分かりつつあった。それは単純に闇をコントロールするには膨大な闇属性の魔力が必要になるからである。その事は勇者の中に闇属性が存在していると分かった時に、その力が膨れ上がった事から、なんとなく察せられたので予想がついていた事だ。しかし、そうなると勇者の体内に存在する闇属性を全て引き剥がした上で、自分に移植できれば問題無いのだが、そうすると、こちらの意識が、そのまま闇の中に閉じ込められる危険性があると考えざるを得ない。つまり今の自分と意識を共有している闇の女神と同じ状態になりかねないのである。

(これは無理かもしれないけど。闇属性を使いこなせない状態で魔王を討伐してもらわないといけないのだけどね。ただ闇属性を操る人間が他にも居たのが不幸中の幸いか。それこそ勇者君を闇の女王にしちゃえば、それで良かったわけだし。闇属性が使えない状態の魔王が相手であれば。まだ何とか出来るはず)

そう考えた魔王が次に行う事として、闇魔法を使用するために魔王として覚醒させた存在を呼び出そうと思った。

「リリス。貴女が持っている杖に宿っている妖精に話しかけなさい。そうしたら魔王が貴方に協力を求めるはずだから。それを受け入れてくれるかどうかで、これから先の運命が決まるのだから。頑張って」

リリスに対して、そう語りかけると、リリスは「はい」と、とても可愛らしい笑顔を見せてから、その場から消えて行った。そして残されたのは勇者一人である。彼は今現在、リリスと魔王の会話が気になってしょうがなかったのだが、だからといって魔王に「魔王、俺にも説明して欲しい」と話しかけたとしても「それは今すぐに、どうこうなる話しじゃないわよ。それに貴方には関係のない話でもあるわ。だから大人しく待っていて欲しいんだけど?」と返されてしまう。なので勇者は何も言えないままに時間が経過する事を待つしかないのであった。

「魔王さん。本当に魔王さんが、あの伝説の闇の女神だったのですね」

クレアは信じられないという気持ちを抱きながらも。それでも自分が知っている情報と、現状を結びつける事により、なんとか目の前にいる人物が魔王だという事に確信を持てたようである。そんな彼女は、どうにかして目の前にいる女性の正体を突き止めたかったのである。

「それじゃあ貴女の事を信じてもらう為。これから私の正体を見せるから、それを見て納得してもらえると嬉しいのだけど。いいかしら」

すると魔王の姿が光を放ち始めて姿を変え始める。その様子は光の巫女であるクレアも、よく知る現象であり「やはり、そういう事ですか」と彼女は驚きつつも笑みを浮かべて魔王の変化を受け入れる。

光を放つと同時に魔王の身体は人間の女性の身体へと変化し始めた。その変化の過程は、あまりにも自然に行われたので誰も気付かなかった。そのくらい一瞬の事なのだがリリスだけが気付くと「魔王様。申し訳ありません。少しだけ時間をかけ過ぎてしまいました」と謝罪する。だが光り輝いていた魔王の肉体が普通の人間のように落ち着いた色合いに戻ると魔王は苦笑いをして「別に構わないよ。私の方だって闇属性の扱いに、どうしても時間を割きたいのは確かだからね。それなのに勇者の事を放置しすぎていた私の責任だからさ」とリリスに答えた。

そんな二人のやり取りを見ている内にリリスは、もしかすると自分が先ほど勇者に向かって使った回復魔法の効果なのだろうかと疑問を抱くのであるが。それを魔王に伝える前に勇者が「それよりもだ」と口にした。

「俺の体の中で、何が起こってるんだよ。どうしてお前の体に変化が起きたりしてるんだよ」

「あら、もう、この肉体は貴方だけの肉体ではないから魔王としての力は、ほぼ使えないはずなんだけれどね。でも貴女が、ちゃんと受け入れてくくれたから助かったかな」

そう言いながら闇女神は自分の手を自分の胸に重ねる。その動きにつられてリリスは魔王が自分の身体に触れている事に気付いたのだが、それに対して彼女は魔王に対して怒りをあらわにする。その反応は当然だろうと思いながら魔王は自分の指先が、どういう原理で、どういった仕組みになっているのか理解できたので闇属性を使用して闇魔法の初歩の技を自分の身体に施すと、そこから勇者の身体に自分の身体の一部を融合させる作業を開始するのであった。その瞬間から魔王は魔王ではなく勇者として目覚めて行くのが自分でも理解出来たのである。

それに伴って勇者の記憶や能力が魔王にインストールされるような感覚に陥ると「お疲れさま」という言葉を口にした。すると、その声を聞いた魔王が嬉しそうな態度を見せ「ふふん、魔王になった気分は、どうかしら」と尋ねる。

「ああ、最高だよ。これで魔王に負ける要素が無い事が理解出来たよ」

「まあ、勇者の力が無ければ、その力は、ほとんど使えないでしょうし。それでも魔王としては十分な能力があるから問題はないんじゃないかしら。後は勇者が私の闇属性の力を上手く扱えるように頑張るだけだからね」

その魔王の言葉は事実だと言えた。だからこそ勇者は闇属性を扱う練習を必死で行う。その結果として勇者は闇属性の力を、どうにか自分の物にしようとするのだが。その難易度が高いのは言うまでも無い事で、それを成し遂げる事が出来なかったのだ。

しかし、その訓練は無駄では無かった。勇者が勇者で無くなってしまうと、その闇属性を自分の肉体に取り入れようとする。その行為自体が困難を極めたのだが。魔王は自分の身体の一部となる闇属性に、どうにか自分の身体の一部となれる程度にまで勇者を馴染ませると「それじゃあ魔王の力を返すわね」と口にする。それと同時に勇者は勇者としての能力を取り戻せるようになり。それを確認した後に「さてと、それじゃあそろそろ終わりにしましょうか。私としても勇者君との約束を守らないとだし」と言い出したのであった。

「それでは私も準備しますね」

そう口にするとリリスは闇魔法で杖に闇属性を付与すると。魔王と勇者との戦いを観戦し始めた。

魔王は勇者に闇属性を譲渡する事で闇の女神に転生した際と同様に勇者を闇魔法を使用する事ができる肉体に作り替えて勇者を魔王へと覚醒させると「さて、それじゃあやろうか」と言葉にして勇者に向けて闇の刃を放つのであった。

「くぅ」

勇者は何とか闇の攻撃を防御しようと動くのであったが。そのタイミングが僅かに遅れた。それによって闇は勇者の身体を捉えると勇者の衣服や防具は簡単に破れてしまう。その結果として肌色の上半身が露出すると、それを見ていた周囲の人々からは「きゃぁ」と悲鳴が上がるのであった。

しかし勇者本人は気にしないと言うより、そもそも周りの人間が何故悲鳴を上げたのか分からないようで、その辺りを魔王とクレアさんから指摘されると「あ、えっと、すみません」と謝罪を行う。ただリリスは何故か頬を赤く染めており。その様子を魔王は微笑ましい目で見つめていたのだが。勇者には、それが不思議に思えたようだった。「それで俺の闇属性を返してもらったからには。こっちからも攻撃させてもらうぜ」勇者がそう宣言すると魔王に対して攻撃を仕掛ける。

ただ闇属性を失った勇者が放つ拳の速度は非常に遅いものであり、魔王が回避するのは容易いものであった。だが、その勇者の攻撃が、あまりにも遅く見えたために魔王は不覚にも油断してしまったのかもしれない。そのため彼女の腹部に勇者のパンチが命中すると魔王は大きく後方に飛ばされてしまい地面の上に倒れ込んだ。その光景を見て勇者は、まずいと思ったようだ。勇者は魔王を倒すという事だけに意識が集中していて相手の戦闘能力を忘れてしまったのである。その事を自覚させられた勇者は「すまない」と一言謝罪を行ってから。改めて戦いを続行するのである。

「やっぱり貴女は、まだまだ、勇者の器というだけであって勇者君とは別人なのね。でも今のは良い判断だと言わざるをえないわね」

そう言って闇女神は自分の腹部に手を当てると治癒魔法を使い、そのダメージを回復させると「それで次は、どうするつもりなのかしら」と勇者に尋ねた。

「それじゃあ次で決めるつもりだから覚悟して貰うぞ」

そう口にすると勇者は再び戦闘態勢に入るのだが、その動作を見たリリスは思わず「凄まじく素早い動き」と言葉を漏らした。それ程までに勇者のスピードは常人の目に追えるものではなかったのである。それに加えてリリスは勇者の全身に、かつてない程の闇属性を感じ取る。それは魔王も同じだったらしく勇者に何かが起こったのではないかと考えながら勇者を見ていたが「あれ?おかしいな?」と口にした。

その声を聞きながらリリスは、もしかすると、あの闇魔法の副作用によって勇者が別の人間に変化しているのではないかという不安感を抱いたのだが。それは直ぐに否定された。というのも、勇者の動きが急激に鈍くなったので闇属性の影響なのは明らかであり、それに闇女神の方にも、それを確認する手段があったからである。

「あら、まだ、こんなにも残っていたのね。それに私の闇魔法の影響を受けているはずなのに随分と早いわね」

魔王は勇者が身に付けている装飾品の類いを見て、それの正体が何であるのかを察した。

そしてリリスの方に目をやると彼女は「恐らくですが闇属性が付与している魔具でしょう」と口にする。それを聞いて魔王は、やはり闇属性が関係していたのかと納得した様子を見せると「それじゃあ闇女神の力でも、あの闇は相殺できないんだね」と口にした。

「いえ、そんな事はありません。闇属性に対抗する力であれば対抗できると思います」

「じゃあ私が闇女神として全力を尽くせば、どうにかなるわけだ」魔王は闇女神としての能力を発揮すると「それじゃあ、これで、もう、終わらせるよ」と勇者に話しかける。それに対して勇者は自分が闇属性の影響を受けていた時の感覚を思い出すと「それって本気を出していなかったっていう意味ですか」と質問した。

すると魔王は笑みを浮かべて「そうとも言えるし、違うとも言えるかもね」と答えたのだけど。その返答だけで勇者は、それだけの余裕を持っている相手に自分が勝つ事が不可能である事を理解する。だが魔王に、ここで敗北を認める訳にはいかない勇者は意地を見せて戦おうとしたのだが。そんな勇者の様子を見た魔王が「ふふっ、そんなに気合を入れなくても大丈夫だから。だって私も、そこまで気合いを入れる気は無いもの」と口にすると闇属性のオーラを解き放ち、それを剣に込めると振りかざす。

その一撃を喰らった瞬間に勇者は地面に叩きつけられると「く、そ」と口から血を吐き出しながら呟いた。

それから「これでも駄目なんて」魔王が悔しそうな表情を浮かべると「流石は魔王様だ」とリリスが賞賛の声を、その声を受けて「まあね、これが魔王よ」と魔王が答えるのだけど。勇者にとっては、そんなやり取りを行っている暇はなかったのである。なぜなら勇者が勇者の力を失う前に行わなければならない最後の作戦を成功させる為に必要な準備を行っていたからだ。「これで最後だ」勇者は起き上がると魔王の目の前に移動をして「この攻撃で決めてみせるぜ」と言葉にする。その直後であった。勇者は今まで以上の力で魔王に向かって拳を放つと魔王の顔面に命中したのである。その攻撃によって魔王は、その場に倒れたのだ。

「今なら俺にも出来るはずだ」

自分に言い聞かせるような言い方をしながら勇者は自分の胸元に手を当ててから魔王を睨むと。そこから魔力を解放しようとしたのであるが。そこで異変が起きた。自分の身体に宿っていた闇の力が勇者から離れようと暴れはじめたのだ。その感覚に耐え切れなくなった勇者は自分の体を押さえ込むのだけど。その所為で余計に闇の力が体内を駆け巡り、やがて勇者は自分の身体から追い出される形で吹き飛んでしまう。それと同時に自分の肉体に埋め込まれた勇者の記憶や能力は完全に失われてしまう。

その事に驚いた勇者は自分の肉体が魔王のように闇属性に支配されるのかと思い「うわぁあああ」と悲鳴を上げていると、その肉体が勇者本来の物に戻る。ただし勇者は魔王を倒した事で完全に体力を失ってしまったらしく気絶してしまうのであった。それを見てリリスは慌てて勇者の下に駆けつけるのである。その瞬間であった。魔王の身体は勇者が放った魔法による光に包まれると肉体が崩壊し始める。その崩壊が始まった原因は、どう考えても魔王と化した勇者を元の肉体に戻すために使用された勇者の闇魔法に間違い無かったのだ。

勇者は、それを理解したが為に、どうにかして魔王の消滅を止める方法を考える必要があった。その為には魔王を復活させなくてはならない。そう考えたのだが既に自分の意識は殆ど無い状態で、それでも、どうにかして勇者は行動に移す。

魔王の肉体に勇者が触れながら「俺の中に戻ってくれ」そう口にすると同時に魔王の体内に存在していた闇属性の魔力は、ほぼ消滅したが、それとは別の存在が自分の中に流れ込んできたのを勇者は感じる。それは紛れも無く闇の女神であった。しかし、その事を勇者は不思議に思わなかったのは、それが魔王の中に居たという事と闇属性に侵食されていたからだろうと考えるのだけど、それが勘違いでしかない事は、その次の瞬間に分かった。勇者は魔王の肉体が光の粒子になって消滅する姿を目撃する事となる。その出来事を見て勇者が唖然とすると、そこに魔王の姿が変化した状態のリリスが駆けつけた。そのリリスを見て勇者が「魔王は、どうなったんだ?」と尋ねると「貴方の、おかげで助かりました」とリリスは勇者に感謝の言葉を口にした。その感謝を勇者は受け取るべきか悩んでいるようだが、それよりも「ところで魔王の肉片とか残っていなかったのか」そう勇者は口にするのである。

「いえ、残念ながら。魔王を再生させるだけの時間が無かったもので。本当に、お礼を言うべきなのかどうか分かりませんけど」

そう言うとリリスは困ったような表情を勇者に向ける。そんな彼女の様子を見て勇者は少しだけ微笑み「それで良かったんじゃないかな」と言葉を返すのだった。それを聞いたリリスは勇者が魔王を倒して世界を救った英雄として扱われるようになるのだと実感する。それに伴って自分が英雄の恋人という立場を手に入れる事になるかもしれないという予感を覚えたのだった。そして魔王の一件で慌しかった状況に区切りがつくとクレアさんは僕の下へとやって来たのだが。その手には一冊の本が存在していた。それは僕にプレゼントするために用意した絵本であり。内容は子供向けに脚色されているものの魔王との戦いを描いたものだったのだけど。それが、たまたま目についた僕は、それが何処かで見た事がある本だという気がした。

ただ思い出せなかった僕は何時か確認しようと考えながら本をクレアさんから受け取り、そして彼女に視線を向けた瞬間に心臓が大きく跳ね上がったのを感じたのだ。何故ならクレアさんが僕を見つめていたので目が合ったのだけど。その目からは何故か涙を流していたのである。その光景を見た勇者は「おい魔王」と言ってリリスの傍に近寄ると「どうして泣いているんだよ」と尋ねた。その問いかけにリリスは「どうしたの?」と聞き返してから。

その言葉で勇者がリリスの瞳を通して自分の姿を確認していない事に気づく。

「もしかして見えていないんですか?」

「えっ、どうしたの?急に、それじゃあ私が見えなくなる魔法を使っているように聞こえるじゃない」

「その通りなんですよ」

リリスは魔王が勇者の目を見るのを防ぐと涙を流す理由を説明する。

説明を終えると勇者は「それじゃあ、さっきの戦いで闇属性の力を全て失ったせいなんだね」と言ったのだが、それを聞いた勇者は魔王と闇女神の力が失われたという言葉を聞いて、やはり自分と同じ力を魔王が所持していたという事実を再認識すると「やっぱり俺は魔王だったんだな」と言葉を漏らす。そして勇者は闇女神の力が魔王に継承されたと聞いて、ある考えを抱く。もし闇女神が自分の意思とは無関係に力を受け継いだのであれば。魔王としての力を失った闇女神を仲間に加える事で勇者は最強の存在になれないかと考えていたのだ。だが今は闇女神に魔王が憑依していて話をするのは不可能な状態だった。そこで何とか話ができないのかと考え始めたのだが、そもそも、どうやって、この状態から抜け出せば良いのかすら勇者には分からなかったのである。そう思った瞬間。リリスとの話を終えた魔王が「ねぇ勇者君」と声をかけてきた。

それを聞いた勇者は振り返ると「何か用か?」と魔王に話しかけると魔王が笑顔で勇者の手を掴むと「もう終わったよ」と声をかけた。その一言によって魔王が全ての力を取り戻している事実を理解した勇者は嬉しそうにして「それじゃあ」と言うとリリスと魔王を自分の視界に入れて改めて魔王の無事を確認する。それから勇者は魔王から「これで私の計画が実現できたわ」と言われた瞬間に勇者は疑問を抱き「何をするつもりだ」と質問した。それに対して魔王は満面の笑みを浮かべると「これから私は勇者君の力を借りて、私自身の魂を勇者の器に定着させてもらうわ」と言い出したのだ。その話を聞いた勇者が戸惑っていると魔王は「心配しなくても大丈夫よ。勇者の力が無ければ私は、まともに生きられない体になっているから」と説明してみせる。その言葉を聞いて魔王の正体を知っている者ならば「魔王の体は既に勇者の肉体と同化している」という事を理解するだろうが。そんな事情を知らない勇者には意味が理解できなかった。だが、それでも自分が魔王に対して抱いていた感情に変化が生じたのは確かな事なのだが、それが何なのか分からないまま「それで、どういうつもりだよ」と勇者は尋ねる。すると魔王は勇者に抱きつくと耳元で囁いた。

その言葉は、とても信じられない内容であったのだ。勇者は魔王から自分の肉体が勇者の物であると言われても実感など湧かなかったのだが。しかし、それも、その日のうちに変化する事になる。魔王によって体を蝕まれている最中に魔王が自分に言った台詞を勇者は夢の中で何度も繰り返す事になったからだ。

その日から数日後、勇者は自分が目を覚ますと同時に自分の中に有った筈の力が全て失われてしまったのを感じ取った。しかし勇者は動揺しなかったのは、それだけ自分に残されていた力が強くなっていた証でもあると思ったからだ。そんな勇者は今、自分の部屋で魔王の事を待っていた。その時間は長いようでもあったが、あっという間だったとも言えた。

その部屋に一人の人物が姿を見せる。その人物とは魔王だった。彼女は「ご機嫌は、どうかしら勇者くん」と、いつも通りの態度で接すると、その顔に笑顔が浮かぶ。それを受けて勇者は苦笑いを浮かべると、こう口にするのであった。

魔王と、その配下の者達が勇者の仲間になる条件として出されたのは、まずは魔王城での生活に慣れて貰う必要がある事。そして闇女神の人格に魔王の意思が負けてしまう事が無いようにする為に闇の神殿と呼ばれる施設を利用する事で闇属性の影響を抑える。つまり闇の女神である闇姫を封印する必要があったのである。その為に勇者と闇の女神は行動を共にする事になり、その為に必要な準備が整えられたのだが、その期間というのが数日程度しかなかったのである。それというのも魔王の配下達を魔王城に案内して生活してもらう場所の準備を整える必要があったからだ。だから、その所為もあって魔王が目覚めてから、ほんの数秒で全てが終わったと言える状況になっていたのである。

そんな魔王に勇者は挨拶代わりに拳を突き出すと見事に受け止められるのだった。

魔王は勇者と拳を突き合わせた状態で、まるで友達のような気軽な口調で言う。

「久しぶり」

「そうかもな」

勇者も同じように答えると「それで」と言いながら視線を動かして自分の背後を見たので魔王もつられて視線を向ける。そこには二人の人間が立っていた。一人の女性の名前は魔王の副官で四天王の一人でもあり名前は、ライナスで種族は吸血鬼族である。もう一人は勇者に付き従っていた僧侶の女性であり、彼女に関しては魔族の国の出身者では無く、この世界の人間であり勇者と一緒に冒険をしていた仲間の一人である。彼女の名はアリサで職業は回復系を得意とする聖職の者であるが戦闘能力は非常に高い部類に属していたのだった。この二人こそが魔王軍側の幹部となり、勇者の味方になったメンバーである。そして彼等は勇者と魔王の様子を見つめると、この世界に存在する宗教関係者なら誰でもが発狂するような光景が目の前にある事を改めて認識する事になったが。それを気にしないで勇者は魔王と会話をする。「それで何時始めるんだ?」と。その問いに魔王は笑顔で答えると、そのまま勇者の腕を握りしめると自分の胸に押しつけると。勇者は魔王の行動に驚くのと同時に顔を赤くするが。すぐに冷静になると「な、何をするんだ」と言って腕を振り払う。その反応を見て魔王は「別に構わないでしょう。恋人同士なんだから、これくらい」と言ったのだけど。それは勇者が否定しようとするよりも早く、魔王の言葉を否定するように、いつの間にか勇者の後ろに回り込んでいた僧侶のアリサは言う。「それは流石に不健全です」

魔王の言葉に便乗するように魔王の側に近寄っていた戦士のリリスも同意した。「そ、そうですよ」

それに加えて、もう一人の仲間で魔王に魅了の魔法をかけられていたはずの僧侶の女の子も「私も同意見かな」と口にしたのである。それだけではなく他の人達も「そう思う」「そうだな」と次々に声を上げ始めたのだ。その声を聞いて魔王は残念そうな表情で呟く「残念だなぁ」という言葉を聞いた勇者が「何が残念なんだよ」と言うと魔王は、こんな事を口走る。「だって折角の恋人との夜を楽しみたかったんだもん」

勇者は魔王の冗談だと思って軽く聞き流す事にしたが「それに勇者くんの体は、もう我慢できなさそうだしね」と言われた瞬間には心臓の鼓動が激しくなると共に顔が熱くなる感覚を味わう事になる。確かに、そういった意味で言えば勇者は興奮してしまっている事は確かなのだけれども、そういう意味ではなくて、どういった理由で心臓が高鳴っているのか? 自分でもよく分からなかったので「どういう意味だよ」と尋ねると魔王は笑顔で「さあね」と答えた。そんなやり取りをしている間にも魔王は自分の力を取り戻していたのだが。それでも闇属性の力を完全に使えるようになるまで、まだ時間がかかると説明する。それから魔王は勇者達に、しばらく勇者の家に滞在する事を告げると。自分達の居場所となる魔王城の案内を始めて。そこで初めて魔王達は自分が住んでいた建物と、ほとんど同じ作りの建物がある事を知って驚きを隠せなかった。しかし勇者の話では勇者の住んでいる家には、この魔王城を真似た建物もあるという話を聞かされて。その事実を知った魔王の部下は「魔王城は勇者の手によって滅ぼされてしまったのか?」と考える。だが、この世界は闇の女神が作り出した世界で、この場所では、その力の影響を魔王城だけは受けずに済む。それを知っている勇者の配下は、そこまで心配していなかったのだ。そんな話をしていたのだが魔王の部下達が暮らす部屋を用意するのは当然としても。それ以外の者達の為に、それなりの住居を用意しなければならなかったのだが。幸いにも、ここには大勢の人間が住んでいたために用意する事自体は、それほど難しくは無かった。ただし勇者に魔王達の住まいを提供して貰えるように頼む必要がある。だが魔王の力を取り戻したとはいえ、やはり、その性格に大きな変化が生じておらず、この世界でも普通に生活出来るようになったわけではない。

その為に魔王には、ある程度の自由を与えないようにしなければならないと考えたのだ。そこで魔王の世話役を勇者に任せる事にする。その役割を与えられた勇者としては、魔王が自分の家に来てくれるだけでも嬉しい出来事だったので、喜んで引き受けた。それだけでなく勇者は「この世界の事を教えてくれないか」と頼んできた魔王に対して。自分が暮らしていた村での生活を話して聞かせる事にしたのだった。それから勇者は魔王に頼まれた通りに村の子供達を、みんな魔王城に連れてきて魔王の仲間に紹介した。魔王の仲間になった者は子供から老人に至るまで様々な年齢で種族も異なる者ばかりだったけど、そんな者でも、みんな勇者と友達になれると、この時に証明された。そんな事がありながらも魔王は勇者から自分の知識欲を満たす為に質問を投げかけ続けると、それに対して勇者が説明をして行くの繰り返しで。勇者は自分が生きていた頃の事や、この世界に訪れた時の記憶を思い出せるだけ思い出そうと努力する。そして勇者の思い出の中に自分が覚えていなかった事が存在した事を知り驚愕する。何故ならば魔王城の中で勇者と闇の女神が過ごした時間の中での出来事が殆ど忘れてしまっていのだ。

そして、それは魔王も同じであり。お互いが勇者の魂の記憶を持っているにもかかわらず共有できる事柄が少ないという事に気が付いて二人はお互いに驚いたのだった。しかし、それでも魔王の方は、さほど問題はなかったのだが。勇者の方には深刻な問題が発生していたのである。

その日の夜。魔王が一人で外に出て月を見上げながら散歩を楽しんでいる最中。勇者は自分の部屋に姿を見せる。しかし魔王の瞳に映ったのは、その姿だけでは無く。彼が背負った大剣と、その背中に負われている女性の姿であった。それを見た魔王の表情は一変した。しかし勇者に殺気は無い。勇者から放たれている気配に敵意を感じなかった魔王だったが、その手の中には魔力で作られた刃が生み出されたが。勇者が手にしている女性が意識を取り戻すと同時に勇者が手にしていた刃は消滅したのだった。それだけではなく魔王は今更ながら勇者が普通の人間とは大きく異なる点に気が付く事になる。そう、それは勇者の手に触れても何も起きないばかりか。彼の体が闇属性の影響を受けなくなっているのに気が付いたからだ。それは闇の神の力に抵抗力を身に付けたという事になるのだが。それだけの事が短期間で身に付くわけが無いと知っている魔王にとって勇者が闇の女神と、どれだけ密接に関わり合いを持った存在になっているのかを痛感させられるのであった。

そんな魔王の気持ちを余所に、この世界に来てからは人型の姿で居る事が多かった女神である女勇者と闇女神であったが。本来の姿に戻ると、そのまま勇者の腕を掴むと歩き始める。

それを受けて魔王も後に続いたのである。

「どこに行くんだ?」と尋ねる勇者の声を受けて闇女神は振り返ると「決まっているでしょう」と答えると笑みを浮かべた。「何処に連れて行くつもりなんだ」と尋ねると、こう返事をする。

「勇者が、いつも一緒に居たいと言っていた私の部屋」と。

それを耳にした魔王の頬は赤く染まる。だが勇者は魔王の様子の変化が分からないようで不思議そうな表情で見つめてしまう。それから勇者の腕を掴んだまま闇姫が向かった場所は魔王の住む建物の奥深くに位置する場所にあったのだが。その場所に魔王の副官でもある吸血鬼族のライナスは、すぐに異常に気がついたのである。その理由は、ここに魔王の寝室が存在しているのにも関わらず。魔王の姿がないからだ。それだけではなく魔王の配下達も、そこに姿を見せていない事に気が付き、この異常な事態に気が付き始めたのだ。それに加えて勇者の連れて来た魔王の部下である四人組の僧侶のリリスと戦士のリリスも。この世界に姿を現していて。この場に集まっていたのだが。魔王がいない理由を知るためにはライナスに協力を要請するしかない。だからライナスに声をかけると、まず魔王の事を尋ねられるが。その答えとして闇姫が、これから魔王の部屋を訪れると言うと、その場の全員が驚いてしまい「な、何を考えているんだ!」と言い始める。それに対して魔王の部下達は魔王が何かしらの考えに基づいて、このような行動を取ったと理解したのだ。

勇者の側に居る者達の中では、一番年上で、この中では、その性格から考えて、もっとも冷静な考え方が出来る存在であるはずのリリスは思う。

あの時。魔王の側に付いていた者が魔王を裏切りこの世界に敵対する事になった時に魔王は言っていたのだ。「お前は俺に騙されたんだぞ。本当に馬鹿だな」と魔王は、その言葉で仲間に裏切られて殺されたのだ。なのに魔王は自分の意思で、その裏切り者の元に向かい話し合いの場を持つと言っているのだ。それは、つまり自分の考えは正しかったと証明する行為だと、この時になってようやく気が付かされたのである。

勇者の配下で、魔王の事について詳しいのは僧侶のアリサだ。そのアリサからすれば魔王の言動は不可解な部分が多いと思っていた。しかし、それは彼女が魔王の側に居た頃から魔王の事を良く知る機会が無かったからなのだが。今は魔王が、どうして、そのような行為をしようとしているのかを理解して。魔王に「私からも頼みたい。協力して頂きますよ」と告げる。それに対して魔王は「まあ、別に良いですけど」と承諾してしまう。

そんな様子を見せられて魔王の仲間である他の者達も、ただならぬ気配を感じるのだった。

魔王が勇者と闇姫を連れて自分の部屋の扉を開くと中の様子を確認してから二人を部屋に招き入れた。そして二人が室内に入ると闇女神は「やっぱり、こっちの姿が一番落ち着くね」と言うと。勇者は「そうなんですか」と答えたのだが。勇者の方としては闇女神の姿を見て興奮して、それが下半身にまで伝わるような事になり。それを見て取った魔王が勇者に対して警戒を強める事になる。だが闇姫の方は「勇者くんが闇姫と、そんな風に思ってくれて嬉しく思いました」と答えた。そんな闇姫に対して勇者は、「そんな風って、どう言う事だ?」と疑問を投げかけると闇姫は微笑む。

「そんな風にというのはですね」と前置きをしたのだが。それを聞いた魔王の表情が変化する。

魔王の視線は闇女神に向けられていたが。その魔王の表情から感情を伺う事が出来る程に魔王は感情の抑制に成功していたのかもしれない。だが魔王は勇者の態度が闇女神に向けるものと似ているように見えてしまい嫉妬心が膨れ上がり。その結果、自分が何を考えていたのか忘れて「その話は後にしろ!それよりも話をするべき相手が現れたぞ!」と言って魔王が部屋から出て行く。そんな魔王を追いかけるように勇者と闇女神は部屋を出ると魔王の後を追う。それから三人は城の最上階まで移動する。

すると、そこには既に魔王の配下達が待機しており。彼らは、ここで勇者と闇姫を始末するように命を受けるが、その指示を受けた直後で、この城の主である魔王が姿を現すと魔王の前に集まる事になる。だが魔王が、ここにやって来た理由は自分達の命乞いをするつもりだと思い込んでいた魔王配下の部下達は一斉に膝をつくと頭を垂れたのだ。それを見た魔王は、そんな事は望んでいなかった。なので「もう頭を上げても構わない」と言った。しかし部下達の方では魔王が自分たちを許すはずがないだろうと思っており「許してくれなくても当然だ」と考えていたのだが。その考えは、ある意味で外れる事になる。

何故ならば魔王は彼らを許しに来たわけではなく。自分の命令を無視した部下に罰を与える為に、わざわざ出向いてきたのだったから。そう考えた瞬間に魔王の部下は絶望に捕らわれる事になったが、そんな中でも魔王が口にした言葉を、この場で理解できる者など存在する訳が無いだろうから、この世界の言葉に置き換えるとするなら「俺の城での勝手な行動は不問にしてやるから。さっさと帰れ」という意味である。

その為に魔王の部下たちは、まさか魔王が、このような寛大な態度を取るなどと、予想出来るわけも無く魔王から、どのような処分が下されるかと怯えていたのだ。だが実際に魔王から下された処罰は、この場に集まっていた魔王の部隊への帰還と解散であり。しかも闇神に魔王の命令を無視していた事が、ばれないようにする事を条件に出された。魔王の配下の中で、これに逆らえる者は存在しない。そして魔王に忠誠を尽くしている者も少ないが存在しており。彼等も自分の身を魔王の為に差し出す事になる。こうして魔王軍の中でも最強の部隊は解体されて新たな組織として再編成され始める事になるのだが。それとは別に、この魔王は一体何を考えているんだと首を傾げる者もいた。その人物は僧侶のリリスである。

「勇者様が、ここの魔王と戦うつもりだという話は本当だったのですか?」と質問をする。

「そうだな。今すぐに戦うつもりは、ないけど。近いうちに決着を付けたいと考えている」と返答する勇者。

勇者が口を開いた事で皆が勇者の方を見つめた。その事に戸惑ってしまうが、とりあえず「えっと、俺が今から、この世界に来ようとしている勇者だ」と自己紹介をしてみるが、その勇者の発言を受けて皆の視線は、ますます鋭くなる。それに加えて魔王の部下である闇神の方は何故か、こちらを見つめてくるし。他の仲間達に至っては興味深そうに見つめてきてばかりだ。それで僕は少し困惑気味に。

「なんか俺が勇者だから珍しいのは解ったんだけど。俺の顔に何か付いてたりするのか?もしかして俺の顔って変なのか?」と尋ねたのだ。だけど誰も答えようとはしなかった。ただ、その代わりに僧侶のリリスだけが僕に話しかけてくれた。

ちなみにリリスが闇の女神の眷属になっている事は勇者の力が失われていて、すぐに確認することが出来ないが。

リリスと闇女神は外見的特徴が良く似ているのだ。だからこそ闇女神は僕の方に近づいてきたのだが。それはともかく。リリスの問いかけに対する僕の答えは。リリスにとって意外なものであった。

「どうして勇者様は、それほどまでの実力があるにも関わらず、こんな場所で冒険者をしているのです?」と尋ねられるが、その答えを僕は、すぐには言葉に出来なかったのだ。だって、そもそも僕は神様から能力を与えられて、ここに来たはずなのに。その力を使う為の方法が分からずに困っていたという事を、どう説明すれば良いんだと悩んでいる内に僧侶のリリスは勝手に納得してくれた。

どうやら勇者の力を失った影響で魔法を発動することが出来ずに。それでも勇者としての力が眠っているのは確かだから鍛えれば再び、勇者の能力を手に入れる事も出来るはずだという話をリリスから聞いた。それに加えて勇者の仲間であった僧侶のアリサからの説明も受けられたのだ。だからリリスの言う通り、これから先も、まだ成長できると教えてもらえたのは嬉しかった。

だから魔王の城に戻ってきた魔王の部下である吸血鬼族であるライナスは、これから先。魔王に忠誠を誓い。自分の存在を魔王の右腕に相応しいものにしようと決心するのだった。

闇の女神は「勇者君が私のために頑張ってくれてるのが分かって本当に嬉しいよ」と呟きながら勇者の手を握ると「でも、そろそろ魔王との話し合いが終わっちゃう頃じゃないのかな?」と言うので魔王の元に戻る事にした。そして魔王の元に戻った時には、既に全ての事が終了しており。魔王に今回の騒動を起こしたのは、この俺であると告げてみせたので。魔王が「お前は馬鹿なのか?」と言うと。勇者が「馬鹿な奴ほど可愛いもんでね」と言い返す。そんな勇者の言葉に対して魔王が「なるほど。それも一理有る」と口にすると。それに反応したのが闇姫だ。

勇者は、その発言に対して「それは俺の事だと言ってくれているのかい?だったら光栄だぜ」と答えた。それに対して闇姫は、ふふっと微笑むだけだったのだが。それに対して勇者は闇姫に微笑まれて嬉しく感じたらしく頬を緩ませる。そんな様子に呆れ顔になる魔王だったが。「それよりも、あいつは、いったい誰なんだ?どうして俺の元に現れたんだ?」と言って闇姫の方を見ると「あれが私に加護を与えてる闇女神だよ」と闇女神を紹介したのだ。しかし魔王としては「それがどうして勇者と共に行動する事になったんだよ。闇女神は、そんな事を頼んでこなかったぞ」と疑問を口にすると闇姫が「それはね」と話し始めるが。その前に勇者の方が先に話を始める。

「魔王さん。実は貴方の所に居る勇者の配下を纏めていた奴が俺の側に居たんだが。俺は魔王さんの所に居る勇者とは敵対していた。だから勇者の所に行くと迷惑がかかると思った。その点に関しては申し訳ないと謝罪しよう。だが俺には目的があった。その目的を達成するためには、勇者である、この俺が直接、出向く必要があると考えたんだ。その理由を説明するために闇姫と一緒に行動することにした」

勇者が魔王に対して自分が何故、魔王軍の中に存在する闇姫に会いに行こうとしていたのか。その事情を話すと闇姫の方も勇者と同じように「魔王くんは勇者君の味方になって欲しいと思ってる」と言う。それを聞いた瞬間に魔王は闇姫を睨むが。闇姫が何も言い返さない事で。仕方なく勇者の話を聞くことにして「勇者。貴様は一体、何を求めているのか」尋ねるが。それに対して勇者が「魔王を倒す」と答えると「はっ」と鼻で笑う魔王。そんな魔王の様子を見た闇女神が「魔王は勇者君を殺すつもりなの!?」と言うと。その声に闇神は慌てて魔王の様子を伺い始めた。その行動に気が付いた勇者が「魔王は魔王なりの考えが有って行動しているのだと思う」と言うと魔王は「まあ確かに。こいつは、そんな理由で俺の前に現れたりはしないな」と言う。それから勇者は魔王の方を真っ直ぐに見据えて「俺と手を組んでくれないか?魔王。そうしてくれると助かるんだが、どうか考えてくれないか?」と頭を下げると魔王の配下達からは勇者の行動を非難するような空気が流れてくるが。魔王本人は、さほど驚いた様子も見せていなかったのだ。むしろ闇姫の方は、この光景を見て目を輝かせていた。

そんな状況に僕は「勇者と闇女神と手を組むとか有り得ないだろう。魔王が魔王として正しいのなら。魔王は闇神の力を悪用する事はないだろ」と意見を述べるが「いや、その件は、もう終わったから。もう気にする必要は無いからな」と魔王が口を開く。その言葉の意味が良く分からなかったので魔王の方を見つめると「勇者が勇者の力で俺を倒してしまえば良いだけじゃねえか」と言うのだけど。その言葉は理解出来なくて。それに加えて魔王の配下の者の中にも「魔王様。それでは魔王軍が滅んでしまいます」「いくら魔王様が強くても勇者の力を手に入れた魔王相手では勝ち目がありません」と反対の声が上がり始めたが。魔王は配下の者達に向かって「俺に意見があるなら聞いてやる。今から言う者は残っていいぞ。それ以外は下がれ!」と指示を出してから。残ったのは闇神。吸血鬼族のライナスに、その妻にして僧侶のアリサ、闇女神の側近でもあるダークエルフの女戦士であるミレイに魔王軍の中でも、その幹部に位置する闇神と闇女を除いた全員が、その場から離れていったのだ。魔王の配下の中で魔王の言葉に逆らえるのは闇女神だけであり。それを確認した上で魔王が闇女神を抱きしめてから「これで誰にも邪魔される事なく、ゆっくりと愛し合えるだろう」と口にしたのだった。

勇者が「さて。改めて話をさせて貰おう」と言った事で僕たちは魔王城の中にある謁見の間に移動してきたのだが。その部屋には何故か僕たちの他に、魔王や魔王の娘など、それなりの人数が集まっており。僕たちは全員、部屋の隅の方に移動することになったのだ。そのせいで僕と仲間達の周囲には人だかりができてしまった。それで僕は、この勇者が、どれだけ凄い存在なのか良く解った気がする。なぜなら皆が僕の方を見つめているからだ。それに加えて魔王は、まるで興味津々な目付きをしていたのだ。それで闇姫が、こちらを見ながら笑っている事に気づいて、その態度に疑問を感じたが。魔王がこちらに近寄ってきて。「おい。俺の事をどう思っているんだ?」と質問される。それに加えて闇姫からも質問を受けたのだ。僕は「えっと。貴方が何を言っているのか、よく解りませんが?」と正直に伝えたのだ。それに対して魔王はニヤッと笑い。「つまり貴様には惚れられているという自覚が全く無いというわけだな」と答えるので。僕も笑ってみせて「そうなんですよ」と言ってみた。すると魔王の方も嬉しそうに微笑み。「俺も好きだぜ」と言われた後に僕に近づいてくると。そのまま僕を抱き寄せるように腕を回したので驚いている内に唇を奪われてしまい舌を入れられてしまう。さらに魔王に舌の動きに合わせて口を開こうと誘導されてしまうのだが。そこで魔王の配下達が、この場から立ち去ろうとしている事に気づいたのだ。僕は必死で抵抗しようとするが。それでも無理矢理に押し倒されそうになるが。

「やめてください!!」と闇姫の叫び声が響き渡ると。魔王は「どうして、そこまで拒絶されるのかな?君にとって大切な人は私なはずですけど?」と言う。その問いかけに闇姫は顔を俯かせるのだが。それに対して魔王は「まあ良いでしょう。勇者君が私のモノになった後でも構いませんから」と言い残すと部屋から出ていったのだ。そして、その後から魔王は勇者の方に向かうと。魔王が勇者に手を触れると魔王と闇姫の姿が変化していく。

「魔王。どうして姿を変えたんだ?」と勇者は魔王に尋ねたのだ。

そして魔王が答えた内容は驚くべきものであった。魔王は人間ではなく闇神であり、勇者とは恋人の関係なのだ。しかも魔王の恋人だった女性は勇者と闇姫の母に当たる人物であり。今は亡き人物なのだと言うのだ。だから闇女神は自分の子供である勇者が、いずれ自分の前に現れる事を予測しており。魔王の元に姿を見せたので、勇者と結ばれる為に力を与えようとしたらしいのだ。その結果。闇女神の加護を得る事が出来た事で勇者の能力を得たらしい。

そんな話を聞いた事で勇者が納得すると魔王の方も嬉しそうな表情で。「お前には勇者の力を与える代わりに、この国を守ってくれる約束を交わしたはずだ。それを守れない奴とは取引き出来ないんだよ」と言うので勇者も素直に従う事にしたのである。それから、すぐに魔王軍と人間の戦争が開始されることになったのである。

魔王の軍は魔物で構成されており。人間の軍よりも戦力的に優れている事はすぐに分かったのだが。勇者と闇女神の存在により。戦況は圧倒的に有利な形勢だったのだが。そんな時に闇姫に異変が生じたのである。闇姫が突然苦しみ始め、意識を失った状態で地面に倒れ込んだ。それが原因で闇姫と闇姫を庇おうとした闇姫の子供までも、同じように倒れ込んでしまう。すると魔王の配下達が闇姫の元に集結し始めたのだ。その様子に魔王が「お前ら、そいつらに、これ以上、近づくな」と言うと。闇女神の側近だった男が闇女神の方を見る。それに対して闇女神は首を横に振るので、男は仕方がなく闇姫たちの側から離れると。その隙を狙って勇者が剣を振り下ろすが、魔王の方は余裕を持って回避してしまう。

しかし魔王は勇者に対して反撃に出る事は無く。そのまま逃げるようにして自分の国に戻ろうとする。その行動に対して勇者が怒りを覚えたのは、言うまでもないであろう。だから勇者は魔王に対して攻撃を仕掛けようとすると。魔王は、そんな勇者を黙って見過ごす事は出来ず。仕方なく勇者を殺そうにも攻撃が当たらない状況が続いていたので魔王は闇女神の傍に行く。それから魔王が「闇の加護を使って、こいつを治療してやってくれ」と言うと。魔王の妻であるダークエルフのアリサが「貴方。この子は普通の状態ではないから、そんな魔法を使ったら、あの子が死んじゃうよ」と心配を口にするが。魔王が「そんなことは、ない。

こいつは俺が必ず治す」と力強く断言してから魔王城の中に戻ると魔王の部下達が出迎える。そんな中で魔王は自ら進んで魔王城にある闇神の寝所へと向かう。魔王が「お母ちゃん。

久しぶり」と挨拶すると「何年ぶりだろうね。元気してたかしら?」と闇女神は笑顔で返す。その様子から魔王の母親にあたる闇女神が息子である魔王を愛しているのは、はっきりと見て取れるほどであった。それから魔王は母親に対して、闇姫の事を告げると。魔王は母親に、この子を、どうすれば助けてあげられるか?相談を持ちかけると。

それに対して母親は少し考えるような態度を見せてから口を開いた。「勇者君なら、何とかしてくれるかも」と口にする闇女神に魔王は驚きを見せる。なぜなら闇女神が、この世に存在する勇者に希望を託したのは初めての出来事だったからだ。それ故に闇女神は、その勇者が魔王の配下によって殺されてしまった可能性を視野に入れていたので。魔王の配下の者達に勇者の探索を命じたのであった。

魔王軍の幹部が全員揃って闇神の部屋の前に集まると「闇神様が目覚めるまでは絶対に誰も入室を許可出来ないと。闇神の側近様は申されてますので。我々は扉の前で待機いたします」と口にするので。勇者は「それなら俺は大丈夫なのか?」と言うと。その問いかけに対して魔王の側近の一人である僧侶のライナスが「魔王殿の許可が出ておりますので、問題は無いかと思いますが」と答えたので。その返事を聞いた勇者が、まず初めに魔王と闇神が、どのような会話をしているのか確認したいと思い「悪いが、ここから先だけは入れないからな」と闇神の配下が勇者を止めるのだが。勇者が、その言葉を聞き流すのを見て側近達は不安を感じる。

勇者の実力が分からないから魔王の側近として魔王に仕える彼等から見れば勇者が闇女神の寝室に入ろうとしている事実が異常事態であるのだ。そして魔王の側近のライナスが「おい。本当に入るつもりなのか?」と勇者に話しかけると。勇者が「何か問題が有るんですか?それなら教えてくれませんかね」と答えてきた。そこで闇女神の側近であるミレイと吸血鬼族のダークエルフのミレイも顔を見合わせて困った顔をすると。勇者に自分達が見た夢について語り出したのだった。その説明を勇者の方も真剣に聞き入り。最後に、この世界に来る前に神様を名乗る者が現れたと聞いて勇者自身も驚くのだが。それでも自分は勇者であり、神様から貰った能力を持っていると口にする。それを見た闇女神は魔王と共に勇者の方に向かって手を伸ばしてから。勇者に近寄ると「貴方に私の息子が救われたわ。貴方のおかげで闇姫と我が子達を失わずに済んだの」と言うのだった。勇者の頬に触れていた闇女神は涙を零しながら微笑むのだが。それに対して勇者が「どうして俺なんかに感謝してくれるんです?」と質問を行うと。

「それは勇者君は優しい人だもの。私は闇を司る神なので。闇を嫌う者には、その優しさは届かない。貴方の心の中にある闇に対する嫌悪感を取り払えるほど優しくなければ、闇を好む者に愛されることはない」と答えると勇者は「えっ?闇を愛する人達もいるのでしょうか?」と質問すると。それに対して闇女神が微笑みながら、「当然、そういう人たちも、たくさん居るに決まっているでしょ。ただ貴方の場合は特別なのよ。勇者だからね」と嬉しそうに口にしたのだ。そこで魔王の方から勇者を呼ぶ声が上がったので。勇者が闇女神の部屋に足を踏み入れようとすると闇女神が「もう行ってしまうの?」と言うので。勇者が「また会いに来ればいいだけの話ですよね」と笑うと。それを受けた闇女神も微笑んでみせたのである。

勇者は、その後に魔王の寝所に案内されると。そこで、魔王と闇神が楽しそうに話をしている場面に遭遇したのだ。その光景を目の当たりにした勇者の脳裏には、なぜか闇の女神と勇者の姿が思い浮かぶ。そこで闇女神が「さっきの話を聞いて勇者君も気づいていたと思うけど。勇者君の中に含まれている闇の力を解放する事が出来ない以上は貴方に力を与えることは無理だと思う。勇者の能力は、もともと闇の力とは相反するものだから」と語ると魔王が「勇者が、こちらの世界に来た時点で既に勇者の能力を手に入れていたという可能性もあるな」と語ったので。その言葉を受けた闇の眷属達が納得してしまうと。「いやいや。ちょっと待ってくれ。そんな簡単に俺の能力を勇者が手に入れるとか。いくらなんでもあり得ないんじゃないか」と言うと。闇女神の方も同意するような表情を見せると。「いや。勇者が目覚めた時点では勇者は闇に侵食されていた可能性がある」と語りだすと。それに対して闇姫が「どういうことなの?まさか私が知らないうちに洗脳を受けていたというの?だとしたら許せないんだけど。それに勇者の力が私の手に渡らなかった事も悔しいし。勇者の加護さえ有れば、どんな敵だって倒せると思っていたのに。こんなのって無いわ」と言い始めると。そんな闇の姫に対して闇神の方も「まあ。闇を扱える力を手にする事ができただけでも喜ぶべきだろ。勇者の能力を手に入れたのであれば。その代償として命を失っているはずだぞ」と語られて闇の眷属の者達は「闇を扱いたいと願う闇の力の欠片を持つ人間など、存在するはずがない」と口々に騒ぎ出すと。

「そんな事は有り得ない。仮に闇の力を持っていた人間が居たとすれば、それは闇神の力を分け与えてくれた奴だけしかいないだろ」

そんな闇女神の言葉を受けて。闇女神の息子である勇者は、ある事を思い出すと。勇者は自分の中に宿っている力を実感して、これならば魔王に勝つ事が出来ると思ったのだ。「それでは俺の命が助かったのは闇姫さんのおかげですか?」と言うと。「ああ。そうだよ。この子にお前の体を癒すように頼んでいたんだ。だから今頃は元気になっているだろうから」と答えると勇者は、そのまま闇神の寝所に向かう事にすると。闇姫の寝ているベッドの前まで来る。その事に勇者が気づいた闇女神は「おい。この部屋は勇者以外の者は入れないんじゃなかったのか?」と言ってきた。その発言に対して魔王が口を開くと。勇者を闇神様に会わせると。魔王の側近の一人が「勇者様に魔王様のご命令です。

お通りくださいませ」と口にして頭を下げると他の魔王の側近達も同様に頭を垂れて勇者を送り出す。そうやって部屋の中に入る許可を得た勇者は、すぐに闇神様の元へ向かおうとするが。それを引き止める者が居たのだ。その人物こそが魔王であった。魔王は「俺も一緒に行って良いか?」と言うと。「魔王様が直に御出でになれば闇神の眠りを妨げてしまうのではないですか?」と言う勇者に対して魔王が「その点なら問題はない」と口にしてから。二人は闇姫の眠る寝所へ向かうと。そこには勇者が夢で見た時と同様に寝込んでいる姿があったので。その様子を見ながら闇姫の方に声をかける勇者なのだが。

しかし、いつまで経っても闇姫が起きる気配を見せなかったので。勇者の方から闇姫の方へと近づいていくと。勇者の顔を見て目を開けた闇姫が勇者に対して話しかけてきたのだ。

「貴方は何者?」

勇者に対して問いかけてきた言葉は、まるで別人のように冷たいものだったのである。その様子に勇者は戸惑うと。魔王は勇者に対して「おい。この子が言っている言葉が分からないのか?」と問いかけるが。その質問を受けた勇者は、自分が夢の中で聞いた神様との会話を思い出してから。

「初めまして。私は勇者といいます。神様の紹介で、ここを訪ねさせて頂きました。どうか私のお願いを叶えて欲しいのですが」と話しかけてみるのだが。それを聞いた闇姫の方は「残念ながら神様に紹介出来るほど強い力を持っているとは思えません。弱い者の頼みなんて聞きたくありませんから」と冷たくあしらうのであった。その言動を見た魔王が「こら。お前。せっかく訪ねて来た勇者に対して、それはないだろう」と怒ったので。闇姫が「魔王のおじさん。私は、ずっと病気で寝込んでいたせいで、こんな態度を取ってしまっているだけで。別に悪い人じゃないんだよ」と言うと魔王の方は、それで機嫌が良くなったらしく。その後は勇者に対して、あれこれと話し始めてくれる。勇者としては、それが自分の望んでいた展開であると思いながらも内心はかなり驚いていた。そして、やはり自分は闇の力を秘めていて魔王を倒す為に召喚された存在である事が分かり嬉しく思うのだ。そして自分には闇の力を使う為に必要な能力が備わっていた事が分かっていたからだ。だからこそ「あのー? 私にも闇の魔法を扱う事ができるようになるんでしょうか?」と質問すると。

魔王が「闇神に認められた勇者に、闇の魔法を使えない道理が有る訳がないだろう」と答えてくるので。勇者が闇神の方を見ると。

魔王の言う通り、闇神も勇者を認めていた。

だから勇者が闇女神の部屋から立ち去る際には闇女神が見送りの為に勇者の元に現れたのだが。その際に闇女神の方から「ねえ? 貴方の中に居る闇女神の娘を貴方に貸しても良い? この子には勇者を守るように命令してあるの」と言われてしまった。それを聞いた勇者は、闇神が魔王との戦いの最中に娘を差し出してきても困ってしまうと考えていたのだけれど。「勇者の役に立つのなら、その方が良いだろ」と言われた闇神は。「ありがとう。じゃあ。勇者の側に居られるようにしておいてあげるね」と言うと。

次の瞬間に闇女神が勇者に向かって手を伸ばしてきたのである。それから勇者が自分の体を見下ろしてみると勇者の腕の中には、先程闇の女神の所に遊びに来ていた筈の黒髪の少女が存在していたのだった。その少女の姿を目の当たりにした魔王の方は、少しだけ焦りを覚えたのだ。闇女神に認められし勇者が闇を司る闇神の加護を受けている。しかも闇神は自らの肉体すらも与えて勇者に預けてしまっている状態になっていたからである。もしも、そのような事態になるような事が有れば闇の神の加護を得た者を敵に回す恐れもあった。そう考えた魔王が、どうにかしようと考え始めた頃には既に手遅れの状態で。

闇神は勇者に「その女の子を勇者君に貸し出しておいたからね」と言い残すと闇の中に姿を消していく。その事を自覚した勇者が「これは一体どうしたら良いのだろうか?」と考え始めると闇女神の方は、これからの魔王の戦いについて語りだしてきたので。その事に対して勇者は素直な感想を述べてみた。すると、その言葉を耳にした闇女神の方が笑い出してしまって。そんな闇女神の様子を見ながら。魔王の方も笑みを浮かべたのである。

その後で勇者は闇の中へと誘われる事になり。

闇の中から意識を取り戻した勇者は闇女神と闇女神の息子である闇姫と共に魔王と対面する事に成功した。

そこで勇者が闇の力を開放して欲しいというと。

魔王からは闇姫の力を借りれば闇属性の魔法の行使が可能になるかもしれない。

そう告げられた勇者の方は嬉しそうな顔になると。「それでは、その闇の力を分け与えるという事は出来ないんですか?」という勇者の言葉を受けた魔王は、勇者の言葉の意味を理解できなかったようで。「どうしてそんな面倒な真似をする必要がある?」と問い返すと。それに対して闇姫の方は、なぜか不満な顔をしてしまう。その反応に困惑しながら闇姫が、なぜ闇女神の娘である自分には闇の力が宿っていないのか疑問に感じていると、そんな事は知らないよと言った表情を見せた闇女神は「そもそも闇の力というのは、闇の女神である私が勇者に力を与えるから、その対価として勇者が私の願いを聞く必要がある。ただそれだけなのよ」と言い出す。

それに対して勇者が「そんな話は初耳なんだけど?」と言い出した。その言葉を口にした後でも勇者の脳内では色々と思い出していたのである。魔王城の中で戦った際に闇神に対して、闇神様が俺を殺さないで欲しいと言っていた事や。魔王城から逃げ出せた際に闇神に対して助けを求めるように言われていたことや。闇の女神の寝所で、勇者は神様によって助けてもらった経緯を聞いていたからだ。その話を振り返ってみて、やはり闇女神が神様に力を貸してもらい闇の力を使える存在として転生したのは自分ではなく神様なので。神様の力で、闇の力を行使することができるようになった自分が。闇の力を与えられた事で。魔王と戦う力を手に入れることができたのだと思った。

そう考えてから勇者は自分の腕の中に抱え込んだ黒髪の女性の顔を確認する。その事に気づいた女性は不思議そうに勇者の顔を下から見てきたので、その事に対して「俺は貴方を助けましたよね?」と尋ねると。その女性の方も「勇者様には命を助けられて感謝しているよ」と答えてくれた。その事に勇者が安心するのと同時に、そんな風に思って貰えるならば。この子を俺の仲間に引き入れる事も可能なんじゃないかと勇者は考えるのだ。「ところで、この女性の名前はなんていうんだ?」と魔王の方に向けて問いかけると。

闇姫の方に「その人の名前を、あんたが教えてくれるように」と言われると。その女性の名前が分かった。その女性の本当の名前はクロネと言っていて。元々は普通の女子高生であったらしい。その話を聞かされた時には勇者の方は少し驚いてしまったのだけれど。「それで、クロネは、どんな力を手に入れたいと考えているのかな?」と質問されて。クロネの方は、自分が闇神の加護を受けて勇者に守られるだけの存在にはなりたくないと口にしたので。その発言に驚いた勇者は「闇姫さんと二人で旅をしていると危険じゃないのか?」と考えると、勇者の方の考えを肯定するような事を言ってくれた。

それを聞いてから闇姫の方を見るのだが。魔王の方は闇姫の態度を見ても、特に気にしていない様子だったので。闇姫の機嫌を取るために勇者は何かしら行動を起こしたいと思う。しかし闇姫の方は勇者に対して冷たい視線を送り続けて来る。それはまるで汚物でも見るような瞳で見てくる闇姫の方は、とても不愉快に感じてしまう。その事が気に入らなかった勇者は、それでも、とりあえずは闇姫の事が知りたくて話しかけてみたのだけれど。闇姫は、あまり自分の事が知られて欲しくないようで。自分の名前以外の個人情報に関して口にしようとしなかったのである。その事が原因で勇者の方も腹を立ててしまってしまうと、どうしても感情を抑えることができなくなってしまい。闇姫に暴力を振るおうと考えてしまうが。

「この人を傷つけたら、勇者君の体を真っ二つにしてやるからね」

勇者は闇神様から与えられた剣を、すぐに鞘に仕舞うことになると、闇神様の忠告に対して勇者の方は従わない訳にはいかなくなってしまう。

それから闇姫に対して、どうして闇女神の子供なのに、闇属性の魔法が使えないのか? と質問すると。それに対する答えは返ってきたのだが。それを聞いた時に闇神は苦虫を潰したような顔をしてから「そういうことだよ」と言うのだが。その闇神様の返事を聞いた勇者は意味が分からずに「それはどういう事なんですか?」と言い出すと。その言葉を耳にして、闇神が呆れた様子で溜息をつくと。「貴方は本当に馬鹿なんだね」と言い出してきたのである。それから闇女神は闇神様に目を向けると。その瞳は、どこか非難するように細められていたので。

「まあ。仕方がないさ。勇者だって本当は闇の力を扱う事ができるんだよ。ただし勇者は勇者であって。勇者が扱う闇の力に関しては。勇者が闇の力を使う為に支払う対価となる代償が半端なく高いんだよ」

それを聞かされた勇者は驚きの余り固まってしまった。

そんな勇者に魔王は、「勇者はお前達とは格が違う存在なのだ。闇神の加護を授けられし勇者とお前らでは持っている力に差が有りすぎる」と語りだすと。魔王の言っている内容が、いまいち理解できていない勇者が、どうすれば闇の力を扱えるようになるのかという事を尋ねてみると。その質問に対しては闇女神から答えが帰ってくる事になる。「貴方に貸し出せるだけの闇の力はもう無いわよ」そう言われる事になった勇者は闇女神の方から闇姫の方へと、その瞳を移動させるのだが。

勇者の頭の中では闇神の声も聞こえていた。闇神は勇者に対して、貴方が望むなら私の持つ闇の力で闇の力が使えるようにする事はできるけど。

だけど勇者に、それをさせてしまった場合は。私達は永遠に闇の中から抜け出す事ができなくなってしまう恐れがあるので。私は絶対に許さないし、それに闇の女神も決して納得しないだろう。だから私は闇姫の方に力を与えようと決めた。

そんな話を闇女神は闇神の方へと向けて語るのだけれど。そんな話を魔王の口から聞かされる事になる勇者の方は混乱していた。なぜなら勇者は魔王が闇属性の力を持っていると思っていたのだ。

その事から勇者が魔王の方を見ると、魔王は闇属性の魔力が使えるので、闇姫に力を与えたとしても何の問題もないよと魔王は言うのだ。それを受けた勇者は闇神が魔王に力を貸しているのではないかと考えた。その事を勇者は口にしたのだが。闇姫は首を横に振る。闇姫の話によると闇神は闇を司る神であり、魔王の闇を司る部分だけに対して力を与えるという行為を行う事は可能らしい。しかし魔王の場合は魔王城という魔王城の中でのみ闇神が自由に力を行使出来る環境になっているため。その状況下ならば魔王城から一歩でも外に出れば闇神は力を自由に行使する事が出来るらしいのだ。その話を聞いた上で勇者が魔王の城での戦闘を思い出してみても。勇者の記憶の中に魔王城で戦っている最中の魔王の姿を思い出そうとすると、何故か魔王の姿が黒い霧に覆われて姿が確認できなかった事を思い出す。その時に勇者は疑問に思っていたのだ。あれは一体何だったのだろうと。その疑問を魔王に投げかけてみると、闇姫から答えが返ってくる。その言葉を受けて勇者は理解してしまう。闇属性の力というのは、闇神の加護を受けていない人間が使用しても魔王の体に宿っている闇属性の力によって、闇属性の力を制御できなくなってしまう可能性があるのだそうだ。

つまり、もしも、そのような状態になって勇者が闇属性の力を使いこなせるようになると。その人間はその能力によって闇の世界の深淵まで堕ちていってしまい。最後には闇の力の使い手となり果ててしまい。二度と光の世界に戻ってくることはできなくなるという。それを聞かされた勇者は、魔王に闇姫に対して闇の力を使わないように注意を促したのである。しかし、闇姫の方は、そんな事は、どうでも良いとでも言いたいのか、その言葉を無視する形で闇女神の方に向かって語りかける。

闇神は「私の体の一部を魔王にあげれば問題はないわよね」そう言った。それに対して闇姫の方も「私の力の半分を、お姉様から頂きましたので、私の力が半減してしまいましたけれど。それを差し引いても十分なお釣りが来ますね。それにお母様と一緒で有った方が嬉しいですから、私は、これから、お姉様のお傍にいる事にします。そして、いつか必ず闇の力を、この手に取り戻してみせます」

それを聞かされた魔王は「それは構わないのだけれど。闇の女神が闇の力を取り戻す為には。闇の力を分け与えた存在が必要で。闇の力を持った存在が居なくなった場合。闇の力を手に入れる事が出来なくなるのだけれど。その辺の事を理解した上での発言だと思っていいんだよね?」と念を押したのだが。

「大丈夫ですよ」と闇姫は答えると「私が欲しいものは。勇者の剣と。勇者の肉体だけなんです。それが叶うのならば、私は自分の命を犠牲にしようとも全く構いません」と力強く宣言したのである。

そう宣言した後の闇姫の態度は今までとは比べ物にならないぐらいに堂々としており。自分の主張したい事を口にしたのだ。そんな姿を目の当たりにして魔王は困ってしまったのだけれど。その表情を見てしまうと、どうしても助けてあげたくなるので、その意見を尊重する事にした。そうやって闇姫からの要求を受け入れた後で魔王の方は自分の考えを話し出す。

その言葉を聞いた時、僕は驚いたのであった。なぜなら僕の目を通して見る魔王の脳内には、僕とは全く関係ない人達が映し出されていて。しかも、その人達は死んでしまっている。それも何人も殺されてしまっていたのであった。僕は魔王の方を見て「これは、どういう意味なんですか?」と質問をしたら。「君の仲間になりたいと考えている人が大勢いるってことだよ。君は今から死ぬつもりなんだから。仲間になってもいいんじゃないかと思っているんだよ。ただ、これだけは約束してほしいんだ」と言われた。その事で僕は魔王の言おうとしている内容を理解できた。その事については「もし、あなたが私に戦いを挑んで来た時に負けた時には素直に私に殺してくれとお願いしてくれるんですよね?」と言ってくれた。その言葉は本当に助かる。何故なら僕は自分が勇者であるという事が誇らしかった。それは僕に力を貸してくれていた女神の加護の効果が有るからである。なので、もしかしたら僕は自分なら負けることはないかもしれないと考えていたからだ。だからこそ僕は目の前の勇者を名乗る女の子と戦う事を拒んでいる自分がいたのである。そんな時に魔王は「君の願いを聞いてあげる代わりに一つだけお願いを聞いてほしいんだけど」と口に出してきた。それを聞いた僕は不思議に思う。その瞬間に僕は自分の体を縛られていた感覚が無くなっている事に気付き、魔王の瞳に自分の姿を映したのであったが。その時の魔王の眼差しは、まるで蛇のように鋭い目つきをしていた。そんな目で見られると僕は恐怖で何もできない。

それから魔王の唇が動いて言葉を発してくるのだが。その内容は、あまりにも残酷すぎるものだった。

「君は死んだ方がいい」と告げられる。「君みたいな、ただ運が良かっただけの人間が勇者を名乗って良い訳がないんだよ。だから、もう終わりにするべきなんだ。君だって本当は分かっているんじゃないのかな? このまま戦いを続けたところで未来は無いってことをね。だって今の君は、その力の殆どを失ってしまっているじゃないか」

「その言葉をそっくりそのまま貴方にお返しさせていただきます。貴方は勇者を名乗っているみたいだけど。勇者と名乗るような人じゃないですよ」

「その言葉。後悔するなよ」そう言うと、すぐに魔王の手が光り輝き始めて何かを形作ろうとしていた。しかし魔王は、その途中で止めてしまい「こんな事は本当はしたくなかったのだけど。貴方のような人を見ているとね。やっぱり殺しておかないといけないと思うのよね。だから貴方を殺すことにするよ」と口に出して僕に対して攻撃を仕掛けてきた。

魔王の攻撃に対して、どうにか抵抗を試みるも無駄に終わった。そもそもの話として相手は魔王であり。僕より格上の存在である。その相手に勝てる筈がなかったのだ。

しかし魔王が放つ攻撃はどれも威力が高くて、とても耐える事ができるとは思えなかった。そこで僕は咄嵯に魔法を繰り出すことにした。ただし相手が魔王ということもあって、なるべく威力の高い強力な魔法の方を選択する必要があった。その為、僕が選んだのは水系統の最強魔法の一つである氷系の最上級魔法を使用することに決めたのである。ただ、この選択を間違えていたと後に知る事になるのだけれども。魔王が放ってきた攻撃が炎だったので、水属性を選択した事を後悔する事になってしまった。その結果、魔王の攻撃に耐えきれずに僕は全身に大火傷を負うことになる。しかも魔王の攻撃は一撃では終わらずに、何回か連続で攻撃されてしまっては致命傷を避けるので精一杯だった。

それに加えて、こちらが魔法を発動しようとするたびに邪魔され続けてしまっては反撃をする隙さえも見出せない。そうこうしている間にも魔王から攻撃を受け続けている状況に陥ってしまっていたのである。そうなってしまう前に僕は必死で逃げ出そうとしていた。そんな行動を取っていた僕なのだけど、逃げるために、どうにか立ち上がろうとしても、その度に倒れこんでしまう事になる。そんな情けない姿を晒していたのだけれど。その状況に苛立ってしまい「こんなの反則だろう。僕の方が勇者だというのに、どうして、こんな目に遭わなくちゃいけないんだ!」と声を荒げてしまったのだ。

すると僕の口から漏れ出た叫びを聞いた魔王の方は「何を寝ぼけた事を言っているんだ」と言い出してきたのだ。「お前が勇者を名乗るなんて百年早い。それになぁ、勇者という奴はな。弱いんだよ」と魔王の方から言われたのである。それを聞かされた時の僕は悔しかったのだけれど。確かに事実なので仕方が無いと思い、それを認めようとしたのだけれど。「違うだろ。弱いのが勇者なんだ。勇者に大切な物は強さではなく、弱さを乗り切るための強さだと。俺はそう思うぞ」と魔王に言い返されたのだった。それを受けて僕は言葉を失ったのだけれど、同時に、この勇者の言葉を心に刻み込もうと思った。なぜなら勇者の言葉には力があったから。そして、その勇者の力を借りることが出来るのならば、魔王に対して一矢報いることも不可能ではないはずだ。それ程までの力を感じさせる勇者の力ならば、あの巨大施設の中でも通用してくれたかもしれないと考えたのだ。その事を思い出した時、僕の心の中に少しばかりの希望が芽生えたのだった。

僕は目の前に広がっている光景に目を奪われたのだ。

それは魔王が作り出した結界が消え去っていたからで、僕は今ならば、この巨大な空間から脱出することができると確信したのである。

僕は今まで感じたことのない力が自分の体に宿ったように感じた。おそらくは魔王が与えてくれた加護の影響だと思う。そんな事を考えながら、とりあえず出口を探した。そして僕の視線は壁に突き当たる。それは僕から見て右側の壁面だ。

「あれは壁なのかな?」と思った。

その疑問を口に出した僕は自分の体に起こっている変化に気が付き始めていたのだ。

そういえば自分の体が妙に軽いのだ。もしかして、もしかすると。これは夢なのではと思って頬を思いっきりつねると普通に痛くて、それでいて目が覚めるという事はなかったので、これが現実だと確認できた。それから「魔王の野郎。もしかしたら僕はとんでもない化物に目覚めさせたのではないか?」そう考えてしまう。しかし、いくら魔王の力を貰ったとは言えども、この程度の力しか与えられていないとしたら、それは魔王自身が大したことないという結論に達してしまい。それならば僕は絶対に勝つことができると自信を持って言う事ができた。

それどころか「勇者を名乗らせて貰えるだけでも光栄なのに。これなら勇者と名乗る資格はある」と自分で言ってみて、ようやく自分が勇者であることを受け入れられた。

それから僕達は外に出るために走り続ける事にした。ただ、その道中に敵が現れるのだが。そんな敵に苦戦をする事はなかったのであった。その事を不思議に思っていた僕なのだけれど。どうやら自分の力の異変について理解し始めたのである。それは自分の中に宿っている魔力の量が増えて来ていると実感したからだ。なので、この調子であれば、あの施設の中から抜け出せる可能性は非常に高いのではないかと考えたのである。

そんな風に考えながら走っていた時である。前方から突然大きな足音が聞こえてきて僕は驚いてしまい「うっ」と声を出した。その直後の事だ。僕に向かって剣が振り降ろされてきた。それを僕は手に持っていた剣で受け止めることに成功する。その事に僕は「危ないところであった」と思ってしまっていたのだが。目の前に現れた存在は、僕にとって天の助けとも思える存在であったのだ。なんせ僕の前には剣を持った女性が立っていたからである。その女性は、かなりの美人であった。その事から僕は思わず見惚れてしまう。しかし目の前の女性は険しい表情をしているので「これはヤバイ」と思ってしまった。だが彼女は「お前が私の剣を受け止めたのが運の尽きだった」と口にしながら、もう一度剣を僕に向けて振ってくる。

それに対して僕は再び防御を試みたのだが。彼女の力は、あまりにも強く、僕の体は、そのまま吹飛ばされてしまった。その事で僕は地面に体を打ち付ける事になってしまう。そんな痛みを感じながらも「なんなんだ」と文句を呟いた直後のことである。今度は魔王の声が響いてきたのだ。

その言葉を聞いた後で僕は魔王と勇者の戦いの一部始終を見ている最中の出来事である事を思い出す。勇者と魔王はお互いの姿を確認し合った。魔王は自分の力が及ばなくなったことを悟ったのか「今回は俺の負けにしてやる」と言った。しかし、そんな魔王に勇者は「そう簡単に私が許すと思うなよ」と言って自分の腕を振り上げると。

魔王の胸を貫く形で魔王の腕が飛び出して来て、魔王の体が宙に浮かび上がり始めたので「おい、ちょっと待て。僕は魔王と勇者の会話を見てただけだ」と口に出してしまう。そんな僕を見た勇者の口元には薄笑いを浮かべるだけで、何も答えようとはしなかったのだ。ただ僕は「どうして勇者の攻撃を避けられなかった」という自分自身に対する怒りが沸々と湧きあがって来たのだ。それから目の前にいる女性の姿を改めて確認すると先程の魔王の攻撃によって殺されたであろう男性の死体があった。その男性は、つい最近まで一緒に冒険者パーティーを組んでいた仲間である事を思い出したのである。その事が切っ掛けとなり思い出したのは彼が愛用していた武器の存在だ。

僕は急いで駆け寄る。それから彼の死体に触れると一瞬だけ意識が遠のき、次の瞬間に彼は生きていた頃に使用していた装備を身に着けていた。

そして、それが全てが終わった後に「まさか死んだ人間を蘇らせる事が出来るのか? それに死者を操る能力を持っているだと?」と考え込む事になるのだけど、ここで気が付くことになるのは目の前の男性の名前を知らないという事実だったのだ。そんな僕に気付いた男性の瞳は「貴方は一体誰なんだ? 何者なんだ? それに今のは何だったんだ? 今のは夢か? 幻か? もしかして貴方も勇者様なんですか」と立て続けに問いかけてくるのだ。その言葉で僕の思考が混乱し始める。勇者という単語は僕の口から自然に漏れ出たもので。勇者が使う魔法を使ったわけでもないので、どうして勇者という呼び方になったのか分からず、もしかして魔王に僕の力を与えた勇者と同じ名前を名乗っている人が他にも居るのかなと思えてきたのである。そこで僕は目の前の人に尋ねてみる事にした。「すいませんが、僕が知っている勇者さんは、もしかして貴方のことですか?」と尋ねる。しかし、その質問に対して「勇者様だって? ふざけるのも大概にしろ!」と言われてしまったのだ。

そこで僕は勇者の力を与えられているのに自分は勇者である事を認められなかった場合のデメリットに思い至る。なので僕は、どうにかして勇者であることを証明するしかないと考えて「そうか」と言うと、すぐに右手の甲を目の前の人に見せつけることにしたのだ。そこには間違いなく勇者の証と呼ばれる物が刻まれていた。だから目の前の人も、この紋章の意味を知ってくれたら良いなと思ったのだ。

ただ、その人は僕の右手の甲を見ると目を丸くさせて驚いていた。それだけではなくて、まるで信じられないと言わんばかりに僕の顔を見つめたまま硬直してしまったのだった。その態度は僕の目から見ると何か不自然な気がした。どうしてだろうと思っていたのだけれど。

それは、よく考えたら当たり前の事なのだけど、自分の目で確かめていないので分からない事だった。僕が勇者と呼ばれている事に対して目の前の人は否定的な意見を述べたのである。それどころか、この世界には、この国に勇者なんて存在してはいけないと僕に告げてきたのだった。しかも「勇者とは偽物の称号であって。本来であれば勇者と呼ぶ事すら失礼に当たるのだよ」と言い出してきたのである。

「じゃあ、僕は勇者を名乗る事を許されていないんだな」と思ったのだけれど。僕を勇者として認めてくれなければ困るのは僕である。

なぜなら、この世界で勇者という職業を扱えるのは僕しかいないはずなので、僕以外に勇者の力を宿す者が現れたとしたならば。その者は、その勇者と名乗る権利があるという証明になるからだ。だからこそ勇者を名乗った以上は勇者を名乗る事を認められないという事を言われても受け入れる事は出来ないと思ったのだ。それに加えて目の前の人の話を聞き続けているうちに僕は疑問を覚えてしまった。なぜこの世界に勇者という言葉が生まれたかという理由について語りだしていたからだ。この話は前にも誰かから聞いていたような気がしたので「ああそうだったのか。そういう事だったんだね」と思うようになっていた。

そして「この世界の神様が創り出した最初の勇者と僕は無関係なのか」と考えると不思議な気持ちになってしまったのだ。しかし、その事実を突きつけられたからと言って僕が悲観するような事はしないで、これから先の人生を考えることにする。目の前に立っている勇者と名乗る男を目の前にして「この人と一緒なら勇者と名乗って生きても良いんじゃないか」と心の中で思ってしまっていたのだ。それは勇者が持つ強さに憧れたからという事もあるし。もしかしたら、この勇者に力を与える事ができるというのならば、それは、つまり、この世界を牛耳れる力を手に入れる事ができるのかもしれないという期待を抱いたからである。もちろん僕の願望で妄想なので現実性が無いのは百も承知だったのだけど。そう考えるのと同時に「この勇者と名乗る男と手を組んで生きていくべきなのか」と思い悩む事になっていた。ただ目の前の男の表情が、だんだんと険しい物に変わっていき、僕を殺そうとする意思を目に込めると「お前みたいな小娘に私の人生を滅茶苦茶にされてたまるか」と叫んで剣を振り下ろして来たのだ。それに対して僕は防御をするのだが。勇者の攻撃をまともに喰らってしまい、再び地面に体を強打する事になってしまったのだった。

僕は地面に打ち付けた体に鞭を打つかのように起き上がると「まだ死んでいないぞ。僕を殺したくば力の限り攻撃してこい」と言った。しかし勇者と名乗った男は、そんな言葉を聞くと笑みを見せるだけだった。そんな状況を見て「これはマズイ」と感じたので僕は勇者に背を向けるようにして逃走を開始するのだが「逃がしはしないよ」と言われた。それから僕に近寄って来る気配を感じて振り返ると勇者は僕の背後に回っていたのだ。そして「私に背中を向けた時点で君の負けだよ」と言われると「そんな馬鹿な。僕の方が足が速いはずだ」と思うのだが「勇者は、どれだけ逃げても追いつくことが出来る」と言われるので僕は必死に逃げようとするのだが。

勇者は僕に「君は、いつまで逃げるつもりなんだい?」と言ってくる。それから勇者は僕の方に向かって剣を振り上げて振り下ろす。それを僕は間一髪で避けようとしたのだが。勇者の振り上げた剣から発せられる衝撃波を避けることが出来なかった。僕は衝撃波を受けて吹き飛ばされてしまい地面の上に転がる形となる。だが「僕は、このままやられるほど柔じゃないんだ」と自分に言い聞かせて立ち上がると走り出す。

「もう諦めた方が身のためだと思うんだけど。まあ君の意思を尊重するとするか」そんな風に勇者が言ったのだが「勇者が僕の目の前に居るのだ。簡単に殺されて堪るものか」と思ってしまっていたのだ。それから勇者を僕に倒せない事を思い知らされるまで戦い続ける羽目になり。最後には地面に倒れた僕を剣の切っ先で刺し殺すような形で勝負を決めることになったのである。そのせいもあって僕は地面に倒れる事になってしまい。そんな僕の顔の方に視線を向けると勇者が口を開いて「どうして俺の攻撃を受け続けて平然としているんだよ。お前は人間なのか?」と言われてしまう。しかし僕は答える事無く「どうして僕を殺さなかった」と勇者を睨みつけながら尋ねたのだ。すると勇者は「さすがの俺でも自分の手で人を殺すようなことはしたことがないんでね」と言って来たのである。

しかし、そんな勇者に対して僕は「どうして、その勇者様という存在に僕は勝てなかったのだろう」と呟いた後に意識を失ったのだった。それから、しばらく時間が経過した後、目が覚めた時には僕の横で心配そうな顔つきをしていた女性がいた。その女性は僕の顔を覗き込むように見ていたのだ。

そこで僕は女性の姿を見た時にある事を思い出した。確か、僕は先程までの光景を見ていて魔王の力によって殺されるという経験をしているのだ。それで僕には何が起こったのか理解できない出来事が起きたのである。しかし「その女性には絶対に聞くことが出来ない内容なので」と考える事をやめた。しかし「僕は何故、ここにいるのだろうか?」と僕は思い悩んでしまった。どうして魔王の攻撃を受ける事になったのかと。そして、どうやって自分が生き残ったのかが思い出せず。僕は目の前にいる女性の姿を見て、もしかしたら、この人に僕は助けられたのではないのかと考えたのであった。

「貴方が勇者さんですか?」

「え? どういうことですか? 私は確かに勇者と呼ばれている存在ではありますが、そんな事は聞いたことがありません」

「やっぱり勇者さんだったのか。それならお願いが有ります」

「あの? 勇者って誰ですか? 貴方は、その様な名前を語る資格なんて無いはずです」

勇者は「そんなはずはない。俺は、この世界で勇者と呼ばれていて。そして、それを否定する人間も一人も存在しない」と言うと「だから勇者とは誰の事ですか? 貴方は、そんな名前を騙っているだけでしょう」と言うのだった。だから「違うって言ってるだろう。それに、どうして俺の言葉を信じようとしないんだ」と怒り始める勇者なのであるが。彼女は勇者の言葉に対して首を横に振るばかりで話にならないのである。しかし勇者は僕に質問をぶつけてきた。それは、どうして魔王の攻撃を受けても死ぬ事がないのかという内容だった。そこで僕は神様と出会って。魔王と戦う為の力を貰っていたという真実を彼女に話す。

「じゃあ魔王と、やり合ったのか?」

「うん。そうだよ」

「魔王に勝つ為に、それだけの力を貰ったと」

「はい。そうだ」

僕は勇者と会話をしながら、ある事が脳裏を過ったので勇者に問いかけることにする。「僕の目の前に現れた勇者さんは僕の命の恩人だ」と言うと勇者は「いきなり、どうしたんですか? 勇者にお礼を言うなんて。何か悪い物を食べましたか」と言われてしまった。

そして僕は彼女の言葉を無視して勇者に問いかける。「もしも、僕が魔王を倒せていない場合、この国で暴れまわっている化け物は一体、何処からやって来たんでしょうか?」と、そう僕が尋ねると勇者は何も言わずに押し黙ってしまったのである。それは僕には勇者の正体を知る事はできないのだけど。

勇者は「どうして私の力を借りた状態で戦わないのだい?」と口にしていた。それに加えて僕の手の甲を指差して、そこに紋章は存在しているか確認するように僕に訴えかけてくるのだ。僕が自分の手の甲を見ると、そこには勇者と同じ形の刺青が存在していたのである。しかし、それは神様が僕に刻んだ物ではなくて勇者が刻み込んだ物だと僕は思った。だからこそ、それを確かめた瞬間に僕は驚きの声を上げてしまったのだ。だけど、この事は神様には伝えることは出来ないと思うので「そんな物が有るなんて、知らなかったんだ」と言ってごまかす事にした。そして勇者は自分の力を分け与える事が可能だと言ってきた。それに対して僕は、そんな事ができるのであれば、この場で、やってもらいたいと頼むのだが「無理だよ」と言われたのだ。

「なぜ駄目なんですか?」と僕が問い質すと勇者は「君の体に私の力は残っていないよ」と悲しげに告げたのである。それだけではなくて勇者が僕に近づいて来て頬に触れると「もう手遅れかもしれないけど、こんな姿に変わってしまって可哀想に」と口にして泣き出したのである。そして僕を抱き寄せると抱きしめて、そのまま地面に座り込んで泣き続けたのだ。僕としても目の前の彼女が泣いている理由がよく分からないので慰めたい気持ちで一杯になったのだが。下手に触ってしまうと傷つけてしまって痛がらせるだけになってしまう可能性があると思った。

「僕は大丈夫だから、あまり泣かないでくれ」

そう僕が勇者に伝えると勇者は「そんな訳が無いだろう」と言って涙を拭いながら立ち上がり「本当に君の体の中には、もう勇者の力が宿っていないんだ」と言って僕から離れていった。僕は離れていく彼女を見て「もしかしたら、この人が僕の体を乗っ取ったのではないか」と考えて警戒心を抱いた。すると僕の考えを察した勇者が慌てて「私は君の体を乗っ取りなんてしていない。そんな事をすれば、君を殺して私は殺されていたんだから」と言うと、僕の体に抱きついて来た。

「君は私の命を救ってくれたんだ。だから私は君を裏切りたくない。私の全てを賭けてでも君を守り続けると約束しよう」

それから勇者と名乗る女性が「君は私に何を望むのかな?」と言う。僕は自分の身に何が起きたのか理解できないまま。自分の力を取り戻すべく。勇者の力を使いこなして戦うことにした。それからは勇者を名乗る女性と二人だけで旅をする事になったのだ。僕が一人で旅に出る事を伝えると勇者を自称する女性は付いていくと言い張ってきた。しかし、その言葉を勇者が否定してくれた。勇者の言う通り僕と二人で行動する方が都合が良いと判断したのだ。ただ僕は勇者の本当の名前が知りたかった。

そこで僕は、ある事を確認するために神様と念話で話をしてみることにした。

『ねえ神様。聞きたいことがあるんだけど。勇者と自称する女性の本当の名前を知っていますよね』と、僕は、そんな風に話しかけると。少しの時間が経過した後に返事が返ってくる。

「知っているとも。君の思っている通りに答えよう」

僕は勇者と自称する女の名前を勇者と偽っている誰かに教えてくれないかと頼んでみた。その僕の願いを聞いた神様は少しの間、何も喋らなかったのだが暫くすると「勇者というのは、やはり、その名を口にするのは良くないね」と言って、その名前を教えてくれた。その瞬間から勇者は僕の前から姿を消したことになる。つまり本物の勇者が現れたのだ。しかも本物の勇者は僕を殺そうとしている相手だという事が判明した。そして勇者と自称している存在が、これから、どのような手段に出るかという事も予測できたのだ。しかし僕自身は、それを気にすることなく自分の力を磨き上げて。

そして再び僕の元に現れた勇者と名乗る女性と戦う事になるのであった。それからの戦いは激しかった。しかし、どうにか勝利することが出来た。しかし僕自身としては勇者と名乗る女性は、まだ自分の意思を持っていると思っていたのである。だから戦いが終わった時に自分の力で封印する事にした。だが勇者は「自分の意思など、とうの昔に投げ捨てている」というのであったのだ。それから勇者の魂を解放しようとしたのだが。既に勇者は、そんな存在になってしまっていて手が付けられない状態になっていたのだ。それだけではなく。勇者を封じる事に失敗した僕は意識を失ってしまい気がついた時には知らない場所にいた。

その場所を見渡すと先程の場所とは違う空間が広がっていることに気が付きこの場所での出来事を思い出す。

確か先程まで自分は魔王と呼ばれる化け物に攻撃を受けていたはずなのにと思い出す。それで僕は辺りを警戒しながら歩いていると僕の視界の端で勇者と名乗っていた女性と目が合うとその女性は嬉しそうな顔を浮かべてから「勇者の力が、その身に馴染んできたようだね」と言う。その言葉を聞きながら僕は「やっぱり僕の中に勇者の力とやらが眠っていたんですね」と言う。

その言葉に勇者を名乗っていた女性は微笑んでから僕に対して「君の中で眠っている物は紛れもない本物だ」と断言したのである。そこで僕は先程までのやり取りを思い出していた。自分が勇者としての力を取り戻したいと言った直後に。神様に勇者の居場所を尋ねられたのだ。

どうして神様は僕の頭の中から、あの人の気配が感じ取れるのか? 僕は疑問を抱く。その疑問に勇者を名乗った女性が答える形で語り掛けてきたのである。それは僕と勇者との相性が非常に良いからだ。それは僕自身が勇者を宿すのに適している存在であり。また勇者の方も、そういう素質のある人間を探していたのだという。だから勇者と名乗った女性の僕への態度が変わったのである。そして、それだけではなく。勇者と勇者を取り込んだ僕の体は、とても素晴らしい能力を秘めていて。それで僕は魔王を倒す為の手助けが出来るようになったのだと自慢されたのだ。だから勇者と名乗っている彼女は「これで、やっと君と共に歩む事が出来るな」と言うと、僕と肩を寄せ合ったのである。僕は彼女との距離が近い事に緊張してしまったのだが。それとは対照的に勇者を名乗る彼女の方は僕と密着できて嬉しそうにしている様子だった。

その後。勇者は僕の頭を撫でたり。胸を押し付けて来たりしてくる。そこで勇者は、どうやら、この世界が勇者の生まれ故郷である事を語って聞かせたのだ。しかし、それは彼女が嘘を吐いている可能性が高いと思った。だって、そんな話は今までに一度も耳にしたことがないのである。そこで僕は勇者の話が真実か確かめるために質問してみる。「この世界に魔法が存在するなんて、そんな馬鹿な事があるわけ無いじゃないですか」と言う。すると勇者が「そうだよ」と言う。続けて「だから君に私が、どんな魔術を施したのかを簡単に話してくれよ」と言ってきたのだ。だから僕は正直に答える事にした。

すると勇者が驚いたような顔をした後に「私の力は勇者の力の中でも上位に位置する物で。その効果は相手の体に勇者の証を刻むことで。対象の体を自由に作り変える事が可能になるという能力だったんだよ」と、そう僕に説明してきたのだ。僕は「それが、どういった意味を持つのか理解できないので詳しく説明して欲しい」と頼み込む。すると勇者は僕に説明を始めたのだ。

どうやら、この能力は相手に刻み込まれた刺青に勇者の力を注ぐ事で発動されるらしい。そうしないと上手くいかないらしくて、だから刺青を刻まなければ勇者の力を使えないのである。しかし勇者の力を使いこなせれば色々な事ができるようになるのだと。

例えば肉体を強化することができる。それに回復系の力も使えるようになり、また他人の力を吸収して自分の物に変えられるとか。とにかく色々と出来るみたいだ。ただし使い過ぎると体に悪影響が出る上に魔力切れを起こしてしまい倒れてしまうので注意が必要だと、それだけを勇者は語ったのだ。だけど勇者の体にも僕の体が刻まれてしまった為に。これから僕は、ずっと勇者の力を使わなければいけないみたいなのだ。だけど勇者と勇者の力を持つ僕はお互いに惹かれ合っているようで一緒に居ても悪い気持ちにならないのだ。むしろ僕の心は安心感と幸福に包まれている。きっと勇者の体から流れ込んできた勇者の力が僕の心までも侵食しているせいだと思われる。それが原因で僕は幸せを感じることが出来るようになっているに違いない。

それから勇者は僕に様々な事を教えてくれるのだが。その中で特に興味深い内容の説明を受けてから。僕が今現在いるこの場所について聞いてみることにした。僕は勇者の話を聞いていた限り、この世界に存在している筈の無い建物が存在していたのだ。だから僕は勇者に「もしかして、ここは僕たちが住んでいる世界とは別の世界なのか?」と、そう問いかけた。すると勇者が「うん、まあ、別の世界だよ」と口にする。それを聞いた僕は思わず叫んでしまった。

「じゃあさ、さっき、ここに来るまでの間に見た魔物の類は何だよ?」

その質問に勇者が「彼らは勇者の力で生み出した存在だから問題は無いんだ。でも、もしも勇者の能力を使う人間が勇者以外の力を使って作り出した場合は大騒ぎになるけどね」と答えた。だから、ここの人間は僕を、こんな場所に呼び寄せたのだろうと考えつくと勇者に問い詰める。

「僕が、お前たちを殺しに来た刺客だとは考えなかったの?」

その言葉を聞いた勇者が微笑み「私達を殺せる程の実力があれば。わざわざ勇者を呼び出したりはしないよ」と言う。確かに、そうかも知れないと僕は思う。ただ、この世界の事をもっと知りたかった僕は勇者に幾つか尋ねたのであった。すると、すぐに返事は返ってきて「まずは魔王の事を説明してあげよう」と言い出したのであった。それから勇者は僕に「私と一緒に、あの子を倒して欲しいんだ」と頼むのだが。

「僕に何ができるっていうんだ?」

と、そんな風に聞くと。

「あの子は魔王と呼ばれて居るんだけど、元々は魔王と呼ばなくても良い普通の少女なんだ」

と勇者は言う。そして彼女は語り始める。

勇者の話を聞いてみると勇者は昔は勇者と呼ばれていたのだ。そして勇者が生まれ育った国には沢山の少女達が存在しており。その中には将来、勇者の伴侶となりたいと思っている者も大勢存在したのである。しかし、そんな中で一人の女の子が勇者に憧れを抱き始め。それから勇者を目指すことになったのであった。だが、その道のりは決して平坦なものでは無く、挫折の繰り返しで苦しい事の連続だったという。そんな彼女を支え続けた男が勇者の前に現れると。

勇者は自分の理想としている女性に育て上げるため。彼女の事を徹底的に管理し始めたのである。しかし、その男は、ただ勇者を、その女性の元に送り込んだだけでは満足しなかったのである。その女性は自分が作り上げてきた勇者の全てを受け継ぐに相応しい人間かどうか確認する必要があったのである。そこで魔王と呼ばれた存在が誕生したという。その事実を聞いた僕は複雑な気分になっていた。何故なら魔王と呼ばれる事になったのは僕の祖母だという話を聞いたからだ。

魔王と呼ばれるに至った経緯を聞かされた僕の脳裏に浮かんできたのは勇者と名乗る女性が僕の母に対して放った台詞の数々であった。その台詞を思い出す度に怒りが込み上げてくる。勇者が僕の感情を察してくれたのだろうか。僕の頭に手を置いて「君のお母さんがした事は許せないと思う」と言ってくれる。そこで僕は「魔王が勇者と同じ名前を名乗っている事が嫌だ」と口にすると勇者が僕の手を握る。それから彼女は「私は君のお母さんの事を許しても良いと思える。だって君のお婆ちゃんは勇者が憧れるような人物だったし。君は優しい男の子だしね」と微笑んでくれたのである。

それから勇者が僕の手を離す。その瞬間に、こちらの様子を伺っていた狼達が襲い掛かってきたのだ。だから僕は剣を取り出し。そのまま振り回し続けることにした。しかし狼の数が尋常ではないので僕の周囲は、まるで竜巻が発生したように狼の亡骸ばかりになってしまうのである。それを見て僕は呆気に取られていた。

勇者が、どうして僕に魔王を倒して欲しいと言ったのか? 僕は、その真意を考える。僕が魔王と戦う事によって勇者が魔王を倒す事が出来るのではないかと思ったからであると考えられるのだ。そうでなければ、そもそも僕と勇者が巡り合えるわけがないからだ。そう考えると魔王を倒すというのは、つまり、どういう意味なのであろう。そう考えた僕は勇者の体を自分の体に取り込み。僕と勇者の二人が一つになれば勇者が魔王を倒すために必要な力と経験を手に入れられて。しかも僕の命を救う事が出来るかもしれないという事に気が付いたのである。僕は魔王を倒しに行こうと考える。しかし勇者は「駄目だ。危険すぎるよ」と反対してきたのだ。

僕は、その理由を尋ねてみたのだが。彼女は「あの子が勇者に対して抱いている恨みはとても強いものだと思う。君が傷ついてしまうだけだよ」と言うのである。そんなに心配ならば、なぜ僕を、ここまで連れてきたんだと、その時に、僕は疑問に感じたのである。すると「君が本当に勇者の生まれ変わりなのかを確認する必要があったからね」と言ってきたのだ。

そんな理由で僕は殺されそうになってのかと思ってしまったのである。それから僕は勇者が話した魔王に関する情報を自分なりに考えてみる。魔王は勇者が嫌いで。魔王を倒すと勇者の力は勇者が受け継いだ物だけではなくなるみたいなので、その魔王の事を僕が倒すことで僕の体に取り込まれた神様の力が僕に戻ってくる可能性はあるはずだと、そういった考えが頭の中に思い浮かんだのだ。それに、この世界で勇者の力を使いこなしているのは僕だけであるらしいし。だったら勇者の力を、そのまま受け継いでいる僕が戦うしかないと、そう思ったのである。だから僕は「魔王は勇者を恨んでいるんだよな」と勇者に確認したのだ。すると彼女は「ああ、それは間違い無いよ」と答えてくれた。なので「じゃあ、俺が魔王の所に行って勇者の敵討ちをすれば勇者の力を受け継いだまま僕が死ぬ可能性もあるのか」と口にする。

すると勇者は「君を殺させるつもりは無いから安心して」と、そう答えてくれたのだ。僕は「そうか」と言うと勇者に抱きついた。すると彼女は嬉しそうに頬笑み「でも魔王が相手だから勝てるかどうかは分からないからね。もし魔王が、もしも私達の世界に現れたのであれば全力を持って殺しに行く事になる。だから覚悟だけはしていて欲しい」と言われる。それに対して僕は「うん」と返事をしたのであった。

その後。僕と勇者が二人だけで話し合いをしていたら。その話を聞きつけたらしい人々が集まって来たのである。その中には勇者の仲間もいたみたいで僕は少し驚く。どうやら彼らは僕に興味を抱いたようで、しばらく僕のことを観察していたのだ。

それから僕の方も彼らを観察していたので彼らが一体、どんな存在なのかは、なんとなく分かるようになっていた。勇者の側にいる者に関しては特別な力を持っているようであった。

例えば勇者の隣に立っていた女性。彼女の隣には精霊のような生き物が存在していて。そいつは勇者が手に持っている剣と同じ形の姿をしており。勇者の武器として、その女性は存在していたのだ。さらに女性の胸は服の上からも分るほどの大きさを誇っていた。

次に僕の側に来た男性に関してなのだが、この人は見た目こそ普通の人であったが。実は人ではなく魔族のようであった。そして、この男性は勇者の仲間の一人で。僕が知っている限りだと魔法を扱う事ができる能力を所持しているようだ。それから男性の額からは角も生えているのである。

他にも僕の知らない人が何人か居て、そのうちの三人は人間ではないような雰囲気を出していたのだ。

そして勇者が言う。「魔王を倒したいって気持ちは、とても理解できる。だけど、それだけ危険な旅なんだ」と、そして続けて「君のお婆ちゃんを殺した私が、こんな事を言う資格は無いけどね」とも言ってくるのである。それを聞いた僕は思わず「お前は悪くない。悪いのはお前を利用した奴等だろう」と言ってしまったのだ。すると勇者は「ありがとう」と呟く。

勇者が「君は、まだ幼いけれど、しっかりと物事を理解して考えているね」と言ってきて。僕の頭を撫でてくる。だから「勇者も子供みたいな姿になっているじゃないか」と口走ったのだ。そうしたなら彼女は「あーあ。私は、こんな外見なのに。私の事を完全に馬鹿にしているよね」と、そんな言葉を吐いた。それを聞いた僕はすぐに勇者に謝ったのである。

そして「勇者の姿は、これから変わることがあるのか?」と尋ねる。

勇者が言うには「私に何かあった時には姿が変わらなくなってしまう事もあるけど」と言われてしまった。そこで僕は、そんな事があるのかと驚き。それと同時に「僕は絶対に死なないし。魔王も殺すぞ」と決意を口にしたのである。それを聞いた勇者が苦笑いを浮かべながら言った。

『まぁ良いよ』と。

それから僕の方に勇者が顔を近づけてきて、こう囁いてきたのであった。

「さっきの話の続きなんだけど。あの子のことを殺してしまっても、あの子の中からは、君の力は無くならないんだ。でも魔王を殺さないと勇者は、あの子に殺される可能性があるんだよ」と、そんな事を彼女は口にしたのだ。僕は「勇者を殺すと勇者は死んでしまう?」と聞いてみると勇者は困り顔になって言う。

「その通り。あの子は勇者を恨んでいる。もしも、あの子を倒して勇者が生き残れば良いんだけど。あの子に敗れて勇者が死んだ場合は、あの子の中にある力は勇者のものになる。その力で、また誰かに、より強力に勇者の能力は付与され続けることになるから、その次の世代の勇者が生まれてしまって。そうなると、やっぱり君に殺されても勇者には力が付与され続けていくのだよ」

それを聞いてしまうと話し合ってどうにかなるものでは無いと感じた。

それから勇者が僕の背中に手を当てると、いきなり僕の中で、よく分からない感覚が発生するのである。

そして、それと共に僕は体が熱くなり意識を失った。

そして僕は目を覚ます。勇者が僕を抱きしめたまま地面に寝転んでいたのだ。

彼女が言うには僕の中の勇者の力の一部が彼女の中に移動しているので、それで勇者の体調を治してくれたのだという。

僕が起きたことに気が付くと勇者が微笑んでくれる。

そこで僕は勇者の顔を見つめたのであった。

「なんだよ。見つめちゃったりして」

勇者が冗談交じりに言うのであった。

僕は勇者に言われた事を思い返しながら魔王が居る城を目指して歩き続けていた。そうすると途中で魔物と戦闘になったが勇者が持っていた槍を取り出した勇者は、あっという間に、その敵を蹴散らしてしまったのだ。その姿を見ながら僕は勇者の凄さを改めて実感したのである。それから彼女は僕に問いかけてきた。「そういえば君の体は、もう大丈夫なのかい?」という言葉に僕は「平気だ。むしろ元気が有り余っている」と、そう答える。

すると勇者は、なぜか微笑む。

「君は優しい子だね」

その言葉が少し嬉しかったので僕は勇者に質問したのだ。

「俺は優しいか? 優しいっていう事は優しい人が好きな人の事で、俺にとっての優しい人は誰なんだろうか? お母さんは優しい人だったのか、そのお母さんが、どうして魔王になったのか、どうして俺の事を裏切ったのか、それが知りたい」と、そんな風に、つい僕は尋ねてしまう。

それに対して勇者は少し悲しそうな表情になると「君のお母さんが君のことを愛していなかったとか、そういうわけじゃないんだよ」と勇者は言ってくれたのである。その勇者の言葉の意味がよく分からなかったのだが「そうか。分かった」と答えたのだ。

勇者の言う事が本当なのかどうかは僕には理解できない事だと思っていた。それに僕にとっては今の母さんが全てであり。母さんのことが嫌いになれなかったので、どうしても自分の母親と目の前にいる女性とを重ねてしまっていたのである。

僕は母を恋しく思ってしまった。しかし、それを勇者の前で口にすることはしなかったのであった。そんな会話をしているうちに、いつの間にか目的である魔王が住まう城の前まで辿り着いたのであった。そして勇者と一緒に魔王の居城に足を踏み入れる。そこには大勢の人間が待ち構えていたのだ。しかし、その中に知った顔があったのである。その人物こそが僕を殺そうとした男である事に気が付いたのである。

僕は怒りで、つい「お前は魔王の側近の一人で確か名前はリバイブ」と大声で叫んでしまったのだ。だが僕の声は誰にも届かなかったようで無視されてしまった。その事に腹を立ててしまい僕は魔王の配下の一人に飛びかかっていくと首を斬り落とそうとしたのだ。

僕は必死だった。だから相手の行動が見えず僕は殺されそうになったのである。それを助けてくれたのが勇者であった。勇者は、その配下に反撃を行い僕の命を奪う寸前まで追い詰めた奴を倒してくれたのだ。それから勇者は、こちらの様子を窺っていた魔王に対して「貴様ら。この世界では勇者と魔王の争いは御法度だったはずだ」と言うと勇者は魔王に向かって駆け出すと一刀両断にしてみせる。

その光景を見て僕は感動していた。そう、これが僕の望んでいた戦い方なのだと思い込んでいた。そう思い込んでしまっていた。勇者が言う。

「魔王を倒すには、どうしたら、いいと思う」

すると魔王が答えてくれた。「そうだな。我は勇者に殺されたくないので魔王は、お前が勇者を殺してくれないかと頼んだ。勇者を殺した後でなら我の命はくれてやるから頼む」と言い出してきた。僕としては「それは出来ない」と口にするしかなかったのだ。そう答えたら魔王は言う。

「やはり勇者は邪魔だな。勇者の力は厄介すぎる」

魔王は、そんな風に言い出したのである。僕は勇者の方に視線を向けた。すると勇者は僕に話しかけてくる。「君が殺して」そんな言葉を僕に投げかけてきてくれたのだ。それを聞いたら僕は自然と体が動いてしまって勇者を殺しに行く事になった。その途中で「魔王の奴は何を企んでいる」などと口走っていたのを覚えている。そして僕は魔王の側に立っていて。僕の手に魔王の力が渡されるのを感じたのだ。その瞬間、この場には沢山の人間が存在していたのに。勇者と魔王以外、誰もいなくなったのである。そこで魔王は言う。

「これで勇者が私を殺してくれるはず」と。

僕は何も言えなかった。勇者と殺し合いたくないのに殺す事になってしまったのだ。だけど勇者も「君のお婆ちゃんを、あんな酷い方法で殺したのは私の罪なんだ。私は魔王を殺すつもりだった。ただ、その相手が勇者であると皆は知ってくれなくて、あの子が殺されてしまった」と、そんな意味不明な事を言ったのであった。

それから僕は魔王の力を使い、魔王の首を切り落とした。魔王を殺した事で僕は元の世界に帰れるのかと期待したのだけれど僕は元の場所に帰ることができなかった。その代わりに僕の力が無くなってしまっているような気がした。僕の手は空を切る。勇者が言う。

「魔王が居なくなったら、やっぱり駄目なのかな?」と。それを聞いた僕の口からは勝手に「魔王の力を返せ」という声が出たのである。その事に関しては僕にも良く分かっていなかったので混乱し始めていた。そんなとき、ある疑問に辿り着くことができたので尋ねてみる。

「もしかして、あの勇者は、ずっと前に魔王に殺されてしまっており。今は、あいつが勇者になっているのではないか?」と、僕は勇者に聞いてみたのだ。それを聞いた勇者が笑いだす。「そういえば君は面白い事を言うよね。確かに私は一度、死んだ。けど生き返り。勇者の力を与えられ。そして勇者にされた存在だ」そんな言葉を吐くと勇者は姿を消した。そして、その場に残された僕は途方に暮れる事しかできなかったのである。僕は魔王の配下である魔族の男性と出会って、なんとか生き延びることには成功した。だが魔王の力を奪われてしまったのが本当に痛かった。それに加えて魔王の力を奪われたせいで僕自身の力も減ってしまってしまっている。

魔王の力を失ってしまった以上。僕は戦う事ができなくなったのであった。それでも僕は、まだ死ぬわけにはいかないのだと覚悟を決めると、まずは魔王城から出て行って街へと向かうことにしたのだ。魔王城の外に出てみると僕以外にも多くの人々が生き残っていてくれたようである。ただし、それも一時的なものでしかないようだが。僕は人々と一緒に歩いて行くことになった。その最中、僕は人々に尋ねた。魔王は倒され。勇者の力を持つ者も殺してしまったのになぜ人々は魔王の支配を受け入れているのか? どうして平和が維持されているように思える。と、いった内容の言葉を口にしたのであった。そうしたなら人々は答えてくれたのである。勇者は確かに死んでしまい勇者にされた女性は、もともとの勇者を恨み憎み続けていたのだ、その女性によって支配された人々が、また次の世代の勇者を生み出すことになっていて、そうすると今まで以上に強力な能力が次の世代の者に移ってしまう。

そして、また新たな勇者が生まれてしまうからこそ魔王は人々を支配できている。

そう、その話を聞かされたときに僕は気づいてしまったのだ。

勇者は死なないわけではないが、また生まれ変わり勇者の力を得て、そして、いつか僕が殺される日が来るかもしれない。その時に僕は何度、死に続ける事になるのか、と。

それから僕は思ったのだ。勇者の事は僕が殺さなければならない、と。

だが今の僕は勇者に敵うとは思えないから、もう少し力を付けなければと、そう心に誓ったのだ。

僕は勇者に復讐するために魔王の力を使って強くなろうと努力している最中だ。

だが、しかし僕には一つの誤算が存在したのである。そう勇者が死んだというのに僕は勇者を、いまだに探し続けていた。

僕は必死に探す、勇者を探すために僕は旅に出た。

そうすると僕の前に現れた少女が、勇者が生まれ変わった存在であるという事が僕の中で分かったのである。

その事を知ったときに僕は涙を流したのだ。そして僕は彼女に自分の正体を伝え、そして彼女と共に過ごすことになる。彼女は僕に何度も「もう、やめてよ。そんなの無理だよ。貴方に勇者の力を渡すつもりは無い」などと言ってきて、そんな風に彼女は口にしていたのだが僕は気にせず勇者の力を受け取って、それで彼女と行動を共にし続けたのだ。彼女は勇者の力は絶対に渡したくなかったらしいのだが。だが最終的には勇者の力で魔王を倒した。

そして、そのあと彼女は、どこかへ去って行ってしまうのだが僕は彼女のことを、いつまでも追いかけるだろうと思ったのだ。

その日の夜。俺は寝ていたのだが急に何かが俺に襲い掛かってきて俺の首筋を噛みついてくる感覚に襲われたんだ。俺は起き上がろうとするが体が動かないのに気づく。俺を殺そうとして来ているのか?と俺は恐怖を感じながら目を覚ましたら俺の顔の前に女の姿があったんだよな。そいつは俺の事を抱き枕だと勘違いしてるらしく俺に抱きついてきたんだよな。

そうなったら当然のごとく俺は困惑してしまう。なんせ知らない女の体の中に、その精神が乗り移っているんだぜ。そのことに驚いていると彼女が目覚めてしまい。そして、その光景を見た俺のことを、いきなり押し倒したのであった。まぁ、それは俺の気のせいであって欲しいと心の底から思うが。どうも夢ではないような感じだったのである。まぁ、そういう出来事があり。それから、どういう流れになったのか分からないが、この世界は勇者が魔王を倒すまでが物語の筋書きだったようで、それが終わると、その物語は終わったみたいで勇者の力とか関係無しに普通に暮らすことができる世界となった。だから今更、元の物語の流れに戻る必要はないし。今の方が楽しい生活ができるし幸せだから、この物語のままで良いと僕は思っている。

「さてと、今日も学校頑張ろうかな。うん、いつも通りの日常が過ごせると思うだけで幸せだし」と、そんな事を呟いたら、そこに母さんが現れて僕に声をかけて来た。

「ねぇ、今日は何の日だか覚えている?」

それを聞いて僕は戸惑ってしまったのであった。なぜならば僕の母さんは僕を産んだ後に、その命を落としており。この世に居ないという事になっていたからだ。そんな僕の目の前に母を名乗る女性が立っているという事自体、僕には信じ難かった。しかし僕には彼女が嘘を言っているようには見えなかったので素直に尋ねることにする。

「母さん、もしかして本当に母さんの、お墓から出られたの」と、そんな事を尋ねてみたのだ。すると母は言う。「私ね。ずっと貴方に逢いたかったの」と。それを聞いて僕はとても嬉しかったのであった。だって、そんな事を言われてしまったのなら僕としては、どんな表情で母と接したらいいのか分からなくなってしまっていたのだ。そう思って僕は泣き出してしまいそうになってしまっていたのだけれど我慢する。すると母さんは僕に、こう言ってきたのだ。「これから一緒に学校に通わないか?」と、僕は、それに「もちろん行く」と答えた。そうしたら僕と母さんが通っていた高校へ向かう事にする。その道中で僕は思った。どうして、ここまで僕の事を考えてくれていて。こんな僕の事を好きでいてれくれたのか? という疑問が僕の中に生まれたのである。それを口にしようとした瞬間、母の足が止まったんだよね。そこは僕の通っている学校の門の前で僕の方を向いて「ここが貴男の通うべき学校で間違いはないわよね?」と、確認を取ってきた。

そして僕の答えを聞くよりも先に僕の方に近づいて来る一人の生徒らしき人物がいたんだけど、そいつの格好は明らかに変な奴だった。そいつの姿を眺めて思ったのだけど僕の記憶には該当する顔がない。なので、ここは思い切って声をかける。「えっと、すみませんが誰ですか?」そう問いかけると相手は答えてくれる。

「おぉ!! ようやく勇者様に会えたのですじゃ」と言い出して。しかも僕の事を勇者と呼ぶので混乱してしまったのである。それから僕は尋ね返す事にしてみる。勇者というのは、もしかして僕なのか? そんな事を思ったのだけど。そんなわけは、ありえないのは分かる。だって、もしも僕が勇者であるならば、この世界で既に魔王を倒しているはずだから。僕は、そう考えた。そこで僕の口が勝手に動いて勝手に喋り出す。それに合わせて意識の主導権は奪われていってしまい。

勝手に僕の口から言葉が飛び出していった。

「あの、あなたが勇者って一体、どういうこと?」

そんな事を尋ねた。すると相手の少年が僕に向かって語りかけてきたのだ。

「勇者様。私は貴男の為にやってきた者なのですよ」

そう言った途端に彼は光り輝く剣を抜き放つと構え出す。それに対して僕は何もできなかった。なぜなら体は自由に動くものの何故か抵抗できないという奇妙な感覚に囚われていたのであった。そうしている間に相手が僕に斬りかかって来たのであった。それを僕は間一髪で避けることができた。

「あれを避ける事ができるなんて」

と口にしてきたのだけれども、僕は意味不明だと思っていた。そして僕の目には相手の手には魔封じの手錠が付けられていたのだ。

もしかすれば彼の持っている魔封石で作られた武器は、そういった特殊な効力を持っているのではないかと僕は考えていた。だからこそ僕は逃げ出そうと考えるのだが上手く体が動かないで困っていたのだ。そんな僕に対して相手は容赦なく攻撃を続けてくる。それを僕は、かろうじて回避し続けるのであったが限界が近づいてきていたのである。

どうしようか? と考えていた時に突然に母さんが現れたのだ。彼女は相手に話しかけたのである。

すると相手は、すぐさま母さんの方に視線を向ける。そして僕は気づいた。この相手は、おそらく勇者の力を狙っているのだ。そして勇者である僕を殺すことで勇者の力を奪おうとしているのだろうと思ったのである。だが僕も負けるわけにもいかずに必死に抗うが力が抜けていく感じを覚えている。だが諦める訳にはいかないと、どうにか持ち堪えようとした時であった。急に母さんが、こっちに来てくれと言う。

そして僕は彼女によって、その場から連れ去られてしまう。

その後から相手が追ってくる様子もなかった。そして僕は自分の家に連れ込まれてしまったのである。

それから僕は家の中で目が覚める。そして僕は自分の部屋にいるようだった。

「大丈夫かい?」

そんな事を彼女は聞いてくるのであるが。僕は答えられない。なんせ彼女は勇者として僕の事を操ろうとした相手であり、今は敵だ。

そう思うのだが彼女の方は、まだ、その事実を知らないのか。それとも知っているけど僕の事を信用してくれているのか。とにかく僕の事を気遣ってくれていたのだ。だが彼女は僕の事を安心させるために抱きしめようとしてきたのだ。でも僕は慌てて彼女から離れるのである。

そうして彼女に僕は質問した。なぜ助けてくれたのか? と。

すると、あっさりと答えを返してくれるのだ。彼女は「貴方の母親なのよ」

そう言い出したのであった。それを聞いて僕は驚くしかない。確かに母さんの姿に、かなり似ていて、もしかすると生き別れの母さんなのかもしれないと思った事もあったのだ。ただ、あまりにも、その見た目が違い過ぎていたために母だとは思えなかったのだ。

だから僕は彼女に尋ねる。

すると彼女は、こう言ってのけたのだった。

「実は、ね。私の体に宿ったのが勇者の力だけじゃなかったみたいなんだ」と。

その発言の意味がよく理解できなかったのだ。彼女は続けて言う。

「それでね。勇者の力と一緒に勇者以外の力も同時に私の中に存在していたんだ。その力はね。きっと勇者と同じぐらいに強力な物だと思う」

と。その説明を聞いても、やっぱり僕には全く何の話をしているのか分からないでいると。母と名乗る彼女が急に服を脱ぎ始めて、それから僕に裸体を晒してきて。僕の身体に触れて来たのだ。僕は彼女の行為を嫌だと思って拒否しようとしたが、なぜか拒めない状況に陥ってしまい、そのまま流されてしまうのであった。そうして僕が彼女と、その性行為を行ったあと、その行為が終わると母と名乗る女性は僕に「さてと、学校に行きましょうか」などと言って僕と手を繋いで学校へと向かう事になった。

僕達は教室へと辿り着くのだが、その時には僕達の姿をクラスメイト達が見ていたらしくて、その事に対して質問をされてしまったのだ。だが彼女は、それに対して僕の代わりに「母です。娘が迷惑をかけませんでしたか?」などと口にする。そして僕が何かを言う前に「いえ、全然迷惑をかけてませんから気にしないでください」と皆が言ってきて、その言葉に納得してもらえたのか母さんも、それから特に追及される事もなく普通に授業が始められてしまったのであった。そんな光景を見て僕と母は顔を見合わせて笑う。それから僕は母に、さっきまでの事を話し始める。すると、母は「それは大変だったね」と、それから僕を抱き寄せてくれて、また唇を重ねられたのだ。それが終わった頃に、また別の人が話しかけて来るのだった。それは僕の友達の田中くんだった。僕は彼に母を紹介することにしたのだ。すると母さんは自己紹介を始めたのだ。すると田中君は母さんの顔を見ながら言う。「あ、あの、もしかして勇者の奥さん?」

そんな事を母さんに向けて尋ねて来たのであった。それに対して僕は、どう答えるのか気になりつつも黙っている事にしておいたのであった。すると、母さんは「えぇ、そうなの。私こそが勇者の伴侶のマリアなのよ」と自慢げに胸を張って答えている姿を見て、僕は思わず吹き出してしまったのであった。そして母は言う。

「貴方が私の事を勇者の妻だって名乗っても誰も否定できないはずよ」

そう言い放ったのであった。

そして僕は、それを聞いてしまった以上、これからも母を、ずっと僕の母と認める事にしたのだ。そうすると、もう、これからは僕の母は一人だけだと心に決めている。

すると母さんが僕に向かって話しかけてきた。

僕の名前を呼び捨てにして呼んでくれる人なんか居なくて嬉しかった。

それだけで僕の目からは自然と涙が流れ落ちて来る。

僕の名前は神崎勇也という。高校三年生で十七歳である。高校に入ってから二年と数ヶ月が経ち。

今では、すっかり受験勉強で疲れ果ててしまい高校での授業中や自宅での勉強中に眠くなってしまうことが多くなり始めている時期に差し掛かっていたのだ。そのため高校に登校している時は必死になって頑張っているが帰宅してしまうと、とても辛かった。そう思いながら僕は自宅に帰ろうとすると僕の目の前に二人の女の子が姿を現す。彼女たちの名は僕の幼なじみで、いつも一緒に行動していて、なおかつ同じクラスで机も同じだったりして。さらには僕の家に泊まった事もあるような気がするような仲でもあるのだ。なので僕は二人と、どんな会話をしたらいいか困りつつも「どうも」と声をかけてみた。そしたら彼女達の方も僕に向かって挨拶してくれたのだ。そこで僕は二人に対して尋ねる事にしたのだ。

「どうして二人は、ここにいるんですか? それとも偶然、出会ったのかな?」

そう聞くと二人は顔を見合わせると同時に僕に向かって笑顔を見せて、その問いに返答してくれようとしていた。でも彼女達の言葉を聞くよりも先に、この学校の校門付近において大勢の人間が倒れているという出来事が起こっていることに僕は気づく。僕は急いで彼女達に近寄って行って様子を見てみると既に何人かの生徒達が救急隊員に連絡をしたり応急処置を行ったりしていたのだ。

だけど生徒達の中にも大けがを負っている人もいて救急車の到着を待つ余裕はなさそうだった。そこで僕は近くにあった携帯電話で119番通報を行う。そして僕は、この現場における救護活動を行うように指示を受けた。それから僕は倒れている人達に声をかけて行くが反応はなかったのだ。だから脈拍の確認もしてみるけれど全員が意識がないみたいだった。

そんな時に彼女達の誰かが僕の肩に掴みかかってきたのだ。

振り返って見ると僕の背後では僕に近づいて来た女の子が泣き出し始めていた。彼女は僕が倒れた人たちに近づいて行った時に悲鳴を上げて、その勢いで僕を押し倒した後「どうしよう」

と口走りながら僕の上で泣いていたのだ。僕は彼女が泣くのも当然だろうと思う。なんせ自分が通っている学校に突然現れた多くの怪我を負った人の手当てもせずに放置しておくなんて普通の人間なら、絶対にありえないからだ。だが僕も何も出来ないので彼女と一緒に泣いたのである。そうして少しばかり時間が経った後に救急車が来て、この学校で倒れていた生徒たちは運ばれていくのであった。

その事を確認した僕は他の場所にも確認しに行ったのだが同じように多くの人が地面に横たわっていたのだ。その事から、ここだけではなく学校中のあちこちで同じような現象が起こっていて皆が意識不明の状態になっていたのだ。

そして救急車が来るまでに時間がかかったのには理由があった。それは学校の至る所に設置されている防災設備が故障していて火災が起これば校舎が崩壊してしまう可能性があったためである。そして今まさに火の手が上がっている場所もあって僕と僕は急いで駆け付けて消火活動を行った。幸いにも燃え広がらなかったので良かったと思ったが同時に自分の身が危険にさらされた事も自覚してしまい背筋が凍るような思いを味わったのであった。

その後から救急車が到着するまで僕たちは救助活動を続けたのであった。

僕は目が覚めたら、そこにいるはずの無い母さんが僕のベッドの横で寝ている姿を発見する。

なぜ彼女が、そんな場所に居るのかと一瞬考えたのだが僕は、とりあえず母さんが起きるまで待っておく事にする。

「おはよう」

しばらくして母さんは僕に声を掛けてくる。その事で、まだ母さんが自分の傍にいてくれるんだと、ほっと胸を撫で下ろして、つい笑ってしまったのであった。そんな僕に母さんは優しく語りかけてくれるのだ。その話の内容に僕は驚いた。

なぜなら、その話は母さんの体に宿った力の事についてであり。母さんは僕と同じ力を、それだけでなく他にも幾つかの特別な能力を持っているようであった。それを聞かされて僕は非常に困惑してしまう。なぜ、こんな事を僕に教えてくれようとするのか分からないし、それに僕の力に関しても僕には何も伝えようとしないのに彼女だけが力の秘密を語ってくれるというのは、やはり母さんも勇者の力を奪い取る為に、そうしてきているのではないか? 僕は不安になる。すると母さんは僕に対して手を握ってくれた。すると何故か母さんの手から温かい力が僕の中に入ってくる感覚がしたのだ。それから僕の中で何かが生まれたかのような感覚に陥った僕は慌ててトイレへと向かい便意を感じる前に排尿するのであった。

その行動の意味に僕は気づかないふりをして誤魔化しながらトイレを出ると母が心配そうな表情をしながら僕が座っている椅子の正面に腰かけた。そのことで僕の心臓の鼓動が高まって来るのが自分で分かった。だがそんな緊張は彼女が僕の手を両手で握ってくれたことで一気にほぐれて行ったのだった。それを感じた時、やっぱり、この人は勇者の奥さんだと感じて安心感に包まれた。僕は今まで何をしていたんだろうと後悔した。すると母が「貴方の体に起きた異変の原因は何なのか知りたい?」と聞いてきたので僕は素直に従うことにする。すると母さんは僕に向かってこう説明してきた。

僕は母さんの話を聞き終えると、とても納得できたのであった。その言葉とは母さんは僕と同じ様に特殊な力を持っていると言う事だったのだ。僕は母さんの言葉を信じられないと思わないことにした。だって、それは事実だし母さんが僕に対して嘘をついているとも思えなかったから。そう思いつつ僕は母から言われた通りに行動するのであった。

そう思った瞬間、いきなり僕は眩しい光に襲われるのだった。僕は、その事に驚く。だけど僕の体は勝手に動いていくのであった。そうしているうちに僕が見ている世界は暗転し、いつの間にか僕は白い部屋に立っていたのだ。そう、それは僕の知っている場所で僕も良く訪れていた部屋でもあったので、そこは僕が通っていた学校の部屋だという事に気づく。僕は部屋の扉を開いてみると一人の少女が、うずくまっている姿が見えたのだ。僕は彼女に、どうしたらいいのだろうと悩みながら声をかけて見る。

そうすると彼女は立ち上がって僕の方を見て話しかけてくれたのだ。

「どうすれば良いのでしょう?」

そんな風に質問されましても、こちらとしても答えにくい事だと僕も思いながら彼女の事を見つめていた。そこで僕たちの耳に誰かの声が聞こえてきたのである。

『貴方は何を望みますか?』

女性のような、そんな声で問いかけられた僕達は声の主に顔を向けると一人の女性の姿をした者が存在していたのだ。

『私は貴方が心の中に秘めている事を現実にしてあげることができるのよ』

僕は彼女の言葉に耳を疑った。なぜなら僕の心に願いが一つあったのだ。それは僕の家族を救いたいという思いがあった。そう思って僕は自分の胸に手を当てていると僕の体が勝手に動き出して目の前の女性の手に自ら近づいて行って握手を求めてきたのだ。そうすると僕の目の前にいる女性の瞳の色が青色に変化すると僕に向かって話しかけて来たのである。「貴方の心の中に私の力が注がれました。私に協力してくれますか?」僕は断ることができなかったが、そもそも断ったところで僕は自分の意志で、この女性に協力する事になるのではないかとも思っていたため大人しく従うことにしていたのだ。そうしないと、この女性が僕と母の命を奪う可能性もあったからである。

そうして僕は母を救うために目の前に現れた女性の言うとおりにするのだった。すると僕の目に見える光景が変化していき別の景色が見えてきたのである。そして僕の目の前にいた女性は姿を消してしまったのだ。僕は、それを気にせずに先ほど、訪れた場所に戻ろうとすると何故か母さんも一緒に来ている。しかも僕は彼女に向かって「大丈夫だよ」と言って笑顔を見せてあげようとしたけど彼女は泣きじゃくっていた。

それから僕が「お母さん」と呼んでみても反応がない。これはどういうことなんだと僕自身も不思議でならない。だが今は考えている暇はないので取りあえず母さんの背中に手を当てると温もりが伝わり始めたのだ。そうして母さんが落ち着いた所で僕は彼女と向き合う。そうすると彼女が「ごめんなさいね。でも、どうしても確認したいことがあったの」と口にしたのである。僕は一体何のことなのだろうと思っていると、また彼女が口を開くのだ。「貴女は勇也ちゃんなのよね?」と。僕は彼女の問いに「うん、そうだよ」と答えると彼女もまた嬉しそうな顔になって「ありがとう。信じて待っていてよかったわ。これからは、もっと愛してあげられるようになるから」そう言ったのである。

その後、母さんは僕の頭を撫でて笑顔を見せながら「そろそろ時間だから戻りましょうか」と言われて僕は、どうして自分が学校に戻ったのかが、なんとなく理解できてきたのだ。僕は彼女に連れられて教室に向かうことになる。

そこで僕達を待ち受けているのは誰なのか想像できるような気がするが、どうやら予想通りの展開が待っているようだ。そう、そこには僕の両親の姿があり、なぜか二人共泣いているのだ。そして僕と母が近づくと二人が僕を抱き締めてきて、母さんが「よく無事に帰ってきてくれて本当に良かったわ」と口走るのである。その事に母さんは驚いていたのだ。僕も二人の姿を見て少しだけ安心してしまったのであった。

そうして母さんと一緒に僕は自分の家に帰るのであった。だが僕は少し不安になっている事がある。僕の中に芽生えた新たな能力に関してだ。僕は自分の手を見る。それから母さんの手を掴んで、この力は、やはり僕の中にある力と関係あるんだろうかと思ってみた。だが、その事は僕にとって大きな問題ではないのかもしれないと思ったのだ。それよりも大事なことがある。

そう、母さんは僕が異世界に行ってから、どうやって生き延びていたのかと言う事が、すごく重要な話なのだ。僕の考えでは彼女が生きているはずはないと思ったのだが。その事を確認するのが怖いと思う。もしも、母さんが死んだなんて事になったらと思うと、とても悲しかったのだ。そして僕は今の状況を確認し始めるのである。そう、今の僕は、どのぐらい母さんから力を奪えていたのかという事をだ。

僕は目を覚ますとその事に違和感を覚えてしまう。まず自分の部屋とは違う天井がある事に僕は戸惑いを覚えるが冷静になりながら周りを確認したのだ。僕はベッドから体を起こしてから部屋の中を見渡したのだが誰もいない事に気づいたので僕は慌てて立ち上がると母さんを探しに行ったのである。僕は焦っていた。

「お母さん、どこにいるの? お願い返事をして」

僕は声を張り上げて母を呼びながら母を探すが、どこを探しても見つからないので僕の気持ちが徐々に不安に支配され始めていくのが分かってしまった。すると僕の足は自然に玄関に向かっていたのだ。

僕が家の外に出て道路に出た瞬間に僕を呼ぶ大きな音がした。僕は何の音だろうと振り向くと、ちょうど車が僕の前に止まろうとしている姿が見える。その事で僕は急ブレーキをかける事に成功して車との衝突を避けることに成功した。しかし僕が避けた車は電柱に衝突してしまい運転手らしき人物が怪我を負ってしまうという事件が起きたのだ。僕は事故を起こした車に近づき謝罪をすることにする。「申し訳ありませんでした」と僕が謝罪すると、すぐに相手の方が立ち上ったのを見て僕はホッとすると同時に感謝の言葉を口にするのであった。すると相手から僕に感謝されるという事態が起きて僕は首を傾げてしまったのである。

そうやって戸惑っていると相手から車の修理代を支払ってもらえる事になった。もちろん相手が提示した金額よりも安くしてくれたので僕としては有り難いと思いつつ頭を下げて、その場から去るのであった。僕は事故の事もあって急いで家に戻ろうとしたが母さんのことが心配になったので母さんに電話をして母と話すと「心配させて、ごめんね。お詫びとして明日は買い物に行くの手伝ってくれるかな?」と言われる。

僕もそのことで安心した。母が無事ならそれでいいのだ。なので僕は母の提案を受け入れた。すると母さんは「勇也の好きな物買ってあげるから楽しみにしててね」と言ってくれたので僕は思わず「それならプリンが食べたいな」と我ままを言うと「任せておきなさい。とびっきり美味しいプリンを買ってあげる」と言ってくれたのだ。その言葉を聞いた僕は嬉しくなる。すると母さんの方も僕の声を聞いていたようで「私も嬉しいよ。早く勇也の顔を見て話をしたいのだけど、なかなか思うように会えないのが残念だわ。でも今日も学校で疲れたでしょう。ゆっくり休みなさい。何かあったら私が何とかしてみるから。それにしても私の知らない間に随分と成長したみたいね。私には分からない事もあるから困るけど頼もしく思うわ。あと私の代わりに仕事を任せているから、いつものように無理だけはしないようにね」と言い終えると通話が終了したのだ。

それから母さんとの約束を守りたくなって母の仕事の書類をチェックして見たが僕にとっては難しすぎて分からなかったので途中で諦めてしまうと、もう寝ることにしたのだった。ちなみに僕は母さんの言うとおりにして休んだのだ。そうしていると母さんの気配を感じ取ることが出来たのである。だけど何故か母さんの意識はハッキリしないらしく、ふらついているようなので僕は不安になる。

「勇也ちゃんの側にいるから安心して良いわよ」と、母は僕に声をかけてくるが、それでも僕は母のことを心配するので「僕が側に居てあげるよ」と母に対して告げたのだ。すると母は涙を流していた。僕は、それが嬉しさのあまりに流したものだと思うが、もし母が苦しんでいるせいだったら、それは僕の心が痛むので母の体調を心配しつつも母を看病することにしたのだ。そして母が目覚めると僕に「ずっと側にいてくれたのね。ありがとう。貴方は優しい子よ。そんな子に育った事を誇りに思うわ」そう言って僕を抱きしめてくれたので、つい僕も母さんに抱き着いて母さんの胸に顔を埋める事にした。すると母さんが「本当に貴方は可愛い子ね」と口にすると僕の頭に優しく触れてくれたのだ。僕が顔を離して母さんを見上げると微笑んで僕の頭を撫で続けてくれて僕はとても幸せを感じることができた。だから僕が「お母さん大好きだよ」と伝えると母さんは嬉しそうに僕を抱き締めて頬ずりを始めてくれる。僕は恥ずかしさを感じたけど母さんと仲良くする事にしたので何も言わずに受け入れるのであった。

そうして母さんと、しばらく会話を続けていると僕が学校から帰宅して、この家に戻ってきた時の記憶を鮮明に思い出すことが出来なくなっていたのだ。それは僕の脳裏から消えるというよりも別の誰かの記憶を見ているかのように、その記憶が浮かんでくるのである。そして僕の目には僕の家族が映っていたのだ。そこには父と兄がいて二人は僕の目の前にいた母さんを殺そうと剣を振り上げていたのである。僕は必死になって二人を止めようとするが二人の攻撃は、やはり防ぐことができないようだ。だが僕は二人の前に割り込んできて二人の攻撃を食い止めようとしていた。

僕は二人の攻撃を防御するが僕は二人の攻撃を受けきれなくなり吹き飛ばされてしまう。僕は地面に倒れて血を流しながらも二人に訴えかけるように話しかけたが、二人の耳に入っているのかさえ分からない程であった。それから父達が家の中に入ってくると母さんの死体を見て泣き叫びながら母の遺体に駆け寄るが僕は母を殺した犯人は彼等ではない事を伝えたかった。だが、そこで僕の存在は薄れていき僕の体は消えていくのである。そう、まるで僕の魂だけが抜け出るような感覚に陥ってしまったのだ。

気がつくと僕の目から涙が流れ落ちていたのだ。これは母を失った悲しみによるものだと僕は思っていたが僕の身体から抜け出た魂が自分の意志とは無関係に動いていることに僕は気づいたのである。そして僕の視界を覗くこと出来るようになっていた事に僕は驚いた。この不思議な体験をしているのだと理解した瞬間に自分の体に戻ってくる事ができていたのだ。そして僕の口からは声にならない言葉が放たれており、それを聞き取れた者は誰一人いなかった。僕は自分の身体に戻りたいのに戻ることができなくなってしまい、どうしてなのか不思議でしかならなかった。

自分の体に戻った僕はベッドの上で目を覚ます。そして僕は夢の内容について考えたが特に何も思い当たるような出来事は無かったのである。しかし一つだけ気づいたことがあったのだ。それは母さんと話をしてから僕の中にある能力が強化されていることだった。その力のお陰なのか母さんの姿もハッキリと見れるようになって母さんが今何処にいるのか、すぐに分かるようになっている。それだけじゃない僕自身が母さんと一体化できる事も分かったのだ。ただ、これには危険を伴う事が分かり僕は怖くなる。

その事は能力で僕が感じ取った情報を映像として見ることも出来るようになったのだが。母さんの視点で僕の様子を見ることも可能なようだった。そう考えると母さんの視点から僕の姿が見れると言う事だろう。しかし僕が見れない母さんの姿を他の人間が見ているのは不公平だと思い、その能力は使用しないように決めたのである。まぁ母さんが無事だということが確認できただけでも、この世界で母さんを探すのには十分である。それにしても母さんを探す為に自分の肉体が欲しいと思ってしまうのであった。そうすれば自分の肉体がある場所に行く事が出来るので、もっと母さんを探す時間を増やすことが出来る。だからこそ自分の体を取り戻したいと僕は強く思う。

だけど今、自分がどういう状況にあるかを確認する必要があったので僕は自分の体を見下ろしてみるが服が少し濡れているのに気づく。それは汗が原因のものではなく水を被った形跡だった。それから自分の手を見つめてみるが、どうやら僕の体の本来の持ち主は僕が目を覚ます少し前に起きたと思われる。

なぜなら、その時に母さんの手が僕の手を握りしめていたので僕は、それが何を意味しているのかを考えたのだ。まず僕は寝起きが悪いわけではないので母さんの手に違和感を抱く。次に僕の寝言が原因で母が起きてしまった可能性もあるかもしれないと考えた。だが今はそれよりも重要なことがある。それは僕が寝る前の出来事だ。僕は母さんと話をしていて途中で意識を失ってしまった事を思い出したのである。つまり僕が母さんを探している間に起きた現象は、きっと母さんと繋がっている事が影響しているに違いない。だから、このまま僕は意識を失うわけにもいかなくなった。母さんが僕の為に色々としてくれているはずなのだから、ここで意識を失ってしまうと母さんの負担が大きくなるだけだと思ったのである。そう考え僕はベッドから降りようとした瞬間であった。突然、家の中が光に包まれたかと思うと大きな音がして家が震えたのであった。それを確認した僕は慌てて窓に近づき外の状況を確認してみるが、まだ夜明けまで時間がかなりあったのだ。それなのに家の前には複数の人がいて騒いでいた。

おそらく僕を誘拐しようとした人達だろうと推測すると、あの時は本当に死ぬ寸前だったことを自覚した。もし母さんがいなければ確実に死んでいたであろうことは僕でも予想が出来る。そう思っていると僕は玄関の方に向かい扉を開く。そして外に居る人物に向かって声を掛けると、その人物が僕を見て「君が勇也様ですか? 私は聖女です。貴方の母から貴方を守るように指示されました。貴方が私達の希望なのです。お願いします。私と一緒に来てください」と言って頭を下げてきたので僕も頭を下げて事情を説明すると「では、すぐに準備をいたしましょう」と彼女は言うと家から立ち去って行ったので僕は家に戻って身支度を整えてから母を迎えに行こうと思い部屋に戻ろうとしたが僕の目の前を誰かが通るので、それを見ると僕よりも年上そうな少女が僕に対して頭を下げて何か言っているのである。それを僕は首を傾げて聞き取ろうとすると、それを見て彼女から何かを差し出されるので、それを受け取るとその女性は笑顔を見せてくれる。僕は、それを見て安心すると僕は彼女が何を言っているのか分からなかったが、とにかく母に会いたいという想いだけで外に出ると先ほどとは違う服を着ている彼女の姿があったので、とりあえず一緒に行動する事を決めると僕たちは車に乗り込み、ある所に向かうのだった。

(なんだろ。この気持ち。胸が熱い。それに僕の体も凄く熱を帯びていて息苦しさすら感じる)

そう、僕が母と出会ってから既に1日が経過しており僕はまだ母と繋がっていたが何故か僕の肉体は、もう母の側を離れたくないと思っているので母から離れられない状態が続いていたのである。その為に僕は、もう暫くは母から離れることはできないと判断した。それなら仕方がないと諦めるしかなく僕は自分の意思で動けないので仕方なく、そのままの状態で母の事を眺める。すると僕の視線に気がついた母は微笑みかけてくれて僕の頭を優しく撫でてくれたのだ。それが嬉しくて僕は微笑んで母を見上げたのである。だが母は何かを考えているらしく真剣な眼差しを向けていたのだ。そして母は僕を抱きしめると頭を優しく撫でながら「もう少し我慢してちょうだいね。お母さんが必ず、あなたを救ってあげるわ」と、そう言って僕を安心させようとしてくれるので僕は何も言わずに黙っていた。それから車は移動している最中に母さんは窓から外の様子を眺めると、そこで車が停車する。どうやら目的地についたみたいだが母さんは車を降りた瞬間に「ここは危険よ! 早く逃げて!」と大声で叫びだしたのだ。

僕は慌てて窓から母さんの様子を確かめると母さんが何者かに剣で刺されていた。僕は助けようと魔法を発動させようとするが何も起こらず焦り出すと、その隙を突かれて僕を縛っているロープを解く事に成功した。僕は急いで、その場に向かおうとすると誰かに手を掴まれてしまい引きずられそうになるが僕は何とか踏ん張ろうとすると後ろから声が聞こえてくる。僕は振り返ると僕を引きずろうとしている男に体当たりして彼を押し倒すと僕を助けてくれた女性の方に振り向くと彼女に駆け寄り、そこで母が僕を抱き寄せてくれた。

僕は、そこで安堵の表情を見せると僕は気絶してしまう。だが僕の耳に女性の声が聞こえるのであった。僕は薄らと目を開いて母の姿を視界に入れる。その瞬間に母と目が合うと母は涙を流しながら口を開いたのだ。そして母さんの言葉を聞いた僕は母さんに謝るのであった。母さんの優しさを無下にしてしまい心配させた事に後悔した僕は心の中で母さんへの謝罪を繰り返し続けたのである。

僕は目を覚ますと、すぐに身体を起こして周りを確認し始めると自分が今何処にいるのかを思い出すのと同時に僕の体が動くようになっていた。どうやら僕を縛り付けていたロープから解放されている事を確認するとベッドの上に座り込みため息をつく。僕は何故、母さんを悲しませてまでも母さんの側に居たかったのか、その事について考えるが理由が分からない。僕は確かに母さんが大好きである。だけど僕は自分の体に執着があるわけではなかった。だからこそ、そんなに母さんに迷惑をかけたくはないと思っていたのだ。だけど僕の身体は勝手に動いてしまい母さんの側から離れようとしなかったのである。だから僕は自分が自分では無いような気がしていたのだ。

僕は自分なりに考えたが結論が出るはずもない。だから、この問題について考える事を止める事にしたのだ。そう思った矢先に母さんが僕の身体に乗り移ってきたのだ。それを見た瞬間に僕は驚くが僕の肉体に入った事で僕の身体を操れるようになっているので僕は僕の意志に従うことにした。

そして僕は母さんに母が生きている事を確認させる為に自分の姿を確認してもらうように頼んだのである。それを聞いて僕の身体の中に居る僕の意識は少しの間、困惑していたが次第に母が自分の体を見回していることを理解すると僕の意識は興奮し始めていたのだ。そうして僕の身体は僕の意に反した行動を始めて僕を驚かせたのであった。そのせいなのか僕は自分の身体に戻ることが出来ないまま時間だけが過ぎていく。

僕は母さんの傍で母さんと共に生活しながら母さんから魔法の使い方について習ったり剣術について学んだ。だが僕の記憶は曖昧になっていて思い出す事ができない事が多かった。ただ母さんと過ごした記憶だけはハッキリと覚えている。だからこそ僕は必死に僕を取り戻す努力をしているのだが何も成果が出ないまま時間は過ぎるばかりだ。

だけど母さんは僕の事が心配なのか、いつも一緒にいるのだが最近は何かを考え込むような仕草をしていたので僕は不安になってしまう。ただ僕は、どうしたら母さんが元気になるか考えていたが僕が母にしてあげられる事なんて何も無いのだと気づくと母さんには悪いが僕は自分自身の力の無さを実感する事になったのだった。そうして時間が流れていき母さんは僕と離れるように言いだすと僕に魔法を教えている時に「あなたは私の大切な子よ。私は絶対に忘れないからね。どんな時でも、いつでも、どこにいても私達は一緒よ」と言って母さんは僕の前から姿を消したのであった。僕はその言葉で、なんとか耐えることができたが僕は母さんの姿が消えた後に僕は地面に膝を着いて涙を流した。

僕が意識を失っている間に母さんは僕を抱きしめてくれたが僕には何が何だかわかったものじゃない。だから僕は、このまま目を覚まさなければいいのにと思ってしまうのである。このまま目を覚ましたら僕は、また母さんを探さないといけないのだろうかと考えると、それだけで憂鬱になり僕は何の為に頑張っているのか分からなくなってしまうのだ。それに加えて母さんが最後に言った言葉が僕を苦しめて止まなかった。母さんとの別れ際に母さんは僕にこう言ったのである。「愛してるわ、私の勇者様」そう言って僕から離れて行くので僕は母さんを呼び止めようとしたが僕は僕の名前すらも覚えていないのだ。それならば僕が母に出来ることと言えば母さんの邪魔をしないという事くらいだった。だから僕は、ここで眠ったふりをして時間を潰す事を決めた。

しかし、どれだけ待っても母さんが戻ってこないので僕は母を捜そうとして家の外に出ようとしたら僕の周りに複数の人間が現れた。僕は驚き警戒すると僕の前に母さんが姿を現したので僕は驚いて固まってしまったのである。

僕と別れたはずの母が何故か僕の目の前に現れたのだ。その光景を見て僕は唖然としたが母は僕の前にしゃがみ込んで抱きしめてきた。そして母は涙を流すと僕の頭を優しく撫でてくれていたのだ。その様子から、僕は僕に母を泣かせてまで僕と一緒にいようとするのは間違っていると思い、やはり僕は母から離れなくてはならないと考え直して僕は母の手を離すと、それを見て僕に何かあったのかと感じたのか母は僕に抱きついてくる。僕は必死に抵抗をするが母の腕力の方が強くて僕の意思とは関係なく再び拘束されてしまうのであった。それから、しばらくして僕が諦めて母さんに身を任せると僕は母から話を聞いていたのである。

僕の母である桜野彩香は、もともと異世界と呼ばれる場所に勇者の役目を与えられた人間であり、彼女は異世界で聖女と呼ばれて人々を救うために戦っていたのだ。

彼女は他の人たちと同じように聖剣を手にすると魔王を倒し、世界に平和をもたらしたらしい。その後、彼女も元の世界に戻ると彼女は普通の女の子としての生活を送り始め幸せを掴むことができたのだという。

彼女は聖女の加護を授かり世界中から祝福された存在だったので彼女が幸せになることで皆が喜ぶと信じていたが彼女は結婚してから、ある問題を抱えることになる。それが彼女のお腹の中に子供ができてしまい、その結果、流産してしまう事になる。その時の絶望を彼女だけではなく、彼女を支えてくれる夫や子供たちにも強い影響を与えてしまうのだった。それ以来、家族と距離を置き一人で過ごすようになったのだ。

その出来事は彼女の心に大きな闇を生み出し彼女の心を閉ざさせていったのである。そして孤独に生きる日々を送る事になり彼女の心は完全に死んでいくはずだったが、ある時、突然に彼女と家族の時間が動き始めたのである。その原因が彼女の息子である零であった。

彼の名は黒石零。彼は元々は彼女の兄の息子だったが、彼が生まれてきた時は両親に彼が生まれる前に、その両親は離婚して別々の人生を歩んでいた。だが、それでも母親は自分の息子を気にかけていた。そんな彼女に偶然にも出会い、その女性は、どうしても自分の息子の面倒を見てほしいと母親に頼むので仕方なく、その女性の子供、零の事を預かる事になる。だがその時には零が5歳になっていたのだ。

そこで母親が、その子供の世話をしていると少しずつではあるが子供が笑うようになっていたのである。それに嬉しくなって毎日のように、その子を可愛がり続け、いつの間にか、その男の子は自分に懐き始めると、その事を知った両親が引き取りに来ることになった。

そして父親が迎えに来てくれて、そのまま、その息子を連れて実家に戻ってしまったのだ。そこで彼女は初めて知ったのである。自分の子供が既に成長していた事に、しかも自分の息子は自分の子供を妊娠していた女性の子供だったという事に、だから彼女は自分と家族が、どのように接して良いのか分からず、結局は家を出て一人で生きていくことを選ぶことになる。

そうして彼女は新しい人生を手に入れることに成功したのだ。

そうして、ある日のこと彼女が公園で休んでいる時に彼女に話しかけてくる人物が現れる。それは一人の青年であった。彼は彼女と会話しているうちに、とても楽しい時間を過ごしていく事が出来て自然と彼女を口説くことに成功してしまう。だが彼女は自分の事を何も話そうとせず黙っているだけなので困ってしまい彼女は仕事が休みの時に一緒にデートする事を提案すると渋々了承してくれた。

そこで二人のデートが始まるのだが彼女は彼に自分の本当の気持ちを隠さず全てを話すと、いきなりプロポーズをしたのであった。そうして、しばらく経つと彼女は彼と結婚し彼との生活を始めようと決めると、すぐに結婚式場に向かったのである。だが式の準備を終わらせても肝心の主役がいない。そして彼女の弟が言うには彼女は何処に行ったのか分からないと言うのだ。その事を聞くと男は、すぐさま、その情報を集め始めるが、その途中で彼女が自殺してしまったという事実を知ると自分の責任だと思い込んでしまうのであった。

そんな時、彼女の妹が男が生きていることを知って訪ねてきてくれたのだが、どうやら男には、その事実を伝える事が難しい事だと理解する。なぜなら、もう二度と、その男に会うことが出来ないかもしれないと思ったからである。だが自分の姉の為を思い、妹はその男の所に向かうことにした。そうして男は妹が来てくれた事に喜ぼうとしたが、すでに妹の身体が弱っていて助からないことに気づいてしまうと泣き出しそうになってしまう。だけど妹は、まだ生きてる限り、あなたの傍に居ると約束をしたので何とか踏みとどまることが出来たのだ。

しかし彼女の体は、だんだんと弱くなっていくのは誰が見ても分かることだったので妹には時間がなかった。だけど彼女は、そんな状態になっても必死になって、その男のために最後まで行動しようと心に誓うのだった。

そうして妹の最後の力で妹と姉と男の関係は終わりを告げた。そして妹が亡くなって数日が経過した時に自分の事を気にかけてくれた女性が尋ねてきたのだ。その女性は妹の死を悼んでくれると共に自分を責め立てるように謝罪をすると自分は彼女の事を愛してなどいないと伝えようとするが相手は、それを察したのか悲しそうな顔をすると自分の前に立ち去って行ったのである。

そうして数日後、男は妹の事を忘れるため別の女性と結婚する事を決めてしまう。そして妻との間に子供が生まれたのだ。その事は本当に嬉しい事だと思っていた。だけど何故か、いつも違和感を感じてしまっていたのである。だから、もしかすると妻の事を本当は愛していないのではないかと感じてしまい不安に思っていたのであった。そんなある日、娘を散歩に連れて行っているときに、あの時の男性と、ばったりと出会ってしまい男性は申し訳ないといった表情をしながらも娘の方を見ると「お久しぶりです。元気になられて良かった」と笑顔で言って立ち去ったのである。その事で妻は、この人は私の事を覚えていてくれたのだと感激して泣いていた。だから、もしも、この人と結ばれるなら、こんな幸せな生活が送れるんじゃないかと、ふと考えてしまった。そうして、その日から二人は急接近していく。

だが彼は既婚者であり子供まで出来てしまっている。もし自分の事が知られた時に、どのような結末を迎えるのだろうかと考えて恐怖してしまい、それ以上、何も出来ないまま月日が流れていく。そして今日、その男性の妻と息子が、この世界に現れたというのだ。そして私は思ったのである。これは運命ではないか?と、そのせいなのか、これから私は何が起ころうと私は後悔だけはしないと決心して彼の元に向かい彼を救いたいと心から思い始めたのである。


***

<零視点> 僕は夢を見続けていた。それは自分が死ぬ間際に母に抱きしめられている場面だ。母さんは僕を抱きしめながら「ごめんね」と言って謝っていたのだ。そうやって僕は何度も母に謝られてしまい罪悪感を感じていた。そうして僕は目覚めて母さんを探すために家を出ようとしたが僕は家から出ることはできなかった。なぜならば僕の目の前で僕を殺そうとする勇者がいたからだ。そう、勇者がいる以上は僕の身を守る術が無い僕では勇者に対抗することはできないだろう。だから僕は必死に抵抗するが僕の力では抵抗できないのだ。

(どうして?どうしてなんだ?)

しかし、どれだけ抵抗しても僕を抱きしめる母は、まるで壊れ物でも扱うかのように優しい手つきで抱きしめてきて僕は涙を流すことしかできなかったのである。

(このままじゃ駄目だって、わかってるのに体が動かないんだ)

すると母の顔から涙が溢れ落ちていき頬を流れる雫が地面に滴り落ちる。それが地面を濡らすと同時に僕の視界が歪んでいき、ついには何も見えないほどにまで目がかすみ始めて意識も遠ざかるのであった。

(あぁ、僕が死んだら、もう会えないかもしれないのに、また、ここで離れ離れになるのかよ。そんな事になったら、僕は絶対に後を追う自信があるんだけど母さんの方こそ僕と一緒に死んでくれなんて言い出すかもしれないよね。母さんに、その事を言わなかったのが失敗だったのかな。まぁ今さら考えても仕方ないし後の祭りだし母さんと一緒に死ねると思うことにしようか)

すると勇者が何か呟いているのが聞こえる。

『私には貴方しかいない』

『なのに貴方は、どこへ消えた?』

その言葉を最後に僕の耳から音が完全に消え去る。僕の目の前から勇者の姿が消えると世界は暗闇に包まれて真っ暗になり僕は完全に動けなくなるのであった。そうして暫く時間が過ぎていると遠くで光が見えるような気がすると思って見つめるとそこには懐かしい顔が見えていたのだ。そう、そこに居たのは紛れもなく父だったのだ。そこで僕の心の中にある感情が爆発したのだ。

今まで抑え込んでいた悲しみや怒りと言った負の精神が全て爆発したような気分になると自分の心の制御が出来ずに、とにかく自分の事を殴りまくった。そして僕は我に返ると自分の体が自分のものではないことに気づく。そうすると、ある事を思い出すと慌てて家の外に出ることにした。

そうして玄関を開けて外に出ようとすると、いきなり横の壁に扉が出現する。それを見て僕は驚き戸惑うが少し考えるとその中に入ってみようと思い中に入ったのだ。すると、その中に入ると僕の前には見知らぬ男女が立って出迎えてくれていたので誰だろうと見ていると突然に二人が土下座をして来たので、いきなりの展開に困惑してしまった。だが、そこで僕は二人の声を聞いて、まさかと驚愕したのである。そう、その二人とは僕の父と母だった。

そして二人の会話を聞かなくても、なぜか何を言おうとしているのか分かってしまうと涙を流してしまう。そして僕の父は僕を指さすと叫んだのだ。

『頼む零!助けてやってくれ』

『頼むから、この子を殺さないで!』

そして二人は、さらに叫び続ける。

『お前だけが頼りなんだ!!』

『お願いします。何でも言うことを聞きますから、どうか、その子の命を助けてあげてください!!お願いします』

だが、それでも僕は自分の意思を貫き通すことにして答えを出した。

『ごめんなさい。僕にも、まだ守りたいものがあるんです。なので、そちらを助ける事はできません』

そこで僕は母を指差す

『お母さんの事、よろしく頼みましたからね。お父さん』

そう言って母の事を託した後は母に背を向けて走り出そうとしたが母に後ろ髪を引かれるような感覚に襲われてしまい、つい振り向いてしまう。そこで、やっと母の姿を再び確認する事が出来たのだが、やはり、その容姿は自分の知る母親のものとは全く違っていた。だけど僕の瞳には母の事が愛しく映っている事に気づいたので母を抱き寄せると額にキスをしたのだ。そうすると母の目に生気が宿ると僕の腕の中から抜け出し立ち上がると自分の足で大地を踏みしめてから自分の体に戻ってくる。

「ははは、どうやら無事に、こっちに戻って来れたみたいだな。良かったぜ」

それから彼女は僕を、そっと抱擁してくると僕の耳に口を近づけて、こう言ったのである。

「もう大丈夫だよ。もう何も怖いものは無いからね」

その言葉を聞けただけで嬉しかったのだ。だけど今の僕に何ができるのだろうか?そう思い自分の能力を確認してみると職業が変わっており、それに、よくわからない文字も表示されているが僕にとっては重要なのはこの【レベル】の部分に目を向けた。

そこには現在のレベルが表示されるのだが何故か僕の表示されていた数値が10億と言う桁違いの数字を表示していたのである。そう言えば前に読んだ漫画に似たような数字があった事を、ふと思い出したので、その部分を見つめながら自分の頭の中で、その単語を口にした瞬間に画面が切り替わると、その漫画に出て来たキャラクターのように頭に数字が刻まれていく。

【0/99999999999/10001~】と画面に表示されると、それが今の自分のレベルであっているのだと分かると思わず笑いそうになってしまった。ただ、それを我慢している間に、いつの間にか僕と母の周囲に人が沢山集まり始めていたのだ。しかも村人達が武器を手に持ち警戒態勢をとっている。そして一人の若い村人の女性は剣を抜いて母に向けて刃を向けると大声で話しかけてきたのである。

「私は魔王の娘のミザリーと言います。私は、あなたを殺すために此処までやってきました。ですが貴方は何故、この場に立っているのか分かりますか?」

その言葉を聞いた時、どういう意味なのだろうと思っていると彼女は語り始める。

「この国では魔王の血を引く者は存在自体が罪とされていました。なので私は母様を殺しその血を完全に消し去りたかったのです。だけど母様に私が近づいた時に、たまたま、そこの男に出会いました。彼は母様に近づいても特に反応も示さずに私に対して微笑むと、こう告げてきました。『君の母さんの事を幸せにしないといけないんだ』って。その時の彼の表情はとても穏やかで優しそうな笑みを、その男性の顔に浮かんでいたので私は一瞬ですが心を奪われてしまい彼と一緒に居たいと本気で思っていました。だけど私は彼を信じる事ができなくて彼を刺してしまいます。すると、その男性と母である女性は私の方に向かって歩いて来ると、そのまま抱き寄せてくれたので私の心は完全に奪われてしまいました。この人ならば信じても問題ない。この人の為なら命を捧げる事だってできると確信したのです。そして、その人は母様の手を取ると二人で立ち去ろうとしました。そんな二人を黙って見てられる訳がなく、すぐに追いかけた私は、お城の中に入ろうとする彼らを引き留めると、母さんと男性は何かを話し合っているようでしたが、やがて二人は別れてしまい母は城の方に男性は街の外へと向かって行ってしまい、その後ろ姿を悲しげな様子で見送った母を私は見てしまったのです」

僕は話を聞く限り完全に彼女の勘違いによる行動なのではないかと思っていた。なぜなら、そもそも、その女性と彼が結婚したとしても彼女からすると僕の母親を奪った形になり恨みを買って当然の行動だと思う。

だが、それとは別に彼女が母親と離れて行動する事になった原因が気になっていたのだ。

『あのさ。君の方は勇者と何かあったのか?例えば殺されそうになったとか』

僕は疑問をぶつけてみる。すると彼女は答えてくれる。

「実は勇者が城に入ってくるなり母を、こちらの方を見て驚いていたのですが母に危害を加えるような事はしていませんでした。そして勇者は母の前に立つと、こう問いかけたのです。どうして生きているんだと。それに対して母は彼に自分の力を全て与えて、この世界を滅ぼそうとしている悪の存在の封印を解く鍵にしたと話して去っていきました。

そう、おそらく勇者はその事を知ってしまったから、このような事をしたのでしょう。なので母を殺そうとしたのですが母は彼を返り討ちにしたようです。しかし勇者は最後の力で母さんに呪いをかけたらしく、母を苦しませる為に、こんな事を始めたらしいんですけど、でも、それも失敗に終わりそうになっています。なので、これから私は、この場所を離れる事にします。もう二度と会う事はないかもしれませんが貴方には感謝しています。本当に有難うございました。それでは、さよなら」そう言うと僕の視界から消えてしまうのであった。

(母さんが生きていて、その力が自分に流れ込んで来たのか?)

(それと、あの女性と僕が、どう関係するのだろうか?)

(それに勇者は何が目的だったんだろうか?)

そこで母が心配そうな顔で僕の体を抱きしめるのであった。そして僕を安心させようと笑顔で頭を撫でて優しい声音で話しかけてきてくれのだ。

「ねぇ、今、お母さんの体を動かしていたのは、もしかして貴方?」

そこで、ある考えに至ると僕の事を指さして聞いてくるのだ。僕は少し迷ったが本当の事を言ってしまおうと思い話すことにした。そうしないと話が先に進まないと思ったからだ。だから僕は真実を彼女に教えようとしたのだ。

僕は母の前で土下座をすると、この世界で死んだ事。

転生をしてこの世界にやってきたこと。

そして、そこで【聖剣使い】の称号を貰えたことを全て母に説明したのである。そうすると僕の話を聞いていた母の目に涙が溢れ出したかと思うと泣き始めてしまい僕の体から手を離すと床に倒れて涙を流し続けたのだった。

僕は母が泣く姿を見ていると自分が悪いわけではないのだが罪悪感に襲われる。なので何とか慰めようと母に駆け寄った瞬間に突然僕の胸が痛くなると口から大量の血液が流れ出す。

僕は、その場に倒れると、その様子を見かねた母が回復魔法をかけて僕の傷を癒やしてくれる。

僕は、その状況を確認すると母が自分の身に宿す全ての魔力を注ぎ込み僕の怪我の治療を試みている事が分かった。そして自分の体が完治する事を実感すると立ち上がり周囲を確認し始めたのだ。だが周囲には誰の姿も無くなっており誰も残っていない事が分かると、ある場所に向かい走り始める。

だが、その場所は城の中にある図書室だ。

だが、そこは扉に錠がかけられて開かないようになっており外から入れないようになっているので中から開けてもらうしかない状態になっているので僕達は、まずは図書室から、この国の王に会うために王の私室へと向かうと部屋の中には王がいたが、かなり高齢で既に病のためか歩くことも困難な状態であった。だが、それでも王は、この世界の行く末について不安を抱いていたようである。

その証拠として彼は僕に自分が知りうる知識を教えてくれようとしているので、それを僕は全て記憶するようにと意識すると頭の中に入って来て情報が全て整理された後に僕の中に刻まれていく。

そして僕の頭の中で、ある程度の知識を得ると僕は王の部屋から出ていこうとするのだが、そこで僕を呼び止めると母が、なぜか懐に持っていた小さな箱を取り出し僕の手に渡すので確認すると、その中には母が僕の為に残してくれていた母の愛情が入っていたので、それを目にすると僕の頬を一筋の液体が流れる。

それは嬉しさから生じた感情によるものなのだが僕は我慢できず母を抱き寄せると自分の唇を母のものと重ね合わせて自分の想いを伝えると、それを見た王様は嬉しそうに微笑むと母に感謝の言葉を述べてから僕の背中を押してくれたのだ。僕が走り去った後で王様は自分の息子と孫娘の幸せを願って静かに涙を流す。それから、その場を離れた僕と母の前に再び闇の波動を放つ男が現れて、またも邪魔してくる。そして母が闇の刃を受けて動けなくなると男は僕にも刃を突きつけて母を殺すように命令するが僕に、それを実行する事ができるはずもなく逆に母に自分の意思を告げると、この世界に来て初めて本気で戦う決意をした。その結果、僕は相手を倒すことに成功するのだが、やはりレベルが10億という異常な数字だったので倒せるとは思ってもみなかった。そして、その戦いの影響で母と僕が一緒に居ると危険な目に遭ってしまうと確信を得たので、母と別れて行動を開始したのである。

(とりあえずは勇者の事を知りたいので街に向かうか)

僕はそう思うと勇者に関する情報を集めるために街の中央にある城へと向かい歩き出した。

しかし道すがら街の人たちと会話をしていると魔王の息子だというのに僕に対する風当たりが強く、魔王の息子である僕が気に入らないらしく皆が敵意に満ちた視線を送って来るのだ。そのせいなのか、その日は街中を歩いただけで疲れてしまい宿に戻ることにする。

そしてベッドの上に座り、この世界の地図を広げてみると現在地は大陸の南に位置しており南には魔族の国が幾つか存在するらしいのだ。その一番北側に位置するのが魔王の領地であり僕の故郷である。

次に僕が向かうべき場所は、ここから東に離れた場所にある人間の国家の首都となる国で、その都市の名前は首都と言うだけあって非常に大きいと聞く。

ちなみに、その国は僕が生まれるよりも遥かに前から存在し続けていた国で、元々は勇者が、この地を訪れる前まで存在していた人間達の国であったが勇者が国を訪れて、この国に訪れた際に闇の女神の力が封印されている神殿を見つけて勇者の力で、そこの封印を解き女神を開放して、それを利用して、その国に居座ると勇者が支配した事が始まりで今の人間が住み着くまで栄え続ける事になったのだという。

その歴史があるために他の国からは神聖視する声も多く、勇者を崇拝している人が多いと母からも聞かされてはいた。なので勇者と敵対した僕は勇者が、どういう行動を起こすのか予想できないのだ。

(まぁ。考えても仕方ないか。それよりも今は勇者の情報を手に入れる方が優先事項だな。その為には首都に行ってみないといけないんだろうけど)

僕は部屋の窓から見える景色を見ながら明日の事を考えていると、ある事に気づく。

(待てよ。この世界に召喚されたのは【勇者】と呼ばれる人なんだよな。その勇者が俺と同じ日本人だとしたら、どうして母さんと結婚したんだ?)

ここで僕の脳裏には母さんと勇者が、この世界の人達から見れば恋人同士にしか見えない仲の良さで楽しげにしている光景しか浮かんでこない。なので僕の心に怒りと悲しみが混ざり合い複雑な気分になる。だが冷静な気持ちになって考えると勇者の行動の理由が全く分からなくなってしまうのだ。何故なら、それなら母と結ばれる意味が無いからだ。しかも母さんの話によると、どう見ても母を愛して結婚をしたとは思えないと思える。それに勇者は、どうみても成人したばかりの若い男性で、そんな男性が年齢的にも、そろそろ三十路に突入するであろう母の事を好むなど普通に考えれば有り得ない話だったのだ。

だから、この勇者と、どうしても会わなければいけないと僕は強く感じて翌日を迎えることになる。

僕は翌朝になると準備を終えると部屋を出て宿を出ようとする。すると僕を見かけた一人の少年が近寄って話しかけてくる。どうやら僕を敵視している一人らしい。彼は、この街の有力な商人の跡取り息子のようで僕の事が許せないのだろう。しかし僕は勇者について知っている事があるかもしれないと、ある人物を紹介してほしいとお願いしてみたのだ。そうすると彼の顔色が悪くなり明らかに嫌そうな顔をする。なので彼が勇者について知っていそうな人に心当たりがありそうだと思った僕は更に頼むと、彼は渋々だが了承してくれたので案内してくれる。

そうすると、その人物は宿屋の一階で食事を取りながら客と会話をしていて僕が近づくと、こちらを凝視し始める。なので彼に紹介して欲しいと頼んでみると、こちらの人物は勇者の従者の一人だと口にするので僕の胸には驚きが走る。なぜならば僕の頭に【光の英雄】という言葉と勇者が従えたとされる六人の英雄の一人である事実だけが記憶に残っていたからだ。だが僕としては勇者の仲間で有ろうとなかろうと勇者の関係者で有る事に変わりはなく話をしたいと思っていたので二人を宿の近くにある酒場に連れて行く。そこでお互いに飲み物を口にすると僕は本題に入る為に「単刀直入にお伺いしますが、貴殿方は僕に対して恨みが、あるんですか?」と言い放つと相手は「ある!」と断言してから話を続けてくれた。だが、その内容は、とてもではないが僕の事を快く受け入れてくれるものではなかった。まず彼等の話から分かったのは、そもそも彼等の住む場所から勇者は旅立ったのである。だがその時に彼に従う仲間達も同行していた。そして途中で彼等に別れを告げて去って行く。その理由を彼等から聞き出そうとしたが、それを話す事は無く、その代わりに【魔王が復活し世界が再び闇に包まれようとしている】という内容を聞かされる。

僕はその話を聞いて納得できなかった。何故なら僕の頭の中には勇者が魔王の僕を倒したという記憶があるからだ。しかし僕の記憶が確かなものであれば魔王が復活した記憶は一切なく僕の頭の中の記憶が正しいのかどうか確かめるために、まず僕が生まれた時の記憶を思い起こす。そして記憶に間違いが無かった場合の仮説を組み立ててみるが、それが上手くいかない事に困惑をする。

(おかしいぞ。どうして魔王は復活していない? 僕が生まれる前に倒してしまったからか?)

ただ一つだけ、はっきりと言える事は僕が生まれる前には確かに闇の力に汚染された場所が存在し、そこは勇者が、なんとかしたのだと思っているが、それは、あくまでも、そう信じているというだけであり、本当のところは解らないのだが勇者以外に闇の女神の力を使える者が居たとは考えられず僕は自分の考えを信じていた。

僕は話を続けて、その事を質問して見ると勇者に付き従う女性の中に勇者の力の一部を操る事ができる人物が居たという話を教えてくれたのである。その女性の名は、確か、その勇者の幼馴染のアイラという女性が勇者から与えられた光の精霊と契約をしていた事から彼女の持つ光の力と勇者の持つ聖なる力が融合すると勇者の力と同等の能力を発動できたのでは無いだろうか。そして僕の頭の中で思いつく限りの、あり得る可能性を考えていくと一つの答えが僕の頭の中に浮かび上がる。

それは、もしも勇者に魔王を滅ぼす程の力が備わっていたら魔王は滅びずに封印されていたのではないかというものだ。しかし、それを肯定すると僕の母親が魔族に殺されていたという事実を思い出さずにはいられず。それは僕の中では絶対に認められない事実だったのだ。

(やっぱり僕の母親を殺した奴等は魔族で、あいつ等が僕の故郷を滅ぼした魔族で僕と母さんを引き裂いた憎き仇なのだ。でも、それを証明する方法もないし証拠も無い)

それならば勇者が、どうやって僕の母親の仇である魔王を倒すことが出来たのかを知る必要があると考え。その疑問をぶつけてみると、それは僕にも、わからないと返されてしまう。だが、それでも良いと僕は思っているので問題は、そこではないのだから勇者が僕の母の仇だという事を確認できればそれで構わない。そこで僕は、さらに質問を重ねて行き、ようやく勇者が何故に僕の母と恋仲にならなかったのかが判明した。どうも勇者に惚れてしまった母が無理矢理迫った結果で勇者が、そういう関係を拒否したらしいのだ。そして勇者には婚約者が存在したらしい。それを知った母が、どれだけ落ち込んだか分からないぐらいに落ち込んで、それから数年は母が勇者を忘れられなかったようだ。それから勇者の事を思い出すたびに涙を流すようになり僕に辛そうな顔で勇者の居場所を尋ねてきたりしていたが僕は勇者の情報を得るために必死だったので嘘をつくと、やがて母が泣き疲れると勇者の話も無くなり、それから母は勇者の話題を一切口に出さなくなり、いつしか忘れ去ったのだ。

だから僕にとっては勇者の事が気に入らなかった。

(何が勇者様だ。俺の母さんは泣いていたのに。お前の幸せのために)

しかし、ここで感情的に動いてしまえば全てが無駄になってしまう。なので僕は勇者に対する復讐を諦める事にする。そして僕にとって一番大切な母さんの笑顔を守る事を最優先にしたのだ。その事を目の前の男性に伝えると彼は僕に感謝の言葉を述べる。ただ僕からすれば感謝される筋合いなど一切ないので僕は首を横に振るだけで何も言わないでおく。すると彼は僕の気持ちを悟ったらしく勇者について教えてくれた。なんでも僕の予想通りで勇者は【勇者】の称号を持つ人間で僕と同じ世界の出身で僕と全く同じ名前で僕の母親とも知り合いらしい。しかも僕の予想が間違っていなければ勇者の名前は、あの【光の英雄】の本名らしい。だからこそ僕は彼の話を素直に聞く事ができた。

それというのも彼の話では勇者が、こちらの世界に召喚されたのは、つい先月らしい。しかも、まだ若い少年であり成人もしていなかったのだと言う。だが勇者には聖剣と呼ばれる伝説の武器を持っており、それに女神と契約を結ぶ事ができ勇者は、それに認められ、この世界に訪れた時に既に契約が結ばれていたと、そのおかげで女神の恩恵により彼は、こちらの世界で最強と呼ばれる程の存在になったのだと教えられた。そして女神との契約には代償が必要で女神の力を行使する度に寿命を削るという恐ろしいものだったのだそうだ。

だから彼は僕と出会って、しばらく一緒に行動する事で僕の正体を確かめるための行動に出たのである。僕は勇者が、この世界に呼ばれた理由は僕の母と関係していると考えていた。だから母が殺された時の出来事を思い出して、どうしようもない悲しみと憎しみが込み上げて来て、その日を境に僕は無性に誰かを傷つけたくなってしまうようになっていたのだと気付かされてしまい僕は自分が怖い存在になりつつある事を実感してしまう。そんな自分に戸惑いを抱きながらも宿に戻ると僕は眠りに就くのであった。

僕は朝になると身支度を整えると外に出て行く。昨日の内に情報収集を終えて、ある程度ではあるが調べておくことができたのだ。その結果、僕の心の中に生まれた感情は怒りではなく不安の方が強く、このままでは勇者と戦うことになってしまいそうなので今のうちに何とか対策を立てておこうと考えたのだ。だが、いくら探しても闇属性魔法に関する情報は殆ど手に入れることができずにいた。そうして時間が経過すると昼前になって、ようやく僕が待ち合わせをしていた人物と合流すると街から出て森へと向かう事にした。

その道中で僕は彼女に「どうして勇者に敵対するの?」と聞いてみると彼女は少し考え込んだ後に「それは私の父が、その勇者に酷い目にあった事を知っているし、私が、それに苦しんでいるのを見かねて父が救ってくれてね。それで勇者を殺すのに協力して欲しいと頼んだら引き受けてくれたの」と、あっさりと僕の目的を理解してくれたのである。そして僕が「もしかして君が勇者を憎んでいたのって僕の為だったの?」と口にすると彼女が顔を真っ赤にして僕の背中を叩いたのである。そのせいで僕の体は前方に飛んでしまうが痛みを感じることはなかったので気にせずに僕は歩き続ける。

(僕って、どう考えても普通じゃないよね。これって普通の体に戻った時は痛いんだろうな)と内心で愚痴をこぼす。だが僕は、それ以上に彼女の存在が、どれほど重要な事なのかを理解するのだった。それは彼女が居なかった場合だと僕は間違いなく暴走して闇の女神の僕を呼び出そうして勇者を殺してしまっていたかもしれないからだ。僕は心の中に、もやっとして黒い霧がかかったような感覚に陥り、それを振り払うために僕は頭を激しく左右に振った。すると彼女は、こちらを覗き込んできたのだ。その行為によって僕は我に帰る。すると「貴方は何を一人で、ごちゃごちゃと考えていて頭が混乱したのよ!」と言って僕を睨んで来たので僕も負けずに「貴女が勝手に僕の事を心配しただけだ!」と返す。すると「もう! なんで言う事を、きちんと聞きなさいよ!」と怒鳴られた。

だが僕は「別に言う通りにする必要はない。だって貴女の事を信頼してないもの。だから信用できるわけがない!」と言い放ってやる。すると彼女が怒ったように僕の胸を叩くが、その拳に力が無く、まるで子供が駄々をこねる程度しか無かった。

僕は森の中に足を踏み入れると周囲を警戒し始める。もしも魔物が現れたら倒すつもりでいるので準備だけは整えている。それからしばらく歩くと、ある場所で彼女の歩みが止まる。そこには小さな湖が存在していたのだ。そして、そこに水鳥の姿を見つけると、その近くに魚の姿を見かけたので、おそらく彼女の目的は水鳥か、それとも、そこらに生息している魚の捕獲なのだと思い、その手伝いをする事に決めた。そうする事で、これから向かう場所への道中で魔物と遭遇したとしても戦闘を回避する事も出来るはずだ。だが僕は、そこまでの考えに至った所で、どうして僕は彼女と、ここまで行動を共にするようになったのかを思い出すと、もしかして彼女の正体が魔王ではないかと思ってしまい、その事を本人に伝えようとすると僕の背後に気配を感じるのである。

僕と女性は二人で行動していた。そして目的の場所である湖に到着したが、そこで一羽の水鳥を見つけてしまったのだ。そこで僕は女性と水鳥を追いかけると彼女は木に吊るされている網を使って捕えたのだ。その事に僕は、どう声をかけていいのかわからず戸惑うが、まずは感謝の言葉を口にしてから話を聞いてみる。すると、彼女の口からは魔王討伐の旅に出ようとしていると知らされ、僕達は目的が同じなので同行することになったのだ。ただ僕は彼女の実力を確認する必要もあった。なぜなら魔王と互角に渡り合える力を持つ相手だと思っているのだから警戒は当然の処置と言えるのではないだろうか。だから、この旅の間は彼女の力を信じるという事で話を纏まったのだ。それから僕は湖の水を飲もうとして手を伸ばしたら、ふいに何かが動く気配がしたので視線を移すと水の中から人影のような物が現れる。

僕は驚きながら後へと飛び下がる。その人物は全身が青い色に染まっており腰に布を巻き付けただけの裸体に近い格好をした男であり、そいつの肌は病的なまでに白い。また髪の毛の色は青髪だが毛先が緑色で不気味さを漂わせていた。ただ僕が気になったのは、それだけではなかったので、その男の瞳には何も映っていないように見えたのだ。すると、それが正解だとでも言いたいのか男は僕達を見て笑みを浮かべる。そこで女性の方は「魔王が復活して魔族の支配する領域が増えたのは知っているけど、こんな場所にまで、そんなに多くの敵が攻めて来たなんて聞いてないわ」と困惑しながら呟いた。

確かに女性が口にするように、ここに現れる理由は無いはずであり魔族の領域から、ここまでの距離を考えると普通に考えれば不可能なはずだった。だが目の前に居る存在が現実に存在する以上は信じなくてはならないようだ。その事は頭の中では分かっていたが実際に見ると、どうしても、まだ心の整理が出来ていない状態なので戸惑いを隠せないでいた。それでも僕は目の前の存在に対して構えを取る。それは自分の意思ではなく無意識のうちに行ったものであり、だからこそ相手の力が計れないでいた。

(どうしてだ?どうして、あいつが姿を見せるまで、こいつの存在にも気付かなかった?)

僕は焦りを覚えると同時に自分よりも強い相手が目の前に立ちふさがっている事に恐怖を抱く。だから少しでも時間を稼ごうとするべく口を開いた。「どうして、お前は現れたんだ?」

「どうしてだと、そんな事は決まっているじゃないか。お前達が僕の大切なものを奪うからさ」と、その言葉は感情の篭らない平坦な声で語られる。

それに対して僕と女性は息を飲むのだが、この場を切り抜ける方法が全く思い浮かばないので、とにかく僕は必死になって頭の中に浮かんだ可能性を考えていく。しかし、どれだけ考えを纏めようと思っても無駄に終わり答えは出ない。すると僕は背中に嫌な汗が流れている事に気がつき自分が追い詰められている事に自覚すると呼吸を整えようとしたのだけれども心臓の鼓動は激しさを増していたのであった。

(なんだ、これは、体が熱い。苦しい)と、その苦しみから逃れる為に僕は自分の体を押さえつけて倒れそうになるのを耐えるが、すぐに限界を迎え地面に膝を付いて動けなくなる。

(くっ、どうして僕は立ち上がろうと思えないんだ!? 早く起き上がって逃げるなりしないと殺されてしまうぞ)

だが、その僕の心とは裏腹に体は、なかなか動いてくれずに、その場に座り込んでしまう。すると男が、にやけ顔になり近づいてきたのだ。そうして「君も僕が欲しいかい?」と、問いかけてくる。

僕の体に異変が起きた原因について考えた。考えられる原因は一つしかなくて僕自身の中で眠っていたはずの闇の女神が覚醒しようとしていて僕と融合した結果なのだろう。つまり僕は僕の肉体を侵食されて闇の女神の魂と一体化してしまった可能性が高い。そして闇属性魔法の呪いで体を拘束されている状況だと、その時の僕は完全に闇の女神の支配下に置かれていて僕の意識は闇に支配されて完全に消え去ってしまうだろう。

そうなってしまうと僕の存在は消える事になる。だが闇の女神が闇属性魔法を使った瞬間、僕の意識は強制的に奪われる事だろう。そうなってしまう前に、なんとかしないといけない。しかし闇の女神の魔力は僕と融合してしまい離れられなくなってしまった。どうすれば良いのか分からなくて、僕は闇の女神との会話を試みようとするが何も変化が起きなかった。だけど諦めるわけにはいかない。僕は僕自身の力で現状を打破するために闇の女神を、どうしたら目覚めさせる事が出来るのかと考える。そして闇属性魔法によって封じられている僕自身が鍵になってるのではないかと、そう考える。

僕には、なぜ勇者に成り代わろうとする存在が生まれる事によって闇が生まれたのかという理由は理解できていなかった。それは僕が光の力を持ち、それを扱える者だったからだと思っていたが、その事が実は間違いだという事を今なら理解できる。そう、そもそもの話が闇を作り出した根本的な要因としては、やはり光の力と対になる闇の力が存在しているからだと考えられるからだ。それは光と相反するものであるから、その存在を認識できるからこそ僕は女神の存在を確認できたわけだし。その事から考えてみて僕は今の状態で女神を目覚めさせる事は不可能かもしれないと悟ったのだ。だから僕は別の方法で、この問題を解決しようと考えて僕は一つの方法を思いついたのだ。僕は剣を構えると自分に出来る最大の技を発動した。その結果、どうにか成功して、それは成功すると僕と闇の女神の間に繋がりが生まれ、それは徐々に広がりを見せる。そして、それを感じた僕は確信した。

(そうか、僕は、やっぱり闇を封印する事が可能な唯一の存在なのか。だから、こうして女神を呼び起こすことが出来たんだ)と、そこで僕は闇を封印している最中なので僕は苦しくなりながらも「魔王!目を覚ませ!」と叫ぶ。その叫びに呼応するかのように僕の体の中に何かが流れ込むのが分かった。

僕の体に流れ込んでいるのは膨大な量の闇だ。僕の心が悲鳴を上げ始めると僕の視界が暗くなる。僕の中の闇を僕の心が完全に吸収しきると、そこには一人の少年の姿が存在した。その姿を見た時に僕は僕の事を『勇者』と呼んでくれた人の事を思うと懐かしさと愛おしさで胸が一杯になってしまうのだった。

僕の中に宿る、もう一つの存在は僕を見下ろして「よくも私を解放してくれたな」と言ってくる。それに対して僕は謝罪の言葉を漏らす。それから僕は僕の中に存在する彼女の名前を呼ぼうとしたが上手く発音が出来ない事に困ってしまった。すると彼女は笑い始めて「お前の名前は勇者じゃないだろ?それに私はお前の本当の名前を知っているから大丈夫」と言ったのだ。だから僕は僕の中に存在している彼女に話しかけたのだ。「じゃあ改めて、よろしくお願いします。貴女が俺の名前を知っていてくださって助かりました」と。すると彼女は微笑んで「ああ、こちらこそ頼むよ」と言うのだけれど彼女が自分の名前が呼ばれる度に少し辛そうな表情をするのは何が原因なんだろうと、ふと思ったのだ。その理由については後で本人に尋ねればいい。今は目の前の存在の方が重要な問題なのだ。僕は彼女の姿を、あらためて見てみる。見た目的には少女のようにしか見えないのだが、どう見ても、それが正しい姿では無いのは一目瞭然であり僕の中にある闇を体中に取り込みながら魔王として存在していた時の体を手に入れているようにしか見えなかった。そこで僕は自分の手の平を見て、そこに存在する物を見て愕然とする。そこには真っ黒に染まった手が、あったのである。その手からは闇の波動を感じて僕は慌てて浄化を行うが、まったく効いている様子はないのだ。その事実に戸惑っていると魔王を名乗る者が僕に向かって声をかける。その言葉を耳にして僕は驚くが同時に納得もしていた。なぜなら魔王が人間に対して恨みを抱いている事を知ると同時に僕自身も彼女に対する憎悪を抱いていたのだ。その気持ちに嘘は無いのに何故だろうと思いつつも、おそらく僕も闇の女神が魔王の力を取り込んだ際に魔王の力が体に入り込んでしまい、そのおかげで魔王を憎む心は残っていたが闇を恨んでいる部分も残されていて魔王の感情を、より強く受け継いでしまったのではないか、そう考えなければ魔王が僕に対して、あんな風に声は掛けてくれないだろうから。

だが僕の場合は魔王と違って、まだ人間の部分が残ってくれたようだ。ただ僕の中にも魔王と同じで人を殺めることに何の躊躇も無い心が存在していた。その事を確認した後に僕は僕の中から出してくれと頼んだ。それに対して相手は「嫌だよ」と言いながら笑みを浮かべたのだ。そして彼女は僕の方を見ながら「どうして私が君なんかと一緒に旅をしないといけないんだい?」と言われて、どうして、この相手が自分の事を助けてくれたのかという理由が分からないのだと思い知ると、その事を問いただしてみると「君は僕の大切な物を奪っていったんだ。その償いをしてもらおうと思ったから助けただけ」と言われた。

僕は相手の言っている意味が、あまり理解出来なかったので詳しく聞いてみると彼女は魔王として復活する際に自分の体と魔族の体の一部を材料にして自分の分身を作り出していたのだという。その話を耳に入れてから僕は相手が口に出した素材の意味を考える。魔族の体は分かるとしても僕の体というのは、どういうことなのだろうかと考えて、ようやく気がついた。もしかしたら僕の肉体に闇属性の適性がある事を利用したのではないか、という事に。つまり僕の体の一部分は闇属性に染められた事で変質し、その部分を相手の肉体に混ぜ合わせることによって相手を乗っ取るような真似をしたのではないかと推測できるのだ。だが僕には全く身に覚えの無い話であり困惑してしまった。「そんな事はしていないはずだ。だって僕は闇属性の適正を持ってはいないんだから」

だが僕の話を聞いた彼女は首を横に振った。「いいや、君と融合する前に僕は君の体を侵食させていたからね。それで僕の力を流し込んでいたんだよ」と告げてきた。それに対して僕は「じゃあ僕はお前に取り込まれるのか?」と尋ねると相手がニヤリと笑うので、もしかして、このまま死ぬ事になるのかもしれないと思って不安に感じた。

すると僕が考えていた事が顔に出てしまっていたらしくて、それを察した相手が僕の顔を両手に包むと額に唇を押し当ててキスしてきたのだ。その事に僕は驚きのあまりに何も言えなくなってしまうと相手がクスッと笑う。「心配しないでも、僕は、もう何も奪いはしないし、むしろ逆の事が起きるだろうけど、まぁ気にせずに受け入れてくれると嬉しいな」と笑顔で言った。その言葉を受けて僕は自分が今までの人生を振り返ると本当に何も無い事に気がついて何も言葉を発することが出来なくなるのであった。

(確かに俺は、これから先の人生は闇の中で生きる事が確定してしまっている。その点では、この世界に救いは無いと思える。だけど闇を消し去る方法なら、まだ残されている。そして闇属性を扱える勇者を殺す事が出来れば僕が生きている限りは闇が消える可能性が残されている。だから、そのために勇者が闇を司る女神が作り出した魔王を殺して消滅させた方が良い)と、そう考えた僕は勇者の肉体を闇の女神に渡す前に殺してやろうと考えると闇を呼び出し勇者に向けて放った。すると闇を斬り払う勇者の姿が見えたので僕は舌打ちをすると次の攻撃の為に動き出す。闇の女神を宿した状態では身体能力が著しく上昇しており、それに加えて闇属性の力によって僕の体を侵食しようとする。だが闇の女神の意識を抑えつけようと意識を集中すると僕の中には女神の姿が目に浮かぶ。その姿を見つめて闇の女神を押さえつけてやろうと心に決めた時、闇の力は弱まったのだ。

しかし闇の力が弱まってるといっても僕が自由に操れるわけじゃない。それでも僕は僕の中に存在した光の力を呼び起こす事が出来ないかと考え始めた時に闇を斬ろうとする勇者と剣が触れ合った瞬間に、どうなるのかを想像したのだ。そして僕の予想通りに勇者の体には傷が走り血が流れる。その姿を見ていると僕は勇者を殺したくて仕方がなくなってくるのを感じた。それと同時に闇を、どうにかしなければいけないという考えは薄れていった。勇者を、どうにかしなければ闇を滅ぼす事は不可能だと思えたから。そこで僕は、まず最初に勇者の動きを止める事に全力を注ぐ。闇の力を最大限に引き出して、それで勇者の剣を防いでみせる。

その結果、僕は闇の力を完全にコントロールする事に成功できたのだ。それから僕は勇者と互角に戦う事が出来るようになった。だが僕の中にある闇の女神の存在が僕に対して語りかけてきて「お前も私の中に入り込むか?」という言葉に対して僕は、どうにかして抵抗してみせる。すると闇の女神が苛立ちを見せ始めて「面倒臭い奴だ」と口走ったので、そこで僕は思い付いた事を試したのだ。僕は勇者に向かって「闇女神を宿したまま戦っても勝てないとは思うけどな」と言ったのだ。その言葉を聞いて相手が怪しみ、そして僕を見据えてくるが構わずに僕は闇の女神を呼び寄せる事にした。すると魔王の姿が現れて僕を見るなり「何だ、その姿は?」と言う。それに対して僕は闇属性の魔法で自分の体を作り替えたという事を伝えると魔王の姿に変化が訪れた。魔王の体に異変が生じて体が黒く染まる。

魔王が自分の変化を確認して、その状態が自分にとっては不味い状況だと考えて慌てて逃げ出したが、僕は逃げる相手の後を追う。その際に魔王は僕の後を付いて来る闇の存在を見て「どうしてだ?どうしてお前まで闇の力を持っている!」と叫び声を上げた。その問いかけを受けた僕は「魔王を宿している存在の力を取り込み続けていたからだ。それに魔王は闇を憎んでいただろ?だから、そいつから奪った闇は僕にとって有益だった」と答える。その説明を聞いた相手は「まさか、お前の中に、こんなにも闇が存在していたとは」と言うのだが僕は何も答えずに黙り込む。

すると相手は僕に向かって話しかけてくる。「さっき、私に向かって闇が有るって言ってくれたな」と嬉しげな口調で言い始める。それに対して僕は首を傾げると相手は微笑んで「私は自分の事を認めてくれた人が居る事に、それが凄く嬉しかったんだ」と言ってきて僕の体を抱き締めた。そして彼女は、お礼にと闇を解放してくれたのだ。その行為に対して、僕は驚いたのだ。そのおかげで体から闇が抜けていき僕は自分の体を取り戻す事に成功したのである。そして僕の中の魔王を消す事に成功して僕を殺そうとしていた闇も消えた。そこで闇は消え去り僕も魔王と同様に死が訪れるはずだったのだが何故か生き返ってしまったのだ。

どうして、そんな事が起きているのかは、よく分からなかったが僕は僕の中に存在している闇と向き合う覚悟を決めたのだ。そうするしかないのだと理解させられたのだ。そして僕は闇の存在を消さなければならないと考えて闇の力を自分のものにしようと考えると自分の体内にある闇の力が僕の体の外に放出され始めた。そこで魔王が慌てて止めようとするが、それを邪魔するように闇が僕の傍に寄り添い続けるので闇の女神の意識を抑える事に苦労する。しかし魔王は諦めず何度も試みるので僕は魔王の相手をする事に集中する事になった。そんな事を続けて時間が経過するにつれて魔王が苦しそうな表情を見せて、そのまま気絶してしまったのだ。それを見て僕は「今度こそ闇を滅ぼしてやる」と思い闇の女神の肉体を手に入れようとしたが、それは失敗に終わった。闇の女神が闇属性に抗ったのだ。その結果として彼女は魔王と同じように倒れてしまう。しかし、それだけでは闇の女神は消滅しない。

その事に魔王が気がつくのは暫くの間、時間を必要とした。何故なら魔王の肉体が闇属性に浸食されている間は、その体から抜け出せなくなっていたから。だから僕は僕の中に存在していた魔王と共に死ぬ事を選んで闇属性の適性を持つ肉体を魔王に譲り渡そうとしたのだ。その結果、魔王は闇属性に耐性を持ちながらも僕と同じ体質に変化する事になる。ただ、この変化に気がついている人間は、まだ居ないと思うけどね。こうして僕は闇に汚染された人間に生まれ変わった。そして闇は僕の中から完全に消滅するのだった。そして僕は闇の力を全て自分の物にする事に、なんとか成功した。その事に安心感を覚えたのは事実だが僕の中に存在する闇を完全消去できなかった事を悔しいと感じる部分も存在した。だけど、そんな事を悔やむのは後に回そうと決意して僕は闇の女神と向かい合う。彼女は僕の事を警戒している様子を見せていたので僕は彼女に向かって言うのだ。

「これから僕と君との戦いで決着をつけようじゃないか」と僕の言葉を聞くと彼女は「うん」と、うなづいた。

そして戦いが始まると僕は魔王が所持し、そして僕自身が受け継いだ闇属性をフル活用して彼女に襲い掛かる。そんな僕に対して彼女は闇を纏った武器を振るってくる。だが闇属性の力を扱う上で重要な事は、やはり闇への適性の高さだろう。だからこそ彼女の力では僕を殺す事も倒す事も出来なかったのだ。僕は彼女の力を打ち消しながら攻撃を繰り出す。それに対して相手は僕の攻撃に対処する事に全力を注いでいるのが分かる。そんな風に彼女が頑張っている姿を眺めていて僕の中に疑問が生じた。

それは僕の中に魔王が存在しているという事は闇を、どうにかすれば僕の肉体が闇に飲み込まれてしまいかねない。しかし今の僕ならば闇属性の力で自分の中に宿っている魔王の力を抑え込んで制御する事が出来るのではないか、という疑問を抱く。もしも闇属性を極めていけば、いずれは僕の体内に宿る闇も、どうこう出来るのではないかと考えたのだ。その事が出来た時に闇の女神と戦う事が勝利の鍵になるのかもしれない。

(闇を操る事が出来るようになってから、もう何年も経つのだけど未だに闇の全てを把握出来ていないというのが現実か。その事を思うと闇を完全に操るには途方もない時間が掛かりそうだ)と僕は考えるのであった。

僕は勇者と戦っている間に闇女神から「勇者と融合して、この世界を闇に変える」という言葉を聞かされた。僕は女神の提案に納得できないと否定してみせると女神の態度に変化が起きた。女神は自分の意見を否定されるのを嫌うので闇女神に命令を下したのだ。闇の女神が「貴様、調子に乗るんじゃねぇぞ。私に逆らえる立場だとでも思ってんのか?」と僕を睨み付けてきた。

「お前に殺されるくらいなら自分で命を絶つ」と言い放つ。すると闇の女神は不機嫌な表情になり、そこで闇女神は勇者の体を乗っ取り始める。その結果、僕は勇者に宿っていた闇の力の全てを取り込む事になった。その事について僕は「お前の望み通り、お前の中に取り込まれてやったんだ。これで僕の事を好き勝手に利用できなくなるはずだ」と僕なりの嫌味を吐き捨てるように言う。だが闇の女神の返答は僕に予想外の言葉を返した。

「ああ、確かに取り込んだな。だが私の中に吸収されても勇者が生きている以上、また、すぐに呼び戻す事が可能なんだよ。だから、そう簡単に私が消えるなんて思うんじゃねえよ、バーカ!!」その言葉に僕は「嘘をつくんじゃねぇ。お前は勇者と分離できるわけがないだろ」と言って闇の女神を挑発する。しかし彼女は余裕を見せ始めて勇者との融合を続ける。その光景を目にしながら僕自身も勇者と融合していくが闇の力を上手く扱う事が出来ずに暴走状態に陥ると意識を失った。それからどれ位の時が流れたか分からないが闇女神の声が聞こえてくる。

「ようやく闇を自分の物にして使いこなす事が出来るようになったな」と言われてしまうが「お前に言われなくても自分の物にしたわ」と答えれば相手は、それを聞いて楽しげな笑い声を上げると「私の中に入り込んだら勇者も、それなりに楽しめるようにしてやるぜ」と言ってきた。それに対して僕は「ふざけるな」と言うと彼女は僕を見下すような目で見つめると「まぁ良い。お前は私に取り込まれた勇者が死んでから、ゆっくりと可愛がってやる事にする」と言うので僕は、どうにかして脱出しようと考えるが闇の女神の力が強大過ぎて脱出する方法が思い浮かばない。そこで僕は僕が生み出した存在が闇属性に対して強い適性を示すので闇の女神を倒す為に協力しないかと、この世界にいる闇を信仰していた者達に協力を求めると僕の意見を聞き入れて集まってくれる。そのおかげもあって僕は無事に闇の女神の中から逃げ出すことに成功した。しかし僕の中にある闇の存在が邪魔をして僕の傍から離れようとはしないのである。そこで闇が「私は闇の女神の中で生まれました。ですので、どうか一緒に連れていって下さいませんでしょうか?」と言ってきたので僕は少し悩んだ末に「分かった、僕の中に入っていなさい」と伝えると闇が僕の体の中に入り込み僕と一体化し始めた。それにより、かなり弱体化してしまうが、それでも魔王と融合した時の闇に比べれば、はるかにマシだと感じていた。そして闇が「貴方のお名前を教えてください」と言うと、それを聞いていた勇者が僕に「俺が名付けた名前が有るので聞いてほしい」と言ったのだ。

その言葉に僕は戸惑う。闇が闇を生み出した存在の名前を名乗る、という行為に違和感を覚えたのだ。すると勇者は僕の名前を呼んで「君は僕にとって希望だ」と笑顔で言う。それを見た瞬間に僕は胸の中に温かさが広がるのを感じてしまった。

何故なら、この世界で勇者と呼ばれる存在に「希望」と名付けられた事に感謝している自分が居たからである。その事実に驚いてしまったのだが「君の事を信頼する、これからよろしくね」「はい。こちらこそ、よろしくお願いします。ご主人」と僕達の間で主従関係が成立する。ただ僕としては自分のことを「私」と呼ぶ方が好みだったりするのだが今さら言ってみて変えて貰っても仕方ないので我慢することにするのだった。ちなみに僕の呼び名を気にしていた他の仲間達が居るのだが僕は彼女にも名前を尋ねたところ、この世界の言葉では無い言語を口にするのである。その事を不思議に思っていると彼女は「私は闇の神に仕える騎士の一人に創られた闇を纏った剣に意思と魂が宿った精霊のようなモノ」と答えた。

その話を聞いた僕は驚き「えっ、どういう意味なんだ?」と尋ねると「私には名前というものが存在しなくてですね。一応、闇の騎士と同じような外見なので闇と呼ばれているので、そういう意味でしたら闇と呼んで頂ければ幸いにございます」と答える。

そして僕は彼女に闇を纏った剣を手渡そうとするが拒否されて「その剣は既に貴女様に忠誠を誓っておりますので、そのような物は不要に御座います。それと、その武器は私が持ち歩いても良いのですよね? 宜しいですよね」と質問される。僕が答えようとすると勇者が割込んで「それは困る。それに関しては俺が許可しよう。闇さん、そいつの事は任せたぞ」と口を挟む。それに対して僕は、なぜか苛立ちを覚えたのだ。その事から「どうして貴様の許可が欲しいんだ。貴様は私達の主ではないだろうが!!」と言い放ってしまうのだった。

僕が闇属性を完全に自分の力にしてしまった結果なのか魔王の力までも完全に掌握し切ってしまったせいなのか闇から僕に対しての愛情表現が激しくなった気がする。しかし僕自身は彼女の事を受け入れようと考えていたので問題は特にないと思っていた。そして闇を自分の力として扱おうと考えた際に僕は彼女の事を闇女神と同様に呼びたくなかった。

その為には、どう呼ぶべきか考えた結果、闇という呼び方で定着してしまいそうな気配を感じたので闇と闇の女神とを差別化させる為に闇の女神という新しい名前を与えたいと考えた。

だけど、そう簡単には名付けさせてもらえそうにもなかった。闇の女神という名前に反応するようにして、彼女の機嫌が悪くなっていくのを実感できたからだ。だからこそ闇を呼び出した上で話し合いを行い闇を味方につけた状態で話を進めていく事にした。

その結果は、どうにか納得してもらう形で決着がついたが闇から「私が本当の名前を名乗りたいと強く思う事が出来た時には教えてほしい。その名前を私に与えて欲しい」と言われてしまう。

その言葉に対して僕は「それは約束できない。だけど出来る限り努力はするつもりだよ」とだけ伝えた。僕自身としては魔王という特別な存在に成り果てて闇を宿す事になっても、その闇が自分よりも強大な力を持っているという事を認めるのが嫌だったので「僕に何かあれば、この闇を好きに使ってくれて構わないよ。でも僕が死んだ後で、こいつが暴れたら面倒な事になるだろうから封印するなり何なりと手を打っておいてくれ」と言っておいた。

闇が自分の事を使ってくれと頼み込んでくる。僕は彼女が闇を作り出した存在であるがゆえに彼女が闇の全てを把握する事が出来ないのかと聞く。

「そのとおりでございます。闇を生み出して支配する事が出来たとしても闇自身が闇を完全に把握する事が出来なければ、この世界に混乱をもたらす可能性がありますので、そういった状況にならぬように闇に指示を与えて制御する必要があると思います。ですが、ご安心ください、私が闇を完全に操る術を覚えさせてみせましょう」

闇は、そんな言葉を残しつつ僕の中に戻っていく。闇に命令を出すのに必要なのは、どのような命令を与えればいいのかを考えて命令しなければならない。僕は、その考えを実行する上で闇から「私の中に入る必要が有るのは間違いありませんが闇女神に、どのように接触するべきでしょうか?」と言われる。そこで「お前の口から闇女神を呼び出せ」と言えば「わかりました。それなら闇女神は私の呼びかけに答えてくれます」と言われたので「それでいいのか?」と問いかけると闇が「私と闇女神の繋がりが強いおかげで問題無く対話できるかと思われます」と語る。その答えを聞いて闇は僕に「私の中に入り込んでから闇女神と接触した方が良いですか?」と言うので「お前に任せる」と答えると僕の体から出て行った。その事を確認すると僕の意識が薄れ始める。

闇の女神が僕の中に入ると、その人格は表に出ないと告げられたのは良いけど闇に体を支配されているので自由に動けないという欠点があった。しかも闇の力は闇女神の身体を乗っ取り続けるのは難しいと理解していながらも勇者が僕の体に入ってきた影響で僕の意識を保とうとするが僕の心の中で闇の女神が「私の力を取り込んだ勇者を殺して私の物にしてしまえば良い」と言ってきたので僕は迷わず「その意見を採用させて貰う」と呟く。しかし、その会話の流れに勇者の肉体を手に入れた闇が「私が貴方の肉体を支配するのは不可能でしょう。闇女神の力で私は生まれたのだから。ですので闇女神の支配が解かれるのを待つしか方法はないかと」と語り始めた。

その言葉を聞いた僕は、どうしたものかと考えると闇が「私が、貴方の代わりに、あの魔王とやらを殺せば万事解決じゃないのかな?」と言うので「それも有りだとは思いますけど、それならば僕も貴方も死ぬ事になるのではないでしょうか」と答えられてしまうと僕が勇者を殺す訳には行かない。僕が魔王を殺した場合のメリットも大きいのだが勇者を生かしておいても良い事があるのだと判断した。

「お前が僕から与えられた名前を使いたがらない気持ちは良く分かる。お前を生み出した存在に、その名を与えられる事は屈辱なのかもしれないな」僕が語り掛けると闇は少し戸惑う様子を見せたが僕の言葉に対して同意を示した。そこで「なら闇という名前を、この世界の言葉で呼んでも、それは変わらないんじゃないかな? だって元々は闇の女神に創り出された存在なのだから」と言う。すると闇は「それでも私は、あの女神に名を付けられるのは許せない」と話す。なので僕は少しの間考えるが闇の名前を思いつかない。すると、それに気付いた闇が「もう闇と呼ぶ事を止めてください」と訴えるのだった。

「分かりました。闇を僕達の仲間にする為に、どうすれば貴方の名前を教えてくれるのか、それを聞かせて下さい。それによって闇に名前を与えるので」僕は闇に伝えると彼女は僕が闇に「君の名前は、こうするんだ」と告げるので、それに素直に従うと彼女は闇の中から消え失せるのだった。

闇に僕達の目的を話し終えた後で、これからの事を考えると僕達は勇者と戦わなければならないが僕一人で戦った場合は確実に負けてしまう可能性が高いと感じていた。だが勇者の実力が高いので魔王の力を持つ勇者と戦うと僕は間違いなく死んでしまうのだ。そうなる前に僕は魔王である事を明かしておくべきかと悩む。そして、その事について相談すると勇者に話してみても良いと言うので僕は、そうする。

すると勇者は驚いた表情を見せるが、その事を受け入れたらしく僕に魔王に勝てるだけの力を手に入れる方法を尋ねると「まず、あなたの中の闇を全て使いこなさなければいけないので一朝一夕には出来ないと思う。そして闇の能力を使う度に精神力を失うことになる。その状態で他の能力を使えば、いずれ死に至る。ただ闇を上手く扱えるようになった時の為に魔王が、どういった方法で勇者が、どういった風に闇を扱っていたのかを教えよう」と答えた。

僕は彼の話を聞く。「闇は闇の中に居る時に記憶を見ている。その知識を、どのように生かすかも闇の意思で決めていけるんだ。闇は、あらゆる闇を生み出す。そしてその力で敵を喰らいながら成長して行く。その過程で自分の敵と決めた相手から闇を奪い取る」僕は、その話を聞き終えてから彼に尋ねる。

「じゃあ闇の女神の事も、よく知っているはずだよね。闇の女神に闇を奪われた人は闇の女神の支配下に置かれる事になるって、そうだったんだね」僕は、そう口にするが彼は、その言葉を肯定する事はなかった。僕は、そんな彼を見ながら思う。

勇者と別れる前に「闇属性を扱う時のコツを、お主に伝授しておこうか」と彼が僕に言うので「闇を操るコツなんて教えてくれても、その技術を完璧に扱えない僕には無理じゃないか」と言うと「大丈夫だ。その方法を知ってさえいれば、どんな奴であろうと闇に対抗できる力を得られる。ただし闇属性を扱う為には、それ相応の努力が必要になるぞ」

僕は、それを聞かされると「努力は得意なので、そちらの方で頑張らせてもらうよ」と言い返すと勇者と握手を交わすのであった。その後で闇は僕の方を見ると「勇者を始末しますか?」と言ってきたが、その質問に答えずに闇に頼らなければ、この先、生きていく事が不可能なのだからと答える。それから、しばらくして僕はリリスと話をしてリリスの肉体と、リリスの記憶を奪う為にリリスの元へ訪れる。そのリリスに僕は「勇者を殺すつもりだけど協力してくれるかい?」と話しかけた。

「私としても、あいつを野放しには、したくないので殺す事に異論は無いわ」と返事をして来たので僕は「それなら、これからは僕の手足になって動いてもらうから」と告げた後に彼女に「君は魔王になった事に関して、その事で悩んだりする?」と尋ねてみると彼女は「別に悩まないし、むしろ私は、あなたに復讐出来る事が嬉しく思っている」と返される。その返答を受けて僕は、やっぱり、こいつ怖いと思いつつ、どうにか勇者を倒す事だけに集中する。

そして勇者を仕留める事に成功する。その際の戦いで僕は勇者の技を完全に見切って勝利した。勇者は僕に対して恨みの目を向けてくるが僕は無視をする。だけど僕の意識の中で闇が語り掛けて来る。「勇者に殺される可能性を考えて行動しないといけませんよ」その声は闇から聞こえる声で間違いなかった。闇は、そうやって僕の意識を混乱させようとしていた。

僕は勇者の死体を見るが、やはり僕の闇が死体に染み込んでいるのを感じる。僕も闇に意識を支配された結果なのか分からないが、この死体を欲しいと感じる。

僕は、この世界に闇を生み出させる為に闇の女神を蘇らせて闇の力を取り込んでしまう必要性が有ると実感させられた。

闇は闇を支配出来ないと言うのが彼女の口癖だった。確かに闇の中にいる時は闇の人格に支配されると言う弱点が有るのだが、それ以外で闇を制御出来なくなるのは、かなり不味い事になるのでは、と考えたが僕の意識を乗っ取った闇の人格が「闇が暴走しないように私が操ります」と言うので「任せたよ」と言って、その場を去って行く。僕は自分が闇から完全に切り離されない為の方法を考えていた。それは勇者を殺してしまい、そのまま僕の体に戻ってきた際に僕の体が壊れてしまう可能性があるので僕は、このまま魔王の肉体を手に入れ続ける事を選択するのだった。

僕と勇者の戦いは終わりを迎えるが、勇者を殺した後は僕と魔王が戦わなければならない状況になってしまった。だが、ここで僕が死んだ場合には僕の中に取り込まれた闇女神が僕が闇に侵食されている間に意識を奪って、また僕に憑依するつもりなのだろうかと考えながらも、どうにかしなければ駄目だと思い勇者との話を終えた僕は魔王城に戻ってから闇の人格を呼び出すと、その事を告げた。

「貴方を殺さずに私の支配下に置く方法が、やっと分かりました。ですが勇者は、この世界で重要な人物の一人なのですよ」闇の人格は、それを聞いて「それは残念だね。私は貴方と違って貴方に殺されないように注意を払う必要が無くなるし貴方に迷惑をかける事もないけどね」と答えられた。僕は、それを言われたので何も反論できなかった。

僕は魔王城の会議室で話し合いを行うと、そこで勇者が闇によって命を落とせば魔王の力を得る事になるという説明を受ける。そこで闇が僕に、どうしたら良いのか意見を求めると「今すぐ闇に、お前を吸収させてしまえば良いんじゃねぇか? そうすれば闇は勇者の体を使えるんだからよ」と悪魔が、とんでもない発言をする。それに対して闇も賛同したので「私は勇者が死ねば闇も死にます。なので貴方達には協力してもらいたい」と頼まれる。

僕は魔王として、この世界の人々に魔王の存在を知らせる事にしたのだが、勇者を殺す為に、こちらの世界に戻ってくる魔王がいると知れたら世界は混乱してしまうかもしれないと思った。その為に「魔王の存在は秘密にしようと思うんだけど、どうかな」と尋ねると皆も賛成してくれたので、それを了承する。

「それと闇は、あの魔王を倒したら僕の中から出て行って貰うよ。それでいいかな?」と言うと闇も「分かりました。あの勇者が居なくなってくれるのならば私としては満足しています。なので、もしも魔王の存在が公になると面倒な事態になると思うので魔王の事を秘密にしておくと言う考えに賛成します。なので勇者の抹殺に協力して欲しいのです」と答えてきたので僕は彼女に従う事に決めた。勇者の抹殺が無事に成功して、その後で魔王の存在を公にすれば良い。それに勇者を始末出来たなら、それだけでも、それなりの報酬にはなりそうな気がすると僕は考えた。そして、そんな話が終わると会議を終えるのだった。

それから、しばらくの間は平穏に時間が流れる。その間に、僕は、これからどうしようかと考えるが、まず勇者を、どう始末するか考える。そして僕は一つの手段を思いつく。

「勇者を殺す為に、僕が闇の中から外に出られないと知った上で勇者を呼び出してほしい。そこで勇者を殺す為に僕から闇の一部を切り離して欲しいんだ」僕の言葉に彼女は驚く。僕は、それが普通の反応だとは思いながら勇者を殺す為に自分の体の中に入っている魔王の部分を切り離す事は必要な行為であり。

その状態で闇に勇者を殺して貰ったら魔王の力が自分に戻らないと困る。だからこそ僕は魔王に闇を自分の体から分離する能力が有る事を魔王の僕に確認したのであった。「そうですか、貴方は魔王でありながら魔王としての自分の立場を守ろうとするのですね」彼女が僕を見つめてそう言うと、しばらく僕を睨むように観察した後に言う。「魔王を魔王の肉体に宿して殺しても良いんですね?」と僕に尋ねた。

その質問には、どんな意図が有っての発言なのかが分からなかったので、すぐに「もちろんだよ」と答えると魔王は勇者を呼び出すと僕の中の闇を勇者に渡すので勇者が死ぬ瞬間には闇は完全に魔王の肉体から離れて行くので、その後は魔王は魔王の力を取り戻せるはずだと告げると勇者の抹殺を実行に移してくれる。

そして僕の中にある勇者を倒そうとする感情を勇者に流し込むので、それによって勇者の精神は闇に支配されてしまう。勇者は闇に取り憑かれて自我を失うと、そこからは闇に全てを食い尽くされるだけだった。そして勇者は死んでいったので僕は、その様子を見守る。これで、この世界に勇者の脅威は無くなったはず。

僕は自分の中に闇の女神の魂が存在する状態のままで勇者を殺す為に行動を開始する事に決める。まず最初に行うのは、勇者の体内に存在する闇の女神の意識を、そのまま僕の身体へと取り込み同化させていく事である。勇者を僕の肉体を使って殺してしまった後で闇に肉体を支配されてしまう可能性を恐れて、そうしようと考えたのである。それを実行する為には、どうしても僕の肉体を魔王城から離れた場所に移動させる事が必要だったので、僕は闇に頼み込んで魔王の僕が住んでいる城を遠くの場所に移動する許可を頂くと移動して、その場所で闇と話をする事にする。

その前に僕は勇者を魔王の力で消滅させた後に、闇から魔王の僕の中に入るのは構わないと承諾を得ていた。ただし僕が完全に意識を奪われないように闇の魔力の侵食を防ぐ方法は用意しなければならない。僕が勇者を殺した直後に僕の中に入り込んできたのだから僕と闇の女神の意識を同時に存在させている事も可能では有るが。そのやり方を行うのは難しいらしい。その話を僕にして闇が「意識を完全に乗っ取られない為の方法を教えておくね」と言って来た。それは魔王の肉体と精神は別の物と割り切る事であった。

僕は「それでは魔王を取り込んだ場合、魔王の意思や記憶を持った僕が存在し続けてしまうのでは」と思い。その方法を行うのを躊躇ってしまう。その話をした闇に対して僕は疑問をぶつける「闇さんは、この世界を侵略して何を望んでいるの?」と言うと闇が答えた「私の目的は、この世界の人間を全て支配して完全なる管理社会を創り上げて全ての人々を幸せにするのが目的。ただ、その過程で邪魔な存在を抹消したりもするが」その話を聞いた僕は、その考え方を理解すると。「そうやって人間は堕落していくのだな。この世界を管理しても結局は同じ結末にしか辿り着かないよ」と僕が告げた。

僕の話を聞いて「貴方が何を言っているのか分からない」と闇の人格が言ってきた。その返答に対して僕は「闇が行おうとしている支配も支配も全ては人間が自分自身で生み出したものだ。それを神になったつもりでいる貴方が支配している。それは人間の愚かさを証明してしまうだけの結果しか生み出さないだろう。それに魔王が貴方の行いを止めるのは、きっと貴方の支配に抗おうとする人々の力の結集によって生まれる力こそが。新たな支配を生み出す事になると考えているからだよ」と僕は言う。

闇の女神は黙ってしまったので、僕は闇の人格に尋ねる「僕は君の望み通りに動くが、その代わりに魔王としての権限が僕に与えられるのなら僕の意識は消えずに残るよね」と言うと「それは保証できません」と言われた。だが、その言葉とは裏腹に魔王に権限を与えるという発言を聞いて闇が「もし私が勇者に殺される事になったら私の魔王としての権利は貴方に譲ります。私としても、このまま貴方の中で眠りにつく訳にはいきませんし」と答えた。僕達は、そうやって話し合った末に闇と僕の人格を分離させる準備を整える。そして僕は闇の中に存在している魔王の一部分を吸収して自分の肉体と混ぜ合わせた。それにより闇は、そのまま魔王に吸収される事になるが魔王の僕には魔王の力が残り、僕の肉体にも魔王の肉体の感覚は残った。僕は闇が居なくなると、すぐに勇者に魔王の力を渡す為に行動を開始した。そして僕が魔王の力を使いこなし勇者を殺せた後に僕は勇者の死体を見る。僕は自分の体に闇が、どの程度まで浸食されているのかを確認しようと闇を体に受け入れる為の扉を開いた。そのせいで魔王の僕と魔王の体は一体化して闇と完全に融合をする結果となる。その事により僕の体から闇は完全に離れると闇女神も消えるので僕の体を、その闇で侵食される事も無く。勇者に、とどめを差した時に勇者の体が消滅するのと同時に消滅した事で魔王の存在と闇の存在も消滅した。つまり僕達が魔王城に残されても、そこで生きていくのが大変になってしまった事だけは間違いなかった。

そこで僕が思いついた事は魔王を他の世界に飛ばすと言う考えだった。そこで僕は魔王を勇者を殺す為に利用して殺してしまい魔王の存在ごと消す事にした事を悔やんでいた。そして今さら考えても遅いが「魔王を殺してしまった事が本当に正しい行為だったのだろうか」という後悔が頭を離れないので「僕は勇者を倒す為に最善の手段を選んで、そう動いた。だけど結果は最悪な状況を生み出した。どうして勇者は僕に、そこまで固執するのかは、わからないけれど、もしかしたら闇も勇者にとっては重要な存在だったかもしれない。だからこそ闇は闇として復活を果たすために僕を利用しようとして、あの行動をとったのかもしれない。そう考える事もできるかもしれない。いや。もしかしたら、そういう可能性もあるかもしれないと僕は考えた」と考えを口に出してみた。すると僕の傍で魔王城の魔王の椅子に座っていた僕の本体も「そうなのかもしれねぇな」と同意してくれた。その声が聞こえていたリリスも「そうですよ。きっと闇も勇者もお互いの存在を理解し合えていないから、あんな結果を生み出しているのではないでしょうか?」と言った。

僕達は、これから魔王が、どうやって生きていこうかと話し合う事にしたが。魔王は「オレが生きていると面倒が起きるだろ? 魔王の存在が公になるような事が起きれば世界が混乱に陥るのが、ほぼ間違いねえだろ」と言うと。「そうだね。僕達としては勇者を殺しただけで魔王が殺された訳ではないから。だから僕は魔王が健在である事を公にするつもりは無かった」と言い。

そして僕は勇者を倒せば僕の中に残っている闇を、どうにか出来ると考えて魔王を殺す手段を実行した。その結果として魔王を、この世から抹殺する事には成功したが魔王を消滅させてしまう事に繋がり。魔王の力を僕が使えるので結果的に僕は魔王の肉体と精神を持ってしまう結果になり。僕は自分が何者なのか分からなくなった。僕は、これから自分はどうすれば良いのだろうと悩んでいると魔王が僕に向かって話しかけてきた。「とりあえず魔王は勇者を倒して世界を平和にしてくれて感謝するぜ。これで魔王が生きていたら魔王が、まだ存在してるって思わせてしまう事になるし、それが世間に伝わるのは問題だと思ったからよぉ。これで良かったと思うぞ」と言う。僕は確かに自分の肉体に、この世界の人間とは全く別の存在が入り込んでいる事を自覚した。

僕の中の意識が、そのまま魔王になっている事を知った上で僕は、それを受け入れた上で魔王は勇者を殺して世界を救いたかったと言っていた。そう言った意味で僕は、そんな風に考える事が出来なくなってしまった。だから「もう魔王を、こき使う事は出来ないんだね」と口にした瞬間に僕の中に存在する闇の女神の魂の欠片が言う。

『それは違います。貴方は闇の力を扱えるのです。だから貴方には、その力を使った世界を救う仕事を任せる事にしましょう』その言葉で闇は僕を魔王に仕立て上げるつもりなのだと僕は理解をした。魔王の力を手に入れているので闇は、それを使って世界を支配する事を考えるのは当然の流れだろう。その事実を受け入れながらも僕は、この肉体の持ち主である魔王の意思を尊重する為に、このまま闇に従う事にした。そして、もしも自分の中に存在する闇を消せるとしたならば、この魔王の肉体を使って勇者を殺すしかないと考えた。だが、そう考えていた僕の心を見透かすように「貴方は私の事を忘れていますね」と闇は言って僕の意識に入り込んできた。僕は闇を自分の中に受け入れると僕の身体は意識を失って倒れる事になる。

僕の中に入ってきた闇は僕の記憶を見て僕の過去を知っている事を知り「なるほど、貴方の過去に有った事件と今の魔王が関係していると知ったら私は、どうするでしょう?」と言うので僕は「闇は、どうしたいと考えている?」と言うと。闇は「貴方と魔王さんの間に有った問題は私が何とかしますよ。ですから貴方達は勇者と戦う時が来ましたら、よろしくお願い致します」と言って消えた。

それから僕達の方は、どうするかという話をしていた。僕の中にある闇が魔王の存在を表に出してしまった為に、僕は闇の人格が魔王の身体から追い出されても闇と融合している状態に変わっていた。その状態で勇者と戦って勝てるのかという不安は、あったが魔王の身体の性能は凄く良くなっている上に闇に頼めば魔王の力を借りた状態で僕と融合してくれるらしい。僕は魔王と一つになって闇の力で強化された僕が勇者を殺せないと、その時に負けが確定するので僕が強くならなければ、と強く思うようになる。

そして僕達が話をしている時に突然「お前達か、オレの魔王を始末したのは?」と言う男性の声が響き渡った。それは聞き覚えのある声で僕は、すぐに誰が現れたのか察する。僕が闇の中から外に出て来て「その前に質問をさせて欲しい。もしかして貴方は、あの世界の、あそこに住んでいた人ですか?」と質問をする。それに対して男性が答えてくれた「そうだよ。俺の名は勇者だ。お前達に恨みは無いが死んでもらうよ」と、それだけ告げるので僕は勇者に、そのまま襲い掛かられた。僕は、その攻撃を防ぐ為に魔王の力を行使すると勇者の動きが止まった。

そして僕は、その隙を逃さずに剣を抜くと勇者の腹部に一撃を加えると勇者は吹き飛んで行く。僕は闇の中で魔王と会話を行いながら戦う準備を整えると、まずは僕の力だけで勇者を相手にできるのかどうかを確認するために、そのまま戦っていると勇者は「魔王の力は、ここまで強かったのか」と呟いていたが。僕の魔王としての力を使うと動きは止められるのだが、勇者も必死の形相で、なんとか攻撃を繰り出してくるが、やはり闇属性の魔法を使用するのは難しく。その力の発動には時間がかかった。僕は闇の人格に意識を奪われて魔王の意識を失った。

勇者の攻撃を喰らってしまった僕の体は地面に倒れ込んでしまい、そこに僕と融合した状態の闇が現れて「大丈夫か?」と聞いてくる。だが、そんな言葉を聞いている暇など無い。僕は、どうにか立ち上がり「闇は、そこで大人しくしていてくれ」と言うと「任せておけ」という言葉と共に僕の体が闇に浸食されていく。その浸食が終わった時には僕の肉体は変化して完全に闇と同化していた。

勇者の肉体と一体化をしてしまうと僕の肉体は、ほとんど魔王に支配されてしまい魔王と完全に融合をする。その為に僕は魔王の人格と融合を行う事になると勇者の攻撃を全て防ぎ切るだけの力が僕の中に存在した。僕は闇の中に存在する全ての闇を取り込むと魔王を取り込み終わった闇を魔王の中に押し込んだ。その結果として僕の魔王としての力と、あの世界で存在していた勇者の力は完全に消滅した。そして僕は魔王の身体で、その力で勇者に襲いかかると勇者も、こちらの力を完全に見切れなかったようで簡単に殺せた。そして勇者を殺した事で、そのまま僕は闇を体から追い出した。僕は勇者を殺せたのは良いのだけれど闇女神の欠片が言っていた、勇者を倒す為の方法は、ここで使えなくなる。闇女神が闇に干渉して勇者に勝たせたと言う話なので勇者に勝ち続ける事さえできれば闇女神を殺せるのではないかと考えていたが、もう僕の中には、そんな方法は存在しない。

勇者を、殺した僕はリリスと一緒に、あの世界に戻ってみると、そこで待っていたのは勇者と魔王の戦いを見物していた人達が勇者が死んだ事を喜んで歓声を上げていた事だ。その光景を見ながら僕は、この世界に戻れば、また別の勇者が現れる可能性が高いと思ったので勇者を殺せば全てが終わると言う単純な物では無いのだと実感した。だからこそ闇も、もっと慎重に行動していれば、こんな事にはなっていなかったのではと思えてならなかった。そう考えていると、そこでリリスが僕の手を握り締めてきて、こう言う「今は勇者を倒した事を喜びましょう。私達は勇者に、ずっと、この世界に縛られていたのですよ。それが、ようやく開放されるのだと思うだけで私は、嬉しさが、こみ上げてきます」と言ったのだけど、その通りだと思った。そして、しばらくすると勇者が殺された事を悲観した魔王軍が反乱を起こし始めた。

だが反乱が起こったと言っても魔王軍の中にいた闇を取り込んだ人間は一人だけであり。それ以外は普通の人間だった。だから、その一人の魔王軍の人間が反乱を起こしたところで反乱軍と呼べる規模ではなかったのは当然の事である。しかも勇者を、あっさりと倒した、僕やリリスの力を知る魔王軍と、その配下の人間の全てが恐怖に震え上がった状態で戦いを挑む者は誰もいなかったので。僕は魔王軍を全滅させる為に動き出す。

「さあ、これから楽しい復讐の時間だよ。僕は僕を虐めた者達を絶対に許すつもりは無い」と笑顔を浮かべた後に「とりあえず、あの国を滅ぼす事にするよ」と言い放ち僕は、その言葉を合図にして暴れ回り。魔王軍の全てを皆殺しにした。そして僕は魔王を消滅させた勇者の剣を手に入れたが。これは闇を消し去る事が出来る可能性を持っている武器だと思い、それを使用して僕の中に存在する闇を殺そうと思った。しかし僕の考えを読んだ闇は「残念だが無理だぜ」と言うのである。

その声は僕が宿にしている家の寝室の方から聞こえてきたので僕は家に戻ったが。そこには僕の妻であるアリサがいたのである。その姿を見て僕は驚き「どうして、ここに居るんだ?」と疑問を口にするが、その理由は「旦那様に会いたかったからよ」と口にしたのだけど。その言い方が何か変に思える。だが僕の妻は僕の事を嫌っていたはずだが。今の僕の目の前にいる彼女は、なぜか好意を向けてくれているように見えたのである。それだけではなく僕を見る目が熱を帯びているように感じられて仕方がなかった。

僕の目の前に立っている女性の名前はアセリアと言って僕の妻のはずなのだが。何故か、その態度は僕を異性として好いているように感じられるのであった。その彼女の方から僕に対して近寄ってくるとキスをしようとしてきた。そんな彼女を止める為に、とっさに僕は魔王の力を行使すると魔王の魔力によって強制的に引き剥がれたので「貴方と離れるのは嫌だわ」と言われたけど僕は「今すぐに出て行け」と告げると素直に従う。それから僕の身体を操っている人格が現れたのか「魔王を消した勇者の剣は闇に対する対抗手段として有効な物です。しかし勇者の持つ闇の女神の力に対抗するには相性が悪いかもしれませんね。それでも闇を殺すという目的は、まだ諦めない方が良いでしょう。それに勇者も、このまま放置しておくのは危険でしょうね。このまま行けば、いずれ他の勇者も現れてしまうかもしれないので対策を立てなくてはいけませんよ」と助言された。

そして勇者と戦う手段を考えた時、どうしても闇の存在が気になるのだが、それは闇自身が「私が貴方に協力している以上は他の闇が勇者に協力する事は有り得無いですね。そもそも貴方以外の人間と融合した闇は私が取り除いたのは事実ですから。後は、どうやって闇を退治するかを考えないとダメなのですよね」と言われて僕は「闇を倒すのは僕には不可能なんでしょうか?」と尋ねると「可能か不可能かで言えば、可能ですよ。ただし勇者と同じように闇の力を体内に取り入れる事が条件になりますが」と答えた。つまり勇者のように魔王の力を手に入れて戦う必要があるわけだ。

それから僕が、その勇者との戦いに勝利する事を考える前に僕は魔王を倒した勇者を殺して奪った剣を闇に向かって差し出したが、その剣は僕には扱えなかったようで、すぐに闇の人格に取り込まれる事になった。僕は、どうすれば魔王が、この世から消滅するのだろうかと考えるが、それを解決するには、まず魔王が闇の女神に取り付かれている状況を改善しなければ話が進まないのではないのか?と結論が出た。その問題を解決するために勇者の闇を僕の身体に移す必要があると思うのだが。そう考える僕を見て「その考えも間違っていない。だがな、お前さんの体の中には既に俺が存在するんだ。それで勇者の闇を消すとなると、かなり難しい問題が起こる。その前に俺はお前さんに話しておかなければいけない事がある」と話し出すので僕は黙って彼の話を聞いた。それは魔王の肉体の件について説明してくれたのだ。彼は魔王の力を受け入れたのだけど。魔王の力を受け入れすぎた為に魔王の肉体の全てを飲み込んでしまって彼自身の人格まで消滅させてしまっていたそうだ。だからこそ、いくら勇者の力を取り込んで勇者に近づいたとしても、それは魔王の力でしかない。勇者本人とは程遠い存在でしかないので勇者の力だけを手に入れる為には肉体が耐えきれない可能性がある。なので別の方法で闇をどうにかしなければ闇を倒す事も出来ないと、そんな事を言われてしまったので僕は勇者を確実に殺さなければならないと思った。その為には、あの世界に居た時の経験を思い出してみると闇を宿した相手との戦闘を、なんとか潜り抜けていた気がするので、その時の経験を思い出す。その中で、ふと「もしかすると勇者を暗殺するのは簡単なんじゃあないか」と、そんな思いを抱いた僕は「やってみるか」と思い立ち、勇者が、どこにいるのかを調べる為に情報収集を始める事に決めた。

勇者の情報は意外と簡単に集まった。その情報源となった人物は魔王の部下であった男だ。その男は僕の事を恨んでいる様子で「あんたが殺した勇者のせいで魔王様に殺されかけたので、そっちに責任を追及したいのだが」と言われたので僕は、その男の口を封じようとしたのだけど、そうしようとした瞬間に「まて」と僕の口を借りて魔王が喋り始める。「その情報は本当なのか?」と聞き返すと「ああ、そうだ。俺の知っている情報に嘘はないぞ」と答えられたので僕は魔王に質問をする「なら勇者は、どこに住んでいて、どんな仕事をしているのか教えて欲しいのですが?」と魔王に問いかけたのだけど「そんな事が、わかれば苦労はしない」と答える。「勇者の住居は魔王城から離れた場所にありました。その場所で生活をしていて普段は冒険者として依頼を引き受けながら生活しているようですよ」と情報提供者とは別の人物から答えを貰うが。その声を聞いた事で僕達は、その人間が誰なのかが直ぐにわかった。魔王軍の中で唯一生き残り、そして僕に殺された魔王の右腕の男だ。その名前はグルードと言う。そのグルードが、いつの間にか僕の目の前に出現して情報を語っていたのだ。

そのグルードは「魔王陛下、貴方を死に追いやった人間を殺しましょう」と笑顔を浮かべていたが。魔王が僕を指差して「こいつは、ただの人族であって人間では無いんだ。それに魔王の力を持っただけの、この世界の人間だ。勇者の事を始末するのは簡単では無い。魔王を取り込んだ勇者と対峙できるのは、この世界に存在する魔王の中でも最強と呼ばれる力を持つ奴のみだからな」と話すと、そこで僕が口を開いた「僕と、まともに戦えるのが闇の女神と、もう一体存在する魔王しかいないのであれば僕が戦いましょう。そうするしか方法がないのであれば僕が戦う事にします」と言う。それを聞いて僕の中から魔王は出てくる「俺が表に出て勇者を殺すのは簡単だが。そうなると勇者が、この世界から姿を消す事になる。そうなったら他の闇が勇者に憑依するだろうから。魔王の器を持っている勇者と闇は、どうしても共存する事ができないから殺す必要がある」と話した。

そして、その後で魔王は自分の部下を全員殺してから、この場にやって来たらしく、もう誰も生き残っていないので魔王が僕の中に戻ってきても何も問題が無いと魔王は僕に伝えてから僕の中に戻ってくるのだった。その会話を聞き終えてから僕も、また自分の意識を取り戻す。僕は自分の妻や息子と娘達に事情を説明して協力を仰いだのだが。その話を理解できていない家族達が僕に対して文句を言うのは仕方がなかったのである。それでも僕の力だけで勇者を、どうにかしなければならない事を伝えた後では納得をしてくれているのが幸いだったが。勇者を殺すという目標を果たす為に必要な道具を作るために僕一人では、なかなか手が出せない。なので協力者を集める必要が出て来て僕は、それから数日間をかけて様々な場所に足を運びながら仲間を探す日々が続くのだった。

勇者の討伐は一筋縄でいかない。それは最初から分かっていた事ではあるのだが。それでも僕は魔王の力を手に入れたので闇を滅ぼす為に行動を開始する事にした。その行動をする上で僕は、まず勇者が、どのくらいの強さになっているのかを確認しないといけないと考えた。そして僕が、かつて住んでいた国の近くに存在するダンジョンに行くことにした。そこは難易度が非常に高いので有名な場所ではあったのだが。僕一人の力では勇者を殺すどころか足止めをする事も無理だと思えるのだけど。僕の隣には、僕の妻の一人であるサラがいた。彼女は光属性魔法を使う事ができ、闇に対する攻撃手段を持っていた。しかし、それは普通の闇に対して有効なのであり。勇者のような闇の力が混ざり合った人間には効果が薄いらしい。しかも僕の妻の中では一番弱い人間なので戦闘要員としては全く使えない存在でもある。しかし彼女の能力を利用して勇者を倒す方法が一つだけ有るらしい。その方法は僕に勇者と戦う為に魔王の魔力を与えて闇の耐性を得る方法である。

その説明を受けて僕は「そんな方法で本当に勇者を倒せるのか?」と尋ねると魔王が僕に向かって話を始めた。「勇者の力を取り込む事が出来るんだ。魔王の力を得た状態で戦えば勇者を倒す事は可能だ」と断言していたので僕は、とりあえず妻のサラと二人で旅をして勇者に関する情報を集めた結果、勇者と思しき人物を一人見つけたので戦いを挑むことにすると。あっさりとその人物から了承を得ることができたので早速、殺しに向かうとしようと思う。勇者との戦いには魔王と闇の女神がいる方が何かと便利で良い。それを考慮すると、やはり闇の女神には、どこかに隠れていてもらう必要がありそうだったので魔王には僕と勇者との戦いを見届けるように頼んでおいた。僕としては魔王の気配がある方が心強いからだ。

そして僕と、勇者との戦いは始まるのだけど。その前に僕は、その戦いを行う前に魔王の力を使って、この国の国王に会いに行った。

魔王の力を行使する事は危険行為になるのは間違いないが、その危険を犯してでも僕は、どうしても、その力を、行使する必要があったのだ。その理由を僕自身、はっきりと説明することは出来ないのだけど。それは、きっと心の何処かで勇者を殺したいと思っているのかもしれない。勇者は魔王を殺した存在なので恨みを抱く相手だと言える。そんな相手が近くに居るのに何もしないで見守るだけでは、あまりにも無様だ。なので僕は勇者と接触する前に、その前に勇者と会う約束を取り付けておく。その際に、どうして僕を、そこまで憎んでいる勇者を見逃してくれるような発言をしてくれたのか?と僕は疑問を口にすると。勇者が言うには、そんな風に思ったのではなく。単に貴方の行動に興味があった。だから貴方と会いたいと、そのような事を言われた。その勇者との面会の為に僕は、この国から遠く離れた場所まで行くことになったが。その場所に向かう途中にも魔族の集団に襲われて僕は、そこで死ぬ運命を辿る事になるのだけどね。ただ運が良い事に、そこに僕の仲間になってくれる人物が現れることになる。その人物とは闇女神だった。彼女が現れてくれたおかげで助かったわけだ。

「それで勇者とは、どのような人物なのですか?」

「見た目は、そこらの村にいる若者で普通に見えるが、あの男が纏っている空気が普通では無いので分かる」

「それはどういう意味ですか?」

「それは俺にも分からん。ただ勇者と呼ばれる男は、あの勇者の肉体の中に闇の女神が入り込んでしまっている」

「それは本当なのですか?」

「残念だが本当の話だ。あの男の身体の中に存在する闇は本物だし、あれが、もし人間に宿ってしまった場合には確実に人間を殺し始める」

「そうなってしまう可能性が高くて、それを止められる人物が居ない為に魔王に頼む以外に無かったと、そんなところですね」と僕は話すと魔王が僕を見て言った。「その通りなんだが俺は、あいつが気に入っているからな。できれば殺すより生かしておきたいと思ってしまったんだよ」と言いながら笑みを見せる魔王に対して僕は溜息をつくしかなかった。そんな僕と魔王の様子を見ていたサラが「魔王さんは、その人が好きみたいだよね。そんな人が私と同じ人間って事が少し不思議かな」と言ったので魔王は「俺から見れば貴女の方が不思議ですよ。こんな場所に来られる人間が存在しているのは奇跡みたいな物なのに貴方からは強者のオーラを感じる事ができないのですよ」と言ってきたので僕の娘の一人が魔王を睨んでいた。どうやら彼女が怒りを感じた事で周囲にいる人達が感じていた圧力が無くなるので僕の周囲の人は安心をした様子を見せているのだけど。ただ魔王の方は僕の方を見ながら苦笑いをしていた。おそらく魔王の事を、この世界の生き物ではないと判断したようだ。それについては僕も同意するしかなく。何よりも僕は、この存在を神界に返さないといけない。それが今の僕が、この場所に存在する理由だからな。そんな事を考えていた時に勇者が僕の前に現れたので勇者に僕も挨拶をする。僕は自分が元の世界に戻る為には魔王と魔王の力を吸収した人間の両方を殺すしかないと考えていたので勇者と戦う事にしたのだ。

「はじめまして勇者君。私は、この世界を管理している神です」と自己紹介をすると勇者が僕に向かって「へぇ、お前が、この世界の神だって、ふざけんじゃねえよ」と話してくる。それに対して僕も答えた。

「別に冗談のつもりで言っているわけではないのですよ。事実です。貴方は私に殺されるしか無いんですよ。大人しく殺されなさい」と、こちらが勇者の力量を把握しきれていないので、いきなり勇者の命を奪う事は避けて殺さないように、あくまでも説得で勇者を止めるつもりだ。だから魔王と僕の力で抑え込めなかった時には勇者を殺す覚悟で戦う事になると思う。そう考えていると勇者は僕に向かって「あんたが、どれほど凄い奴だろうと関係ない」と言う。それを聞いて僕は、この勇者は自分が置かれている立場が分かっていないなと思った。そして僕は勇者と、どのように戦うのかを考え始めた。この勇者と戦って勝算は、どの程度あるだろうかと考えようとしたところで僕の背後で闇女神の気配を感じた。僕は魔王の力と僕の力が混ざった状態で存在している勇者に勝つ為には魔王に、このまま僕の身体に居続けてもらっても良いと考えた。

魔王と闇の女神には僕の意識がある間、ずっと僕の中で待機してもらうのが一番だと、僕は判断を下すと「魔王。悪いが今回は僕の中に戻って貰う事になりそうだ。それと僕の家族は守ってくれるか?」

「それは任せてくれ」と、その返事を聞き終えた後で僕は闇属性の力を解放すると勇者との戦いを開始する。そして僕は、すぐに勇者の懐に潜り込み殴りつけると勇者が吹き飛んだ。しかし僕は勇者の拳を握り締めていたので手は離れる事は無かった。それから僕は勇者を逃がすために全力で蹴り飛ばしたのだが勇者は地面に転がっても立ち上がってきたので、やはり勇者が僕の想像している以上に強い存在だと思い知らされる。なので勇者の顔面に向かって回し蹴りを入れるが勇者は両手で防いだが勢いよく飛んでいくが。勇者の飛ばされた方向を見ると魔王が勇者の両腕を掴んで空中を移動しながら移動するので勇者は抵抗する事ができないようだった。そして僕から、ある程度離れた地点に着地すると魔王が、こう話しかけてきた。

「それで、これから勇者との戦いになるけど準備の方は、もういいのか?」

僕は、それを聞いた後に僕は「大丈夫だと思う。それに魔王の、お陰で色々と確認できたし」と口にする。魔王の力を手に入れた僕でも、まだ自分の力を完全に使いこなしているとは言えないので魔王には僕の中で休んでいる間に僕の戦いを観戦してもらい。その戦闘経験を得てほしいと考えて、そのような言葉を発したのだ。

しかし魔王の方は、それでも心配していたようで「俺に構わずに戦えば良かっただろうに。わざわざ勇者と戦う必要はあったのか?」と尋ねて来た。その質問に対して僕は勇者と戦った方が良いと答えて魔王に説明したのだが、その説明を終えた後に勇者を放置するのは危険だと、僕は思い直した。勇者の身に何かが起きた場合に対処をするのが面倒だと考えたので魔王には僕の身体の中に戻ったまま勇者と戦わせる。

しかし勇者は僕が想像していた以上の力を発揮してくれた。僕は最初に勇者を殴りつけて吹き飛ばす。しかし勇者はすぐに起き上がり反撃をしてくるが、やはり勇者の攻撃では僕の攻撃を止められないらしく。僕は、そんな勇者の様子を確認しながらも僕自身も攻撃を続けていき勇者を追い込む。すると勇者は僕から逃げようとする。僕は勇者を追いかけながら逃げる先に先回りして勇者が、どこに行くのを邪魔していく。そんな事をしていたので僕と勇者との戦いの場所は城から離れた場所で戦いを続けていた。その結果として周囲には民家などは無く完全に荒野になっている。なので遠慮なく暴れられる場所と言うのもあるが。

僕が勇者との戦いで優勢に戦えているのは魔王の力を借りられた事が大きかった。もしも勇者との戦いの最中に魔王に力を貸されて魔王の力を得た状態で戦った場合。それは勇者に勝つ事は出来たかもしれない。ただし、その場合は、その反動で僕は死ぬ可能性がある。その危険性を考えた僕は魔王に「僕が勇者を追い詰めて動きを止めた時に僕と魔王が合体技を繰り出すから、そっちに気を集中していて」と頼んだのだ。魔王の方も勇者との戦いで、どのような攻撃を仕掛ければ良いのか、どのような手段で勇者を苦しめればいいのか、考え込んでいたので、その意見を聞くことが出来てから行動に移る事が出来る。

勇者との勝負を有利に進めるには勇者と僕の身体能力の差が大きいのが問題であり。この勇者を倒すためには魔王の力が、どうしても必要になってしまうので、僕は魔王に協力を要請した。すると魔王が言う。「その作戦で行こう。まず、どうやって俺と貴様が、あいつを追い詰めていくかと言うとだな。貴様の魔法を使うのが良いだろうな」と言われて僕は首を横に振る。

「違うんだよ。魔王」と、僕は否定する「今回の戦いに関しては魔王の力は借りたくないんだ」

「どういう意味だ?」

「勇者は僕の力で倒したい」

僕は真剣な顔で魔王を見つめると魔王も僕の意見に理解を示してくれる。

「確かに勇者は俺の力で倒すよりも貴様に倒させるべきだな。それが最も正しい」

魔王も納得した様子を見せる。そんな魔王を見て僕は、どうにかして目の前に居る魔王に僕の娘達を守ってもらうように頼みたかったのだけど上手く言葉が出てこない。そんな僕に対して魔王は笑顔を見せる。まるで僕の考えを全て把握しているという表情を見せる。

「お前の事なら何でも分かるぞ。だから貴様は娘達に俺が守ると、その一言を言いたい。そう考えているはずだな」

僕は驚いた。魔王は心を読む事ができる能力まで、持っていたらしい。僕は驚きを隠せないが、それを悟られてはいけないので魔王に尋ねた。

「そうなんだけど、お前に頼むと迷惑をかけるような気がして」と言葉を詰まらせてしまうと魔王は微笑む。

「俺は貴様に命を助けて貰った恩がある。それに俺の力は俺の意思でしか発動できない。俺の配下も俺の命令以外では貴様に対して敵意を向ける事はないだろう」

「ありがとう。それじゃ、これからも僕の娘達は守ってくれるんだよな」

僕は念を押すようにして魔王に向かって問いかける。すると魔王が笑う「もちろんだ。俺は勇者との戦いが終わった後も貴様の娘達の事を気に入っているからな。だから、しっかりと守ってやるよ」

僕は、この言葉を聞いて嬉しく思ったのだけど。それと同時に疑問を感じた。魔王が、そんな風に思っていたのは意外だったので「どうして、そう思うようになったの?」と尋ねてみると魔王は笑いながら「理由は色々とあるが一番は貴様の娘達が、この世界に生きる生物とは思えないほどの力を持つ事にある。お前は、そこまで凄まじい実力を持っていないが、だからこそ。俺の知る者達の中でも、あの二人の娘の力は異常だと思える」と口にする。

その言葉を聞いて僕は納得をする。僕自身で、どうにもならないぐらいに強いのに、それでも、もっと強い力を持っている人間が、いるなんて信じられないが。そういう話があるならば、それは信じるしかないので、僕は「分かったよ」と言いながら勇者との戦いを再開させた。それから僕と勇者との戦いに決着が付いたので僕は気絶をしている勇者の首筋に剣を当てる。すると闇の女神は僕の方を見ながら言った。「これで終わりみたいね」と言って闇の女神は消えようとしたが僕は、それに「待ってくれ。少しだけ聞きた事があるから時間をくれないか?」と、そう言うが闇の女神は首を縦には振らないのだった。なので闇の女神を説得しようと僕は言葉を考えようとした。その時に僕は自分が魔王の力を得てから魔王の言葉を理解できるようになっている事に気が付いてしまった。これは非常にマズいと思ったのだが今の状況で下手な事を言えば闇の女神は、すぐにでも勇者を殺せる状態にしているし、このままの状態で僕が闇属性の魔法の力を開放させれば僕は闇属性の力によって死に至る可能性がある。それを考えると迂闊な事は言えなかったので困った末に、こんな状況になってしまったら何を言っても無駄だと思ったので素直に自分の質問をぶつける事にする。「それで何で勇者を殺す必要があったの? 別に殺しまでは必要なかったと思うけど、あれだけの事があったんだから、もう十分に罰を与えられたと思うし。殺すほどでもないと思うんだけど」と、僕は闇の女神に向けて、このような質問を行うと闇の女神の方は呆れた顔をする。そして僕に向かって「まだ分かっていないようですね」と言った。

その瞬間に僕の首元に剣が突きつけられたので僕の背筋は凍る。だが闇の女神の方は気にしていないようで。僕に向かって話しかける。「勇者には生きていても貰う必要があるのです。私達は勇者の身体の中に、どれだけ魔王の魂が溶け込んだのかを、これから確認する必要があるので勇者には生きて貰わないとダメなのです」と答えた。しかし僕の頭は真っ白になっていたので「そんな事を言われても、分からない」と言うと「そうでしょう。勇者を、これから魔王城に運びます。その途中で説明を、いたしますので今は私の後に着いて来てください」と言われたので僕は、とりあえず「分かりました」と答えて勇者を抱えながら闇属性の力を解放させると。

闇の魔法を使って移動する闇属性の力で移動する魔法を使用すると僕は魔王城の地下室に到着したのだった。そこで闇の女神は勇者の胸に手をかざすと「勇者の肉体を調べている間に貴方に伝えなければいけない事が、たくさんあります。それを伝える前に確認したいのですが、いいですか?」と聞いてきたので僕が「構わないですけど」と答えると。

「貴方には感謝しており。その、お礼に出来る事と言えば、こうやって私が勇者に触れる事ぐらいしかありませんけど」と言葉を続ける。その言葉で、やはり僕の考え通り、この人は、とても優しく良い人なのだと感じた。

なので僕は闇の女神が僕に触れてくれているという、この行為に感謝をしながら僕は「大丈夫ですよ。こうして触れていただければ、それだけで嬉しいので」と言うと、その返事を聞いた彼女は安心したような笑顔を見せてから僕の身体に触れたのであった。その手から伝わる暖かさが僕は心地良くて目を細めてしまうのであった。すると闇の女神は僕の頬に手を当てて、こちらを見つめてきた。そんな彼女の表情を見ていて僕は思わず彼女に口づけをしてしまった。すると彼女は驚くが僕を受け入れてくれる。

その行動に驚いたのは、つい先程に、この魔王城に帰ってきた僕の娘の一人でリリスの肉体に意識を奪われてしまった女性で、その肉体の主でもある少女。その容姿を見たのが数日前の事で、しかも、その姿を見たのは一瞬だけで、その後は記憶を消されていた為に覚えていないのだが、その女性が目の前に居たので僕は驚いてしまう。しかしその女性の正体が誰なのか僕は既に分かっていたが。彼女が自分の娘達を守ろうと努力した結果。

僕は魔王の力を借りて闇女神と戦っていた。その結果として僕は魔王の力を一時的に得る事が出来た。

魔王の力は強大で。その力で僕を殺そうとした相手に僕は殺されかけたが何とか生き延びて戦いを勝利に収めることが出来たのである。

そんな戦いを終えた直後に僕の元に魔王が現れた。魔王が現れるという出来事が起きた時に僕が最初に思ったのは「ついに来たのか」という言葉であり。次に考えたのが、ここで魔王を倒さなければ娘達は死ぬ可能性が高いと考えた僕は魔王と戦う事になるので、その事を娘達に報告しようと考えて娘達に、これから戦う相手は魔王だから逃げろ、と伝えたのだ。すると一人の女の子が僕に近寄ってきたので僕は、その子が僕の娘の中で最強であり。この場に残っていた最後の一人だと判断して、この子は、どんな武器を扱う事が出来るのだろうか? などと考えていた。

そんな僕の前に現れた僕の娘の中の最強の子。

それは闇の女神で、この人が魔王の娘だったのかと僕は驚いた。そして僕は、その闇の女神の手を取って僕は彼女を見つめた。そんな僕に対して魔王の娘である闇の女神は言う。

「貴方が勇者ですか? 初めまして、私は、あの男に騙されている貴方のお仲間を助けに来た者なんですが。あの男を、このまま放置していると危険な存在になる可能性が有るからこそ。私が助けに来る事になったのです」と言う闇の女神は僕の瞳を見つめてきて微笑みを見せる。

それに対して僕は言う。「確かに魔王は悪い人間じゃないんだ。ただ、この世界の人間は全員、あいつに殺されたようなものなんだ。だから、これから、あいつを止めないと大変な事が起きるんだ。それに君に頼んでも良いかな?」と言うと。闇の女神は、ゆっくりと首を縦に振るのだった。

僕は目の前に立つ闇の女神に向かって「君は僕の敵か味方かを尋ねさせて貰ってもいいかい?」と尋ねると。

彼女は首を傾げてから僕に向かって笑顔を見せた。その表情は、まるで、僕を信頼して全てを託そうとしているように見えた。だから僕は「ありがとう」と笑顔で言う。それから僕は、すぐに、その笑顔に対して、こちらも笑顔で答えると「魔王は君の事を騙しているかもしれないんだよ。だから僕を信じて任せてくれないか」と僕が頼むと闇の女神は少し考えてから言う。

「貴方の言葉には嘘がないと感じるから、ここは信用するわ」と闇の女神は僕に向かって微笑むと「だけど貴方のお願いを聞くには条件があるのよ」と言うので僕は闇の女神に対して聞く。

「その条件で魔王が許せる範囲なら受け入れようと思うんだけど、どうかな?」と言うと闇の女神は、はっきりと「魔王を殺す事を手伝って」と言ってきやがった。

なので僕は闇の女神の言葉を聞いて僕は魔王と戦おうとしていた時を思い出す。

僕は魔王と会話をして「俺の娘達の事を大切にしてくれて、ありがとう」と言われると僕は魔王が本気で感謝をしてくれた事に嬉しく思い「僕も君が大切に育てている子供達を守りたい」と思って魔王との戦いに挑む事を決意したのだ。だが実際に戦いが終わりを迎えた後で。闇の女神が僕の所に姿を見せてくれた。しかし僕は闇の女神から告げられた事実に驚愕してしまう。闇の女神の話だと、なんと勇者の体内には魔王の一部が取り込まれており。それを確認したかった闇の女神は、どうしても勇者を殺したくて仕方がなかったらしい。その話を聞いた僕は驚きすぎて言葉が見つからなかった。だが闇の女神は僕の事を見ながら笑っていたので、どうせ僕に、何かを仕掛けてくるのだと理解したので警戒をしている僕に闇の女神は近づいてきて僕の身体に触ってくる。その行為は今までの戦いで魔王の魔力を得た時の感覚と似ているような気がしたが。それでも今の状況では魔王の力が使えなくなっているし。魔王の力で、この場を切り抜ける事は無理だと判断した僕は闇の女神の行動を見守る事にするしかなかったのであった。そして僕は自分の胸元から闇の女神の手によって自分の心臓が握られるような感触を覚えた。しかし闇の女神の手に握りつぶされる事は無く。僕は安堵のため息を吐いた。その様子から僕は闇の女神から殺される心配はないと思ったのだが。それでも僕は気になって彼女に話しかける。「その。本当に僕の事を殺さないの?」と尋ねたのだが闇の女神は不思議そうな顔をした後に。僕に向かって、このように言葉を返したのだった。「私の目的は貴方を殺す事では無かったので殺そうと思えばいつでも殺せたので、あえて貴方の希望通りに生かすようにしていたのです」と言う。その言葉で僕は安心する事が出来たのだが。闇の女神の方は「それで、どうですか? 私の言った事には、間違いが有りましたか?」と尋ねてきたので。闇の女神に言われた通りに僕が、じっくりと考え込んで答えようとしたら僕の頭の中から「魔王が僕の事を殺しに来ないなんて嘘ですよね」と、この城に残っている娘の声で声が聞こえてきたので僕は驚いてしまった。それだけではなく僕の頭の中の声を聞いた瞬間に魔王が動き出したのだ。それを見た闇の女神は勇者を連れて僕から離れた後に「これで魔王は勇者を殺すしかない」と言っていたので僕は慌てて闇の女神を追いかけて彼女の肩を掴む。「何だ!?」と言われて、つい先程に頭の中で話しかけてきた声の持ち主の女の子が闇の女神なのだと言う事を察した。なので僕は言う。「君は、この城の皆の命を奪っていないのか?」と問いかけるのだったが彼女は僕の質問に対して首を横に振っているだけだった。なので僕は「そう言えば君の名前は?」と聞いたのだけれども闇の女神は「そんな名前で呼べるわけ無いだろう。闇女神と呼んでくれればいい。私の名前など、もう必要のないモノだ」と答えたのである。

それに加えて僕の方にも疑問があったので聞いてみると。やはり闇の女神が魔王の中に居る僕の魂を取り込むつもりなのかと聞かれたので「そんな魂は存在しないぞ。私の力に抗うために自分の娘に魂を分け与えたが、あれは自分の娘達を守るために仕方なく魂を渡していただけだ」と言った。それを闇の女神が確認すると彼女は笑顔を見せてから僕の方に近づいてきて「これから、お前は死ぬけど大丈夫だから」と言うと同時に彼女は僕の頭に手を伸ばした。僕は彼女から手を離そうとするのが精一杯だったのだが。僕の腕は闇の女神の力によって抑えられてしまい。僕は抵抗が出来なくなってしまった。それを見た彼女は僕に向かって「貴方の力は全て私が奪ったのだから諦めろ。私が死ねば全ての魔法が使えるようになる。つまり今の私が使っている魔法を使えるようになると、そういうことだ。それと私が死んでしまえば魔王も、この世界が滅びてしまうような事は、もう起きないだろう」と彼女は言って僕の頭を掴んでいる手に、さらに強い力を込め始めたので僕の頭は潰れそうになった。

しかし、それも数秒間だけで僕の頭部は、まだ潰されていない。

僕の脳は潰されずにいたのだが。闇の女神が僕の事を殺さなかった理由は、この場から僕を追い出すためだけではなかったようで、僕の記憶を完全に奪い取る事が目的だったらしく僕の記憶を吸い上げている。

その事で僕の頭が壊れそうになるのが、しばらく続いたが。僕の記憶が完全に闇の女神に奪われた所で僕と闇の女神の間に空間が生まれた事で僕は、その闇の女神の手から逃れる事が出来た。そして僕は「貴方には記憶を奪われてしまったようだな。これから僕は何をすればいいんだい?」と闇の女神に聞く。すると彼女から返ってきたのは「お前は何もする必要はない」と言われた。それから闇の女神が僕の方を指差すと僕は、またも、あちらの世界に飛ばされる事になった。その直前に闇の女神が僕の事を見つめて「私は闇神と呼ばれていたが。闇の女神と名を変えておくから、よろしく頼む」と言ってくれた。なので、こちらの世界では僕は闇神という事になるのだなと思いながらも闇の女神が「この世界では私が闇の神だから間違えないようにしろよ」と言っている姿を見ると。僕は、どうして僕がこの世界に呼ばれたのか? その理由を聞こうとして闇の神を呼び出したら。「今は駄目だ。私が、この世界を崩壊させたくなる衝動を抑えるので手一杯だ。それに、もう直ぐで私の身体の主導権を、あの男が取り返しにくるからそれまで待っていろ」と言われて僕は、この場に残された。

そんな時。僕の前に一人の男が現れたので僕は彼に「君は誰なんだ?」と聞くと。その男は「私は魔王と呼ばれる存在だ」と言う。その男の外見は、よく見ると顔は人間の形をしていたので僕は、とりあえず安心する。

その事を伝えると魔王と名乗る男に対して僕は尋ねる。

それは、どういう意味だと魔王が尋ねて来たのだが。それに対して僕が説明すると「その話を信じて良い物か」と彼は言っていたのだった。だから僕は彼に伝える事にした。「信じて欲しい」と言うが彼の態度を見る限りだと難しいと思った僕は「じゃあ、これだけ答えてくれ。もし君の願いが叶ったら僕に、どんな利益を与えてくれるんだ?」と言う。その言葉を聞くと魔王は考え込み始めて「私に協力してくれるなら何でも叶えてやろう。その代わりと言っては何だが、もしも、この世界で、私以外の魔王が現れて君の娘に手を出せば容赦をしないから、それだけは覚悟しておいて貰おうか」と言うので僕は素直に「分かった」と返事をしてから。「ところで魔王の願いって一体、何なんだい?」と尋ねた。その言葉を聞いた魔王は少しの間黙り込んだ後で「君に話すのは難しいかもしれないが」と魔王が言うと僕は魔王に向かって聞く「貴方が僕の事を殺さないのは、ただの優しさからかい?」と聞くと魔王が言う「優しい人間に見えるかね?」と言うので僕は「とても見えない」と答えると。魔王が僕に対して、こんな話をしてくれた。

魔王の城で闇の女神と一緒に魔王と会話をする機会があって魔王が僕の体について興味を持っているような様子を見せたのだが、魔王から、その話は出来ないと拒絶された事を聞かされたのだ。しかし僕は闇の女神が魔王の中に居る間に魔王から聞いた内容と僕が体験してきた出来事を話す。その結果。魔王の口から意外な事を聞いてしまう。なんと、魔王が僕の肉体を欲しがっていた事と。勇者が自分の体内に取り込まれている魔王の一部を自分の体内に取り込み魔王の一部を手に入れる事で自分が勇者よりも強くなれるような気がしたので僕の事を魔王が殺したくて仕方がなかったと。そう言われてしまったのである。

それを聞いていた僕は魔王に尋ねる。僕を殺したいと思っていたのか?と質問すると。「勇者に私の魂が取り込まれていたら殺していたかも知れませんね」と魔王は言い。続けて「私に、もう少し器があれば、もっと簡単に私の身体を取り戻す事も出来たでしょうけどね」と言う。その魔王の言葉を聞いた僕は。勇者が取り込まれていない事に、かなり安心してしまう。勇者の体内に魔王の一部が残っていたら。今すぐにでも僕達は勇者の肉体を使って復活するだろうし。そんな事をしたら、この場が、どうなるのか予想するだけでも恐ろしかった。だけど僕が魔王に対して質問すると魔王は「この世界の創造主は私ではないので、貴方の考えている事など分からない」と言って。魔王が何かを考え込んでから僕に「貴方には、この世界から元居た場所に戻って欲しい」と言われるのであった。そんな魔王の言葉を受けた僕は「貴方は、どうするんですか」と聞き返す。その言葉で僕は目の前に居る魔王の体が既に限界を超えている事を知る。そして、それが僕の為だけに、ここまで無理をしてくれた事にも感謝をしなければならないだろう。だからこそ、この人の望み通りに動いてあげたいと僕は思い。魔王に対して「この世界を救う方法はないのですか?」と聞くと。「貴方と闇姫の協力が必要だと思いますが」と言うので僕は「具体的に何をするつもりなのか」と魔王に対して言うと魔王は「まずは、あの女神様が封印している邪神を復活させる必要があります。ですが復活させてしまえば大変な事になります」と言ったので。僕は「そうなってしまった場合は、どのように対応します?」と聞くと「その時は貴方に任せましょう」と言われたので「本当に大丈夫なのかな」と思っていると魔王から僕に提案が持ちかけられる。それは闇女神の力で自分の身体の主導権を握ると同時に。魔王軍側の人間も闇神と名前を変えると魔王が言っているのだ。それを行う事で魔王は魔王としての力を存分に使えるようになるとの事である。そして僕が了承すると魔王が闇女神に変わって僕の方に近づいてきて僕の体に腕を伸ばしたのだ。その際に彼女が言う。「もう私達の邪魔をしないでくれるかしら?もう私の力は使えないはずだ」そう言って彼女の腕は僕の体をすり抜けてしまい。彼女は魔王と入れ替わりで僕の前から姿を消す。それから魔王は自分の身体の中に僕を引き込む為に魔法を唱え始める。しかし僕に魔王の声が届かない。そこで僕と魔王の間に空間が生まれたので僕は闇神の空間の中で、もう一度、彼女に話しかける事にする。

「貴方の言う事に従うのは構いはしませんが。闇の女神ではなく闇神と名乗って下さい。そして闇の神は魔王を復活させようとしているのですが貴方の方は、その事を御存知だったのでしょうか?」と聞くが、やはり魔王からの返事は返ってこないのだった。

それから僕は自分の体を確認すると、すでに僕は僕の体を支配しており、闇神になっていたのだが。闇神になって、すぐに闇の女神が魔王の中から抜け出して僕に向かって攻撃を始めてきた。だが僕は闇の女神に自分の力を見せ付けたい気持ちもあって闇の神としての力を発動させるが闇の女神の方が強かったようで。僕と闇の女神との間に激しい戦闘が繰り広げられる事になった。だが戦いの最中。僕と闇の女神はお互いに傷を負うが僕の方は再生の能力を持っていたのに、なぜか闇の女神の攻撃は再生する気配を見せてくれないので、こちら側から闇の女神を攻撃してみたりもした。それでも駄目だったので闇の女神の方から仕掛けてくる。僕は闇の女神の攻撃を何とか受け止めて、その反動で後ろへ吹き飛ばされるが。そのまま空中に飛び上がりながら体勢を整える。それから着地をした瞬間を狙って闇の女神から攻撃を仕掛けられたが。僕も闇の神としての特殊能力を使いこなして闇の女神の動きを止める事に成功すると僕は、その闇の神になった事で覚えた能力で闇の女神を攻撃するが。僕の放った技を全て闇の神が発動した力で打ち消されてしまう。

「このままでは、また振り出しに戻ってしまいそうだ。それなら仕方が無いが、これで決着を付ける事にしよう」と言うと僕は闇属性のオーラを闇女神に放つと。それを受けて苦しむように闇女神は暴れまわる。

僕は、それを好機だと判断をして闇属性の力が宿った剣を闇女神の腹部目掛けて突き出す。その攻撃で闇の女神の体は串刺し状態になる。闇の女神は「うぐぅ」と悲鳴を上げるが僕は容赦する事無く、そのまま突き進むと闇の女神を地面に縫い付ける事に成功した。それから僕と闇の女神が戦う姿を見ていた勇者達が慌てているのが見えた。なので僕は勇者に向かって闇女神の体から離れた。その事に驚いたのは、むしろ闇女神の方であり闇の女神が、どうしてと、その事を聞いてきたので。僕が「魔王を倒すための準備が整っていないんだろう。なら僕の体から離れて貰った方が良いだろう」と口にしたのであった。それを聞くと、なぜ分かったんだと言う顔をしてから闇の女神は僕の肉体から出ていく。そして僕の体の支配権を勇者に移すのだった。その事に一番に反応したのが魔王であり「まさか私の身体を奪うつもりじゃないだろうな」と怒り出す。しかし勇者は僕の肉体から魔王を取り出そうとはしなかった。

僕は魔王から「お前は闇姫の身体を奪い取るために、ここにやって来たんだろう」と言われてしまう。それに対して僕は何も言えずにいると勇者は「僕が貴方の立場なら、おそらく魔王を倒せると思った時に貴方に戦いを挑んで魔王を殺そうとするでしょうね」と言って魔王を説得すると。彼は、この世界で生きる事を選び。魔王と話し合いで決めた通り。自分の体内に居た勇者を魔王に殺させた。その事により魔王は完全に勇者の支配を受けず。その事がきっかけで勇者は魔王から魔王城を取り戻す事になる。

その事を聞いた僕は魔王に聞く。「この世界を平和に出来たら、それで良かったんじゃなかったの?」と言うと魔王が言う「貴方の娘を幸せに出来なかったので、その償いですよ」と言いながら笑うと。僕の事を「貴方は、まだ私の事が好きなのでしょう?」と聞いてくる。その言葉に僕は「そんな事は、どうでも良い。貴方と出会えた事を感謝して、お礼を言いに来ただけだよ」と答えると僕は、それだけで、ここには来たくは無かったのだが闇女神の肉体を手に入れている時点で魔王からは逃げられないのは、分かっているからこそ、この場に訪れた訳なのだ。

僕は魔王に対して「貴方の願いは何ですか?」と言うと魔王が答える「私には叶えられなかった。私の肉体を取り戻した後は好きにして良いから、どうか娘の幸せを願ってくれませんか」と言うので僕は素直に感謝してから「ありがとうございます」と答えた。そんな僕に魔王が「もし闇神の力で、この世界の人間達を支配できたのであれば貴方は人間に対して、どうするつもりなんですか」と言って来るので。僕は正直な所。人間を奴隷のように扱おうとは思ってはおらず。ただ、この世界が平穏になるのならば人間の生活など、どうなっても構わないと思っていると告げると魔王が言う「そう言う答えが聞きたかったんだよ」と言って魔王は笑い出したのである。だから僕は少し困りながらも魔王の頼みを受け入れようと思っている。

そして僕と闇女神と勇者は、それぞれの目的を達成した所で。僕は僕に「本当に貴方は魔王を殺す事ができるんですか?」と質問をするが闇女神から質問を受ける。それについて質問されたので僕が質問の意味が分からずに戸惑っている様子を見せると闇女神が言う「私はね。魔王を殺した後に貴方の身体に取り付いて私だけが幸せになればいいと思っているんですよ。でも貴女は、その事を知っているんでしょうかね」と言う。その闇女神の言葉に僕は何とも言えない気持ちになってしまった。それを見た魔王が「貴方が、どんな思いを抱いているのかは分からないですが。私を殺した後の未来など気にする必要は無い。貴方には闇女神が、どのような行動を取るのか分かっていて止めようとしなかった責任は有る」と言うので僕は闇神に対して「貴方は私の事を恨んでいるかもしれないけど。それでも私が生きている間だけは、この世界を守って下さい。貴方が魔王として君臨していた時代は、もう終わったので、そろそろ自分の事だけを、しっかり考えて生きて行けば」と言うが闇神は「そうは、いかないんです。私の本当の名前はダークメフィア」と口を開くと魔王と同じ名前を名乗るので僕は、それを聞いて闇神の事を、もっと詳しく知りたいと思って。闇女神から名前と生い立ちや。彼女が、これから先、何をしたいのかを聞き出してみるが彼女は何も話さなかった。

僕は闇女神の口から名前が出た事に興味を抱き。彼女が自分の過去を話すまで待つ事にしたのだ。だが彼女も自分が魔王を倒したら、どうなってしまうのか理解しており「今の私では魔王を倒す事は不可能だと思います」と告げてくる。なので僕は「魔王が復活しても闇女神の力は使えないはずだよ」と言うが闇女神は僕に「確かに使えはしないが。それは、あくまで私の身体の主導権は、こちらに在るからだ。もしも、それが闇神様に奪われたら、話は変わってくる。つまり私も魔王も、どちらの力を使おうとしたところで無駄な労力を使わなければ駄目な状況に変わりない。だが私を、このまま見逃してくれるというのなら、こちらとしても協力させて貰いますが、その条件を呑んでいただけますでしょうか」と言うので僕も闇女神の身体を使って何かしようとは思わなかったので、それを了承すると。魔王が僕と闇の神に「とりあえず、こちらの用件は終わりましたので」と話を切り替えるので僕は「じゃあ僕は、ここで帰らせていただきますね」と言うと僕は自分の体を乗っ取って自分の体に意識を戻す。それを確認すると僕と魔王と闇神は僕の体から離れて行くのであった。そして僕と闇女神は、その場で分かれてお互いの帰る場所に向かって行ったのだった。僕は僕が闇女神に頼んだ事で闇女神が魔王城から離れる事になり。僕は彼女の後を追う。

それから、しばらく歩いていくと魔王城の外に出てしまった。そこで闇女神は僕に向かって言う「私の事を追いかけて来なくても、貴方の目的は果たせたでしょうに。どうして追ってきたんですか」と言うので僕は正直に打ち明けたのだ。僕自身には特に目的があった訳ではない。だけど僕に娘がいたと知った時から、その子の顔を見る事だけが僕にとっての希望となっていた事を伝えるのだが。その話を聞いた瞬間。闇女神が泣き出してしまい「私の娘を、そこまで想ってくれた人が居るんだと思うと。嬉しい気持ちになった」と言ってくれる。そして、その事に続けて、こんな言葉を僕に投げかけてきたのであった。その言葉を受けた瞬間。僕の心に衝撃を受け。そして涙が流れる。闇姫に僕の顔は似ていないと言われていたが、それでも、どこか似ていた。だから僕の目に映っていた闇女神の素顔と闇姫の姿を重ねて見ていた部分があり。だからこそ。闇姫を愛せたのだと。僕自身も気が付いていた。その事から闇姫を救いたいという願いを胸に秘めて生きていく事にしたのだ。だから僕には目の前に闇女神が存在していても闇女神を憎むような事はなく。逆に僕は彼女を救ってあげたいと願う。闇の女神である、この人を、どうしても救いたくなってきた。

だから闇女神の事が嫌いになる事は無かったし、闇の女神が僕に優しくしてくれている理由を知ってしまったから。なおさら、その優しさに触れていると、つい、いつもの癖で甘えてしまいそうになったりもするが、僕は魔王を殺す事にした。その事に一番に驚いたのは、やはり闇女神の方だった。僕の事を「貴方に私は殺せないはずですよ」と言うが僕は言う「確かに、その可能性はあるだろうけど。貴方が死を望むのなら。それを、そのまま放置する気にもなれないんだ」と言うと闇女神の頬を叩く。それを見て闇女神は僕に対して怒りをぶつけるように「なんでですか? 私は、ただ。自分の人生に終止符を打ちたいだけです。なのに、なぜ、そんな酷い事が出来るのですか?」と言うのであった。

僕は「確かに貴方が死にたがる理由は分かりませんが、少なくとも貴方が魔王に対して恨みを持っているのであれば。僕は貴方の願いを叶えるために、あなたを殺して差し上げよう」と口にすると闇女神の首を締め付け始める。それに抗いながらも抵抗する力が無い闇女神は「私が、貴方の大切な人の娘さんを殺そうとしたんですよ」と苦しそうに言う。

そんな言葉を聞いても僕の心は揺るがないので「それならば尚更。貴方が死んで許されるとは思えないでしょう」と口にしたのだった。すると闇女神の方は諦めてくれたようで「私は本当に、ただ、あの人に。貴方に会わせたかった。それだけが私の中で、この世界で唯一残っていた、望みであり。願いだったので」と闇女神は涙を流しながら、それを口にしてくれたので。それを聞いた僕は闇女神を解放すると僕は、その願いは、ちゃんと叶いましたので安心して下さいと伝えてから魔王のところに向かうために歩き出した。

闇神の方は僕に「貴方が勇者様の子供なんですね」と言うと僕は勇者の子じゃないと闇神に伝えようとするが。闇神は「大丈夫ですよ。勇者様に子供がいない事は知っていますから。それぐらい調べてあります」と言うと、さらに続けて「私と魔王は同じ時期に魔王城に幽閉されて居ましたから。その事は私達しか知りませんから、貴方は何も知らないまま大人になって、そして私の顔すら見ないまま。死んでしまうのでしょうね」と言う。

僕は、そんな闇神の言葉に何も答えられずにいると。闇神が突然、闇女神の事を思い出すかのように「私には、貴方に謝っても、もう許されませんが。それでも謝らせてください」と闇神は言ってくるので。僕も、なんで、ここまで闇神を追い詰めてしまったのか、よく理解していない部分があるけど。でも、とりあえず「別に良いんですよ。僕も闇女神には、お母ちゃんの影を重ねていた面もありましたから」と言うと闇神が嬉しそうな顔をしていたのである。

それから僕は闇女神が僕の事を見送るように見つめていたけど、僕達は互いに別々の道を進む事にした。それが終わった所で闇姫から僕に念話が届いて来ると「パパが無事に帰って来たと、聞いたので急いで、そっちに向かおうと思っているんだけど」と、そう告げられたので僕は「その気持ちは嬉しいが、闇姫は先に魔王と戦ってくれ。僕は闇女神を倒してから、そっちに行くよ」と闇神が闇の力を失っている状態で魔王を倒す為に、闇神は邪魔になると闇女神に伝える。すると、その話を聞き終えた闇神が「やっぱり、私の力なんて必要ないんですね」と言うので。僕も、それは闇神自身が分かっている事だろうとは思っていたのであった。それでも言わずにはいられなかった闇女神の言葉を聞き届けると僕は「今は魔王の方が大事なので」と闇女神に伝えた後。僕の体は光に包まれて転移を行う。そうして魔王城に戻った。

僕は自分が住んでいた世界に戻り一息つく。そうしてから僕は、これから先、どうしようかと考えていた時に闇姫が僕に抱き着いてくる。僕は、それを優しく抱きしめてあげて「心配させてごめんね」と言うと「いいんだよ。私は、ただ。貴方を守れる力が欲しいだけだったんだから。だけど、それも、もう、どうやら、その必要は無さそうだし。貴方に危害を加えようと企んでいた人は消えてなくなったようだし。貴方と闇神の、あの戦いが終わるまで、ずっと待っていた私に褒美を与えても良いんじゃない」と彼女は、いきなり口を開いたのであった。その言葉を聞いた僕は少しだけ驚いてしまうが「褒美って何をすれば良いのか解らないんだけど」と言うと彼女は僕に対してキスをしたのだ。それが彼女なりのお礼なのだろうか?と思った。そして彼女が離れようとした瞬間。今度は僕の方から彼女に近づいてキスをし返すと。彼女の体がビクッとなる。

その事に僕は「可愛い所もあるんだな」と言うと「当たり前でしょう。私だって普通の女の子なの。だから可愛くない所なんて無いのだから。だからもっと褒めなさいよ」と偉そうに僕に言い放つのであった。そんな闇姫が僕は愛しく感じたので。それからも闇姫との時間を楽しむのであった。

「ふぅ~、これで終わりだね」と僕が口にしたのだが。それに対して闇の女神様は僕に向かって「いえ。終わりじゃありませんよ。私は貴方と闇姫を会わせないといけないので」と言って僕達の会話に入って来た。だけど、その事に僕と闇姫は疑問に思い「えっ?僕と闇姫に何か問題でもあるのかな?」と尋ねると。その事について闇の女神様が語りだすと「えっと。私には娘がいるのは知っているよね。その事を、あなた達が忘れては駄目だから教えておくと」と言うので僕は闇の女神様から聞かされた言葉に衝撃を受けた。なぜなら、その話を聞いていた闇姫も驚きを隠しきれずにいたからだ。だけど、どうして今さら娘の名前を聞かされたのかと僕は不思議に思った。だが僕は娘が居たという話を、まるで他人事のように記憶の奥底へと追いやって思い出せなくしていた事があったので。

だけど娘の事は思い出せるようになっていたが、その事は思い出せないふりをして誤魔化すことにした。そして、その事が闇女神には気に食わなかったらしく僕に詰め寄ってきたのである。そこで闇女神に「ちょっと待ってくれないか?その前に僕からも一つ質問がある」と言ってから、なぜ。僕が、その事実を忘れているフリをしていたのに、わざわざ、その事を闇神様は、この場で話す気になったんですかね?と問いかけてみると闇女神が言う「私は闇姫に貴方と引き合わせろと頼まれただけで、それ以外の意図は有りません。それに貴方と会わせるのは今回が最後になるかもしれませんので。それなら最後に本当の親子水入らずで過ごして貰った方が、お互いにとって都合が良いんじゃないかと私は思うの」

僕は闇女神の言う通り、闇姫を母親の元に返すべきだと分かっていたので。素直に感謝を伝えると「そう言って貰えて、とても嬉しいです」と闇女神は僕に対して笑顔を見せてくれたのだ。それを見た僕は改めて、この人が闇神なのだと実感した。すると闇女神が僕に対してこんな言葉を吐いてきたのである。「ねぇ。貴方と魔王は戦う事になるんでしょうけど。それでも魔王を殺す気はないんだろうけど。魔王を生かす事も考えているのでしょ?なら、私が貴方に協力してあげる。貴方と魔王は戦えば確実に魔王が死ぬ。だけど貴方が魔王を殺す気がないのなら。貴方が生きている限り、いつか魔王は、また復活できるのよ」と言うのであった。

それを聞いた僕も「その手があるのか。しかし、そうなると。やはり闇女神の力が必要なんだけど。それは大丈夫なのかい?」と尋ねてみると「もちろん、私は協力するよ。私は貴方と魔王の争いに巻き込まれるような人間ではないし。むしろ魔王が死んだ後は私の役目を果たすために動かなければいけないからね」と答えるのだった。僕は、それに「そうなると。やっぱり僕が生きてる間に魔王に勝てれば最高なんだけど。そうなる保証も無いしね」と言うが。僕に「それだったら心配はいりません。きっと勇者君の望みは叶うと思うわ」と闇女神は答えてくれた。そして僕達は魔王の元に向かう事になった。

ただ。僕は「本当に僕に協力するつもりでいるのか。それだけ聞かせてくれ」と聞くと闇女神は「もちろんですよ。貴方と闇姫を、このまま放置しておいては。いずれ貴方は死んでしまうでしょう。それなのに放っておくわけが無いでしょう」と、それを聞いて僕は闇姫に視線を移すと。それを確認したのか闇姫が「貴方が魔王の事を殺さないと決めた時から、そうしようと思っていたんですよ」と言う。それを聞いた僕は「それならば話は早い。早く、ここから魔王城に向かわないと」と口にするが闇女神は首を横に振ると「そんな急がなくても大丈夫ですよ。それよりも貴方に話しておくことがあります。魔王の封印が解かれた事で、私達闇の神が魔王を復活させたのは覚えていますね」と言う。僕は「うん。確か魔王が復活したせいで魔王城の封印が解かれて。闇の力が魔王城に蔓延し始めたから、それで闇の神は魔王を復活させる事にしたんだよな」と言うと闇女神が、その事に肯定しながら、こんな説明を始めるのであった。

その話を簡単に説明すると、もともと魔王は勇者の力で封じられた後に、魔王城で眠らされていたのだけど。それが魔王が勇者を倒した事が原因で魔王が目覚めたらしいのだ。だけど、その話には裏があるのだと闇女神は語っていた。魔王が魔王城で眠りにつかされたのは勇者が勇者の剣を折られた時だと言われているので、それが真実かどうかは、もう分からないが、どちらにしても魔王城に封じられていた闇の女神は魔王城に封じられた状態で眠りについたらしいのだ。そうして闇女神が眠りから目覚めて最初に行ったのは、自分の体を癒やすための回復の魔法を使って自分自身の力を回復する事を優先していた。それから魔王城を蘇らせるために色々と暗躍して闇の神は動き回ったが、どうしても魔王の力を回復して、もう一度魔王を封じ込められるだけの力が、自分には無い事に気づき始めていた。そこで闇女神は自分の娘である闇の女神に頼み込むと。魔王の力が枯渇している魔王城の修復を行い。同時に闇神と闇姫は、魔王に力を貸して欲しいと交渉しに行ったのだが。そこで断られてしまうので。仕方がなく魔王の力は自分達の物にしようとしたのだそうだ。

だが魔王城にいる魔族の殆どが闇の神の信者になっている状態の中で闇女神の言う事を、すんなりと魔王が聞いてくれる筈もなく。戦いになって闇の女神が敗北してしまうと。それから、どうすれば魔王から力を取り戻せるかを、あれこれと悩みながら模索した末に思いついた方法は。勇者に闇属性の力が使える闇の女神を倒させる為に、あえて闇女神は自分から、おとりになり闇の神の配下となった振りをしたのだった。

その結果。闇の女神が闇の女神である事を明かして、闇神と、闇姫は闇の女神を倒すべく動き始めたが。それを知った闇女神は。魔王の力と、自分が作り出した魔族を率いて戦いを挑むのだが。闇神に返り討ちにあって闇女神が敗北した後で闇姫の方は無事に逃げる事はできたが。闇神の配下のフリをしていたのに、それを魔王にバレてしまい、結局、殺される寸前で僕に救われたという事があったらしい。その事に僕は、そんな経緯があったなんて、まるで知らなかったし闇女神の方も、その時までは、そんな事は、一切言わなかったのだ。

そう考えると、あの時に魔王が僕を試そうとした理由は。魔王なりに僕を見定めようとした結果なのかもしれない。もし、僕が魔王に勝つ事ができれば僕を認め。僕が負ければ殺すつもりだったのだろうか?まあ真相は解らないけれど、僕は僕で。闇神を倒して僕と光神の関係を断ち切る気でいたし。結果的には引き分けと言う結末になってしまったが、闇神様には感謝しなければならない。だって、この世界が滅びなければ僕は僕のままで居れたし。

それから魔王が僕を認めたという事は僕が魔王の力を受け継いだからこそなのだろうか?それとも魔王が僕に対して、そこまで興味が持てなかったので。単に僕の事を魔王の敵とは認識しなかったからだろうか?でも魔王の娘と、それを助けるために戦った僕を、わざわざ見逃してくれたのだから。やはり、その可能性も低いように思える。それか、ただ僕を侮っていただけの可能性もあるが。僕は、それでも構わないと思っているから。今度も僕は僕が思うままに魔王と戦うだけだ。

「魔王の事は分かった。それで、闇神が協力してくれるなら。今すぐにでも魔王城に行こう」と言うと闇姫が「ええ、そうですね」と答えると。僕達は魔王城の方に目を向けると魔王城の方は少しだけ変化していて、なんと城の壁に穴が空いていたのである。しかも城内にも人がいないどころか魔獣の姿もないのだ。僕は「もしかして、これは魔王と戦えるのか?」と質問すると闇姫が「魔王が私達を迎え撃つ準備をしているのかもしれません」と言う。それなら僕は、とりあえず城の入口まで移動する事にしたのである。そして僕達が入り口の前に立つと扉が自動的に開いて僕達の事を招き入れてくれた。

それから僕は中に入るのだけど僕に続いて、すぐ後ろに闇姫や闇女神達がいるはずなのに全く姿が見えない。それに城の中に人の気配を感じないので、ここは本当に魔王が住んでいる魔王城で合っているのか、ちょっと不安になってしまうが。魔王が僕に対して城の前で待っていると伝言を残してきたのは、ここなのだから。僕は魔王が居るはずの場所に向かい階段を上り続けると玉座の間の前にたどり着くのだった。しかし魔王が見当たらないな。もしかして、すでに逃げて隠れてしまったのか? 僕がそう思って魔王を探していると突然に玉座の影の中から声が響いてくるのであった。「よく来た。お前を待っていたぞ」と言うと。僕は反射的に腰にある勇者の剣を抜いて警戒をするが。次の瞬間に魔王が現れてきて、そのまま魔王の拳が勇者の剣に当たると僕は勇者の剣を弾き飛ばされるのであった。それを見た闇女神が魔王に対して攻撃を加えるが。魔王はそれを軽々と避けると魔王の蹴りで、逆に闇女神を吹き飛ばすのである。それを見て僕と、もう一人の女騎士のエルザと闇女神を守るように立っていた二人の少女が動くが僕は、そんな二人に手で止まるように指示を出すと僕は魔王と、そして僕に近付いてきた魔王の娘と対峙する。

魔王の娘である闇姫の髪の色と瞳の色は黒く染められていたのだけど。見た目の印象は魔王のそれと変わりがない気がした。それに闇女神と魔王の娘の顔が似ているような感じだったので、この二人は血の繋がりがあるのだろう。そして闇姫の手に持っていた黒い刀身の武器は恐らくは闇神の力で作られた物だと思うが。闇姫の手から離れたら消えていたのであった。それを確認した闇姫は残念そうな表情で闇姫は呟くのである。「せっかく魔王から頂戴した武器なのに。これで貴方を始末する事ができなかった」と言う。僕は「もしかして、それが、君に与えられた新しい闇の神器なのかい?」と尋ねると闇姫は首を縦に振るのである。僕は「それで魔王に勝ったら返して貰えないかな」と言うと。それを聞いた闇姫は微笑を浮かべて答えるのであった。「それでは約束はできないですけど。もしも私が貴方に敗れた時は必ず貴方に差し上げます」と言って闇姫は自分の体に闇属性の神の魔力を流すのだった。そして闇姫から流れた闇神の力が、その全身を覆うと、それは闇のオーラのように変わって闇女神のような闇の神の使いに相応しい外見になるのだった。それを確認した僕が、これからどうすればいいのかを考えるが。ここで闇姫の持っている闇の神器を奪うのが最善策だと判断をして。まずは、どうにかして手に入れる事を考えた。

僕が闇姫に向かって行くと闇姫は闇の神力で生み出した漆黒の短剣で切りかかってくるが、その一撃を避けきる事ができず。勇者の盾を使って防ぐが勇者の盾が闇の刃によって切り裂かれる。僕は、その隙に懐に飛び込むと闇姫の顔面に勇者の剣を突き立てようとするが。闇姫は身を屈めて、それを回避したのであった。それを見た僕は闇女神の方を見ると。そこには闇女神と闇神の二人が居て。その事に僕が驚いていると僕の目の前には闇姫が既に現れていて、闇姫の黒太刀で斬られるが、その時には僕の体が勝手に動いて闇姫に回し蹴りを食らわせるのだった。

僕の足から繰り出された衝撃に、たまらんと言う表情になった闇姫は闇の女神の後ろに回り込むと闇女神を拘束して人質にしたのだった。それから僕は自分の身に何が起きたのかを確認するために闇姫を、まじまじと見ると。闇姫は、こちらを睨みつける。その目付きは先ほどよりも更に鋭くなり僕を殺そうとしていたのである。僕は自分の体を、どうにか元に戻そうと闇姫を殴るが闇姫は、それでも、びくともしないので。仕方なく僕は諦めるのだけど。そんな状況に闇姫は闇女神に、ある事を聞くのであった。

「お母さん。闇神の力で私は強化されてるはずなのに。何故、さっきの攻撃を受けられたのですか?」と言う闇姫に対して闇女神は。魔王が闇姫にかけた呪いを解くように促す。それを聞いて僕は闇姫が僕と同じ状態異常を自分にかけて闇姫は僕の攻撃を難なく避けたのだと思った。だから闇姫に「僕と同じ闇神の力が使えるみたいだけど。それで僕の力を相殺しようとしたわけか」と話すと。闇姫は、それを、ただ否定しなかったのであった。

その事から僕は闇姫の能力を予測する。もしかすると、これは僕に対する能力封じなのかもしれない。僕は、その事を理解すると。それなら闇女神の方の能力を確かめようと視線を向けるのだが。そこで初めて闇神の能力を知る事になるのだが闇神の方には光属性の攻撃は全く通用しなかったのだ。そればかりか光属性で攻撃してもダメージを受けないのかもしれないと言う可能性が出てくると僕は光属性以外の属性での攻撃を仕掛けようとした時に背後から闇女神の声が聞こえるのだった。「貴方は勘違いしているわよ。確かに貴方が使った技や魔法は全て無力化できるし私の眷属になっている相手からの物理ダメージや特殊能力の影響も受けなくなるし貴方が今使おうとしているスキルとか呪文は一切受け付けなくなるけれど。この子は貴方と同じように私や闇姫の力が発動できない状況になると。代わりに、この子の中にある闇神の魂の力を発動させられるようになるし。この子の力は光と闇で出来ている私や闇姫には効果は無いのよ」と言うと闇姫の口元が、ほんの少しだけ歪む。それを見た僕は嫌な予感がすると。慌てて振り返ってみると。いつの間に僕の方に接近してきていたのか闇女神と、それに闇女神の娘がいて僕は彼女達に掴まれるのだった。僕は、その腕を振り解こうとするのだけど、どういう訳か僕の動きを阻害するために僕を押さえ込もうとする彼女達の力が強すぎるせいで僕は、ほとんど抵抗することが出来ないまま地面に押し倒されてしまうのであった。それから僕に密着するように抱きついてきた闇姫に対して闇神が、そのままの状態で闇姫に話しかけたのである。

「ねえ闇姫ちゃん。このままで良いの?」と聞くと闇姫が「もちろんですよ」と答えた後に闇姫は僕を離さないと言った様子で僕を抱き寄せる。それを見て闇神は微笑んだ後で「それじゃあ仕方がないね」と言う。闇姫に、そう言われて嬉しかったのだろう。その笑顔が可愛いと僕も思ってしまって、闇姫を見つめていると。突然として、そんな僕の顎を闇女神が持ち上げて僕の唇に自らの唇を重ねてきたのである。僕は驚いて闇姫の腕から抜け出そうとするのだけれでも、まるで石になってしまったように体が硬直して動かないのだ。そうして僕の意識が遠くなる中で。闇姫が僕から離れて行くのだけど。僕に密着した状態で僕の頬に触れて何かをする動作をした途端に、僕の体は自由を取り戻したので僕は闇女神から離れる事が出来たのである。

そして離れた闇女神は闇姫と一緒に魔王城の奥に向かうのだった。それを見た僕が追いかけると魔王は魔王の娘を連れて、この魔王城から立ち去ろうとするところだったので。僕は魔王に声をかけると。その声を聞いた魔王が立ち止まってくれたので、どうにか話をすることが出来た。しかし魔王の娘は僕の顔を見ると、なぜか涙を流すので。もしかして娘を泣かせたのは僕なのかと心配したが魔王の娘は僕に感謝の言葉を伝えてくるのであった。

「お母様を助けてくれて本当に有難うございます。お父様にも、そう言ってあげてください」

魔王の、その言葉に対して僕は首を傾げるのであった。

僕は自分が魔王の娘である魔王の娘の事を抱きしめながら。その事に戸惑いを感じている。もしかして魔王は、もう魔王としての役目を息子に譲ったのではないだろうか? そう考えると今までの魔王の言動が理解できる。もしかして魔王は、僕が思っていたような存在ではなかったのでは、ないかと思うが、そうなってくると闇女神達と魔王の関係が気になってきたのである。

闇女神の娘から闇女神の話を聞いた所によると闇神が死んでからは魔王と魔王の娘の二人きりになって。闇女神は闇の神々と、ずっと行動を共にしていて、闇神が亡くなってからも闇の神々と闇の神の子供達に協力してもらって闇神の力を魔王の体に封印する作業を続けていて、それがようやく終わる頃だと聞いた。それから僕に対して闇の女神達は言う。「魔王を倒すための準備をしておいて」と言って闇の女神は魔王と共に闇の中へと消えて行ったのである。

闇神の娘との話が終わったあとに闇姫から、どうして魔王の呪いを解けば良いと思った理由を聞かされて僕は理解する。どうやら魔王は闇姫を使って僕の能力を奪い取る気らしいと。僕は勇者の盾を拾い上げて勇者と二人で、これから、どうするかを考えようとした時に僕と闇の女神が使っていた闇の玉の効果を打ち消す為に魔王は闇の属性の魔法で打ち消したようなのであった。

そして闇女神は僕の方を一べつしてから「残念だわ」と言うと、それから姿を消した。闇女神と闇女神の娘である闇姫は、しばらく、その場に留まっていたが闇姫が僕に、あることを告げる。「お母さんの事ですが、お母さんは、あの人に貴方が思っている以上の愛情を向けていましたから。もし、これから先、貴方が困るような事態に遭遇した時にはお母さんの力が必要になるはずです。だから私が教えられる知識を授けますから、もしも、その時が来る前に、私が生きていれば必ず貴方に会いに行きますから」と言って闇の中に姿を消してしまう。それを見送った僕は。闇の玉が消えた後の場所に向かって手を差し伸べる。その手を僕は掴むのだが。その時には何故か勇者の手を握っていた。勇者は不思議に思いながらも、どうにかして魔王と戦う為に必要な物を揃えようと僕は考えて。まずは自分の体を強化する事を優先する。それから僕は勇者に頼んで勇者の盾を貸してもらおうとすると。僕は僕の手にしていた勇者の盾が光の塊に変化していく事に驚いたのであった。

僕は勇者の剣と勇者の盾を握りしめてから、どうにか魔王と戦える武器を手に入れようと考えるのだが、その時に勇者は闇の女神達が使っていた闇の魔法の力を利用して戦う事は出来ないかと言い出した。

「闇属性の魔力を使えばどうにかなるかもしれないが」僕は自分の体を強化すればどうにか魔王を倒せる可能性が上がるのではないかと考えたので闇属性の魔力を自分の肉体に宿らせてみるが駄目だったのだ。そこで僕は自分の体を強化できる道具を手に入れる方法はないのかと考えて。そこで、とりあえず僕が持っている武器の殆どには光の神力が備わっていて僕に光属性の能力が付与されているから。その光属性の能力で闇属性の能力を消滅させる事が出来たのなら。後は闇女神の言っていた僕が知らない未知の技術や、それに代わる、もしくは代用できる手段を見つければ、それで魔王を打倒する事が可能になるのではないかと考えたのだ。そこで僕は闇姫に。

「君の母親に頼みたい事が有るんだけど、闇女神を、この城に呼び寄せることって出来るか?」と尋ねると闇姫は「お母さんに、ここに来るように言いましたけど。でも闇神様は忙しい方だから、すぐ来てもらえるか分からないですよ」と言うので。僕も無理を言うわけにはいかないので。それなら他の仲間と合流する事を考えた。

僕には闇女神から得た情報があるのだ。それは、かつて、この地に存在したと言う伝説の王都の存在。そこの何処かに闇神が作ったとされる迷宮が存在していて。そこには僕が探し求めた魔剣も存在していると言うのだ。それに僕と同じような境遇にあった者達が集まっているとも聞いている。

僕は仲間との合流地点を決めてからその場所に向かったのであった。そして僕と勇者が合流すると勇者の仲間は全員が既に集合していて。その仲間達から、この国で暴れ回っている怪物の正体を教えてもらうと。僕は納得すると同時に魔王城へと向かう準備を始めた。

僕が魔王城に戻ると魔王の娘は僕に。「お父さんと闇神様の居場所を特定できそうですか?」と尋ねてきたので。僕にも、それを調べる方法は無い。ただ魔王の娘を救えた時に。その娘を魔王城で見つけたのは僕なのだ。ならば娘の父親は、やはり魔王である可能性が高いし闇神と闇女神が一緒になっている事を考えると、それ相応の場所にいる可能性もあるだろうし。

そう考えると僕と、この城の魔王が関係を持つ切っ掛けになったのは。この国の魔王である闇神の配下に誘拐された僕が魔王に救い出されたのが切っ掛けなので。恐らく僕と魔王の父親が共に居るのは間違いないと思うし。その魔王の居場所を探す事で父親の手がかりも得られる可能性があるのである。しかし僕に、そんな事が出来るのかは分からなかった。

僕と闇姫で魔王城を捜索していると地下への入り口を見つけたのだが、どう見ても怪しい上に魔王の関係者以外は入れないような雰囲気を感じる建物に、僕が警戒心を抱くと闇姫は僕の顔を見ながら「どうしたの?」と聞く。それに僕が事情を話すと闇姫は、それならば、この建物に入る事ができると教えてくれた。しかし僕は疑問に思ったので何故分かるのかと言うと。闇姫の母親が魔王の妻であり闇姫の母親の姉に当たる人物らしく。その姉が昔、この場所に住んでいた時の記録が残されていたと言うのである。僕と勇者は闇姫に連れられるままに地下に降りた先に、まるで遺跡の様な建物が存在したのだ。

それから僕は闇姫から聞いた情報を整理して考えたのである。もしかしたら闇姫は僕の事を心配してくれていたのかもしれない。だからこそ僕の両親の行方を僕に調べさせようとしてくれていたのかもしれないと思ったのだ。

そう考えると、なぜ魔王の娘は僕の両親の事を尋ねたのだろうか? 闇姫の話によると僕の両親が闇神に頼まれて魔王を倒すために動いているはずだから。魔王が僕の父だとするのであれば僕の父が僕に魔王を倒してくれと言っているのだと、その言葉を信じる事にする。僕は魔王が父だと確信して父と戦う為に準備を始めようとした。そんな時だった。魔王の娘である闇姫が「私は貴方達とは一緒に行けません」と言い出すのである。その言葉を聞いて、その訳を聞くと魔王の娘は言う。「私の母親は今でこそ、ああやって、お酒を飲むと人が変わるようになってしまい。私に対して冷たいですけれど。本当は母さんもお父様の帰りを待ち望んでいたはずなんです。母さんの、その気持ちだけは絶対に変わらないと思っています。だから母さんを裏切る様な真似は、どうしても、できなくて。もしも私が魔王城に残ると言えば、母が私に危害を加えてくると思います」

それから僕が「そういえば君のお母さんは魔王の夫なんだよね? それなのに、どうして君は母親から虐待を受けていたの?」と聞くと彼女は少しだけ悲しそうな表情をしながら答えた。「母は闇神の娘を魔王に奪われてからおかしくなりました。もともと嫉妬深い人だったのですが、さらに悪化してしまったというか」

その話をすると僕は魔王に魔王の娘を奪われてしまった闇女神の悲しみと憎しみの深さを思い知った。そして僕が彼女に、なんと声をかけて良いのか考えていると。「貴方が優しい人である事は分かっていますから。貴方は私にとって初めてできた友達でした。どうか魔王を、お願いします」と言われたので僕は「うん。約束するよ」と言って彼女と握手を交わすと。それから勇者と合流して二人で魔王城に潜入する事に成功したのである。

魔王城に潜入して、しばらくしてから僕は闇姫の言っていたことを思い出す。それは、もし闇姫の母親が闇神の娘に危害を加えようとしてくるのであれば、きっと僕も彼女と同じように傷つけられることになると予想できる。なぜなら、この魔王城は魔王の物であると同時に魔王の娘である闇姫の所有物である。つまり僕の感覚から言えば彼女の持ち物を勝手に触ろうとすると怒る女性は多いだろうと考えるからだ。僕だって、もし自分が、そういう扱いを受けたのなら怒りを感じるだろうから。僕が「君に対して酷い事を行う人間を、どうして許せるんだ?」と聞くと闇姫は、なぜか嬉しそうにして「えへっ、やっぱり分かりますか。実は闇女神様や闇姫と呼ばれる前は普通に、この城の王女をしていたんですよ」と答えたので僕は驚いて「それじゃ、君を、こんなにボロボロになるまで放置した親を恨んでいるのかい?」と聞いたのだ。

その質問に闇姫が笑顔を浮かべて。「うーん。正直に言いますけどね。私には実のお母さんの記憶がないです。そして私が覚えているのは血を分けた姉の事ですけど。あの人も色々とあって今では別の人格に支配されていますし」と言ったあとに。闇姫は続けて。

彼女が自分の母親のことを思い出しながら。その思い出を語るのだが闇姫が自分の母の話をする時には。とても懐かしむような口調になるのだが、その一方で寂しさを感じているような感じでもあったのだ。そんな彼女の姿を見ると。僕には魔王に魔王の子に対する愛が無いなんて信じられなくなった。だけど勇者が魔王の娘を見て呟いた「魔王は、あの子を道具として扱っていても。ちゃんと愛していたと思うぞ」という言葉の意味を理解する為に僕は勇者の言う通り魔王が魔王の子である彼女を、どのような存在だったとしても愛する資格があったのではないかと。そう思うようになったのである。

それから数日して僕達が、なんとかして地下を抜け出そうと考えていた時。地下通路の奥から現れた謎の人物と遭遇してしまう事になる。その人物は全身から光を放ち輝いていたのだが、その姿を見た時に、どこか神々しかった為か光属性の神力が宿っているように思えたので。まさか敵なのか? それとも何かしら事情がある人物なのではないかと考えて僕達三人で身構えていると「私は闇の神と闇の姫の娘です」と、いきなり名乗りを上げるのだ。

それに勇者が「魔王の娘のくせに随分、礼儀正しい子だな」と言うと闇姫が。

「この人は魔王の子供ですよ」と言う。その話を聞くと。この女性は僕と同じ境遇で魔王の子供が闇姫しかいない事を考えると闇姫の妹的な存在ではないだろうか? それを考えると、かなり、おかしな状況だと思うのだ。なぜなら闇姫も闇神と魔王の間に生まれた子供のはずである。だが闇神の娘である彼女は闇神が行方不明になっていると言っていたのに。

その娘と思われる目の前の女性は魔王の娘であると言う。しかも闇姫に、そっくりの顔立ちをしている上に、よく見ると目元が僕と似ているので僕は思わず見つめ合ってしまうと「どうしたの?」と闇姫が尋ねるので。その闇姫の声が、いつもと変わらない気がしたので僕は違和感を覚えた。それで、この少女に何が起きたのか確認したくても。下手に声をかけると殺される可能性すら有る。そう考えて、どのように行動すべきか迷ったのである。

それから僕は闇姫と、この魔王の娘らしき人物が顔が似ているだけで別人だとは思うのだけれど。しかし本当に、その魔王の娘だというならば、どうして、ここに一人で居るのか不思議に思った。なので僕が「あなたは一人なの?」と聞くと彼女は「そうよ。今は、お姉様が来ていないわ」と言うので僕は勇者の方を見ながら彼が「お前が探しているのが魔王だよ」と答えると彼女は「そう、お姉様、帰ってこなかったの」と言うのだ。

その言い方に僕は不安を抱いたのである。魔王は確かに闇姫の父親だと思ったが。この子は父親から捨てられたような感じを漂わせていて、それに、もしかすると彼女は魔王と連絡がつかない理由も知らないのではないかという雰囲気を出していた。そう思い至って僕が「ねえ。もしかして君は何も聞かされていないの?」と尋ねると闇姫に似た女性は僕を見上げてきたのである。その表情から僕は、その女性に「君の名前は、どう書くのかな? 教えてくれると助かる」と質問してみたら、その答えは。僕の期待通りの答えだった。僕の名前と同じ字を書く。それが闇姫の妹だと自称した女の子の名前だったのである。

僕達は、その女の子に名前を聞いたが答えてくれない。しかし魔王城の地下から出る方法を探すために歩き出すと後ろから僕達の背中を眺めるように歩いてきた。そこで、もしかしたら彼女を連れて行った方が良いのではないかと思って僕が彼女に向けて手を伸ばそうとした瞬間。闇姫に止められたのだ。

「ダメです! 私達に危害を加えてくる可能性がある人を懐に入れる事は出来ません!」と言うと勇者も「それに俺達と同行しても役に立たん。だから連れていく意味はないな」と言って彼女を追い返したのである。しかし僕は彼女の様子を見て可哀想になったので。僕も勇者と一緒に行こうとしたら闇姫も、その僕の態度から危険だと察知したらしく。僕の腕を掴んで止めたのだ。

僕は魔王の娘と名乗る女性から魔王と連絡を取る方法を聞くことにした。僕が彼女に「魔王に連絡を取りたいんだけど魔王に手紙を送る事はできないの? それか僕を魔王の元に転送してくれないか?」と頼むと魔王の娘を名乗る女性は僕の頼みに「貴方は何を言っているんですか? ただの旅の人間にしか見えませんよ。その程度の実力で魔王に会いに行って無事に生きて帰れると思っているんですか?」と言われてしまった。その言葉を聞いて闇姫の妹を名乗った女性の言葉を素直に受け入れる事が出来なかった。

僕は勇者と闇姫と僕で話し合い。これから魔王の娘と勇者で戦う事になった。勇者は自分の強さを証明するためと言い出して、そして闇姫は闇神から託された魔道具を渡すと言って勇者と戦う事になる。そして僕は戦いに参加しない事にした。そして戦いが始まろうとしていた時に僕が闇姫に向かって言う。「僕は戦わないけど、もしかして僕も勇者の仲間だって思って貰えないの?」と尋ねた。すると闇姫は少しだけ考えた後に言う。「うーん。私は貴方の事が好きですけど、でも、ごめんなさい。私達が魔王と会うのは、きっと危険な事になると思うから、一緒に来てほしくない」と言われたので、その時、僕は魔王の娘である彼女を信じる事にした。そうしなければ魔王の子が僕を騙そうとしていないという証明にはならないだろうと判断したのだ。

だから僕は魔王の娘である彼女の提案を了承した。そして僕達は魔王の娘と共に旅に出ることになったのである。

僕が闇姫の事を心配すると勇者が「闇女神様も心配しないでくれ。俺が魔王を倒す。それまで魔王は絶対に闇女神様の所には戻らないから」と言った。僕は勇者の言葉に納得できず。なぜ、そんな約束が守られる保証があるのか分からなかったので「それは君が勝てると信じているという事なのかい?」と聞くと勇者は不敵な笑みを浮かべて「当然だろう」と自信満々な態度で言う。

だけど、いくら強くなったとはいえ、それは魔王と正面から戦えるほど強いのだろうか? そもそも勇者に力を与えた闇女神も、もう居ないし。もしも闇の女神に何か有れば勇者は力を、また失ってしまい魔王の相手をするのは難しくなる。それでも、もしかすれば闇神が勇者を鍛える為に時間を与えて。その力で魔王を倒せるくらいの力を与えてくれた可能性もある。そうなれば魔王を簡単には倒す事は出来ないと思う。それに闇女神に頼まれたので魔王と闇姫の戦いだけは回避させる必要があると、そう考えるようになっていたので。

僕達の目的は、あくまでも闇姫と闇神の娘の救出と。闇神を闇姫の母親の元へと戻す為に。闇姫の母親は闇の神である。なので僕達の目的は闇の神を取り戻す事なのだけど。その闇の神は闇神の娘の体を乗っ取った闇姫に殺された。だが彼女は僕に対して闇神の体を手に入れる為なら自分の命すら捨てる事になっても構わないと。そこまで言えるのだから。きっと闇姫が闇神の娘に殺されても文句は言わないだろうと、そう思うので。彼女が闇姫の妹と名乗っている魔王の子を殺す必要はないと思ったのだ。

僕が勇者を説得していると闇姫の妹を名乗る少女は「貴方は、どうして、この世界に呼ばれたと思う?」と聞いてきた。それで僕は「僕は、まだ分からない。君は知っているのか? というか君は誰なんだ? 魔王の娘を名乗っているみたいだけれど、それじゃ、まるで本物みたいな雰囲気を醸し出しているし、でも偽物のような雰囲気もあるんだよな」と言うと闇姫の妹の彼女は笑顔になって「やっぱり本物の私が解らなかったんだ。私は闇を司る神から生まれた神です」と彼女は言った。僕は彼女に対して疑問をぶつける。どうして魔王は娘を捨てたのか。その理由を知らないか聞いたのだ。

僕が尋ねるとその少女に。どうして娘を捨てたのか理由は知らなかったが「お姉様も貴方と同じ気持ちだったんですよ。ただお姉様の場合は愛していたのが娘ではなく。娘の形をした別の者だと気がついてしまったので娘を愛する資格が無いと思って自ら姿を消した」と答えたのだ。

僕が「愛してたのか?」と聞くと少女は答える「はい、お姉様は私を愛していたと思います」と、そう答えてから続けて言う「それと魔王がお姉様を捨てて逃げたのは別に、その女性と、どうこうしようと言う気があったからじゃないんです。単純に魔王が浮気をしていたからです」と答えてくれたのである。

闇姫の妹を名乗る少女の話を信用する事にした僕が「魔王が娘と妻に愛情を持っていないと思っていた理由を教えて欲しい」と言うと彼女は魔王と、どんな経緯で出会ったかを僕に説明してくれたのである。彼女は自分の母親が闇神であると言う事を隠さなかったので僕は魔王の娘である彼女も魔王の娘であると認めた上で魔王の話から話を聞く事にした。

「貴方が聞きたいのは魔王と妻の馴れ初めでしょ。でもね。私の母親の話は長いからね。その覚悟が出来たら話を始めるわよ」と彼女に言われて、まず僕と勇者が旅を始めた時からの話が始まった。

魔王と、その妻が、どのように出会ったのか。それを説明すると長くなるので要約すると、その当時、世界には二人の女性が居たのだけれど。そのうちの一人の女性は魔王の妻になった人であるのだが、この人は普通の人だったらしく。特に優れた能力を持ち合わせていなかったらしいのだ。それで闇女神と勇者の間に生まれた子が生まれた頃から、ある事件が起きるまでは彼女は普通の人として生きてきたそうだ。しかし事件が起きて闇神が、その事件を闇姫が生まれる前の事なので闇姫は何も知らないと言うけれど。

僕は闇姫の話を聞いた時に「そう言えば君の両親は何歳差だっけ?」と聞くと闇姫は不思議そうにしながらも答えてくれたのだ。彼女の答えは、なんと二十歳の差があるのだと言う。そこで闇姫が「あれ。闇女神と勇者が夫婦だとすると闇女神の方が年齢が低いのに、あの闇姫の母親は勇者より、さらに年上って事になるんだけど、もしかして見た目と中身が違うってことなの?」と言うと闇姫の妹と名乗る女性は答えた。

その通りで、見た目は大人なのに心は子供のようになってしまう人だと闇姫の妹は言う。

「もしかすると闇女神の子供の中で、あの娘だけが特別な存在だったのかも知れないですね。他の闇神の子供が闇神の力で、その力を抑えて生きている中で、闇女神様は自分の娘が闇神の力の影響を受けないようにと力を封印してしまった」と言うのだ。そして僕達は彼女の言う事を信じることにしたのである。

それから魔王城で僕達が闇姫達と出会うまでの経緯を説明してくれた。

魔王と妻との出会いについては僕も勇者も闇姫も、よく知っている。僕達が闇姫や、その姉妹の二人と一緒に行動し始めた時には、その二人は、すでに魔王城に居る人達と一緒に行動をしていて。その頃から魔王の娘と勇者の仲間として一緒に戦っていたからだ。そして魔王と妻は、ずっと二人で暮らしていたのだけど魔王が一人で暮らしている家に闇の女神である人が訪ねてきて、その二人が結婚したという。その事を闇姫の妹と名乗る彼女は説明をしてから魔王に質問をする「ねえ、お父さん。お母さんは何処に行ったの?」と、すると魔王は答えずに黙り込んだ。その様子を見ながら闇姫の妹を名乗る女の子は「そっか、まだ怒ってるんだ。まあいいよ。もう諦めるよ」と言ってから「それより私は魔王の娘だよ。私も連れて行ってくれるよね」と言って、また魔王の娘は歩き出した。

僕が「君も付いて来るのか?」と聞くと「当たり前でしょう。私は、お姉ちゃんと約束したから魔王に会いに行くけど。その道の先に貴方の目指す所が有ると闇女神が言っていたし。お兄さんは闇女神の言葉を疑わない方がいいですよ。闇女神の言葉は全て本当だから」と言うのであった。

僕達は、しばらく歩いていたのだけれど、その間も勇者と闇姫が会話をしているのだけど。その内容は僕が魔王の娘である彼女について、もう少し詳しい事が知りたいと闇姫が言うと勇者が「闇女神様に会えたら、きっと俺達の事も何とかしてくれるだろう。だって、あんな凄まじい力が使える神だぜ。きっと何でもできるはずだ。俺の傷だって一瞬で癒えてしまうんだぞ。きっと、あいつの魔法が有れば俺の怪我なんて一瞬だ。闇女神様だって闇神様の力を使えば俺を魔王の元へ送ってくれるはずだからな」と、そう言っているのを聞いて僕は、それが無理じゃないかと不安に感じた。

しかし、そんな僕とは違い闇姫は「きっと大丈夫。だって闇神様は勇者に剣を渡しているくらいだもの」と言ったのだ。そんな風に僕と勇者が話し合っていると闇姫の妹を自称する彼女は「もしかすると、お姉ちゃんも勇者の体に乗り移った魔族と魔王が手を組むかも知れません。その場合、どうするつもりですか?」と、そう闇姫に尋ねるのだけど闇姫は平然とした態度で答える。「魔王と、あの男が手を組もうとも、それなら私達は自分達の目的を果たしてしまえば良いだけでしょう。それに私は魔王の事など信用してないから」と言うのだ。それを聞いた勇者は少し困りながらも笑みを浮かべると闇姫に対して言う「お前は強いな。俺は闇女神に裏切られたら。魔王に勝てる自信はない」と口にする。それを聞いた僕は、この勇者は、こんなに簡単に弱音を吐くような奴なのか? と思う。だが彼は「だけどさ。もし、もしも闇神が生きていたら、また違ったのかな」と、そう言って涙を流すのだった。それを見ていた僕達だったが闇姫の妹が言う。

「私に、ついて来て欲しいのでしょ。じゃあ行きましょう」と、そう彼女は言うと、すぐに走り出して行った。それで闇姫の妹の後を追いかける事になったのである。

僕が追いかけていくと魔王の娘は魔王城にある魔王の部屋の前に来ていたのだ。そして闇姫の妹を名乗る少女は扉に手を当てると何か呪文を唱えるのだった。その呪文は僕が見た事のない文字で書かれた呪文である。

その魔法を発動させた結果。部屋の中から女性の叫び声が聞こえてきたのだ。それは僕達に助けを求めるような叫び声で「助けてください。貴方の娘を助けて」と。その言葉に僕と闇姫が顔を見合わせていると部屋の中に入った彼女が言った。

「ほら、早く。この中に魔王の娘が閉じ込められているはずなんです」と彼女が急かすように、そういうので僕が、おそる、おそる。部屋に入ろうとすると「何やってるんですか。貴方、この中に入りたいんじゃないの? じゃあ、貴方は入って下さいよ」と、そんな事を言われるので僕は勇者の背中を押して部屋の中に飛び込むことにする。

勇者は、やはり躊躇う素振りを見せたのだが僕は構わず勇者の体を押すと勇者は部屋に入る。すると勇者に襲いかかってくる者が居た。それは先程、魔王の娘の身体を借りて僕と勇者が戦った魔王の姿だった。魔王の体は闇でできていたのだが。その姿は人間に近い形をしていて僕は驚く。魔王は勇者に向かって攻撃を仕掛けてきたので僕と闇姫は魔王を、どうにかしなければならないと思って動き出すのである。

しかし、どうすればいいのか分からない僕は闇姫に任せてみる。彼女は勇者の前に立ちはだかると手に持っていた黒い杖のような物を振るうと、そこから黒い光の弾を放つのだけど。それに対して魔王は右手に持っていた大きな盾で自分の身を守るのである。僕は、それを見ながら「なんだ、あれは」と言うと勇者が「あの時と同じで、やっぱり闇の力を使った攻撃が有効なようだ」と口にしたので、やはり勇者と魔王が戦う時の話に出てきた武器が、これなのだなと理解できた。そこで魔王は自分の持っている盾を闇姫に向けて投げつける。

僕が魔王の盾が闇姫に迫る様子を、その目で見ていると突然、僕の目の前が暗くなって気が付くと暗闇の世界が広がっていた。

そこで闇姫は、どうやって魔王が放った攻撃を凌いだのかは知らないが、僕達三人は暗い空間に閉じ込められて、この場には僕と闇姫だけしかいないのだと思い知らされてしまった。

そして僕が「ここは何処だ?」と言うと闇姫は「おそらく、あの女の能力によって作られた結界の中だと思う。あの子、魔王の娘って言ってたでしょ。あの子は自分以外の者の魂を操ることができるみたいだからね。今、その力は失われかけているけど。それでも魔王の娘である事は変わらないわね。だから魔王の娘は、こんな能力を持っていたんじゃ無いかしら?」と言うので「なるほど。そうなのか。でも、ここから出るためには、あの子の力が必要だから」と言うと闇姫は、しばらく考えた後で言う。「たぶん。あの子を操っているのは闇の女神様でしょうから、あの人に頼めば出られるわ」

闇姫の話では、あの魔王の娘である少女が魔王の部屋に入ってきた時に、その瞬間に魔王の娘は闇の女神の力を使って、この場所を作りだしたという事らしい。そこで僕は「だったら僕達は外に出るためにも闇の女神の力を借りなければならないのか?」と質問をするのだけど闇姫が首を横に振って言う。

「いや。貴方達だけで大丈夫よ。私が何とかしますから、ここで待っていてください」

その闇姫の言葉は、いつものように自信に満ちた言葉で、まるで闇女神の言葉をそのまま口にしているだけのようであり。僕は、つい闇姫に対して「君が、そう言うのならば。僕は信じるけど」と言うのであった。

闇姫は闇の女神の力で作り出した暗闇の結界の中を進んでいく。そして闇姫は魔王の娘を操っていた人物に近づいて行く。そして闇姫が相手に近づき闇の女神が作り出している暗黒の霧を振り払う。

「闇の女神、その力は私達を滅ぼす為のものじゃないですよね」

その闇の女王は僕達の知っている姿とは違い黒髪のロングヘアの女性の容姿をしており。彼女の着ているドレスの裾から見える肌も真っ白な女性の姿をしていた。彼女は僕達の事を警戒した瞳で見つめると口を開く。

「まさか。どうして貴女が、このような場所に、わざわざ現れたのですか? それに、この娘の事を何故、御存知なのですか?」

その女性は僕が前に戦った事がある闇姫に外見が似ていて、ただ違う点は僕達が戦ってきた闇姫よりも若いという事で僕達は戸惑いを隠せなかったのだ。それに、その女性は僕が戦った闇姫とは口調も雰囲気も全然違っていたので本当に闇姫の妹だと僕達は思ってしまったのだ。だから僕達が何も答えずに居ると彼女が言う。

「闇神様の力を宿す娘よ。私と共に来るのです。そして魔王の封印を解くのです」

その言葉を聞いた勇者が「どういう意味だよ。魔王は、お前なんかが倒せるような相手じゃないんだよ」と言うと、それに対して闇姫の妹と名乗る女性は「魔王は復活する」と、それだけを言うのである。僕は「それは出来ない」と言うのだけど。魔王は、どうなったんだろう?

「勇者が剣を使い魔王を倒す」

僕は魔王と、この勇者の話をしていた闇姫が、そんな言葉を呟いた事を、思い出すと「勇者が魔王を退治して、それから魔王は復活しないんだ」と。僕はそう言い切った。

すると闇姫の妹を名乗る少女は「何を言っているのですか、貴方達は何も知らないのですよ。そもそも魔王は死んでいません」と、そう言うのだった。

それを聞いた勇者が言う「嘘つけ。だって、あの場で、あの場所で魔王は死んでいたじゃないか?」と、その問いかけに闇姫の妹を名乗る少女は「魔王の死が偽装されただけだ」と言うのである。それなら魔王が生きていても良いのではと思ったのだが「勇者は魔王が生きている事を、あの方に伝える必要がある」と言うのだ。それを聞いた僕は「あの方は誰だ?」と闇姫の妹と名乗る少女に質問すると闇姫の妹は少し迷った表情を見せるのだけど。彼女は言う「私は闇の女王です。闇の神が生みだした魔族の一人で闇女神様から闇の加護を与えられた存在なのですよ」と。

それを聞いた僕は闇姫も魔族の一員だったことを思い出すと、どうにも信じられなくなってしまい。魔王は勇者に殺されて死んだのでは無いかと疑問を持つと勇者が言う。

「お前は、どう思う?」と僕に聞いてくる。

それで僕は魔王の娘に聞くと、それを聞いてきたのは闇姫だった「貴方は、どう思いますか?」と僕に聞かれたのだけど「正直、分からない」と答えると「それじゃあ。あの方に魔王は復活したと伝える必要が有る」と言うので、そこで僕は闇姫が僕に話しかけてきた事に違和感を感じてしまう。そこで僕は闇姫に質問をした。

「君は僕の知っている闇姫じゃないのか?」

「いいえ。この体は、もともと闇神の物で、その体を私が作ったんですよ」と闇姫は言ったので僕は、さらに混乱してしまう。そして僕は目の前にいる魔王の娘である闇姫は、どう見ても普通の女の子にしか見えないし、闇姫は勇者が倒すべき相手の魔王の娘だと思っているのに。

僕達の前に現れた闇姫の姿は僕が良く知る闇姫の姿と同じ物であり。僕は闇姫に質問する「なんで、その姿をしているんだ?」と言うと闇姫は笑顔を見せて答える「この姿が闇姫の姿なのは、あの方の命令なのですよ」と言う。そして、それは僕にとって闇姫の言葉を疑いたくなる程、闇姫の態度は僕達がよく知っていた闇姫そのものの仕草だったので「闇の女神の命令って何なんだ?」と、僕は聞いたのだが闇姫はそれについては答えないで別の話をし始める。

「それより。貴方達に私の話を信じてもらう為に、これから、この魔王城にある封印の間に行きましょう。そこで魔王を復活させると魔王が、また復活するのです。貴方達の目的は何ですか?」と闇姫は言ってくる。そこで僕は「魔王の身体は、もう存在しないはずじゃ無かったのか?」と僕が一番最初に闇姫と出会ったときに魔王を倒して魔王を封じたと聞かされていた話を思いだし確認の為に質問をする。

その問いに闇姫は「そうですね。あの魔王の肉体は完全に消滅したと聞きましたけど。魔王は肉体を失っている状態で魂だけが残っていて。今は魔王が残した闇の力を利用して闇女神様が、あの方の魂に仮初めの命を与えているだけでしょう」と言う。

その話を聞いた僕は魔王が復活する事に疑問を持った。なぜなら僕が闇姫に聞いていた魔王を倒した後の話では魔王が復活しなかったので「闇の女神の力を使えば、魔王を封じ込めることも出来たのでは無かったのか?」と質問をしたら闇姫が僕の方を冷たい瞳で見て「あれだけ魔王が苦しんで死ぬ姿を楽しんで見ていたくせに」と言うのだった。その発言に対して僕達は戸惑ってしまう。

闇姫は僕達の様子を見ると話を再開する。彼女は僕達を睨みつけて言う。

「確かに魔王を封じ込める事は出来ていたけど、その魔王も自分が死ぬのを恐れていたみたいだから魔王が使っていた武器を使って自分を魔王と一緒に封じこめて死んだのよ。魔王はね。自分が死ぬ瞬間を誰にも見られないようにと魔王は自分の体に自分の魔力を流し込んで自爆をしたの。だから魔王は死んでいなかった。その魔王が死んだというのは貴方達の妄想で、本当は死んでなどいない」と、そこまで言われても僕達は理解できずにいると。闇姫の妹を名乗る女性が「闇神様の加護を受けた少年、この闇の力に耐えられますかね? この力は人間には毒なのですよ」と言いだしたので僕は焦る「僕は人間のはずだぞ。なんで僕は、こんなに闇の女神の力の影響を受けていないんだよ?」と僕は言うと闇姫が口を開く。彼女は「貴方が今、着ている鎧に、それは闇の女神の力から身を守る為に作られた特別な装備よ。だから貴方は闇神様の影響を殆ど受けてはいないわよ。でも。他の人達は別よ。特に闇姫さん」

そう言われた勇者は動揺したのか「私は闇の女神様に選ばれた聖剣を持っているから闇神様の力が効かないんだよね」と、まるで僕が嘘を吐いているかのように勇者が言うと闇姫は勇者に向かって手を伸ばす。すると勇者の全身が光り輝き始め「うぐっ、なにをするんだよ」と言って苦しむのだけど。僕は彼女の様子がおかしいと思い慌てて闇姫の手を掴む。すると闇姫の手を離すことができた。僕は闇姫の妹を名乗る女性の方を見る。彼女は僕を無表情に僕を眺めてから言う。

「やっぱり。魔王が復活した時に備えて魔王の力の一部を封印してあるようね。でも、この力は貴方が使うと危険過ぎる」と、それだけを僕に告げると、そのまま消えていくのであった。闇の女神の眷属は勇者に視線を向けると「闇姫。私の代わりに勇者を殺しなさい」と言うと勇者が闇女神に姿を変える。

そして勇者は闇女神の姿を見て驚いて「どうして、この場に現れたのだ?」と言うので僕は「どうして現れたかって、僕が、ここに来る前に説明したと思うけど」と言うと勇者は「お前は闇女神の力で私に化けている偽者だろ?」と僕を睨みつける。

それを見た闇姫の妹を名乗る少女は僕と勇者を見比べながら「本当に、どうなってるの? この子達は」と言うのだ。それを聞いた勇者が剣を抜く。それに合わせて闇姫の妹を名乗る女性も「勇者。魔王が目覚めたので貴方を倒さないといけない」と、それを聞くと勇者も真剣になって戦闘モードに入り始めるのだった。

闇姫の妹を名乗る少女に闇姫が「貴女。私の姿をして何かするつもりなのでしょ」と詰め寄ると彼女は笑いだして言う。「魔王が復活したのよ。魔王は復活したの」と、その言葉を聞いて僕は驚く。闇姫が勇者に剣で斬りかかると、勇者も闇の力を纏った剣を振りかざすのだけど。二人の剣が交差するたびに、お城の壁が破壊されてしまい。二人の戦いに巻きこまれてしまった城の兵士達は、どんどんと傷ついて倒れていった。それを止めるべく勇者の側にいた僕と勇者の母と名乗る女性は、すぐに闇姫の妹と名乗る少女を闇から解放するために動く。

まず僕は勇者と闇姫の妹を名乗る少女の間に入って彼女を捕まえると闇から解放するための儀式を始める事にして儀式用の短剣を抜いたのだが母と名乗る女性は何故か僕達の前に立ちふさがり「私の息子に手出しさせません」と言ったのだけれど「そんな事を言っている場合じゃありませんよ」と言うのだけど「この子に死なれて困るのは私も同じです」と言い返してきたのだ。

それを聞いた勇者の母親と言う人は僕の事を抱きしめて泣きだしてしまったのだ。そして母は「私の子供はもう居なくなってしまったと思ったんです」と言い「ごめんなさい」とか言うんだけど、それを聞いて僕は戸惑ってしまった。そんな事をやっているうちに勇者が僕の首を掴み持ちあげる。

僕は勇者に「放せよ。僕は君の仲間なんだぞ」と、叫ぶと勇者が笑う。勇者は僕を蹴り飛ばして「仲間だって、いつ私が、あんたを、お前なんかと」と言うのである。そして、さらに僕に近づいてきて、僕の顔を何度も殴りつけて来た。僕は殴られ続け、ついに僕は気を失うのである。それを見て勇者が言う。

「この偽者の馬鹿女が、どうしようもないから。私の本当の姿を見せるしかなかったんだ。まったく」と呟き。

闇姫と闇の妹は戦いを続けるのだった。それを見て闇妹が、闇に語りかける「このままでは世界が無くなる。そうなってしまえば私達が生きている意味は無くなってしまう。それでも良いのですか?」と、しかし闇に返答はない。それ所か勇者に殺された人々の恨みの感情が膨れ上がってきて闇の女神の精神を支配しようとしてくる。それに対抗すべく、なんとか精神を保ちつつ闇妹は「魔王の復活は、あの方にとって最後の手段だったのですが」と、そう口にするが闇に反応がない事に焦りを覚えて闇妹も戦いに加わり始めたのであった。

一方、その頃、勇者に倒されたはずの闇神は意識を失っていた。そこに、また、別の誰かが現れる。彼は倒れたままの闇の側まで行くと「魔王の器が有る場所を知っているか?」と闇の身体を蹴飛ばすと。闇の目が見開き彼の方を向いて言う。「何故、魔王を復活させようとする」と。それを聞かれた男はニヤリと笑ってから「俺は勇者を殺す」と言う。それに対して闇は「勇者を倒すだと。どうやって倒すつもりだ」と言うと男に闇は質問をしたのだが「それは言えないな」と言う。その態度に闇は、かなり怒ってしまって、いきなり攻撃を始めたのだが、その攻撃を受け流されて「まだ動けたか」と男は言った。それからも闇と男が戦うが互角の状態で、お互いに決定打を与えられずにいた。その状況が続くと、とうとう闇は「そろそろ決着をつけないか?」と提案をする。すると「その方が良さそうだな」と男が答えると「最後に聞きたいのだが、なぜ、この魔王城に封印されている魔王を蘇らせようとしている」と闇は質問をする。すると男は笑い「お前が、その答えを知った所で無駄になるだろう」とそう言って、この魔王城にあると言う魔王復活の為の場所に闇を連れ去ろうとするのであった。

闇は男の攻撃を辛うじて防ぎ続けている状態だ。だが、その防御が上手く出来なくなっていると自覚していて焦りを感じる。そんな闇の様子に男が気がつき「どうした。お前は、こんな程度なのか?」と挑発をしたが闇は乗らなかった。むしろ闇は冷静になったようで相手の行動を観察し始める。そうしている間にも闇の身体は闇から与えられる力により侵食を受け始めており闇にダメージを与えてくる。

そして「俺も本気で相手になろう」と言って、闇から距離を取り、闇は「逃げるのか? 臆病者が、逃げれるものなら、やってみるがいい」と声をかけた。

闇は魔王に肉体の支配権を譲り渡す為に自分の魂を半分だけ切り離すことにした。肉体の半分は闇の中で眠らせて、残りの半身を魔王に預けて魔王と闇は表と裏の人格に分離させることに成功する。その隙を狙って闇は、さらに闇との一体化を試みる。それによって闇と闇の肉体の支配を入れ替えることには成功したのだけど。そこで闇は自分の存在が完全に消滅してしまうことを理解するのだった。

自分の肉体に宿った魔王の力と闇の女神としての存在の力を自分の魂と混ぜて闇は自分と同じ姿の少女を作り出すことに成功した。その姿を見て勇者と闇姫の妹と名乗る女性は「貴様。その姿は一体何者だ? 」と、闇に問い詰めてきたのだけれど彼女は笑いながら「今の、お前達の言葉を使うならば偽者と言う奴だよ」と勇者に剣を振りかざすと勇者の身体がバラバラになってしまうので彼女は驚きの表情を見せるのであった。

闇姫の妹と名乗る女性の姿が変わる。勇者は彼女の変貌ぶりを気にせずに彼女に剣で斬りかかったのだけれど彼女は剣を避けて勇者の腹部に拳を突き入れた。勇者の口から血が出ると闇が「勇者。大丈夫か」と勇者の心配をする。すると闇が勇者に近づき「今から、お前と、私で、あちらにいる闇の女神の偽者を始末するから」と闇が告げると勇者が驚いた表情をして「まさか」と口にするのだけど「もう時間がないから、私は、この姿でいくからね。後は、よろしく頼むよ」と闇姫の妹と名乗る女性が勇者と闇に向かって言うと二人を指差した。それに合わせて二人は走り出して闇の女神の妹を名乗る女性の目の前に来るのだが闇の妹を名乗る女性は「これで最後ですね」と勇者の顔面に膝蹴りを入れようとする。勇者は何とか避けたのだが、その際に剣を手放してしまったのだ。

闇は勇者を殴って闇の妹と名乗る女性の方に蹴り飛ばした。そして闇の妹を名乗る女性は勇者を受け止めてから「どうしたんですか?」と言う。勇者は闇姫の妹と名乗る女を睨みつける。そして「どうして、闇女神の力を手に入れた?」と、闇が勇者に聞いたのだが勇者は「黙れ。偽者め」と闇を殴りつけてから闇を睨みつけた。

それを聞いてから闇は「私に勝てると、そう思っているのかい? 残念だったねぇ」と勇者に殴りかかる。勇者は闇の攻撃を防御する事もできずに受けてしまう。

そして闇が「私の身体は、もう闇から解放されたんだよ。魔王様に完全に取り憑かれたのさ。さてと、そろそろ決着を付けましょうか」と口にする。

闇は勇者から距離を取る。

それから「さぁ、私に殺される覚悟は出来たかな? 」と言い勇者の首を斬り落とした。そして勇者の首を持って、それを眺めていると、いつの間にか闇が側にやって来ていて「闇姫さん、お久し振りです。お元気でしたか」と、闇に挨拶をする。それを聞いた闇姫が「えっ、どういう意味だ?」と尋ねると闇が説明をし始めた。「勇者を殺した時点で闇から切り離されたんですよ。だから、もう勇者を操ったりすることは、できなくなったはずです。それなのに貴女は私に対して攻撃をした。これは、どういう事ですか?」と言う。

それを聞いた闇は「私は魔王を復活させるために動いていただけだ。それに勇者に殺された恨みも有る。私が勇者を、あの勇者を私が殺すはずだったんだ。それなのに勇者に私が殺された。そんな私の事を許せるのか?」と、そう言うと闇が笑いだす「ふぅーん。そういう事でしたか」と、それだけを言う。それから「でも、まあいいでしょう。今、貴方は魔王様の復活をしようとしているのですよね」と質問をする。

闇の妹は「魔王を復活させれば世界を滅ぼせますよ」と笑顔を浮かべた。それに対して闇が質問をする「お前達は、本当に勇者の力が、その程度だと思っているの?」と闇が闇妹を挑発するような口調で言うと闇妹は少しだけ不機嫌になりながらも「どうゆうことでしょう? 私達にとって魔王は最強の存在なんですけど」と言う。それを聞くと闇が言う「確かに、この世界の人間は強い。だけど、この世界に居ない種族だって存在している」

それを聞いた闇妹は「居ない種族だと」と言うと闇が「そうさ、その者達を呼び寄せる事ができるのは私だけなんだよ」と言うと闇妹が「ふざけるな」と叫ぶと「そんな、くだらない話をするために、こんな所まで、私を、ここまで追い詰めたのか」と叫び、闇から闇妹の意識が消えるのであった。それを見た闇は「私の勝ちだね」と口にすると闇は「そろそろ魔王様に会いに行くとするかね」と言って闇が魔王城に足を踏み入れると魔王城が闇を飲み込んで魔王城そのものになるのであった。

僕が目を覚ますと勇者が僕の顔を見ていた。僕は、すぐに「ここは何処なんだ」と質問をした。すると、勇者は、ここが魔族の王が住む場所だと言う。僕は「お前の目的は何だ?」と勇者の目的を尋ねてみる。すると勇者は「お前には関係ないことだ」と返答をしてくる。なので、とりあえず「そうなのか?」と聞くと「そうだとも言えない。お前が邪魔をしなければ、この国も滅びずに済むかもしれないからな」と言う。それに対して、僕は勇者に「お前達が何を考えているのか解らん」と返答をした。

それを耳にして勇者は僕を見て笑う。勇者は「俺達の狙いを知りたいのか?」と言うので「知りたくはないと言えば嘘になるが。知らなくていいと思うなら別に聞かない」と答えると、勇者は、しばらく考えた後に答えを出した。

勇者曰く。魔族を支配下におくのは難しいと判断したらしく「今は様子を見る事にしたよ。ただお前の事も諦めた訳じゃない」と口にする。

そして「今日は帰れ」と言うのであった。僕は、そんな態度に納得できない気持ちだったのだけれど、ここで逆らうのはマズイと思ったのである。そう思ったのは勇者の様子が普段とは違ったからだ。

僕が目を覚ますと勇者が心配そうな顔をしながら僕の顔を覗き込んでいるので、いったい何が起こったのだろうと困惑していると勇者が「気がついたみたいですね」と言葉を口にしたので僕が「何が、どうなったのですか?」と尋ねたのだ。それを聞いて勇者が「戦いに負けて死んでしまったんですよ」と言ってきたので、そこで「死んだ!?」と思い、それから「魔王は、どうなった」と慌てて聞いたら勇者が答える「貴方が死んだ後。魔王は勇者の力を手に入れましたよ」と勇者が言う。そこで、そこで僕と魔王との会話の内容を全て勇者に聞かれてしまったことに思い当たり焦ったのだ。もしや魔王は勇者を殺す為に自分の肉体に宿らせたとか? そして魔王と闇は、どんな取引をしたのだろう。その辺りの情報を得ることができない。そこで「お前は何者だ? 」と尋ねると勇者は「勇者ですよ」と答えたのである。それから「今の話の流れだと、もしかして闇に何か頼まれたか?」と聞き返す。そこで勇者は黙り込んだので、それが答えのようなものだと感じたのだけれど勇者は「その事は秘密です」としか教えてくれなかった。それで僕もそれ以上は追求しなかったのである。

そして、しばらくしてから「それじゃあ。私は行きますね」と言って去って行こうとしたのだけれど「勇者様」と呼び止めてしまうと、勇者が振り返ったので僕は勇者に向かって「助けていただいた事にお礼を申し上げます。ありがとうございました」と頭を下げてから勇者に背中を向けると勇者は嬉しそうに「気にしないで下さい。また、どこかで会うかもしれませんから。そのときは一緒に酒でも飲めれば、うれしいなと思っています」と口を開いたので「そうですね」と言った。それを最後に僕は立ち去るのであった。それから、これから、どうしようかと悩むのだけど結論が出せないまま、あてもなく歩くしかなかったのだ。そんな時に僕が歩いている場所に人が倒れていたので「大丈夫か?」と声をかけてみると人間の少女だった。

その少女は「おなかへったよぉ」と涙声で呟くのである。それを聞くと、とても可哀想に思って来た。だから僕は彼女に声をかけたのだ。

そして彼女が目を覚まして僕が話しかけた時「貴様か! 我が兄上を殺した奴は」と言われてしまい彼女は、いきなり攻撃してきた。しかも魔力による攻撃だ。

それを受けても死なないので問題は無いのだが彼女の怒りが凄まじい。彼女は「お前だけは、この場で絶対に殺してやる!」と叫び続けて魔法を放ってくる。そして何度も同じ魔法ばかり使うのだ。

だが威力の高い技は放ってこないのだ。これだと簡単に防げるのだけど、その内に飽きてきてしまって「おい、そろそろ本気で、かかって来ないか?」と言う。

それを聞いてから、ようやく相手も疲れてきたのか攻撃をやめたので「やっと本性を表したようだな」と言う。それを聞いて相手が不機嫌そうに言う。

「どういう意味だ?」と言われたが無視した。

そうしてから僕は「そういえば、まだ名前を名乗っていなかったな。僕の名はアル。魔王を、ぶっ殺す者の名前だ」と、まず最初に名乗りをあげる。すると相手は言う「我は闇の女神を守護する闇の眷属なり」と名乗るのであった。僕は「闇の女神か、あの闇女神のことだよな?」と口にする。すると闇女神の配下と名乗った女は、「あの女が私達の仲間になった事を知った以上、私も黙っているわけにはいかない」と言う。

それを聞いて僕は「つまり仲間ではないんだな?」と口にすると闇女は首を縦に振った。

それを見た後に「それじゃ。さっさと、お前を倒して。魔王の居場所を教えてもらおうかな」と口にする。

すると「調子に乗るな。私は闇を司る闇女神様に生み出された最強の闇の巫女だぞ」と闇女が叫ぶと黒いオーラのような物を体の周りに纏い始めて「闇魔法の真骨頂を見せてやる」と言って僕に向かって魔法を使ってきたりする。それに対して僕は剣を構えながら対処していくのだった。闇女の闇魔法のレベルは高いけど僕だってレベルを上げているんだから余裕なのだ。その証拠として僕の方からも攻撃をしてみることにする。すると僕の方が早く攻撃を仕掛けられる。それは相手の闇魔法よりも僕のスピードが速いからである。それに闇女の方では僕が攻撃をする瞬間を目で捉えきれないようであり僕に一方的に攻撃をされて、それから僕によって斬りつけられていく。その結果。闇女は僕に圧倒されてしまう。僕は言う「もう終わりなのか?」

すると、そこで僕の攻撃を防御した腕が折れ曲がる。その事に関して僕は闇女に尋ねると「闇神様のお力で治す」と言う。

それに対して「それじゃ。闇神様と、その仲間の所に案内してもらおうかな」と提案をした。それを聞いた途端に「馬鹿なことを言うな。私に指図をするな」と闇女は言う。

そして僕も引かない。それを聞いた闇女は「良いだろう。私の本当の実力を見せてくれてやろう。闇女神に仇なす者の力を味わうといい」と口にすると、そこで僕は「お前の全力なんて、この程度の力なんだろう?」と言うと闇女は「ふざけるなぁー!」と言って襲ってくる。それから闇女は連続で闇属性の攻撃を繰り返してくるが僕に通用せず。僕の攻撃の前に倒れこむ。そんな状態になっても闇女は立ち上がる。

それでも、まだ闇神を裏切るつもりはないみたいで、その瞳からは、まだ光を失わないのだ。そんな状況で僕は「闇神のところまで連れて行け」と闇に言ったのだ。すると闇が答えた。

「そんなことより。もっと戦いましょう」と言う。すると僕は「お前と遊んでいる暇はないんだよ」と言い返したのだ。

すると、そこで「魔王城に行くんですね?」と言われるので、僕は「そうなのか?」と聞くと、それを聞いて、また魔王の配下を名乗る少女が襲いかかってきた。僕は、そいつの攻撃を難なく受け止めてから「どうして邪魔をする?」と尋ねる。すると、そこで勇者が「その女の子は魔王城の場所を知っているのです」と言うので「そうなのか?」と僕は尋ねた。そこで、その子が僕に向かって言う「お前は勇者と闇に騙されているだけだ」と。それに対して僕は「魔王城には、どうしても行きたい」と答えを出すと闇が嬉しそうな顔で「そうですよね。勇者を、ぶっ殺したいですもんねぇ」と言うので勇者は困り顔をしていた。

それを無視してから僕は闇に向かって「勇者を始末したら、すぐに戻ってくる」と言う。すると闇は言う「解りました。お気をつけて」と返事をしてくるのであった。そして闇に見送られる形で僕は闇女と勇者と一緒に魔族の国にある魔王の城の所に向かうのであった。そんな道中で、その魔族の少女が、僕に向かって口を開いてきて。

「本当に勇者を殺す事ができるのか? 」と聞かれてしまったので、僕は「勇者を倒す為に必要な物は既に揃っているから、後は倒すだけの話だ」と言う。それを聞いて、なぜか魔族は、がっかりした表情を浮かべていた。

僕は、それから闇の巫女の子に話しかけると、やっぱり「勇者の野郎を殺すんだろ?」とか言ってきて面倒だったので「そうだ。お前に、それを止める権利は無いはずだ。勇者を倒した後で、ゆっくりと魔王の事を聞かせてもらう」と答えると闇の巫女の子は「そうか。それなら勇者は、どこに居る? 」とか言い出したので「今は俺の仲間になっているぞ」と答えたら闇巫女の子が言う「何だと! 貴様、嘘を吐いているな」と言ってきたのである。

それを聞いていた闇の巫女が「お前は、あの方に会っていないからだ。あの方は、いつも魔王城に居られ、その強さも計り知れない」などと言っているのだ。それを見て僕は、その魔王の眷属らしい闇女の頭に軽くチョップを食らわせてやる事にする。すると闇女は痛がり「な、何をする」と言うのだ。だから「うるさいぞ」と言って闇女を睨みつけると闇女は震え始める。それを見ながら僕は言う。

「俺は勇者を倒しに行くんだ。それなのに勇者の事を聞く必要があるか?」と、すると闇女が答える。

「しかし魔王様に報告をしなくては」

そんな感じなので「それなら勝手にすればいいだろ?」と言ったら「貴様には付いていけない」と僕から離れようとするのだ。そんな事を言い出すので闇女を捕まえようとしたのだが逃げられたのである。だけど逃げる前に僕は闇女に対して、「あの勇者の事は魔王に話す必要はない。だから魔王にも余計な事は言うなよ」と言うのを忘れなかったのである。

それを聞いて闇女が「わかった。でも貴様は魔王様に勝てると思っているの?」と言う。

それに対して僕は言う「勝つのは俺だ」と。そして僕は、それを自信ありげに口にすると闇の巫女は、かなり怯えた表情をして「お兄ちゃんが負けたら、どうしよう。私だけ残されちゃう。嫌だなぁ」などと呟いていたのだ。それで、この子は一体誰の妹なんだ? と思ったのだが特に聞かなかった。それから僕は彼女を連れて魔王の所に向かう事にしたのだ。そんな移動の最中に、いきなり彼女は僕の手を握って来た。

それを見ると僕は彼女に尋ねてしまう。「お前は、どういうつもりで俺に、くっついて来る?」

それに対して闇女が口を開く「お前じゃない」と言われた。だから「お前に名前を言ってもらってないんだけどな」と、つい口にしてしまう。

すると闇女が言う「お前が勇者を殺したら名を教えてやる」と言うのだった。それを聞いて、まぁ別に構わないか、と思って「それじゃ。名前ぐらい聞いてやるよ」と言ってやった。

そう言うと彼女は僕に向かって自己紹介を始める。

彼女は闇女神の守護者の一人にして暗黒を司る闇の眷属のダークネスクイーンであり僕が、ずっと探していた相手の一人なのだと言う。僕はそれを聞いて「なるほど」と言うしかなかったのだ。そして彼女の名前を聞いても、とくに驚きもしなかったのであった。

そんなやり取りをしながらも僕たちは魔族の国の中を進むと遂に魔王の住む魔王城に辿り着く。そこで闇女神の配下と名乗る者が案内人になって魔王城を進んで行った。その途中に闇女神配下の者達と出会っても僕は戦う意思がなかったから素通りしていくことにした。そして辿り着いたのは玉座の間のような場所だ。そこに行くまでに僕と勇者は何度も襲撃を受けてきたが僕にとっては敵ではなかった。ただ問題は、この城の主が僕の予想通りの人物であるならば厄介ではあるのかもしれないと思っていたのだ。だが、それは考え過ぎのようだと僕は思っていたのである。何故ならば僕たちの前に立ち塞がる者は居なかったからである。

その事に僕は疑問を抱いたのであった。その理由については僕が知る事になるのは数分後に起こる出来事だ。闇の巫女の少女は僕の腕を掴んだままで、こちらの方を見ずに黙って僕の後ろを着いてきていたが急に「お姉ちゃん。もう、ここだよ。ここから先に進むには私の許可が必要です」とか口にして「通してくれないと駄目です」とか言い出してきた。そんな事を聞き流しながら僕は闇の巫女の腕を振り払おうとしていたのだが闇巫女の方が強い力で僕の腕を掴んでくる。

それから僕は闇の巫女に尋ねる「お前は、ここに魔王が居るという事を知っているのか?」と聞くと、そこで闇の巫女は答えてくれる「当然だ」と言うので僕は続けて尋ねる「お前に、その資格はあるのか?」

すると闇の巫女が答える「私は闇神さまから許可されている」

それを聞いて僕は思う「そう言えば魔王の側近の配下だったな」

すると闇の巫女は「私と一緒でお前に勇者は倒せない」と言う。それに対して僕は言う「倒せるかどうかの問題ではない」

そして僕は、その部屋の中に足を踏み入れる。そこで闇の女神が待っていたかのように現れる。その姿を見て僕は驚くが、とりあえず剣を抜いて身構えた。それを見て勇者も剣を抜き戦闘態勢を取る。それを見ながら僕は思った。もしかして勇者も、この少女と戦う気なのか? それを考えると頭が混乱してくるのが分かるのであった。それから僕が目の前に現れた少女に対して何か言おうとする前に、その少女が僕に語りかけてきたのだ。

僕が魔族国にある魔族の王が住む魔王城の玉座の間に入るとその先に待ち受けているのが誰か? と言うことは、すぐに想像がつくだろう。そんな僕が見た人物とは魔族の国の魔王であり闇神の娘で僕の妹だと名乗った少女で闇女と呼ばれている子の姉に当たる女性だ。そんな女性が魔族の王の座に腰掛けていて、そんな女性の周囲には複数の配下らしき存在が見えるのだ。

そんな彼女達を見た時に僕の中では緊張が高まった。だけど僕に、その魔族の女王と思われる少女は微笑みかけてくるのだ。そして僕に言う。「あら。勇者は貴方の仲間にしてしまったのですね」とか言われた。それを聞いて僕は勇者の方に顔を向けると勇者は言う。

「勇者の力を持つ者の実力を確かめる必要があったので、仕方なく、そういう形にしただけです」

勇者は僕に向けて言うのであるが僕は、それどころではなくて「あ。いや、その前に聞きたいことがあるんですけど」と言い返してやった。

そう言い返すと勇者と魔族の王は同時に言う「「なんです?」」

それに合わせて二人の美少女の顔が近くなったのでドキッとするが、すぐに我に返り僕は、こう言ったのだ。「えーっと。あなたが本当に魔王で、あなたの妹の闇女も闇神の関係者で良いんだよな」と。

それを聞いた魔王は言う「確かに、私が魔王で、その闇の眷属が、もう一人の妹です。ちなみに、そちらにいる、そろそろ、その子の名前を聞かせて欲しいのですが」と言われてしまった。僕は、どうするか迷ったが、このまま隠しても面倒なので正直に「僕の名前は勇です」と言う事にする。それを聞くと魔族は僕が勇者だと知って驚いた表情を浮かべるが僕は勇者の事を詳しく説明する事にした。そうしないと話が通じないだろうし、そう思いながら、そう言う事をしていると勇者の事を魔族は納得したような態度を見せる。それを見ながら僕は勇者と魔族が話を始める前に質問をした。それは勇者の仲間になった経緯と、それに伴って、どういう風に、これから魔王を倒すつもりか? などと言った内容の話をし始めたのである。そんな話の途中で、さっきから気になっていた事が頭に浮かんできたのである。僕は、それを聞いてしまうと「お前が、この城に居たのは、やっぱり魔王になるためか? 」などと言ってしまったのだ。すると魔王は笑顔を見せてきて「はい」と言ってきたのである。僕は、そんな魔王を見て思った。魔王を、こんなにも簡単に倒せてしまうのか? と不安を感じてしまう。だが、この子が僕の妹だと名乗る少女が、どんな奴かは知らないが勇者が言うには勇者に匹敵するほどの強さらしいのだ。

そうなると僕の力が通用しなかった理由が、よく解らなくなる。なので魔王に「君が僕と同等の力を持っているとは思えないんだけど?」と言うが魔王は首を傾げるばかりだ。そんな魔王に僕は勇者との戦いの中で僕の持つ武器と同じような物を彼女が持っていた事を告げると魔王は驚いていたが勇者と二人で僕に対して言う。「「それで勝てたんですよね?」」と言うのだ。それで、そんな二人に対して僕は答えていた。「それが僕にも、わからないんだ」

それを聞くと魔族の王も闇の巫女も困った顔をするので僕は「そんな事よりも」と言う。それに続いて僕は魔族の王に言う。「魔王の座を譲って貰えるか?」と、そう告げると魔王が「嫌ですよ」と返事をしてくる。それを聞いて僕は言う「なら戦わないか?」と。すると魔王は言う「それは構わないのですが、どうやら貴方は闇神が私に与えた力を、ほとんど使いこなせて居ないようですね」と僕が弱いと思っているようだ。その魔王の言葉に対して僕は反論をする事にする。僕は今までの戦いを思い浮かべたのだが、そこで僕は思い出す。あの勇者が持つ聖剣が僕の持つ神刀に似ていたのに、なぜ、この少女は気がつかないのか? と、それを確認するために僕は魔王に「なぁ、ちょっと、いいか?」と声を掛けて確認をしてみたのだ。それに対して「なんです?」と尋ねられたので僕は尋ねる。「あんたが僕が持っているのと似ていると思うんだけど、その勇者が使っている剣は君の作ったものか?」と、そう言うと、それに対して魔族の王が少し考えた後に口を開く。

「私の作り出す闇の武具は、あくまでも私が使うための物であり勇者の為の武具を作った覚えはないのですが、どうして勇者が使っていても何も言わなかったのですか?」と尋ねてきたので僕が答える。「あれが僕の世界にある物と同じ形をしているのが不思議だったから、それだけの理由で調べさせて貰った。それで答えが出たのが、お前が僕の世界の産物を使ってないからだ」

そう伝えると魔族の王は「そうですか。それでは戦いましょう」と言う。そんな会話を聞いていた闇の巫女が「勇者は負けませんよ」などと意味の解らない言葉を口にしてきた。それから魔族の王は僕に話しかける。

「それでは、お望み通り戦うとしましょう」と魔族の王の口から言葉が出ると、それに勇者が声をかける「魔王。私も参加しますから、よろしいでしょうか?」と言ってきた。僕は思う「俺も勇者も手の内は知っている。それでも構わないのか?」と聞いてみる。すると勇者が言う「私達は既に何度も訓練を行っていますので大丈夫です」と言うので僕は魔王の方を向いて尋ねる「準備に、どれぐらい時間を使う」と、すると魔族の王が言う。「そうですね」

そして魔王は指を一本立て「三十秒だけ待ってやる。その間に勇者と戦って、どちらが強いかを決めておくのだぞ」と言い出していた。

それから魔王が僕に対して言う「勇者と戦う前に教えておきますが、その鎧は闇の力で作ってあります。それならば私でも破壊できるかもしれません」と言われたので僕は「それは無理だよ」と言う。それを耳にした魔王は僕の方を見ながら「それなら私も本気で行きますので貴方も本気になって下さい」と言われるので僕は言う。「その必要はない。俺は初めから全力でいく」と答えておいた。そんな僕の言葉を耳して勇者は言う。「その余裕は私に勝てると思っての発言なんでしょうが貴方の事は知っていますよ」

それを聞き僕は勇者に向かって言う。「そうか。お前は本当に、その魔王の妹の力を使いこなせているみたいだな」と勇者の方に歩み寄るのであった。

僕は目の前に現れた勇者の姿を眺めて思った。やはり勇者の格好をしているので勇者にしか見えない。

その勇者の姿を見ていて僕には違和感が、いくつかあった。

まず、その勇者の剣が普通じゃないのだ。僕は最初に会ったときに見たときは聖剣だと疑わなかった。だが今は、その武器の見た目と中身が全然違うことに気がつく。そもそも外見が違う。僕の知っている形とは違い、この世界で作られた物だから、もしかしたら別の種類になっているのかとも思ったけど明らかに違うと分かるほど別の存在に変わっていた。だからこそ僕は魔族の国に来たときには、こんな感じの普通の聖剣を魔族達は作れたのだなと勝手に想像をしていたけど現実は全く違っていた。なぜなら目の前にある聖剣からは、それほどの力を感じ取ることが出来なかったからである。そして魔族達が僕に見せてきたような神性は、そこからは微塵も伝わってこなかったのである。そんな勇者を見ていて僕は勇者と話をするために近づいていった。すると僕の前に闇女が立ち塞がり言う「貴様。闇神さまの御前で無礼だ」と言われて僕は足を止めた。そして、それを聞いて僕は言う。「闇神は僕と話をしたいと、言っている。邪魔をするのなら容赦しない」と言うと闇女が言う「私は魔王様の命で、ここに立って居る。もしも魔王様に牙を向くつもりなら私に倒されてからにしろ」

それを聞いた僕に魔族の女が続けて「魔王様の慈悲に甘えて大人しく退くか? それなら痛い目に合わないですむぞ」と言われてしまう。そんな事を言われた僕は言う。「そう言われてもな。この子達と話し合いたいんだけど駄目かな?」と言うと、それを聞いて魔族の王は言う「この者たちに、なにか用があるのであれば魔王城まで来てください。私が、おもてなししましょう。ですが、それ以外の目的であれば此処から出て行ってもらいたいのです。ここは貴方のように人間が入っても良い場所では無いのですからね」

僕はそれを聞いて魔族の王に尋ねる。

それは「じゃあ聞くけど僕を殺す為に君たちが作った武器や道具とかは使わないんだよな?」と言いながら剣に手を伸ばして見せたのだ。だけど、それを見ても彼女は僕に対して警戒心を見せることも無く「はい」と言う。それを聞いた僕は、それを信じて彼女の妹と思われる少女を見る。そんな僕の様子を勇者も見ていたのだが彼は僕の事を心配するような視線を送ってきていた。そう言えば、こいつは僕の事が好きなんだった。などと考えていると魔王は、それを見て僕に言う。「魔王城の中に入って良いのですか?」と尋ねられたので僕は言う。「僕は、ここに何時でも入れるように許可されているんだ。それで構わないか?」と、すると魔族の王は笑顔を浮かべ「もちろん構いません」と言ってくれたのである。そう言いながら僕たちは魔王に連れられて王の間に行く。その途中、僕は自分の持つ力を確認する事にしたのだ。すると闇女の気配を感知出来たのだが僕は言う。「おい。その闇女。さっき、こいつを俺の嫁になると言っていたな」と勇者の事を見ながら彼女に告げた。すると彼女だけではなく僕の仲間達にも動揺が広がった。特に勇者に関しては僕の方を振り向いてくると驚いた表情を見せていたので「嘘なのか?」と言うと勇者は「いえ。そんなことは、まったく思っていませんでしたよ」と答えた。

なので、そのまま僕は言葉を続けようとして彼女が口を開くより先に魔族の王に対して言う。「僕の仲間の女の子たちなんだが。お前が、もし僕を婿に迎える事を考えるというなら魔王城の姫達に頼んでも構わないか?」と、お願いをすると、なぜか魔王は顔をしかめて勇者の方を見て言うのである。

「勇者。貴方は本当に、そのような事を考えていたのですかね」と言うが勇者はそれを聞いて戸惑う。そんな様子を魔族の王は見てから僕の方を見つめると魔王は「魔王城を治める立場にいる魔王としては、貴方のような人物なら、ぜひ迎えたいと願っています。ただ、その件については魔王城に、来て頂かないと話しが進みません」と言ってきた。

そこで僕は魔王に対して質問する「もしかして、こっちの世界で結婚しているのか?」と。それを聞くと魔王は首を傾げて答えた。

「いいえ、まだ結婚していません。ですが、これからする相手は居ます」と言うので僕は勇者の顔を見た。すると勇者が僕と目が合った瞬間に「違います。違います」と慌て出したので、それを見ていて僕は勇者の気持ちを考えてしまった。勇者にとっては、それは嫌なことなのだろうと思ったのだ。

僕自身は別に嫌ではないので勇者が、そう望むなら問題ないと思うのである。だが、ここで下手に僕も、その話に混ぜるのも悪いと思うので何も言わずに魔王の話に集中することにした。そして僕は尋ねる。「その人は僕に似ているのか?」と、すると魔王は少しだけ困った顔をしながら答えてくれる。

「はい。貴方と非常に似ています。それで、どうしてですか?」と聞かれたので僕は正直な所を言う。「僕の妻達は皆、魅力的だから僕が妻を増やすことに嫉妬したり、僕を独占したがるんだ」と言うと魔王は納得してくれたのか微笑みながら言う。

「その通りですね。私は、そんな風に想ってもらえたら嬉しいですよ」と口にしたので僕も「そうだな」と返事をしたのであった。それから僕は尋ねる。

「魔王城に行ってから会えるんだよな」

その問いかけに魔王は「もちろん、会いに行きますよ」と嬉しそうに言ってきた。そんな二人の様子を見て僕たちの前に出て行こうとする人がいた。

それは魔王の妹を名乗る女だ。僕は、そいつが何をするつもりなのかが分からずに見ていると、いきなり攻撃された。その攻撃を僕と魔王は避けなかったのだ。何故ならば僕の方に振り下ろされるはずの武器が途中で止まって、それを見ていても仕方がないからである。そして僕が剣を止めるために剣に触れると武器が砕け散って魔王の妹は言う。「この力は、まさか貴方の力か!」と言われたので僕は言う。「ああ、そのとおり。お前も魔王城に連れて行ってくれ。そこで話し合おう」と言うが、それを魔王が止める。魔王に止められたので僕も仕方なく手を放す。それから魔王が「妹が無礼な真似をして申し訳ありません」と言うので僕は「気にしていないから大丈夫だよ」と魔王に伝えた。それを聞いた彼女は僕の顔をジッと見つめてくるので、それに対して僕は言う。「どうした? 僕の顔をジロジロみて、どうかしたのか」と、その言葉で、ふと我に返った彼女は言う。「私は今まで貴方と会った事が、あるのでしょうか? 記憶に無いので分かりません」

それを聞き魔王は言う。「それは、きっと気のせいでしょう」と答えてくれたので僕は魔王に向かって言う。「それなら良いが、あまり無茶をするなよ」と言いながら僕たちは、また魔族の王と一緒に歩き出す。だが今度は魔王は付いてこずに置いていかれたのだ。だが僕は魔王を追いかけて行きながら彼女に言う。「さっきの剣が当たらなくて良かったな。怪我が無く済んで、よかったな」と言うと魔王が「ありがとうございます」と礼を言って来た。

魔王が僕の事を好きだと言っても僕には好きな女性がいるのだから、そういう事は控えて欲しいと思っていると僕の前に闇女の気配を感じ取ったので僕は闇女の名前を呼ぶと闇女は僕の方を向いて言った。

「闇女です。覚えて下さい」と闇女は自己紹介してきたので僕は言う。「僕の名前は、知っているだろ?」と聞き返すと闇女は僕から距離を取った。僕は慌てて、その距離を詰めるために歩くと、すぐに闇女に掴まえて僕は抱きしめる。そんな僕の行動を見ていた勇者は羨ましそうな目つきで見ていたので僕は勇者を呼び寄せた。そして、勇者を僕の横に並ばせてから僕は言う。

「僕に、こんなに沢山の婚約者が出来たけど、君は誰と結婚するんだ? やはり幼馴染の彼女とかなのか?」と言うと勇者が頬を膨らませているので僕は聞く。

「どうしたんだ? そんな顔して何か文句でもあるのか?」と聞いてみたが彼女は黙り込んでいたので僕は魔王に声をかけると魔王に聞く。

「なあ、この国で一番可愛い娘は何処に住んでいる?」と質問をすると魔王は答える。「魔王城に住んでいますよ」と言うと僕は言う。「そうか。なら案内してくれるか?」と言うと魔王が「いいですが。魔王城に居る姫様たちにも用があるんですか?」と質問してくるので僕は素直に「ある」と言う。すると魔王が僕に「姫達に会いに行く前に私の家に寄っていただけませんか?」と言うので僕は言う。「分かった。じゃあ頼むよ」と言いながら僕は闇の中に消えて行く魔王達を見送っていた。そして暫くすると勇者も消えたのだが僕は彼女を抱きかかえてから、その場所に残っていてくれる人達を見て僕は「おやすみ」と言うと皆が一斉に笑顔を見せて「はい」と答えたのである。

そして僕たちが移動を開始すると勇者は言う。「ところで魔王さんに聞いた話だと貴女の家は、ここみたいですね」と指を刺したのは僕の家だったのだ。その事について僕が驚いていると闇女が僕を背中を押しながら言う。「さっさと中に入りましょう。それと、ご主人様に変なことを吹き込むと闇に引きずり込まれますので、注意をするように」と忠告してくれたので勇者が慌てたように言う。「私は、そんなつもりはありませんよ。そんな怖いことはしません」と言っていたが僕の家の中に入ってくると勇者は、まず母の姿を見ると「おかえりなさい。私のお母さん」と挨拶したのだ。その言葉に、いきなり勇者に抱きついて涙を流そうとした母だったが僕は、そこで言う。「待て。僕の母は、もう亡くなっているはずだぞ」と言うと勇者は首を振ったのだ。

そう勇者は僕の言葉を訂正するかのように首を振って僕に説明を始めてきたのである。「それは間違っていないのですが、ここは、あくまでも精神体の世界なんですよ。なので死んではいないんです」と僕に言うのである。僕は彼女の言っている事を理解すると確かに、そのとおりなので「確かに」と答えた。それから僕達は家のリビングに移動すると闇女と勇者と僕の三人だけが残ったのだ。

そして僕は闇女と勇者が話している間、暇だったので外に出る。僕は自分の身体を動かし確かめるように、ゆっくり歩いて行くと魔王の妹が僕の元に駆け足でやってきた。僕は彼女に対して話しかけようとしたが彼女が僕の方を見ると同時に僕の胸の中に入って来て泣き出してしまった。僕は彼女を慰めながら「どうしたんだ? 何があった?」と声をかけると彼女は答えてくれた。「貴方は、ずっと私が愛している人の、そのままなのですね」と言われてしまう。

僕は「僕も君を知っている気がするが思い出せないんだ。だから、もし僕と過去に出会っていて僕の事を覚えているというのなら教えてくれるかな?」と言うと彼女は「はい。分かりました」と答えてくれる。僕はその返答を聞いて少し安心していると僕の周りに大勢の魔族が近づいてきた。その中には当然、魔王も居たのだ。

魔王も妹と同様に涙を流して僕の方に近づき僕に、こう言ってきた。

「勇者は、ここに居ても大丈夫ですよ」と言われると勇者は「でも貴方達の邪魔をしてはいけないと思いますから。私と他の皆さんは外で話をしています」と返事をすると魔王は微笑んで言う。「その方が、ありがたいです」と言いながら彼は妹と一緒に外へ出て行ってしまう。それから僕は、なぜか周りに人が集まって来てしまった。しかも僕の傍には聖剣と呼ばれる存在がいるので、なおの事、僕は皆の注目を集めていたのであった。

そこで僕達は何故か僕を囲むような形で会話をしている。その中で僕は聖剣が僕の目の前に現れた時に「僕は死んだんじゃないのか? なのに何故、僕の傍に居られるんだ」と聞いてみる。

「俺は俺の事を神と呼んでいる存在の願いでな。俺の本来の力を、その少年に分け与えて貰ったんだ。だからお前を助けることが出来たんだよ」と聖剣は言うので僕は疑問に思っていたことを尋ねてみることにした。「お前は何で僕を助けたんだ?」と聞いてみた。その言葉に答えてくれたのは僕の腕の中に納まっている闇女だ。彼女は言う。

「この人は、とても寂しがり屋で一人きりになると泣いてしまうような人だったから、いつも誰かが傍に居るようになって欲しいと思ったから」と闇女は僕に説明してきた。それを聞きながら僕の頭に一人の少女の顔が思い浮かぶ。そして僕は、その子の名前を叫ぶ。

『華子!!』と叫んだ瞬間、僕の頭の中には今まで忘れてしまっていた様々な記憶が一気に蘇ってくるのであった。僕は自分の中に記憶が戻ってくると共に自分が、どれだけの過ちを犯している事に今更気づいてしまい心の中で後悔をするのだった。

その記憶を思い出したことで僕の目からは涙が流れ始めた。僕は泣くのを止めようとしないで、そのまま泣き続けると僕は周りの人に抱きしめられて落ち着くまで待つことになった。そして僕は気が付くと僕は魔王城の魔王の自室にいた。

僕はベッドに横になっている状態であり魔王は僕の頭を撫でてくれていて僕は魔王に向かって尋ねる。

「どうして、僕は此処にいるんだ?」

僕の問いかけに対して魔王は嬉しそうな顔をして言う。「それは、あなたが自分の家に帰りたいと泣いたからでしょう。だから私たちも協力したんですよ」と言うので僕が照れくさくなり黙っていると見つめてくる。そんな魔王に向かって僕は言った。「ありがとう」と感謝を告げたのである。それに対して魔王は頬を赤らめて言う。「私は、貴方の為に何でも出来るんですよ」と言ってきたので僕は困った顔をすると魔王が頬にキスをしてきた。それを見た聖女が「抜け駆けは、ずるいわよ」と言うと魔王が慌てて言い返す。

「そんなつもりは無いのに、なんで、そんなこと言うんですか!」と二人は口論を始めたが魔王が「じゃあ一緒に寝ましょう」と言うので僕達は三人とも一緒に寝る事にしたのである。しかし僕は夢の中に華子が出てきてくれていたので僕は目を覚ます事無く朝を迎える事になった。そして僕の寝ている部屋には僕以外の全員が集合していて僕は皆から心配された。それから僕は皆から、いろいろと話を聞いたのだけど僕には皆に迷惑をかけた事を申し訳なく思った。

それから魔王に僕を元の世界に帰して欲しいと言うお願いを僕はする事に決めた。僕は勇者に、そう伝えると勇者が僕に向かって言ってくる。

「なら貴方の力を分け与えなければいいだけの話じゃないですか?」と言うので僕が反論しようとすると勇者が僕に対して言う。「貴方だって分かっていますよね。その力は、もう私では制御出来ないほどに成長してしまっていますよ。それに貴女自身も分かっているはずですよ。その力で貴方の身に何が起きるか分からないって」と僕に伝えてきたのだ。それを言われてしまうと、ぐうの音も出ないので僕は素直に謝ることにして勇者に言う。「そうだったね。君は、僕の知っている勇也とは違うみたいだから、これからも、宜しく頼むよ」と言うと僕は彼女の手を掴んで握手をして彼女と約束を交わすことにしたのである。そうすると僕の手は光だし僕に何かを送り込んで来た。僕自身は何も感じていないのだが周りから見ると僕の周りに黒い何かが見え始めてそれが次第に大きくなっていくと、そのまま僕の体も黒く染まっていくように変化していったのである。

その現象を目にした者達は怯え始めるのだが、そんな中で魔王は僕を見て笑顔を見せながら言ってきた。

「お別れの時間ですね。これで貴方と離れていても私は安心できます」と言われてしまう。僕は勇者と握手をしながら僕は彼女の顔を見て「君の事を大切に思っていいかい?」という僕の言葉を聞いた彼女は笑顔を見せて「いいですよ」と答えてくれるのだった。その返事を聞いて安心した僕は彼女に微笑むと言ったのだ。「ありがとう」

魔王が消えて勇者だけになった所で僕は魔王の妹を連れて勇者と一緒に街に買い物に出かけることになるのだった。僕は街の中を歩くと人々の様子がおかしいことに気がつく。

どうやら人々は僕の姿を見ると逃げ出すのだ。

そんな様子を眺めながら僕が考えていると、そこで聖女と魔王が現れる。そして魔王は、こう言ってきのだ。

「やっと元に戻れたんですね。本当に良かったわ」と言うのである。

そう言われると確かに僕も自分が元に戻っているのを感じ始めていたのであった。

僕達は勇者の案内により商店街にたどり着いた。そこには勇者の仲間達も姿を見せており僕は彼らの姿を見て懐かしさを感じる。だが僕が一番気にしている事があった。僕は勇者の方を見ながら尋ねる。「あの人達とは戦わないんですかね?」と言うと勇者は言う。

「彼らと戦いますが貴方と戦うわけではありませんよ。貴方と私の決着をつけなければならない理由は、どこにもないと思いますけど違うかしら?」と言われて僕は、その通りだと思うしかなかったのである。それで納得をした僕であったが聖女の事が少し気になっていた。

彼女が何を思っているのか僕は、まだ知らなかったからだ。だから彼女に声をかけることにするのだが僕は彼女の姿を視界にとらえると言葉を失ってしまう。なぜなら聖女は僕が着ていた学校の制服を着用していたのだ。僕は、すぐに「その格好は何なんだ?」と聞くと答えてくれるが僕にとって予想外な答えをしてくる。彼女は僕に答えた内容は僕の質問に対する返事ではなかったのだ。それは彼女が「似合っていますか? これは私が学校に通いたいと思って買った服なんですよ」と言いだしたのである。僕には意味がわからなかった。どうして、そこまでするのだろうか? ただ単に僕の傍にいる為だけに、ここまでする必要はなかっただろうにと思ったからである。それでも僕は答えを出したのだ。「確かに似合っていると思う」と言うと彼女は笑顔になって喜んだのだ。それを見てしまった僕は照れてしまい頬が熱くなってしまう。

それから勇者の先導によって目的地に到着する。その場所に僕は驚きながら立ち止まってしまう。なぜなら、そこにあるのは僕の店だったのだから。

僕の様子を見て彼女は笑いだす。そして勇者が僕の傍に来て言う。

「貴方のお店の店長は私ですから、この店を潰すなんて許しませんよ」と言う。その言葉で僕は全てを理解したのだ。この勇者は僕が知っている勇者ではないと。僕が知っている彼女なら僕の店が潰れたら僕を雇う事など絶対にしないはずであると気づいたからこそ、この言葉が信じられなかった。

だけど目の前に広がっている光景が現実であることを教えてくれるのであった。なので、このまま放っておくこともできないと思った僕は、この場から去る事にしたのであった。僕が去ろうとすると勇者は僕にこう告げてくる。

「また会える日を待っております」と言うので僕は「ああ、そうだな」と返事をすると僕はその場から離れる。

それから聖女は僕の傍から離れようとしなかった。そのせいで僕は困っていたので僕は聖女の肩を掴みこう言った。

「離れてくれないか? 歩きづらいだろ?」と伝えると彼女は悲しそうな顔をすると僕の腕に自分の腕を絡めてくる。

その行為を見た聖女の姉が僕の傍に来ると僕から聖女を無理やり引き離してくれる。僕は姉に言う。

「ありがとう」と感謝を告げると彼女は、その言葉を聞くなり笑顔で返してくれるが直ぐに僕から遠ざかっていくのだった。それを見届けてから聖女が「貴方に渡したい物が有るんです。受け取って下さい」と言って懐から一つの手紙を取り出して差し出して来た。それを受け取った瞬間に封筒の中に有った写真が飛び出して来るのだった。僕は驚いた。そして写真の中身を確認した時に、それは僕の写真であることが分かり。しかもメイド喫茶のコスプレをしている僕の姿が写されていたのだ。僕は怒りを覚えずにはいられない。

それから僕達の前には巨大な城が見える場所に着く。

そこで勇者と別れることになった。

勇者に別れを告げて僕と勇者の仲間達は城に向かうと城内に居たのは魔族の兵士で僕は兵士達に囲まれるが彼らは襲ってくるような事は無かった。その理由が分かるまでは魔族は人間に対して、そのような行動を取ることはないと思っていたのだが僕が、たまたま目に入った人物に対して僕は心を奪われた。その人物は美しい銀髪の少女であり彼女は僕が昔に遊んでいたゲームのキャラに非常に似ていたのである。僕は彼女の名を呼んだ。

「ミリー?」と僕が呟くと、その女性は僕に話しかけてきた。

「どうして私の名前を、ご存知なのかは知りません。でも私の名前を呼ぶ人は一人もいないんですよ」と言ってきたのだ。それを聞いてしまった僕は罪悪感を感じてしまい。何とか彼女に、その罪を償おうと考えたのだ。だが僕に、できる事は限られてくる。だけど僕に出来る事だけでもしていこうと思った。まず僕は彼女に近づくと、そのまま彼女に抱きついたのである。そして僕が彼女に告げた。

「僕は貴方が好きだ。結婚してくれ」と言うと、それに対して少女が僕を突き飛ばしてしまう。そんな彼女に、なぜ拒絶されたのか分からない僕が呆然としていると少女は泣きながら僕に告げる。

「いきなり何を言うのよ。馬鹿じゃない」と言うので僕は彼女を落ち着かせようとしたのだが上手くいかない。そんな様子を勇者の仲間達が見ていたので僕は助けを求めることにしたのだけど彼女たちは何故か僕の話を信じてくれず僕から彼女を引き離そうとする。そこで聖女の母親が僕に向かって叫ぶ。

「駄目ですよ。その子と離れてください」と言うが聖女の母親の言葉に勇者は怒る。

「貴方は、何を言っているんですか! こんな状況の時に!」と勇者の仲間達に、そう告げた。だが、その声を聞いた勇者の母親は更に、ひどい事を勇者に伝える。

「だって仕方がないじゃないですか。貴女たちの誰かが、その男性と結婚すれば済む話ですよね。私は嫌です。この国の王として貴方が魔王の力を取り込んだ以上は貴方の命も狙わなければならないので、この場で殺します。勇者さんお願いしますね」と言うと僕は魔王の魔力の影響を受けている影響が出てきていた。僕は自分が意識を保っているのが、やっとだったのである。そんな僕を見て魔王は僕を抱き寄せてくれる。魔王の行動を見て勇者も僕達の間に入ってくるのだが僕達は勇者達を殴り飛ばした。そして僕達は勇者達と戦う事になってしまうのだが勇者達と僕達の戦いを見て聖女の両親は言う。

「もう駄目ですね。これは戦いになりそうにもありませんよ。あの勇者様方を相手にするのは危険ですね。ここは引くしか方法はないですね」と言うので僕は疑問をぶつけてみる事にしたのだ。「どうして逃げる必要があるんだ? あんたらの大切な息子なんだろ?」というと聖女の母は答える。「えぇ、私にとっては大事な息子です。ですが、勇者様方にとっても、あの子は、とても重要な存在なのでしょう。もし私たち夫婦が死んでしまった場合、あの子が狙われてしまうのは明白です。なので私は魔王様に全てを任せます。この子を守ってください」と言われる。僕は魔王の表情を見ることにしたのだが彼女の表情は勇者を見つめていた時のものと違い、何かに絶望しているような顔をしていたのだ。だから僕は魔王に、ある事を伝えることにした。それは勇者の事だ。彼女は勇者を愛しているのではないか? 僕は、それが言いたかったのだ。僕は魔王にだけ聞こえるように魔王に囁きかけたのだ。すると魔王が涙を流す。だが彼女は笑顔を見せてくれた。そして僕の耳元に口を近づけて、こう言ってくれたのであった。

「貴方のおかげで、やっと思い出す事ができました。本当にありがとうございます。あの人が愛しているのは私ではなくて私の妹の事なのです。その妹が私の目の前に現れる時を、ずっと待っているそうです。ですが、その願いは叶うことがないかもしれません」と言うので僕は尋ねる。「どういう意味なんだ?」と聞くと魔王は答えてくれた。

勇者と魔族の国には一人の姉妹が居る。その二人の仲は良いのだが姉の方は勇者の恋人に想いを寄せるようになっていた。だから彼女の心は勇者と結ばれたいと強く思うようになってしまったらしい。それで彼女は魔族である自分より人間である勇者と結ばれた方が幸せになるのではないかと考え始めてしまい魔族から抜けようとするようになった。だが魔王の妹に、それは不可能に近いと止められたので彼女が魔族を抜けるのを諦めたのは事実だそうだ。僕は、そんな話を聞いていた。それから彼女は僕の顔を見ると僕に笑顔を向けてくれるのであった。その笑顔が、どうしようもなく嬉しく思えたので僕も笑顔で返す。

それから僕達は魔王の案内によって僕と聖女が暮らす家にたどり着いたのだった。そこで勇者が僕の体を見ながら聖女に言う。

「この人に貴方が勇者であると言う証拠を出せばいいのでは?」と言って聖女は言う。

「そうよね。じゃあ手を出して」と言うと僕の右手を手に取り薬指に指輪をはめてくれる。それから彼女は自分の首からペンダントを外すとそれを見せるのだった。そのペンダントは銀色の十字架の形をしていたのだ。

聖女は僕の顔を見ながら言う。

「これで貴方の勇者であると言う証明は、これ一つだけで済ませられると思うわ。ただ貴方の正体については黙っていてもらえるかしら?」と尋ねられたので僕は言う。

「分かったよ」と言うと彼女は、どこかに去って行ってしまう。そして僕の傍に残った勇者が言う。

「これから一緒に暮らしていく仲間なのだから、ちゃんとした紹介はしておきましょう」と言うので僕が質問する。

「勇者は、この家で何をするつもりなんだい?」

僕の問いに勇者が答えてくれる。

「この家の管理と維持かな? 後は聖女さんの世話とか? とにかく家事全般は私が引き受けるつもりでいる」と話すので僕は勇者に頼む事にした。

僕は彼女に「家の中にある食料を全て渡しておく」と言い僕は自分の家から食べ物を持ち出したのである。その量は普通の人間の量だと確実に食べきれないほど多かったはずだ。

だけど僕は彼女の言葉を無視して言う。

「勇者に頼みがある。聖女が勇者と僕の前に来た時に聖女が勇者を殺そうとする可能性が出てくる。それを防ぐためにも勇者に頼みたいことがあるんだ」と言うと勇者が僕を見るなり真剣な顔をして言ってくる。

「なんでしょうか?」と勇者に尋ねられて僕は勇者に言う。

「君と聖女には、しばらく二人きりになってもらう。その間に勇者と僕の関係を修復しておいてほしいんだ。聖女が僕に対して殺意を抱かないようにね」と言うと勇者は、その理由を聞くので僕は素直に彼女に答えることにする。

「僕達が一緒に暮らせば、きっと僕は勇者を殺してしまいそうになるからだ」と言うと勇者は言う。

「そんな事にならないようにするから、心配しないでほしい」と、そう告げてきたのだ。そして勇者と僕は外に出ると聖女の父親は勇者に頭を下げてから僕に、ある事を告げてくる。

「魔王様に会わせてもらえないだろうか? お話したいことが有るのです。もちろん、その許可が出たのなら私は勇者殿を連れてすぐに去りますので、どうか私にチャンスを与えて下さい」と、そう告げてきたのだった。その申し出に僕は断る理由はないので聖女の両親と共に城へと向かうことになったのである。

僕は聖女の両親が僕に付いて来るのは構わないと思っていたのだが、その道中が大変な事になるとは予想していなかったのである。それは勇者が、その力を発揮させる場所だったのである。彼女は僕に言った。

「ここから先、私は貴方と行動を共にしても、よろしいですか?」と言ってきたので僕は勇者の言葉に従うことにして彼女の同行を許したのだ。だが、この先に待ち受けるのは強敵ばかりなので僕は気を引き締めた。その最中で勇者は僕の腕に掴みかかりながら言う。

「私は貴方を守り抜きます。貴方が死ぬことになれば魔王も死を選ぶことになるのは明白です。そうなれば、この世界に未来はなくなる」と言うので僕は彼女に、どうして、そこまで勇者は自分の恋人のことを気に掛けてくれるのか聞いてみた。そうすると彼女は悲しそうに語り始める。

「実はね。私の妹も同じことをしたんだ」

彼女から告げられた言葉の意味を理解できずに首を傾げているとその光景を見た聖女の父親が僕に向かって叫ぶ。

「貴様は何者だ? どうして勇者様に、そんな口が利けるのだ!」と怒鳴るのである。その行動を見て僕と聖女の両親は聖女の父親の態度に驚き、お互いに顔を見合わせてから彼の発言に疑問を感じる。なぜならば彼は魔王の関係者なのだが、そんな事は関係ない。僕は、そのまま彼に向かい言う。

「貴方こそ何者ですか? どうして貴方は、そこまで魔王を慕うんですかね?」

勇者は、その問いに即答する。

「私は勇者です。それ以上でも以下でもない。魔王を敬う理由が有ろうが無かろうが、この世界で魔王の存在は必要不可欠です。だから私は貴方も守る義務があるので」と答えて僕は納得できないまま聖女の父と別れることになったのであった。

僕と勇者が二人で聖女の家に戻って行くと家の前には一人の人物が居た。聖女の父親だ。彼が勇者を見つけると勇者に抱きついて「よかった! 生きていてくれて」と告げると勇者は言う。

「お父さん、久しぶりですね」

勇者は嬉しさを堪えきれずに泣いてしまう。そして僕と魔王の事を見て聖女の父は言う。

「お前が、ここに居るってことは、あの方は、もう亡くなられたのだろうな」と残念そうに口にしていた。僕は、どうして勇者の父と魔王が知り合いなのかを尋ねると彼女は答えてくれた。魔王の妹は魔王と勇者の母親の間に生まれた姉妹の一人娘だったのだ。それで彼女の両親は聖女と同じように仲が良かったらしい。その娘が勇者と恋に落ちた時はとても驚いたそうだ。魔王は人間と結ばれるために自らを犠牲にしようとしたのだから仕方がないと僕は思いつつ、この世界には本当に魔王を敬愛している人物が多く存在するのだと思うのであった。

勇者が、僕達の方に視線を向けるなり涙目で言う。

「どうして貴方達だけが生き残ったの?」と言うと僕達は勇者を宥めようとするが彼女は涙を止めることなく言い続ける。

「私は貴方に死んで欲しくなかった。だから私は自分の命を賭けてでも貴方に、あの薬を使った。それなのに貴方は生きている。それが私にとっては耐えられないの。私のせいなの」

僕は彼女を、なんとか落ち着かせようと頑張るが無理だったので聖女の家に勇者を連れていくことにしたのだ。それから僕は彼女の背中を押したり引っ張ったりしながら何とか聖女の家まで連れていった。

それから勇者は家の扉を開けようとすると鍵は掛かっていなかった。それから彼女は中に入り僕を睨むなり言ってくる。

「貴方が勇者を殺したの?」と尋ねられるので僕が何も言わずにいると彼女が僕に駆け寄ってきて泣き出してしまう。僕は、そんな彼女の肩に手を回す。すると彼女は、その手を払い除けようとするので僕は手を引っ込める。だが、その直後に再び僕の手に彼女は自分の手を絡めてきた。その事に僕は驚く。そして僕は彼女が、どんな行動をしているのか理解できなかったのである。だが彼女が僕の手を振り払うことはなかったのである。それから彼女が落ち着きを取り戻すと僕に謝ってくれたのだ。それから僕に勇者に、どうやって彼女が生き返ったかを聞かせてくれるのであった。

彼女は、あの薬の効果について詳しく教えてくれる。それは僕の予想通りに、かなり危険な効果だった。まずは僕が魔王の体に乗り移っていた時の副作用によって僕の体も闇の力に取り憑かれ始めていたようだ。それが原因で僕は勇者との戦いで致命傷を受けても死ぬことができなかった。それから闇の女神は、この僕の体を利用しようと考え始めたので僕は意識を取り戻しても、なかなか起き上がれずに眠り続けてしまう。その間に魔王を勇者が殺せば、そこで僕の死が、ほぼ確定した状態になると考えていたのだった。そして女神は、さらに僕の体を乗っ取ろうとして僕に近寄ると僕の心臓を奪い取ってから僕の体に植え付けたのだ。その結果として僕は完全に死ぬことになるはずだった。しかし勇者は僕の事を必死で守ろうとすると僕の体の胸のあたりに勇者の武器を使って突き刺した。その瞬間に勇者は死んでしまう。勇者は自分が死んだとしても僕の体だけは生かそうとしたのだ。それによって彼女は勇者が死んだことによって僕に掛けられていた術式が完全に解けてしまったので蘇生に成功した。その事を知った聖女と勇者の母親は僕と聖女の父親の関係を、どうにかして元に戻そうと考えてくれる。そのために勇者は僕の為に死ぬ覚悟で僕の中に残っていた闇の力を完全に浄化してくれることになった。だが僕には勇者が殺される光景は、どうしても想像できなかった。だが僕は、この聖女の両親の前で、その事を勇者に伝えようと思うが聖女の父親は僕を疑っているようで僕は困り果てていたのである。そんな時に勇者が僕に向かって微笑みかけてくれる。

「心配することはないよ。大丈夫」と言うと勇者は家の奥にある倉庫に向かって行くと僕に剣を持ってくる。

その剣は銀色の十字架の形をしたペンダントと同じデザインの銀で作られた剣であり勇者の宝物の一つだったのである。その事を勇者の父親は知っていたので、それを見せてもらうように頼むと勇者はそれを了承してくれたので勇者の父親に見せてもらったのだった。僕はそれを触ると懐かしくて心が落ち着く感じになったので、なぜか、これを手に持っていたいと思ったのだ。だが勇者の父親は言う。

「それは私も欲しいです」と言い出したので僕と勇者の母親が相談してから僕が譲ることにしたのだ。その剣の名前は魔殺しの聖十字と言う名が付けられている剣で本来は僕のような魔王と戦う存在しか装備することができない聖具でもある。僕以外の人間が使えば確実に呪いを受けてしまう代物だ。勇者の父は「こんなに美しい剣があるなんて信じられない。私には、どうしようもないほどの美しさに思えて、たまらなくなるほどだ」と言い出すので僕も聖女の母親も苦笑いをしていたのだ。

そうして僕たちは城に向かって出発する。

僕たちの目の前には一人の少年が存在した。その姿を見ると僕は勇者に質問をした。

「あいつに、なにか用事が有るのか?」

「えぇ。私が前に話したことを思い出してくれますか? 私達を襲ってきた集団の中で私は気になる存在を見つけたんです」

勇者の言葉に僕は首を傾げると、どういう意味なのか聞くことにする。

「つまりですね。私は奴らに違和感を覚えたんです。それは勇者を崇め奉る信者とは全く逆の考えで、その連中の中には魔王様の敵である魔王を崇拝する者も居たのです」

勇者は僕に告げるのだが、その言葉を僕は信じることはできなかったのだ。そもそも、この世界で魔王が、どのように扱われているのか、よくわからなかった。だから僕と勇者は城の近くにある森の中に向かう。そこに行くと僕達は森に足を踏み入れた。だが、その時に僕は異変を感じることになる。僕は勇者の姿を見てから彼女の腕を掴んだのだ。すると彼女は「どうしたんだ?」と言ってきてくれるが僕は答えることはできないでいた。

なぜなら、その声が頭の中に響いていたからである。しかも僕が勇者に告げたい言葉は、ただ一つしかなかった。僕は、その一言だけを強く思うだけで勇者に伝えることができそうになっていたのだ。そして僕は言う。

「君は、まだ生きているのだろう? 早く僕の前に現れるんだ」

僕は彼女の名前を呼びたかった。僕は彼女と、もう少しだけでも、お話をしたいと思っている。僕は彼女に恋をしてしまったから。僕は彼女のことが、とても大切な存在なのだと気が付いてしまったから。僕は勇者を抱きしめて彼女に囁くように「もう離さないよ。絶対に、もう君を傷つけるような真似はしないから、どうか戻って来て欲しい。君に会いたくて仕方がないんだよ。君の顔を見たいんだ」と伝えることができたのであった。すると勇者の瞳から大粒の涙が溢れ出し始める。そして僕の顔を見ながら彼女は口を開く。

「ありがとう。やっと思い出してくれたのね」と勇者は呟く。それから僕は彼女が生きていた喜びと会えた安心感によって泣いてしまう。

僕が泣き始めると勇者が僕の顔を両手で掴んで唇を合わせてくれると勇者は嬉しそうに「泣かないで、これからはずっと一緒だよ」と言ってくれたので僕は「僕も嬉しいよ」と返す。それから僕は彼女の体に触れてみるが本当に実体化しているのか確かめるために胸に触れた時だ。

僕は勇者の頬を思いっきり叩かれる。彼女は僕に対して「どこを触っているのよ! この変態!」と言ってきたので僕は何も言えない。それから僕は、そんな風に怒る彼女の姿を初めて見る。そして彼女が生きていた事実を改めて実感することができたのだ。彼女は僕の頬を叩くのを止めると同時に、その手に持っている杖を握り締めてから僕の鳩尾を狙って振り回してくる。その行動に驚いた僕が逃げようとすると勇者は僕の手を掴みながら僕の顔を見つめてくるのだ。

それから勇者に睨まれ続ける羽目になってしまい僕は困惑していたのである。だけど勇者は優しい笑みを浮かべてくれたのだ。それが今の僕には凄く嬉しかった。それから勇者が僕の手を握り返してくれると「これから二人で一緒に頑張ろう」と笑顔で言うのであった。

勇者が魔王として復活した。だが僕は勇者が蘇ったという情報を聞き流している。だが僕の横で僕の服を引っ張って何かを言い出そうとしている聖女を見て、とりあえず彼女の方を振り向くことにした。そして僕は彼女の頭を撫でる。その瞬間に聖女が、にやけそうな表情になり僕から離れようと暴れ出すが僕は彼女を逃さないように捕まえる。そして、しばらく聖女と触れ合っていると僕の耳に女性の声が聞こえるようになる。僕は彼女を抱き寄せながら周囲を確認するが、その声は女性の声では無く男性だった。その声の主と思われる男は僕の方に歩み寄りながら喋りかけてくる。そして僕の傍に聖女がいることに気づいた男の反応が面白くて僕は少し笑うと聖女が僕から離れるなり男が僕に声をかけてきたのだ。

「お前たち、ここで何をしている?」と話しかけてきた男だが、そいつの姿は見慣れないものだった。その容姿から僕と同じような日本人である可能性が出てきたが聖女は、すぐに僕の背中に回り込む。そこで僕と目が合った男の服装は白衣のような格好で医者か学者を思わせる。

「僕は魔王だ」と口にすると、それを聞いた相手が「まさか、そんな冗談を口にする相手が現れるとはな」と言うと、そこで相手の男性は、ある事を教えてくれる。それは聖女の母親が魔王によって殺されたという事実である。それを僕は聞いて驚きを隠せないでいる。その話を聞く限りでは勇者の母親が、どうして死んだのかも分からない状態だった。そして、この国では魔王の復活を恐れていたようだ。そのため僕が生きている限り勇者が生き返ることも理解していたようである。僕は「勇者が魔王に復活してから、どれぐらい経っているんだ?」と相手に質問をしてみるが、その質問の返答はすぐには帰ってこなかった。その代わりに勇者と聖女の母親の仇を討つために立ち上がれと言われる。僕にとっては、そこまで勇者の復讐に拘りは無い。だけど、あの女だけは殺さなければならない。そう思っていたときに、その言葉を口にしたのは僕ではなく、もう一人の勇者だった。彼女は、この男に向かって勇者の母親を殺した犯人は、あなたですか? と言ったのである。その問いに対して僕は聖女の方を向いて聖女の母親を、どうやって勇者は殺したのか尋ねるが聖女の母親は聖剣を使って母親を殺していた事を告げる。その事に納得したのだが僕は、その時になって聖女の母親が使っていた武器は僕が愛用してた聖剣だという事を知ったのだ。つまり聖剣を作り出した存在こそが聖女の両親であり僕の恋人の母親が、どのような人物だったのかを知る事ができるのである。その答えを聞いて勇者が怒り狂うのも分かるような気がするけど僕は勇者の感情に振り回される事はないと思っていた。そのせいもあって勇者は僕を信頼してくれているようで、この男に質問をぶつける。そして僕と勇者と、その仲間の聖女が、この場所に居ても意味が無いと判断すると勇者の仲間が勇者の手を引いて外に出ようとする。その際に僕は勇者の父親に質問をした。その父親の方は僕の方を見るなり首を傾げながら「どうしたんだい?」と言ってくるので僕は勇者が生きていた理由を説明する。

「魔王の呪いを受けて、それが原因かもしれない。だが俺にも何が起こったか、わからん。俺は勇者の母親に呪いをかけたつもりも無かった。そもそも、あいつの母親に関しては勇者が生まれた頃から知ってはいたが、あれから何年も会っていなかったんだ」と言い出すのだ。そう言われてしまうと思い当たる節が全くないので僕は勇者の母親を恨み続けることにした。そうしないと僕の中で何かが崩れそうになってしまうと思ったからだ。そして、そんな僕の様子を心配した勇者は「どうしたんだ? 私の事を気に病んでいるのか?」と尋ねられたので僕は、はっきりと勇者の母親の事を恨むと答えた。

すると勇者が嬉しそうにしている。

その反応は、どう考えても不自然なものだ。だから僕は、その理由を聞き出そうと思った。すると勇者の仲間の一人の少女は「どうしました? 顔色が良くないみたいですよ? お水でも飲みますか?」と言ってきたのだ。それに対して僕は首を横に振って断ることにする。それから、この城から脱出する事になった。脱出する際に勇者に言われたことは一つだけだ。この城にいる人間を全て殺すようにと言う命令を受けた。僕は魔王としての役目を果たすために勇者から指示される通りに行動するのであった。その指示の内容から僕を勇者だと思い込んでいる人間が居る事は間違い無いので全員殺してから正体を見せようと思うのであった。

僕は、その少女の頭を撫でて落ち着かせると彼女に勇者に僕の正体を伝えてくれて良いよと頼む。そして僕が聖剣を取り出すと彼女は怯えるのだが僕は優しく抱きしめると大丈夫だよと伝えてあげると、その女性が、どのように僕のことを思ってくれているのかを理解する。だけど、それは、とても嬉しい事ではあるのだが勇者に対する罪悪感が僕を苦しめてくる。だけど、ここで苦しんでいたら前に進めないと思ってしまう。だから僕は自分に言い聞かせるようにしながら、まずは目の前にある勇者の仲間の相手をしようと考えて、その場から離れるのであった。そして、その場所から離れた僕に対して聖女は追いかけてくる。僕は振り返ることなく彼女に向かって話しかけた。すると彼女が泣き出してしまうので僕は彼女の涙を指で拭き取りながら慰める。その行動を嬉しく感じてしまった彼女は僕に近づいて来てキスを求めてくる。僕は彼女と軽く唇を重ね合わせた後に抱きしめてから、すぐに彼女を突き放すように離れる。

僕が彼女を拒絶すると悲しげな顔をしたので僕は慌てて「ごめんね。僕にだって、いろいろとやるべきことがあるんだ」と言って逃げるようにして城の中を走り回るのであった。だけど彼女は僕について来てくれたのである。そして勇者の元に連れて行こうとすると聖女が泣き始めるので僕は彼女に、どうして泣いたのか聞くと、どうやらと僕の事を追いかけて来た際に僕と一緒に行動していた女性に会ったのだろう。その女性は僕の知り合いなのか確認すると彼女が首を振るので僕は少し考え込む。そういえば勇者が蘇ったという話は広まっているが、どうして、そんなに時間が掛かっているのか僕は気になっていた。もしかしたら何か原因があるのだろうか。その事が頭に過ったので僕は彼女に「君の名前はなんて言うの?」と問いかけてみると彼女は聖女と名乗り始めたので、やっぱり、あの勇者の女が僕の知っている女性だと確信した。

聖女が「あなたのこと、大好きです!」と言ってきたので僕は苦笑いをする。だけど彼女が、なぜ泣いてしまったのかという事も理解できたので聖女を安心させるために「今度、二人で一緒に遊ぼうか?」と言ってみる。その提案に彼女は喜んで承諾してくれたのである。そして、これから先、聖女と行動していると勇者の仲間たちに遭遇しそうだと思った僕は、このまま勇者の元に聖女を連れていくと、ろくなことが起きないと察知すると僕は、ある決断を下す。それは、これから先は単独行動で勇者の捜索に当たる事だ。

聖女の傍から離れてから僕は聖剣を構えて勇者の仲間の男たちが隠れていそうな場所を見つけ出そうとしていた。その最中で聖剣が語り掛けてくると僕は勇者と敵対している聖女を僕に預けて欲しいという。だが、それを受け入れる事はできないと僕は答える。聖女を預かるということは勇者と殺し合うということだ。僕にはそんな勇気は無かった。その事実を伝えると聖女に助けを求められて僕に甘えてきた聖女は僕が勇者の配下に襲われそうになった時に助ける事が出来ると言っていた。

その話を聞く限りでは勇者に勝てる可能性が無ければ聖女を守りきれないということにもなるが僕は聖女のことを信じる事にする。その結果、僕と聖女が分かれて勇者を探す事にしたのである。そうして、ある程度、探索を進めているうちに聖女と合流を果たした僕だったが彼女は、どういうわけか涙を流しながら抱きついてきたのだ。

「どうしたんだい?」と声をかけると彼女は何も答えずに、ただ僕の体に抱きつくばかりなのだ。その姿を見て、かなり弱っていると判断した僕は聖女のことを強く抱きしめた。それから聖剣から魔王が生きているという事実を知らされてしまう。僕自身は自分の身を守るためならば聖剣を使おうと思っていたが聖剣から魔王が、そんな状況でも魔王は生きている事を聞かされてしまい動揺を隠せないのであった。

(本当に生きているのなら僕も魔王として戦わなければいけないな)と思っているときに僕と勇者が再会した時を思い出す。僕は聖女と別れた後で勇者の捜索をするために勇者を探していたのだが勇者が何処にいるのか分からなかったので僕は適当に歩き続けていた。だが歩いている間に僕は複数の気配を感じるようになっていたのだ。その気配は勇者たちの仲間であり、その中には僕の知り合いの女性も含まれていた事から勇者たちが近くにいることが推測出来たため僕は立ち止まって様子を見る事にした。すると、そこから出てきた人物は勇者ではなく勇者の仲間の一人の男性が現れた。その人物を見たとき僕は彼が何故、ここに来たか理解したのだ。彼は勇者が殺されたと思い込み、その仇を討ちにやってきたのだ。だから、それを聞いた途端、僕は勇者の所に向かう事にしたのだ。だが僕も一人で相手するのは無理だと思い勇者に連絡を入れてみる事にした。その通信の際に勇者の様子がおかしいと思った僕だったけれど気にしないようにして連絡を入れたのだ。だが僕の言葉を聞いた後に勇者は、いつもとは違う反応を見せたのだ。僕と会話をした勇者は冷静になって自分が勇者だということを明かして僕の事を信頼してくれるようになった。そして僕と勇者は合流する事に成功する。その途中で勇者の仲間たちは聖剣を持った僕に対して攻撃を仕掛けてくるのだが、その時は勇者と一緒だったので簡単に返り討ちにしたのだ。

その事が原因で勇者の仲間たちは僕が魔王だと知って絶望して逃げ出した。

僕としては逃げてくれて、ありがたいと思ったのである。なぜなら僕は勇者の仲間を殺してしまったので、その罪を少しでも償えた気がして心が安らぐのを感じたのだ。その瞬間に、また別の勇者の仲間が現れてしまう。しかも、この人間は魔王の部下らしい。その証拠を勇者の仲間が持っていたので、それが理由となり僕と勇者は戦う事になる。だが聖女の父親は僕に「この人間に勇者の居場所を教えるなよ?」と言うので、それを勇者の仲間に告げ口すると聖剣に、そんなことをしても無駄だという事を教えてくれる。僕は、それを信じて聖剣の話に乗る事を決めたのだ。そして勇者から勇者が生き返っていたという事実を聞かせると聖剣は驚きを隠せていなかったのであった。僕は、その様子を見て「聖女の父親も知らなかったんだろう?」と勇者に聞くのだが勇者は聖女の方を見て何かを考え込んでいたのである。

(どうやら勇者は嘘は言っていないみたいだな)と思ったのであった。それから僕は勇者の話を信用する事に決めたのである。だから僕と勇者は再び別れることにした。だけど僕一人だけになると僕を魔王だと思い込んでいる人間に見つかってしまう。僕は咄嵯に逃げた。その相手が僕の顔に見覚えのある人物なので勇者に言われた通り皆殺しにしようとしたのだ。

そうやって勇者の居なくなった世界で僕は、ずっと独りで生き続けようと決意する。だが、その決心は揺るぎ始める。

その理由としては勇者から頼まれた聖女の父親の言葉が原因である。僕に勇者の居る場所を教えたくなかった理由は、おそらく聖女の父親が勇者に僕の力を伝えた結果、勇者の力が強まり僕よりも強くなることを恐れての配慮だと思われるが、それだけではなく、もう一つ理由がありそうな気がしたが僕は聖剣との約束があるので彼女の父親とは敵対せずに彼女を助ける方法を考えたのであった。

僕と勇者が聖剣に教えられて訪れた場所は、ある洞窟であった。そこは僕と勇者が戦った場所に繋がっており、その場所が闇の女神が封印されている場所であるという。僕は初めて見た闇の女神の姿を前にして驚くのだが、その反応に対して聖女が「どうして、そこまで驚いているの?」と聞いてきたので、それに対して僕は聖女の父親と話をして彼女が聖女であることを教えてもらったので「君が、あの勇者の娘だって聞いて驚いたんだよ」と話すと聖女は僕に対して父親について語ってくれたのだ。

その話を聞いた僕は勇者と聖女の父親の関係を知った僕は聖女を安心させるための行動をとる。それは、このまま僕と一緒に行動を共にしていても良いのか彼女に質問をすると、その問いかけに彼女は僕の手を握ると「大丈夫です。私は最後まで一緒に行きます!」と言い切るので僕と一緒に行動させるのである。その出来事の後で僕は、この聖女と二人きりで行動することを決めた。そして聖女は僕に話しかけてくる。その内容は、なぜ勇者の傍を離れて行動をする事になったか、その理由を説明してくれた。その話の中で勇者に騙されていた事を知ると聖女は涙を流し始めた。僕は泣きじゃくる聖女を抱き締めてから、どう慰めれば彼女の心を救えるか考えるが僕の腕では彼女の心の傷を癒す事が出来そうに無かったのだ。だけど、それでも彼女の事を、どうにかして守ってあげたい気持ちが強かった僕は彼女が泣き止むまで抱きしめ続ける事にする。それから僕は彼女が落ち着くように優しく抱きしめ続けていると彼女は少しずつではあるが落ち着いたようだ。

その後、聖女と話し合いを行った結果、僕たちは別々の行動を取ることに決めたのだ。僕は自分の身の安全を確保するためにも勇者が生き返ったという噂を流した人物が誰か探る必要があると考えて、そちらに専念することにしたのだ。

だけど僕一人だけでは手が足りそうもないから、どうしても聖剣の助けが必要になった場合は助けを求める事にして、それまでの間は単独行動を行う事にした。その事に聖女も了承してくれて、それで僕が聖剣から得た情報を元に調査を進めていく事を決める。

まず僕は聖女の傍から離れてから、ある男の元に向かった。その男は、どうも勇者を蘇らせた本人だと思われていて、この世界の闇の力を全て支配している存在であると囁かれており、この世界に存在する全ての魔王から恐れられていた人物であるらしい。だが聖剣の話が正しければ彼は聖女の父によって倒されており、もう復活は不可能なはずだ。

その男の事を勇者に伝えるべきかどうか考えた末に僕は彼に報告することにしたのであった。

勇者の元に聖剣を持ってきた男が現れたという話を聞き僕はすぐにでも会いに行こうと思ったが今は勇者が生きている事が世間にバレたら大変な騒ぎになってしまうので慎重に動く必要があると僕は思ったのである。そのため僕は、すぐに行動を開始せずに様子を見守ることに決める。その判断が良かったらしく僕の予想通りに勇者が、いきなり現れると僕の前に現れたのだ。

そして、これから起こる出来事を考えるならば僕にとって最悪と言っていい未来しか待っていなかった。勇者が聖女を連れてきて「この人は聖女の父親なんだ」と告げると僕は焦る。

だが勇者の方は僕に「俺と聖女さんのために協力してくれないか?」と頼んできたのである。

それを聞いた僕は勇者が何の為に、このような言葉を使ってきたのか理解したのだ。

(そうか、これは俺と聖女さんを引き離す為の時間稼ぎをする気なのか?)と考えながらも、その誘いに乗った方が安全だと思い僕は勇者に協力することにした。

すると僕には聖剣が与えられてしまい勇者の仲間になることになるのだが僕は自分の身を守る事を最優先にしようと考えていたので、その事については黙っておくことにする。勇者が僕の正体を知っているような態度で接してきたが僕は知らない振りをして彼に従うふりをし続けたのである。そして僕が聖剣を持っていることを知られては駄目だと忠告されて、その通りにしたのだが、それからは聖剣を隠しながら生活を続けることになったのだ。

それから数日が経過した時に勇者の仲間の少年が現れた。僕は勇者と共に彼を撃退するために行動を起こすのだが、その最中で勇者が聖女と、どういう関係になっているのか、それとなく聞き出してみた結果、どうも、この勇者の仲間である少女と聖女とは恋愛関係にあるらしい事が判明する。その話を聞いてしまったせいで僕の胸の中に嫉妬の感情が沸き起こってしまうが、それを表に出す事は出来なかったのである。何故なら僕は魔王なのだ。しかも勇者の仲間の少女の母親が僕と因縁の深い人物だから尚更だ。だからこそ僕は平静を装う為に聖剣に話しかける事にしたのだ。聖剣と会話をした時のことを思い返す度に僕は勇者に対して複雑な思いを向けるようになったのは、その所為かもしれないと思うが勇者が僕に対して「君の実力なら一人で魔王を相手にできるんじゃないの?」と、言ってきたが僕は「そんな事を言われても困る」と、はぐらかす事にした。そして勇者に「お前は勇者なんだろ?だったら仲間に僕の居場所を伝えるぐらいはしてくれるよな?」と聞く。すると勇者は首を横に振る。どうやら僕の居場所を伝えてはいけない理由があるようだった。その為に僕としては勇者に居場所を教えるわけにはいかない。そう考えていると勇者が、この国を出る事になるが、その前に勇者の仲間の二人が僕たちの邪魔をするように戦いを挑んでくるが僕の魔法の前に簡単に敗北した。そして僕と勇者が城から出ようとした時に聖女の父親の方から「貴様が本当に魔王だな?」と、いう質問をされてしまい僕は否定したが勇者が「ああ、そうだよ! それがどうかしたのか?」と答えてしまう。

僕は慌てたが勇者は聖女の父親と話を続けて聖女を取り戻すために協力を求める。だが聖女の父親は、それを断わったのだ。しかし聖剣が勇者に向かって「お主に聖女の父親は倒せん!」と告げた事で、ようやく聖女の父親が勇者の父親を倒してしまった事実が明らかになった。その事について聖女の父親は謝罪してくる。どうも、この父親を騙す作戦を発案したのは聖女らしい。

それを聞いて僕は勇者に文句を言おうとしたのだが勇者は、その話を誤魔化そうとするので「とにかく僕も聖剣の力がなければ勝てる気がしないけど絶対に負けたくないから手を貸してほしい」という事を口にすると聖剣の使い手を倒せる可能性がある人物を探してくれる約束を取り付けることに成功するのであった。

それから僕は勇者と別れた後に、とある女性に話しかけたのだ。その女性は僕が今までに出会った事のない人間であり彼女は勇者に恋をしているようで彼のためなら死んでも良いと考えている。僕は彼女が、どのような力を持った存在なのか探りを入れると、その人間は、やはり僕たちと同様に特殊な能力を持って生まれてきたらしく特別な能力を授かっている事を告げられる。それを聞いた僕は「君もか?」と尋ねると相手は自分の事を知らないのかという顔で、こちらの事を見てくる。

僕は彼女に「君は誰?」と尋ねてみると彼女は僕の事を知っていて彼女は自分が【光の女神】と呼ばれていると、その証拠を見せるために僕の前に姿を見せたのだ。その事に僕は驚いた。なぜなら僕と同じように勇者に命を奪われてから生き返っている者が存在するなんて、まるで物語の中の話を聞かされている気分になっていたからだ。

それから僕は彼女と話をして彼女が勇者を愛しているという事実を確認する。それは僕の心の中に嫉妬が生まれるが僕は必死で耐え続けた。そして、どうして彼女が、その男性を好きなのかについては彼女が語った話は驚くべき物で僕は、それを聞いた後は彼女に対して興味を抱くようになった。そして彼女の話を聞き終えると僕は「貴方の名前は?」と聞いてみると彼女は答えてくれて彼女の名を知った。

「私の名前を教えましたので私の事を愛して下さい」と彼女から言われると「残念だけど無理だよ」と返事をするのだが「どうしてですか?」と質問をされる。僕は正直に「僕の愛する人は一人だけ」と、彼女に答えるとその事に納得をしてくれたようだ。彼女は僕の言葉を受け入れると姿を消した。おそらく僕の前から消えたのではなく彼女は他の場所に瞬間移動を行ったのであろうと考える。そうしなければ僕と彼女は一緒に行動できないだろうと考えたからである。その予想通りに彼女は姿を消してしまう。だけど何故か分からないけれど聖剣だけが残されていて僕は彼女に見捨てられていた。

そして、それから数日間の間。

僕は彼女に捨てられたと思い込んでいた。僕は彼女に会おうと思ったが彼女の居場所が全く分からないし、また彼女が姿を現す可能性も低いと思っていた。

それに彼女は勇者の事を、かなり気にかけていたみたいだし僕の方に来る可能性は低いだろうと考えていたのだ。だが聖女の父親を倒した相手が、まだ聖剣の所有者を殺していなかった事から、このまま放置しておけば危険になると判断したので僕は聖剣の使い手に戦い挑むことにした。そして僕は勇者の仲間たちが暮らす街へと向かうのであった。だが僕は勇者たちと出会って、どうやって戦えばいいのか考え始める。

だけど僕が、どのように行動しても、すぐにバレてしまう可能性が高いと感じる。その事に不安を感じた僕は自分の力で、なんとかするしか方法はないと考え聖剣に頼ろうとしたのだが僕は聖剣から相手に姿を認識されない力を使う事が出来る事を告げられた。だがその力を使えば自分自身の姿を隠す事は出来るが、そうなれば攻撃も出来なくなってしまうし何より僕は聖剣と融合する事が出来ない状態となる。だが、それでも構わないと思ってから僕は魔法を発動させると僕の体が輝き出すと光が僕の体を包み込む。その事で僕は完全に姿が見えなくなった。だが僕に攻撃を仕掛けてくる敵は確実にいる。

僕は自分に向かって飛んできた矢を掴み握り潰すと聖剣の力を、いつでも使えるように準備を始めたのであった。

それから数日の間に勇者たちは僕の予想よりも早く動き出していたので僕は慌てて行動を開始する。

その時に僕は聖女が持っていたはずの聖女の父が所有していた宝箱を拾い中身を調べることにしたのだ。

そして、そこには大量のお金と手紙が入っていた。

その事で聖女が僕を騙して聖剣を手に入れようとしていた事を察知すると怒りを覚えた。そして僕は聖剣に語りかける。

「もしも聖剣を手に入れたら次は何を企むつもりなんだい?」と、僕は尋ねると聖剣の使い手は「今度こそ魔王を殺して平和を勝ち取る」と言い出したので、それを聞いて呆れてしまう。そして、その事を伝えると聖剣は、その事が事実だというような雰囲気を出すが僕は、どうしても信用することが出来なかった。だが僕の気持ちは関係なしに聖剣は僕が持っている武器を使い僕に対して攻撃を行ってきて僕が身に付けている服が破れてしまい僕は素肌を露にさせてしまう。

「さあ大人しく降伏してくれないか?」と聖剣の使い手が言うと聖剣から僕を洗脳するための言葉が伝えられるが僕は抵抗して洗脳されることを拒んだのである。すると僕は自分の腕を切り落とした。

痛みが走る。

その所為で僕は自分の意識を失う事になるが、どうにか持ちこたえることができたので僕の体は無事だった。それから聖剣が僕のことを気にかけるが、どうも僕を殺そうとしているのだと気付き僕は再び行動を開始した。

そして僕は聖女が聖女の母親を裏切ったのだと思い込んだ上で彼女に「勇者が欲する聖女を奪い返しに来てやったぞ!」と告げると聖女は僕の方を振り返り聖剣に「本当に魔王を、ここへ呼び寄せたんですね?」と確認するように話すと聖剣が、そうだと返答をしたので聖女は僕の目の前で涙を流し始めて「どうして、こんな事に?」と言ってから僕を見据えて「お願いします。助けてください」と訴えかけてくる。僕は聖女が聖剣の事を好きになって僕が邪魔になり始めたのでは? と考えると、そんなはずはないだろうと考え直す。それから僕は聖女の父親と戦闘を行うと、どうにか倒すことに成功したのである。

僕は聖女の父親に勝ったことで少し安心したのだが油断せずに僕は街の外に出る事にした。そこで僕は聖剣を使って空を飛んで移動すると勇者の仲間の男が、そこに現れ僕に向けて聖剣を振りかざしてきたので僕は彼の剣を受け止める。

そして僕たちはお互いに聖剣と魔剣を振るいながら激しく攻防を繰り返すと彼は「俺には負けられない理由がある!」と口にするが、それに対して僕が「僕だって君たちに、やられっ放しで終わるわけにはいかないんだ!」と答えると勇者の父親は僕の言葉に笑みを浮かべる。その反応から、どうやら僕の事を知っていたようであり彼が僕の名前を口にすると僕は驚いていた。どうやら僕の本名までは知らなかったようで彼は僕のフルネームを、ちゃんと知っていて「貴様の名前を聞かせろ!」と質問してくる。それに対して僕は「僕の本名はアベル=ワリード。魔王だ!!」と名乗ると勇者の父親は、さらに笑みを深める。

どうやら僕の正体が魔王だということを信じてもらえたらしい。

それから彼は僕の名前を口にすると「魔王か。貴様は面白い奴だな。俺は、これから貴様を始末したいところだが、今は聖女が先なので、その聖女を渡してもらおうか?」と言われる。だが僕は、この勇者が聖女に惚れているのは分かっているので「渡さない!」と答えたのだ。その答えに対して勇者は苛立った顔を見せながら聖剣を構えると僕に対して聖剣の力を使う。

聖剣から放たれた力は聖剣が今まで使って来た中で、一番強い力が秘められており僕の体に異変が襲う。そして僕の視界は暗転し始め僕の体が闇に覆われると僕は僕の体の中から出されてしまう。それから僕の意識が、だんだん消えていくと完全に僕の中に存在する物が消える寸前になると僕は僕の中の誰かが呟くのを聞くと「もう良い! 俺が力を手に入れる!」と口にして僕に話しかけていた何者かの魂は勇者の体の方に移動していったのだ。それを見た僕は何もできなかった。

勇者は自分の体が僕から離れてしまったのを見て驚く。それから僕の方は体が元に戻ろうとしていて自分の肉体に戻り始めるのだが聖剣に、どんな方法でも良いから僕を引き留めて欲しいと頼むが僕の頼みを聖剣は聞いてくれなかったのだ。

その結果として、どうなったのかと言うと僕は元の自分の肉体に戻ることが出来ずに精神だけの状態で存在し続ける事になったのであった。それから聖剣の方は僕に何も話してくれず、どうしようかと考える。すると僕は聖剣が僕に語りかけてくるが僕は聞こえていないふりをする。そして僕は勇者たちが住む城に行くと聖女の父親を倒して聖剣を手に入れた事を勇者に伝えた。その事で勇者たちは喜んでいたけど聖剣が僕に対して聖剣の力を使うことを禁止すると僕は困った表情をすると、それを受けて勇者が聖剣を鞘に収めてから僕に手を差し伸べて来る。

僕は勇者の行動が分からずにいると勇者は「君が望むなら仲間に加えてあげてもいい」と言われてしまう。それを受けた僕は、あまりにも予想外な展開に驚きを隠せなかったが、とにかく今は聖剣の力で姿を変えているので正体を隠しておこうと思い「ありがとうございます」と言いつつ握手をする。

その行動が聖剣の怒りに触れたのか僕の心の中に激しい怒りが溢れてきて僕の頭の中で暴れ出す。そのせいなのか僕の思考は混乱し始めてしまう。その事で僕の頭の回転は低下して行き僕自身も、どのように行動すれば良いのか分からない状態になる。その事によって僕は自分が勇者の仲間たちを裏切る行為を行えばいいのではないかと考える。そして僕は聖女とキスをしていると、その様子を勇者たちが見て驚いた表情をしていたが勇者はすぐに笑顔に戻ると僕に向かって話しかけてくる。

そして勇者の仲間たちは僕に対して「よろしく頼むぜ、お前さん!」と声をかけてくると僕は、どうにか冷静に物事を考えることが出来るようになると聖女に「僕は勇者の仲間たちに、どのような扱いをされているんですかね?」と尋ねると彼女は嬉しそうな顔で「貴方は私にプロポーズをした男性です。だから大切にされていますよ?」と返された。

その返事に、どういうことなのか意味が理解できずに困惑してしまう。それから僕は、どうにか聖剣から聖剣の力を使う方法を聞き出してから聖剣に僕の意思を伝えてもらい何とか力を使う事が出来た。

それから僕は勇者たちのパーティに加わり行動を開始したのであった。

勇者の仲間に僕は加わり一緒に行動をすることにしたが、すぐに行動を開始した方が良いと考えて、僕は勇者に魔王が攻め込んで来ているという情報を教えることにした。その事で、勇者は魔王との戦いで役に立ちそうだと思って僕の事を、受け入れてくれたようだ。その行動に対して聖剣は文句を言うが勇者の父親が僕を、ある部屋まで案内してくれて聖剣について説明をしてくれたのである。

「こいつは聖剣といっても、そこまで凄い剣じゃない。俺のように特殊な能力を持っているわけではなく単純に攻撃力と耐久性能が、とても優れているだけの剣なんだ。つまりは使い手の腕次第という事さ。それと魔王の剣に対抗する為には聖剣に認められる必要があるが魔王は普通の存在じゃない。その剣に認められなくても勝てるかもしれないが命を落とす可能性もある」

「分かりました。ところで、なぜ僕を助けてくれるんですか?」

その質問を勇者が父親の方に向けると「俺は魔王を倒す為に旅をしているが魔王に娘を奪われたからさ。あの魔王の配下になった人間は、ほぼ全員、人殺しを行うんだ。そして奴は聖剣使いを殺すのが好きな男で聖剣使いの女を片っ端から犯して子供を作らせるんだよ。そして産ませた子供達を育てさせるんだ。その所為で勇者のパーティは壊滅した。だが魔王も聖剣は持っているから、そう簡単には倒す事が出来ない。それこそ俺と聖剣でも勝てるかは分からないほどに、かなり強い奴なんだ」と勇者の父親の説明を聞いて「それで僕の事は、どうなるんです?」と尋ねると勇者は父親を、睨みつける。だが勇者は聖剣の力を使ったりしないらしく大人しくしていると父親は僕を見つめて「君も気を付けろ、もし魔王に気に入られたら子供を孕まされるぞ?」と言われてしまい冗談だと思っていたのだが勇者の仲間の女性の口から「私は以前、魔族に襲われた時に、この男の子供が私の腹の中には、いました。だけど、この男は、それでも助けてくれなくて魔族は全滅しました。そして、そのまま放置されましたが私が妊娠した事に気が付いて、その子を産むと決めたのですが、その時には彼は死んでいて、その死体は魔物たちに食われてしまって手遅れになってしまっていて諦める事にしたんですよねー」と衝撃的な発言をされて僕は驚いてしまった。

それを聞いた勇者の顔色は悪くなっていく。どうやら彼は魔王を恨んでいるみたいで、どうにか聖剣の力を借りて倒したいと考えて居るのだと分かる。だからこそ聖剣の力を、あまり使わないようにして魔王と戦いたいという意思を感じる。

勇者の考えは間違ってはいないと思うが勇者は勘違いをしている。勇者の持つ聖剣は確かに強力な武器であり、この聖剣に認められたからと言って僕が最強になれたわけではない。そもそも僕が勇者に戦いを挑んで負けて殺されなかったのは、この世界において僕の体が持つ闇属性の影響が大きいのだ。僕の中にある闇の力は相手の魔法や技を打ち消す効果がある。

それによって勇者の聖剣の攻撃や魔法や剣撃は僕には通用しなかった。もちろん闇以外の魔法や、その上位にある魔法には通用しないのだが聖剣の能力は闇以外を相殺する事が出来るのだ。だからこそ、そんな聖剣を持ってしても僕は殺せない。僕に攻撃を加えるには僕が所持していた光属性や、その最上位に存在する聖槍のような武器を使わなければ僕を倒すことが出来ない。

しかし勇者の父親は「聖剣を使って倒せなかったのは魔王だけじゃないか」と勇者の言葉を否定すると「魔王と戦うなら勇者の武器が必要だろ。その辺の武器屋には置いていないから城の方に向かうか? それとも魔道具屋の方にするか?」と言う。それに対して僕は魔道具に興味がある事を伝えると勇者が「だったら魔道具屋の方に案内しよう」と口にすると魔道士の男が「魔導の杖と聖弓が、そろそろ壊れる頃だな。修理に出してくるわ。ついでに聖剣もな。あとは聖女の嬢ちゃんに頼んどくわ」と言い出した。

どう考えても、この場に、ずっと留まるような発言だったので僕は、この場を離れると、すぐに行動するべきだと思い勇者に声を掛けた。その事に対して勇者は何かを考えていたようで僕に対して話しかけてこないので、このまま立ち去ろうとした瞬間に、ふと思ったのは、これから、どのように動くべきなのか考える。

まずは勇者のパーティに加わるために聖剣を手に入れる必要があり、それを行った。そして勇者に、この国で勇者の仲間になりたい者がいると言えば僕を迎え入れてくれると聞いたので勇者にお願いをしてみる。

勇者の答えとしては仲間になっても良いけど僕に力を見せて欲しいと頼まれたので僕は勇者に自分の強さを見せてから勇者の仲間たちと共に、これから向かう目的地へと足を向けるのであった。それから魔道具屋に到着すると、そこには巨大な水晶があり、その近くに魔道具が並べられていて勇者の仲間の女性たちが集まっている光景を目にしたので僕たちは、そこに近づく。そこで僕たちが、どのような用件で訪れたのか話すと店主が「それじゃあ少し、お待ちください。店に置いている物の中から貴方にあった装備を選びましょう!」と言われると、そこから僕の装備選びが始まった。

そして勇者の仲間の男性の話では僕のレベルが30なので聖女と同じように装備を整えようと考えていたみたいなのだが僕は断った。理由としては聖女と勇者の関係を考えると、僕は彼らの敵になりたくないからだ。そして、どうせ僕は彼らと別れてしまう運命になるのだから今のうちに少しでも、彼らに親切にしようと考えて居た。

その結果として僕は鎧よりも、むしろ普段着の方が重要だと言われてしまった。それは勇者と聖女と勇者の父親の三人が、とても強くて、僕なんかの相手にはならないと言われてしまっており、しかも僕は弱いままでいた方が僕にとって都合が良かった。何故なら闇は聖属性に対して効果を発揮して、その逆の属性の光は、ほとんど効果がないと聞いていた。その事を頭に入れて、なおかつ聖剣の事も考えたら僕の弱点である、光と相性が悪い僕の弱さを晒すより勇者と互角の戦いが出来ると錯覚させておく事によって、いざ、戦いが開始した時に油断を生じさせる事が出来ると考えたのであった。その考えを伝えたところ、あっさり受け入れられて僕に、どのような装備を用意するべきか話し合いが開始される。

勇者の仲間の一人に僕の年齢から判断して、どのような装備を、用意すべきかを聞かれると、僕は素直に「僕の体は普通の人間ではないです」と答えておく。その返事を受けて仲間は「どういう意味ですか?」と尋ねてきたので僕は自分が何者で、なぜ闇に取り憑かれているのかを説明した。それを説明してから勇者の仲間の女性が、こちらに対して「貴方を信用して良いのか、よく分からないんですが大丈夫なんでしょうか?」と言われた。僕は彼女に対して「どうして、そのような心配をしているんですか?」と言い返した。すると勇者が口を開く。

「この女は以前、魔王軍と戦って敗北した経験を持っているんだ。そして俺の父親は、かつて、この国に魔王軍の侵入を許してしまい多くの犠牲者が出た事件の責任を取って処刑されてしまい母親もまた俺を守るために魔王の配下に襲われている。それで彼女は、魔王の恐怖が心の中に刻み込まれてしまっていて勇者と呼ばれる存在が現れて平和になったとしても、いつか魔王が再び現れて世界を滅ぼそうと企むのではないかと怯え続けているんだよ。だけど、この人は俺の事を信じてくれたから君に対しても信じようとしてくれたんじゃないかな?」と説明してくれたので僕は納得する。

それから僕に用意されていた服を見たときに僕は疑問を抱いた。何故かというと女性物の衣服ばかり用意されているからだ。その事を尋ねると僕の性別を理解していたらしい女性は、この店で扱う服は男性用の物は女性向けしか売っていないのだと教えられる。そして僕の顔を見ると「もしかして女装したい人?」と聞かれたので僕は、そういう趣味は無いので首を横に振ったのだが「もしかしたら性同一性障害の人が来られると思って用意をしていたんですが」と説明されたのだ。

その説明を受けた僕は苦笑いを浮かべる事にした。

どう考えても僕の見た目は完全に男だし股間には立派な息子さんが生えている。

しかし僕は勇者が聖剣を使えないから僕も使えなくなるのではと考えて試しに聖剣を抜いてみる事にした。すると問題なく抜けたので僕は勇者と聖剣の所有者となったのだが、それを知った店主は「まさか、こんな若い子が、あの伝説の聖剣の所持者になるなんて凄いですね。それに勇者が一緒なら安心出来ますね」と笑みを浮かべる。

その言葉に対して僕は、やはり店主も勇者のことを、とても強いと思っているんだろうと感じ取る。それならば、なおさら勇者と一緒に居る事は危険な気がした。だけど勇者の父親と母親が信頼しているので、とりあえず今は様子見にしようと決めると僕たちは魔導の杖を購入すると、そのまま外に出る。その帰りに、たまたま通りかかった聖剣使いの少女と出会うと少女から「もしかしたら貴女って勇者様の仲間になりたいとか思ってたりするんですかね?」と聞かれた。

それに対して僕は否定した。

その言葉を耳に入れると聖剣使いの彼女は「だったら魔王討伐の旅に同行しませんか? どうやら勇者さまの知り合いの方は旅について来てくれないみたいだし」と口にするので僕は魔王と戦うのが怖くて断ろうとすると勇者から止められてしまう。その理由は彼女が同行してくれれば僕たちの生存率が上がり彼女の父親を救出できる可能性が高まるかもしれないと、それを聞かされてしまえば僕は「いいでしょう。同行しますよ」と言うと聖剣を持った彼女とは別れた。

その後で僕と勇者は、その足で魔導の杖を受け取りに向かうのだが、その際に勇者は聖剣を使うために剣を買いたいと店員に相談を行う。

その結果としては、やはり勇者は聖剣の能力を、もっと理解しておく必要があるからと魔導の杖を買うのを中止して、これから勇者は聖剣を扱うために特訓を始めると僕に伝えてくる。それを聞いた僕は「勇者、頑張れ」と言うと彼は、にっこりと微笑んでくれるのであった。それから勇者と共に、そのまま宿屋に向かうのだが途中で勇者の父親が魔導士の女性に話しかけられて、これからの事を色々と相談していた。それから、しばらく歩くと僕の宿泊していた部屋に辿り着くと勇者と僕は一緒に部屋に入る。

僕は、この部屋の窓から見える夜景を見ながら今までの自分を振り返りながらこれからの自分の行く末を、どのように進めていくべきか考える。まず最初に、もしも勇者と魔王との戦いが無事に終結して平和になれば闇の存在は不要となる。しかし闇の女神の力は失われず闇の存在が魔王の傍に残る事を考えなければならない。

そうなってくると、まず闇の女神を説得する必要がある。それに加えて僕は勇者の仲間として旅をすることになるので、その旅の間に勇者と闇との会話の場を設けて話し合いを行わなければ、おそらく闇が暴走する事だろう。そうなると考えられる手段としては、勇者の仲間になって旅を続ける事で勇者を監視させるように仕向ける必要がある。そして闇を、どうにかしなければ勇者の傍にいる事は難しいと結論を出し終わると僕は眠ってしまうのであった。

翌朝になると勇者は僕の元を訪れる。どうも昨日の事についての話が有るらしく僕は、この場で勇者と話をする事になるのだった。そして僕は彼に質問を行った。その、ひとつめとして魔王が、これから向かう場所で現れるとしたならば、いつ、その場面に出会うのかという事を確認する。

それに関して勇者は「その魔王が出現する場所が特定できた。今はまだ時期では無いけれど魔王が現れるのは、ここだよ」と言って勇者は一枚の地図を見せてきた。それを見て僕は少し驚いた。その場所に存在していた国は過去に僕たちが、その場所で暮らしていた際に、この国の王様に騙されて攻め入られ、そして国を追われた後に新たな居場所を開拓しようとした土地だ。つまり魔王と魔族の軍団が暴れ回ると予想される地点である事には間違いがなかった。その事を確認したのと同時に勇者が口を開いた。その声色は少しだけ緊張気味であった。

まず最初に勇者が魔族を率いて国を攻めた理由だが勇者の一族と敵対関係にある国が存在して国同士の戦いを勃発させようとしていたらしい。しかし勇者と魔族は国を滅ぼそうと考えているのではなく戦いの最中に他の国々にも、それを止めさせるために戦いを仕掛けようとしていたらしい。その話を聞いて僕は「じゃあ、なんで滅ぼそうとしたのさ?」と質問をしたのだが「その方が俺が活躍しやすい状況になると思ったからだ。だけど今の状況だと俺の名声を高めるのが難しいと分かってきたんだよ」と勇者は、そんな事を言った。

確かに今の状況下では勇者と魔王が手を組んで人間たちに戦いを挑んだとして魔王軍が勝利する可能性が圧倒的に高いと判断するのが普通だ。だけど僕の方からも、どうしても勇者に聞きたい事があった。それは勇者と魔王が、なぜ仲が悪いのかだ。その理由については、その前に勇者は自分の両親と勇者の父親との間に起こった出来事を語り始める。その内容は魔王が世界征服を行おうとした際に人間の国に戦争を吹っ掛けた時に勇者が人間側の勇者となって現れたという話だ。しかし当時の勇者は自分と同じ聖剣の使い手が相手だという事を知らなかった為に戦いが始まり、お互いに相手の力量を把握して互角だと分かるまで戦う羽目になり結果として戦いを長引かせて疲弊させてしまい魔王軍に撤退を決意させた。しかし勇者側も消耗が激しく魔王軍は、その場から逃げ出したのであった。

しかし、それだけでは魔王も勇者のことが気に入らないはずだ。なので他にも勇者と魔王の間で確執が生まれた理由は、ある。その昔に、魔王軍との戦いで傷ついた仲間が回復するために魔法薬の類を使用したが勇者の仲間の父親は勇者の母親は、それを許さなかった。しかし勇者の母親も仲間の回復が重要だと考えていたので仲間に対して治療を行うように命じたのだが、それでも仲間が拒否をして勇者の両親は喧嘩をしてしまい魔王軍の襲撃に対処できず勇者と勇者の母親は死ぬ事になった。そして魔王軍の目的が魔王城にある宝物庫に収められている宝を奪うためだったので勇者が魔王城に連れて行かれる事になったが、その隙を狙って勇者の両親が仲間の治療を行うと、そのおかげで勇者の母親は一命を取り留める事に成功する。だけど勇者が魔王によって連れ去られて行方不明になっている事実を知る。そこで勇者の父親は聖剣を持って魔王を倒しに旅立つ。

魔王軍との戦争が終わった直後ぐらいの出来事だった。魔王の四天王の一体の魔獣将軍と戦い勝利した直後に魔王が現れて父親の肉体を奪ってしまい魔導の杖を渡されて魔王の部下になるように命令を受けた。その言葉に従うしか生きる道が無かったので勇者の父親は魔王に忠誠を誓い彼の側近になった。それから勇者の行方を捜し続けていたある日に勇者を発見したのだが、勇者も魔王の配下になっていたという事実を知って父親は嘆き悲しみ自殺を図る。それから、どういう訳か聖剣に、選ばれた者が、その聖剣を使いこなしても魔族を倒す事が出来ないという事態に陥ってしまう。それを受けて聖剣は魔族と戦うには聖剣を持つ資格が、その者の中に存在するかどうかを調べる能力を持ち始めたのだ。

しかし魔王は自分が持っている力を使えば、それが出来ると気がつくと勇者の肉体を乗っ取り聖剣を使う事ができるようになった。ただし聖剣を使っても聖剣に宿る魂と話す事は、やはりできなかったようだが、その代わりに魔王の魔力と魔導の杖に込められていた闇の力を取り込み魔王に変貌してしまう。その後、聖剣が使えなくなったので聖剣に、選ばれなかった勇者は普通の人に戻ったというわけだ。

その話を聞いた僕は、あまりにも勇者の身に起きた事が酷すぎると同情心を抱きつつも闇の存在になってしまった勇者を殺す覚悟を決める。その事を伝えた僕に対して勇者が「ありがとう」と言う。それに対して僕は複雑な気分になってしまう。勇者を殺した後は、この僕に勇者の魂は憑依してきて僕に聖属性の適性を与えて勇者の力を与える存在となる。だから勇者を殺した後に僕の中に勇者の存在が生き続けていて良いものなのかと考えた。だけど勇者は「もし君に、その意志があるなら、このまま僕と一緒に来て欲しいんだ。君の力は必要だし僕の事も助けてくれると嬉しいかな」と、そんな事を言ってきた。その言葉は本当なのかもしれないけど嘘でもあると感じた。なぜなら僕と行動を共にしていれば勇者の身体を操っている闇の意識も僕の事を観察しているのかもしれない。だからこそ勇者と魔王との戦いが始まった際には魔王の方は僕の方に目を付ける可能性が高いだろうから危険度は高いと思う。

その事を考えてしまうと僕が、どうすべきかを悩み始めた。しかし勇者の母親が残した遺書を読んで僕は勇者を助ける事を決めた。その内容としては、これから先の時代を生きて、やがて訪れるであろう聖剣が扱える人間が僕以外にも現れる事を信じて勇者の父親が聖剣を託したのならば聖剣に選ばれていない僕は何があっても勇者を守る義務があると感じてしまった。

そう考えた上で勇者と共に魔族の領域へと向かうと魔族の国に到着したら、まず最初に魔導の杖を受け取りに行こうと考える。それを終えるまでは闇の存在を表に出さずに大人しくしていた方が良いと判断していたのだった。

そして魔王から魔導の杖を受け取る際に、それを使用すると僕は魔族から魔導士として扱われる。そして魔族たちの間では魔王の側近扱いになる。その魔導の杖を魔導士として使う場合には聖属性の魔法を使う事が出来て回復の魔法は使えるが、それ以外の魔法を扱うと失敗をする可能性が高くなってしまうが僕は聖属と光系の魔法のレベルが高いので、どうにか成功する事が多かった。

そんな僕の魔導の杖を眺めている勇者は「魔族の中でも回復の術は、それほど難しくはないけれど、その他の系統の魔法の発動は凄いな。これさえあれば、どうにか、なりそうだ」と、いった感じの感想を呟いていた。僕は魔族の中で、かなり特殊な地位を与えられているらしく他の魔族たちが、こちらを見ていると「これは魔導の勇者と噂されている勇者様ではありませんか」と一人の魔族の男が、そんな事を言い出したので勇者が何かを答えると、その男は笑顔を浮かべて去っていった。しかし僕は、この時に魔族の男たちは魔王と繋がっているのではないかという疑念を抱くようになる。それは、この国で魔王の部下が暴れ回って多くの犠牲者が出たのに、なぜ魔王軍が、この国の王城を襲撃して宝物庫に納められている秘宝を奪い取る事無く引き上げていったのかだ。

その事に気づいた時に、すぐに僕の方でも調べるべきだと決断をする。まず最初に僕の元にやってきた兵士の人から聞いた話によれば、この国は元々は人間側の国であり戦争の最中に魔王軍が占領したという過去が存在しているとの事だ。その歴史が存在する以上、ここに暮らしている人たちは魔王軍に狙われているのが常識の筈だ。だけど僕は自分の身内であるリリスから「その通りですよ」と返事をされる。

「それって魔王が、この国で、まだ、何も行動を起こしていないと受け取っても良いのか?」と質問をするとリリスは「いえ。既に、あの国は滅びているでしょう。魔族の国の王が魔王に入れ替わって統治を行っていますよ」と答えてくる。その返答の内容に、まず最初に、どうして魔王が魔王軍の四天王の一人から魔王に進化してしまったのだろうと疑問を抱いたのと同時に魔族の間でも争い事が発生していて魔族の国が二派に分かれているという話を聞かされる。その話は少しだけ納得出来たのは魔族の四天王の中には二つの魔族の派閥に別れて戦っていたという話があったからだ。

ちなみに、その話の信憑性だが、もしもリリスの話が本当だとしたら勇者と敵対関係にある勢力が魔族の国に存在しているという話に繋がっていくはずだが確証がない為、その話については保留にして、もう一つの情報を聞いてみる事にしたのだが。それに関してだが勇者は「今は、もう滅んでいると思うぞ」と話をした。そして勇者は自分が持っている知識を話し始める。それは勇者の父親と魔王の間に戦いが起こった時に魔王軍が、どのような作戦を取って攻めてきたのかを教えてくれた。その内容は魔王軍には聖剣に選ばれた聖戦士が居ない。

つまり魔王軍にとって魔王や四天王と呼ばれる連中の存在は切り札のようなものだった。しかし聖剣を持たない勇者を始末する為に人間側は魔王軍に対して戦争を仕掛けたので聖剣を使わない状態で戦う事になったが、それでも魔王軍の幹部の魔導士に化ける事で人間たちの陣営に入り込む事に成功した魔族がいた。それが魔王軍に味方をしていた闇の女神の力を受け継いだ勇者だと分かった瞬間に魔王軍の幹部は動揺したが彼は聖剣を持っていて闇の力が扱えなかったので聖属性の攻撃魔法を使う事が出来るだけで特別な力は持っていなかったので放置された。しかし、その隙を狙って人間の側が総攻撃を開始して魔王軍の本陣は壊滅的な被害を被ったらしい。

しかし、その状況で勇者が魔王を倒したので人間たちは勝利したが、その際に、魔王の配下になった聖剣を使えた人間は一人もおらず、また魔王に聖剣が奪われたのかという疑惑が発生したので、もしも聖剣が残っていたのなら、どうなっているのだろうかと魔王は不安を覚え始めたのだ。その聖剣は魔王城にある宝物庫に安置されていたが宝物庫に保管されていた宝は全て持ち出されていたので、その宝の中に聖剣は、無かったので、そのまま勇者の両親は死んだのだと僕は考える。

その話を聞いた僕には、その勇者を魔王が乗っ取ったという流れを想像するのは当然の結果のように思えた。だけど勇者が、どのように誕生したのかを考えると僕の父親は勇者の仲間であった事は間違いないだろう。だから僕は「それで僕が、貴方の父親の仲間の子供かもしれないと知って嬉しかったんだな」と、つい口走るが「その可能性は、高いかもしれないが。君の父親の顔を知っている訳でもないし断定的な事を言うことは出来ないんだよ。だけど僕の両親のどちらかは君と会った事が有るかもしれないんだね。僕としては、そう思うと少しだけ嬉しいかな」と言ってきた。それから勇者は「さてと、それじゃあ、そろそろ、これから、どういう風に動けばいいかを決めないとな」と言い出した。それに対して、どういう行動を取ればいいか悩んでしまったので闇女神に相談を持ち掛けて意見を求めると彼女は「その件なのですが。私が魔王と連絡を取り合うので魔導の勇者様と聖剣の勇者は私の眷属になって頂きます。そして魔導の勇者には闇の属性と魔力を与えて貰う事になりますが良いでしょうか? それを行う事により魔王は魔族から魔王ではなく神族へと生まれ変わります。その後は二人で力を合わせて世界を滅ぼして下さい。それが一番平和で幸せになれる手段だと思われませんか」と言われてしまう。僕は闇を取り込んだ時の状態を思い出してしまい、どうしようもない気分になるのだが、そこで僕は闇を取り込み続けていると僕の中に、もう一つ魂が生まれる事になってしまうという事を闇に伝える。

それを受けて闇の人格から僕は魔王の意識を表に出さないようにして魔王に肉体を渡すと、この国に存在する魔王城の地下にある迷宮の最上階を目指して進む。そこを守護している魔族の女と戦うが魔王の力を使った攻撃で一撃の下に殺す。その戦闘の後で僕に話しかけて来た者がいた。それは魔導士の女だった。彼女の名はリリスで、かつて魔王の部下として魔導士の職業に就いていた。その彼女と、どんな関係なのかは僕にも分からなかったけれど、そのリリスが、なぜか、僕の前に現れた。そのリリスの話によると僕は勇者と行動を共にしていて魔王と戦う事になるのは時間の問題であり、そうなった時には、どうにかして欲しいという内容の依頼をしてくる。

それを受けて僕は勇者に確認を取ると彼は「確かにリリスさんと約束をしたよ。もしも魔王が復活したのならば、どうにかしたいとは思っていたけど。本当に彼女が復活するとは思っていなくて。少し驚いたんだよね。それで僕としては魔族と仲良くなって人間たちとも共存出来る世の中に出来ないかと模索をするつもりだよ。だけど魔王と敵対する事にもなるだろうね。だからこそ魔王と話をする為に地下迷宮の魔王城を目指している最中なんだけど、もしもリリスさんの願いを聞くのであれば一緒に行動した方が良いと思って彼女を連れて来たんだよ」と、いった内容の話を口にしていた。その言葉に嘘は無いように思えた。

僕は、とりあえずリリスと一緒に行動する事に決めて魔王城へ向かうと、そこで僕は聖魔石を手に入れて、その魔石を闇女神が吸収すると僕は聖魔道士として認められて聖属性魔法を扱う事が出来るようになる。それに加えて闇属性魔法の能力を得た。僕は、これから魔王と対決するのだと思うと緊張してきた。それは相手は魔王なのだ。しかも勇者を、どうやって殺したのか分からないが、その勇者は、まだ生きている。そう考えると僕の気持ちが落ち着かなかった。それに勇者は、まだ自分の父親の真意が理解出来ていなかったようだ。

どうして、あの魔王は僕の父親の姿と声で、あんな台詞を語ったのか。その理由が知りたかったが、それを尋ねようとしても魔王からは「勇者を殺すのを邪魔をするのなら俺の手で殺さないといけなくなるぞ」と返されるだけだったので聞く事が出来なくなったのだ。とにかく僕は魔王を倒すつもりで、その方法を考えたが、そもそも魔族側の意見では魔王が、どのような存在になっているのかは把握していないようで僕が知っている事実は伝えても意味がないと分かると黙るしかなかった。だが一つだけ分かったのは魔王は勇者を殺そうとして返り討ちに遭って死にかけていたという事で、もしも魔王が死んで勇者が生きて居るとすれば今頃は魔王の地位を奪い取ろうと動き出している筈だという。

それを聞いた勇者は魔王の肉体を支配すれば魔王の全ての権限を奪い取ることが出来ると考えて僕の中に宿っていた魔の女神の力を魔王の体内に取り込ませる。その行為により魔王の身体の支配権は完全に勇者に移り、それを確認した後に勇者は自分の体に魔王の意識が戻るのを確認して魔王に尋ねる。

「僕の名前は魔王でいいのか?」と勇者が口にすると魔王の表情が変わって「魔王である事は間違いない」と答える。それを見た勇者は「お前に聞きたい事が、あるんだが、あの魔族が使っていた魔族の力を手に入れたいんだ」と言い出した。それに対して魔王は「魔導士から奪い取って、その力で魔族の頂点に立ちたいと願っているのだな。そんな夢を持つ事は悪いことではないが魔族の国を滅ぼす事によって実現させる事が目的だとしたら協力はできないな」と言う。それに対して勇者は魔王に向かって聖剣を抜こうとしたが、その前に勇者に、その腕を捕まれて地面に押さえつけられると、そのまま魔王は勇者を睨みつけるが「その剣を使えば貴様は死ぬだけだ。それで構わないというなら、やればいいが私は、どうせ、もう長くはない」と言ってくる。

その魔王の言葉に勇者は戸惑いながらも魔王の話を聞こうとするのだが魔王が話を始めたので「私を殺して魔族と人間の世界を手中に治める気なんだろうが、その目論見は失敗だ。お前が勇者に成り代わった所で聖剣を手にした者は勇者ではない。その事実を知れ」と話を続けると勇者は「どういう意味です? 貴方が何を言っているのか僕には理解できませんが。僕が勇者になれないのは聖剣が選ばないからだと思っていたのに」と言う。それに対して魔王が勇者の質問に答えようとしたが、その瞬間に僕に憑依した魔の女神が、その魔導の勇者に囁きかけるので「残念だけど、この男は、もはや用無しだね。こいつの記憶を読み込んだけど。やはり魔王を殺した勇者は、お前じゃないんだよ。それを認めたくないようなら、ここで始末しておくといいよ」と口を開くと、その直後から、この場にいる勇者と僕が二人になった。

そして二人の僕はお互いに武器を構え合うと「魔王を倒した聖剣使いの勇者。君は俺を倒して聖剣を奪う事しか頭に無いみたいだから始末してやる」と口にする。それを聞いて聖剣の勇者が笑いながら僕に対して攻撃を仕掛けてくるので僕は聖魔道士としての力を発揮した攻撃を勇者に向けて放つと一撃で、そいつを葬り去るが。その次の瞬間には聖剣の勇者が僕の目の前に現れると僕を斬りつけてきていた。僕は痛みを感じると共に「勇者が二人いるだと!?」と思うが既に僕は斬られてしまった後だったのだ。僕は自分が勇者と入れ替わっていた事を思い出して慌てて勇者の方を振り向くが「残念だけど、それは偽物だよ」と声を聴こえてきて僕の目の前から、その姿が消え失せると。いつの間にか僕が殺されてしまっていたのだ。

僕は死んだのだが、その直後に闇の人格に精神を乗っ取られると僕は魔王城に戻ろうとするが途中で足を止める。僕の中にある知識によると魔導士は魔王城の地下にある宝物庫に保管されている魔法書を手に入れるために宝物庫を目指すはずだが魔王城の宝庫の中には魔王の魂が封じ込められている。その状態で僕が魔導の勇者に魔王を討伐させれば魔王が、その身体に戻ってくるはずなのだ。

僕は宝物庫にたどり着くと扉を開けるが中には誰もいないので僕は聖魔導の書を探し始める。それを見つけて持ち帰ると僕は自分の部屋に引き籠ると闇女神に事情を説明して相談を持ち掛けようとすると「どうするつもりだ? 俺を倒そうとしていた相手に殺されると、そういう結末を迎えたいのか?」と言われる。

それに関しては闇から「貴方が死んだ場合は私が表に出て来るしかない。それは分かっているんでしょうね。だけど私が表に出ると魔王が魔王では無くなってしまう。それは私の望む事ではありません」と言われてしまう。それに対して僕は「僕の中で眠りにつくというのは出来ないんですか?」と言うと闇は少し考えてから首を左右に振る。それから闇は「魔王城で貴方が、どのように行動するか。それによって貴方の行く末が変わるでしょう」と言われた。だが闇には僕の中に魔王がいるという事実を伝える事に成功した。それを踏まえて僕は、これから先、どうするかを考えるのだが。僕の中では二つの選択が存在すると僕は考えた。一つは僕の中から魔導の勇者に殺された魔王が出て来て魔族の国に君臨するという未来がある。その場合では僕の目的は達成できるだろう。だが魔王は、すでに僕を魔導士と認めている。その僕を自分の手で殺す事は絶対に出来ない。もしも僕を殺している時に、その時の意識が自分の肉体に帰って来れば確実に魔王も死に至るだろう。だが、それでも良いかと考えた。魔王も僕と同じように、その身に魔族を取り込んでいるのだ。その命を代償として。

そしてもう一つの手段としては僕が闇女と二人で生きる道を選択した場合だが。この場合でも僕達は、いつかは闇に、その身を奪われてしまうかもしれないが。そうなっても、その時には魔王に僕と闇女を処分させるように頼みこめば、そのように処理をして貰える可能性は、あるだろうと思った。それに僕の中に宿る魔王が復活すれば僕の復讐を邪魔しようとする魔族は、もう存在しなくなる筈だった。僕は自分の中の魔王を殺す事を決心した。だが僕が魔族側に付き、魔王を殺す事に抵抗を覚えなかった理由にも説明はつく。それは魔王の力は、この世界に平和をもたらしてくれた恩人だった。だけど僕の父親は魔王の力で息子を殺そうとしている。だからこそ僕は、どうしても魔王を殺そうと思った。だが魔王は勇者に殺されて魔王城まで戻る力すら残っていない状態だったのは意外だったが、そのお陰で僕の計画は成功したのだと思うことにした。

僕を殺す為に、その機会を狙い続けている勇者は僕に近づきすぎない距離を維持し続けるが、そんな日々を何日ほど繰り返した頃だろうか。僕が勇者に対して疑問を抱いたのは、あの魔導の勇者の人格は何処に行ったのかと気になって仕方がない状況が続いていたが。その答えを教えてくれる人物が現れたのだ。僕と勇者の前に姿を現したのは、その魔族側の勇者である魔導の女戦士だ。彼女は、僕に勇者を倒す事を条件に魔王を生き返らせようと言ってくる。僕は、それに、その話に乗った。僕にとって、その話が魅力的で無かったと言えば嘘になるが、その話には魔王の復活の件だけではなく勇者を操って聖剣の勇者の抹殺に成功する事が前提条件として組み込まれており。僕に断る事は不可能に近い話だったので話を受けるしかなかった。

それに加えて魔族の勇者の提案を受けた理由の一つに魔族と魔族の勇者が一緒に暮らしていれば、それだけで他の勇者に対する切り札になりうるから、そう考えるのが妥当だったからでもある。僕は勇者が魔導の女戦士の話を断る様子を窺っていたが、彼女は魔導の勇者に話を続けようとした。その言葉の途中で僕の中に居座る魔の女神の声が響いた。魔の女神は、すぐに「魔族と、そちらの勇者の交渉の続きを、そのまま聞いておきたい」と言うので、それを僕は受け入れるのだが。勇者は、なぜか僕を見て、その女勇者に対して言ったのだ。「俺を騙して魔王を殺したのが魔導士だって証拠は無いだろ?」すると女勇者は僕を見ながら笑みを浮かべると「それなら貴方が殺したと証明できればいいの?」と言う。その言葉を勇者が口にすると僕の中にある知識から「魔族に、そのような力を持っている者は存在しないので、それが勇者の言葉だと分かれば疑わないのに」と、いった考えが伝わってきた。その言葉に僕が悩んでいると勇者は「魔王を殺したのが俺だと分かったなら、それで構わないさ」と答えた。

それに対して、どうするべきか悩んだ末に僕は、その勇者の問いかけに応じることにする。勇者の言葉通りに、その魔王を殺せば問題はない筈だからな。それから僕は魔王の死体を取り出してから「これなら、どうでしょうか?」と口にするのだが、それを見た魔の女神が僕に声をかけてくる。僕は、それに対して魔の女神の言葉に従う事にした。その結果。僕は、その死体から勇者の力を奪うことに成功すると僕は魔の女神に頼んで、この死体を宝物庫の奥に押し込んでおいてくれないか? と告げると、そこで魔王が動き出したのだ。

僕は、すぐに魔導の書を手に取って魔王に憑依される覚悟を決めるが。僕の中に入ってこようとする気配を感じ取れずに困惑をする。その間に僕の身体から出てきたのは闇の人格であり「貴様は、そんな物に用などない」と言う。それに対して僕は聖魔導の書の封印を解除しようと、もう一度試すが反応は示さないので、その事実に対して驚いていると魔王が言う。

「魔王と女神が、同時に、その力を使えるとは思っていなかったようだが。その聖魔導の書を扱えていた方が異常だ」

「貴方こそ僕が、こんな本を手に入れなければ聖剣の使い手に勝てる道は無かったと思いますが?」と僕が反論するが。それに対して魔女神は答える。「聖剣に認められた勇者に聖属性を持つ魔導士が挑めば聖魔道士でも負けると?」「そうです」と言うと魔王が口を開く。「それについては私から話す。確かに私は、その二人から見れば、それほど強いとは思えないかもしれないが、それは勘違いという奴でしかない」「どういう意味ですか?」と僕が尋ねると魔王は僕達を見回してから告げた。「まず私が魔王だと認めれば私の身体の中には魔族が取り込まれている事になる」その言葉の意味を僕と闇女はすぐに理解できたが。その言葉を勇者は受け入れられないのが、はっきりと分かる態度を見せたので僕が「貴方の身体の中に闇が潜んでいる事は知っている」と言う。すると魔王は笑いながら「やはりお前は、そこまで頭が回る男か。だが私が言いたかった事は別の事だ。聖魔道士の肉体は魔王を受け入れる事ができると。そう考えれば聖剣と聖魔道書の相性が悪い訳でもない」

その言葉を耳にして僕は驚きを隠せなかった。まさか聖魔道書が魔族を受け入れる事が可能だったなんて信じられないが、実際に僕の目の前に魔族である闇の人格が存在しているのも確かなのだ。その事を自覚すると僕は魔王に尋ねた。「貴方は、これから、どうしたいと思っているんですか?」「この世界に魔族の王として君臨したいと考えているが」と、それを聞いて闇女が僕に話しかけてくる。

「貴方が今から魔王を名乗ったとしても魔王城に戻れる力は、ほとんど無いでしょう。貴方が戻る方法を見つけるまでの間だけでも、私が魔王の座に付いてあげましょう」と提案をしてくる。僕は、それを受けて魔王に質問を行う。「魔王城まで移動できる方法はありますか?」と尋ねてみると「魔王城の地下から、この大陸の中心にある湖に抜けて行けば良い」と答えられる。

魔王は闇女が表に出る事を嫌っていたが闇女は僕の身体の中に入ると僕の身体を支配すると僕の姿に変化する。それから僕と魔の女神に魔王は言う。「女神と女神の器の小僧に聞きたい事がある」と言う。その言葉を聞いた僕達は黙って魔王の問いに耳を傾けた。それから魔王が僕と闇女神に確認を取った後に魔王が話を続ける。「私の魂と私の身体を分離して貰えないか? 今の私では勇者に殺されると消滅する。だが女神の力と女神の器の力があれば勇者にも対抗出来る筈だ」僕は、その願いに応えることにした。

僕の中に居る魔王と僕の肉体から分離する事は簡単ではなかった。魔王は自分が取り込んだ僕の父親と母親を取り込まなければならず。僕は僕の体内に宿る闇の人格を引き剥がさなければならない。どちらも僕の力だけでは不可能だと判断していると魔王が僕に話しかける。魔王は僕の中で僕の父親に自分の存在を流し込むと僕が父を飲み込んだ事で魔王と父が分離されてしまい、その反動で魔王が僕に吸い込まれてしまった。僕達は魔王が僕の中に吸収されると僕の意識が薄れていき僕の中に居るはずの魔王の存在が僕の中から失われる。僕は意識が遠ざかり始め魔王が僕の中の居なくなるのを感じた。

僕が魔王の事を考えていると僕達が居る部屋の扉が開かれたのだ。そこには一人の少女が現れてから僕に向かって話しかけてくる。その声を聞く限り、この子は魔王城で出会った時の子供だと思い出した僕は彼女に向けて「どうして君が此処にいるんだい?」と問いかける。彼女は僕の方を見てから「貴方が私を呼んでいたのよ。お兄ちゃん、忘れているんじゃない?」と言われて僕は彼女の事を記憶の何処かで思い出した。その事を思い出して「そうだっけ? そんな事より魔王城には来れたみたいだけど。僕の中に、もう一人、魔王がいるんだけど大丈夫かな?」と言う。それに対して、彼女は僕の顔を指差して「それは、この人のことよね?」と僕が、もう一体いる筈なのに彼女が指摘した人物は僕しか存在しなかった。「うん、多分、それだ」と僕が口にすると、そこに現れた魔王は口を開いて言う。

「私が貴方の中の魔王の魂だよ。今は、その体の主である魔導士と取引をして一時的に体を譲ってもらっている状態だから安心してくれ。それなら、もう用事は済んだよな?」と言うと僕は首を左右に振る。

僕は彼女にお願いがあると口にする。それを聞いて魔王が僕に質問をしてきた。

魔王の質問に僕は答えた。僕は魔王城の宝物庫の宝物を一つ持って帰りたいと申し出たのだ。魔王城は魔王に占拠されて以来、その機能は停止してしまっている。それなら、この魔王城を再利用しようと考えてから僕と、この部屋で寝転んでいる女性だけが残り、他の人間は魔王に皆殺しにされたので、その亡骸を回収しようと思ったのだ。魔王が僕の言葉に対して「それくらいの事であれば構わないが」と了承してくれた。それから魔王の宝物庫に向かう前に僕は魔導の書に命令を出して、この場所を魔王城の隠し宝物庫に作り変えた。魔王城の機能を復活させるのは、かなり大変な作業になるので僕は魔導の女騎士が使っていた転移魔法の道具を使用する為に彼女の死体から魔道書を取り出してから魔道書を彼女の胸の中に入れておく。そして彼女の遺体を宝物庫に置いてある棺の中に入れると魔王と共に地下の宝物庫に向かった。

僕は宝物庫に到着すると魔族の兵士に命じて魔導士の遺体を回収させる。それから宝物庫の宝箱を開けるように頼むのだが魔王の表情を見ると、どうやら僕の言葉に従うつもりがないのが、はっきり分かる様子を見せている。その態度を見てから、僕は魔王の態度を無視して魔道の書を発動する。

「我が魔道の力において命ずる」と僕が口にすると同時に僕の頭の中に「本当に発動させてしまうのか?」という闇女の感情が流れ込んできたが。僕に魔王を倒す意思があるので魔の道を使って魔王を倒す。

魔王城の中には既に魔族の死体は存在しないが魔族の死臭と血が城内には残っていたので僕の魔法で浄化を行うと魔王城全体に魔力が広がる。僕の視界の中では魔力が波打ち、それに反応を示すかのように床に散らばっていた金貨が浮き上がり、空中に漂いながら僕の周りに集まり始める。僕は金貨が浮遊を始めた所で魔王城に仕掛けられていた結界を解くと、そのまま僕の手元に移動してきた金貨を掴み取って収納袋に入れた。

魔王の宝物庫の中身も全て僕の物にしようと思っていたのに魔王が勝手に動き出して全ての宝物を僕の目の前に差し出してくるのだった。僕は魔王が何を企んでいるか気になっていたので、それを魔王に尋ねる事にした。「どうして僕の目の前に財宝を差し出すのですか?」と尋ねてみると。魔王は「女神に魔王の座を譲る時に、お前に魔王の座を奪わせる事を条件にしたので、それで約束を果たしただけだ」と言って僕に、これから先に必要な魔族を魔王の座に譲る事にすると言い始めたのだ。僕としては魔王から魔王の称号を奪うのは抵抗があり。僕が辞退すると「お前に拒否権はない。私が、お前に譲ってやるのだから大人しく受け取るが良い」と言われると僕は断る事も出来ずに渋々受け入れる事になってしまったのだ。

それから僕は魔王から譲り受けた部下達の事を考えると、どうしたらいいものか悩む。まず最初に、これから僕と一緒に来る者を呼び出すことにしたが。呼び出す人数は一人ではなく十人ほど呼ぶことにした。理由は魔王の部下は百人程度いたからだ。それから僕は宝物殿から必要な物を持って帰ることにした。

まず一番に欲しかった物は、やはり魔導の書を、この手に握りたかった。それから、もう一つ手に入れたいものがあった。

それは魔導の女騎士の魔石と、それから魔王の娘の魂を閉じ込めていた魔核と呼ばれる魔族の秘宝だ。

僕は魔王の娘である少女の魔核を手に入れるために魔石を魔道の手で吸収してから収納の中に魔石を放り込むと。それから魔核を魔道の力で取り出し魔王に頼んでから娘の魂を取り出すことに成功したので娘を僕の中に取り込む事に成功するとその魂を少女に移し替えて肉体を再起動させた後で、少女は目覚めたのだ

「貴方は誰ですか? どうして私を助けてくれたのでしょうか?」と言うので僕は「僕の名前はマオウだ」と名乗ったが僕は本名を口にしなかった。その事を不思議に思った魔導の少女は僕の名前を教えて欲しいと言われたので僕は、とりあえず偽名として「レイ」と名乗り「僕は君の父親である魔王を倒した男なんだ」と教えると魔導の少女が驚いて僕を見つめる。

その魔族の少女は、しばらく僕に、いろいろと話しかけると僕達を見ていた闇の人格が口を開く。「貴方が私を受け入れてくれた少年か。まさか、この少女を救いだすなんてね」と呟いてから僕は魔王城で得た宝物を闇の女神が欲しいと要求をしてきた。そこで僕は闇女神が求めるままに魔王城から奪い取った宝物を渡す事にした。その事を伝えると僕は「僕は君に感謝をしているんだ。君の望みをかなえる事にする」と伝えると魔王が僕に向かって「私を殺せば魔王城は元に戻せるはずだ。私を殺してみないか?」と言うので僕は魔王に対して「貴方が魔王城に戻るには僕が必要になります。僕が魔王城に戻ると僕が魔王になってしまいそうな気がするので嫌なんですよ」と言うと。魔王が、そんな事はしないと伝えてきたので。魔王の気持ちを確認する為に「本当ですね?」と確認を行った後に魔王が答える。

僕は魔王が、そんなことはしないと答えた事を嬉しく思う。僕に殺されると分かっているのに魔王が嘘をつく必要が無いのに僕は魔王が優しい人物だと信じて、あえて魔王に質問をする。「僕が殺した貴方は偽物なのでしょう?」

僕は魔王の瞳を見て「瞳の色が違う。僕は確かに黒だけど君は灰色だから。違う人なんだよ。魔王を殺した時。僕の中から闇の人格が出て行って、代わりに僕の中に魔王が入ってきたのが分かるんだ」と言うと。魔王は僕の言葉を信じてから「それでは、そろそろ別れようか?」と言ってきた。僕は魔王に別れを告げる「また、どこかで会いましょう。僕は貴方に殺された訳ですから。いつか、もう一度、魔王城に来ても良いかな?」と僕は口にすると魔王から返答があった。「その時は歓迎をさせてもらうよ」

魔王の言葉を聞いた瞬間。僕が持っていた魔道書が光り輝き始めて魔王の姿が僕の中に取り込まれていくと僕は魔導の書の魔力に包み込まれる。

僕は闇の女神が僕に向かって言葉をかける。「魔王を取り込んだからって貴方に何か出来る訳ではないわよね?」と聞かれたので言う。「もちろん。ただ魔道書の力を僕が使えなくなっただけで。闇の女神が魔王の魂を取り込んでしまった事で僕と貴方は同等の立場になった」とだけ僕は告げてから僕は、すぐに転移魔法の道具を使いこの場所から立ち去るのであった。

それから僕が元の世界に戻ったら魔王に頼まれたので僕は自分の世界に戻って来た。その時には夜になっているので、さっそく僕は自宅に帰って両親や妹の心配をしていた。そして、僕の両親が「おかえりなさい。今日は遅いけどどうしたの?」と僕を優しく出迎えてくれている中で。僕の妹が泣きながら抱き着いて来てくれる。

どうやら、かなり僕が家に帰ってくるまで寂しい思いをしていたみたいだ。僕が帰宅して抱きしめた後で「もう絶対に離れないで」と、まるで僕の事が大好きだったかのような態度を見せるので僕の妹は、まだ甘えん坊で幼いのだと分かった。僕は妹を、しっかりと抱きしめ返してから「大丈夫だよ。僕は何があっても側に居るよ」と言うと。

妹は「うん」とうなずいてくれたので僕は妹を、このまま、ぎゅっと抱っこしながら寝ようと思い布団を二枚敷いて、そのうち一枚の掛け布団を持ち上げて妹に「ほれ。一緒に、ここで休め」と言い聞かせるように言うと、お礼を言ってから妹が先に僕の横に入って来て、それから僕は布団に入る。

そういえば、ずっと一人で寝ていたので、こうして誰かと一緒に横に並んで眠ろうと思ったのは初めてだったので新鮮だ。そして僕は眠りに落ちると夢の中で、なぜか懐かしく感じていた魔王城に行く前に見た夢の続きを見る事ができた。

僕は暗闇の中に閉じ込められていたが、そこには光が溢れており。その中に僕が居たが僕は魔王に姿を変えていて僕は、そこに現れた女神が持っている剣で刺されたのだが、それでも痛みを感じることなく僕は死んでしまい。

気がつくと僕は自宅の寝室に倒れていたのだ。僕の体には何一つ変化が起こらなかったので。僕は魔王に取り込まれた際に僕の肉体が、この世界の僕が所持している魔導の書と同化したと判断をして僕は起き上がってから。魔道の本を片手に持ちつつ僕の家の周りを調べた。

しかし何も見つからなかった。

そこで僕は家の中の物置の扉が開いていたので、僕は、そこに近づいて行くと。僕が大切に使っていた武器の数々が綺麗に並べて置かれてあったのだ。

その事を知った僕の心の中には複雑な感情が生まれる。なぜなら僕は僕であり魔王でもなければ、この世界で死んだ訳でもない。

僕は僕自身の記憶を失っているから僕自身が本当に誰なのかが分からない。その事に僕は困惑すると同時に不安を覚えるのだった。

僕の体の変化は僕が一番に分かっている。僕自身は間違いなく僕のはずなのに、この僕の体が魔王ではない。それは間違いがないと思える。だからこそ僕が魔王城に行って魔族の魔王と戦って倒した時に。僕に魔王の記憶が流れ込み魔王を取り込んだことで。僕は魔王の人格を僕の中に宿す事になった。

だが勇者を取り込み魔王の称号を得たとしても。今の僕に魔王としての力が有るのかと言われれば無い。なぜなら魔王として得た力は全て闇の人格によって奪い取られてしまったからだ。それに魔王の称号を得ても僕に魔王の魔法が使えるのかと言えば使えないのだ。なぜなら魔王は魔王の力しか扱えないからこそ僕は魔導の女騎士から魔王として称号を奪い取る事に成功したのに、もしも魔王が僕から魔道の女騎士の魂を奪う事に成功していなければ、魔王として、もっと強い魔法を扱う事が出来たのは確実だと言えるだろう。だから僕自身としては、これからも魔王が表に出て来て、こちらの世界に被害を出さないようにしてくれる事を願ってしまう。

しかし魔王が僕を操って僕を殺そうとするのなら話は変わって来る。僕は魔王を殺すつもりで魔王を倒したが。今は状況が変わった為に僕が魔王を制御しなければならない。僕が魔王を制御するには、やはり魔王を、どうにかしなければ僕には勝ち目が無いと僕は思う。だからこそ魔道書を手元に置くことが出来た事は非常にありがたい出来事なのだが。しかし今の時点で僕に魔王を操る術は無くて、それどころか僕は魔王の魔力を使うことができないでいたのだ。それこそが僕にとって一番の問題であり僕が、もっとも悩んでいる問題でもある。僕は自分が僕である証が欲しいと思ってしまう。

僕は、この僕と言う人物について考え始めると僕は頭が混乱してくる。そもそも、なぜ僕と言う人物は存在しているのだろうか? その辺りを深く考えた所で意味はないと思う。だけど自分の存在理由を知りたくなって僕は頭をかきむしる。そこで魔導書を持っている事を自覚したので魔導の書を使って自分が僕である事を確認しようと考えるのだった。

魔導の本に意識を傾けてから自分の名前を問いかけた。そうすると、その問いに対して本が反応を示すと、しばらくすると本の文章が光るのだった。

それから本の文章を読むと僕の名前が分かるのだが。この本が僕の名前を教えてくれた事で僕は僕の正体を知る。僕はレイではなくマオウと言う名前らしい。それが僕の名前だと言うので。その名前を口にすると僕の頭の中に何かが入ってくる感覚を覚えて、しばらくすると魔王城に居て戦った際に僕の体の中に入り込んできた人格は、あの時の魔族の女性だったのが分かってくるのであった。

そして、あの時。彼女は魔王の身体を奪った僕を刺し殺したので。僕が死ぬ瞬間に魔族の女性が魔王を乗っ取ったのだろうと推測できる。そこで、ようやく魔族の女性の目的が、どうして僕を殺したのが、どういう理由からで、そして彼女が、どういった人間なのかを理解すると僕はため息を漏らしてしまう。僕は、そんなに恨みを買ってしまったのかという罪悪感に囚われてしまう。

そこで魔導の書から「貴方に、もう一度だけ会わせて欲しいと言うので魔王と闇の女神に私を会わせる許可を与える。ただし私が居る事を悟られない為に仮面を着けさせて貰うけど良いか?」と質問を受けたので。僕は「分かりました」と答えてから。

「それで、どちらから先に、会う事になります?」と質問を返したら闇の女神と名乗る方が「私の方は大丈夫です」と答えたので。魔王の方から、ゆっくりと時間をかけて会いに行こうかと考えた後に。闇の女神に対して「魔王は、どうしたいと望んでいますか?」と聞くと闇の女神は答えてくれる。「私は彼に謝りたいと強く思っている。それと彼は闇の女神から魔王の魂を抜き取り殺してくれたお礼が言いたいと望んでいる。だから貴方には、ぜひ魔王と話し合いの機会を設けてもらいたいのです」と答えるので僕は闇の女神の望みを叶える事にした。

それから僕は、まずは僕に魔王を返してもらう約束をする。闇の女神に、それを話したら快く受け入れてくれてから魔王が僕の目の前に現れる。

僕は魔王と闇の女神の再会を見届けると。魔王に話しかけられたので「僕は貴方と、どんな話が聞きたいですか?」と訪ねると魔王から返事が来る。「それでは魔王を殺した貴方が知りうる魔王の事を聞きましょう」と言われてから僕は、それに応じた。そこで魔王は、かつて闇の女神と恋人関係であったが戦争が起きて、その戦いの最中に魔王が闇の女神を誤って殺してしまい後悔をしていると話す。僕は、その話を聞いたので、それを利用して魔王の心を動かすことにした。

そうして魔王に「僕から貴女への提案があります。僕は貴女の魂が欲しくなってしまいました」と伝えると魔王は僕の言葉の意味を汲み取れたようで「まさか私を魔王として復活させろと言うのでは無いでしょうね?」と聞いて来たので僕は笑顔を浮かべながら首を横に振った。

それから魔王に、どのように魔王の称号を奪ってきたのかを説明すると。魔王は僕に興味を惹かれた様子で僕の体を触ったり、ぺたぺた、さわったりしながら僕と魔王が話をしていた。そこで僕は気がつくのだったが。僕の体が変化していたのに気がついた。それは僕の背中の皮膚の下からは小さな腕が生えていた。その事実を僕は知ることになったので魔王に質問をした。

「ところで魔王は僕に何をしてきてほしいのでしょうか? もし貴女が僕を仲間に引き入れて、また僕に魔王になって欲しいと望むなら」僕は言葉を言い終わるよりも先に魔王に抱きしめられる。

「もう二度と、そのような悲しい事を口にするな。もういいんだ、お前は十分頑張ってきたじゃないか」と言ってから「私を殺して魔王の称号を手放させた時点で十分に満足している。後は、これから、ゆっくり生きて行くつもりなんだから気にするな」と言われてしまう。僕は魔王から解放されたのと同時に魔導の本から魔王の肉体に、ある事を伝えたいと言う。そして魔王に伝えてみるように促すと魔王は魔道の本から情報を受け取ると魔王が驚いた顔をしたのだった。そうしてから魔王が僕を見てから、なぜか涙を流し始めるのだった。そうして僕は泣き続ける魔王を落ち着かせる為に。抱きついて慰めているうちに魔王が僕の耳元で言う。

そうしていると僕の体が、まるで別の生物のように僕の肉体を変化させ始めたのだ。

そうしてから魔王が言う。僕は肉体に変化が起こり始めていたのを感じながらも魔王が言った言葉を耳にすると僕は理解できなくて「はあ!? それは一体、どういう意味で言っているのか説明してくれませんかね?」と言いながら魔王を見ると、そこに魔王は居ないのに僕の体は魔王になっていた。そこで僕は自分が、どのような立場になってしまったのかを理解する。僕の心は、まだ魔王の体に慣れておらず戸惑っていた。そこで僕は、どうにか心と体に折り合いをつける方法を模索したが。そこで僕の体に闇が宿ったような感覚に襲われる。その現象が闇が体に馴染んできた証拠なのかと思い。それと同時に自分の体の違和感も消えると。今度は僕の体に闇と光が同時に発生する。僕は何が何だか分からない状態で僕の体が勝手に動き始めてから、いきなり暴れ出すと、この世界から、この世から消えて無くなってしまう。僕は、その事に耐えられずに僕は気絶してしまうのだった。

次に目が覚めると、そこはベッドの上だった。僕は目を開けようとするが、どうやら目は開かないようで僕は必死に動こうとすると手が動いた。その事に驚いていると「お目覚めになったみたいですね、気分の方は如何です?」と誰かに声を掛けられたのだった。

そこで初めて自分の意思とは関係なく声が出たので、この自分の肉体に魔王の精神が戻った事を僕は自覚するが、そこで「ここは何処だ?」「私の家で貴方の治療の為に運び込んだのですが、やはり自分の家が恋しいですか?」と言われる。僕は自分の身体が動く事に喜びを感じていた。だから、そのまま僕は起き上がると自分の顔を確認するために鏡を見る。そこで自分が自分だと、やっと認識できたのだが、どうして自分が生きているかと不思議に思った。

「俺は、どうやって生き延びたんだ?」僕は闇神に向かって質問を投げかけた。

闇神は「それは貴方の身体には闇の魔力が大量に詰まっていた為に私は貴方の中に封印されていた闇を吐き出させて貰いました」と言われたので納得する事ができた。それから僕は闇神に感謝をして「俺を救ってくれたのは、ありがとうございました。おかげで、どうにか命を繋ぎ止める事ができました」と言う。そこで僕は闇神から魔道の書について、どういった物なのかを、もう一度だけ確認を行う。魔道の書に関しては闇女神が魔王と闇属性の相性が良くないので扱えないので闇神の物にしてしまった事を教えてもらう。そして魔道の神から僕は魔王から奪い取った力を取り戻す事が出来たのも魔道の神のおかげだったのでお礼を言うと「それについては、私に礼を言われる筋合いなどありませんよ。それに魔王から貴方に闇が戻されたと言うのは本当ですか? そんな事が出来るのですか? 私としては魔王が蘇る事が無いのならば嬉しい限りなのですが」

そう言われてから僕は闇の女神から聞いた話を思い出して、あの時。魔王を刺し殺した際に魔王から魔王の称号を奪った時に。魔王から抜き取って闇に封じ込めたのが闇と言う事を僕が魔王から得た知識から知ると。闇の女神は闇の女神から魔王を切り離して闇を魔王に流し込んで、闇の女神の中に有る魔族としての力を全て奪おうとしたのだが、それが上手く行かず。僕の中に魔王を取り込んだので魔族は闇属性の扱いが上手かったのに魔王は闇を扱う能力を失ってしまう。

その話を聞き終えてから「確かに僕が闇を取り込めば、そういう効果が発生するのかもしれんが、そもそも闇が僕の体に取り込まれなかったら、どうするつもりだ?」と質問をぶつけると闇の女神は笑いながら答えてくれた。「そんな事は有り得ませんでしたから。闇を貴方に受け渡す手段を考えれば良かったのですが」と言われてから「それでは闇を扱えるようにする方法を知っているのか?」と尋ねると闇の女神が「貴方が持っている魔道の書に聞けば分かるんじゃ無いんですか?」と言われて僕は「それもそうだな」と呟いてから、どうすれば闇魔法を覚える事ができるのかを聞いてみる。

そして闇の女神が教えてくれて、すぐにでも闇魔法の使い手になりたかったが。今の魔王に成り代わってから数日が経っていると言うので「そう言えば俺が殺した奴は、今、どうなっているんだ?」と僕が質問をする。

すると闇の女神が「魔王の死体ですか?」と聞くので「そうだ、あいつを殺した際に魔王から魔王の称号を奪い取る事で、魔王の称号を失ったはずだ。だが俺の中には魔王の意識が存在している」と答えながら魔王は、まだ魔王としての意識を持っている。

僕は、そうなるのだろうと思っていたが。それでも闇の女神が僕の問いに対して、はっきりと答えない事に疑問を抱いた。そこで僕は魔道の書を呼び寄せると質問をする「お前が知っている魔王は闇の女神に闇属性を奪われた為に、ただの死人に逆戻りする筈なのだが、あれは何をしている?」と聞いてみると「魔王様から闇の女神様に闇を戻すよう、せがまれております」と言う。そこで僕は「それじゃ、あいつが死んでいる理由を説明してくれないか?」と聞いてみると「魔王さまは闇を闇神様に返す気はないと言っているようで」と答えたので「はあ!? 何を考えているんだよ。お前達の女神から、あんな酷い目に遭っておきながら、その相手を助けようとする意味が分からん」と言ってから僕は少し考えた後に言う「なるほど、魔王の狙いは闇を返して貰った上での闇との再契約という訳か」と口に出して、どうすれば良いかと思案した末に僕は魔王と会話を行う事にした。

それから僕達は魔王の城の中で魔王と対面した。すると魔王は嬉しそうにして僕に近寄ると僕が魔王を殺した際の様子を詳しく聞き出そうとしたので僕は、その時の様子を説明した。魔王はそれを聞くと悲しげに僕に言った「やはり私が魔王となった理由は間違っていたのだな。その事に気がついていれば私は貴女に殺されても、おかしくはなかったのだ」と言い出してしまう。そこで僕は気まずい雰囲気になった為に「魔王よ、貴女の気持ちはよく分かりましたが。貴女は自分の犯してしまった罪を自覚しなければならない」と僕が答えると。「分かっております。ですから闇の女神と、この世界に存在する魔族の皆に私を殺して下さいとお伝え願いませんか?」と言うので僕は闇の女神と魔族の者達に、これから自分が、どんな罰を受ける事になるのかを話した。すると魔族達が「それで私達の事を許していただけるのですか? その事であれば、いくら魔王と言えども私共の方で処刑の準備をいたしますが」と言うので「それは止めておくべきです」と闇の女神が発言してから「私にも貴方を殺す準備ぐらいはありますからね」と言うと魔族が震え上がった。

僕は二人の様子を見てから「それはともかく、今は俺の質問の方に答えて欲しいのだが、その前に俺の身体に魔王の意識は、まだ存在しているのかな?」と質問を行うと「魔王様なら貴方と話をしたいと言われていましたので」と魔道の神が言うので「俺と話したいだと? 何を話すと言うのだ?」と僕は首を傾げていると闇女神が言う「おそらくは貴方の体の事を尋ねてくると思うわ」と言われたので僕は「ああ、そう言うことか。だったら俺の方からも闇について説明して欲しい事があるんだが構わないだろうか?」と言うと「それは貴方の方が魔王より詳しいのでしょうから。私からは何も言えません。それと魔王に貴方の体の事は聞かれたので私から話させて貰います」と言われる。僕はそれだと不公平だと感じたので「俺だって知らない事くらいあるさ」と言うと「魔王から貴方への質問は一つだけですよ」と言われた。

その言葉を受けて僕は、どうせ闇の扱いについて、とかだろうと予想していると「勇者君に質問だ。魔王に闇が戻った事によって闇魔法を覚えられるようになったが。どうしたら、その力を制御できるのか教えてくれないかい」と僕が想像していた事とは別の質問をされてしまったので僕は「闇魔法ですか、俺は魔王の使っていた技も見た事がないので、どういう物か分からないので答えられない。だけど、闇女神さんなら闇魔法の事について、どうやら知識が豊富みたいだから彼女に質問してみた方が良いと思いますけど、闇神。彼女を連れてきてもらえないでしょうか?」と僕が頼んでみると闇神が了承してくれて、闇女神を連れて来てくれると僕は闇女神と魔王が話し合いを行う事になったのだった。

闇女神に魔王が闇を返して欲しいと頼み込むので闇女神は魔王に対して自分の意見を言う。「魔王よ。貴方が闇を取り戻したからといって。貴方に魔王を名乗る資格は、もう残っていないのよ」と言うが魔王の方からすれば自分の命を奪った相手が闇神だった為なのか。闇女神を敵だと認識できなかったようなので。それに加えて自分の身体は魔王の称号を失うと同時に死体に戻るはずだったのに、この状態は魔王にとって理解ができない状況であり。その事を闇神に尋ねた。

それから闇神から闇の力が魔王に戻ってきた経緯を聞かされた魔王は「私は闇神に、お詫びをしなければならない」と言ったのだが。闇神が「別に貴方に、そこまで謝られる筋合いは無い。貴方の命を弄ぶ真似をした事は謝罪するけれど」と言い。それに対して闇神が謝罪の言葉を受け入れようとした瞬間に闇の女神が現れて「闇の女神、私は魔王を殺そうとしましたが闇が戻ってしまった為に私は闇の属性を司る魔族の長の地位を返上しなければなりません」と言い出したのを見て闇の女神が慌てて言うと「そんな事は認めないわよ」と。

だが魔王の事を闇の女神が殺そうとした事実を、その場に居た者達全員が知っている。なので闇の女神の発言を聞いて、すぐに魔族達から批判の声が上がると。闇の女神が反論するが、それに対して魔族達から言い返すと。最終的に闇の女神が「分かった。貴方達の希望通り。私の権限で魔王の称号を剥奪します」と言って闇の女神の権限により魔王が称号を剥奪する事が決定するのであった。

その話を聞き終えてから僕は闇の女神に質問をする事にしたので「その事で俺からも闇に質問があるんだけど、いいかな?」と闇に尋ねると闇が答える「何だい、私に答えられる範囲なら答えようじゃないか」と闇に言われたので僕は質問を行った。「その魔王に返した闇なんだが。魔王が生きている間に、その力を解放させる事は可能なんだろう?」と質問をすると闇の女神が答えてくれる。「残念ながら無理です。私の魂に融合させている間は貴方が、どのような行動をしても、それに合わせて魔王は死ぬはずでした。ですが貴方が死んでから数日が経過してしまい。魔王から貴方の中に残っていた闇の力は消え去り。闇から貴方に返す事は出来ませんでした」と説明するので「それは困った。そうなると、あいつが俺の身体から消える事も有り得るな」と僕の呟くと。

そこで闇の女神から「そうですね。貴方の中から闇が失われてしまえば貴方の身体から魔王の存在は消滅するかもしれません」と口に出してから「そうなると闇から返して貰うのは不可能になる。私の力で貴方の身体と、あの魔王の体を、この場で入れ替える事は出来ないのですか?」と質問されたので。「やってみるしかないか」と言ってから僕は闇の女神に対して、そのように試みると。

すると魔王の肉体は僕の中に吸収されていき。代わりに闇の女神が僕の中に入ってきた。その際に僕の意識と闇の女神の意識が融合した状態で闇の女神が言う。「貴方は闇魔法を扱う為に闇属性を扱えるようになった訳だが。これから魔法を使い続ける事で。いずれ闇属性の力に飲まれて暴走状態になる危険性がある。闇の女神の加護を持つ者として、このまま闇魔法を行使し続けるのは危険な行為なのです」と言われた。

闇属性は魔属性と違って、かなり危険な属性らしいが、それを承知の上で僕には使いこなす以外に方法はないと思い。僕は闇魔法を極める事を決意するのだった。そこで闇の女神が「それでは、そろそろ私を貴方から離さなければならない時間になりました。魔王から貴方の中に戻った時に闇から私を解放した力の一部を使用して、その魔王を、どうにかして下さい。貴方に、もしもの事があれば魔王は貴方の体を奪うでしょう。その時には、また私が助けて差し上げますから、安心して良いですよ」と言ってくれるので。「ありがとう」と僕は闇の女神に感謝した。

その後で魔王との話し合いを終えたので僕は闇の女神に魔王を何とかして貰えるように頼んでみる事にした。すると闇の女神が言う。「貴方が闇を使って、あいつの身体を支配したとしても、この場から離れなければ魔王を殺す事が出来ないのよ」と口に出して言うので僕は魔王の方に振り返って魔王の状態を確認すると既に魔王の死体になっていたので、この場で殺しても無駄に終わる事を僕に教えてくれてから闇の女神は魔王の遺体を魔法で燃やすように指示した。それから僕は闇を操れるようになってからは闇に意識を奪われて暴れまわっていた時とは違って闇を操る事が出来るようになる前は普通に自分の身体を動かすのに苦労をしていたのだが、それと比べて今の僕の方で言えば魔王を宿していた時よりかは楽に動かせるようになっていた。

ただ、それでも闇を使うのは難しい。そこで僕は闇から与えられた力を使用する事によって闇魔法を発動させる。そして、まず僕は魔王を自分の支配下に置く為に魔王に闇の力を送り込み。闇の女神に「頼む」と言うと「了解です」と返事をしてから魔王に向かって闇の波動をぶつけて。魔王が闇の力に侵食されるのを確認した後で僕は闇を消滅させた。

魔王が死んだ事により僕は闇の女神と話す事が出来なくなっていたのだが。その状態を闇の女神に解決して貰うと僕と闇女神はお互いに相手の事を話せる状況になると闇の女神から「貴方は闇属性が使える事を知ってしまった。でも貴方はこれからも他の者にも内緒にして生きていく事を選ぶのかしら?」と聞かれたので。僕は素直に答える「うん。闇属性は魔王と同じ力を持つ存在だから。僕が持っている事を知られれば必ず悪用しようとする人達が出てくる。だからこそ、闇属性は、もう使わないつもりだよ。それに、もし使わなければいけないような時は、もっと違う属性を使えば良いだけの話だし」と答えてから「だけど闇神も、どうして俺が闇を使えて魔王を倒したのか、その理由を知りたがっていると思うけど」と言うが、やはり闇女神も、どうしても聞きたかったようで彼女は僕の問いかけに答えてくれた。

「私は貴方が自分の娘達を守るために魔王を殺したのだと思っているわ」と言う。それを聞いてから僕は魔王から渡された記憶を見て自分が何故。この世界の人々に恐れられているのか。理由を知って納得するのだった。

僕は魔道の神から魔王が闇の神を信仰している事実を聞いて魔王から聞いた話を魔道の神に伝えたのだった。すると魔道の神が言った。「それは間違いなく闇の神から受け取った力で闇魔法の扱いに長けている魔王様の本来の実力は魔王より遥かに上だったと思います。しかし、闇の神は貴方に、それだけの力を与えていないので。本来なら魔王よりも弱いはずです。ただ魔王が闇の神の加護を得た事が魔王様に魔王の座を奪われた原因になったと思います」と言う。それから「ですが闇の神も、その魔王に闇属性の魔力が渡るように仕組んだとは考えられませんか?」と言われて「そうだとしたら俺は今、生きている意味がないよ。俺は闇を取り込んだ時に闇に喰われて死んだ方が良かった」と言うと魔道の女神が僕の意見に賛成してくれる「魔王が生きていると勇者君や、その子達の身にも危険が生じる可能性が高まるだけで何も良い事がないので早く殺した方が良い」と言う言葉を聞いている内に僕は魔族の子供達を思い出して「そうだね」と言ってしまうと、いつの間にか魔王城に到着していたようだ。

そこで魔王の遺体がある部屋の扉を開けると部屋の中には魔王の部下達の姿があって僕は咄嵯に隠れようとしたので隠れようとするが、そこにいた一人の男が話しかけてきた。「待ってくれたまえ。我々は、きみと戦いたいわけではないんだ」とその男の容姿をよく確認してみると、それは魔王ではなくて、その弟の魔王の息子の魔王であった。なので魔王が生きていた事を知っていたので魔王から貰った闇属性の力を使いこなしても大丈夫だと理解したのと同時に僕は彼に言う。「お前が、この国の王になるのか?」と。

その問い掛けに対して彼は僕の事を睨み付けてくるが、すぐに表情を変えてから冷静になって口を開く「いいえ、私は兄上の、お手伝いをしているだけに過ぎません。兄上こそが真の国王にふさわしいのです」と答えた。それを聞いた上で僕は彼に質問をした。「その魔王が生きている事は魔族の民達は知っているのか?」と聞くと「勿論。私の父上には知らせています。ただ今は私しか、その事実を知らないはずです。父上は貴方の力が本物かどうか見極めるのを優先させて私にしか情報を漏らしていないはずですから。その事で私に用事があるんですよね? 何の御用でしょうか?」と言ってきたので僕は「いや、ちょっと頼みが有るんだよ」と言ってから僕は魔王城に居た魔王の部下達と話をする事になった。

魔王に僕を襲わないように指示を出していたらしく僕を襲うような事はせずに、ちゃんと話しを聞いてくれたのである。そして、その話を聞いた僕は彼らに魔王討伐に協力をお願いすると彼らは僕の味方になると言ってくれた。それから彼らとの話を終えると僕は闇属性を使って転移を行って元の場所に戻るのであった。すると僕の体は勝手に動くと、そのまま魔王が倒れている所に移動する。それから僕と闇は話し合った末に闇の女神に魔王に復活して貰うように頼んでもらうと闇から「分かった。それでは貴方には闇の女神に頼まれて仕方なく協力する事にしたという態度をとって欲しい。それで貴方は、これから闇属性の力で、どうやって魔王を倒す気なのかな? さっきまでと違って、どうすれば良いのか分からなくて途方に暮れるような事は絶対にしないようにしてよね」と言われる。なので、その通りに行動しながら闇魔法を行使する事に集中するのであったが闇の女神の力で僕の肉体に闇属性が付与されると魔王は蘇り魔王は復活した。

魔王が僕の姿を見て驚く。魔王に対して僕は魔王に「おい、起きろ」とだけ言うと魔王は僕の肉体が魔王の肉体ではない事に気が付いて「お前、その体を乗っ取ったのは誰だ」と言い出した。僕は闇の女神の力を授かった事を説明してから闇魔法を行使出来るようになってから魔王を始末しようとした事を告げてから「もう俺の体を元に戻したり、闇属性の魔法を扱えるようになったりした時点で魔王は、この世に存在しないはずの人間になっている」と言う。そうすると僕の言葉に反論しようと魔王が何か言おうとしていたが、それを無視して僕は魔法を発動させると魔王の肉体を消滅させる。そうすると魔王は闇の中に消える。それを見た闇の女神は「やっぱり貴方には、この世界での暮らしは無理だったようですね。まぁ良いでしょう。それでは貴方を元の場所に戻らせて頂きます。また機会がありましたら会いましょう」と言うと僕の意識を闇に閉じ込めて現実に引き戻すのだった。

現実世界に戻された後に自分の体の中に戻っていった闇の女神と意識が融合して闇の女神の人格になっていた僕の体が闇から解放された。その後で闇の女神は自分の力で魔王を倒したという実績を作り。闇の神と闇の女神として僕の中で生きる事になる。

魔王との死闘を終えて僕が意識を取り戻すと僕の体は自由に動かせるようになっていた。だが、まだ魔王は僕の中から出て行こうとしなかった。

そこで僕は闇の力を使用して僕が支配できる空間を創り出すと魔王をその中に封じ込めた。それから僕が魔王の様子を見てみると魔王の様子が少しおかしい事に気が付いた。僕は闇の女神に魔王の事を、どうにか出来ないのか尋ねると彼女は僕にこんな事を尋ねてくる。「貴方に質問が有ります。闇属性の力を操れるようになったのは、どうしてですか?」と聞かれたので僕は素直に闇女神のお陰で使えるようになったと言う。それを聞いた闇の女神が僕に謝って「本当にごめんなさい。私が不甲斐ないせいで貴方に迷惑をかけてしまって、すみませんでした」と言うので僕は彼女の謝罪を受け入れるのであった。

僕は、このままだと魔王が闇から逃げ出して僕の肉体を乗っ取ろうとするのは目に見えていると思ったので魔王の力を消滅させようと考えたが闇は闇魔法で闇から力を奪えるので、その力を使えば魔王から闇属性の力を奪って完全に無力化させる事ができるはずだと、この考えに僕は辿り着くと僕は自分の身体を動かせるようになると直ぐに僕は闇の力を使って自分の中に封じ込んでいる闇から力を奪い始めた。そして闇が僕の力を奪う事を止めて、しばらく経つと闇属性の力も僕に吸収されていった。その様子を確認すると僕は闇女神から教わった闇の神の信仰者について確認してみる。すると僕は驚いた。何故なら闇の女神が僕の前に現れる前でも、その力は残っていたからである。

闇から、それを知った僕に対して彼女は「貴方に話していなかったのは、闇属性の魔法に頼りすぎてはいけないと言う事を教えるために黙っていたのよ。でも、そのおかげで貴方も、その事を理解する事が出来て良かったわ」と言うのを聞いて闇は闇の神の事を信頼しているのだなと、改めて感じる。

僕が魔道の神から聞いた話では魔道の神も魔族の神が魔王になった時に闇の神と同じように魔王を倒した存在だという話を僕は思いだす。そんな事を考えていたら僕の中にある魔道の神の魂の記憶を見ていた魔王が僕の体から離れて闇に飛び込むと、そのまま逃げようとしていたが、僕は魔王を闇で取り押さえる事に成功した。僕は魔道の神の事を闇の神に話すと、彼は嬉しそうな顔をするのだった。その表情を見ると闇の神の事が好きなんだなと思う。そして僕の中の闇も魔王が嫌いなのか闇の神と話がしたそうに僕の中から出ようとしているが僕は「ダメだよ。君が、闇の神と話したら闇の神は君に心を許してしまうかもしれないだろう」と注意をしてから「それに、もう少し待ってくれ」と言うと闇の神が「分かりました。ですが私達の方からも一つ、質問しても宜しいでしょうか?」と言うのを聞いて僕が「何を聞きたいの?」と問いかけると、やはり魔王は魔族の間で禁忌として扱われている魔法を使っていたようだ。それは闇の女神を復活させる為の禁断魔法らしい。それを闇の神が教えてくれると「ありがとう。君のおかげで魔族の民達に闇属性の魔法を使う事の危険性を伝える事が出来る。それじゃ僕は行くね」と言うと魔道の神の肉体に魔族の王から与えられた力が戻る。その力を実感しながら僕は元居た場所に戻ると魔王は、すでに居なかった。

僕は闇が作り出した僕の体に、これからの事を考えながら魔道の神が魔王に倒された後の出来事を僕は彼女に聞いてみようとしたのだが彼女が僕の口から、その事を聞いたとしても、もう僕と魔道の女神が会話する事はできないのだから聞くだけ無駄だと思って僕は何も言わずに自分の肉体に戻ったのであった。そして戻った肉体を、これから、どうしようかと、ふと悩んでいる時だった。僕は僕以外の人間が近づいて来る足音に気が付く。それから僕に話しかけて来たのは僕と一緒に魔王討伐に行った騎士の隊長の人狼の女性の人であるが彼女以外にも他の騎士団のメンバー達が、ここに来たみたいだ。それから僕は自分が倒した相手の事を彼らに聞くと魔王は死んだという答えが返ってきた。どうやら僕の事を疑っているようなので僕は何も悪い事をしていない事を説明して信用してもらった所で魔王は魔王城から逃げ出す時に闇属性の力で転移を行う際に闇属性で転移を行えるような闇属性を持っている人物と、その近くに居る人間を全て殺し尽くして行ったそうだ。つまり闇の女神は自分を助けようとする者は、その者達を殺して殺さないと助けないと暗に言っているのが分かる。

魔王が転移する直前に僕は魔族の中でも、その力を知っている者は少なかったらしく闇属性魔法で空間を創り出して、そこに逃げ込もうとしたが僕は魔族の騎士の一人に闇属性の力が使えて僕の事を良く思っていない奴がいる事を伝えてから僕は空間の中に入って逃げるように促すのと同時に僕自身も一緒に空間の中に飛び込んだ。それを見た瞬間。僕達の近くにいた人間の部隊は一瞬、反応が遅れてしまった。それを見た魔王は笑っていたが僕は自分の肉体の方に向かって闇魔法を行使する。

そして、僕は自分の肉体に戻っていく。そして僕が自分の肉体に戻ってみると魔王は闇に飲み込まれていく最中だったが、闇属性を使って闇から逃げようと必死になっていたが僕の闇が魔王を逃がさなかった。すると魔王は闇の中で「どうして私が死ななければならないの?」と言い出したので「お前に生きる価値は無いからさ」と言ってやるのだった。その事を聞くと魔王は自分の事を愛してくれる人を全員殺した事に対して、とても怒っていて「貴方が、こんな人間で無かったのならば私は貴方を愛する事だって出来たのに。貴方にだけは言われたくない言葉ですね」と僕が闇の女神と融合するまでに魔王が犯してきた罪を彼女は言い出した。それに対して僕は「それが、お前に殺された人達の痛みと悲しみだと言う事を理解しろ。この人でなしが」と言い返す。そうすると魔王は僕に対して怒りをぶつける為に魔法を行使したが僕には効かなかった。そして僕は魔法を使って僕の肉体を完全に消滅させると魔王は「どうして私の魔法が通用しないの?」と叫ぶ。すると僕の中に入っている闇の女神が「貴方には私が居るのですから、こんな魔法は私には全く意味が無いと言う事を証明しました」と言う。それを聞いて「まさか闇女神まで手懐けていたなんて、信じられない。でも、この闇の中では魔法も使えない。それに肉体が無くなった今の状態で闇から出れば私は確実に死んでしまう。だから貴方の身体を使っても良い? そうしないと私は死んでも死にきれない」と言う。それを聞いた闇の女神の人格の彼女は嫌がったが、それでも僕は構わなかったので、それで魔王の命が救えるのであれば僕は構わないと思った。なので魔王に自分の体を乗っ取る事を許可してやった。それから僕は闇の女神と人格が統合されるまで魔王と融合している状態になるので、その時がくるまで待つしかないと思った。そして魔王の精神世界で僕の精神状態を維持する為に僕達は融合していたのだが闇女神と融合してしまった事により僕が持っていたスキルと魔法は全て失われてしまい。代わりに魔王が持つ事になった。魔王が持つ事によって、ようやく僕の中に闇女神が入り込んで来れたのである。それが終わると僕は僕の意識を取り戻した後に僕の体の中には、まだ闇属性の力が残っていて。僕自身は闇属性を使えなくなっていたが、その代わりとして闇女神が使えるようになっていたのであった。

それを知った僕に対して闇の女神の人格を融合した魔王が言う。「貴方って本当に、とんでもない事を考えるよね」と、彼女は、そんな風に僕を評価してみせた。しかし僕の肉体を支配していた魔王が消滅した事で魔族の王は新しい肉体に魔族を宿らせて、この世に復活しようとしている。だが魔王が復活した所で僕は魔導の国で聞いた魔道の神の話を思いだすと魔道の神は魔族は滅びる運命に有った事を思い出した。そんな時だった、僕は僕達の所にやって来た勇者の子を名乗る少年が、どんな子なのか見てみると、どうも、どこか僕に似ている感じだったので、その子に、もしも僕の子供が産めたのなら僕の力を受け継いでいるかもしれないと考えてから「その、君の父親は僕なんだ。だから僕の娘は僕の子供と同じだと思うから、ちょっと話を聞かせて欲しいんだけど」と僕は僕の娘であると偽っている勇者の少女と話をした。その結果。彼女の父親の勇者が彼女の力を利用して何かをしようとしていた事に僕は気付くと彼女の力を利用すれば闇属性の魔力を吸収して無効化出来るのではないかと思いつくと、すぐに僕は魔導の王から、もらっていた魔法道具に闇属性の力が吸収されない効果を付与して魔導の王に、その事を話して彼女の力を使って、それを発動させる事をお願いすると彼は快く承諾してくれて、この魔法道具を持って魔道の世界に戻るのであった。それから彼が戻って来るまでに魔王を倒した時に僕達が使った闇属性の魔法を解析してくれた者が居て、そのおかげで僕達の魔法の正体が判明した。それは、その闇属性魔法の使い手が死ぬと闇の女神が消滅する前に闇の神の信者の力を奪い取っていたらしい。

つまり魔道の神の信者が闇に対抗できる力を手に入れたのは、その闇属性の力を吸収する事ができる力を手に入れられたからだ。それ故に魔王を倒せる程の強い力が魔道の神の信者達に集まる事はなかったのだが。僕の場合は、もともと、そういう力が有り、更には闇の女神が僕の体内に存在している状態で、闇の女神が魔王を倒した時のように闇の力で自分の身体を作り替えた時に闇属性の力を使う事が出来ずに自分の力で闇を打ち破る事も出来ていたので、僕だけは例外的に強くなっていただけの話で。僕と魔王の実力差が互角になった理由は僕の方が魔王よりも闇の神の信者達の信仰心が強かった為に強いという理由だったようだ。ちなみに、そんな説明を魔道の女王から受けた後で魔道の女王が「魔族の中にも魔王様の本当の強さを知っていなかった者も居るのね。それと、その事実を知ろうとせずに自分達は闇属性の魔法が使えなくても魔王様の強さについて行けていると勘違いしている愚か者達ね」と言うのを聞いて魔王城に残っている人達が、あまりにも不甲斐なさ過ぎで情けないと思うと魔王城に居残っている魔族の王から連絡が来る。その内容は魔王城に攻め込んできた人間達が魔族に勝ったと言う内容であった。その話を聞いた後で僕は魔族に勝った人間の事を知りたくなって聞いてみたのだ。すると、それは、どうやら魔族の王を倒す為に召喚された聖剣を持っている人間だと知った。その人間は僕の娘だと名乗る少女で僕は僕達が魔王と戦ってから時間が、それほど経っていないにも関わらず。彼女が既に魔王を倒して魔族を倒してしまうほどに強くなっている事を理解する。だけど彼女が一人で魔王城を滅ぼせないと、その事に僕は不安を抱くと僕の中で闇の女神が笑いだす。その笑い声を聞いた僕が言う。「どうして笑うんだい?」と尋ねると彼女が答える。「だって。貴方は、いつも自分が娘に勝てるか不安になっているのが、どうしても面白くて」と言い出したので僕は彼女に言う。「そんな事を言っているけど、もし君の娘が魔族との戦いで怪我をしていたら君は娘を心配して泣く事になるだろうに」と言うと闇の女神が僕に対して文句を言うと、それに対して僕の中で眠り続けていた闇女神の心の中の人格が目を覚まして「貴方って本当に、お父様なのですね。私の気持ちは、ちゃんと分かっているんですから」と言ってくる。

それに対して僕は何も言わずに何も返事をしなかった。なぜなら、そうやって会話をしても、きっと彼女達は喧嘩をするだろうと、思ったからだ。すると闇女神は僕が何を考えているのか理解できたようで「もう、いいです」と闇姫は僕に話しかけてくる。それから僕は自分の中に眠る魔王の魂を解放しようと試みる。すると闇姫も闇属性魔法を使いだしたので僕は魔王の肉体を復活させようとしたのだが、それを見た闇姫は僕に対して怒鳴り始める「何の為に、こんな事をしているの? こんな事は、もう辞めて。私に全てを任せて」と言われて僕は何も答えられなかったが闇姫に魔王の事を諦めさせる為だけに闇属性の力を使って魔王を復活させる。そうすると僕の目の前には魔王が現れてくれた。それを見た闇姫が「どうして、この人は私の言う事を聞かないの?」と怒り始め、それに魔王が反論する。

「どうして貴女が、こんな所に現れたの?私の目的を知っているのでしょう。邪魔をしないで」と言うと闇姫は魔王に対して、こう話す「貴方が、これから復活させようとしている存在こそが私が望んでいる物なのよ。だから、この場で殺しても良いんだよ」と言うと魔王が「私が、この世界で生きている間に貴方のような人には、絶対に負けない」と言う。それから魔王は闇姫に対して「私の事を魔王と呼ぶけれど。本当は魔王ではないの」と言うと彼女は驚き「魔王ではないのなら、あなたは何者?」と言うと魔王は自分について語り始めたのである。

それを聞いて僕は魔王が、どんな存在かと言う事を今更ながらに知る。そもそも僕は僕自身の正体さえ、きちんと把握していないのに他の人の、そんな事を言われても困るとしか言えない状態だった。そして魔王は自分の素性を語り終えると、それを聞いた僕は「どうして、そんな事を、今まで黙っていたのですか?それなのに私達を欺き続けていましたよね」と言うと闇女神も僕に同意するように僕と一緒に魔王に対して詰め寄った。

そんな風に闇の女神と闇姫と闇の女神の娘である魔王が三人が揃って魔王に問いただしたが彼女は僕に謝る。

「私は確かに闇を司る神ですが私は全ての闇の神ではありません。私が司るのは光であり闇では無いのです。だから、あの時の、あなたの攻撃で闇の女神は消滅しましたが、それは仕方が無いと思っています。闇属性の力は魔王が持つべきではない力なので、それが正しい使われ方をして良かったと思います。そして魔王が、あそこで、その力を発揮しなければ、あなたは魔王を倒す事が出来ませんでした。つまりは私達は互いに互いを認め合ったからこそ、こうして無事に魔王城の外で会う事も出来たのですよ」と説明すると僕は、その言葉に感動してしまう。だから僕は闇の女神と魔王が和解する事ができて嬉しかった。それを見て闇姫も魔王を許してくれるようになるのだが。しかし、その事に納得できない者が一人だけ居て魔王の肉体の復活を妨げようとして来た。

それが僕の娘の魔導の王の娘である魔導の女であったのだ。そんな風に闇属性の力を使った戦いは魔王が魔王の身体を取り戻した事で終わりを迎えた。それから魔王城から外の世界に戻った時に魔道の王は僕の方に頭を下げてきた。そんな彼の姿を見て、この魔道の国の王は悪い人では無いと思うと、この国に来た目的は達成されたので、僕は魔導の王国に用が無くなったから僕は僕達の国に帰ろうとするのだが。その帰りの道中。僕は魔族達に僕の娘は実は魔族の王子の娘だと説明して僕は彼女の父親に会いに行こうと考えているので一緒に来ないかと提案をした。しかし僕の娘であると名乗り続けている勇者の少女は「私と、お母様で、すでに魔族の王族の人達は倒してしまっているから。この国は、しばらく大丈夫だよね。だから勇者様が魔族の王を説得するのに、わざわざ付いて行く必要性を感じません」と言ったので。僕が彼女に言う「もしも、このまま僕達の国に行かなかったとしたら。僕は君の本当の父親がどんな奴なのか知らないままになってしまうし。その方が気になって夜も眠れなくなると思うんだけど。

それでも僕達の国が心配で離れられないというなら。君は、ここに残るべきだね」と僕が言うと、それを聞いていた勇者が僕の事を馬鹿にしたように笑ってから僕に向かって言う。「貴方は自分が本当に子供の父親だという事を信じられないのですか?貴方は闇の女神に体を乗っ取られていた時に貴方が魔王を倒してから、ずっと闇の女神に操られていたのでしょう」と言われると魔道の王の娘である魔道の女は怒って僕に対して何かを言おうとした時に僕は魔道の王が止めてくれ。魔道の王国の兵士達まで集まってきたが。そんな中で僕達は、その場を去ろうとした。その時に魔道の女王から手紙をもらって魔道の女王の手紙を読んだ後に僕達が帰ろうとしていると魔王が、この魔道の国で、まだやるべき事があると、僕に告げた。僕は何がしたいのか分からなかったので彼に聞いてみると。魔王城は破壊されたのだが魔王が復活する前にあった魔族の王の一族と魔道の国の人達との確執が原因で彼らは仲が悪くてお互いに戦争を始めようとしている。それを止めたいと、魔王は、そういうのだ。

その魔王の願いを聞く為に、僕と魔王と闇姫と、それに僕の娘の四人で、もう一度、この魔族の国にやって来た。

すると僕の前には魔道の女王からの手紙を読んでから、どうすれば良いのか悩んでいる人達がいた。僕が彼らに対して魔王と僕の二人の話を伝えると魔王の話も、また嘘だと言い出すのが、ほとんどだったが。僕の話を聞いた一人の魔族が僕に対して「魔王は、どうして自分の一族の者を裏切って、この魔道の国から逃げ出したんだ」と言うと、その言葉に対して僕達の会話を盗み聞きしていた魔族が「そうだ、その通りだよ」と言う。

それから僕が魔族に対して魔王は何故に魔族の人達の味方を捨てて、ここから逃げ出してしまったのかと言う質問に対して魔族は僕に対して説明を始める。その前に、まずは僕と闇姫は魔王が逃げた経緯については知っているので彼女が僕の横に来て魔族と話をし始めた。僕は闇姫の事が少し気に掛かって闇姫の事を見ると、闇姫の様子がおかしかったので僕は彼女に声を掛けるが返事が帰ってこないのだ。

それで僕は魔王の方を見ている闇姫の様子を見てみると。どうも闇姫の瞳は魔王の事を見ているのではなくて、魔王の隣に立っている魔導の国の王の娘だと言う少女を見ているようだった。そんな闇姫の様子に気付いた魔王が闇姫に話しかけようとするが。闇姫が先に魔族に聞く。

「どうして魔族なのに闇の女神と仲良くするんですか?」

その発言を聞いた瞬間。魔王は、いきなり怒り出して闇姫を殴る。だが、それも仕方が無いと思った僕は、とりあえず、すぐにでも、ここで争いが起こる事を防ぐ為に魔王を止める事を考えるが。闇姫も、かなり怒り狂っているようで「よくも、お父様に殴られたわね。絶対に許さない」と言って魔族の女に飛びかかろうとして魔王も魔導の王の一人娘に攻撃しようとしていた。

それを見た僕は急いで闇属性の力を使って二人を引き離すと僕と闇姫と魔導の女の間に割るようにして入っていたので、そんな僕の様子に驚いた二人は攻撃を途中で止めたのだ。そして僕は魔王に言う「君はまだ闇属性の力に慣れていないから、こんな場所で戦おうとするな」と僕が魔王に対して怒鳴ると魔王は謝ってきたので、それに納得したのか闇姫が自分の身体を取り戻すために魔族と戦う事に意味はないと考え直して、その事には反対しなくなった。それから闇姫が魔王に質問を始めたのである。

「どうして私のお母様と一緒に逃げようとした時に、そうしなかったのです?私が言う通りにしてくれれば魔王が、ここに戻って来ても何の問題もなかったんですよ」

それに対して魔族達のリーダー格である老人の男は「魔王の奴も我々が信用出来なかったのだろう」と言うと魔王は魔族の人達に対して謝罪すると魔導の女王は「私は魔族の王を責めたりはしないから安心して欲しい」と言う。すると闇姫は言う「では私が、お父様の敵を討ちます」と言うので僕は、その闇姫の言葉を聞いてから魔族の男に言う「魔王の事は、もう、この国に居させてもらえないだろうから、どこか遠くの土地に連れて行く事にしよう。その辺は魔王と話し合うとして、魔王は何処に行きたい?」と僕が言うと魔道の王は魔王城の地下に眠る。巨大な宝玉がある場所に行きたいと僕達に頼む。

それを聞いた、もう一人の娘であり魔王の娘である闇女神は驚くと闇女神は言う「貴方は魔族の王に、なったんでしょう。それなのにどうして闇の力を欲していないのですか?それはおかしいよ」と言うのだが魔王の返答は「別に闇の力は欲しいとは思っていませんよ。私の目的はあくまでも魔王としての役目を果たし終える事ですから。だから闇の力が、いくらあっても私としては無意味な力なのです。私は闇を司る神の眷属ではあっても闇を司る神ではありません。

私は全ての闇の力を司る神ですから全ての闇を司る事が出来て。闇を司る神ではありませんから闇を操る力を持っていますが闇そのものを操る事が出来ません」と説明したので僕は魔王の話を素直に信じる事にして魔族の国にある地下に向かうのであった。それとは別に魔王が魔族の王になって魔族の国の人達から信頼を得たいと魔王城に眠っている闇属性の力を手に入れようとしている。だから魔王城の地下の巨大で神聖な魔力を漂わせている。その場所で魔王を待っている間。魔王城の中に残されていた宝物を見て回っている内に。魔道の国の王女であり魔王の娘であり。魔族でありながら闇属性の力を使う事ができる闇の女神と僕は出会った。僕は魔王城の地下室に向かう途中の通路の途中で偶然に闇属性の力を使っている彼女と出会ったのだ。

彼女は、いつも通り。光の神に祈る為の光の女神の祈りの像の台座に座っている。そんな彼女の姿に、ちょっと興味を覚えた僕は彼女に声を掛けようと思うのだが。しかし闇の女神の側に居る魔王の配下の魔族達は、やはり魔族とは思えないくらい礼儀正しくて僕にも丁寧な態度で対応してくるのだ。

そんな様子に僕は少し疑問を感じたのだが。僕達の会話が気になったらしく。一人の魔王の娘だという少女も近付いてきたので三人で話をしているのだが。その中で僕と魔王の娘だと名乗る。魔道の王の娘だという少女と。その少女の横に座った闇姫の二人は意気投合したみたいだった。僕は二人から色々と事情を聞いていたので闇姫が言う。

「その話は本当だと思うけど。その魔導の女の人は、お父様に捨てられたの。それで魔導の国の王様が、それを許す事が出来ないでいたんだよ。でも私も魔王の子供だって事が分かった時もお母様から酷い扱いを受けていたし。お母様は闇属性の能力を持っていないの。だけど、その魔道の女の人が魔王の子供だなんて。信じられなかったのは仕方がないよね」と言うのである。それを聞いていた闇姫は魔道の女神の娘だと名乗って。僕に対して自己紹介をするのであった。それから僕が闇姫に「どうして闇姫が、その女の子が闇属性を使えるのを知ったの?」と質問すると闇姫は「えへっ、貴方は闇属性の事を良く分かっていないようだから教えてあげましょうか? そもそも魔族の人達が使っている闇魔法や闇属性って何の為に存在すると思います?魔族の人達は闇属性や光の力を使わないですよね?それなのに、どうして貴方は、あの子や魔族に使えない闇属性を扱えるように努力してきたのか。貴方は本当に分からないんですか?本当に貴方は何も知らなさすぎるんですよ。そんなに知らないなら貴方は一体何を勉強しているんですか? 貴方って本当に勇者様なんですか?」と言われてしまう始末。しかも僕は彼女に言われるがままに勇者だと答えるしかないのだ。そんな僕の横にいる闇姫に向かって闇姫の父親は言った。

「お前は、どうして、そこまで勇者を嫌ってるんだ?どうして魔王の娘なんだろ?」と言うのだが闇姫の答えが意外なもので僕は驚いたのだ。

その闇姫が僕の方を見ながら言う「貴方は闇の女神を裏切った、その張本人なのに闇姫に対して優しくしてくれるの?」と言うと。僕は「僕が闇神を裏切り殺したのは、その当時、まだ闇女神の封印が完全に解かれていなくて。闇神の魂と、この身体の持ち主だった女性。それと魔導の国の王の三名しか知らなかった事だ。

他の人達は僕が、なぜ闇神を殺してしまったのか理由が分からずに混乱していたんだ。そして僕が、その時に、どうするべきなのか判断に迷っていた事を覚えている。でも今、闇姫は、もう自分の身体を取り戻したんだ。

だったら君は自由になれるんじゃないか?」と言うと闇姫は首を横に振る。それを見た僕は「それじゃあ、どうしたいの?」と言うと。闇姫は僕の手を握る。僕は闇姫に抱き着かれてしまう。

そして僕の手を離さないと言う仕草を見せるので、仕方なく僕は魔王が、そこに現れるまで彼女を離さないと決めていた。それを確認した後に闇姫の母親が魔王の側に行くと魔王は言う「私の事は良いのです。それよりも魔族と闇属性の事で話があります。それで闇属性が魔族以外に存在しない事を魔導の国は忘れないで下さい」と言うと闇姫は「そう言えば、どうして、そうなっているのか。その理由を知っている人がいるわ」と言うので、その言葉を聞いた魔王は「それは、どういう意味なのでしょうか?」と聞いて来たので。僕は言う「闇の女神が、そう言ってたんだよ。確か魔王の奴は闇女神の言葉に逆らえないと」

その僕の言葉を最後まで聞かずして魔王が、その場で座り込んでしまうと頭を床に打ち付け始めて。まるで土下座の体勢のように見えて僕は慌てて魔王の頭を止めさせるのであった。それから僕は闇姫が言う「この魔導の王の一人娘は、これから魔導の力を完全に使えなくする為に魔導の王の呪いを受ける事になるわ。

それから魔道の王が魔族の国に戻る時に魔道の王は魔王の娘の闇の能力を奪い取ろうとしている。その事について魔族の人達と話し合う必要があると思うんだけど」と言う。

それに対して魔族の老人は「魔道の神から受け継いだ闇属性の力さえなければ我々は、普通の人と変わりはしない。だから闇の力などなくても構わないと思っているのだがな」と言うと魔王は「しかし私が居なくなった後は誰が次の王になるのだ? 私は娘に王座を譲るつもりなのだ」と言って魔王も娘の方を心配するので闇女神が代わりに説明する事にしたらしい。

まずは闇の女神の話から始まり。光の女神から魔王の能力を奪おうとする者達の存在と。魔王が光の女神に対して復讐しようとしている事実を説明するのであった。すると娘が言う「お母様と光の女王が対立していて。お母様の話では私を操って光の女王を殺すつもりで、その機会を伺っているとか。その件については魔族の王から何か意見はないの?」と言うと魔族の老人が「私も、この城の中で眠っている間に魔王の娘は死んでいて、魔王の奴は偽物だと思い込んでいたから、そいつらが本物の魔王を暗殺しようとしていようが関係ないと思ってはいたが、もし魔王の奴が生きていれば私は殺されていても仕方がなかったからな」と悲しそうな顔をして言うのである。

そんな魔王の話を聞いた娘が言う「それでは、貴方達親子が、お互いに争う必要が、なくなるように。魔王の娘が、貴方に闇の力を返せるように、この私が協力してあげる。だから魔導の王は闇の女神を殺させはしない。絶対にね」

娘に魔導の力を取り戻すために協力して欲しいと言われた僕は「それで、いったい、どうやって闇の力を君に戻すんだ?僕も魔族達から魔道の力を奪ったり出来る訳でもないぞ」と言うのだが。魔道の女神は娘と話をすると。魔導の神と闇の女神が戦った時の事を語り始める。それは魔王の娘の体を使って魔王と光の女神が魔道の神と戦ったという話をしてくれたので僕は魔王が何故。闇の力を手に入れるのを拒否したのか納得したのである。その魔王と魔王の娘の話し合いを黙って見守って聞いていた魔道の王が「闇神と魔導の女神が、それぞれ魔王様と魔王様の娘である姫様に乗り移るとはな。闇女神の力を手に入れた魔王の娘には光の力に対する耐性があるから魔導の力を奪う事が出来るだろうが。その方法しかないのか?」と言ったので僕は、その方法を尋ねる事にした。すると闇姫が言う「お父様。闇神を私達の世界に連れ出す事は出来ませんか?」と闇姫が言うので魔道の王が言う。

「魔王の城に眠っている、あの巨大な闇の塊。アレが我々の住む場所に現れれば、どれだけ危険な状況になっているのか、お前達は分かっているのか?」と言うのだが。僕は魔族の老人が言っていた話を思い出した。あの時は聞き流していたが。あの黒い球体が魔族にとって一番危険だと言っていたのだ。そんな僕の気持ちに気付いた魔王の娘は僕を見て言った。

「お兄ちゃん。もしかして。あの魔族の人達から聞いた話で気にしているの? あれは魔王の力で生み出された魔道の力の塊なのよ。だから魔道の力は、その集合体が消えたからと言って消えるような代物じゃないから大丈夫。むしろ魔王がいなくなって魔道の力が弱まったとしても。それでも、まだ強力な魔物達が暴れるだけよ。それにお父様だって、その魔道の力を持つから、こうして、この場に留まる事が出来たのだし」

そう言うと、それなら大丈夫なのかな?と思いながらも、やはり不安が残るので闇姫に対して質問をしてみる。「それで。どうやって君のお父さんを連れて来るの?まさか魔王を倒すわけにもいかないし」と僕は疑問を口にしたが。闇姫の返答を聞くと「簡単よ」と言うので僕は驚くしかなかった。それを聞いて僕が言う「闇神の娘なのに闇属性の魔法が使えるようになったんだ」と僕が驚いているのを見ると闇姫が「簡単なことなの。

貴方が持っている剣に宿った貴方が元々使っていた闇の神が封印されていた肉体。貴方の持っていた光の神の聖具は。貴方の魂と合体する事で、貴方が封印を開放した時と似たような状態に変化してしまったから。私の体の中にも貴方の持っていた闇と光の魂の一部が融合した状態で存在している。だから、それを利用すれば簡単に魔道の王の身体と魔道の神の身体は融合してしまうと思うわ。貴方なら魔道の神の気配を感じる事も可能なはずよね?」と言うので僕は魔道の神の気配を感じ取ると確かに魔道の神の気配があった。そして魔導の神の魔力と闇の力の両方を持っている事を考えると魔王の娘が魔導の神を呼び寄せる事も可能だろうと僕は思ったので、そうすると、そこで魔道の王が僕に向かって言う「魔王と魔王様が戦い始めて魔導の力は失われてしまった。しかし魔王の城の中を歩いていると。時々。魔王が使っていたと思われる魔法の道具が残っていてな。私は魔王と魔王様が争わなくて良かったと心の底から思っているのだが。その残った道具の中に転移石という物が残されていた。

この転移石を持っていけば魔導の国の王に会えるのではないのか?」その魔導の王が、どうして魔導の国の王を知っているのか不思議に思っていたら、どうやら魔導の国にいた頃は、この魔導の王は魔導の国に出入りをしていたらしい。

そして、その事を魔導の王は魔王の娘に伝えなかった理由は。魔導の王は魔王の娘を自分の娘の事として愛していたらしく。魔王の娘の身体を闇神の身体が奪ってしまった時に。魔道の神の本当の狙いは闇神の身体を奪い自分の物にする事で魔王の娘は、その計画の一部でしかないと知り。魔導の神と敵対する気力を失っていたのであった。

魔導の神と魔王との戦いが始まった後に、その魔王が魔導の力を使いこなせないのだと知って魔導の王が、ある結論に辿り着いた事を語るのであった。それは闇姫が魔導の神によって乗っ取られているのだから魔王の娘である自分が闇姫を倒してしまえば魔導の力も取り戻せるはずだと確信を持って言う。

それを聞いた僕は魔導の王に言う「魔王は、もう魔導の力を持っていないんじゃないのか?」と聞くと魔導の神は魔王に確認をすると魔王は首を縦に振ったのである。それを見た僕は魔導の王が言う。

「いいえ。闇神様が私の体内に存在するのは事実なのです。ですから、お嬢様。貴方様の手で私を殺して下さい。そうしなければ私には、いつまで経っても、この世界の人間を不幸にするだけの悪循環が続くだけでございます」

そんな事を言って頭を下げるので。それを確認した魔王の娘は「分かりました。でも、その前に、お父様には聞いておきたい事があって」と言うので魔王が言う。

「何でしょう。私が答えられる事であれば良いのですが」と言うと娘は「私は貴方が魔導の神になる事を反対しているんだけど。

もしも貴方が魔導の神になってしまったとしたら、どうなるか。本当に分からないとは言わせはしないわ」と娘が凄みながら言うと。魔王が言う「魔王の力を持った闇の女神は私が魔導の力を失った事で。魔族達に恐れられ迫害を受ける存在になって。それでも貴方は構わないと言いきれるのかしら?もし、そんな事態になると言うのならば、今すぐに闇の女神を殺す覚悟は、とうに出来ております」と言うのであった。

魔王は魔王の娘に対して自分は闇属性以外の能力を全て失ったが。その代わりに娘と同じような能力を持つ闇属性の能力を手に入れていた事を説明する。その話をした時の娘は嬉しそうな顔をするのであった。それから娘が言う「それで、貴方が魔導の神になっても、やっぱり私を殺せるつもりなのかしら?」と言うと魔導の王が言い返す「闇属性しか使えなくなったのが事実だったとしても、私の中には今も魔道の力が存在する。それに、これから魔道の王となって魔導の力を復活させていく自信も有ります」と胸を張って答えるので魔王の娘は笑顔を見せる。

「お父様には悪いけど。貴方の気持ちには答えられないかな」

すると娘の返事を聞いて。娘の目の前で土下座をしながら「私のような老いた者が生きている間は闇神も現れないと思います。だから闇神が現れるまでに新しい闇神の候補を育てて、そして闇女神が現れたら、その時こそ私は潔く死を受け入れましょう」と言うのである。それを見た魔王の娘である娘が困った顔をしながら。僕に相談してくる。

僕は「闇神を殺せば全てが解決できると思っていたけど。そう簡単には行かないんだね」と言って。魔王の娘を見るが、やはり僕が考えていたよりも闇神が闇姫に乗り移って行動している事が厄介なんだと理解した。そんな僕の考えを読んだかのように魔王の娘が「闇神さえ、この世界に来なければ。こんな面倒な事は、起きていなかったかもしれないのだけど。

お兄ちゃんなら。私の代わりに闇神の討伐に行ってくれる?」と言うので「そうだな。僕達には闇女神を倒すために必要だと思う仲間を集めるために、まずは魔王の城に行かせて貰おうと思っている」と僕が魔王の娘に対して言うと。

魔王の娘が魔王の城に居る魔導の王から魔王の剣を借りてくると言うので。それなら魔導の国から魔王を連れて来た方がいいのではないかと言う話になったが、その提案は魔王の娘が断った。そして魔王の娘が「じゃあ。お姉様の所に行きましょうか?」と言うので僕は闇神の娘である黒姫の方を見て言う「君は、これから僕が闇属性を使って倒して。君の中にある魔族達の力を回収した後に、どうするつもりなの?」と僕が尋ねると。

闇姫が僕の質問に対して少し考えた後に「お兄ちゃんの手伝いをしようと思ってたから。とりあえずお兄ちゃんに魔導の力を渡してから考えようと思ってるのよ。それと私の中にあった闇の力は全てお母様からお父様に移っているの。それに闇の力と闇の魔力では力の使い方が全く違うので。魔導の神の魔力も使えるお父様の方が、まだ有利でしょ」と僕に対して言うので僕は魔王に確認をとる事にしたが。

「闇姫様の言っている事は概ね間違っておりません。確かに魔導の力を手に入れた今の魔道の王の実力は高い物があると思いますが。それを上回る程の力が闇属性には存在します。

魔王の武器に宿った力は間違いなく魔導の力ですが。魔王の娘に宿っていた闇神の力は。元々は魔王の力ではなく闇神様の力なのです。つまり、それだけの力を引き出すためには魔王の力だけより闇神の力も使った方が良いと言う結論になりまして。その方が魔道の力を使いこなすのにも都合が良いのです」

それを聞いて僕は、そこまで計算ずくなのかと思ったので闇姫の考えている事が恐ろしく感じてしまったが。しかし、それを聞いた僕は魔導の王が言ったように闇神が闇姫の中に封印されている状態で闇姫を倒さない限り。その闇の力で世界を支配され続けて、また同じ事を繰り返すのではないかと、そんな風に思った。そこで僕は「分かったよ。じゃあ行こうか。魔導の国の方に。それで魔導の国に行った後はどうすれば良いと思う?」と聞くと。魔王の娘が「魔導の国は私の住んでいる国だし。私は魔道の国の中で育ったから、ある程度の土地勘はあるけれど。でも私の方からもお願いしたい事があるの」と、そう言われた時に、ふと闇姫の方を見ると、こちらの様子をうかがい見ていたので僕は、なんで闇姫は魔王城に留まるとか言い出したのだろうと疑問を抱く。

それから魔王の娘である娘は言う「私が、この魔導の国の王女である事は分かっているんでしょう?」

僕は魔王の娘の、その言葉を聞いた後に。どうして魔導の王や娘が魔族の国の人間であるはずのに人間の国に住んでいるのか不思議に思い始めた。それから魔王の娘は魔道の国にある闇神の像の前で魔導の神が闇神の生まれ変わりである闇姫を、どうやって蘇らせるかの方法を聞き出して、この魔王城の地下に存在する魔道の力を発動させて魔導の神を復活させると言う事を説明した。

それを聞いた僕達は魔導の力を手に入れる方法を考え始めるのであった。

そんなわけで魔導の国に魔王の娘である娘と魔道の王は向かう事になった。ちなみに魔王は娘を魔王城に一人で残していくのは不安らしくて、僕も同行すると強く申し出てくれたのだが。娘が言う「それじゃ意味がないでしょう? 貴方は、もう十分に強いんだし、お兄ちゃんの力があれば、いくらお姉様の力が強くても、どうにかしてくれるわよね」と言うので魔王の娘の気遣いを無碍にするのも良くないので。魔導の国に向かうのを、僕一人に任せる事にした。

そう言うわけで僕と、もう一人の勇者である少女は。二人で魔導の力を手に入れに行くのであった。そう言えば。魔導の王と魔王の娘である娘は魔導の国がどんな場所なのかを説明をしてくれたけど。僕と、もう一人の勇者は。二人共魔導の力を持っていないので。そんな事をしても無意味なのだが、それを知らない二人は僕の事を思いやって丁寧に案内してくれたのであった。

そうこうしているうちに僕ともう一人の勇者の少女は魔王の娘に連れられて。魔導の力を持つ人が住む場所にたどり着いた。その場所には沢山の人達が集まっていて。みんなが魔導の力を得ようとしていた。そんな大勢の人間達がいる場所で僕達だけが何の準備もなく。その状況に戸惑っていると。そんな僕の様子を見て魔王の娘が声をかけて来る。

「お兄ちゃんも。そっちのお兄さんも魔導の力が無いから、ここに来て何をしたら良いか分からないでいるみたいだね。だったら。私も一緒にお兄ちゃんの手伝いをするから」と言って僕と一緒に行動を共にする事にすると言いだすのである。僕が、そんな魔王の娘である娘の様子を確認しながら。

「でも、君は魔族の中でも、それなりに地位の高い人物じゃないのか? それなのに、わざわざ危険な旅をするのは、どうしてなんだい?」と言うとその言葉を聞いた魔王の娘である娘が答える。

「それは、貴方の事が好きになったからよ。だから貴方の役に立ちたいし。貴方のためになりたいから」

僕に向かって魔王の娘である娘は微笑みながら。そう言ってくれたのだ。それを聞いた僕は。僕に対して魔王の娘である娘が向けている好意に対して。僕には、それを受け止めてもいい資格があるのだろうか?と悩む。そんな僕に対して魔王の娘である娘が「どうかしら? もし良かったらの話になるけど。私と結婚して貰えないかな? その前に結婚できる年になっているかは微妙だから婚約でも良いんだけど。お兄ちゃんは、そのつもりが有ったのかな?」と聞かれた時僕は、そのつもりで魔王城に来て、これから先も、ずっと彼女と共に過ごす未来を想像する。

しかし、そうなると僕も魔導の力を手にしないと不味いと思えるようになったので「そうだね。もしも本当に魔導の力を、手に入れる事が出来たら、君の事は受け入れたいと考えていたんだ。だけど。その機会が有るかどうか分からないから」と答えると魔王の娘である娘は笑顔で「だったら、まずは、この魔導の力を欲している連中から魔導の力を奪えば良いんじゃない?」と、そんな恐ろしい発言をしてきたので僕は驚く。そして魔導の力を持つ人達を敵視する理由も無いので、それならば、まずは彼等と争う必要などは無いのだと説明すると。

魔王の娘である娘は「そうよね。だったら。やっぱりお兄ちゃんの力だけで解決した方が早いかな?」と言ってきたので、僕は魔王の娘に対して言う「それでも僕に、何かさせてくれると嬉しい」と僕は言った。そんな僕の言葉を聞いて。なぜか魔王の娘である娘が僕を抱き締めて「お兄ちゃんが、そこまで言うのなら、分かったよ。お兄ちゃんが望むのなら私達魔族は貴方に従う」と言ってくれるのであった。

魔王の娘である少女が、そんな僕達のやりとりを見ていて。少しだけ不満げな顔をしてから、その気持ちを隠して僕の方を見ながら、また笑った。

それから僕は僕に魔導の力を与えてくれると言う人の所へ向かう。そこは地下の牢屋みたいな場所で、そこに一人の老人がいた。その人は見た目から判断するに魔法使いのような風貌をしていた。そこで、僕から「貴女が、その、僕に力を与えてくださると言う人ですか?」と質問すると「えぇ、確かに、そういう事になっております。ですが。その前に貴方の事を確認させていただいても宜しいでしょうか?」と尋ねられたので「僕が偽者だと思うなら、それで構いません。ただ僕は自分の力で闇神から闇神の力を奪って、この世界に平和を取り戻すために力を貸していただきたく思っています」と、そこまで言い切ると「闇神の力は渡さないで、貴方の力として取り込んでしまう事も出来るはずですよ」と言われて僕は驚いた。

闇神の力で世界を支配するという闇神の計画は失敗に終わったはずだったのに、そう思ったからだ。そこで僕は「僕は魔王の力を取り込めばいいんです。だから他の力には興味が有りません」と僕は言うと、そう言うと。魔導の力を持つ老婆は「そう。では闇神の剣で闇神の魂に問いかけましょう。闇神の力が欲しかったのでは無く。闇神の力が宿った魔剣で、闇の神々を滅ぼしてしまいたかったのです。それが本当の意味で闇神が求めていた事では無かったとしても」と言われたので。その通りだと思ったので僕は闇神の力を使うのではなく。僕自身が闇神になれば、この魔導の力を持つ人達が僕に協力してくれなくても問題はないと考えたので僕は魔王の娘が使っていた闇の玉を僕が使えるか試してみたが無理だったので、別の方法を探す事に決めた。そんな僕の様子を見ていた魔導の力を持つ老婆は僕に向けて魔道の王が言っていた事を説明してくれるのであった。

魔導の王の説明によると、闇属性は全ての属性の中で最も強い魔導の力ではあるが闇属性は闇属性でしかない。

その為には。僕自身の体を光属性に変換するか。もしくは光と闇の魔力を融合させて、より上位の力を生み出す必要があったのである。ただし、そこまで強力な存在になると闇姫が復活するまでの短い期間の中で。世界を滅ぼせるほどの脅威になりえるので、やはり僕自身に危険が迫ってきた時に、その対処が出来るだけの力は欲しい。

しかし闇姫の復活が近づいている以上。今更闇姫から闇神の力を奪い取る事は難しいだろうと思う。それに魔導の神が闇神の体を手に入れた場合。魔王の娘である娘の体は魔導の力によって守られているが、魔導の神が肉体を乗っ取った場合には。僕と、魔導の神の二人で戦わなければならないかもしれないので。魔王の娘である娘を戦いに巻き込みたくない。

それから、もう一つ気になっている事は、この魔導の城で生活している魔王の娘である娘は魔導の王の事を兄と呼んでいた事である。それは一体どういう意味なのだろうかと、ふと思う。

そんな事を考えていた僕だが。その時になって僕達が、この場所に入ってきた入口が閉まる音がしたので慌てて外に出ようとしたのだが、もう、そんな僕に話しかけてくる人間達の声も聞こえなくなったし。魔王の娘である娘が僕の手を握りしめてくれていたので、どうにかなったと思い。安心しながら、その場に留まるのである。

それから魔導の力を持っている人達は僕に対して言う「さぁ。これで準備が整った。お前が持っている魔導の力を使って、ここから出て行け」と言われるので、それに対して僕も言う「悪いけど。その魔導の力は僕が使うべき力ではないんだ」と言った。

そんな僕に対して、この魔導の力を僕から奪おうとしている奴が、どうしてそんな理屈を言うのか分からなかったので僕が、そう言うと僕を殺そうとしていた魔導の力を持つ連中が「何を言っている。お前には使えないんだ。さっきのは、ただの脅しで本気じゃ無かったんだよ」と口走った。

そんな魔導の力の連中に僕は言う。

それを聞いて魔導の力を持つ者が笑う。

しかし彼等は知らない。僕の目の前にいる僕こそが魔王の盾だという事を彼等には知る事が出来ないからである。

そもそも魔王の娘である娘は、こんな連中なんかには負けないのだけれど。それは、それこそ、僕と彼女が一緒にいれば。どんな相手にだって勝てると僕は思う。なので彼女の力を借りずに、どうにかしたいと僕は思っているのだ。そして僕は言う。「君達も知っての通り僕は、まだ魔王の力が封印された状態なんだ。その状態で、僕を本気で殺そうとしたね。これは明確な裏切り行為だぞ。僕が、このまま黙って帰ってくれれば何もせずに帰ってあげても良いけど、それでも僕を敵に回すと言うなら仕方がない」と呟くと同時に僕は魔王の娘である少女に目配せをした。

すると彼女は僕の言葉に反応して魔導の力を持つ者達の事を睨み付けると彼等は怯えて逃げていくのであった。そんな彼等を僕は見送ると。彼女は僕の手を握ると、そのまま歩き出して僕と一緒に魔導の力を持たない人間が大勢住んでいる場所へと向かう。

そうして、そこに向かう途中に僕達は色々と会話を交わす事になるのだけど。そんな僕達に一人の女の子が現れたので、どうしようかと悩んでいると魔王の娘である少女がその女性に向かって言う。「姉様! 生きていたのですか!」その言葉を聞いていた魔導の力を持つ少女の表情を見ると複雑な思いが、その瞳からは読み取れたので僕は、なんと言えば良いのかと戸惑うと少女は言う。

「闇の女神。いや。魔王の娘である私の妹が、ここまで来て。しかも私の身を案じて私に会いに来たというのに、貴女は何をしているのよ」と言うので僕は闇女神の事を呼び捨てにした魔導の力を持つ人物を見て驚いていると。

「あー、私は貴方が闇神様の御子息とは気がついてましたよ。ですが、まさか本当に魔導の力を扱えなくなる呪いを受けていたのですか? でも貴方は、その呪いが消えた後にも、この城にやって来られたんですよね?」と言われて、僕も答える「そうですよ」と、そう答えると。

「だったら私が、ここで魔王の娘のフリをして貴方の婚約者として暮らしていれば、この城は闇神の力を封じている魔王の娘である私に忠誠を誓う事しか出来なくなってしまいますから」と言ってきて僕は驚くのである。確かに僕は、その事を考えていたけれど、そうなってしまうのは困ると思っていたからだ。

そこで僕は闇神の力で魔王の娘である娘の力を強化する事が出来れば。きっと彼女ならば僕に協力してくれると思って、彼女にお願いした。しかし魔王の娘である娘が、そう言うと闇姫は「あら、私の妹と、お付き合いするんですね」と言うのだ。

そんな二人の様子を見て、闇姫の方に僕は質問した「魔王の娘である彼女と、どういう関係なの?」と尋ねるのであった。

闇姫が、どうして、そこまで僕の質問について、詳しい理由を説明するのか僕が理解できないと首を傾げていたら。

闇姫が答えた。

それは魔王の娘である娘が魔導の力に目覚めた時の話だと。

魔王である母が闇神から与えられた闇属性の魔導の力を持ってしても。自分の子供に自分の力では無く。自分の力で生み出した道具を与えてしまうのは母親失格だと言っていた事。それから魔王の娘が闇神から与えられていないのにも関わらず闇属性の魔導の力を使えるのは、その母親が娘に対して闇属性の魔導の力を与える際に、自分の闇属性の魔導の力が混ざってしまったせいなのだ。

だから僕は思った「つまり貴方は自分の妹が闇神の力を手に入れる事で魔王の娘になったのではなく。ただ母親の力を引き継いだだけに過ぎない。それなのに、そこまで偉そうにしている訳か」と僕は思った事を闇姫に伝えたのだ。

それに対して闇姫は、そんな僕の発言に怒る様子も、慌てふためく様子も見せず。

「そういう貴方も、似たようなものじゃないの」と言われた。

そう言われると僕は、確かにそうだと思った。

何故なら、この僕には闇の玉を扱う能力が有るのだから。僕自身も元々は闇の神の器だったので闇の神が扱っていた闇魔法が使えたりするのだから。僕が、その事を考えていると、その事に気がついたのか闇姫は「まぁ、この子が目覚める事を望んでいた人間なんて。貴方ぐらいだと思いますけど。でも、やっぱり、あなたが持っている魔剣と魔玉が闇の力を操れる理由は分からないわ。それで、貴方は、いったい何をしている人なのかしら?」と言われた。

そんな彼女の言葉に対して、僕も何者だと言い返してやったのだが、そんな僕の行動を見て魔王の娘である少女は僕達の様子に不安を抱いたみたいで「二人とも。どうか落ち着いてください」と言ったので。僕は「別に、僕は落ち着いたつもりだよ。それに闇姫は、この城の魔導の王なんだから」と答えたのだ。そんな僕と、闇の姫の言葉を聞いた闇姫の妹と名乗る少女は言う。

「闇の女王である私が、ここの魔導の城を支配していて、闇の魔導の力を使っているのは当然の話ですけど。そんな闇の姫は、いったい誰に闇の魔導の力を分け与えたのですかね。まさか闇の神とか言いませんよね」と。

しかし闇姫は何も言わなかったのだけど。そんな闇姫に僕は聞く。

「君は僕から見ても分かるけど。この城の中では、かなり上の位の魔導の力を持っているように見えるけど。君は、どうして魔導の神の体を奪い取ろうとしなかったんだろうな」

それを聞くと闇姫が「私は自分が認めた者に魔導の力と魔王の鎧を与えて。他の者が魔王の座を継ごうとしても魔王の座に付く事が出来ないように細工をする役目を持っていたのです」と言う。その説明を聞いて僕は言う。「つまり僕も、それに該当されると言う事か?」と尋ねると。

彼女は、それにも答えてくれるのである。

彼女は言う「はい、貴方にも、その力を与えたつもりです」

それを聞くと僕も納得したので「じゃあ。魔王の娘である彼女に与えた力は君のものになるのか?」と言うと。それに対して闇姫が、どうやら僕に対して、かなりの不信感を抱いているらしく。

僕に対して「貴様は私に対して、そのような態度で接してきて。何を企んでいる」と言ったので。それに対して僕は素直に答える「何も企んではいないさ。ただ君の妹の力を奪って。この城から出る為に力を貸してくれないか?」と頼んだ。

そんな僕の言葉を彼女は否定する「そんな事が出来ると思っているのですか? 魔導の力を扱えなくなる。もしくは扱えるけど魔導の力が極端に落ちる。そういった呪いが掛けられていた筈なのに、それを解除出来るのですか? そもそも今の魔王の力を扱えない貴方に」

その問いに僕は、どうにかできると口にしようとしたのだけど。その時になって闇姫の妹を名乗る少女が、こんな事を言ったのだ。

「そうか、魔導の神は魔王様の魔導の力を封印してしまったんですか。それじゃ、魔王様の子供は、もう魔王の力は扱えないんじゃないんですか。それは可哀想ですね」

それを聞いて僕は闇姫の方を見ると。

彼女は、その事実を否定しなかったので。

やはり魔王の娘である彼女の力が使えない状態なのではないかと僕は判断すると。そんな彼女の言葉を耳にして僕は、このまま魔王の娘である彼女が魔導の力を使い続けても大丈夫な状態に戻す為の方法を考えた方が良いのではないかと考えるのであった。

そんな僕の考えを見抜いていたのか闇姫は、そんな僕に対して「魔王の力を取り返すのは不可能に近いですよ。それに貴方も魔導の神が、どうして、この城に魔導の力を使う者を近づかせないようにして、さらに貴方に対して、この城を出ようとする気持ちを削いだりしたと思うのですか?」と言うのだ。

僕は闇女神の言葉を思い出したのだ。

彼女は「魔王は、どうして、そんな事をしているのですか? そんな事までしたら誰も、この城に、この国に近づきたがらなくなりますよ」と言っていて。闇神も「貴方の母は貴方に対して酷い扱いをしたかもしれませんが。それでも私は貴方の味方ですから」と言っていた事を思い出す。

その時に僕は疑問を感じたのだ。

魔族の王である闇神は闇女神の言うとおり僕に力をくれた。だけど魔導の女神と呼ばれる程の地位を持った存在である魔導の神が、なぜ、そんな回りくどい事をするのだろうかと、そう思ったので僕は聞いてみる事にした。「闇神が闇姫を闇神の力を持つ娘として認めて彼女に魔導の玉を与えているのは。魔王である母親が貴方の体に魔王の力を与えてしまった事で貴方に魔王の力が与えられたからだと思っていたけれど。貴方に魔王の力が与えられる前から、闇神は、その闇玉を与えていたのか?」

その僕の問いかけに、その通りですと闇神が答えると闇姫が驚いた顔をしていた。そんな顔を見ながら僕は質問を続ける。

「もしかすると、この国には魔王の娘という特別な立場の者が存在しているという情報を他国が知った場合。魔王の娘である君を狙って戦争を仕掛けてくる可能性だって有るんじゃないか? そう考えたから魔王は闇神の魔導の力を封じ込める手段をとったのか?」

僕の質問に闇姫が「いいえ。確かに私が貴方の母の体に乗り移ったのは、そういう事情もあるでしょうけど。一番の理由は、あの人は私に対して嫉妬したから、私の体から引き剥がそうとしましたからね。貴方のお父様である闇神様も。闇神の魔導の力は魔王が持つべき物ではないとおっしゃっていたんですよ」と、そんな話を聞かされたので僕は「それじゃ。君は本当に魔王の娘じゃないんだよな」と言うと。それに対して闇姫が、そんな事は、とっくに分かっているだろうといった表情をして言うのだ。

そして「魔王の娘である私を利用して何かしようって言うなら。それなりの覚悟を持って下さいね」と僕に向かって忠告してきた。

闇神に闇玉を与えられた僕は、それから闇神に闇の力について教えて貰う事にしたのだが、そこで問題が発生したのである。それは、闇姫の妹を自称する女性が魔導の玉の力で、この部屋に転移して来ようとしていたのだが。そんな女性に対して、どうすれば良いか分からないので困ってしまった。そこで闇神が提案してくれたのだが「まず貴方に、この世界の事を説明しないといけないわね」と言うので、僕はその説明を聞く事になった。そこで闇神が話し始める。「この世界には貴方達が住むような普通の人間だけがいる訳ではなく。貴方達の世界で普通と呼ばれている生物とは全く異なる生命体が存在するのよ。貴方が戦った魔物とか、そういうのは、その一種なの。でも魔族が支配をしている国の中に住んでいる人達は、その違いが分かっていない人も多いから、貴方も、そう言う存在と間違って攻撃されたのかもしれないわね」と言うのだ。

僕はそんな闇の神の話を聞いて「つまり僕は、こっちの人にとっては、見た目が普通の生き物と同じなので、そうやって勘違いされてしまう事も有るわけだ」と答えると。闇神が言う「その可能性が高いでしょうね。でも安心して貴方に力を貸してあげた闇の神は優しい神だったから。この世界を、その手から放す為に色々と行動を起こしていたんだけど。この世界に召喚されてしまった事で、それが全て台無しになったようだけど」と。そんな話をしてから「ところで貴方に力を貸すのに必要な物を用意したわ」と、言って闇の神は、また僕の前に姿を現して「その剣と闇の玉を、しばらく貴方が持っている事にします」と言って、その二つの道具を渡してくれた。僕は剣は闇姫の妹を名乗る女の子に対して渡し、闇の玉は自分の鞄の中に入れておいた。

その僕の様子を見てから、その女性は「貴方に力を渡したのは闇の女神様の力を宿す為の手助けをして貰おうと思っただけだったのですけど。まぁ貴方の持っている魔導の神の力を使えば魔導の神は簡単に倒せますから、貴方の望みが叶いますから、その剣を使ってくださいね」と言うと彼女は僕の返事を待つことなく転移魔法を使用して、この部屋から姿を消してしまう。

そして、その現象を目の当たりにして「今のは何だよ」と言いかけた僕は。そんな僕の言葉を聞くよりも早く「転移魔法だよ。貴方も覚えたい? 私も使えるから教えて欲しい?」と闇神が言うのである。

「ああ教えてくれるのならば知りたいな」と僕が言うと「分かった。教えるね」と言いながら僕の目の前に再び姿を現せた闇神。そんな彼女は自分の胸元に手を当てて「これが転移魔法よ」と言うのだ。それを聞いた僕は彼女の胸に手を伸ばしかけて、そんな行動をする僕を見て闇神が少しだけ照れたような仕草を見せて「いきなり人の胸に触れようとするなんて」と言うと彼女は姿を消すのであった。

闇神が消えると同時に転移魔法の事を覚えた僕は、その力を使った後に闇姫の元に戻って行く。闇神の魔導の力が封じられた闇玉を持っていた僕の姿を見ると闇姫が、なぜか僕に対して恐怖を抱いている様子を見せた。

しかし僕が魔導の神の力が封じられている闇玉を見せると、その闇姫の様子が変わる。そして闇姫は僕が魔導の神の力を奪った事実を知る。

その事実を確認した闇姫が僕に向けて、こんな事を言ってきた。「私に何の用があるの?」と言うのだ。

それに対する僕の答えが「魔導の神は闇神が魔導の力を手に入れる為に作り出した神で、君達が信仰している女神とは別の神様で、だから魔導の力を封印されているんだよね」と尋ねると。闇姫は素直に「そうだね。確かに私は、その事を知った上で魔導の神の力を封印しているけど。それが何か関係あるの?」と、逆に聞かれたので僕は「魔導の神の力を取り戻した方が、もっと君の力になるんじゃないかと思って」と言うと。彼女は僕の目を覗き込んで「貴方の本当の目的が分からないので信用出来ないです。もしも私の力を封印しようとしているんなら、そう言うのは許しませんよ」と言った。

その言葉を耳にしても、まだ魔導の神の力を取り返す方法が分からない僕が困っていると、そこに闇神が戻って来て闇姫が手にしている闇玉を見つめるのであった。それを見た闇姫の方から僕達に話しかけてきた。

僕は魔王の娘が魔王の娘だと自称する闇神の妹を名乗る少女と一緒に魔王城の中にある広間に移動する。すると勇者は「闇神様も貴方達の仲間ですか?」と聞くのだけど闇神は何も言わない。

それで闇神の妹を名乗る少女が僕達の方に近付いてきて「初めまして闇神の姉です。よろしくお願いしますね」と言いながら笑顔を浮かべていた。

それを見た勇者は驚いている。そんな彼女に闇神が「その反応は当然ですよね。闇神である私が、このような少女の姿をしているのですから。しかも、このように可愛らしい服装で、こんな風に笑みまで見せていたりします」と言うのだけど。そんな言葉を聞き流しながら彼女は僕の方を向いて言うのだ。「貴方のお母様にも、ご挨拶した方がいいかしら? それと私の妹が世話になりました。お陰で妹も助かりましたよ」と言うのだけど、それに対して僕は「いや、俺が助けたわけじゃないですから」と答えると「そんな事は気にしないで下さい。とにかく妹を助けてくれてありがとう。私も、とても感謝しています」と彼女が言った後。彼女は、そんな事を言いながら魔王の娘に対して微笑んで見せた。それに対して魔王の娘が戸惑いの表情で「あの。もしかすると、あなた様は、私の母上と面識が、あったのでしょうか?」と尋ねて来たので闇姫の妹と名乗る女性は答える。

それを聞いた魔王の娘が、その女性に対して言う。「そうですか。やはり貴方様は私の叔母だったのですね」とその言葉で魔王の娘である彼女に対して「叔母さん」と呼ばれた女性は苦笑いをしていたのだった。

そんなやり取りをしている間に闇姫は僕の側に寄ってきて小声で僕に「ちょっと、これから大変な事が起ころうとしていて。貴方も気を付けないと危険だと思うよ」と注意してくれるので。闇神に対して僕は闇神に対して質問をする。

闇神の魔導の力を、どうして取り返そうとしたかについて。

それに対して、闇神は、この国を支配している魔族の神が闇神に対抗意識を燃やすような行動を取ろうとしたからだと言う。そんな理由を聞かされたので、この国の魔族に闇神と敵対する意志は無いという事は分かってくれたみたいだ。

そして僕達は話し合いの末に魔王の娘と、どういった経緯で出会ったのかを教えて貰ったのだ。

魔王の娘と闇神の関係を話し終わった後に、闇神から僕は、こう言われてしまった。

「ところで。この魔族は本当に魔王の娘なのか確認する方法はないのかしら」と言うので僕は、それについては問題が無いと伝える。

闇姫と魔王の娘は、同じ魔王の娘という共通点から顔のパーツが似ているから親子と言われれば、そうとも見えなくも無い。

僕は闇神に「その事は、ちゃんとした証拠があるので、大丈夫だよ」と伝えたのだ。

僕の言葉を聞いて闇神は「そうなのね」と答えたので僕は魔族の姫である彼女の方を見る。すると魔導の姫である少女は自分の母親を、その目に映して涙を流す。それから魔導の神である闇神に対して自分の母親の居場所を知っているか、その所在を尋ねると闇神が、そんな事を聞くとは思ってもいなかったのであろう。

魔導の神は自分の娘から質問を受けて、その目を大きく開けて驚くと彼女は、この世界に魔族以外の人間は存在しないと言う。

僕はそんな話を耳にした後に、この国に召喚された時に自分が感じ取った魔力の流れを思い出すと。その事を僕が話すと闇神と魔導の姫は僕が言っている事に共感できると僕に伝えてくれたので。

そんな話をした後で、僕は魔導の姫に対して僕に力を貸してくれた闇神を紹介するのであった。そして僕が闇神と魔導の神に、それぞれの魔道具の使い方を教えて欲しいと頼み込んだのだけど。闇神が僕達の前に姿を現して「この子の為に貴方に力を貸してあげる」と魔導の玉を手にして、その力を封印していた闇を解き放つ。それによって闇神の力を取り戻すと魔導の神の力は、すぐに闇の力へと姿を変えて、その力を手に入れたのだった。

そんな僕の行動に闇神は僕に向かって言う。「これで魔導の神は闇に堕ちて魔族の仲間入りをするわよ」と。

それを聞き僕は驚いた。

しかし僕以上に魔導の神である少女が、それを信じられないという様子を見せている。彼女は僕に対して、そんな馬鹿な事を言うなと言ってきたのである。

その言葉を聞いた僕が闇神を見ると彼女は、僕から目を逸らすのであった。

魔導の神が、その魔導の神の本来の姿で現れた後に闇神の妹を名乗る魔導の神と同じ力を持つ女性が姿を見せたのだけど。そんな魔導の神と闇神が姉妹であるという事実を知ると。

闇神と魔導の神は互いに睨み合っていた。

闇神様と魔導の神が姉妹だというのは本当の話だと闇姫と僕に伝えると。僕が二人の会話を盗み聞きして知った事実を伝えて、闇神が僕に向けて言った通り、この世界には闇属性の魔法が存在する。だから闇の力を封じる為の力も存在している。

だから魔導の神が魔導の神の力を奪われて闇の力に変えられて魔導の神の力が消えたとしても不思議ではないと言うのだ。

「その話が本当ならば闇の女神は、魔導の女神の力と力を手に入れようと考えているはずなのです」

そう口にする闇神を見てから、その事に対して、僕は言う。

「闇女神の力は、すでに手に入れて、それを使って魔王と戦おうとしているけど」と。

そんな僕の言葉に対して闇姫が言う。「魔導の神の力が封印されている事を利用して力を奪う為に。そうやって闇女神は、魔導の神から闇神に成り代わるつもりだったんじゃないですか?」

そんな事を口にした闇姫に対して僕は「いや、その考えは間違いだと、そう思うよ」と言うと闇姫が僕の言葉に疑問を抱いたらしく「どうして、そう断言出来るの?」と、僕に尋ねてきたので僕は闇姫に、その理由を説明した。

それを聞いた闇姫が、僕の顔をマジマジと見つめながら、そんな事を口にしているのである。

その言葉を耳に入れた僕は、とりあえず魔導の神が封印されている闇玉を持って、それを魔導の神に見せてから「これを見て、君は魔導の神だって言えるのかい?」と言うと魔導の神が言う。「これは確かに私が、あの方の命令で作った物ですけど。私が封印されている状態なら私自身、封印している闇玉の力を使えるんです。だから貴方達が思っているよりも簡単に、あの方の命令を解除する事ができますよ」と言うので僕は言う。

そんな事が出来るなら、もう封印は必要ないよね。と、言うと。その言葉を聞いた魔導の神は首を横に振ってから「それは違います。私は確かに魔族の王に仕える存在として、あの方の命令に従わないといけない立場に居ました。それに今も、あの方は私の事を支配しようとしてくる。だから私の身体から闇の力を取り除く事は出来ません」と言ったので。僕が闇神様の方をチラリと見ると彼女は何も言わずに無表情のまま魔導の神を見つめているので、きっと闇神様は魔王との戦いの最中に、そういった事態になった場合に備えて、あえて魔導の神の封印を解く方法は残しておいたんじゃないかと思っていると闇神の妹と名乗る女性の方が僕に「ねぇ。貴方は、なんで、その闇神が魔導の神だと、わかったの?」と言う質問をされたので。僕は闇神の方を見てから、こう言ったのだ。「この世界の魔導の神である魔導の神の力は、この世界で闇神様以外に持っている人は、存在しないはずだからね」と、その言葉で、その言葉を聞き入れたのか闇神の魔族は、それを否定するような言葉は口にしない。

それで僕は魔導の神の事を闇姫に紹介してから、その力を、どうやって手に入れたのか? 闇神の妹と名乗る女性にも説明をしてくれたのだ。

僕達の仲間の一人でもある闇神の妹と名乗る少女の母親が、この世界に魔族以外の存在を誕生させる実験をしていたと言うと彼女は、その話に興味を持ったらしい。そんな話の流れの中で僕が闇姫の母親の事について説明すると闇姫が、なぜか僕達の目の前に姿を現して「お母様。こんな風に、いつも突然、姿を現すのですから。本当に、やめてほしいのです」と言うと僕は、その姿を見て驚く。

僕達の前に現れた時の闇姫の姿は僕と出会った時には、まだ幼さを残す十歳くらいの少女の姿でしかなかったのに。今になって僕の目に入った彼女の姿を見ると大人びていて、しかも綺麗でスタイルが良い美人なお姉さんになっている。そんな姿をした闇の巫女が、そこに居るのだ。そんな彼女の姿を見ていると、僕は彼女に惚れてしまうのではないかと思う程に魅力的な容姿に変身している。

僕は彼女に対して思わず見とれていると、そんな闇姫は、こう言うのだ。

「私達は姉妹だから当然だよ。この子は私の力を半分受け継いだ子供なんだから」

僕が闇神に、そう言われても実感が無いという感じで言う。「そうなの?」と言うと闇姫は、そんな僕の反応に対して少し不満そうな表情を浮かべると、その闇神の妹と名乗る少女に対して闇神と同じように僕と仲良くして欲しいと告げるのである。

そして、そんな闇姫の言葉に対して闇姫は「闇神が認めた相手なのだから私も貴方と普通に話すわ」と言ってくれたので僕は、それを耳にして、つい嬉しくなってしまい笑顔を見せる。そんな時であった。僕達の近くに一人の少年が現れたのは。その少年は、僕が以前出会った魔王の娘である勇者の息子だと名乗ったので、その魔王の子供だと名乗ってきた少年の顔を、まじまじと見ながら、こう思った。本当に息子なのか怪しいものだと。

そして、そんな僕の態度を見た魔王の息子を名乗った魔族の少年は僕に、こう言ったのだ。「俺の父上を疑うのか」と。そんな言葉を言われたので僕は慌てて魔王の息子だと名乗っていた少年に謝罪をする。

その魔王の息子である勇者の息子に対して僕が言う。「えっと。君が父親に似ているのは分かるけど、やっぱり顔が似ているだけであって、どう見ても君の父親が勇者である可能性は無いよ。それに君は、そもそも、まだ子供のようだけど、どうして一人で此処までやって来たんだ?」と、そう聞くと。そんな僕に向かって闇姫が言う。

闇姫は僕の傍に来ると僕の手を掴んで、そのまま自分の手を重ねて、僕の事を抱きしめてくれた。それから闇姫が僕に耳元に口を当てて囁くように「貴方が闇神の旦那様なら良かったのに」と言ってきたのだ。そんな事を言われてしまった僕だけど。僕は闇神をチラッと見た。そして闇神は微笑んでいるだけだったので僕は困ってしまうのであった。そんなやり取りの後で、僕は、その魔王の子に対して言う。「それで、君は、どうして一人なの? 他の魔族たちは、どうしているの?」と。

僕が魔王の息子である彼の口から、どんな返事が返ってくるのだろうと思っていたのだが、そんな彼は、あっさりと答える。「父上に、この国の民たちを皆殺しにして来いと命じられたので。僕は、ここの国民を殺しにきました」と、そう言って笑った。

その瞬間であった。魔王である魔王の息子の身体が吹き飛んで、そのまま地面へと落下するのであった。その衝撃を受けた魔王の子である魔王の息子の意識は一瞬のうちに失われる。僕は魔王である彼を殺した後で彼に、こんな言葉を呟いた。「お父さんに頼まれて来たのかもしれないけど。残念だけど。君の父親は既に亡くなっているから、君の父親には、もう、二度と会う事はできないんだよ」と、そう僕が魔王である彼を殺した事に深い理由はないのだけど。そうしなければ、ならなかったから、そうしただけであって。別に彼が憎かったわけでもない。

それから僕が魔導の神の方を見ると魔導の神が魔導の神としての姿に変化して言う。

「闇女神様に頼まれて様子を見に来たんですけど。貴方達に倒されてしまったようで残念ですね。まさか魔導の神の力を持っていた人間が、この国に存在していたとは思いませんでした。でも貴方は、なぜ。闇女神様に殺されなかったんですか?」と。

その言葉を聞いた魔導の神が、そんな疑問を抱くのも無理はないと思ったので。僕は言う。

「僕の場合は、もともと魔王の力を受け継いでいたし。それに魔導の神である魔導の神様と、この世界で出会って、この世界について、いろいろと話していたんだけどね。その時、闇の神が闇の神の力を取り戻すために闇の属性の神の力を手に入れようとしているって話をしていて。それで闇神様が自分の力で魔族を創造する実験を始めたから僕は協力する事に決めたんだよ」

それを聞いた魔導の神は「へぇ~っ!そうなのですか」と。興味を持った様子だったのである。だから僕は魔導の神に対して、こう伝えたのだ。「ところでさっきの話に出てきた闇神の妹を名乗る闇の力を持っている人を探したいと思っていて、心当たりないかな?」すると彼女は答えた。闇神の妹の事は知らないけれども、そういう存在なら知っていると口にしたので、それを聞いた僕は、まずは、そいつに会いたいと思っていると、それを魔導の神に伝えると「なら、案内をさせましょうか?」と、彼女は言ったので僕は頼むと。彼女は僕の方を見ながら、「貴方達が探しているという娘の名前はラピスと言います」と言うのだ。

そのラピスは僕の事を何処で覚えたのか分からないけど。僕の方を見て涙を流し始めたのである。

その涙を流されながら、こちらを見ているラピスを見て、そんなラピスを僕は抱きしめながら彼女に優しく語りかけた。その言葉をラピスに向けて僕が口にしたのである。

僕がラピスに、お前を探していたよと言うと、そんな言葉を受けて彼女は僕を強く抱きしめてきたので。僕が「心配していたよ」と、彼女に言うと彼女は嬉し泣きしながら「私は闇神様の命令で勇者に戦いを挑もうとしていたの。私は闇神様の命令に逆らうつもりは無かった。だから闇神様の命令に背いている自分が怖くて」と。そんな感じで、ひたすら僕を抱き続ける彼女を見ているうちに僕は何だか彼女の事が愛おしくなって。彼女を守る為に、これからの人生を彼女と共に生きようと決心をした。

闇神の妹だと名乗る女性は、そう言うと僕の方を見ていたので、僕が彼女に「どうしたの?」と、そう言うと。闇神の妹は、僕の方に視線を向けた後に僕の目を見ながら「闇神様の旦那さんになら私が力を授ける事も出来ると思うのですが。どうしますか?」と言ってきた。なので、僕が「それは凄く魅力的な提案だと思うけど、僕は人間なんだ。それでも良いの?」と、質問をしたのだが闇神の妹だと名乗る女性が僕の方を指さす。僕は彼女が指さしている自分の腕を見る。

すると僕の右腕から闇の女神の力を感じて僕は「僕の右腕は、もう、ほとんど魔族の物になってしまったようだな」と言った。

その言葉を耳にした魔王の娘だと名乗っていた勇者の少年が口を開いた。

「どうしたんだ。闇姫。闇姫らしくもない。お前は昔から闇の力を使う事を嫌がっていたではないか。だから、そんな力は捨てて、こっちに戻ってこい」と。闇姫と呼ばれる魔族にそう告げた勇者の息子だと名乗っている魔族の少年の言葉を聞くなり。僕は闇姫が「なんなのよ。あんたは。いきなり私のお兄様を殺すだなんて」と勇者の少年に向かって言い放つと闇姫は勇者の少年に近付いて行くと勇者の少年に抱きつくと、そのまま勇者の少年の顔を殴ろうとしたので。

僕は慌てて二人の間に割って入ると。勇者の少年の目の前に手を伸ばした。すると僕と勇者の少年との間に黒い球体が発生したのである。その光景を目の当たりにしてしまった魔王である勇者の息子は驚いている。僕は魔王である勇者の息子に対して「今の僕の姿を見て驚かれたかもしれませんが、僕は魔族ではありません」と告げると続けて言う。「僕の肉体は人間の肉体と変わりありませんが。僕の右手は今、魔族の物のようになっていると思います」と。

そうして僕が魔人の右手を見せようとすると、その前に、そんな僕の目の前に黒騎士が姿を現す。

僕の前に現れた黒騎士を見て僕は驚きながらも、この世界に、こんな事が出来る奴は限られているなと。思いつつも黒の騎士に向かって僕は「どうしました?」と問いかけるのだが黒の騎士は何も答えずに黙り込んだまま動こうとはしない。

僕は、そんな黒騎士の様子を伺いながら。「貴方の、その姿が、もしも本来の姿だとするならば、そんな姿を僕の前で晒してしまうのは問題では? 僕だって普通の人間のつもりですが、僕を信用してくれるという事で宜しいでしょうか?」と。そう僕が口にした後も沈黙したまま動き出そうとはしない黒騎士に対して僕は、そんなに魔族の力を僕に見せるのが嫌なのかと、そう思って、この場で戦闘になっても困ると僕は思ったのだ。

僕が魔王の息子である勇者の息子に対して「貴方が勇者の力を持っていても貴方の父親と同じように闇の力を得てしまうだけです。そんな事に成りたくないのであれば闇の神の所まで、僕と一緒に来ませんか?」と、そう告げる。

僕に勇者の息子と呼ばれている勇者の力を持つ人間は僕に剣を突き付けて言う。「貴様が俺達魔族の仲間に成るのなら、それも悪くはないが。お前のような存在を闇姫と、そんな風に呼ぶ奴等なんか信じられるか」と言うと。僕の後ろに隠れていた闇姫が、そんな言葉を聞いていたのか、その言葉に反応したのだ。「そう言えば、さっき、貴方に殴られそうになった時に貴方に文句を言うために。この人の名前を出したはずなのに、あなたに殴られてから記憶が無いわね」と言うのであった。

その言葉を聞いてしまった僕達は、つい笑ってしまったので魔王の娘である闇姫を庇うようにして前に立つ。そんな僕達の行動が気に食わなかったのか。僕達に襲い掛かってきたので。そんな時であった。僕の横にいた魔王の息子であるはずの彼が言う。「闇姫の力が欲しいんだったら。僕と戦って勝つんだな。僕はお前よりも強くなっているはずだ」と、そんな言葉を聞いたので僕は「そうみたいだね」と、そう口にする。

僕は、そのまま勇者の息子が居る場所に向かおうとするが。闇神の使いが、それを制止する。

そして闇神の遣いである猫の姿に変化をしていた女戦士も僕に忠告をする。

「魔王である魔族は強いですよ」その言葉を聞いた後で僕は魔王の息子である彼に「それじゃ始めようか」と言って魔王の息子である彼に襲いかかった。すると、すぐに僕と彼との戦いが始まってしまう。

魔王の息子である彼は強かったが。それでも僕と、まともに戦うのには無理があると判断したらしい彼は逃げる事を選んだようだ。彼は闇姫の所に向おうとしている。

しかし、それは叶わない事であった。僕は魔獣を呼び出す。すると闇姫の前に呼び出された魔獣によって魔王の息子である彼の足が止まってしまう。魔導の神と魔導の巫女の二人が魔族側に居た。その事実を知っているので僕は闇神の眷属だと思われる女性二人を相手にしても、さほど問題は無いと思ったのだ。

魔導の神は闇属性の魔法を得意としていた。それに対して闇姫が「私は闇属性の魔力を操る事は出来ますけど。でも闇属性の神である闇神様の加護を受けていないので私に闇の属性を扱う事は無理なんです。だから、どうか助けてください」と懇願してくるが、僕は彼女の頼みを断って「ごめん。闇神様の加護を受ける事が出来なかったのが運の尽きだと思うんだ。君に死なれると僕の立場が悪くなるから。命だけは助けてあげる。その代わりに闇神様の為に戦ってくれないかな?」と言うと闇姫が「私が闇神様のために?」と困惑したような感じだったから。僕は「君は僕の事を闇の神の後継者として見てくれるんじゃなかったっけ?」と、僕が闇姫に聞くと彼女は答えた。「もちろん。そのつもりではいますよ。それに私が闇神様を復活さえできれば、あの人は喜んでくれるでしょうし」と。

そのやり取りの中で僕と魔王の息子は戦いを続けており、僕達が戦いを行っている場所は森の中なので木々が邪魔になって思うように戦えない状況になっている。それでも僕の攻撃は全て魔王の息子に命中しているのだ。しかし致命傷は避けられている。僕は自分の力を使いこなす為に闇神が使っていた闇の魔法の使い方を思い出そうとするのだが中々上手くいかないでいた。

そうこうしているうちに僕は闇神の娘に接近されてしまう。すると闇姫が叫ぶように僕に声をかけてきた。

「もう良いよ!もう良いんだよ。これ以上戦った所で何の解決にもならないんだから」と闇姫は泣きそうな表情で言ってくる。そんな言葉に対して僕は「そんな事はないよ。僕は絶対に諦めたりはしないから」と、僕は答える。それから闇姫が僕と魔王の息子が対峙している場所に近付いてきた。

闇姫の参戦は僕にとっては、かなりの脅威になっていたが。だけど僕には彼女の参戦が好都合でもあった。なぜなら闇神の娘である彼女が近くにいる限りは僕は、ほぼ無敵状態を維持できる。

そんな僕の様子を確認しながら魔王の息子である彼は「まだ何かするつもりか?無駄だよ。どうあがいても俺は勝てる気がしない」と言ってくるので僕は「確かに、この状況だと、そう思うだろうけど。だけど僕の力を使うためには、どうやら、ここがベストのポジションのようだし。僕は自分の力で、この戦いを終わらせるつもりでいる」と言ってから僕は「君の名前は?」と、そんな言葉を口にすると彼は僕の方を見てくる。

僕は「僕の名前を知らなかったのかい?」と、そう言ってから、さらに続ける「僕の名前が知りたいのなら、まずは自分の方から名前を名乗るべきじゃないかな」と。

僕の言葉を聞いた魔王の子である勇者の力を持つ者は、そうですねと言うと。僕の方を見ながら口を開く「俺の名はダークネス。闇姫の婿候補だ」と言うので。僕も「僕は黒の騎士です」と自己紹介をした後で言う「それで良いの?貴方に取って大事な娘さんなんだろ?そんな簡単に他人に嫁いでも良いの?そんなのは親としての責務を怠っていると僕は思っちゃうんだけど」と。

そんな僕の言葉に対して勇者の力を持つ者は答えた。「貴様のような奴に闇姫は任せられない」と、そう言い放つと勇者の力を全力で使って来た。それに対して僕は、その攻撃を紙一重で避けてみせたのだった。すると勇者の力を持つ者の後ろに回り込んでいた僕の攻撃を勇者の力を持つ者の背後に迫っていた僕の分身体の攻撃を避けられる訳がなく、そのまま勇者の力を持つ者が吹き飛んでいく。

そして僕の前には黒騎士が現れると。

黒騎士が僕の方に歩いてきて「貴様に一つ質問をしていいだろうか?」と言い出してきた。

そんな黒騎士に「はい」と、そう言う僕に黒騎士は言う。

「なぜ私の事を助けた」と。

そんな言葉を言われた僕に対して黒騎士は続けて「貴様は闇神の力を持っている」と、そんな事を僕に言ってきたので。僕が闇姫を助けに行った時に現れた女戦士の事を思い出すが、今は、そんな事に意識を奪われている場合ではない。そう判断して「貴方を救えるのであれば救いたいと、そう思ったからです」と、僕は答えた。

僕の言葉を聞いて黒騎士は言う。「それは私の事を知らない人間だから、そんな甘い言葉を吐けるのだと私は理解して良いのか?」と、そんな黒騎士の問い掛けに僕が答えようとした瞬間に黒騎士は姿を消した。

黒騎士が消えると魔王の娘の闇姫が現れて「どうでしたか?あの人と戦う事は、おすすめ出来ないのですが」と、そんな事を聞く。

僕は「そんなことは無い。だって、あれだけ強い奴と戦いが出来て嬉しかった」と、そう言うと、それを聞いた闇姫が「貴方の事を尊敬します」と言うと「それなら魔王である貴方の父親と戦って貰っても、問題無いですよね?」と、そう言う。

そんな闇姫に僕は「魔王と戦って勝つのは僕で貴方の父親じゃないですよ」と言う。すると闇姫は、少し寂しげな顔を浮かべた後に。笑顔を見せて「それも、そうですよね」と、そう口にした。そんな彼女を見て、こんな状況だからこそ僕も、もっと前向きに生きて行こうと思った。それから闇姫に案内をしてもらう事になったのだ。

魔王城に向かうために魔王である闇姫と、これから僕達は行動を共にする事になった。僕は闇神の力で闇属性の魔法を発動させた。すると僕は僕自身の気配を消した。

僕は、そうしてから魔導の力を発動させると僕は僕自身が僕だと思っている者の魂を呼び出した。

僕の目の前に黒い人影のような存在が、いつの間にか存在していた。

その人影は闇を司る神だと名乗り「私は闇の神だ」と、そんな風に言うので僕は言う。「闇神の力が使えなくて困っているんです。助けてください」と。そんな僕の言葉を聞いた後で、闇の神は僕の力を使ってくれるのであった。

闇属性の魔力で生み出された存在の僕は僕の中に存在する闇属性の神の力を存分に扱う事が出来るようになっていた。そんな僕は僕の姿に変化をしていた。

僕の姿に変化した闇の力は闇姫の所に近づいて「魔王の娘である君の父である魔王を倒してあげましょう」と。

そんな闇の言葉に闇姫は戸惑いながら「私の父を殺すつもりですか?」と言う。

闇の神の僕も闇の姫も、この会話の意味が分からず、そんな二人の反応を確認する。

闇の神が闇姫に対して、こんな言葉を言う「私と取引をしませんか?」と、そして闇の姫は僕と闇の神が同一人物であるとは気付いていないので「それはどういう意味でしょうか?」と尋ねる。

そんな彼女の問いかけに対して闇の神は言う。

僕自身は魔王の姫である彼女が欲しいと思っていたが。しかし魔王の息子が僕に言った通りで闇神の後継者は自分であって欲しいと思ってしまう。だから、僕は闇の神の体を借りる。

闇の神の体は闇姫が操る事になる。この状態を『憑依状態』と呼ぶ事にする。

それから僕は、その状態の僕の力を使い、魔王の娘である彼女に自分の力を授ける事にした。僕の中にある僕の力と、彼女の持っている僕の力を交換したのだ。これで僕が死ななければ彼女は不死の体になるだろう。そして僕は彼女に僕の全てを教えると決めた。僕の知っている全ての知識を伝授する事を心に誓った。

闇の神として存在している闇の姫の体を僕の意思で動かす為に僕は僕の力を使うと、そこには闇の神が存在していた。それから僕の中に闇神がいる事が確認出来た。そんな僕は闇の神に告げた「闇の神が僕の中で眠っている間は僕の代わりに、お前が僕の代わりとして闇属性の魔術を行使するんだ」と、すると闇の神が僕に向かって「闇の力を使えるのは光の神だけなんだぞ」と言ってきたので。僕は自信たっぷりに答えた。「僕は光と闇の両方を極めようとしている」と、そう答えた。

僕の答えを聞いた、この世界の創造主が、どんな顔をしているか想像がつくような気がするが、そんな事を気にしていては仕方が無いのだ。そんな事よりも闇姫の方を見る方が大事なのだ。闇姫は闇の神に指示されたように行動する。そんな彼女の様子を確認してから闇は「貴方には私の眷属となってもらいます」と、そんな事を言ってから。闇の姫に対して眷属の印を刻み込むのであった。闇姫の体内に、そんな物が存在する筈はないのだが。僕が闇姫の体内にある、そんな感じがしているだけで。

僕達の前に一人の老人が現れて「貴様が、あの黒騎士の正体か」と言うので。僕は答える「そうです」と、そして、そんな僕に対して彼は言葉を口にした。「黒の騎士、貴様に頼みがある」と、彼は言葉を続ける「闇と光のバランスを保つ為。光の勇者と手を組んで欲しい」と言われてしまうのだった。そんな彼に対して「僕は黒騎士です。それに僕は貴方が嫌いだ」「それでも貴殿と勇者には手を組めて欲しいのだよ」と言ってくるので僕は「貴方は僕の力を知らないから、そんな事が言えるのです。もしも僕の力を知れば僕の事を怖く感じるようになりますよ」と僕は答えた。

そんな僕の言葉を聞いていた、あの自称最強の男の言葉は僕の頭の中に思い浮かぶ。だけど僕は、そんな言葉を無視してから、とりあえず彼の言う事を聞き入れることにしたのであった。なぜなら彼が僕の事を信用してくれるならば、こちらとしても、それは助かるのだ。だから僕は彼の提案に乗る事にした。

僕の事を信頼していないであろう魔王の子に対して。僕に助けを求めてきたのは意外だったが。しかし僕が闇神の力で魔王を倒す事で僕の存在を魔王の城に居る人間にアピール出来ると考えて良い。そう考えた上で魔王を倒しに行くのも良いかなと思うようになった。

だから僕は魔王の子である勇者と手を組む事を選んだのであった。僕は勇者の方に近寄ると「僕と、お話合いしましょう」と声をかけたのだった。

そんな僕の言葉に勇者の男は警戒していた。僕は「勇者様、僕の事を信じられない気持ちも分かります。だから僕を信じられる状況を作りました」と言ってから闇属性の力を使って僕に闇が取り付いている事を見せた。

僕が、そんな風に行動を起こした結果、僕を取り巻いていた人間は闇属性の力に恐怖を感じるようになり、それが原因で僕は信用されるようになった。

そんな僕の目の前で、あの少女が現れる。魔王の娘と呼ばれる存在であり僕の命の恩人でもある闇姫。

彼女は魔王の娘であり魔王の力を持っていても可笑しくは無いのかもしれないが。それでも、あんなに弱いのは、ちょっと異常ではないかなと思ったりするのである。僕は闇神の力で闇の姫と、そして魔王の息子である黒騎士の力を取り込んだ存在である。そんな僕の前に姿を現した闇姫。その闇姫は僕に、このような言葉を言ったのだ。

私は貴方の事を愛しています。そんな私と結婚してください。と、そして、その結婚を魔王である父親が反対するので私は、こう口にしました。私の父親である貴方の魔王を殺して貴方を夫に迎え入れるつもりであると。私の父親を殺さないという約束をして貰えなければ貴方と結婚する訳にもいきませんと。そう言った。

そんな言葉を吐いた僕の前に現れたのは闇神と闇姫の父親だ。そんな二人に対して、僕は言う「僕は闇神の後継者になりたい」と、すると闇姫の父親は、そんな言葉を僕に言い返す「貴様如きに、その資格は無い。さっさと私の前から消えろ」と言う。そんな僕に闇姫の母親が口を開いた。「私が闇神になった後に貴様に闇属性の魔術の使い方を教えてやろう」と。

闇姫の母親から闇神の後継者になるための条件を提示された僕は「分かりました」と、そう言うと。闇姫は僕が闇神になれると信じてくれたのか、僕の前に現れる事は無くなってしまったのである。そうして、僕は闇の神に教えてもらった闇神の術を発動させると、そこには僕がいた。そうして僕は闇神となった。

そうすると闇姫の父親の方は言う「まさか本当に、そうなるとはな」と。そんな闇姫の父親に対して闇神は「お前が、もう少し私に対して素直に娘をくれと言えば譲ったんだぞ」と、闇姫の父親に対して闇神は不満を言葉にする。そんな二人の会話を僕は見守り続ける。

すると、ここで、もう一人の魔王である少年が登場する。彼は言う「僕は勇者になるんだ」と、すると、そんな彼の発言に対して僕は言う「君が勇者になっても魔王にはならないよ」と、そんな発言をしてしまうと僕は彼に、この世界の創造主から聞かされていた事を説明する事にした。僕が光属性しか扱えない事を説明していく。

僕は光属性以外は扱う事は出来ないと言う。しかし、そこで僕は思う。そもそもの話だが、この世界では魔法を発動させる際に使用する魔法の属性は何種類も存在しているのだ。

この世界の創造主は光と闇に関しては特別な力を持っており、その二種類の属性のみに関してなら全ての属性の魔道具が使用可能になると言っていた。そんな事を僕は考える。そんな僕の心を読んだのかどうかは知らないけど、僕の前に現れる自称最強の男の姿が脳裏に浮かび上がる。だけど僕の頭の中で、あいつの姿は消えていくのであった。そして僕の前に魔王の息子と勇者の男が並んで現れる。そんな勇者の男の横に闇姫が姿を見せたのであった。そんな闇姫に対して闇神が「どうして此処に?」と尋ねかける。すると彼女は、その理由を語り出した。闇姫は、どうも僕と結婚したいらしくて、それで、ここに来たと、そういう内容であった。闇神と勇者の二人が僕に対して何か言ってきたが、その内容が聞こえなかったので「今なんて?」と僕は尋ねた。すると、また僕に対して話しかけてくる。

僕が魔王の娘の闇姫の事が好きなのだと。そう思っているようだ。だけど僕に闇姫の好意を受け入れるつもりはないのだけれど。僕は魔王の娘である彼女に言う。「君の事が好きには、なっているんだよ」

僕は魔王の一人娘にそう伝える。僕は彼女の事を大切に思ってはいるが。僕は彼女との結婚は考えてはいないのである。そう答えたら闇姫は落ち込んでしまい。そんな闇姫を慰める為に魔王の息子が僕の前に立ち「僕は魔王になります。その時まで待っていてください」と。そう宣言したのであった。そんな彼の言葉を耳にした後で僕は「魔王にはなりたくないので遠慮しておく」と返事をしてから僕は闇の姫の手を取ると。闇の姫は、そのまま闇の神と、闇姫の父親と勇者の男を連れて転移の呪文を、その場に発動させたのであった。

そうしてから僕達は僕の城に戻った。そして、そこに僕達を迎えに来る者達が現れたので僕は彼らを引き連れて闇の神の元まで移動することにしたのであった。そして僕は闇の神と勇者達と話をする事になる。そんな闇の神に対して、まず最初に僕は言う「貴方には、これから僕と一緒に旅に出てもらいます」闇の神に僕の方からお願いをしたのだった。

僕は魔王の息子である勇者が闇の力を手に入れた事を喜びながら。闇神の力を使って魔王と勇者の魔力を吸収しようと考えたのだ。そうする事によって勇者の持つ光の神の力を奪えると考えていたからである。

だけど実際に問題が起こったのである。僕は闇の力で闇の神の眷属達を作り出す事が出来る。そんな力を利用して僕は、その力で自分の体の中にある闇の力を眷属として作り出そうとしたのだ。しかし上手くはいかない。だから仕方なく僕は僕の中にいる僕の力を使って眷属を作ろうとしたが、それも失敗に終わった。

僕の中の僕の一部が闇属性の魔術に干渉してきたような感覚がして、それから僕は僕の中にいた闇神の眷属を生み出す事は出来ず。僕自身が闇神の眷属となる事に決めたのだった。そうしないと、もう駄目かもしれないと思ったからだ。そう思いながらも僕は、もう一度試みたが、やはり無理だったので、闇神の配下になる事で落ち着いたのであった。闇属性に耐性があり、かつ闇属性の魔術を使いこなせるように特訓する必要があるなと思いつつ、そんな風になった僕を見て「貴様は何を考えている」と、僕に問いかけてきた魔王がいるのだが「闇神の力を取り込みに来ました」と、そう答えたのだが魔王には理解されなかった。そんな事があった。

そして魔王に対して僕は「魔王の座を、この場にいる者に譲渡して欲しい」と告げると魔王が答えを出す前に、勇者の青年が答える「貴様如きに魔王が務まると思っているのか」と、それに対して僕は「僕は貴方に闇神の力を譲りたい」と言う。それを聞いた勇者は僕の言葉を聞くと僕の方を睨みつけてきながら「貴様など闇神の後継者を名乗る価値もないわ」と僕に告げてきたのである。それを聞いた僕は「じゃあ、やっぱり貴方に譲りましょう」と言ってから勇者に向かって闇神の継承者を譲って欲しいと言ったのだった。そうすると勇者の青年は僕に、こう言った。

「貴様の様な奴に僕の後継者が務まるはずがない」と、それを聞いていた勇者が言う「勇者が、その程度の器ならば僕も光の神の力を受け継いだ方が相応しいのではないかと思うが」そんな言葉を、その場の全員に聞こえるように口にしてくれた。その発言を聞いて魔王が怒りを露にして言う「貴様に闇神の後継を語る資格は与えぬ」と。そんな魔王に対して僕と勇者は、それぞれ闇と光の力を使った攻撃を行い始めたのである。

そうして魔王を倒した僕と勇者は闇の力を得た。その結果から闇の神の力を手に入れようとした僕が闇の神の後継者になれるかもしれないと考えて、この場で僕は儀式を行う事を決意したのである。闇の神が闇神になるための儀式を行っている。僕は勇者と共に行動している。闇の神が闇神となり闇神の力を継承したら僕と勇者が手を組んで、この世界を救おうと言う計画だ。そんな感じなので闇神と勇者の二人は仲が悪いし、お互いに認め合う気持ちは無い。

だけど勇者の持っている力は本物だと思う。それを手に入れる事が出来れば闇神と僕とで二人で闇と光の二つの力が使えて最強だと言えるようになるのだ。ただ僕としては闇神よりも勇者の方が強いとは思わない。なぜなら僕の中には魔王や勇者が持っていた力の何倍もの力を蓄えている僕と言う存在が居たりするのである。だから僕が本気で戦えば闇神と勇者を同時に相手しても負ける気がしない。

しかし、それでも僕は闇神に闇属性の扱いを教えてもらう必要がある。そうすれば闇神を僕が完全に吸収する事が出来るのだし。そうなった時でも勇者は勇者のままの存在でいるだろう。だからこそ僕は魔王の後継者を名乗り魔王を倒さなければならない。そうでなければ闇神と二人で一緒に戦うという事が出来ないのだ。そんな事を考えながら僕は勇者と闇の神の戦いを見ていた。

勇者は言う「僕は魔王を倒す存在だ。この世に平和をもたらすために存在している」そんな発言をしながら剣を振り回すと、それを受けてから闇神は言う「貴様に私や光神の代わりが出来るわけないであろう」

その言葉を、うっかり僕は聞き逃してしまいそうになった。だが、なんとかギリギリのところで僕は耳に入れた。勇者に対して僕は言う「勇者であるお前よりは、まだ僕の方が強いから安心しろ」と。そんな発言をしてしまうと闇神の拳に僕は頭を叩かれてしまった。

痛いな、と文句を言うと闇神は「私の目の前で、よくも私に失礼な言動をしてくれおったな」とか言うが、どう考えても僕に失礼な態度を取ったの闇神の方に原因があるはずだ。僕は「別に本当の事しか言ってはいないよ」と。

僕は闇神が勇者と戦う様子を観察していたのだ。そして、その最中に僕は気がついたのである。闇属性を扱う事が僕に出来るようになっている事に。そうか闇属性は僕に合っているんだなと、そう考えると。光属性が使えないと言うのは嘘なのだな。

この世界での魔法は全ての属性を使うことが出来るんだと思っていたけど、そうでもないようだ。闇と光に関しては僕には扱うことが出来ないのだと。僕は、そのことを闇姫に伝えると彼女は、なぜか嬉しそうな顔をしながら言う「闇属性は扱いにくいと言われているけど、それは使い方の問題でもあるんだよ。貴方の闇は凄く使いやすいのかもしれないね」と、そう言われると僕も嬉しい。そう思いつつ僕は勇者と戦っている闇神を見守った。

勇者が闇神に勝つには、もう少し時間がかかると僕は判断した。そう思っていたのだが闇神の方は「貴様では、この私には勝てぬ」と、あっさりと言ってしまい勇者に闇神の技を使わせても無駄だと悟らせてしまうと、そこから勇者の勇者の力を奪って、さらに闇神にダメージを与えていったのだった。それから勇者が僕の方を向いて言う「どうして僕を助けてくれないのだ?」と、それに対して僕は答えを返す「貴方が弱いせいだよ」と、そう答えると、その瞬間に勇者が攻撃を仕掛けてきたが、それを闇神が防いだので、それ以上に僕達が傷つくことは無く、どうにか、その戦いが終わったのであった。そうしてから闇神は、そのまま僕を闇の中に閉じ込めようとしてきたが僕は自分の中にあった闇神を取り込む事で難を逃れた。

そんな風に、それから僕と闇神は二人で勇者と戦った。そして勇者が勇者の力を失った後で闇神の力を使って、勇者が持っていた力を吸収して、それから闇神の力を奪い取って、勇者の力を僕の中で完全に融合させた後に闇神が闇属性の力を発動させると勇者の肉体と精神は闇神の物となるのであった。そんな勇者の事を僕は見守る。

僕は闇神の力を手に入れた。だけど、これは、ほんの始まりに過ぎなかったのである。そんな感じの話をしてから僕は魔王の娘に魔王の座を譲ることにしたのだった。僕は、これから僕の城にいる者達を集めようと思っている。魔王の娘の魔王継承の儀式を行い。彼女の配下として魔王の力を分け与える為だ。

そう考えた上で僕は闇姫の闇の神の力を貰おうと考えた。

そう思って僕が魔王に聞くと彼は僕に向かって「もう、お前の体は限界を超えているのだから大人しくしていろ」と言ってくるのである。

その事に僕は驚いた。そんな事は僕は、ちっとも知らなかったからだ。僕は自分の体の事を闇神と勇者達から聞いて知っていたつもりだった。

だけど実際は僕の体がボロボロになってしまっている事を僕は自覚していなかったのだ。それを指摘されて僕はショックを受けると、そんな僕に対して闇神が言ってくる。「私が力を分け与えても問題は無いと思うが、もしも問題があるとするなら、その前に、まず貴様の体の中の闇と光が消えていく可能性がある」と。その言葉を聞いた魔王も言う「もし闇属性の力が消えたら魔王の座を他の者に譲れなくなるぞ」と、そんな二人の話を聞いた勇者が言う。

「貴様等は、なぜ僕達の会話に入ってくるんだ」

それに魔王が答える「勇者と闇神の後継者の、この世界の行く末を決める重要な話し合だからだ」と、それに続いて闇神が答える。「そうだ。この話し合いの邪魔をすると言う事は世界の崩壊を望むと受け取るが、それで構わないのか?」そんな事を話し合った結果。僕が魔王の娘の力を得る事が決まると彼女は言う。「父様が力を貸せと仰ったのですから仕方ありませんわ」と、そう言いながらも、どこか嬉しそうにしていたのだ。そんな彼女が可愛いと思ってしまった。そう思った時に僕の中にある力の均衡が崩れるのを感じる。闇神が言ったように闇神の力が無くなる可能性が出てきたみたいだった。そんな様子を見ていた闇姫も言う。「じゃあ私は力を与えてあげるから、代わりに貴方は私の事を守るのよね」そんな感じの話になり、とりあえず魔王に力を与えられている魔王の後継者である勇者が、このまま魔王になっても困るという事だけは解っているので、そこで僕は勇者の体に僕の力を分け与えたのだ。

そうしたら僕の力は勇者の中に溶け込んでいってしまったのである。これで僕は魔王の後継者になれなくなってしまったが、勇者の力を手に入れた事で満足しようと思うのであった。そして僕が闇姫に、こう告げる。「今の状態で、どの程度まで魔王としての力を使えるのかな?」すると魔王がこう教えてくれたのだ「魔王の力の半分までは使えたが魔王の力を使いすぎるのは良くないのも事実だ。その辺りの事を踏まえて貴様は魔王になった方が都合が良いだろう」そんな話を聞かされたので僕は魔王の後継者になることが決まったのだ。

そんな事があったのだが、その後は僕達は闇の神殿の攻略に取りかかる事を決めたのである。そうしているうちに魔王城に攻め込んだ僕たちは、その最深部で待っていた魔物を倒したのであった。その後で僕は、ふと思った事を口にしてみたのだ。

「闇属性の力で闇神様の魂を封印することは出来ないか? それと勇者の光の力に対抗できる力を持つ者を作り出せるような方法は無いのか? 例えば、闇神様や光の勇者の力に対抗する存在が欲しいとか?」と。僕が質問をしている最中にも僕の中には闇神の存在が入り込んできたのだ。それだけではなくて闇神の力が僕の中にも入って来ているのだと感じたのだ。

僕は慌てて闇の神に言う。

「貴方が僕の中に入って来たと言うことは僕が貴方を受け入れたと言うことですよね。それって不味くないですか?」と。しかし闇神は「大丈夫だろ。それより魔王城で何をしようとしていたんだ?」などと聞いてきたので僕は答える。

魔王城では僕が勇者に奪われた魔王の力を奪おうとした事を話すと闇姫は納得してくれたが勇者の方は、よく意味が分かっていないようで勇者には簡単に事情を説明すると「つまり、どういう事なのだ?」と勇者から聞かれたのだ。なので、ここで説明してもいいのかどうかと悩む事になる。そうしていると闇神が自分の力で勇者に何かをしようとして、それを勇者の肉体を操っていた魔王が止めた。その結果。

勇者は勇者として存在できなくなった。その勇者の力は、ほとんど闇神の力に取り込まれてしまっているから。その状態で、また勇者の力を使うと、おそらく肉体が崩壊してしまう危険性があると、そう教えられた僕は言う。「勇者に勇者としての能力を全て返すのは難しいんですかね」と、そう僕が尋ねると闇神も勇者の体を調べていた。闇神は言う「この者の肉体では無理かもしれぬな」それから僕の方に顔を向けてくると「勇者の力は返せるはずだ」

そんな感じで僕達は勇者の身体の中にあった勇者の力を半分ほど勇者の方に返してもらったのだった。だが闇神の方は勇者の力を取り込んでいた為に闇属性の神としての力も取り込めてしまった。その事から闇神の闇神の力までも取り込んだ僕の力は、すでに限界を超えていたようだ。だから魔王城で勇者に力を奪われる前に僕は闇属性と闇神の存在を融合させていたのだが限界を超えた僕の中に入りきれなかった分に関しては勇者の力と混じり合ってしまうことになった。

そのお陰で、かろうじて勇者と僕の力のバランスを保つことが出来たのだと僕は考えるのであった。そして僕は魔王城に居る間に、この世界の状況を知る事にした。僕は勇者に質問をする「ところで貴方が、あの勇者の力を奪った後、どうなりましたか」と、それに対して勇者は言う「今は聖剣の力を失った聖剣使いの奴が俺に代わって魔族の国に侵略を開始しているところだと思うが」と、そう答えられたので僕は言う。

聖剣に頼りすぎたせいもあって勇者には勇者の力しか残されていなかったのだなと僕は考えてみるが今は闇属性の力が僕の体内に存在してしまっているのも原因のひとつだと考えた。勇者と闇神の両方の力を持っていても問題が起きていないので僕にとっては幸いだったと思える。だけど僕は思う。

このまま闇神を受け入れて魔王になった方がいいのではないか? と、そう考え始めていたら僕の元に勇者が現れて「おい魔王! 何時まで待たせるつもりだ!」と怒声を浴びせかけてきたので僕は答える「ああ勇者、君と話をするのは面倒くさい。闇姫と、あとは、そちらの王女で良いから魔王城に来てくれないかな?」そう言いながら闇神の力を使って魔王城を僕の支配下においた。すると勇者が叫ぶ。

「貴様! 魔王の力を手に入れたな!」そんな事を言われて勇者を落ち着かせようとしながら僕が勇者に向かって言う。「そんな事を言って、どうするつもりなんだい?」と、そんな風に僕が聞くと、勇者が言う。

「決まっている。俺は貴様を殺さなければならない。なぜなら、魔王に力を渡してしまった時点で貴様も、もう人間ではない。ただの化け物だ」などと言って僕に斬りかかってこようとする。

僕は、それに対して魔法で迎撃したのだけど闇属性の力で強化されている勇者は簡単に弾き飛ばすと僕に向かって言う。「さぁ勝負を始めようじゃないか」それから勇者と僕との戦いが始まった。そうやって僕は魔王の力を手に入れるために戦った。そして闇姫に手伝って貰いながら、やっと僕は魔王の力を手に入れられる状態になったのだ。そんな感じで手に入れた力を手にして勇者と対峙することになる。

「さて、勇者よ。僕を殺すと言うのなら、それは仕方のない事だろう」そんな風に勇者と向き合い、そんな感じの言葉を発した僕は勇者に対して攻撃を仕掛けることにした。

「さて、魔王よ、その首を切り落としてやる」と叫び僕に対して斬りかかろうとする勇者。その瞬間。僕は自分の力を発動させる。

僕の力に気づいた闇姫が言う。「闇姫は貴方の事を応援します」

そんな言葉と同時に僕は闇の力を開放する。その途端。僕は勇者に対して自分の能力である闇の神の力をぶつける事に成功した。それによって僕の闇の力は僕の中に戻らず勇者の体内で荒れ狂う。その結果、勇者の意識は闇に包まれて行き勇者は死んだ。しかし勇者の死と共に僕の力もまた消え去ってしまった。その事に驚いていると僕の近くにいた魔王が、こう言ってきた。

「勇者を殺したというのならば、その力を吸収したらどうだ?」そう言われたので僕は素直に従った。

そうしていると勇者の死体が闇の中で溶けていったのである。その様子を見た僕は驚くしかない。そんな様子の僕を見て魔王が言う。

「これが勇者の本当の死に方だよ。勇者は死ぬとその力を全て失い、その身に宿っていた光さえも失った状態になる。その事で光と闇のバランスが取れていた存在から普通の生物に戻るわけだ。そんな状態の生き物が普通に生きていけると、そう思うか?」そう魔王に尋ねられて僕は言う。

「なるほど、勇者は勇者として生きることを許された生物ではなかったと言う訳か。でも光が無くなって生きている事ができたと言うのは奇跡のような出来事だな」と、そんな事を言いつつ僕は思った。勇者の体と、その力を得たのはいいのだが、それを使いこなす事は、これからの戦いの中では不可能ではないかと、そんな事を考えていたのであった。

そう思っている時に闇姫は言う。

「私と闇神様の力を貴方に分け与えたら貴方も闇属性の神になれるわよね?」

その質問に闇神は答える。

「闇神の力を持っているから大丈夫だ。だが闇の属性は、あくまでも悪の属性だから闇姫の望む形で闇神になる事は難しいだろうがな」と、そんな説明を僕達は受けたのだ。

そうしていると、そこで闇神が僕に話しかけてくる。「闇神の力を得るには闇神との魂の融合が必要だ。つまり魂の融合した者同士じゃないと無理なのだ。それで闇の力が欲しいか?」そう闇神に問いかけられ僕は悩むが結論を出す事はできない。なので、そのままの状態で勇者の力に闇属性の力を付与していく作業を開始することにした。

すると僕の目の前に一人の少女が現れる。彼女は言う「貴方に力を授けます」と。そして彼女の手から光が発せられ僕の中にある闇神の力を吸収することに成功する。僕は、それを確かめてから闇神と闇神を取り込みながら勇者の力にも、それを行った。

その結果、僕は勇者から魔王の後継者になり、同時に勇者の力を手に入れたのだ。僕は言う。

「勇者の後継者は闇神様でお願いします」と、そんな感じで僕達は勇者と闇神の両方の力を使いこなし、それから僕は闇神と魂を一体化させたのであった。その事に僕が気づくのは勇者と闇神を同時に受け入れた次の日のことである。

それから闇姫に頼んで僕は闇姫と精神を同化させてもらって闇姫が見ている光景を僕も共有することにした。僕達の目的は聖剣に対抗できるだけの力を手に入れようとしたのだ。しかし、それでは、この世界で勇者の力を使う事になるのではないかと僕は疑問を持つのだが、その問題を解決する為に闇神は僕に提案してきた。

「魔王城にある闇属性の力で出来た空間は魔王の力が封印されてる。その力を使えば魔王城にあった全ての力を使えなくなるんじゃないか? そうすれば、勇者の力を使えるようにしたとしても聖剣の能力は無効化できるし、そもそも聖剣の能力を使おうとする勇者が現れなければ問題にはならないと思うけど、どう?」そう言ってくれた闇神の意見に僕は賛同する事にした。それから闇神は僕に聖剣と魔剣を渡すと闇神の力が使えない状態になっている魔王城に、まずは向かうことにしたのだ。

「闇属性の力は、この剣と相性が良いからね」と言って僕を闇神の作った異界へ送り届けてくれる事になった。そして僕と別れた闇姫は自分の家へと帰る。それから僕の体は闇属性の力で作られた異次元の世界に連れて行かれたのだった。そんな感じで、とりあえず僕は魔剣を手に入れたので魔剣の能力で勇者の体を作ることにする。そうしてから闇属性の神の力と闇属性の力を融合させた闇属性の力を使って僕の体に勇者の体を再構築させる。

「上手く行けば良いんだがなぁ」そう僕は口に出してから僕は闇の神に頼み込み、僕の肉体に勇者が持っていた肉体の情報を送り込む事に決めた。すると勇者の体が作り出される。そんな風に肉体が作られ始めたのだけど勇者の肉体を作り終わった段階で僕も気を失うことになる。

そうして次に僕が目を覚ました時。最初に目にしたのは泣きじゃくる僕の娘の顔と魔王城に戻って来ていた魔王の姿であった。そんな僕に対して魔王が声をかけて来た。「魔王城が襲撃された。そして魔王城の魔王の部屋の入口に闇姫と魔剣が置いてあった」と、そんな事を魔王が僕に告げたので、僕も慌てて外に出て行った。その僕に勇者の使い手が襲い掛かってくる。僕は剣を抜き勇者と対峙する。そうして僕の剣と勇者の光の魔刀が激突することになる。

勇者が僕に対して切りかかってきたのだけど、僕も負けずに応戦して行くと僕は、すぐに違和感を感じる。勇者の動きには精彩がなかった。それに闇神と勇者が戦い、その後。勇者の力は闇に食われた筈なのに勇者は生きていたのだ。その事で僕は全てを悟った。僕と同じだ。僕も勇者から力を奪い取ったが闇に喰われなかった。そう思い僕は、その事に驚いていると、そんな僕に魔王が声をかけてきた。

「おい、魔王。そろそろ時間切れだと思うぞ。これ以上、闇姫を泣かせたくはないだろ? もう決着をつけろよ」そう言って魔王は僕の背中を押してくれた。

そんな魔王の言葉を聞きながら勇者の攻撃を防ぎ続けると勇者の動きが止まる。僕は言う。

「もう終わりなのか?」と。すると勇者は言う。

「もう終わりだよ。君と僕との戦いはね」そんな言葉を口にした直後。勇者の体のあちこちに小さな闇が発生し始めて勇者の体の中に溶けて行くと完全に消滅した。そんな現象を確認した僕は、やはり勇者が魔王の力を取り込んでいたことを確信したのであった。そして僕は言う。

「どうして勇者の事を僕に任せたりしたんだい?」と言うと魔王は答えてくれなかったが、代わりに魔王の隣にいた闇姫が、こう教えてくれた。「それは魔王が魔王の力を取り戻したからですよ。今の魔王には、あの程度の勇者の力なら、どうにでもなると言うことですね。それと闇王様、私は魔王が好きなんです。貴方様のように」そう言った後で僕に抱きついてくる彼女を見ながら、そんな風に思ったのである。僕の子供は、どうやら母親似らしいと。そのせいで僕の理性は崩壊寸前だ。こんな感じに闇姫は甘えん坊になってしまった。そんな事を考えている間に僕達と勇者との最終決戦が始まる。

そう、これは魔王と勇者の戦いであり、その戦いの中で勇者の魂が闇の中に消えた事を意味している。だから僕の勝利は揺るがないのだろう。そんな事を思いつつ僕も魔王に対して攻撃をする。すると勇者が使っていた闇の力を魔王も扱う事に成功していて僕と魔王の戦いは激しさを増す一方であった。僕と魔王の二人が本気を出しての戦いは僕達の家の庭を破壊し尽くしていたのだから。そんな中で僕は勇者から奪った力を使い始める。闇に蝕まれながらも魔王と戦う僕を見て闇姫が叫ぶ。

「闇神様。私にも力を分け与えてください」そんな事を言うので闇姫に対しても闇の力を与えた。そうしているうちに僕の中で魔王の魂が消滅するのを僕は感じる。僕は魔王が消滅してしまった事を理解したのだけど、それでも戦いを止める事はなかった。僕が魔王の魂と一体化してしまう前に、どうしても僕は魔王の魂を闇に葬ってしまわなければならない。そうしないと僕は、この世界に居られないような気がしたからだ。そして僕は魔王の力を最大限に引き出してから僕は闇の中に沈んでいった。その結果。僕と魔王の力は相殺され、それと同時に僕は自分の意思を失い、闇に支配されていくのを感じた。そうやって僕達は互いに力を消失させてしまう。

こうして僕達は敗北する。

それから数日後、僕は闇の中で意識を取り戻す。その事で、ようやく闇の中から脱出できる事を知った僕は闇の中で体を作り直してから再び勇者の力を奪うことにした。そして僕の体も元に戻ったのであった。僕が闇から出てくると魔王が、そうすると闇姫が僕の方に走ってきて抱きついてくるのであった。

そんな訳で魔王と闇姫は二人で僕の家に暮らすようになったのであった。僕は、これから何が起ころうと二人を守る事にしようと決意をする。それから僕は闇神の力を借りて魔族領に、ある人物を召喚する事にする。それが闇神の力を使う為に必要な条件であった。

そうしている内に、いつの間にか勇者が聖剣を持ち魔王と闇姫の前に現れる。その光景を見た闇神は僕に言う。「お前の子供達がピンチになったようだ。助けに行くといいさ。私としては少しばかり残念な気はするんだけどね。あっちの聖剣には興味があるんだが、まあいいや、頑張れ」そう闇神は僕を励ましてくれるのだった。その言葉を僕は聞くと聖剣を闇に食わせて魔剣を作り出した後。魔剣を持って魔族の国に戻ることにした。そして魔王と闇姫を魔族の国まで連れて行くことにしたのである。

僕が魔族の国に帰ってくると既に勇者によって闇の女神達が倒されていたので僕は魔剣を使って勇者を殺す事に成功する。そして魔剣の力を発動させて、この世界から闇を駆逐することに成功したのだった。だが、これで全てが終わりではなかった。

それから、しばらくして闇姫に魔王が憑依し闇神を取り込んだ後に魔神の魂と融合した存在。つまり闇神が誕生する事になるのであった。

そうすると今度は闇姫の体に僕の人格を封じ込めることで僕は人間として生きる事にしたのである。

その事により僕は勇者を討伐してから数十年が経過することになるのだが、その期間の間。闇神と魔王は僕が人間の振りをしながら、どのように生活をしていたのかと言うのを知ることはなかったのだ。そのせいもあり、この世界の人間は勇者という絶対的な脅威がなくなったことにより平和が訪れることになった。だけど勇者と闇神が消えると同時に魔王と闇神も存在しなくなってしまったのだ。その事が闇神の民にとって、どれだけの不幸をもたらしてしまったかは計り知れないほどなのだ。しかし、それは、もう過去の出来事でしかなかったのだ。そう今、この時こそが新たなる闇神の誕生を意味する時なのである。そう思い闇神は自分の体を作り変える。

そうして、しばらくした後に魔族は勇者に対抗できる力を持つことになるのであった。それから魔族達による反撃が始まり闇神の復讐が始められようとしていたのであった。

闇姫を宿す事に成功した闇神は魔剣の力を使用して闇神の肉体を作ることに成功した。そして闇姫を体から取り出して僕の娘に取り込むと僕は魔族達に闇姫を託すと僕は魔族の城へと戻った。その時に魔族達は闇姫が闇に食われたと思い込んでしまっていた為に僕は魔族の城に帰るまでの間。何度も闇姫の事について問い詰められたので僕は疲れ果ててしまい魔族の城に戻ると闇姫の体を作り出すために睡眠を取ることにしたのだった。そのせいで僕の体は限界を超えてしまったらしく僕の体は数日もの間。起き上がれなかったのだった。その間に僕の娘である闇姫は闇神に殺されてしまっていたのだ。そんな事実を僕が知ったのは全てが終わった後のことであった。そう、闇姫が死んだ後、その体を魔王の娘が受け継いでしまい僕の娘の肉体が乗っ取られている事を僕は知ることになる。そんな時、僕は魔族の王になり、僕に付いて来ていた妻達と息子達と一緒に暮らしていた。そんなある日に僕は魔王と闇姫が生きている事を知ってしまったのである。だけど魔王と闇姫には魔王の力がなかった。その事を知っていた僕は魔王と闇姫の体を乗っ取っている存在に対して僕は、ある事を決断する。

僕は魔王に僕の命と魔族に僕の力を分ける約束をして魔王と闇姫と僕の妻達の五人だけを闇の力の封印に使って魔族の国で生活させることにしたのであった。

「闇神。魔王と闇姫を助けに行こう」

僕がそう口にすると闇神は僕に向かって言う。

「駄目だよ。そんな事は許されないよ」

そんな闇神の表情を見てから僕は答える。「そんなことは分かっている。ただ僕の家族を死に追いやった相手を僕の手で葬る事はできない」と言うと闇姫が泣き出しそうになるので、そんな闇姫を抱きしめてから僕は闇姫の耳元で言う。

「大丈夫だよ。君が、ここに居れば僕は魔王も魔王の力も取り戻せないけど、それでもいいんだよね?」

その言葉を聞いた瞬間。魔王は嬉しそうな顔をするのだが闇姫が僕の腕の中から逃げ出して闇神に近づいて言う。

「闇神様。闇神様。私は貴女と離れるなんて嫌です」

「仕方がありませんね。闇姫様。魔王様が私の力を取り込もうとしているのならば私が、それを止めます。そうしないと闇神様の力が闇王様に吸収されてしまい、いずれ貴方達の存在自体を失ってしまうから」

そんな二人の会話を見ていた僕は魔王に対して言う。「僕は、もう、ここには戻ってこないだろうから魔王の力を全て使い切るまで待っていなさい」と言うと魔王は僕に対して抱きついてきた。それから僕の息子の一人。闇の王の力を受け継ぐ事になった僕の息子である闇王が闇の力で作り出した空間で僕が闇から脱出するまで闇姫が待つ事になっているのだった。僕は魔王を離してから僕が作った武器を渡す。それから僕は僕の意思を受け継いだ娘。僕の息子の一人の闇の女王であるリシアに言う。

「リシア、お前は母さんの事を忘れるんだよ。お前が僕の子供だって事を、あいつらは、ずっと隠し続けるんだから、それにお前の母さんが死んでから僕はお前の面倒を見てこなかったからな。そのせいでお前の事を疎ましく思っているだろう。だからお前は僕とは、もう会えないんだ。そうすれば魔王の力を使える人間が生まれることもなくなるはずだから、お前には何も起こらないはずだ。それと最後に父さんは魔王を絶対に倒すから安心して」

僕の言葉を聞くと涙を流す闇王は「おとう様。私は本当は、まだ死にたくないんです。でも、あの人達が死ぬのを見てしまった以上。何もせずに生きていく事はできません」と震えながら言ってきたので、それに対して僕は闇王に「僕は闇に食われて死んでしまうのかもしれない。その前に、なんとか魔王を倒しておくよ」と口にすると僕は魔族領の外へ出て行くのであった。そう、これが闇姫との別れであり闇神は魔剣を手放したのだ。そうしないと魔王が僕と同じ存在になってしまうので僕は魔剣を手にする事ができない。だからこそ僕は、そうすることにした。

僕が、そうしている間に魔王城の方角では異変が起こっていたらしい。僕は闇神の作り出した闇の世界で闇神の話を聞いていたから詳しい話は分からなかったのだけど僕以外の者が魔剣を手に入れたと聞かされた。その魔剣は勇者が持つ聖剣だった。僕は魔剣が闇神の手によって魔剣を扱える存在として選ばれてしまえば魔王に奪われる心配があると考えたので僕は急いで魔王城に戻ってきたのである。

そして僕の目の前に魔族と魔族に味方する人間の死体がある中で闇姫と闇神の姿を確認する。そして僕は僕が渡して闇に食わせたはずの魔剣を闇姫が手にしているのを確認してしまうのであった。その事から僕は魔剣を奪い取ると闇姫の首を切断するのであった。すると闇姫が笑い始めるのだった。僕は闇姫が偽者だと理解してから僕の娘だと思っていたのは実は魔族である事に気づいたのである。

僕は魔剣で闇姫の頭を何度も何度も切り裂いて殺そうとすると、そこで僕は自分の体が徐々に腐り落ちてきていることに気づくのだった。

僕と、いつも一緒に行動していた勇者である光一が、この国で暮らし始めた頃の話。

光一は聖女と呼ばれる少女を妻に迎えることになった。聖女の本名は佐藤聖奈と言い年齢は16歳である。その見た目が、まるで聖女のように美しく心優しい性格だったので皆は彼女を聖女と呼んでいた。聖奈と初めて出会った時のことを覚えているのは聖奈が勇者を救い出すために聖剣を振るう姿を光一が目にしていたからである。そんな彼女が自分と結婚することになり光一は自分の人生は幸運だと思いながら日々を過ごしていた。それから数ヶ月が経過し、いつの間にか、すっかり勇者夫婦の生活が板に付いてきたので光一は自分の仕事をこなす為の準備をする為に城の外へと向かう。その途中で光一は自分に話しかけてくる人物がいるのに気づき声をかけようとすると、そこにいた人物は聖奈ではなかった。

「あら? 勇者君。これからデートかい? いいねぇ~私なんか毎日一人で退屈していてさ。そうだ! 勇者君の時間があったらで構わないんだけどさ。私と一緒に出かけないかい?」

その言葉を聞いてから勇者は言う。

「すみません。自分は、その、あまり女性に対して耐性がないもので、どう返事をして良いのか分かりません。ですので今は失礼します」と言うと勇者は自分の妻である美和に見つからないように城内を移動するのであった。そして勇者は城を脱出すると城下町へと向かって歩くのである。その道中に屋台で買い物をしていた光一に話しかける人物がいた。

「ちょっと待ちなさいよ。そこの冴えない顔つきの男!」と言うと勇者は振り返り相手の顔を見ると絶世の美女と呼べる容姿をした女性が、そこには立っていた。彼女は美しい金髪をしており青い瞳をしているのが印象的だが服装は少し派手で、なんと彼女はスカートを履いているのだが股間の部分にチャックが付いている事が、あまりにも異質な感じに見える。そんな彼女の格好を目にすると勇者は戸惑ってしまう。

「貴方に、これを差し上げましょう。貴方にならきっと、この力を使う事が出来るでしょう」と口にして彼女に手渡されたものは何かの鍵だった。

「これは何ですか?それに鍵を、どうして貴方が僕にくれるんですか?」

その質問に対して女性は答える。

「それはですね。貴方には私の加護が既についているからですよ。それで貴方は私に選ばれた人なので、それを使いこなしてほしいのです」

「えっと、どういう事なのか意味が分からないのですが?」と困った表情をしながら、そう言うと女性の口から信じられないことを聞かされることになる。その事実とは彼女が言うに自分が神様だということ。そんな彼女の話を信用するのは難しいが、その鍵を渡されたので信じないわけにもいかないと、そう考えた勇者は彼女と別れてから家に戻る。そして家に帰った後は妻と子供である双子に今日あった出来事を話すのである。しかし二人は特に反応を見せないので「本当に変な体験をしたのに誰も信じてくれなかった」と思うしかなかったのである。それから夜になって光一が自分の寝室で就寝しようとした時だった。その部屋の窓から侵入してくる人影がある。そして部屋に入ってきた人物が言った。

「勇者様。その力が欲しくはないですか?」と言って、そいつが、おもむろに取り出した物。それが勇者にとって衝撃的なものになる。

「なんだ? その汚い物体は?」と困惑しながら尋ねると、それを手にした女が言うのだ。その瞬間に部屋中に血飛沫が飛び散り肉片や内臓が床一面に散らばったのである。

「こんなものが、あるんですよ」と、その言葉と同時に目の前の人間が無残な姿で倒れていた。それを見ていた光一は恐怖を覚える。「なっ!? お前は何を?」と動揺する光一は目の前の女に質問する。

「貴方が望めば何でも出来ますよ。ほら、ごらんなさい」と言うと目の前の人間が立ち上がり歩きだす。その姿を見て光一は思う。

(確かにこいつの言っている事は本当のようだ。なんでも出来るみたいだ)と思いながらも目の前の人間は何を考えているんだろうと、そう思った。すると再び目の前で人間を食い殺した奴が「私の言うことを聞かない人間を殺す事も、もちろんできるんですけど、この能力は、それじゃなくて別の事をやる事ができるんです。そうね。例えば私の言う通りにすれば世界の半分を与えるとか言われたとしても従うしかなくなるんですよ。わかりましたか?」と聞いてきた。そんな彼女に対して光一は言う。

「お前の目的は何だよ。まさか俺に復讐したいとでも言うんじゃないだろうな。それとも魔王軍の仕業か?」と光一が尋ねても答えは返ってこなかったので彼女は自分の能力について説明を始める。それは簡単に言ってしまえば、あらゆるものを手に入れる事ができるという反則のようなチート的なものだった。ただ、その能力を手に入れて勇者である自分が幸せになれるかどうかは疑問が残る内容であった。それでも勇者はこの能力があれば他の人間に遅れを取らずに済むと判断する。

勇者は目の前の相手に対して警戒心を持ち始めるのだった。

「さあ、勇者さん。この国を滅ぼしてしまいましょう」

「俺は、お前の言葉に従うしかないのか? なぜだ?」と目の前の人物に勇者が尋ねる。

それに対して彼女が「私も貴方の事を気に入っているからこそ、そうお願いしています。だから、どうか協力してください。勇者さんに力を貸す条件として魔王軍を全滅させて欲しいと思っているんです」と言われてしまうと断る理由は無いような気がして、つい「ああ、分かった。協力しよう」と答えてしまうのであった。

そして勇者は聖奈に相談して自分の力を更に高めてもらうことに決める。そして、それから数日後に勇者が魔族領へ赴き聖奈が聖剣を使えるようになるまで特訓してもらう。

「光一様、申し訳ありません。私は聖剣の扱い方を知りません。私が知っている剣の使い道と言えば魔法攻撃だけです。ですので勇者様の役に立てることは、それだけかもしれません」と言うと勇者が「いいんだよ。聖奈。気にしないで、とにかく君には聖剣を使って貰う。君の持つ力ならば魔王軍に負けることは無いはずなのだから頼むぞ。もしも魔王軍が攻めてきた場合には君は聖剣を振り回せば良いだけさ。僕は魔族の王と話をつけてくるから聖奈は魔剣の使い道を、もう少し練習してくれ。それと、くれぐれもこの城の中で聖剣を使うのだけは避けてね。そうしなければ僕は、きっと魔王を倒すことが出来なくなってしまうから」と勇者は真剣に話し合う。

それから勇者と聖奈が魔族領に出発する。そして魔族領に到着した時には勇者と聖奈は二人揃って、すっかり疲れた状態になっていた。その疲労感の原因は勇者が闇雲に暴れ回るのを止めようとする聖奈と魔剣を何とかして扱いたいと思う勇者の口論が長引き、その結果として魔族と戦闘になってしまったからだった。しかし二人の体力の消耗が激しいために聖剣の力を引き出すことができず魔剣の方の力は引き出していた。そして二人が魔族と戦おうとするが魔剣を扱う聖奈は魔剣の力で敵を吹き飛ばしてしまう。そんな聖奈を目にした勇者が慌てて言う。

「ちょっと聖奈ちゃん! やり過ぎだよ。僕達は戦いに来たわけじゃないのに」と言うが、そんな言葉を全く耳にしていないのか彼女は勇者の忠告を無視して魔剣を振るい続けて敵を蹂躙していく。そんな聖奈の勇ましい様子を目の当たりにしている勇者が彼女に近づこうとする。だが彼女が魔剣を空高くに掲げると、まるで巨大な雷が降り注ぐかのように無数の剣が落ちてきて敵を殺していく。そんな光景を見つめながら勇者が口を開く。

「僕の嫁になんてことをしてくれたのさ」

その声を聞いた聖奈は振り向いてから言う。

「あの、これは勇者さんの聖剣の威力なのでしょうか?」と尋ねる。すると勇者が首を横に振った後に答える。

「いや、違うよ。聖奈。これは聖剣ではない。どうも、これは聖奈の思いが具現化された物みたいなんだよ。だけど、このまま放っておくと大変なことになるかもしれない。そうなる前に何とかしなくちゃ」と彼は聖奈に向かって言いながら勇者は、この先の戦いが無事に終わる事を願っていた。

それから数日間の経過で魔族は次々と降伏していった。その様子を見届けてから二人は自分達の領地に戻り、そこで数日の休息を取ってから再び勇者と妻は共に旅立つ。そして、ようやく目的地である魔都に辿り着いた時、それは既に終わっていた。そして勇者と聖女の前に現れたのは死体の山が築かれていたのだ。

「光一、これは一体どういう事なんだろうな」

「さぁな。とにかく俺達には何も出来ない。今は城に戻ろう。それから今後の行動を考えると良いと思う」と勇者は妻に言うと、そのまま城を抜け出そうとしたが警備兵が勇者のことを拘束する。その事に驚いて勇者が口を開ける。

「お前たち何がしたいんだ?」

「貴様を拘束しろと言われている」

「ふざけんなよ。こんな状態で何をするつもりだ? この国を攻めるつもりか? それは許さないぞ。絶対に」

そう口にした直後、その警備兵は血飛沫を撒き散らせていた。

勇者は自分の力の無さに絶望を感じていたが光一に「大丈夫。まだ手は残っているはずだ」と励まされて気持ちを新たにして、その日から勇者と聖女は城の中に閉じこもり外に出ようとはしなかった。そんな日々が数ヶ月の間、続いた頃だった。光一は、ふと勇者の方を見ると彼を見て驚く事になる。

「勇者。どうしてお前は笑っていられるんだ?」と言うと勇者が「そう見えるかい? 僕は自分が、これから何をすべきなのか分かっている。ただ僕が何も行動を起こさなければ皆が死んでしまうのは間違いないだろう」と言って笑う。その表情を見た光一は何を言いたいのか察するのだった。「そうか、勇者。やっぱり君は死ぬつもりだったのか?」

その問いかけに対して勇者が笑顔で「ああ、そうだよ。もう、これしか僕が生き延びれる方法は残されていない」と答えたのだった。

「それで君は死ぬ事で何を得ることが出来ると思っているんだ?」

「僕は勇者だからね。多くの人の為に犠牲になる義務が有ると考えているんだ」と微笑む彼の瞳からは決意が見て取れた。そんな光一が言う。

「本当に勇者だから死んでも許されるとでも思っているの?」と言うと、その問いに答えずに勇者は言う。

「なぁ光一。君に頼みたい事が有る」と言われて、その願いを聞き入れると光一はその日は寝ずに夜遅くまで作業に没頭していたのだった。そして次の日の朝になると勇者に頼まれたものを仕上げたのだった。

勇者が魔族の王と戦う前の準備をしていると聖女の父が現れる。彼は言う。

「勇者殿。貴方の力が我々に必要なのです。どうか魔王を倒してください」

その言葉を受けて勇者が「貴方は魔王と話し合いをして、この戦争を終わらせるつもりでいるんだろ? だったら、それができるだけの条件を整えておく必要があるんじゃないのか?」と返す。それに対して魔族が言う。

「そんな事は勇者殿がするべきことではありません」

その返答に勇者が苦笑いしながら答える。

「悪いけど、俺は自分の嫁さんと一緒に旅に出てから、ずっと考えていた。このままでは魔王軍の好き勝手にされてしまうだけだ。それを阻止できるのは、おそらく俺達しかいない」

そう言い切った後に勇者は目の前の魔族に向けて宣言する。

「魔王を倒してきたなら、この国を任せてくれるのですね?」

すると魔族が答えを渋るのを見てから勇者が聖剣を取り出す。それを見かねて聖女が言う。

「お父様。私も行きます」と告げると魔王は「お前まで何を言うのだ!」と言い返して娘を止めるが、それに聖女の父親が答えた。

「姫には聖剣を扱う事が出来るように、この勇者様は鍛えられました。その力は、とても大きなものです。きっと勇者様の支えになれるはずです」と、そこまで言われると断る理由が無くなってしまい「分かった」と魔王は答えた。

「勇者よ。我が城に来てくれるな?」

「分かりました」

そうして、その日は勇者一行で食事会が行われることになったのだが、その際に聖剣の扱い方を聖女が説明を始める。聖剣の使い方の説明が終わると勇者は聖剣を眺めてから「なるほど、これが聖剣の使い道という訳ですか。これで僕の力を試しているんですね。だったら、この国を守れるかどうかを試させて貰いますね」と言った直後に聖剣を地面に置くと「光一。頼む」と一言だけ告げた。その言葉を光一は聞いてから勇者を睨みつける。すると光一の手に持っていた物が勇者に投げつけられ勇者の顔面に命中すると、そこから煙が舞い上がり始めた。

その出来事に対して聖女と、その娘である聖女は驚いていたが魔族達は呆れかえりながら言う。

「また光一様は聖剣の力を引き出すことができないようですな」

そんな魔族の声を無視してから聖女は勇者の方へ近寄る。すると勇者は鼻を抑えながら、うめき声を上げていた。それを確認すると聖女は聖剣を拾うと勇者に近づいて行く。それから聖剣を手にしてから聖剣を振り回し始めたのである。そんな彼女の様子を見ていた魔族の王は、そんな娘の姿を見て嬉しく思うが勇者は顔を真っ赤にして怒り出した。それから魔王に「何で、こうなったんだよ?」と聞くが魔王は「いや、その。なんと言えば良いのかな。まぁ、こういう事もあるよ」と答えると勇者も聖剣の使い道に付いて納得して引き下がる。その光景を目にして、どうやら、これは、いつものことなのだと認識して諦めるのだった。こうして、その日から数日間の間に勇者一行は準備を終えてから魔王城へと向かい出す。

その日の夜。勇者と聖女の二人はベッドの上で語り合っていた。そこで聖女が「勇者さん。私のことを愛していますか?」と口にしたのだった。勇者は彼女に向かって「何を言っているんだい? 当たり前じゃないか」と伝える。聖女は悲しげな表情を浮かべながら言う。

「私は、こんなにも好きなのに、どうして、あなたは何も感じてくれないの?」

「僕も、もちろん、君のことを愛しているさ」

そう言って勇者は聖女に優しく触れると聖女は涙を流し始めて、その涙の意味について、よく分かっていなかった。そして、その夜の出来事で勇者は、ある事を確信した。自分は聖剣の力で死ねないことと彼女は自分に惚れているという事にである。それから聖女と夜を明かした。

勇者達が出発して、しばらくした頃に聖女の元に一人の少女が訪れた。彼女は言う。

「聖女様には私が仕える主人が会いに来て欲しいと伝えて欲しいと頼まれたのですが、よろしいでしょうか?」と言うので聖女が答える。

「いいわ。貴方の名前は何というの?」と少女が名乗ると聖女が驚く。その様子に気付いた勇者が「何か有ったのかい?」と聖女に質問すると聖女が言う。

「彼女が、この城に来る途中で助けられた時に彼女が身に付けていた装飾品を見て気になっていたのですが、まさか彼女が王女だったなんて思いもしませんでした」

そう言うと聖女は「少し席を離れさせてください」と勇者にお願いする。勇者は了承した後に彼女に言う。「どうしたんだい?」

「あの子に用事が有りまして」と彼女が言うと勇者は黙って見守ることにする。すると勇者の妻が「行ってあげなさい」と言ってきたので勇者は、その通りにする。

勇者と聖女の二人で城内を探していると少女の姿を発見した。勇者が「やっと見つけたよ」と口にするが、その表情を見ただけで少女は自分が歓迎されていないのが、すぐに分かった。

「私に、どんな御用が、おありなのですか?」と恐る恐る少女が尋ねると聖女が笑顔で言う。

「別に貴女に危害を加えるような事は、しませんよ」

それから勇者は本題に移る。「単刀直入に聞こう。君の正体は何者だ?」と勇者が質問を行うと少女が答える。

「それは貴様らの想像にお任せしよう。だが、この世界が、もう終わりなのは、はっきりと言えよう」と言うと、その答えを聞いた瞬間に勇者が少女に対して「どういう意味なんだ?」と質問をする。

「それは言葉通りの意味でしか無いぞ。もう間もなく魔族は全滅してしまうであろう。それも勇者の力によって」

そう言い切った後に少女は、その力を手に入れるための儀式を執り行おうとする。それを見ていた勇者が言う。

「止めろ! どうして魔族を裏切るような事を考えるんだ? そんなに死にたいのか?」

その問いに対して聖女は勇者に対して何も言わずに「勇者さん。私は魔族を裏切ります」と告げた後に聖剣を抜き放つ。それを見た魔族の娘が「お母さま。何の真似ですか?」と問いただしてくるが聖女は、その言葉を切り捨てた。

「魔王は魔族の王として存在する事は、もはや許されないのです」

聖女は剣を構える。それに対して勇者は剣を構えた。すると魔王が二人の前に姿を現すと魔王は聖剣を見つめて言う。

「聖剣が魔王を倒すのではなく、魔王を消すための物になってしまったようだな」と呟いた。すると聖女が聖剣に魔力を送り込むと剣が輝き始める。

魔王城の玉座の間において勇者と対峙しているのは魔王であった。魔王は自分の目の前にいる青年が聖剣を持っている勇者だと知っていた。その事実に驚愕しながらも、どうやって勇者を消せば良いのだろうと考えるが答えが出せずに魔王が悩んでいるのを光一が観察していた。

そして魔王の隙を見つけたと思ったら光一は聖剣に魔力を込めて振り上げると、そのまま魔王の心臓目がけて勢い良く突き出す。その攻撃を受けて魔王が苦しそうに「何故、我を攻撃するのだ? この魔王である父に対して!」と叫ぶが光一が答える。

「この聖剣の力で俺はお前の事を消滅させる事が出来た。しかし俺の目的は、それだけじゃない」

「それが、お前の目的か? ならば教えてくれ。その目的を」

魔王の言葉を聞いてから光一は「そうだ。魔王の力を手に入れ、この国を支配して、俺は俺の国を作りたかったんだ」と答えた後に続けて「だから俺は勇者を殺した後に、お前達を滅ぼす。魔王、いや。お前の父を殺してから俺はこの国の支配者となる」と宣言すると、それを聞いていた魔王が笑いながら言う。

「馬鹿な奴め。そんなことをして一体、何になるというのだ」

その言葉に光一は言う。

「お前を殺すことに変わりはない。その答えに偽りは、ない」

それを聞くと魔王は「この聖剣で死ぬことが、そんなに嬉しいことなのか?」と聞くが光一が即答する。

「ああ、そうさ」

それから光一は聖剣の能力を自分の体に流して身体能力を向上させた後で目の前の魔王に襲い掛かると、魔王の体は一瞬にしてバラバラになった。そして勇者は、その場から離れると次の行動に移る。それから数日の間は勇者は仲間と一緒に旅を続けた。そして魔族の本拠地に到着すると勇者は、そこに向かうのだった。そこには大勢の魔族が居たが勇者の仲間は気にせず、その中に突入すると勇者の仲間たちも一緒に魔族たちに戦いを挑むのである。

その頃には魔王が倒されていたと情報を得た人間たちが勇者が、どこにいるのかを捜そうとするが見つかることはなかったのである。そこで人間の国の王様である勇者の父親は聖剣を持つ光一に助けを求める事にする。その依頼を受けた光一は父親の元に向かい事情を説明した後、すぐに勇者がいると思われる場所へと向かい出す。

勇者の居る国に向けて出発をした勇者一行の前に立ちふさがる者たちが現れた。その正体は勇者の父親に使えている兵士と、その息子であり、その兵士達を束ねている隊長でもある人物である。そんな彼の部下たちは「我々の目的は聖剣だ。我々を邪魔するというなら容赦はしないぞ」と脅すと、それを聞いた聖女は、まずは勇者に確認する事にした。勇者が本当に魔王を倒してしまう程の実力者であるかどうかの確認をするために、まずは戦い方を見て判断をしようとしたのである。

そして戦いは始まると、すぐに結果は出た。勇者が相手の兵士を次々と倒し、その息子も倒すことに成功する。その出来事を目の当たりにした他の兵士が言う。

「こいつを勇者だと思って、このまま逃したら、我々の立場がない」

そう話す兵士たちの会話を耳にすると聖女が勇者に声をかける。

「勇者さん。彼らは勇者である貴方を捕まえるために命を賭けているのです。それでも、まだ戦うつもりなのですか?」

勇者の返答を聞き出そうとすると勇者は「もちろん、そうですよ。それに彼らを倒して聖女の力を取り戻せるのですから僕としては大歓迎ですけどね」と言うと勇者が言うように勇者の父親は自分の娘である聖女を取り戻すためだけに生きて来たのであり聖女を取り返すまでは絶対に生きるという意思を持ち続けてきた。その思いが強すぎて、ここまで執着心が強くなっている勇者に、ある質問をぶつけると勇者が答える。

「どうして君は、そんなに僕の事を信用してくれるのかな?」と質問を投げかけられた彼女は「簡単な話よ。あなたは私のために、ずっと頑張ってきてくれたじゃないの」と嬉しそうに言うと勇者は言う。

「そうかい?」と彼が聞き直すと彼女は「そうよ」とだけ答えた。それから彼女は聖女の元に駆け寄ると、その頬に触れる。それから聖女を抱き寄せると勇者が言う。

「愛している。聖女。必ず君を助けるから」

それから彼は聖女の唇に自らの唇を重ねようとしたのだが勇者が動きを止めて聖女の顔を見る。彼女の瞳から流れる涙の意味を知っている勇者は彼女が泣く理由を理解する。

聖女は魔王を目の前にすると涙を流していた。その様子を見ている魔王は何も出来ずに「何があったんだ?」と聞くが彼女が涙を拭うと答えずに「私の事は放っておいて、逃げてください」と告げる。その答えに対して勇者は質問する。

「どういう事だ?」と問いかけられた後に、彼女は答える。

「もう、これ以上は勇者の力を使わなくても大丈夫でしょう。私はもう魔王に負けています。魔王を倒した貴方なら勝てると思いますので後は、お願いします」と頭を下げると魔王に向かって聖剣を振るった。だが魔族の王を名乗る人物だけは簡単には死んでくれない。それどころか自分が殺される事を知っても尚に笑みを浮かべると「見事だ」と褒め称えた後に、その場で絶命したのであった。そして光一は、すぐに勇者の元に向かおうとしたのだが魔族が、すぐに襲いかかってきたために魔族と戦う羽目になり時間を取られた事で、その間に、またもや聖女の居場所を突き止められてしまう。その場所こそ光一の妻が住んでいた城なのである。それ故に聖女が生きていると知った魔族は彼女に再び会うために城に向かったが、その時既に魔王と化した聖女の手によって城の周辺は包囲されていて魔王が城に近付く事は許されなかったのだ。

光一達が、その場所に辿り着くと既に城は陥落していた。その光景を見た光一は自分の妻を殺された怒りと悔しさを、その胸に秘めたまま城の敷地内に入ると、そこには複数の死体が存在していた。その中には魔王の関係者だけではなく聖剣に操られていると思われる人間たちも倒れているのを確認した光一が聖剣に対して言う。

「貴様の、この世界を支配できる力は確かに魅力的かもしれないが俺には関係のないことだ」

聖剣を睨みつけながら、その言葉を発した光一が歩きだす。すると光一に対して魔族の生き残りの一人が襲いかかるが、それは光一の仲間によって妨害された。だが仲間によって攻撃された相手は既に瀕死の状態で立ち上がることも出来ないほどに体力を消耗した魔族に対して光一が告げる。

「もう楽になっていいぞ」

その言葉を受けた魔族は力尽きて地面に倒れる。その倒れた魔族を見ながら勇者が言う。

「その剣の力は危険過ぎる。それを、どうするつもりなんだ?」

その問いに対して光一は聖剣を眺めながら、こう呟く。

「俺は魔王を倒す。それが目的だった」

そう言った後に光一は走り出した。それから魔王の居る玉座の間に光一は到達すると、その玉座には魔王の姿が存在した。その姿を見て光一は驚く。その玉座に座っている人物は勇者の父親でもなく、その息子でもなかったからだ。それならば誰が玉座に座っていたのかと疑問を抱くと魔王が喋り始める。

「勇者の息子か。随分と強くなったみたいだな」

その言葉で、ようやく相手が誰なのかを光一は知ることが出来た。

それから光一と魔王は、しばらく、にらみ合いを続けると魔王が光一に話しかける。

「聖剣を手に入れたようだが、その程度で俺に勝つつもりでいるのか? その聖剣は俺よりも強いと思っているようだけど、そんな物は何の役にも立たないんだぜ」

その台詞に対して光一が「聖剣に頼らなければ魔王に敵わないと、本気で思っているのか? 馬鹿げている」と答えると、魔王が聖剣を構えてから言う。

「そうだとも。俺には聖剣が必要なんだよ。お前のような、ひ弱なお子様には、この俺を倒すことは出来ないだろう。さあ。無駄話をしてないで、さっさとかかってこいよ」

その挑発に、すぐさま光一は反応して聖剣の能力を発動させる。

「聖剣よ。我が魔力を使い、俺の敵を切り裂け」と命令すると聖剣が輝いて光の刃が出現する。それを見て魔王が「そんな小細工だけで勝てると思ってるんじゃないだろうな?」と言うと聖剣を振り上げる。

その聖剣は輝きを放つと同時に、その光が魔王に向かって飛ぶと魔王の体に突き刺さろうとした瞬間に、魔王が手を動かしてから言う。

「残念だったな。俺は、この程度じゃ倒せない。魔王だから、こんなものぐらいでは傷つかないのだよ」

そう言ってから魔王が手を動かし続けていると光一は何か違和感を感じる。その理由を考える前に勇者である彼の背後には大勢の人間が姿を見せて勇者を取り押さえようとする。

「しまった。油断した」と声を上げるが勇者の体が動くことはない。それに気付いた聖女が叫ぶ。

「早く勇者さんを連れて逃げて!」

その聖女の声に反応した仲間の一人である男が勇者を助けようとしたが他の仲間が勇者を羽交い絞めにした時に、すでに魔王の攻撃は終わっていた。魔王が聖剣を握りしめて言う。

「これで終わりだ。死ね」

だが魔王の体を貫く事に失敗した光一の聖剣は再び輝きを失い、ただの棒切れのように変化してしまった。その出来事を見た魔王が言う。

「聖剣の力が消えているだと?」

そう魔王は言い残すと聖剣の力で作られた鎧の上から自分の腕を見る。

「どうして俺の体は、そんな風に切り裂かれたんだ?」

魔王の言葉通り彼の右腕は切り落とされた状態だった。聖剣の能力を失ったはずなのに魔王に攻撃をした人物が、どうして魔王にダメージを与える事が出来たのか、その出来事に勇者の仲間たちも戸惑っていたが勇者は、その犯人の正体が誰かに気づく。魔王の腕を切断したのは聖女の持つ短剣なのだと気付いた勇者が言う。

「君は本当に凄いな。僕の、この腕も、君なら直せるかな?」

そう質問をする勇者だったが彼は意識を失っていた。その彼の元に勇者たちが近寄って確認をすると、そこには腹部に大きな傷を負った彼の姿が、そこにあった。聖女の回復魔法を使っても、こればかりは回復することは不可能であった為に聖女が「ごめんなさい」と言い続けると、その彼女の肩に魔王が触れる。

その行動は勇者に対する復讐の為ではなく、魔王が聖女に対して行った行為は彼女の心を救おうとしていたのだと言う事を、その事に気づいた聖女が魔王の顔を見ると魔王が微笑みかけて言う。

「お前のおかげで、あの男は助かった。礼を言う」

魔王にお礼を言われた聖女は涙を浮かべると聖剣の力で回復させた勇者を抱き寄せて「あなたのおかげよ」と言うと聖剣の力により聖女の怪我も治っていた。それ故に、ここで聖剣は役目を終えて消滅したのだ。

そして勇者が目覚めると、そこは聖剣に案内されて訪れた城の一室であり、そこで光一から「よく、ここまで頑張ってきた」と言われてから聖剣の所有者となった証として彼が持つ指輪を受け取る。それから聖剣の使い手になった勇者が魔王に語りかける。

「僕たちの戦いに、ここまで付き合ってくれた貴方の為に僕は戦うと決めたよ」

そう言うと魔王も彼に言う。

「これから先も俺について来れると思うなら好きにするといい」と答えた後に彼は光一が持っていた聖剣を取り上げる。それから光一が使っていた指輪を光一に手渡すと光一が質問する。

「この聖剣はどうする?」

それに対して魔王が答える。

「もう必要なくなったのなら捨ててくれ」

そう魔王は言うと勇者に向き直ってから彼が持っている指輪を眺める。その二つのアイテムが揃う事で、やっと魔王が望んでいた結果が訪れたのだと思うと、つい嬉しくなり、それに感動したせいか魔王は泣いてしまう。

その光景を目にしていた聖女の母親が、それを止める事はしなかった。

それから光一達は魔王を倒すために旅に出た。勇者の仲間である、その男の仲間の数が一人減り、その代わりに魔王の部下が二人も勇者の仲間になっていた。それは勇者の仲間になる条件を、きちんと満たしていたのだが魔王が聖剣の力を手に入れていた事で勇者と聖女の二人で、その男の仲間を倒した後で光一達と合流をする事に成功してから魔王と最終決戦を行うことになる。その時には勇者は魔族の王を名乗って魔王を名乗り聖剣を持っていたのである。その魔族の王である魔族の王と聖女の父親が戦おうとした時である。その二人が戦い始めるよりも先に魔王の側近でもある四天王の内の二人の魔族を倒した事により、ようやく勇者に魔王が負けるという展開が訪れようとしていたのであった。だが、その時に魔族の王と名乗る魔王が光一に対して言う。

「貴様だけは、絶対に許さない。勇者でありながら聖剣の力を持つ、お前を私は許すわけにはいかない」

魔王が聖剣を片手に持ちながら怒りを込めて言う。それに対して光一が、ある提案を持ちかけた。

「それならば魔王である、あんたが俺と聖剣を奪い合えばいいじゃないか」

その光一の提案に勇者は、どうすれば魔王に勝てるのかという、それを考えてしまった。確かに魔王に勝てば聖剣の力は自分だけの物となるだろう。しかし、そうなれば魔族との共存は絶望的になる。勇者が悩んでいると、その会話の内容を聞いていた勇者の母が言う。

「光一は勇者だけど魔王じゃないの。だから魔王に勝つ必要はないんじゃないかしら?」

勇者の母は息子に向かって言う。だが、そうは言われても、どうしても光一には自分が勇者である限り、それが出来なかった。その母に対して光一が言う。

「魔王を倒して平和になれば魔族と人間を共存させる事だって可能なはずだ。そのために、ここは俺にやらせてほしい」

光一の言葉に対して勇者が何か言おうとするが光一は言葉を続ける。

「この勇者の証は、あなたが持っていて欲しい」そう言って光一が差し出したのは勇者の証であり勇者の力が込められた聖剣だ。その聖剣は今まで光一と共に勇者が戦ってきた相手が所有していた武器の一つである。

「その聖剣が無ければ魔王に勝てないんじゃないのか?」と聖剣を眺めながら勇者は言った。すると聖剣を渡した本人が答えてくれる。

「魔王が本気を出すまで待ってくれ」と聖剣は勇者に言った。聖剣が言うには魔王にも勇者と同じ聖剣の力を持っているが故に聖剣の力を使うと魔力を消耗してしまうのだ。その為、しばらく休めば回復するのだと説明する。

「だから、その時に俺が勝つように祈っていてくれ」と聖剣は言う。

魔王の城には光一と勇者が、それぞれ一人っきりで滞在していた。そして魔王の方は聖剣の力を取り戻そうとして必死で行動している。その様子を魔王の城の監視カメラで確認をしながら勇者が光一に向けて言う。

「本当に上手く行くだろうか?」と言うが魔王が光一の元に訪れる気配がないのを確認した。そのため勇者が監視モニターの映像を見ながら呟くと隣にいる男が言う。

「大丈夫ですよ。きっと、あの勇者の事ですから魔王に勝てるでしょう」

その男とは魔王の手下の一人である男であった。彼の名前はマモンという男であった。彼は魔王の側近の一人として聖剣を持つ者と戦う事になるかもしれない、この日の為に用意された特別な存在である。だから魔王を確実に倒す為には勇者が聖剣を手に入れる必要があった。それ故に、この男は、ここまで来てくれた勇者に感謝をしつつ、もしも万が一の事が、あった場合に勇者を裏切っても良いと命令されていた。

しかし、その命令に反してマモンは聖剣を持った人物が現れてから今まで、その人物が本当に信用出来る存在なのかどうかを調べ続けていた。もし、それが偽物の聖剣であった場合には魔王様に聖剣を渡す訳にはいかないと思っていたのだ。その行動のせいで勇者に魔王を殺す機会を与えてしまう結果になってしまう事を彼は予想していなかったのだ。

「さあ勇者よ。早く、ここに来るんだ。お前は、あの方と互角に戦える力を手にする必要があるんだぞ」と勇者を急かすが、その勇者が現れる様子は無かった。だが、しばらくしてから勇者が現れたのを見てマモンが驚く。

「まさか。そんな馬鹿な」

勇者の姿を見たマモンが驚いた表情を浮かべる。それは、その映像に映し出されていた相手が聖剣を所持していなかった事だ。

「どういう事だ? あれは、いったい何だ?」

困惑をした顔つきになった、その瞬間に勇者が剣を抜き出して、そのまま剣を振り下ろすとマモンの首を切断して殺すと魔王の元へと向かおうと考えていたが彼の目の前に現れた女性を見て足を止めた。その人物は黒髪の女性で聖女に似ていたからだ。

「貴方は、どうして私の名前を知っていたの?」と質問されたので勇者は言う。

「君の名前は、なんとなく聞いた事がある気がしたんだ」と答える。その言葉を聞いて女性は「どうして?」と質問をするが勇者は何も言わずに聖剣の力で彼女の首を切り落とそうとしたが、その時であった。彼女の口からは血が出るどころか、その傷が瞬時に治ってしまう光景を見てしまい光一は、どう対処すれば良いのか迷ってしまった。それから聖女に似た女性が光一に対して問いかける。

「もしかしたら、君は勇者様なの?」と聖女と瓜二つの女性が、そう尋ねると光一が少し考えてから、その彼女の名前を尋ねてみると、その彼女は「私の名は聖女」と言うと続けてから「聖女と呼ばれているの」と自己紹介を行う。それを聞いた勇者が彼女に向かって話しかける。

「お前は、いったい、なんだ?」

光一は聖女の姿を見て驚きを隠せなかった。それは彼女が、あまりにも聖女の外見に酷似をしていたのだ。その光一が口にした聖女の事を耳にした聖女によく似た女性が何を言い出すのかと思ったら聖剣を渡そうとしてくるのだ。

「これを使えば貴方が聖剣を使えるようになるよ」

そう言うと彼女は光一に手を差し伸べた。それから、どのように聖剣を手にしたかの説明を聖剣がしてくれたが正直、今の光一には興味が無かった。それよりも彼は聖剣を手に入れた事で魔王が持っているであろう、ある道具を手に入れたいと考えた。だから彼は聖剣に頼む。

「魔王のいる場所に、俺を案内してくれ」と頼み込む。すると聖剣の所持者である勇者の身体の中に入り込み、そこで彼が勇者に言う。

「俺は今から、あいつを倒す。そして、お前が魔族を纏めてくれないか?」

光一が魔族の王に頼んだ事は魔王の持っている能力を奪う為だ。それに加えて光一には考えがあった。魔族の王ならば魔族の王に相応しい能力を持つ筈だ。だからこそ魔王を倒す事で、その能力を勇者の体内に取り込みたいと、そういう思惑だった。その話を聞いていた勇者は「魔族の王は魔王じゃないんだよ」と言うと魔族の王の元に向かう事にした。

勇者が、その男の仲間達を倒せたのは魔王が仲間達の人数を減らしたせいでもあったが勇者が手に入れていた聖剣の力によって相手の力が、ある程度は低下していたためでもある。そのため勇者の仲間である、その男は魔王の力に対抗出来ずに敗北する。

その男が倒された時、勇者の仲間達の中には回復魔法が使えた者がいるが魔族の王である魔族の前では、あまり役に立たない。だから勇者が、その男に対して「お前が死ねば他の仲間達は、すぐに殺されるだろう」と言って魔族の王の所に連れて行ったのだ。それから勇者は自分の仲間達が、どのような目に遭うのかを確認しようとしたが聖剣の力では魔族の王の心を読む事は不可能であった。その為に魔王の心を読もうとするのを諦めて勇者は、その魔王の城へと向かう事を決めた。そして彼は魔王の城の近くにある山を登って行くのだが途中で聖女の父親が倒れている姿を発見してしまう。

その男の様子を見た光一が彼に近づいてから声をかける。

「おい、あんた大丈夫なのか?」

すると聖剣の持ち主が答えてくれる。

「問題無い。それより俺を魔王の城に運んでくれないか?」

聖剣が喋り出す。だが、その光一が目にしたのは自分の母親の姿で聖剣を持っている相手に対して文句を口にしていた。

「なんで貴方が魔王城なんかに来るの?」とその母親が言うと聖剣を所持する男は、それについて理由を説明してくれる。彼は魔族側の協力者である事を、ここで告げるが、それは魔王が聖剣の力を宿して復活する時に邪魔な存在を始末する為に用意した人間でしかなかった。その事を母親に説明する。だから魔族側に付く必要があると言うのだ。それを聞いていた勇者は母の言葉に対して何も言わないのを確認すると勇者が母に向けて言う。

「魔王は、この世界で一番最初に生み出された生物らしい。そして、こいつは俺に言ったんだ。俺には特別な才能があると、その力で全ての生物に恐怖を与える存在になれると、そしたら魔王の奴は、もっと凄くなると」と説明を行うのだが、それを聞き流した母親が聖剣の所有者の男に質問をしようとするが、それを勇者が止めた。なぜなら、その勇者の脳裏に一つの記憶が蘇ったからだ。

「待ってくれ。その話を聞く限りだと、まるで魔王は自分こそが本物の魔王だと思い込んでいるように思えるが」と光一が呟くと聖剣が答える。

「ああ。魔王は勘違いをしている。自分が本物だってな。そして、その間違いに気がついて絶望する。それが見たい」と言うと勇者の身体に入り込んだ状態で「早く、その男を助けて魔王の所に連れていくんだ」と指示を出すと勇者は言う通りに行動を始めた。その途中で出会った相手に対しては「俺には時間が無いんだ。すまない」と謝罪してから通り過ぎてしまう。それから、その男は意識を失ってしまったので光一は背負う形で彼を運んでいた。そんな時に光一の前に聖剣の使い手が現われる。

「魔王の居る場所は、あっちの方角だ」

そう言うと勇者に道を指し示し姿を消した。その後、魔王と勇者との戦いが始まり聖剣の力を使った戦いが始まった。聖剣の所持者同士の戦いになると思っていたが実際に魔王と勇者の戦いで発生した被害を考えると聖剣を持った者同士が戦っても周囲に影響が大きいと判断したため、そうならないように聖剣の使い手が魔王に助言を行う。その提案を受け入れた結果、この場における聖剣を持つ二人の勝負が決まった。そして勝者が決まると聖剣の能力が発動されて、その所有者の願いを一つだけ叶えると言葉を残した後に聖剣が光一の手元から離れていくと彼の身体の中に入って消え去った。

聖剣を魔王に奪われないように光一は聖剣を回収をしようとしたが上手くいかない。その隙に魔王が光一から距離を取りながら聖剣を手にすると光一に襲いかかってきたのだ。それを見て聖剣を持つ男は「やばいぞ。聖剣を奪われた!」と言い残しその場を離れた。

その聖剣の使い手と入れ替わるようにして勇者が現れた。

勇者が姿を現すと同時に魔王は攻撃を開始した。聖剣と勇者が持つ武器が衝突すると大きな衝撃波が発生する。勇者は力押しでは魔王には勝てないので「はっ!!」と、気合いを入れて魔王に対して聖剣を振るうと勇者は魔王の動きを止める事にした。しかし、それさえも許さなかったのか、それとも最初から分かっていての行動なのか魔王が口を開いた。

「ふむ、なかなか良い一撃を放つな。しかし、それで私には勝てない」と魔王は聖剣を使って勇者の体を切り裂こうとする。だが聖剣の力は聖剣に選ばれた勇者しか使えないのだ。だから聖剣の力を使っているにも関わらず魔王が扱う事が可能な聖剣に光一が反応して彼の動きを止めてから、そのまま光一が蹴り飛ばして聖剣を奪った。

「お前の聖剣を返してもらうぜ」

魔王は勇者に聖剣を渡してしまった。その事実を光一から知らされた、その勇者の仲間達は魔王の城から逃げ出そうとした。

「お、お前のせいで魔王に負けたんだ。責任を取れ」

その仲間の言葉を、そう言い残すと勇者達は逃げ出した。それを確認した魔王が勇者に対して言う。

「お前も、そろそろ、その肉体を捨てたらどうだ?」

その魔王の言葉に対して光一が「それは、お前の本心か?」と問いかけた。その問いを聞いた勇者の体が一瞬にして消滅した。それから勇者の体に魔王が憑依したのを目にした魔の女神が、そこで聖剣の勇者と聖女の父親を連れて現れた。彼は既に命を失いかけており虫の息だったのだ。その男性を助けるために光一は、その男性の傷口に聖剣の刃先を当てる。それから男性は意識を取り戻したが聖剣が発する光が眩しく感じたのか目を閉じたまま「何があったのかを教えてくれないか? それと君の名前を知りたい」と言うと光一が言う。

「貴方は、なぜ、こんな危険な場所に来たんだ」

光一の言葉を聞いてから勇者は自分の目的を語り始める。その目的は魔王を殺す事では無く聖剣を消滅させる為に彼は聖剣の所持者になるべく旅を続けていたのだ。そして勇者は魔王が封印されていた場所を見つけて、そこに魔王が存在していると聞いて彼は一人で魔王に会いに行ったのだ。そして彼は自分の体の中に入り込んでから魔の王に戦いを挑んだのだが魔の王が勇者に「お前は誰なんだ?」と言うが魔の王は答えなかった。

その会話の中で光一が魔の王に聖剣を使う事で魔の王に対抗する事が出来た。だから魔の王は、それを真似しようとしたのか聖剣の能力を使えるようになっていた。魔の王が聖剣を手に入れた場合、それを手に入れる為の方法とは光一が魔王を自分の中に閉じ込めた方法であり、それによって魔族は人間に対して優位に立ち、聖剣を奪う事に成功をする。だが、その聖剣を扱える人間は魔族側に存在しないと、そう思っていたのだろうが勇者と魔王の戦いにおいて聖剣は魔族側が勝利した。その勝利によって聖剣を手に入れた魔の王は勇者の体を奪う事に成功したので魔の王は勇者の体を手に入れた事になる。

その魔王と勇者が戦った場所は聖女の両親が殺された場所に程近い場所だった為、その場所で聖剣の力を使い魔王を葬る事が出来たと彼は言うのだ。

その説明を聞いた後で聖剣の持ち主の身体を治療していた聖女の母親が言う。

「魔族の王を倒したのならば、すぐに、この城から逃げる必要がある」と彼女は勇者の仲間の男性の怪我を回復させてから魔王城の外に出るように伝えると魔の王が言う。

「それは、どういう意味なのだ」

魔の王の問いに、その理由を説明する聖女の母親は続けて魔族の王である彼に説明をした。その説明を受けて魔の王の口から言葉が出る。

「私は魔族の王である。そして聖剣を宿す者の器でもあるのだ。聖剣が無くなれば私は魔王でなくなるだろう。つまり、それは、もう用済みだと、そう言っているのか?」

魔の王の問いに対して聖女の母は答えを口にする。

「えぇ、そうなりますね」

「分かった。もういい」

その瞬間に聖の剣は魔王の手から離れて地面に落ちた。それから聖の剣は聖の女に聖の剣は魔の王に所有権を移したが、それが魔王にとっては納得が行かなかったらしくて彼は言う。

「ふざけるな!! どうして私が魔王で無くなる必要があるんだ。それに魔王の座を奪おうとする聖剣など、あってたまるか。それこそ聖剣が聖の女に奪われたら魔王で無くなった私の生きる理由は消滅する。そうならないように早く、この城から離れる必要がある。だから私は貴様達に協力するぞ。そして魔王の座を奪い返すんだ」と声を上げる。その声に驚いた聖の使いが魔王に質問した。

「本当に良いのですか?」

その質問に対して魔王は「問題ない」と答えを返した。その返答に対して聖の女は、ここで疑問を思うと、その聖の剣について質問を行う。

聖女の母と勇者の仲間である男を連れて聖剣の所有元となった聖の城まで戻っていると魔の王が、それについて教えてくれた。

「聖剣の力は聖剣の所有者しか使用できない事は分かっていると思う。その力を得る為に私には必要な事がある。その方法が二つ存在する。一つは私の中にある聖剣が聖の女を選んだ時点で私と聖の剣の繋がりは途切れたと言っても、よい。その為に私は、もう一つの方法を取れば良かった。しかし、この方法で魔王になった所で私自身が魔王として認められる可能性は少ないのも確か。だからこそ、こうして新たな手段で魔王になった方が効率が良いと判断したのだ」と話すと聖の使いが言う。

「聖の剣が勇者以外の者を選べば勇者では無いという訳だな」

「あぁ、そういう事だ」

「それじゃ魔王に成り代わろうとしても上手くいかないのではないか?」

「そうではない」と否定してから魔王は、その理由について語ると聖剣に選ばれた者は、それ以外の能力に目覚めている事が多いと言う。だから聖の剣が所有者を選ぶ前に自分が勇者になって他の者が聖剣を持てないようにするのが、もっとも確実的な手段だと考えていたと彼は語った。そんな会話をしている最中に聖の剣を所持して魔王の城に向かっていた聖剣の使い手が姿を現す。

「ようやく魔王の城に到着したか。俺の願いは叶えてくれるんだよな」

その言葉を聞いて聖剣の使い手の言葉に対して魔王は「勿論だ」と答えた。そんなやり取りの後で聖剣の勇者は「俺が持っている剣は勇者のみが手にする事を許された伝説の聖剣だ。これを使って魔王を倒してやる」と言い残し勇者が持っていた剣が聖剣へと変化した。その様子を見て聖剣は勇者にしか使えないと言った事実を目にして魔の王が驚く。それから勇者が変化した聖剣を見て勇者が驚きの表情を浮かべた後に言う。

「俺は、お前を、ずっと待っていたんだぜ」

その言葉で聖女は、なぜ彼が勇者の姿を見て驚いていたか理解したのと同時に魔王が自分の肉体を手に入れた事に気がついたのだ。

聖剣が変化して生まれたばかりの剣を手に取った聖剣の勇者が魔に向かって斬りかかろうとするが、その行動に対して魔が言う。

「少し待て、お前は勘違いをしている」と話しかけた時に魔が動き出した。聖の王が魔の攻撃を回避する。それから聖の剣の使い方を覚えた勇者に対して「聖剣を使う事が出来るだけで満足しているようだな」と口にする。聖の王は勇者の持つ力の本質を見抜いたようで魔に問いかける。

「まさか、お前の目的が魔王の座を再び得る事だというのか?」

その言葉に魔が答えを口にする。

「その通りだ」

「しかし何故、魔王の座を取り戻す事を、それほどまでに急ぐ必要があるのだ? ただの聖剣と化した、その剣に頼らずとも魔王に成れたはずだ。なのに聖剣を聖剣に変化させた。それだけでも、かなり手間がかかるはず、そしてお前が魔王の座を得ても魔王の力は聖の剣が無ければ使う事は出来ない。そうでなければ私達が魔族を滅ぼす事も出来なかったのだから、その事実を知っているお前なら尚更、その事実が分かる筈だが、なぜ魔王の座を再度求めようと考えた?」

聖の王は、なぜ魔の王が再び魔王になる必要性が存在するのか、その疑問をぶつけた。それを受けて魔が、こう言葉を漏らす。

「それは単純な理由さ。魔王の座を手に入れなければ私は魔王では無くなるからだ。そうすれば魔族と人間が争う原因が消えるのだ。人間と魔族は共に同じ種族でありながら互いに争ってばかりだ。それは聖剣を持つ人間も同じで魔王を殺して自分が魔王になりたいと、そう思ってしまう」「それで、どうするつもりなのだ? 私を殺すのか?」

聖の女の言葉に対して魔は答えを返す事は無かった。

それから魔は聖の剣を手に入れた聖剣の勇者と、その仲間達の前から立ち去ったのだ。

「これで、この城は私の物だ」

魔の言葉に、その城の門を守る兵士達や聖剣を手に入れた者達が立ち去っていくのを眺めていた。それから魔王の城に入った光一達の元に勇者の仲間であった男性が姿を現したのだ。

「やっと戻って来られたよ」と、その男性が現れた瞬間に、その場にいる聖剣の担い手全員が彼に警戒の視線を向ける。その状況の中で聖剣を手にした男が口を開く。

「僕は、君が勇者であるとは思ってはいない」と、その発言は僕が思っていた勇者が口にするような言葉では、無かったので僕は驚いたのだが魔の王は冷静に対処を行った。「確かに聖剣を、お前は所持しているが私は魔王だからな。信用が得られないかもしれないが、それは仕方のない事だから受け入れよう。だから安心をしろ。私は人間との敵対を望んでは居ない。ただ私は魔族の国を作りたいだけなんだ」

その話を聞いた光一が魔の王に確認をする。

「その話が本当だったら、あなたと手を組んでも良いと思っている。ただし聖剣を渡してくれ。それから聖剣の器として魔の王の器を受け入れろ」

「断る。私にも、まだ死ぬ訳には行かない理由があるからな。どうしても聖剣の力を扱えるようにならないのならば諦めるがな」と、あっさり聖の女に聖剣を返してしまう。

その様子から魔王が本当に聖剣を扱えなくなるまで戦う意志が無いように感じ取れた。そして魔の言葉を耳にした勇者の男性は言った。

「僕だって魔王の器が本当に存在するかどうかも疑わしいと思っていた。それでも、あなたを倒す為に僕は旅に出た。それこそが勇者としての僕の務めだからだ」と勇者の男は、そう言って勇者が手にしていた武器を鞘に収めると魔の王が聖の女に手を差し出すと彼女の手元にある光の宝玉を受け取る。

魔の手の中に有る光の宝玉を見ながら勇者の男と魔の女は話し始める。

「私が持つ、この力は本物だ」

「どうして、それが言えるんだ?」

「私は闇の力も有しているが、同時に光の女神の力も受け継いでいるから、それを理解して欲しい」

「なるほどな。それは凄いじゃないか。それに魔王として聖剣に認められるだけの力も持ち合わせているという事は確かなのか」

「そういう事になる」

それから聖の女と魔王が会話を行っている際に聖の王は魔の王に向かって言う。

「私の名前は聖の王という者です。これからは魔王と名乗って頂いても構いません。私は貴方を信用しました。もしも、それが偽りの存在であった場合、その時は聖の王が相手となるでしょう。それまでに私の聖の力と勇者の力の両方を兼ね備える者の力が、どれ程まで通用するのか楽しみにしています。私は勇者の力を持っていますが貴方が魔王で在る事を認めましょう」と話す。

それを聞いた魔王は「あぁ、そうだな」と答えた。それから聖の女が魔に対して質問を行う。

「この城に住むつもりなのか?」と尋ねると魔王が答える。

「そうさせてもらうつもりだ」と、そんな話をしてから聖の王が聖の剣の力について、どう考えているのか質問を行う。

「聖剣が聖の女を、勇者の剣へと変えたが聖の剣には意思が存在している。だから私が他の人間に魔王の位を奪われると判断すると他の人間の元に移動する」

それを聞いて僕は魔王が嘘を付いていないと感じた。その言葉は魔王にとって真実だと感じ取れる。その証拠に魔王は嘘を付けない。それは聖の剣の所有者に選ばれた時と一緒で嘘を付こうとすれば体全体に現れるからだ。だからこそ魔王は聖の王に向けて言う。

「私はお前と戦うつもりは無いが勇者が、お前を殺そうとしたら迷わず私を助けてやってくれ。私も、そうしてくれると信じている」と魔王が、そんな事を言うと聖の王は魔に言う。

「それぐらいならば問題ありません。ただし聖剣は勇者にしか扱えない。それを覚えておいてください」

その言葉で魔王が納得したような顔をしてから「ありがとう」と言うと魔王の表情が変化する。それから、そのまま自分の部屋に戻ろうとするのだが、ふと思い出して魔に質問する。「一つ聞きたい事がある。お前の目的は、どこで、どのようにして手に入れたんだ」

魔王の言葉に対して魔が答えた「それに関しては分からない。いつの間にか、そうなっていた。しかし、あの時は勇者になりたかったが魔王の力が、これほどまでの力を手に入れる事が出来ると考えなかった」と魔は言葉を返した。

それから魔は城に戻ると自室に籠り始める。

「魔の王が、この世界に居る。だから気をつけた方がいい。あれが魔の王でない保証など、どこにもないのだ」

魔王の配下の一人に、そんな言葉を残しながら。その言葉を耳にして、その場を離れた魔の側近が「勇者の力を手に入れても、なお勇者に成り損ねたか。所詮、奴は魔の王ではなかったのだろう」と語る。それから魔は聖剣を勇者達に預けたまま、この世界に存在する聖の王の城を魔王軍の拠点として使用する事を決めたのであった。

それから数日が経過して聖の王達は、いつも通りに魔王が座している部屋に向かって聖の王達が現れると魔の王が言う。

「勇者よ。よく戻ってきた。そして勇者の仲間の皆様も無事に辿り着く事が出来たようですね」と勇者に対して、そんな言葉を投げかける。その言葉を受けた勇者が、どういった態度で対応すべきか悩む。なぜなら勇者の仲間の男性が「魔王の配下に聖剣を盗まれた勇者が戻ってくるとは思っていなかった」と発言を行ってしまった。

その発言は、この場の雰囲気を悪化させただけで何の解決にもならなかった。その言葉が魔王に聞こえていない筈も無く、その場で起こった争いを止める事も出来ずに戦いが起こってしまう。

それから勇者達が魔を相手にするのだが力の差があるために、ほとんど何も出来ないままに聖の王が、どうにか出来ないか考えると魔王と戦っている最中に、なぜか突然に魔王の攻撃が止まり、その隙を狙って聖の王が魔王を攻撃した。

その結果として魔の肉体は崩壊していく。

「何故、私の身体が崩れ落ちる?」

魔は自分自身に、そのような事を尋ねてきたので聖の王は答える。

「お前が持っている聖剣が、その力を発揮したのではないのか?」と口にした瞬間に魔王が聖剣を奪い取る。「なっ!?」

その様子に聖の王が驚きの声を上げると聖の王は叫ぶ。

「それは聖剣だぞ! それを使って何をするつもりだ?」と声を出すが魔王が「これは貰って行く」と言って姿を消す。そして聖の王達の前に魔王の姿が現れた時に「聖剣の力で復活を早めた」と口にした魔王が手に持った聖剣を掲げて魔王が「魔王の力、今一度、ここに」と口にすると聖剣の柄を魔王の手が握りしめる。

その行為と同時に聖の王が勇者の力を宿したまま魔王に問いかける。

「聖の王の力を、どうするつもりだ?」と、問いかけに対して魔は笑う。

「さっき、私の体は崩れ落ちた。つまり私の器は魔の王ではなく聖剣の方だったのだ。聖剣を手に入れた以上、魔王の座は私の物に他ならない」

それから魔王が勇者から奪った力を、その身に宿す。

聖の剣を手にした魔王が光を放ち始め、それを見た聖の王の側に居た魔が聖の王に、こんな言葉を残す。

「魔王を倒さなければ貴方の命はない」と告げてから魔王の傍を離れる。その光景を見て聖の王が魔王を討伐するしかないと判断した。それこそが自分が出来る唯一の行動だと確信していた。だが問題は魔の存在だった。

魔は勇者である男に「お前を殺す」と言い放ち襲い掛かる。そして勇者に魔の拳を叩き込む。

それから勇者の胸ぐらを掴み持ち上げると「魔王様に聖の王の居場所を教えろ」と告げる。それに対して勇者は言う。

「お前の質問に、俺は素直に答えよう」

「では、教えてくれるのか?」

「それは駄目だ。それは、できない。俺にだって守りたい物は、あるからな」と、その言葉を聞いて魔は「ならば仕方がないな」と答えると魔は、いきなり手にした武器で勇者を殺してしまう。そして魔の体が変化を始めると魔は、そのまま聖剣の鞘を手にして聖の王の前に現れると「私は貴方が、とても憎いです」と口にして剣を振り上げると魔王に、その姿を変える。その様子を見届けた光一は言う。

「貴方は魔の王なのか? それとも魔王だったのか?」と、その言葉を口にしたが魔王に姿を変えた人物は聖の王に向けて聖剣を振るう。それを回避するが聖の王は剣の一撃によって傷を負う。

聖の王が受けたダメージは魔王の一撃を受ける前と比べて、さほど変わりはなかった。それを確認すると光は、この場から離脱して逃げ出そうとするが聖の女に足止めされてしまう。「逃げるなよ光。私と戦え」「どうしてだ。私は死にたくない」と、そう答えた光に聖の女が剣を構えて攻撃を仕掛けようとする。

しかし、そこに魔王の体を奪った魔が現れ「やめておけ。聖の女、貴女が剣を使えば聖の王は死ぬ」と、その言葉を受けて剣を収めた聖の女に、この場の空気が変わった事に気が付き始めた。魔王の配下が聖の王に向かって「魔王は、どこに居るんだ」と質問を行うと「私が知る訳がないだろう」と答えた。それを聞いて聖の王は魔王の居場所を問い詰める。

「魔王の居場所を、私は知らないのか」

その言葉に、その場の誰もが疑問を抱いたが聖の王が、そんな嘘を言うはずもないと思い込み、それ以上の追及はしなかった。そこで魔王の配下の者が聖の剣に話しかける。

「魔王様から聖の女の相手を、してやるように指示された。私は、その役目を果たしただけだ。それに私は魔王様に命じられた。勇者の力は奪わなければならない」と言った後に魔王の配下は剣を構えたまま、じっとしているだけになるのだが魔の側近の男性が「魔に体を乗っ取られた聖の女が魔を殺そうとする」と考えて、その場から離れようとした。しかし、その時になって、ようやく魔王の配下の者に変化が訪れた。

魔王の姿を真似た魔の存在が、いきなり苦しみ出したのだ。それを確認した光の女性が魔の配下に近づくと魔の肩に軽く触れるが特に反応は起きない。それなのに魔が苦しんでいる姿だけは変わる事が無かったのだ。

「やはり何かが起きたんだ」と呟く光の女性は魔王城の最上階にある部屋の中に入ると、そこには一人の少女が存在していた。その容姿を見た光は驚く。

「な、何だ、この子は」と口にすると、そっと近づいた光が、すぐにでも殺せる状況だという事を悟ったが殺す事は出来なかった。その理由として目の前の少女が魔の配下の男性と同じぐらいの年齢に見える。そして何より顔が似ている。まるで姉妹か双子ではないかと思うぐらいに似ていると、そのように考えたのだ。

「あ、あの、ここはどこでしょうか」と少女が喋ったので光も返事を行う。

「ここかい。ここは魔王城だよ」

そう答えると魔の娘は「私、迷子になったんです。だから家に帰りたい」と語るのだが、この場で魔の娘である事が分かっていた為に光は困り果てた表情を見せると魔の子も困っている様子を見せていると「あの」と言う声が響き渡ってきた。

「誰ですか?」

聖の騎士に変身している男が答える「聖騎士の光だ」と言うと彼女は安心した様子を見せた後、こう語った。「この部屋には鍵が掛かっているみたいだから助けて欲しいのですけど」と言う彼女の願いを聞き入れる事にする光は扉を開けると聖の女に「彼女を連れて行きなさい」と言う指示を出す。それに従って聖の女が動き出す前に魔の子が聖に近づきながら聖の服の裾を掴んで引っ張る。その行動に対して「えっ!?」と言う声を漏らして聖の女王は自分の行動に疑問を抱き始める。

どうして魔の子と会話を交わそうと行動したのか分からなかったのだ。そんな風に悩む聖の女王に魔の子が声をかけて「私の事を、ご存知ではないのですか?」と語りかけて来たので聖の女王は慌ててしまう。そして「すみません。どこかで、お会いしましたっけ?」と、そのように問いかけた。それに対して魔の子は「私は勇者の力を手に入れた魔の一族の姫なんですが」と告げた。それを耳にした聖の女王は驚いて「魔の一族が、この世界に存在していたのですか」と口にした。

その言葉を聞いて魔の子が言う。

「そうなんですよ」

それから魔の子に導かれるようにして聖の女と聖の女が引き連れている者達が魔王の身体を奪ってしまったと思われる魔の元に辿り着く。

「それで、どういうつもりなのか説明して欲しいものだ」

魔王の身体を奪い返してから聖の王は魔を睨みつけるが、その態度は気に食わなかったらしく魔王は「聖剣で身体を乗っ取るのに失敗したがな」と吐き捨てるように言った。だが聖の王は魔王の言葉など聞いていなかった。何故なら魔王が手に入れようとしている物が理解できなかったからだ。その代りに聖の王が口にしたのは魔の存在に対する疑問だった。

「その体は、どうした?」

「聖の王は、これが気になっているのか?」

「当たり前だ。その身体には私の力が宿っていたはずだ」

聖の王の発言は正しいはずだった。魔王の持つ肉体は闇を宿す聖剣が力を与えていたので、それだけが聖の王に力を与える唯一の方法だった。そして勇者が所持していた聖剣にも聖の王の力が残っている。だが、それでも魔王が魔王としての力を、ほとんど失った状態で復活する事に成功した事実を知ると驚きを隠せない。その様子から魔王が笑う。「聖剣の力で復活しただけだ」

そう口にすると魔は、そのまま自分の意思で動いていた。それどころか自分の手で魔の剣を握ると剣の力で聖剣を破壊するという離れ業を披露する。それによって聖は破壊された上に闇の魔力まで奪われてしまい、その結果として何も出来なくなってしまった事に気が付き絶望の声を上げる。その声に対して魔王は笑いながら「貴様達は邪魔だ。消えろ」と口にする。

その言葉と共に魔王は光の女に視線を向けると同時に剣を振り下ろして光の意識を奪うと同時に聖の王の首を切断してしまう。それから魔王が聖剣を手にした時に聖剣は悲鳴を上げるが聖の王は死んでおり魔王の魂も聖の王の肉体から抜け出ていたために魔王に聖の王の魂が吸収される事がなかったのが唯一の救いと言えるかもしれない。だが魔族である存在にとって魂とは毒のようなものであり聖の王が魔の魂を受け入れてしまった時点で魔の呪いは発動していた。そのため聖は魔王に取り込まれて、その存在は魔王へと変貌を果たす。

「この姿になるのは久しぶりだな」と、そう口にしながら魔の存在は剣を手にして、その場に存在する全ての人間を殺そうとしたのだが、そこに聖の騎士である女性が魔に戦いを挑んだために魔王の剣が聖の騎士の体に傷跡を作ると聖の騎士の鎧を切り裂いて女性の体が血を流すと、その女性は「これで満足したのか」と言って魔王の顔を殴る。それを見た魔王は笑みを浮かべると剣を構えて女性に斬りかかったが剣の攻撃は女性を庇った聖の剣に阻まれた為に魔王は舌打ちを行うと魔王が剣を振り上げた瞬間、それを見た魔の存在が「駄目」という言葉を口にするが間に合わずに聖の女は絶命してしまう。

それを見た魔は「なんて事をするんだよ。私は母上を殺したくないのに、貴方のせいで殺しちゃったじゃないか」と文句を言うと聖は答える。

「それでは魔王よ。お前は私を殺すのを止めてくれるのかい?」

それを聞いた魔が魔王に向かって「それは、まだ駄目」と答えてから聖に向けて「魔王の力を手に入れて貴方を殺してみせるから待っててね」と告げると魔王城から姿を消した。それを見て魔王も自分の配下を引き連れて城を離れる事を決める。それから勇者の聖と聖の騎士であった女が命を失う直前に「聖と騎士が魔王の手によって死ぬ事になった。勇者の力を失った人間が魔王に勝つ事は、まず出来ない」と語ると、それに続けて「だから、どうか勇者の子孫が、この場に現れないように」と言い残す。

聖の王が自分の息子や娘の事を思いながらも、その言葉を言い終えた直後に二人は死亡する。その言葉を聖は聞いた後に二人の死体を魔法で焼却するのだった。

魔の王と聖の魔王の二人が行動を共にするようになった頃、その頃に光と魔王の娘は一緒に暮らしていた。そして彼女は聖の女と一緒に暮らす事になる。魔王が二人に対して言う。

「光。聖の魔王の力を得た娘に勇者の力を与えたまえ」

「魔王の力を与えられた私達の娘か」

光は魔の力を受け継いだ魔王の娘に光の力を与えられる事を不安視したが、それよりも、もっと大切な問題が存在している。光は自分が勇者だと証明する為の力を持っていない。だから魔王は光に聖の剣を与える。

魔王から与えられた聖の剣を手にした光が魔王に言う。

「魔王の力と聖の力が混ざり合っているが、本当に、これを、あの魔の子に与えても大丈夫なのだろうか?」

「その辺りについては安心していい。既に聖の女を取り込み魔の女に渡してある」

「聖の女は魔族の器になるつもりなのですか?」

それを聞いて魔は微笑み「聖の王は魔を滅する存在だからな。それに相応しい肉体を用意しなければならない。聖の女に、それを、やって貰った」と口にしたのだ。それを聞いて光が口にしたのは疑問だった。

「しかし魔王。貴方と魔の者が争わないで、このまま世界を支配した方が楽だろう」

それに対して魔は「その考えには同感だが、それは、こちらの都合で、あの魔には関係がない話だ」と答えたのだ。そして、その後に魔の者について話をしていると、ある男が部屋の中に入ってくると魔の存在を見ながら魔の男に声をかける。

「おひさしぶりです」

「おぉ。久しいではないか。どうした」

魔は自分を訪ねてきた男の姿を見ても、それが誰であるか、すぐに理解できない。その反応は当然と言えば当然の事だった。その男が着ていた服は人間の国にある聖の王国と呼ばれる国の正装に近い服を着込んでいたからだ。魔の存在も聖の騎士から情報を聞いているために見覚えがある服だった。だからこそ、その男が自分の前に姿を現した理由を尋ねようとしたが魔が口を開くより早くに男は自分の方から自己紹介を始めた。

「僕は聖の国の騎士。貴方と話がしたいと思い訪ねました」

そのように語った後、男は「僕の顔を覚えていますよね」と尋ねる。

魔はその質問を受けて、その言葉通りの意味で「顔見知り程度の相手だな」と答えると「僕は、そうでもないのですけどね」と言って笑みを浮かべた。

それを聞いて魔が不思議そうにしているので魔の存在に近づいて話しかける聖の王の言葉を聞くように伝える。

魔の存在に対して聖の王は語りかける「君は、どうして魔王を名乗っているんだい?」

魔の存在は自分の名前が呼ばれた事に驚いて「どうして、その名前を、ご存知で?」と言う。

それに対して聖は答える。

「勇者が知っているぐらいだよ。君だって知っているはずさ」

魔の存在に勇者の名前を伝える。その行為に魔の存在の瞳が揺れ動く。その事実に対して魔は「どうして勇者の名前を貴方は知っているのですか?」と、そのように語ると「聖剣を持っている勇者の名前は誰でも知っている」と、そのように答えた。その返事を耳にして魔の存在が何かを考え込んでいるような表情を見せたので、そのタイミングで聖の女が姿を見せて魔王に向けて声をかける。

その声で魔の王が我に返ると、そのまま自分の隣で座っている聖の存在を視界に捉えて言う。

「これは、また珍しいな」

「そうですね」

そのやり取りを聞いて魔の存在が魔王に対して「聖の女を知っているのですか?」と、そのように問いかけた。それを聞いて魔王が「昔にな」と口にした後に、その言葉の意味を魔に伝えるために魔は言葉を選びながら、それを魔王に教えようとするが言葉が出てこず。魔王の目の前まで歩み寄ると魔は、その手を握り締めて「魔王様は凄い」と言った。

その言葉に対して魔王が笑う。その言葉を口にした魔の姿が子供だったからだ。そんな子供の姿を目にした魔の王は「大きくなったな」と言う。

その言葉を聞いた瞬間に聖の王が「知り合いなのか?」と、そのように呟いたのと同時に、その声は響いていた。

「私は魔王様の部下の一人」

そう口にすると魔の存在に視線が集まる。だが、それだけでは意味不明だと判断した魔王は、その場で立ち上がる。その光景を見た聖の騎士は魔王の行動に目を奪われてしまう。それは、その行動を見ていた人間も、同じで魔族である聖の魔王でさえ動きを止める程だった。聖の王だけは、ただ呆然と魔王の動きに意識を奪われていたが「どういう意味で、その言葉を口にした」と尋ねた。

魔の存在は自分の正体を口にしようとしたが言葉に出来なかった。それは魔王が自分の事を聖の女と間違えられた事を不快に感じており、これ以上に聖の存在が増えるのは不都合であると口にしていたが、それ以上に聖の王が自分の存在を知った事が衝撃的過ぎて、それ以外には何も考えられなかったのだ。それでも魔王に、この状況を説明する為に「私の配下だ」と言い直してから聖の王に向けて、ある事を伝えようと試みて魔の王が口にするのは、この言葉だった。

「魔王は魔の王の力を得ている。だけど魔王の称号は一つしか手にする事が出来ない。私達の仲間に魔王がいる事は間違いのない真実」

それを聞いた聖の王は魔の存在の言葉が正しいと、それを理解し「なるほど」と言って納得を示した。

聖の王と魔の王が出会った日の出来事から少し時間は遡り、それから聖の女が光の王に「私達の娘である、この魔の王に勇者の力を与えて欲しい」と語る。そして光と聖の王は相談を行う。光は勇者としての力を失っているが、その光から力を授かった娘ならば勇者になる素質を有しているかもしれないという期待を抱いたのだ。その言葉を受けた光は悩むのだが、そこで聖の女が、ある提案を行った。その言葉は魔の王である娘に闇の力を与えて勇者に育て上げてから光の力を与えるべきだと口にするのだ。それを受けて光も同意して聖の女は魔の存在に向けて言う。

「私は貴方の味方」

聖の王の傍にいる光の女の存在を見た魔は、その存在が聖の女王だと理解して驚く。聖の魔王が、それを理解するのも無理はなかった。魔が魔王の地位を継いだ時には既に、この世に存在していない筈の魔王だったからだ。その魔の反応を見逃さなかった聖の女は「魔王の娘は勇者になれないのかい?」と、そのような言葉を魔の者に対して口にするが、それに対して魔が、それを否定しようかと迷うが、しかし、それを否定したとしても、この聖の王国に存在する聖の民が黙っていないだろうと予想して諦める。それを見てから光の女は「勇者は一人だけだ。魔王の座は、この聖の王に任せればいい」と言う。

「それじゃ私が魔の者に、その役目を押し付けている事になるのではないか」

「それなら、どうするつもりなんだ?」

それを聞いた魔は、しばらく考える仕草を見せながらも聖の王に、その質問に対して「貴方に質問をしても良いでしょうか?」と告げる。その言葉に対して聖の王が許可を出すと魔の者は、このような質問を口走ったのだ。

「聖の女よ。魔王の座を魔王に譲る気はないのか?」

それを聞いた光が魔の女に言う。

「何を考えている」

光の言葉に対して魔は「もしも聖の王が魔の存在を認めないのであれば」と言葉を繋げる。それに対して光は「その場合は仕方がないと思う。魔の存在を、このまま放置する事も出来るが、やはり私の娘でもあるのだから。何とかするべきだと思うが」と答えた後に「聖の王国は魔の存在を認める事が可能なのだろうか?」と考える。

それに対して聖の女が「私達の娘なのだから」と答えたのを聞いて光も「そうだな」と答えてから魔の存在を見つめる。光は魔の存在が本当に魔王になれるだけの器を持つ存在であるのかどうかを確認する必要があると考え、これから自分が魔の王国に足を運ぼうと考えたのだ。それを理解している魔の存在に対して聖の女は、こう言った。

「魔王は魔の王として生きなければならない。それが、お前の定めであり。使命でもある。それが出来ない場合は死を受け入れるしかない。それが運命だと思うんだね」

「分かりました」

魔の王は覚悟を決めたような表情を見せると、すぐに魔王の城に戻り、その事を魔の存在に伝える。それを聞いた魔王は魔の存在を連れて聖の国へ向かう準備を始めたのだ。だが、その時に魔王は聖の存在に尋ねてみる。

「もし魔の存在に魔王を継がせる事が出来たとしても魔の存在に聖属性の魔力を与えられる人間が、いるとは思えないが」

それに対して聖の存在に質問をされた。その言葉を受けて魔王は答える。

「その辺りに関しては問題がない。聖の王国は闇の女神を信仰している。だからこそ闇の力が聖の力を打ち消す事は、もう理解できているはずだ。その理解がある上で勇者の聖剣を手に入れる事で魔の存在が聖の力を持つ事が出来る」

その話を聞いて魔の存在は魔王に言う。

「でも、あの勇者は私を殺そうとして戦いを挑んできたのに助けるつもりなのですか」

「勇者も人の子さ。親に裏切られた子供が魔王を憎む。それが普通だよ」

「魔王様も?」

その言葉を受けて魔王が笑い出す。

「あぁ、勿論だ」

その魔王の言葉を聞いて魔は微笑み、その言葉を受けて魔王は満足そうに笑みを浮かべていた。

魔が聖の存在と初めて顔を合わせた日から時は経ち、魔王と魔の二人が共に旅を始める。そして二人の間には会話が存在していて魔は魔の存在に対して、こんな質問をする。それは、なぜ魔は聖の存在と一緒に居なかったのか、その事を質問すると、その問いに魔は、このように答えてくれた。「私は魔の王に命を救われたが魔の存在に成り下がる事に躊躇をしていた。魔の王に対して忠誠の誓いを立てた身としては簡単に裏切る事は出来なくなった。その葛藤の末に私は魔王に対して「私は魔王様に忠義の限りを尽くします」と告げたら「そうして貰おう」と返事をしただけで何も言わなかったから」と言う。それに対して魔王は「それで、お前は私に仕える事が不満なのか?」と言う。その言葉に対して魔の存在は「とんでもない。魔の王に仕えられるなんて身に余るほど嬉しいですよ」と口にすると続けて「ですけど魔王様は魔王として存在する。私も、その力を受け継ぎたいと願っている」と語った。それを聞いた魔王は、このような事を呟く。

「そう言ってくれるのは嬉しいな」

その魔王の一言を聞き魔の存在の瞳が大きく揺らぎ始めると、そのまま自分の手を握ってくれた魔王に抱きつく。その瞬間に魔王が言う。

「そんな風にされると困ってしまうぞ」

魔王は嬉しそうな声色で呟いたのだが、それを受けて魔が言う。

「ごめんなさい。つい嬉しくて、やってしまいました」

魔王に対して魔は頭を下げながら謝った。

「私こそ、ごめん」

それを受けて魔王が笑うと、それを見た魔の存在も微笑んで見せた。そして二人は一緒に聖の存在がいる場所にまで辿り着くと、そこで二人の魔の存在に出会う事になる。

「久しぶりだね。元気だった?」

光の存在に声を掛けられた聖の女は「おかげさまで元気だ。そっちは何か変化があったか?」と尋ねると、それに答えるように光は言う。

「勇者として覚醒できた。聖の力を受け継いだ」と口にした。その事実を知った光の女は驚きの言葉を口にして、それから光の王の姿を見て、ある事を察するのだが「貴方の相手は、こいつだろ?」と言い出してから魔の王の前に移動すると、それを受けて魔の王が驚いたように口を開いた。

「この人は誰ですか」

それを聞いた光が「勇者の傍にいた女だよ。聖の女と呼ばれていた者だね」と言い終えると、その話を聞いていた光の王が聖の女に向かって、このような言葉を放つのだ。

「貴方には悪いが魔王の座を魔の存在に譲れと言われても無理なんだ。魔王が魔王になる前に他の魔王が存在したという事実を知っている人間がいる訳だし、その魔王の存在を私達が隠してきた事は事実なんだよね。今となっては他の魔王が存在していたという事を隠しきれない状況になっているんだよ」と語る。光の言葉に反応するように魔の存在が自分の意思を語ると魔王に対して魔王の座を受け継ぐ気はあるのか? と質問を投げかけた。

「私は魔の王の座を継ぐ。だけど私は聖の存在から闇を授かる。それが私の願いだ」

その言葉を耳にして魔の王は心から安心できる気分になり、それと同時に魔は「魔王として生きて行けば、その道の先に闇の存在に、なり果てる未来が待っている」と言うのだが、それでも魔王は自分の生きる目的を語ろうとする。それを見た聖の女が、このような提案を行うのだ。「聖の存在から闇を授かって欲しい」と言うと、その言葉を魔王は受け入れて闇の力を得たのだ。その結果として闇の力を手に入れた事で魔王の存在に大きな変化が訪れる。まず闇の王としての力が解放された事により闇の力に呑み込まれるような事は無く、しっかりと自分を保つことが出来るようになり「闇の力を、この手で掴んだか」と言う。闇の力を扱えるようになるのと同時に闇の王の力を完全に扱う事ができるようになって、さらに闇の存在を従わせる事も可能な状態へと変化していた。そして魔の存在は、そのような魔王の姿を眺めてから、このような言葉を発するのだ。

「闇を纏う事が可能になったようですね」

それを聞いた魔王は闇の力の解放を、その目に焼き付ける為に聖の者達から離れて暗闇の中で佇んでいた。その様子を見てから魔は聖の存在に向けて口を開く。

「これで私達の望みは叶う」

魔の者の言葉で、どのような意味が含まれているのか理解できなかった聖の存在だったが「何を言っているのかな?」と口にしようとした時、それを妨害するようにして魔が聖の王に対して言う。

「魔王が魔王として、その存在を認められるように。魔王の力と存在を認めさせたかったのだろう?」

それを聞いた聖の存在が自分の立場を理解し始めた時に魔が続けて聖の王に、こんな言葉を発した。「私が魔の王を聖の王国に引き渡そうとしたのは貴方の為だ」と言うと聖の存在も納得する表情を見せたのだ。「そういうことなのか」聖の存在を魔王が、この世に誕生させる為の準備をしてくれていた。それを知ってしまった事で、この場に魔王が聖の存在と顔を合わせた際に「私に仕えさせて下さい」と申し出たのは、そのせいなのだなと思ったのである。だが聖の存在に「ありがとう」と言われるのと同時に、このような事を言われる。

「礼を言いたい気持ちもあるが私の為に魔王を殺してしまった事に関して魔王は私を許していないのだろうな。魔王の恨みも引き受ける覚悟をしている」

それを聞いた魔の存在が魔王に向かって「もう、あんな勇者は現れない」と魔王が口にしてくれた言葉を伝えると魔王は、こう答えてくれたのだ。

「あの勇者が現れても殺す。そうすれば問題は無いよ」

その言葉を聞いた魔は微笑み。聖は安堵した。聖の女は「そうだね。これから先に現れるかもしれないけど聖の女が倒せばいいだけだよ」と答えた後に「魔王として、この世界を導いて貰いたい」と言った。それを聞いた魔が、こんな事を告げた。

「私は魔王を慕っていたんだ」と言って聖の存在の傍から離れていく。

その後、その日は解散となった。そして聖の女に案内された場所に存在する部屋で魔王と魔は聖の存在と共に夜を過ごす。その夜に二人は話を始めるのだが、それは今後の世界の動き方について話をする。魔王と聖の存在に「私達に協力してくれるか?」と言う言葉に対して、お互いに同意して「魔王は私達に何を望んでいるのか?」と口にするのだが。

その問いに対して聖の存在は答えようとする。だが、そこで魔の存在が聖の存在に対して「勇者を倒す」と言うと聖の存在は魔王に、このような言葉を掛ける。「魔の者が、そう望んでいる」と語り、それを聞いた魔が聖の存在に近寄っていくと。

「魔は魔族ではない」と言うと、それを聞いて聖の存在が「じゃあ、なんだい」と言う。それを聞いた魔の存在が「魔は魔の神の生まれ変わりだ」と告げると、それを聞いた聖の存在が「それなら神を敵に回しているな」と笑いながら言うと、それを受けてから魔王が言った。

「この世界に、どれだけ神の息吹が存在するのか」

魔王の言葉を受けてから、この世界の何処かに存在し続けている神々は、どのように感じたのだろうかと魔王と魔が、そんな会話を交わしていた。その会話が終わる頃には夜も明け始めていて聖の存在が起きると。二人が起き上がった。その様子を確認して魔王は魔に対して、こんな事を頼む。「少しの間だけでも良い。魔の存在の姿になって貰えないだろうか」と魔王は語ると、それを受けて魔が答えた。

「構わないが理由は教えてくれるのか」と言うので、それに関しては「いずれ話す」と魔王に言われて、それから暫くの間は魔王と聖の存在は行動を共にする事に決めてから二人に「私は、どうなる?」と言うと魔は答えてみせる。

「聖の存在には悪いのだが。このまま、ここに留まっていた方が安全だと思う。だから、もう少しだけ待っていて欲しい」

魔がそう言うと聖の存在は「分かった。それで構わない」と答える。

「聖の存在は、どうするつもりだ?」

それを聞いた聖が「一度、この国を離れようと思っている」と語ると、その発言を受けてから魔が言う。

「それでは、この国は私に任せて置いて欲しい」と魔は聖の者に頼んでから、その願いを聞き入れてくれた。そして魔が聖の女を連れて移動を始めたので、その様子を確認する為に魔王は闇の力を使い始めると二人の後を追うのであった。

その頃、闇の女神達は闇の神殿の玉座に集まり闇の神と話し合いを始めようとしていた。闇の女神の隣に存在している光の存在である女の存在と魔の存在が席に着き闇は「お父様は?」と質問をするが。闇の女神は答える事をしなかったのだ。

光の存在である女性が闇の女神に向けて「魔の存在が魔王として認められました。闇の王が、この世に生まれるのは間違いないでしょう」と言うのだが闇の王は、それに対して「この世界は闇の王の手に堕ちる。その準備を整えておくんだね」と答えて闇の王は光の存在を自分の娘だと思っている。だが光の女神としては、その考えを変える気は無かったのだ。なぜなら彼女は闇の力を受け継いだ聖の女から生まれた存在なので闇の女が自分の子供だと認める事が出来れば、もっと楽になるだろうと考えてしまう。しかし、そうなってしまう前に闇の王を止める必要があると考えているが今は時期が早いと判断していたのだった。その為に闇の王を止めようと動くが既に手遅れに近い状態にまでなっていたのだ。

魔王が魔王の座を手に入れる為の準備を行っている間に闇の力が魔を呼び寄せているのを感じた魔王は「魔の存在には闇の存在が必要なんだろうな」と考えるようになった時に魔の存在を呼び戻した時に闇の存在が魔王の力を受け入れる事が出来る身体になった事実を知り「魔の存在に力を与える」と言い出した時に、その話を耳にしていた魔の存在が「その役目を魔王に委ねる」と告げてから闇の王に対して魔の存在は口を開いた。

「貴方に闇の力を譲渡しよう」

その言葉を受けてから闇の王が闇の力を開放した状態で魔王に対して、こんな言葉を放つ。

「これで貴方に力を授ける事が可能になった訳です」

魔王に対して魔は語りかける。

「貴方が、どの魔王よりも優れた存在になれば、それだけ多くの者を従えられるようになる筈だ」と、それを聞いた魔王は自分が持っている全ての力を解放させて魔王として相応しい姿に変化させた後に、このような言葉を魔王に対して投げかけた。

「これで私は魔の王としての責務を果たす事が可能になる」

その言葉を耳に入れて魔の存在が言う。

「魔王城に戻り、聖の存在と戦う事になるが、大丈夫か?」

それを聞いた魔王が答える。

「私ならば、どうにかする事ができる」

その言葉を聞いた魔王と魔の存在と聖の存在と闇の存在が闇の存在を、この場所に残してから闇の王は闇を纏うと闇の力に呑み込まれないように意識を集中させながら移動する。その途中で、この世界に魔王が誕生する前に存在した聖の存在と遭遇したが聖の存在に、こんな言葉を投げかけられたのだ。

「聖の存在と、この世界で会うのは初めてですね」

闇の存在に聖の存在の言葉は耳に入っていなかった。闇の存在にとって大切な事は聖の存在が口にした「聖」という言葉だけだったからだ。

魔王の存在と闇の女神と闇の神の使いである魔の存在達が闇を纏って、この場を去っていった様子を見送っていた魔王の母親が魔王に対して言葉を放った。

「私達も、ここから立ち去りましょう」

母親からの提案を受けた魔王は、それを受け入れて魔族達の国に戻ると魔王と母親は別れると魔王は聖の存在と闇の存在がいるであろう場所に足を向ける。その場所は魔の者達が住む場所から離れた場所であり、そこに辿り着いた時だ。そこには誰も存在していなかったのだ。

それを見た魔王は、こう思ったのだ。

「まさかとは思うが、私が魔の者と聖の存在を倒してしまったのか? そうだとしたら私は、とんでもない事をしでかしてしまったのかもしれない。それに魔王城に戻って、この状況を報告をしなければ、どうにも出来ないな」と考えて魔王は自分の住処でもある魔族の住む国に魔王は戻った。その途中である人物と遭遇をしたのだが。それは闇の力を持つ魔の存在だったので魔王は魔の存在に向かって、このような事を問いかけた。

「貴殿は、私と顔を合わせた事は無いか?」

それを受けて、それに関して魔の存在は答える。

「いいえ、会った記憶が無い」

それを聞いた魔王が「それは、残念な事だな」と口にすると魔の存在が「何が残念な事があると言うのだ」と言うので魔王は答える。

「私は貴方を知っている」

それを聞いた魔の存在は魔王に対して「どういう意味だ?」と聞き返した。すると魔王は言葉を口にした。

「魔王は聖と闇、どちらに従うべきだと思う」

魔王から質問を受けた魔は少しばかり悩み「魔王は貴方ではないのか?」と言った。魔王は答えた。

「そうだ。だが、今の聖は偽物なんだ。魔王は本当は誰を選ぶべきなのか、それを考えてくれ」

そう言うと魔王は、その場所から離れる事にした。

魔王が自分の住んでいる魔族の国の城に到着すると魔族は魔王に駆け寄り「魔王様、何処に行っていたんですか。探していましたよ」と言うと。魔が魔王の元に駆け寄る。魔王は魔の者を見つめてから口を開く。

「魔導の存在に会いに行かないと、いけなかったのだよ」

その言葉を聞いて魔の者は魔王の身に何が起こったのか理解できた。

「それでは、この世界に魔の存在が誕生したと言うのですか」

魔の者がそう言いながら、これから先、この世界に魔族達が存在するのが、どんな結末を迎えるのかを考える。そして自分達は、これから先も、この世界に生き続ける事が出来るのだろうかと不安に駆られてしまう。

だが、そんな状況の中でも魔族達は魔の存在に対抗する手段を見つけなければ、いけないと思いながら、どうしたら魔の存在を消滅させる事が出来るのかを考え始めていた。だが魔王と魔の者が考えた通りに、この問題の根本は聖の存在が、いつから、どのような目的を持ち始めたかによって決まる問題であった。しかし、その問題が解き明かされるのは、それから先の話となるので、それから暫くは魔王と魔の存在が聖の力と闇の存在の戦いは続く。

魔の存在が闇の力を手に入れて闇の女神と闇の神の存在の前に姿を現してから数日が経つと聖の存在に戦いを挑もうとする。魔の存在は、どのようにして魔王の力を得たのかを語るが、そんな魔の存在に闇の存在が、ある事を質問してみせる。それを受けて魔の存在が答えようとした瞬間に聖の存在が姿を現す。

聖の存在は「魔の存在、その姿が偽りだったのか?」と言うと魔は「違う、これは魔王から授かったものだ」と答えてみせたのだが。それに対して、どう答えても結果が変わる事が無かった。だが魔の存在としては聖の存在は魔王に近づかせないようにしないと、どうなるかも分かっていたのだった。聖の存在に魔の存在が殺されてしまい、その後に続くような形で魔の女神が、その座を失うような展開になってしまう。

しかし魔王も聖も、それを望んでいないので聖の存在を倒す為の手段を考えている。その方法は魔王は魔の存在を使って、魔の神の存在を呼び出して、どうにかするしかないと考えた。魔の神の存在が、この世界の何処かに存在し続けている事が分かっているのなら。その存在を呼び出せば、何とかなると考えていたのだ。そう考えてから魔王は闇の存在に魔を預けると魔の存在と共に、魔の者の元に向かい事情を説明すると、すぐに行動を開始する事になった。

それから魔は、闇の力を利用して自分の力を強くする事に決めていたのだ。

その頃、聖の存在は聖の力で魔王を追い詰めていたのだったが。その時に聖が聖の存在に言う。

「どうして貴方は、こんな真似をしているの」

聖の者に問い掛けられた聖の存在は答えようとする。

「それは魔が私を騙していたから、こうして貴方の目の前に立っているのだ」

その言葉に闇の存在が反応を示すと、この世界を闇の存在の支配下に置く事を、すでに決定していたのだと闇の存在を自分の意思とは無関係の行動を取らせる存在だと思っていた。だからこそ闇の力が聖の存在を殺せと、命令を下したとしても、それが聖の存在を自分の力で倒す事を指示しているのだと考えてしまった。

その為には闇の力を使える魔の存在の存在が聖の存在を倒さなければならない。だが魔の存在が、いくら魔の存在が闇の化身として、どれだけ力を手に入れたと言っても、それだけで闇の存在が聖の存在を圧倒できる訳ではない。それに加えて魔の存在が魔王の力を受け継いでいるとは言え、まだまだ力不足である。

その為に闇の存在が聖の存在に戦いを挑んだ所で聖の存在を打倒する事が出来る訳がないのだ。だから、この問題を解決するには聖の存在が魔王に騙されていると認識する為には聖の存在が魔王を裏切るしか方法は無い。

「聖の存在よ。私を、このまま殺してくれると助かるんだ」

その言葉を受けて聖の存在が口を開いた。

「魔を騙していたという証拠を見せて欲しいわね」

闇の存在からすれば、それは困る事になる。何故ならば、もし魔が聖を裏切り、魔王の力を手に入れる前に死んでしまったら魔の存在は魔が手に入れた力を使う事も出来ずに終わるからだ。それでも魔王の力が使えなくなる訳じゃない。

その事を理解していたので魔の存在が言う。

「証拠を見せても、どうにもならないかもしれないぞ」

魔の言葉を受けた後で、聖の存在が言う。

「魔王の娘、貴女が魔王の居場所を吐くのよ」

「魔王が居れば良いのか?」

魔の存在の言葉に聖が答える。

「いいえ、魔王の力は危険過ぎるので消させてもらう」

その言葉を耳にしてから魔の存在が言葉を返そうとした。

「それについては俺が証明をしてやれる。お前は魔王に勝てると思うのか?」

魔が聖に向かって言うと聖の存在は答える。

「私は魔王の力を全て封じる事が出来る。それに私が本気を出したら、魔王を封印した闇の女神ですら簡単に葬り去る事は出来る。つまり私が力を出し切った時でも魔王は私を殺すだけの力を持っていません。だから私が魔王を封じ込めた時こそが好機なのです」

その言葉に対して魔は思う。確かに闇の力を使い続けていれば、いつか限界が来る。その限界を迎えた後に聖が攻撃を仕掛けたら間違いなく死ぬだろうなと考えるが、そうなった場合は闇の存在にとってみれば、それで構わないと思っているのだ。それ程までに闇の力があれば魔王を滅ぼす事が出来るので闇の存在は、それ以上を求めるつもりは無い。しかし、そのような闇の力が手に入るまでは死ねないと思って、この場は聖に対して降伏する事を決めた。

魔王城にある魔族が暮らす場所に戻った魔の存在に対して魔族の女王である女性が「大丈夫だったの?」と言い。魔王は「ああ、心配してくれて有難う。だが私は魔王様の為に戦い抜いてみせるから」と女性に言うと魔王は自分の住処である部屋に戻り。闇の存在との戦いを終わらせる事を決意した。

だが聖の存在が、そんな状況で魔を騙し続けていた魔王の罪を許すはずが無く。

それから魔王は聖と闇の勢力による争いに巻き込まれて、魔王城での戦いが始まり、その戦いは三日に及ぶ。

その激しい攻防の末。

ついに魔王城に聖と闇の勢力の者達が入り込んだ事で。

そこで行われていた戦いは終わりを告げる。その戦闘の激しさは魔族達の国にまで響き渡り。

その話を聞いた闇の存在が自分の母親でもある魔の女に問いかける。

「一体何が起きているのですか?」

魔が闇に尋ねると、闇の存在は答える。

「魔王城の魔族達が、かなりの被害を出しているようで。

どうなっているのか分かりません」

それを聞いて魔が言う。

「魔族に被害が出たのですか?それは許せませんね」

そう口にすると自分が、どのように動けば一番に利益を得るのかを考えた上で行動を始める事にした。まず魔王の娘である自分なら魔王と対面しても殺されずに済むだろうと魔は判断すると魔王がいると思われる場所に足を運び始めた。それから、そんな状況で魔王は魔の存在と遭遇した。

それは偶然であり、もしも相手が魔王でなければ魔の存在が、どうなったか分からなかったが、結果的に魔は魔王との謁見を果たしたのだった。そして魔が魔王に対して言ったのだ。「お久しぶりですね、魔王様。魔王の座を、まだ諦めていなかったんですか。もう貴方に力が無いと知っているのですが。本当に無駄な事をしていると思うのですけどね」

それを受けて魔王が返答をする。

「俺は絶対に諦めないさ。魔王の座を取り戻す」

それを聞いて魔は思う。魔王が魔王の席を奪う事など出来ないのだ。その考えが正しいと確信して、どうやって、それを証明するべきだろうかと考えてみたのだが、それを行う為の方法を思いつかないでいたので。魔王に戦いを挑むという事は無理があると考え始める。それでは別の方法を探そうと思った魔はその場を立ち去ろうとした。

だが魔王が言う。

「俺と戦ってみないか?」

その提案に対して魔は答えようとしたのだが、そんな言葉が途中で止まった。何故なら闇の存在が、この世界に存在する全ての闇を集めて作り出した剣を手にした姿で姿を現したので魔の存在としては逃げるしかなかった。しかし逃げ切れないと理解した。そして自分は魔王との戦いで闇属性以外の能力を無くしたが、それ以外の能力を手に入れていて、その力を使えば魔を追い詰める事も出来たはずだと考えている闇の存在が魔王に話しかける。

「私の力を知っていれば魔王である、あなたは確実に、もっと楽に戦えたのではないでしょうか。私の持つ力は聖の神が持つ神の力に対抗する手段の一つです。それを魔の存在も知っていたはずなのに。なぜ使わないのです」

そんな言葉を受けて魔王は闇の存在に言い返す。

「それは違う。俺は闇を操っているだけで魔王を名乗るには実力が足りない。だからこそ魔の存在を利用して闇の化身に魔王の称号を手に入れさせた」

その言葉に嘘は無かったのだ。だが魔王が思っていた以上に闇の存在は強かったのだ。闇の存在は闇を操る者なのだが、その能力は光を扱う事に長けた闇の神の力よりも上回っていたのだ。

だから闇の存在と戦うのが不利になると考えていた魔王としては闇の存在を倒す方法を考える必要があった。しかし闇の力を失った今では、それを実行する事も難しい話だったので。魔王には、それを実行するだけの知恵も無かった。

魔が、どのようにすれば魔王になれるのかを考えていた頃。

魔の存在を聖と闇の戦いの場に向かわせて自分の目的通りに物事を進めていたのだった。その為、この世界にいる魔王の眷属達の多くは自分の力を高める為に、それぞれが自分の持つ領地を統治していたのだが。中には魔族の王としての資質を認められた魔が存在する。

それは、たまたま魔王が不在の隙を狙って魔が魔王の地位を奪った結果であった。その結果として魔王が魔王の眷属の全てを支配する力を手に入れる事になったのだが。この事実を知っている者が誰一人としていなかった。それは当然の話であると言える。何故ならば魔が魔族の頂点に立つ存在として、もっとも強い力を持っていたからだ。それに、もし、その真実を伝えた場合で魔の存在に反逆されでもしたら魔族達は絶滅してしまう可能性が高いのだ。だからこそ、あえて魔の存在を魔族の王にする事によって魔族を纏め上げる存在を生み出したのだ。そして魔王は魔が魔王となる事を望み。魔が魔王になった後は自分の存在を隠したままでいる事を望んだのだった。だが魔は聖と闇の力が、あまりにも強くなって行く事を知った。

魔が闇の力を使って魔王の力を吸収しようとしたが闇の力だけでは魔王の力が消えなかった。それ所が魔王の力で生み出された武器を手にしていた闇の存在の攻撃を受けてしまう。それを受けて闇の存在が言う。

「魔王の力を、こんな物に頼ってまで使おうとしている、あんたが、こんなに強い力を手に入れたとしても。今の貴方の力では、やはり、どう考えても私に勝つ事は出来ませんよ」

闇の言葉を受けて魔王は闇の力を使わずに魔王の力を持つ闇の存在を倒せる方法を探した方が良いと思い始めた。それは魔王が聖の存在を、どうすれば殺す事が出来るかを考え続けていた時に思いついた一つの可能性であり。魔王が闇の神の神殿に行って闇の存在から力を借りれば、どうにかして聖の殺害を成し遂げられるかもしれないと言う考えに至ったのだ。だから魔王城から出ようと考えた。しかし闇の存在が魔の存在に対して言った。

「貴女一人で、どうするつもりなんですか?もしかしたら闇の力を得て魔王になりたい、ただ、それだけが目的で魔族は滅ぼされようとしているんですよ」

闇の存在が言うように、もしも聖の存在が光の勇者である彼女だけなら魔王の力を使えるようになった魔にも勝ち目が出てきた。それだけではなくて他の魔族達が勇者の聖の存在に協力してくれれば、どうにかして光の勇者に勝利する事が出来た筈である。

ただし勇者が存在し続ける限り聖の存在が魔を魔王にしてやる訳も無く、勇者を葬らない限りは永遠に魔王は生まれ続けて聖の討伐を試みようとするに違いない。そうなれば、いずれは魔の存在も力の限界を迎えて闇の力が使えなくなるので、その時こそ聖の存在は、きっと魔に殺される事になるだろうが、その事を、これから闇の力を使いこなす為に修行を開始する魔が理解できる日が来るのか、それが問題であった。だが、その問題は魔が闇の力を使う事を覚えた時点で闇の力を使う事を止める事で解決できる。

つまり聖と闇の勢力が争っている間に魔の存在が強くなればいいだけだから、その点は安心だといえる。その事から魔王が闇の力を使った所で闇の存在に負ける確率は低くなった。

だから魔王城から出た魔の存在であったが魔族が住まう国から出て人間の国に行くのでは無い。人間と敵対関係にある闇の勢力の者達が集まって暮らしている場所へと向かうのだ。その場所こそが闇の一族と呼ばれる集団が住まう場所で、そこは闇の女神が支配している場所でもあったのだ。その目的は、その闇の一族の者達の闇を司る力で魔の存在が持っている魔の力を強化する事である。そうすれば魔の存在が聖と闇の力に打ち勝てる可能性が上がるので魔王は、それを行うつもりだった。だが魔の存在が闇の力を覚えて魔の力を使いこなす為に闇の力を得る事が出来れば魔王が闇の力を使う事も不可能では無くなるが。

魔が暗黒の領域に足を踏み入れた時。そこに闇の力が満ちている闇の力の加護を受けている闇の一族以外の闇の力を持つ者達が存在している事に気づく。

それから魔王が思ったのだ。自分が、ここに来る事すら出来ない程に弱い奴らに魔の存在が敵わないわけがないのだと考える。

しかし闇の存在は魔の予想を大きく超えていたのだった。それに加えて魔が暗黒の力に浸食された影響で体が徐々に弱って行ったのだ。

そんな状況で、さらに追い打ちをかけるような出来事が発生する。魔王が、その存在が暗黒の力を持つ者達の中でも上位の力を持つ闇の存在に対して言ったのだ。お前は自分の母親が誰かを気にしていないと駄目な奴だと」

その言葉を闇に聞いて魔が答える。

「私は、そんな事を言われた覚えは有りません。そんな馬鹿げた話を、どうして信じるのです」

それを聞いた魔王が答えを返す。

「俺の母親の名前を知っているか?俺は魔の母の名前を知らんが。母さんの名前が俺にとって大事な意味を持つんだよ」

その質問に対して闇は魔王の事を無視して言う。

「私は母親の名前は知らないけれど。私の本当の母親は、あの人ではないわ」

それを受けて魔が答えを返す。

「そう言うのなら証明してみせろ」

それから二人は戦いを始めるが魔は苦戦するばかりであった。

しかし、それでも魔は何とか勝利を収めると。

「魔王の座を奪うのは、もう諦めた方がいいぞ。私より、お前の方が強いのは間違いないからな」

それに対して魔王が言う。

「そうだな、このまま、いつまでも魔王の座を奪われるぐらいならば、その方が良いかもしれない」

それを聞いて闇が思う。もしかして自分が思っていた以上に魔は弱くなっているのか、それとも魔王の力が凄まじい強さになっているのか、その判断が難しいのだが、どちらにしろ魔は敗北を喫する事になったのだった。だが闇の存在が闇の存在を庇いながら戦ったお陰で、それほど酷い怪我を負う事も無かったので命を失う事は避けれた。

そこで闇の存在の体の変化が起こる。それは魔王と闇の戦いが行われている時に魔王の側に居た闇の一族の中で闇の存在が闇を取り込みやすい体質に変化した者がいて。その者の中に、ある闇が生まれたのだ。

そして生まれたばかりの闇は自分を生み出した闇を見て驚くと同時に恐怖を抱いたのである。それは魔の力を持った闇の集合体のような存在が生まれてしまって、この世界を滅ぼしかねないと思えたからだ。しかし魔王と魔の存在が戦うのを見た闇の存在が言う。「今のままでは魔が魔王の力を完全に制御できないと分かってしまった以上。魔王を、その座から引きずり下ろすのは、まだ早いのかもしれない」

そして闇が、そのまま魔王の力を吸収する為に戦いを挑んだが、そんな闇を魔が止めた。

「待ってくれ、私が、ここまで強大になったのは魔王が私の為に魔王の力を、すべて注ぎ込んだからこそ起きた奇跡なんだ」

その言葉を聞いて闇の存在が魔王に向かって言う。

「私に力を譲っても、どうせいつかは魔王になる。そして聖と魔の戦いが始まるだけだ」

闇の存在は魔王の存在を殺すつもりが無い事を知ると。闇は、とりあえずは様子を見る事にしたのだった。

それから闇の存在は他の暗黒の存在に、これからどうすれば良いのかを話し合う。その話の結果としては魔王と魔の存在との戦いが終わるまで放置するという結論に達した。なぜならば、これから闇の一族を滅ぼそうと魔王が現れるのを待っている者達が沢山いるのだから彼等を滅ぼすのに闇の一族の力を利用するのは、もったいないと言うのが理由なのだ。だが闇の力の使い手である闇が闇の一族を見捨てれば、すぐにでも魔の存在を倒す事は可能であった。

だが闇の力の使い手である闇も魔王を倒すのは無理だと思っているのだから魔の存在を見逃す以外に選択肢が無かったのだ。ただし魔の存在が、いつかは魔王に成長する可能性も十分に有っている為、この世界の魔王が誕生した際には魔の存在が、この世界にいる闇の一族の力を奪い取って魔王の力を強めるという計画を立てた。ただし、それも闇の存在としては、あくまでも魔の魔王が誕生する事を前提としての計画であり、それ以外の魔王が出現する事までは想定していなかったのである。

それ故に魔の存在が魔の王となっても魔の存在を闇の存在が倒せる可能性もあったのだ。ただし闇の力が闇を殺せないだけで、闇の存在は闇の力を取り込む事で、かなり強くなっている。そして闇の力が闇の力を喰らう為に闇の力を魔の存在から奪う。その為に闇の力には、かなりの力が貯まっていたのだが。それでも魔王の力を上回れるか分からないと言う程度の差しかないのであった。

魔王は暗黒の城に戻った時に魔の存在から闇の女神の存在を告げられた。その話を聞いた魔王は魔の存在が魔王の座を欲した理由は魔の女神の事が好きだから魔王になったと言う事を、この時になって初めて知るのである。

魔王が魔の存在と別れて魔王城に戻ろうとしたら、その時に光の勇者の聖が聖剣を持っている聖を連れて、こちらにやって来るので魔王が聖に声をかける。

「お前が聖なら、どうして魔族を味方につけた。魔王を倒して魔族を滅ぼす事が目的じゃないのか?」

その質問に聖が魔王を睨んで答える。

「お前達のせいで魔族は魔王が復活してから急激に数を増やしているだろうが。それに魔王が聖と闇の争いを引き起こす事を決めたお陰で、どうやら魔王と聖の戦いが起きそうな予感が有ると闇の一族達が教えてくれたのでな。私達は、それに備える為に魔族の力を手に入れる為に魔王の力を封印する方法を探す旅に出ていた。その途中に、この魔王城を見つけた。それで聖と闇の魔王が現れた場合に、どちらかに加担して、もう片方の魔王の力を削ぐ事が、私達の目的だったが。どうも、この魔王城では私達の知っている闇の力が、ほとんど残っていないのを感じて、お前が、ここに来たのではないかと思って追いかけてきた」

それを聞いた魔王が聖に尋ねる。

「それなのに魔の存在から暗黒の神が復活したと聞いた途端に手を組んだと言う事は、魔の存在から暗黒の力を得る事で闇の力を得た俺と聖との決着をつける為だと思っていたんだが、俺の勘違いだっていう事なのか」

その質問に対して魔王は少し考えて答える。

「俺に闇の力を与える為に魔王が蘇ったとは考えられない。だが暗黒神を復活させれば魔王も復活するというのは分かる。つまり暗黒の女神の狙いは、やはり魔王の復活だったという事だな」

そう答えた魔王に聖は聞く。

「それだと何故、貴様と暗黒の神を争わせようとしたのだ」と すると、それを聞いていた闇が答えを返す。

「暗黒の女神の目的は魔の存在を操って、いずれは魔が全ての世界を征服できるようにする事だったらしい」

それを聞いた魔王が、どういう意味だと尋ねるが闇が答えを返さないので魔王は言う。

「つまり魔族が俺に従うようになって。魔王の座を奪われない為に、俺は、あいつの母親を取り込んだわけで。それが失敗している今。俺が暗黒の力を手に入れたから魔族を操る力も失った。だけど、もしも俺の力が強くなれば、また魔族は暗黒の力を求めるかもしれないと考えたから。それで魔王の力を与え続けて。最終的に魔族を支配する魔王が、あの女の力を使って暗黒の力を集めさせる気だったって事か」

そう言ってから魔は魔王の力を吸い取り続けた。しかし聖の存在に自分の事を話せば、きっと暗黒神の力が聖の手に渡る事になるのだろうと魔が考えていると聖と暗黒の神の気配を感じた。そして聖が「暗黒の力と暗黒の女が居るのか」と叫ぶと同時に暗黒の女神が「そんな事を教えてしまったのですね。あなたが裏切ったお陰で、もう私の力を使い果たすぐらいに暗黒の力を渡したのに無駄になりましたね」と言い出す。そして闇姫も姿を現す。

そして暗黒神が姿を現した瞬間に暗黒姫が、いきなり「あんただけは許せない。どうして私の夫を殺したのよ。この人でなし!」と叫びながら襲いかかるが魔王はそれを阻止する形で魔王の力を放出して攻撃を行うと暗黒姫が吹き飛ばされた。それから魔は暗黒神の力を奪うが、その際に魔王の力は限界を超えたらしく意識を失ってしまう。その様子を確認した後に聖が自分の力を使う前に魔王を殺そうとするが。

しかし、そこに現れた光の騎士が暗黒の力を使った攻撃を防ごうとして命を落とす。

「馬鹿者め、どうして私を助けたりした」と聖が言うと光が答えを返す。

「魔王を倒そうと思ったのなら。まずは魔を殺す必要があったのに。お前が魔王を生かそうとした為に私は死んでしまった」

そんな会話を行っている間に暗黒の力は聖の中に消え去ったが、その直前に魔の存在は自分の身体から闇が抜け出して暗黒の存在に取り込まれていく様子を確認して思う。もしも聖が魔を殺さなかった場合。聖が死ぬ前に魔の存在が聖の中に飛び込んで聖の魂を闇が奪い取ってしまえば、どうなるのかと疑問を抱くが、すぐに考えるのをやめた。それは暗黒の力を持つ者が二人になった時。その力は均衡を保ち続ける事が出来なくなると分かっていたからである。

魔王は暗黒の力で命を落として暗黒神に取り込まれたが暗黒の魔力を暗黒の武器で使えたのだから、その能力を失う事は無かった。だから暗黒の力を取り込んで得た闇と、暗黒の力を吸収した魔王の能力は互角に見えたが、その実態は闇は魔王の力の一部だけを手に入れて完全には制御できていない。それに対して魔王の方は闇の力をすべて吸収して力の源としているのだから魔王の方が闇よりも強い。しかし魔の力を完全に掌握しきれていない闇は魔王を倒す手段が無いのだ。しかし聖が魔の力に飲み込まれた状態で暗黒の力を使えば魔王の力は闇に吸収される事になるが、それだと闇の力が完全に制御できない状態になるかもしれないのだ。

だからこそ、この状況において魔王の命を救う為ならば魔王の闇を受け入れるべきではなかったのかと思うのだが、そもそも、その選択は間違いではないのかもしれないが間違っているとも言えた。

なぜ間違えた選択をしてしまったのか。それは闇の存在を作り出した魔の存在にも分からなかったのである。だが魔王に聖が闇の存在に闇の力を渡すつもりだと伝える事は出来るだろうと考えてしまう。なぜならば魔王の力が尽きかけていて暗黒の女神の力を奪おうとすれば聖は、おそらく聖剣を魔王に使ってしまうからだ。そうなると聖が闇の力を取り込む機会は失われてしまうからであった。

だから闇の力は聖が闇から闇の力を取り出す事を阻止したかったのである。その結果、自分が魔王に闇の存在に取り込まれる可能性を考慮に入れずに闇の力の存在の思い通りの結果になってしまったのだ。その事について後悔をしている時に聖が目を覚ます。そして、すぐに暗黒の力を使用して暗黒の存在と魔王の力を吸収する。そして暗黒の力と暗黒神の存在を吸収し終えた所で、ついに魔王の力も、また魔王の存在も失ってしまった闇が消滅するのであった。

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魔王のくせに生意気だ。~魔王討伐に向かったハズなんだけど、なんか城から追い出されちゃった! あずま悠紀 @berute00

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