第6話 幼馴染と初体験

「で、結局こうなるってわけか……」


 十数分後。

 俺たちは服を脱いで、ベッドの上で正座で向かい合っていた。


 俺の前で肌を晒しているというのに、深夏の方は恥じらうような素振りを見せない。なんかいつもとだいたい同じな感じの自然体だ。


「お前、もう少し緊張とかできないわけ?」

「え、いや、これでもけっこうしてるんだけどなぁ。ほら」

「うおっ!?」


 おもむろに深夏が俺の手を取り、そのまま自分の胸の中心へと導く。

 薄くて滑らかな肌の下、心臓が確かな鼓動を刻んでいるのが伝わってきた。


「ほら、いつもよりちょっとドキドキしてるでしょ」

「いや、深夏の心臓のドキドキ事情とか知らんからぶっちゃけ分からんが……」

「やっぱり初めてなにかに取り組む時ってテンション上がるよね」

「そっちのドキドキかい」


 興味津々か。


 ……ったく。相変わらずこいつは……。


 あの後、俺と深夏がこういう感じになるまでには以下の通りな経緯があった。


  ***


『え、別にいいじゃん。やろうよセ○クス。恋人っぽい』

『え、お前、じゃあ俺のこと好きなん?』

『は、キモ。なんでそうなんの?』

『え……お前、好きでもないやつとセ○クスしようとしてんの?』

『いやいや、隆文のことは別に好きだよ。腐った縁が今日まで長持ちするぐらいには』

『それ幼馴染的な意味での好きなのでは……』

『最初からそう言ってんじゃん』

『えー……俺が言うのもあれだけど、お前、一応初めてを捧げる相手のことはもっと真剣に考えてみた方があとになって色々後悔とかしないんじゃないかと思うんだけど……』

『ん-、いや、隆文なら別にいっかなって』

『軽いのな? てか、なんで男の俺の方がこんな必死に説得してんだよ……』

『恋愛感情と好奇心と性欲はまた別じゃん。あ、ちなみに今のあたしは好奇心で動いている!』

『いずれ好奇心で死にそう』

『るっさいなあ。つべこべ言わんでよろしい』


 ぴらり。(←深夏がスカートをめくる音)


『……っ』

『ね? 恋愛感情と好奇心と性欲はまた別でしょ?』


 以上、性欲に負けた男の報告でした。


  ***


 それから、やれゴムがないとか、やれシーツの替えだけ準備しなきゃとか、ゴムのついでに夕飯の買い物もしてこようとか、そういうあれこれがあった後の、今である。


「ほ、ほんとにいいんだな……?」

「なに、今さら怖気づいたの?」

「いや、そうは言ってもな……」

「いざという時にヘタレがちになるのは隆文の悪い癖だと思う」

「うっ……」


 師匠にもこの前同じ指摘をされたばかりだよチクショウ。


「うーん……じゃあそれなら、こう考えたらいいんじゃない?」

「というと?」

「ラブコメでちょっとえっちなシーンを描く時の取材の一環でえっちしてみる、みたいな」

「なるほど」


 と、平手に拳でぽんと手をつき、俺は納得する。

 それから、深夏を指さして、


「要するに、深夏は資料ということか」

「イエスイエス。アイアム資料。オーケー?」

「オーケーオーケー」


 互いに納得したところで、俺たちは深々と頭を下げ合った。


「対戦、よろしくお願いします」

「対戦、よろしくお願いします」

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