ラベンダーピカリ（笑） 🎨

ラベンダーピカリ（笑） 🎨

　前略　ごめんくださいませ。あなた、お元気にしていらっしゃるかしら。

　あたしはおかげさまで元気に暮らしているから、どうか安心なさってね。

　今年も薔薇の季節がやって来て、教室の前庭にみごとなアーチが咲いているわよ。

　あなたの大好きな黄色や白、赤、淡いピンク、青、紫まで、そりゃあきれいなの。

　もちろん、あたしひとりじゃとうてい手に負えないけど、生徒さんたちが、ほら、禿頭のあなたに「ブルーピカソ」の向こうを張って「ラベンダーピカリ」と名づけてくれたお茶目な柳沢くんや、その息子さんでもう中学２年生になったアキラくんたちがみんなで管理してくれているの。なによりありがたい、あなたの置きみやげだわ。

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　あなたがそちらへ行ってからも、がんばってつづけているわよオープンガーデン。

　もう２０年ほどになるかしら、このまちでは先駆けだったし、いまだに市の広報にも紹介してくださっているので、せっかく来てくださる方々に申し訳ないでしょう。

　あなたが旅立ってしばらくして新型の感染症が流行り出したので、外国のお客さまは来られなくなったけど、その代わり、日本のお客さまが全国各地から見えるのよ。

　そうね、本当は老若男女と言いたいところだけど、ガーデニングに興味のある年代層って決まっているから、もの静かなお年寄りが大半で、ごくたまに若い人も……。

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　そうそう、うふふ、こんな話、あなたにしてもいいかしら？

　あのね、今日、とてもすてきな方が訪ねてくださったのよ。

　ええ、男性よ、それもとびきり若くて、すらっとして格好いい、あたしのタイプ。

　いやだ、ヤキモチなんておかしいわよ、そんなんじゃないんですってば～。(*'▽')

　その方がね、「なんとも居心地のいいお庭ですね、まるでわが家へ帰ったようだ」とお褒めくださったので、あたし、とっておきのハーブティをお出ししちゃったの。

　そう、あなたが大好きだったラベンダーの。

　庭つづきの市営公園で今を盛りと咲いているので、グッドタイミングというわけ。

　そしたらね、その彼、なんて言ってくれたと思う？

　「ラベンダー尽くしで、パラダイスにいるみたいだ」ってそう言ってくれたのよ。

　だからぁ、ちがうってば、そんなんじゃないってば～。

　恋に年齢は関係ない？　こんな白髪のおばあさんに、そんなわけないでしょうに。

　年上専門の◇▽コマシ、または、なけなしの遺産狙い？

　あなたの口からそんな下世話が出るとは思わなかったわ、なんだかガッカリ……。

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　いやあね、あたしたちったら、またこんな痴話げんかを……。

　でも、そろそろ気づいてもいいんじゃない？　その手のことには晩生（おくて）のあなたも。

　そうよ、その青年は、あなただったのよ、画学生だったころの。

　スケッチしているあたしにオズオズと声をかけてくれた、あのころの初心な……。

　いまだから言うけど、あたし、以前からあなたに夢中だったの。

　だから、どれほどこの胸がトキメイタか、できれば割って見せてあげたいくらい。

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　それからふたりは、恋というつかみどころのないものの、とりこになったのよね。

　互いの心をたしかめたくて、たしかめても、たしかめても、まだ足りなくて……。

　あなたのことは知らないけど、あたし、ほんとに一途だったのよ、あなただけに。

　ほかの男性はまったく目に入らないままで何十年も過ぎて、現在に至っているの。

　あなたはもう形象としては存在しないけど、あたしの一途は変わらない、永遠に。

　あの豊かな黒髪が……とか、抉ったようなお腹がタプタプに……とかでも。（笑）

　だからね、十代のあたしを壊れもののように扱う純情な青年にもどって会いに来てくれたあなたに、ほんの少しだけ甘えちゃったこと、どうか許してね。<m(__)m>

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　さあ、もう夜もだいぶ更けて来たみたいね。

　昼とは異なる妖しい風が吹く公園のラベンダーの香、ひときわ強くなったみたい。

　明日は日曜日だから、午後から柳沢くんやアキラくんたちのレッスンがあるのよ。

　あなたの教え子たちが薔薇＆ラベンダーをどんな作品に仕上げるか、楽しみだわ。

　では、あなた、今夜の絵日記はここで筆を置かせてもらうわね。

　きれいな三日月の揺り籠で、ゆっくりおやすみなさいね。草々。