呪いが成就するまで49日! 毎日日記をつけていきます!

雪車町地蔵@カクヨムコン9特別賞受賞

49日目 いよいよ呪いが成就する最終日です!

 2022年3月28日 天気(曇り)


 いやー、とうとう最終日まで維持できちゃいましたよ、藁人形わらにんぎょう

 この日記を書き始める前は、正直だいぶうたがっていたのですけどね?

 だって、ムリゲーですもん。

 うらんでいる相手の家に、藁人形を五寸釘ごすんくぎで打ち付けて49日間見つからなかったら呪いが成就じょうじゅする、なんて、ムリムリのムリですよ。


 でも、うまくいってしまいました。

 もう後には引けません……


 呪い自体は、インターネットの検索で一番上に出てきたのを選んだだけだったのですが、いまのところ凄く効果が出ています。

 あいつ――私の幼馴染みであるAは、すごく参った様子です。


 曰く、寝ていると髪の毛を掴まれるとか、部屋のすみから視線を感じるとか、急に胸が苦しくなって顔を上げると、白いモヤが身体の上に乗っかっているとか。

 他にも物音がする、置いたものの場所が微妙に違う、肩が重いと、身の回りで起きる心霊現象を逐一ちくいち報告してくれます。


 私はこれにウンウンと頷いて、おはらいに行ったほうがいいんじゃないのとか、しっかり寝たほうがいいよとか言っているわけですが……そうです、元凶は私です。

 私が呪っている所為なのです。


 そもそも、Aが悪いのです。

 Bという女性とやけに仲良しで、最近はちっとも私と遊んでくれませんし、バイトが忙しいとか言い訳して電話にも出てくれません。

 明日は私にとって大事な日なのですが、いろいろ探りを入れてみてもAは覚えてすらいないようなのです。

 昨日だって、体調が悪い癖にBと一緒に買い物になんて出かけて……


 ほんとう、ふざけています。


 だから、私はわざわざ、今日が呪いの成立日になるよう、藁人形を設置したのです。

 呪いの内容はこうです。

 49日間藁人形が相手に見つからなければ、相手の一番大切な人が死ぬ。

 その間、無数の心霊現象が対象を苦しませる!


 ざまぁみろって感じですね!

 これできっとBが死ぬと思います!

 そうしたらAは、また私と一緒に、同じ時間を過ごしてくれるかも知れません。

 希望的観測ですが、そうせざるを得ないほど、私は怒っていたのです。


 だって、今日は本当に特別な日なのですよ?

 私にとってもそうですし、Aにとってもそうです。

 今日は、Aの誕生日でもあるのですから……


 幼馴染みの私たちは、毎年互いの誕生日を祝ってきました。

 今年もそうなるはずだったのに……なのにBとAは仲良くしていて……


 さあ、恨み言をずいぶん書き連ねてきましたが、もうそろそろ日付が変わります。

 零時を回った瞬間、Aがどんな悲鳴を上げるか、いまから楽しみでなりません。

 私は携帯端末の画面を見詰めながら、ニヤニヤとその瞬間を待ちわびていました。


 あと十秒、九、八、七……三、二、一


 着信。

 幼馴染みの名前が、そこには刻まれていて。

 私は嬉々として電話に出ます。

 心臓はバクバクと早鐘を打っていました。


「誕生日、おめでとう、親友」


 え? と私は首をかしげます。

 Aがなにを言っているか、一瞬解らなかったからです。

 どうしてか息が苦しくて、口をパクパクとさせてしまいます。


「今日、おまえ誕生日だろう?」


 そんな、覚えていてくれたのですか、A?


「当たり前だろうが。今年もプレゼント用意してあるんだぜ? 毎年マンネリなのもよくないと思ってBに頼み込んでさ、いい感じのやつを準備して」


 え? え? え?


「けっこう必死でバイトして、金も貯めたわけよ。サプライズ的な? つーわけで、期待しといてくれよな、親友! 俺も、おまえからなにをもらえるか楽しみだ。昼になったらプレゼント持って、そっちに行くからさ――おい、聞いてるか? おい!」


 私の意識は、急速に薄れはじめていました。

 心臓は早鐘を通り越して激痛を訴え、もはや呼吸は出来ず、口から泡を吐いて。


 几帳面にいま、このように筆を走らせているのも、そろそろ限界でしょう。

 すでにミミズがのたくったような、最悪の筆致です。


 しかし、絶対に死んでしまうのなら、どうしても一つだけ、事実を聞きいて書き留めなければなりませんでした。

 私は、しぼり出すように問い掛けます。


 A、あなたにとって、一番大切な人って、誰ですか?


「小っ恥ずかしい質問を……おまえに決まってんだろ、親友?」


 ああ。

 ――嗚呼。

 その言葉を聞ければ、満足です。

 それを記録できたなら、本望です。


 私は、私の親友の大切な人だからこそ、これから死ぬのです。


 自業自得、言ってしまえばそれだけでしょうが。

 しかし、確かに私は、Aの一番だったのです。


 私は。

 もはや声も出せない私は。

 いつかこの日記をAが読むのだろうと確信しながら、最後の文字を書き殴るのでした。

 親友にとってそれが、生涯のトラウマになるよう。決して癒えない傷として刻まれるようにと祈りながら。


 A、私も。

 私もあなたのことが、だいす――――――――――――――

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