幸福

lager

日記

 赤い色の空の下、涸れた風が粉塵を巻き上げている。

 水気のない世界で、二つの影が仲良く並んでその砂地を歩いていた。


「お父さん。なにか落ちてる」

「ん?」


 その内の小さな影が、砂に埋まった四角く平べったい板を取り出した。


「なにかな」

「ああ。ニンゲンの遺物だね」

「ニンゲン?」

「うん。この星にはね、昔々、ニンゲンと呼ばれる種族が住んでいたんだ」

「昔?」

「うん。ずっと前にね。滅んでしまったんだよ」

「どうして?」

「さあ。どうしてかな。お前が大人になったら、研究してみるといい」

「それはなに?」

「これはニンゲンが使っていた記憶媒体だね。どれ」


 大きな影から細いチューブが生え、その板に刺さった。


「どんなデータかな」

「ちょっとお待ち。……うん。ふむ」

「ねえ、お父さん」

「わかった。どうやら日記のようだ」




今日はいい天気だった。

久しぶりに洗濯物が片付いて、畳むのを子供たちが手伝ってくれた。

自分たちから言い出してくれたことがとても嬉しい。

昼には庭に水撒きをした。

虹が二重にかかって綺麗だった。

ハーブが少し元気がなくなっていたけど、持ち直してくれることを期待する。

今日もいい一日だった。

明日は朝から早い。もう寝るとしよう。




「どういうこと?」

「幸せだったってことさ」

「幸せって?」

「さあ。なんだろうね。僕たちにはない機能だ」

「不思議だね、ニンゲンって」

「そうだね。さあ、先へ行こう」

「うん」



 赤い風が、彼らの姿を隠していった。

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