思い出シャンプー

@ramia294

第1話

 ついに、僕は、完成させた。

 名付けて思い出シャンプー。

 何となく良い響き。

 しかし、これは、薬です。

 認知症の治療薬。


 数年前に他界した僕の母。

 認知症でした。

 昔の事は、覚えているのに、

 今の記憶が、あやふやでした。

 身近にいたのに、母の変化に、僕は、気づきませんでした。


 僕の作った思い出シャンプー。

 思い出を洗い流すわけでは、ありません。

 思い出自体を洗います。

 記憶の周囲の余計な汚れ。

 思い出シャンプーで洗い流します。

 これで、記憶は、スッキリ、クッキリ。

 今の記憶が、スッキリ、クッキリ。

 対症療法かも知れません。

 それでも、僕は、おすすめします。


 僕の母の命と人格を奪った、憎い、憎い、認知症。

 僕は戦うと決めました。


 使い方は、簡単です。

 お風呂で、シャンプーして下さい。

 薬が、どんどん浸透して、いつの間にか、スッキリ、クッキリ。

 あなたの記憶は、守られます。

 しかし、問題が。

 ひとつだけ。


 現在の思い出は、もちろんスッキリ、クッキリ。

 過去の思い出もスッキリ、クッキリ。

 思い出したくない記憶、おそらく鮮明に蘇ります。


 それでも僕は、おすすめします。

 僕の作った思い出シャンプー。


 その夜、僕は実験しました。

 自分の身体で、実験しました。

 僕は、戦うと決めました。

 身体だって張っちゃいます。

 その夜から、僕は、思い出しました。

 優しく時には、厳しい母。

 間違いました。

 厳しく、時折…。

 間違いました。

 厳しく、厳しく、たまに優しい時もあったような…。

 とにかく、僕のお母さん。

 仕方ありません。

 思い出は、いつも優しいものです。


 僕の思い出シャンプー。

 今年いちばんの大ヒット。

 どんどん売り上げを伸ばします。

 

 今日は、母の墓参り。

 戦いに、ひとまず勝ったと報告に。

 母の名前が刻まれた石。

 僕の思い出シャンプー。

 お墓にかけて、手を合わせます。


 その日の夜から、うなされました。

 毎夜、夢に母が出演。

 厳しい指導が、始まりました。


 毎夜夢でうなされます。

 起きると、涙が枕を濡らしています。

 僕の母は、こんなに厳しかったのか?


 いつの日にも思い出は、美しくよそおいます。

 気づけば、街のアチコチに叱られている、中年のオジサン、オバサン。

 叱っているのは、オバアサン、オジイサン。

 スッキリ、クッキリの頭には、彼らは、まだまだ子供です。

 僕の思い出シャンプー。

 副作用は、もちろんあります。

 使い過ぎには、ご注意を。

 使う時にも、ご注意を。

 過去と、思い出とは、違うもの。


 美しく装う思い出たち。

 もしかしたら人の心を守るため? 

 

 仮面をはぎ取る思い出シャンプー。

 もっと実験、重ねるべきでした。

 それでも僕は、病気の方には、おすすめします。

 僕の強力、思い出シャンプー。

 おこつにまで効果的。

 お墓に使う時には、ご注意を。


         おわり(;^_^A



 



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