非文明期(文明と言えるものが生じないまま人々が暮らしていた時期)

ラドカハティスが破壊した物理書き換え機関アクネトゥルアカから動力を得ていた数々の遺物はその機能を失い、ただの置物へと戻っていった。すっかりそれに頼っていたエヴリネートス人達は便利な生活を維持できなくなり、衰退していった。


しかし、発掘屋はこの頃にもまだ細々とではあるが遺跡の探査を続けていて、彼らが持ちかえる物品を使い、アルフハンディアンス文明が誕生した頃の生活水準は維持していた。原人レベルにまでは戻らなかったのである。


特に、発掘屋が時折発見する窒素肥料は農耕に多大な恩恵をもたらし、人々はただ身の丈に合った生活を淡々と続けていた。


発掘屋も再び数を増やし、未知の遺跡に挑むことを誇りとして、遺跡の奥へ奥へと突き進んだ。


遺跡の奥には数々の遺物が残されていると同時に、遺跡を根城にした多数の獣もおり、中には<マナ代謝生物>もいた。それらは<ダティア(怪物)>と呼ばれ畏れられたが、発掘屋達は自身が見付けたナイフや剣といった武器を手に獣やダティアに挑み勝利することを一流の証とした。


そんな発掘屋の一人<マグスス>は、一人で何頭ものダティアを退けた猛者であり、発掘屋達の憧れの的だった。けれどマグススは、ある時、遺跡の奥底で、奇妙な<棺>に入った少女を拾う。そこには他にもいくつもの棺が並んでいてその中には子供の死体(ミイラ)が入っていたが、その少女は一人だけ生きていたのだ。


けれどそこは実は、<カルッセウス生産工場の一部>で、<制御装置の生産工場>であった。そう、つまり少女は、<カルッセウスの制御装置としての脳>を摘出するための<クローン人間>だったのである。


そんなクローン達から取り出された脳(と脊髄の一部)はカルッセウスの機体に搭載されてただ物理書き換え機関アクネトゥルアカを制御し<物理書き換え現象>を顕現するための装置になるはずだったのだ。


しかし邪神クォ=ヨ=ムイに敗れて文明も技術も知識も失われ放置されたそれらで奇跡的に機能が失われなかったのが、少女が入っていた棺(人工子宮)であった。ちなみにそこは、ガルドフ・デュリュハの動力となっていたアクネトゥルアカが動力を供給していた設備であり、実はアクネトゥルアカは完全には壊れていなかったのだ。単に設定が書き換わり、極めて限定的な施設にのみ動力を供給していたのである。これにより少女は、数十万年の時間を生き延びたということであった。アクネトゥルアカによる物理書き換現象の一つ<時間遅延>である。


マグススは、少女を連れ帰り、やむなく自分で育てることにした。棺(人工子宮)から出た少女は、何も知識をインストールされていない赤ん坊同然の状態で、しかも棺(人工子宮)から出た時点でアクネトゥルアカの影響下からは外れ、普通の人間として生きることになったのだった。


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