地陽暦元年~終わり

邪神クォ=ヨ=ムイに対する反抗作戦の敗北により、三十二もの植民惑星を開拓し合計八十億人ものエヴリネートス人を入植させていた惑星エヴリネートスは文明を失い、本星であるエヴリネートスの総人口六十億人も二百分の一にまで減少し、再び原人としての生活に戻り、十万年以上の時を過ごす。


しかしこの頃になると、魔女ケシェレヌルゥアによって使い果たされ枯渇していた<マナ>が再び蓄積され、休眠状態にあった<マナ代謝生物>の一部が復活。琥珀の中に封じ込めれらていた巨大生物<ダヒリス(の卵)>の遺伝子を取り込み、<ダヒリス・ルーア>が誕生。しかしその体を維持するには大量のマナが必要だったためこの時点では大気中のマナ濃度が十分ではなかったことで、<レゾンドーンの地獄>の爆心地にして半地下都市国家<バルブドゥル>の跡地である巨大クレーターの地下で休眠状態になる。


その一方で、アハティアイリス大陸の南東部で<パンディクス文明>が発生。いくつもの集落ができ、その中で特に大きな集落が周辺の集落を統治。首領<ロコスネリア>が立つ。地陽歴を制定。最初は物々交換から始まる。ロコスネリアは<車輪>を発明したことで力を得た。


地陽歴000016年。首領ロコスネリアの腹心であった<フグルス>が<貨幣>を考案。物品のやり取りに利用する。しかしこの時点ではまだ、ある程度まとまった取引にのみ使われるものだった。


地陽歴000063年。貨幣の利用が一般社会にまで浸透。通貨<ロコス>として定着し、労働の対価である<賃金>としても利用できることが正式に決定される。この時、庶民の平均年収十三万ロコス。ただし現物支給も併用だったことで、当時の物価も鑑みると実質的には百万ロコス程度だと見られる。


地陽歴000176年。通貨が完全に価値を確立するとそれを活用する<商社>が次々と興される。この年には<パンディクス文明最初の商社>と言われる<エルブンドフフ商会>ができる。しかし、<ブルテークス文明>および<ククル文明>において石油も石炭も天然ガスもそのほとんどが消費し尽くされ、特に採掘が比較的容易な浅い部分にあるものは事実上枯渇。深層部にはわずかに残っている可能性もあったもののパンディクス文明においてそれを採掘する手段はまったくなかった。ただ、商業的に見向きもされなかった小規模な油田と質の悪い泥炭などはごくわずかながら残されていたことにより、細々とそれを利用することに。


地陽歴011628年。やはり化石燃料が使えないことは文明の発展に大きな影響があったようで、クォ=ヨ=ムイの呪いによる鈍化以上に発展を阻害。非常に牧歌的な文明のままで、人々は淡々と暮らした。また、それまでの文明での出来事の一切は記憶そのものが完全に失われていたため憎悪も引き継がれず、小規模な争いはあってもそれが全体に広まるようなことはなかった。そもそも、大規模な戦争を引き起こせるほどの<力>がないのだ。石炭は希少過ぎて広く普及せず、薪や木炭では火力が足りず個人的な小さな鍛冶屋くらいしか営めず、また、製鉄も小規模なものでしか行えなかったのが大きいだろう。


地陽歴036591年。それでも<宗教>は発生し、しかもこの頃に一大勢力となっていた<フォボフ教>の大司教<アフノリア>が、『神がそれを望まれる!』としてフォボフ教以外の宗教を<邪教>と認定。フォボフ教のみをこの世に広めるためには邪教を滅ぼさなければいけないと唱え、迫害を始める。この、『責任のすべてを神に擦り付ける<責任の外部化>』によりどんなに非道な行いでも罪の意識なく実行できてしまうという<悪魔の囁き>を実用化。<宗教戦争>の引き金を引く。


地陽歴041124年。フォボフ教による異教徒の迫害は続いていたものの、他の宗教もただ黙って迫害されているばかりではなかった。そしていつの頃からか時折現れるようになった<ムヌゥルトゥ>と呼ばれる不可解な獣を使役し、それを<神の御使みつかい>として崇めるようになっていった。ムヌゥルトゥは、大型の<アハルトゥ・ルドーン><ブルフスス・アグーサ><バハドルス・マハネートソ>の三体を筆頭に、七十二体が確認された。なお、ムヌゥルトゥは<マナ代謝生物>の一種であり、ダヒリス・ルーアが誕生した影響で目覚めたものであった。


地陽歴041345年。ムヌゥルトゥを使役し抵抗を続ける異教徒らに対して、この時のフォボフ教の大司教<アペデンエス>は、古代の遺跡から発掘された<神の雷>を起動させ、討伐に当たらせる。なお、この<神の雷>は、ククル文明期に生み出された巨大人型兵器カルッセウスの廉価グレードの試作品であった。とはいえ、物理書き換え機関アクネトゥルアカも搭載され、一騎で国を亡ぼすことも可能なものでもあったが。


地陽歴041346年。神の雷がアハルトゥ・ルドーンを撃破。アハルトゥ・ルドーンを神の御使いとしていた<トゥフル教>が壊滅。信徒は散り散りになる。


地陽歴041347年。神の雷がバハドルス・マハネートソを撃破。バハドルス・マハネートソを神の御使いとしていた<ハドリヌゥフ教>が壊滅。信徒の多くが自決する。


地陽歴041348年。ブルフスス・アグーサが神の雷を撃破。しかし、その際に物理書き換え機関アクネトゥルアカが暴走。宇宙から大量のマナを引き寄せ、これに伴い、休眠状態にあったダヒリス・ルーアを呼び起こしてしまう。と同時に、神の雷と同じように地下に埋もれていた同型機十二騎が再起動。ダヒリス・ルーアと戦闘になる。これに巻き込まれ、アハティアイリス大陸の多くが焦土と化す。ちなみにカルッセウスの制御系は、薬物で強化された上に物理書き換え現象により寿命がなくなった人間の脳であり、邪神と邪神の眷属は無条件に攻撃するものであったため、強大なマナを蓄えたダヒリス・ルーアを邪神の眷属と認識し、攻撃を開始したのである、ゆえにどちらかが死に絶えるまで戦いは終わらない。


地陽歴123496年。八万年以上続いたダヒリス・ルーアとカルッセウスの戦いは、最後のカルッセウスが破壊されたことでようやく終了する。この間、エヴリネートス人らは、その戦いに巻き込まれないようにひたすら逃げ回るだけの暮らしを続け、アハティアイリス大陸全土でわずか五百十七人まで激減していた。そしてこの年、最後のロコスネリア<フォーヌフ>が死去。地陽歴が終わる。


この後、ダヒリス・ルーアも長い戦いで疲弊したのか、再びレゾンドーンの地獄の爆心地の地下にて眠りにつく。


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