惑星エヴリネートスの年表

京衛武百十

真歴元年~聖歴の終わり

約二十五億年前。後に<エヴリネートス(この世界における<地球>という意味の言葉)>と名付けられることになる惑星に、魔女ケヌレトォホソート(魔女ケェシェレヌルゥアの前身)が自身の因子を胞子として放つ。これが最初のバクテリアとなる。


約二十億年前。魔女ケヌレトォホソートが放った胞子が基になったバクテリアが変化し、最初の多細胞生物である<マヌローン>が現れる。マヌローンは硫化水素を代謝する不定形生物だと見られている。


約十六億年前。表面の九十七パーセントが硫化水素を大量に含んだ海だったエヴリネートスで大規模な海面の低下が起こり、古代大陸<アハティアイア>出現。


約十三億年前。マヌローンが大増殖し海中の硫化水素を消費し尽くしたことで大絶滅。残ったわずかな二酸化炭素を取り込み酸素を放出する新たな生物<アケアイロ>が台頭。この後、様々な生物が大発生しては環境を激変させ大絶滅を繰り返すことになる。古代大陸<アハティアイア>が<アハティアイリス>と<レイオスティーリア>という二つの大陸に分裂。その後、十二億年の間に何度か接合と分裂を繰り返す。


約八億年前。魔女ケヌレトォホソートが再び降臨。直後、宇宙の大部分を構成するとされるダークマターの一種である<マナ>が大量に降り注ぎ、マナを代謝する生物が大発生する。


約五億年前。約三億年に亘ってエヴリネートスを支配した<マナ代謝生物>が、酸素を代謝する狂暴な生物群に圧され多くが絶滅。その死骸が<魔素>に変換されて海底に沈み土壌などに蓄積される。


約四億年前。水棲生物の一部が上陸、陸棲動物が発生。


約二億八千万年前。ダヒリス(地球における恐竜に相当)と呼ばれる巨大生物がエヴリネートス全土を席捲。


約一億五千万年前。哺乳類が出現。


約一億年前。魔女ケェシェレヌルゥア降臨。自身の細胞を原生生物に埋め込み、人類の祖先となる数種の生物が出現。一気に数を増やし、小型化に進化の舵を切ったダヒリスを狩り多くを絶滅に追い込む。


約八千万年前。アハティアイリス大陸とレイオスティーリア大陸が分裂し、その際、アハティアイリス大陸からはフォルゴル大陸が分裂。レイオスティーリア大陸からはルブネア大陸が分裂し、四つの大陸が生まれる。


約五千万年前。四つの大陸に分かれた数種の人類の祖先はそれぞれ独自の進化を遂げるも、その中の一種が最も勢力を伸ばして、後の<エヴリネートス人>となる。この際、勢力争いでエヴリネートス人に敗れた他のヒト種は<亜人>と呼ばれ、特異な進化を遂げる。


約三千万年前。四つの大陸の内のアハティアイリス大陸において最初の文明<アハティリア文明>が誕生。当初は文字を持たない、口伝のみで情報を残す文明だった。


アハティリア文明は狩猟と牧畜を主とした文明であったが、その中で特に勢力を伸ばした集団の代表が、<エヴリネートス原初の王>とされ、この頃に生まれたとされる最初の文字によって石板に記録され認められた年が<真歴元年>とされた。


真歴001500年頃。アハティリア文明滅亡。原因は大寒波による十年に及ぶ飢饉とされている。一方、フォルゴル大陸、レイオスティーリア大陸、ルブネア大陸それぞれに同時多発的に複数の文明が発生してはやはり千年ほどの間にことごとく滅ぶ。なお、アハティアリア文明においては最後まで貨幣制度が生じず、物々交換が主であった。


真暦002000年頃から080000年頃にかけて、一切の記録が残されていない<暗黒時代>となる。この時期のエヴリネートス人がどのように生きていたかはほとんど分かっておらず、原人のような暮らしをしていたと推測されている。なお、この間の時間経過については<クォ=ヨ=ムイの魔石>と呼ばれる直径約二百メートルのダイヤモンド単結晶の変異率から測定されている。


真歴080100年頃。アハティアイリス大陸において再び文明が発生。<新アハティリア文明>と名付けられる。そしてまた同様に、フォルゴル大陸、レイオスティーリア大陸、ルブネア大陸に同時多発的に文明が発生する。


真歴090000年頃。一万年近く続いた<新アハティリア文明>滅亡。その原因は今もって解明されていない。一説には魔女ケェシェレヌルゥアの干渉によるものと言われてもいるが真相は不明。


真歴091000年頃。アハティアイリス大陸において<フォリダルヌス文明>が発生。<魔法>が発明されて一気に発展。<第一次魔法文明期>と後に呼ばれるようになる。


真歴102000年頃。小規模な集落が無数に点在し、魔法を基にして細々と暮らしていた者達の中に、魔女ケェシェレヌルゥアと同調してしまった者が現れ、<魔女災害>とも呼ばれる未曽有の大災害が発生。<フォリダルヌス文明>が滅ぶ。フォリダルヌス文明にも貨幣制度は生じなかったが、<魔力>を分け与えるという形の<支払い><交換手段>が存在した。


真歴105000年頃。文明を失い魔法も失い人々が再び原人のような暮らしをしていたアハティアイリス大陸において<大魔導士ハティルフス>と後に呼ばれることになる魔法使いが現れ、バーハート・ドゥリアティウヌスを君主とする<ドゥリアティウヌス王朝>を勃興。突如として大陸の半分を治める大国を作り上げ、暦を一新。<新暦>を制定。一説によるとこの<大魔導士ハティルフス>は魔女ケェシェレヌルゥアの化身ともされる。ドゥリアティウヌス王朝では貨幣制度が導入され、単位は<ギヌル>。庶民の平均的な年収は六百万ギヌル。


新暦001286年。<ドゥリアティウヌス王朝>おいて、<二十七代ドゥリアティウヌス>と、同じくバーハート・ドゥリアティウヌスを祖とする大貴族<ルルド・マハトウリスアス>との間で王位をめぐる内紛が起こり、それぞれを王として擁する国に分裂、<ドゥリアティウヌス王朝>が終わりを告げる。


同年。<二十七代ドゥリアティウヌス>こと<ワルプルギース・ドゥリアティウヌス>を王とする<真正ドゥリアティウヌス>と、<ルルド・マハトウリスアス>を皇帝とする<マハトウリスアス帝国>が勃興。アハティアイリス大陸を二分する勢力となる。マハトウリスアス帝国の貨幣は、単位が<ウォドマ>で、庶民の平均年収は二百万ウォドマ。おおむね三ギヌル=一ウォドマとされる。


新暦003362年。この時の<真正ドゥリアティウヌス>の王で、<狂王ヴァンディモニウス>と称された<ヴァンディモニウス・ドゥルーハア>の圧政に耐えかねた地方貴族らが相次いで反旗を翻し、独立を宣言。多い時には百を数える内戦が同時に発生し、ヴァンディモニウス・ドゥルーハアがこの年に何者かによって暗殺されると、真正ドゥリアティウヌスは事実上瓦解。百以上の小国に分裂した。なお、狂王ヴァンディモニウスの二代前の王<ハバルンソ>の時代から急激にインフレが進み、ギヌルの価値が急激に低下。最終的に二百万分の一に。つまり、初期の一ギヌルがこの時代では二百万ギヌルとなり、庶民の平均年収も十二兆ギヌルに。これに伴いヴァンディモニウスは貨幣を一新、<ヴァンド>を導入。百万ギヌルを一ヴァンドとしたが、これが地方貴族の反乱の最終的なきっかけになったと言われている。


新暦003364年。ヴァンディモニウス・ドゥルーハアが暗殺されて二年後、<マハトウリスアス帝国>においても、皇帝<ブンドルフォ・ドリネリアスフ>が末子<キリルティス>によって殺害されると、兄弟間で後継者争いが表面化。『我こそが正当な皇帝である』と衝突。四つの国に分裂。マハトウリスアス帝国も事実上消滅する。


新暦012233年。アハティアイリス大陸中央部において謎の大爆発<レゾンドーンの地獄>が発生。直径二千キロに及ぶクレーターができ、十五もの小国が爆発に飲み込まれて消滅した。この時の死者数は百万人に及ぶとも。さらにこの爆発の後、なぜか魔法が使えなくなり、魔法技術が突如廃れる。これは他の大陸も同様で、文明を支えていた魔法技術が失われたことで、エヴリネートス人は再び原人同然の暮らしを強いられることになる。なお、<レゾンドーンの地獄>は、魔女ケェシェレヌルゥアと邪神<クォ=ヨ=ムイ>の衝突が原因であった。魔法が使えなくなったのはこの際に魔女ケェシェレヌルゥアが惑星エヴリネートスに蓄積されていたマナをすべて使い果たしたからである。


新暦988611年。魔法を失ったエヴリネートス人ではあったものの、百万年近い時間を費やして再び文明<ブルテークス文明>を立ち上げ、暦を聖暦へと改める。


聖歴112608年。今度はレイオスティーリア大陸において<レゾンドーンの地獄>に匹敵する大爆発<ファルマクスの大破局>が発生。またも複数の国が消滅。さらにこの時に副次的に生じたマグニチュード9の地震によりレイオスティーリア大陸の三割の国や地域が壊滅的な被害を受けた。さらには、総量数千億トンに及ぶ土砂が巻き上げられ煙のように空を覆い、エヴリネートスの大半を包み、寒冷化。氷河期とまではいかなかったもののエヴリネートス全土で気温が下がり、大規模な気候変動となり、他の大陸での文明の誕生を阻害したと言われている。


聖歴130453年。鍛冶屋のブルッホと鉱山技師アクスターツによって蒸気機関が発明される。この時点では、水車を回し揚水、鉱山で水をふんだんに使えるようにするだけのものだったが、鉱山労働者らに十分な飲み水を与え食事の質も改善し、かつ<風呂>によって体を清潔に保つことができるようになり、労働環境の改善に寄与。


聖歴130649年。発明家エジル・デルソンによって<電気>をエネルギーとする照明が発明される。これ以降、科学技術が急激に発達。<産業革命>へと繋がっていく。


聖歴130763年。発明家ゲルヒス・ロットーアによって飛行機が発明される。


聖歴130797年。第一次聖歴世界大戦が勃発。神聖ファバール帝国が世界統一政府を提唱。複葉機が戦場に投入され多大な戦果を挙げる。


聖歴130799年。神聖ファバール帝国に十二国家連合軍が勝利。皇帝アルソニが死亡(死因不明)。第一次聖歴世界大戦終結。同年、神聖ファバール帝国が解体され分割統治に移行。


聖歴130953年。第二次聖歴世界大戦が勃発。同年、原子爆弾<ルドーン>、<アグーサ>、<バハドルス>の三発が使用され、第二次聖歴世界大戦終結。核抑止力の時代へ。


聖歴131187年。初の有人ロケット<アデュアイアー>を、レイオスティーリア大陸の六割を支配していた大国<ファルマクス連邦共和国>が打ち上げ、成功。


聖歴131214年。第三次聖歴世界大戦が勃発。<ファルマクス連邦共和国>が核ミサイルを使用したことをきっかけに、核弾頭を搭載した大陸間弾道ミサイル二千発以上が使用され、全人口の九割が死亡。四割の動植物の種が永久に失われ、<ブルテークス文明>が滅び、聖歴が終わる。


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