第26話:その音色

 オレがシャワーを済ませて部屋に戻ると、着替えた神谷がMacBookから音楽を流していた。英詞だったが発音の悪さからして日本人だ。


「あ、悪かったな、勝手に音鳴らしてて。良いギターって噂の曲で」

「別に」


 オレはクローゼットまで歩き、バスタオルを落として下着と寝間着を手に取ろうとした瞬間、ギターソロが始まった。



——この音色は……



 もう一度冷静に、包括的に曲全体に耳を傾けてみる。


 ヴォーカルは英語の発音が下手だが発声は悪くない。ベースは時折不安定、かろうじて崩壊していないのはドラムが安定しているからか。


 そしてこのギターだ。


 ソロが終わるとすぐにリズムギターに引っ込んだが、これはギター一本で録っている曲だとオレには分かった。


「いおい」


 ハッと我にかえると、曲が終わっていて、オレは全裸のままだった。

「風邪引くぞ。早くなんか着ろ。それかもっかいするか?」

「結構だ」

「いおい」

「何だ」

「このギタリストとも寝るのか」

「まだ分からん」

「ハッ! 否定はしないんだな!」


「神谷」


 俺は神谷の方に向き直り、口を開いた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る