亮太編



 俺には親友と呼べるようなヤツはいなかった。


 小さい頃から親父の転勤のせいで引っ越しを余儀なくされていた。


 そのせいか人と深く付き合うことを無意識のうちに避けていたのかもしれない。


 そう思っていた中学二年生の時だった。


 新しい転校先で隣の席になった片瀬というヤツに俺はなぜだか興味を持った。


 男から見てもイケメンで背も高い片瀬は俺から見るととても大人っぽかった。


 自分から話しかけたりすることもなく、俺たちが女子の話題やエロ本で騒いでいてもスンとしていた。


 かと言って俺が話しかけると案外ノリがよく楽しいヤツだった。


 自然と俺たちはいつも二人でいるようになっていた。


 片瀬といるのがなんだか心地よかった。


 気付いたのは三年生になって進路の話をしている時だった。


「亮太は高校どこ行くか決めた?」


「ああ、家から近いからあそこかな。片瀬は?」


「なら俺もそこにするわ」


「は? お前ならもっといいとこ行けんじゃねえの?」


「受験勉強すんのめんどくせえし」


「はは、そんなに俺と一緒に居たいのかよ」


 冗談で言ったつもりだった。


 片瀬の顔を見た俺は一瞬ドキッとしてしまった。


 顔を赤くして少しうつむいた表情。


 俺はこの表情を知っている。


 女の子が俺に告白してくる時の表情だ。


 恋をしている表情。


 まさかコイツ……。


 思えば心当たりがたくさんあった。


 片瀬はいつも俺を見ているしよく俺の頭を撫でる。


 女子の話題にのってこないのは女子に興味がないから。


 モテるのに一度も彼女を作ったのを見ていない。


 ということは片瀬は男が好きなのか。


 そうか、そういうことだったのか。


 片瀬が俺のことをねえ。


 それから俺は片瀬を観察するのが楽しくなっていた。


 俺の言葉や行動にいちいち赤くなったり嬉しそうにしたりする片瀬がいつの間にか可愛く思えてきたのだ。


 高校生になってもそれは変わらなかった。


 クラスが離れても片瀬は毎日俺のことを迎えに来る。


 相変わらずモテるのに誰とも付き合わない。


 俺を見る目はあきらかに好きだと言っている。


 片瀬はどうしたいのだろうか。


 告白してくる気配もない。


 俺に彼女ができたと言ってもスンとしている。


 このまま親友でいる気なのか?


 俺はだんだん腹が立ってきた。


 お前は俺とどうこうなろうとは思わねえのかよ。


 そんなに好きなら告れよ。


 いや、ちょっと待て。


 告られたら俺はどうすんだ?


 片瀬と付き合うのか?


 付き合うってことは……やっぱヤるんだよな?


 キスしたりエッチしたり。


 待て待て。


 え、どう考えても俺が挿れられるほうだよな。


 え、俺、片瀬に挿れられんの?


 てか、アイツヤったことあんのかな?


 男と……。


 俺以外の男と……ヤんのかな……。


 ちょっ、なんだよこの気持ち。


 片瀬が俺以外の男とキスするとかあり得ねえんだけど。


 お前が好きなのは俺だろ?


 いや、俺は何を考えてんだ?


 まさか俺って片瀬のこと……。


 一人で想像しながら顔が熱くなっていくのが自分でもわかった。


 よし。


 まずは片瀬に告らせよう。


 そして俺は……尻の準備をしておこう。


 俺は妙にはりきっていた。





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