第10話



 夏休みも残り十日ほどになっていた。


 俺の家で亮太と二人、夏休みの宿題に追われていた。


「あーもう。全然終わんねえ」


 俺は休憩だと言ってベッドに横になった。


「じゃあ俺も休憩」


 亮太はそう言うと俺の隣に寝転んだ。


「な、なんだよ」


 また亮太のやつ、距離感おかしいって。


 亮太の不意打ちに俺の心臓がドキドキし出した。


 俺は冷静をよそおうのに必死だった。


「なあ、片瀬」


「ん?」


 今日の亮太は気のせいかどことなく元気がなかった。


「ずっと気になってたんだけどさ」


「うん」


「……あの時、俺にキスしなかった?」


「はあ!?」


 俺は飛び起きた。


 待て待て待て。


 あの時って、あの台風の夜だよな?


「なんかキスされたような感触があんだよな」


「ゆ、夢でも見たんじゃねえの?」


 嘘だろ?


 まずいって。


「だ、だいたい何で俺がお前にキスすんだよ」


「さあ。……好きだから、とか?」


「は、はあぁ?」


 ヤバい。


 顔が熱い。


「どうせお前寝ぼけてたんだろ? さっ、宿題やろうぜ宿題」


 俺はベッドから下りた。


「……ふーん。そうやってなかったことにするんだ」


「なっ……」


 これは、……バレてる?


「何言ってんだよ。男同士で好きとかありえねえだろ?」


 俺はもう亮太の顔を見ることができなかった。


「……そっか。わかった」


 亮太もベッドから起きてきた。


「俺ん家さ、また引っ越すことになった」


「はあ?」


 亮太はうつむいたままだった。


「明後日の夕方には荷物を運び出す」


「そんな急に……嘘だろ?」


「だから最後に片瀬の本心が聞きたかったんだけど無理だったな」


 亮太が少し怒っている。


「亮太……?」


「今まで本当にありがとうな。いろいろと付き合わせて悪かったよ」


「ちょっと、……亮太っ」


 亮太は荷物を持って部屋を出て行ってしまった。


「亮太ぁ!」


 何なんだよ。


 嘘だろ?


 ちょっと待ってくれよ。


 ……もう亮太と会えなくなるのか?


 これが最後なのか?


 突然の絶望に俺はただ座ったまま動くことができなかった。





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