第8話



「……たせ……片瀬」


 目を覚ますと亮太の顔が目の前にあった。


「うわぁっ」


 俺は飛び起きた。


 そうだった。


 昨日亮太と一緒の布団で寝たんだった。


「はは、なんだよ片瀬。顔真っ赤だぞ?」


「えっ? いやいやお前が横に寝てたから驚いただけだ」


 俺は昨日のキスの感触を思い出していた。


「台風は過ぎたみたいだけど、まだ停電してる」


「そっか。山の中だから時間かかるのかもな」


「うん」


「で? お前何でまだ寝てんだ?」


 布団に寝たままの亮太を見て俺は言った。


「うーん。なあ、今日一日くらい休まねえ?」


「え? いいのか?」


「あとは庭掃除と草むしりくらいだろ?」


「亮太がいいならいいけど」


「やった。じゃあ今日はもうのんびりしようぜ」


「おう」


 俺は嬉しかった。


 ここの片付けが終わったら二人きりの時間も終わってしまうと思うと正直寂しかった。


 一日でも長く亮太と居られる時間が増えたのが嬉しかったのだ。


 俺はにやける顔を見られないようにと立ち上がって、昨日閉めた雨戸を開けてまわった。


 台風だったとは思えないほどのいい天気だった。


「わあ、気持ちいいな」


 俺が縁側に座って外の景色を見ていると、亮太も起きてきた。


「うん」


 亮太は俺の隣に座った。


「なんかゆっくり景色も見てなかったな、俺たち」


「俺も今思ってたとこ。いいところだよなここ」


「うん」


 昨日の雨でまだ少し濡れている夏の緑の木々たちがキラキラと輝いていた。


「なんかこういうのもいいな」


 亮太がぽつりと言った。


「ん?」


「将来片瀬とこうやってのんびり過ごすのも悪くないなって」


 は? 亮太何言ってんだ?


「……そうだな」


 亮太と目が合った。


 なんだよその顔。


 そんな顔すんなよ。


 俺、勘違いするだろ。


「はは……」


 亮太は優しく俺に微笑んだ。


 朝の心地よい風が、俺のほてった顔を冷ましてくれていた。




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