第6話 山賊討伐

 トルネア村から一つ山を越えた所にある砦址、山賊の本拠地前にハラダとハンセンそして随行員として受付のエリナがやって来た。 


「エリナ殿、本当に大丈夫なのか? 出来るだけ気を配るが乱戦になれば危険だぞ?」


「大丈夫ですよ、ハラダさん。こう見えて私、元冒険者ですから」


 エリナは無い胸を張る。


「まあ、C級だがな。嬢ちゃんは基本この本拠地前で待機だし、危険だと感じたら逃げる手筈だからな。戦うのは無理でも、『逃げ帰る』だけなら出来るはずさ」


「ハンセンさんそれは言いすぎですぅ。私もちょっとなら戦えますよ!」


 ハンセンの言いように文句をいうエリナ。


「わかったから、敵前なんだから二人とも静かに頼む」


 ハラダはちょっと声の大きい二人を注意する。


「「すいません」」


 二人は謝り、目配せをして声量を落とした。


「では作戦通り、エリナ殿はここで待機。危険を感じたら帰還すること」


「はい、わかってます」


 神妙に頷くエリナ。


「私達は二人で突入。ハンセン殿、臨機応変でよろしいか?」


「了解です師匠」


「では、行こうか」


 ハラダはハンセンを引き連れて、崩れた右側の壁を目指し山道を走り始めた。

 右に左に蛇行しながら登っていく山道は、遠距離攻撃の格好の的だ。走り始めて間もなく、砦の左右に位置する櫓から矢が断続的にハラダ達を襲う。


「ハンセン殿! 止まってはダメだ! 走りながら緩急をつけて体を左右に振って狙いをつけさせるな!」


「そ、そんなことを言っても! うわっ、アブねえ!」


 動きが緩慢なハンセンの方を先に仕留めようと、ハンセンに矢が集中し始める。


「まずいな」


 ハラダは走る速度を速め、目指す右側の壁付近に建てられた櫓の弓兵に、持っていた小刀(ナイフ)を投げつけた。


「グワッ!」


 喉元に小刀の直撃を受け、弓兵は櫓から落下し、右の櫓からの攻撃がなくなる。ハラダがハンセンを振り返ると大岩の影に飛び込み避難した所だった。


「よし! ハンセン殿、大丈夫か!?」


「はい、師匠! 先に行ってください。必ず追いつきますから」


「わかった!」


 ハラダは落下した弓兵から小刀を回収すると、背中に背負った六尺ほどの真新しい槍を抜いて構え、崩れた右壁に走りこんだ――


*****


「この槍をタダで修理してくれるのですか?」


 ゴランからの作戦説明が終わった昨日、ハラダはゴランから無料での槍修理の提案をされた。


「ああ、報酬の一部だと思ってくれ。さすがに折れた槍使いに負けたマスターなどと噂されたら堪らんからな。見る限り穂先は上物だし修理すればいい武器になるだろうしな」


「しかし、私は他の武器を持っていませんので……」


「イヤイヤ、直す間は相応の武器は用意するさ。このあとギルドの武器庫に案内するから好きな物を選んでくれ」


 ハラダは武器庫で魔法付与も何もない地味な槍と、小刀を選び作戦に挑むことにした。

 ゴランは『もっと良い物がある』と、強力な魔法付与の高級槍などを勧めたのだが、ハラダは『コレが良い』と譲らなかった。

 ハラダが槍を返した後でわかったことだが、その槍は無名時代の国宝級鍛冶師の作だった。


*****


「うがあああ」


 壁内側の庭で、ハラダの侵入に気付いた山賊が、上段に剣を振りかぶる。


「シッ」


 ハラダは、そのがら空きの胴に槍を突き出す。

 その鎧越しに伝わる衝撃で、『くの字』に体を曲げる山賊に対して、右からの袈裟切りをお見舞いする。


「うわぁあぁぁ……」


 悲しげな声をあげながら、膝から崩れ落ちる山賊。


「ギヒャッ」


 それと同時に砦内部に向う階段の上から、ゴブリンがハラダ目掛けて石を投げた。

 ハラダはその石を避けながら階段を駆け上り、上段から袈裟切りに槍を振り下ろす。


「ヒャゥッ」


 しかし、ゴブリンはハラダが登りきる前に、階段から横に跳び下りる。

 ハラダは振りを利用し階段横下に、頭から突っ込む形で体を投げ出し、ゴブリンの脳天に槍を突き刺した。


「ゲヒャァァ~」


 ゴブリンは断末魔の叫びと共に倒れた。

 ハラダはゴブリンの死体に目もくれず、階段をまた駆け上り砦内部に侵入した。




 砦内部は壁こそあれど、天井は落ち青空が見えている。

 部屋の入り口の扉は壊され、中の様子を窺い知ることが出来る。


 ハラダが侵入した奥の部屋には、大男の山賊が両手に小刀を持って待ち構え、その横壁には山賊の剣士がいる。

 ハラダが大男に突進した時、首から提げた印籠が一瞬光る。

 その瞬間、後ろから『パンッ』と乾いた音がして頬を何かがかすめた。


(鉄砲か!?)


 ハラダは咄嗟に左に飛び、大男と距離を取る。

 そこに山賊の剣士が飛び込んで、剣を豪快に空振りした。


「危ない所だ」


「なんだと! 俺らの三位一体攻撃を避けやがった」


 ハラダは大男と剣士と睨み合う。

 このときハラダは頭で三十数えて後ろに飛んだ。そこにまた銃声がして、銃弾が横切るのが見える。

 ハラダはその軌跡から、二階の壁の穴から狙撃手が狙っていると判断し、また鉄砲の弾込めに少しかかると予想する。

 そして、その間に敵二人を殲滅すると決めた。


 ハラダに向って飛び出す大男。その大男に対し上段右からの袈裟切りで動きを止めるハラダ。


「ぐあっ」


 大男がのけぞった、そこに後ろから割り込もうとする剣士。

 ハラダがまた距離を取ろうとした瞬間、剣士に向かって勢い良く進む黒い影が見えた。


「師匠ご無事で!」


 ハンセンが剣士を横から突き刺した時、ハラダは大男の空いた胴に右から横なぎの槍を振りぬく。


「ぐおおおぉ……」


「があぁぁ……」


 敵二人が同時に崩れ落ちた時、ハラダは二階の穴から覗く男に向って小刀を投げる。


「ぎゃっ」


 短く悲鳴をあげた狙撃手だが生死はわからない。

 しかし、『狙撃はもう出来ないだろう』と判断し、ハラダはハンセンに話しかける。


「ハンセン殿。助かった礼をいう」


「師匠の手間を省いただけですよ。助けたことになりません」


「いや、二階から鉄砲で狙われて、てこずっていたんだ」


「鉄砲?」


 ハラダが言っている鉄砲が何か、ハンセンは理解していない。


「ああ伝わらんか……ええと、筒から火を吹いて弾が出るやつだ」


「マスケット銃ですか!? そんな高級なものなんで山賊が?」


驚くハンセン。


「そうか、マスケット銃と言うのか。それをナゼ賊が持っているかは、私にはわからんがな。そうだ! その辺に弾が転がっているはずだが……」


 ハラダに言われて床に目をやるハンセン。


「あっ、あった。確かにマスケット銃の弾ですね。そういうことなら、今回確実に討伐しないといけませんね」


「魔物との共闘も確認した。討伐が遅れると被害が拡大しそうだ。よし、とにかく急ごう」


 ハラダとハンセンは部屋の出口から通路に出る。

 通路には敵はいなかったが、通路を進み天井のある、部屋横の階段から二階に出ると、敵が十数人と魔物が数体待ち構えていた。


「行くぞ!」


「おう!」


 二人は敵中に飛び込みながら観察し、同士討ちを避けるため弓兵や狙撃手が撃ってこないとみると、急接近と離脱を繰り返して弓兵、狙撃手を先に潰した。


「よし! 次!」


 それを見た他の山賊達は逃げ出そうとしたのだが、そうすると共闘していたはずの魔物たちが、突然山賊を食い殺し始めた。


「うわっ、こいつらさっきまで味方だったのに!」


「ぎゃあっ! やめろ! 噛むなぁ!」


 阿鼻叫喚の山賊達。山賊達は次々と魔物の餌食となる。


「これはイカン! ハンセン殿! 先に魔物を潰すぞ!」


「わかりました!」


 山賊より魔物を優先討伐するハラダ達。


「セイィッ」


「ウリャァッ」



 次々と魔物を倒す二人を見て、壁際で震えていた山賊二人は、助けてもらったことに感謝し投降した。


「すいやせん、降伏します」


 その降伏を受けて山賊を縛っている時、ハンセンが山賊に話しかける。


「おまえらの首領はどこだ? それらしい奴を見かけなかったんだが?」 


「首領は二週間前に出てったきり帰ってません。ですが、地下に首領が連れて来た人質がいます。何か首領の情報を知ってるかも? そこに案内しますから、俺達の命だけはとらねえでください」


 投降した山賊は人質を捕らえていることを白状し、ハラダ達は一人の少女を地下の牢屋から救い出した。


*****


「それで、この子がその少女ですか?」


 待機していたエリナが質問する。

 銀色の髪の少女がハラダに手を繋がれている。

 勝気な顔つきをした細身の美少女だ。


「ああ、で、こいつらが山賊の生き残りだ」


 ハンセンが後ろ手に縛られ、腰紐につながれた二人の山賊を地面に転がした。


「別にそいつらはどうでも良いですよ。一応、情報源なので殺さないように手配はしますけど……」


 エリナは興味なさそうに山賊を一瞥すると、すぐに少女に向き直った。


「あの、お嬢さんお名前を教えてくれる?」


 満面の笑みで話かけるエリナ。

 しかし、少女はおびえた表情でハラダの後ろに隠れてしまう。


「あちゃぁ、こりゃ重症だ……よほど怖い目にあったんだねえ」


 エリナは溜息をつきながら、腰に手を当て夕焼けを眺める。


「どうすんだ? エリナ嬢。もうすぐ夜だ、今から女の子一人を連れて下山できないぞ」


「あら、ハンセンさんは夕食要らないのですね? ここにいる女の子は二人ですよ」


 顔は笑顔だが、目が笑っていないエリナ。


「おっと、スマン。そんな気は無くてだな、エリナ嬢はもう大人だから子供扱いは嫌かと……」


「別にいいです、冗談ですから。それより、コレでここでの野営が決定しました。しかし、携帯食は三人分しかありません。捕虜は飯無しは当然ですが、私達誰かがその子の分の食事を提供することになります」


「それは、私の分で良いぞ。別に一食ぐらい構わんからな」


「いえ師匠、そこは私の分で。師匠は八面六臂の活躍でしたから、食べてもらわないと」


 ハラダとハンセンが自分の分を渡すと言いだすと、あわててエリナが話に割り込んだ。


「お二人ともズルイです。私も『減量してるので』って言おうとしたのに先に言っちゃうから」


「いや、エリナ殿は少し華奢だからな、食べないのは感心しない」


「そうだよ、嬢ちゃんは食べないと。色々と大きくなんないぞ」


 ハラダとハンセンに悪気はない。(いや、ハンセンはちょっとある)

 でも、多感な時期の色々悩みの多い女子にとっては、わかったつもりの駄目な男の言い草だった。

 エリナは『イラッ』としたのか、今にも舌打ちしそうな表情で二人を睨みつける。


「私の悩みなんてちっともわかんないのに、いいかげんなこと言わないでください! わっかりました! お望みどおり二人とも食事抜きです。私の物と合わせて、全て食料は少女と捕虜二人に渡します、良いですね!!」


 なぜか、怒り出したエリナに、どうしたら良いかわからない男二人。

 しかし、エリナをなだめることも出来ず、男二人の食事無しは決定したのだった。

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