第5話 試合と特別戦闘冒険者

 半刻後――


 ハラダが地下訓練場に下りると、どこから湧いたのか観客がぐるりと訓練場を囲んでいる。

 かき分けて中に入ろうとした時、中からゴランの声がした。


「おら、野次馬ども道を開けろ! それからハラダ! 中に入る前に横の壁にある武器を選べ!」


 ゴランの声に観客が道を開ける。


「ふむ、地下にしては広いな。町道場の稽古場ぐらいか」


 ハラダは横の壁から、迷わず六尺ほどの木の槍を選んだ。


「ほう、木槍か」


 訓練場の中心で待つゴランは、手に身の丈ほどある大きな木槌を持っている。

 ハラダは自然体で歩き、ゴランの目の前に立った。


「ほお? 自信がありそうだなハラダ。 よし、準備はできた。ハンセン! お前が審判をやれ!」


「うるさい、元よりそのつもりだ!」


 ハンセンが審判の位置に着き、ゴランとハラダは開始線に立つ。


「両者わかってると思うが、殺すなよ」


「おう」


「承知」


 ハンセンの問いかけに返事する二人。


「では、御託を並べてもしょうがない。始め!」


 ハンセンが開始の合図を出した。


「ウオオオオォッッ」


 両手を広げ雄たけびをあげるゴラン。

 同時に一足飛びで、木槌を下から斜め上に振り切った。


ブオンッ


 ハラダは小さく後ろに跳び、紙一重で避ける。


「チッ、避けたか」


 大きな木槌を片手で軽々と肩に担ぎ、半身に構えて余裕をみせるゴラン。

 その瞬間、ハラダが素早く木槍を横に振り回し、足首と腹に二連撃を入れる。


「グッ、ぐあうっ」


 必死に痛みをこらえるゴラン。

 ハラダは、動けないゴランに追撃せず距離を取った。


「なめるなよ! くそがあああ」


 『舐められた』と怒ったゴランは距離を取り離れたハラダを、木槌を下から上から振り回して追いかける。


「うら! たあっ くそっ、当たらん!」


 柳の枝のごとく柔らかい足さばきで、木槌をかわすハラダ。


「くそ! まちやがれ!」


 ゴランは、イラつき捕まえようと手を伸ばす。


「フッ」


バチンッ


ハラダは、体を開いてその腕をかわし木槍で手をはたき落とす。


「くそおっ ナメやがって!」


 ゴランは怒り、木槌を振り回す。


 ハラダはそれを右へ左へとかわし、適度に挑発するように攻撃を入れ続ける。


「キサマ! やる気あんのか! ウラァ!」


 ゴランはさらに怒って木槌が大振りになりはじめた。

 ハラダはそのまましばらくゴランの攻撃をかわし続ける。


「そろそろか?」


 ゴランの息遣いが荒くなり、足元がおぼつかなくなってきたのを見たハラダは、そうつぶやくと突然、木槍で受けの構えをとった。


「はぁっはあっ。 や、やっと止まったか……ぐふっ……ふうっ」


 ハラダに追いつき、なんとか息を整えたゴランは、木槌を横から回しながら振りかぶった。


「そんな木槍なんぞが、木槌の一撃に耐えられる訳ないだろうがぁ!」


 そう言って、渾身の一撃を振り下ろす。


ガツンッ


 木槍が木槌をまともに受けた。

 普通なら細い木槍は真っ二つに折れ、ハラダは大怪我となるハズだった。


「ふんっ」


 しかし、木槍は折れず木槌を押し返した。

 バランスを崩し、ゴランの動きが一瞬止まる。


 ハラダはその隙を逃さず、ゴランの肩口に木槍を振り下ろした。


「ガッ」


 のけぞるゴランを予測していたかのように、大きく踏み込む。そして懐に入り込み腹に突きを放つ。


「ぐうううううっ、くそっ」


 たまらずゴランは腹を押さえ、次の攻撃を避けようと横に大きく跳んだ。

 しかし、ハラダはそれに上手く合わせて、ゴランの左脇腹に張り付く。

 そして、高速の三連突きを、わき腹にお見舞いした。


ダダダッ


「がはぁっ」


 ゴランはたまらず崩れ落ち、床に膝と両手をついた。

 ハラダはゆっくりとその首に、木槍の先を当てる。


「勝負あり! 勝者ハラダ!」


 ハンセンはハラダの勝ちを宣言した。

 ハラダは木槍をゴランの首から外し、開始線に戻って一礼した。

 あっという幕切れに、そして遊んでいたとも思える、圧倒的な内容に、観客達は呆然としている。


「ぐぅっ。 完敗だ……とんでもない奴だなこりゃ」


 痛みをこらえながら、ゆっくり立ち上がるゴラン。


「お、おい……なんだよアレ、マスターが遊ばれてまったく歯が立たなかったぞ?」


「ゴランさんA級だろ? さすがに新人に手加減したんだろうよ」


「いやいや、手加減したにしても完封だぞ? 攻撃一つ通ってないんだ、やっぱり新人が強いってことじゃ……」


 観客達が気を使いヒソヒソと議論する中、ゴランがハラダに近付いて話しかけた。


「ワハハッ! 強いなハラダ。まさか、こんなに差があるとは思わなかった!」


「フフッ、たまたまだ。試合だから上手くいった。真剣勝負だったらわからない」


 ゴランはハラダの強さを称え笑い、ハラダは謙遜し微笑む。


「さあ、負けたのは俺だ、ちゃんと約束は果たすぜハラダ殿。この後ハンセンと俺の部屋まで来てくれ。そこでギルド証を渡す」


 そう言って壁に木槌を壁に戻すと、ゴランはそのまま訓練場を出て行った。



 ゴランがいなくなると、様子を伺っていた観客がハラダとハンセンを取り囲む。


「おい! スゲエな。あのゴランさんを子供扱いかよ?」


「絶対おかしい! おめえ何かイカサマでもしたんだろ! そうでなきゃマスターが負けるはずがねえ」


「まてまて、それならあのゴランさんが、部屋に引きあげるはずねえだろ? 本当にイカサマだったなら今頃ここは修羅場になってるぜ!」


「じゃあなんだ! この新人が実力で勝ったとでも思ってんのかよ!?」


「そりゃ、運もあるだろうがな。試合を見た限り、ほぼ新人の実力勝ちだと思うぜ?」


 ハラダを取り囲んで、遠慮なしに試合の感想をぶつけてくる。

 そんな観客達をハンセンが制した。


「はいはい、感想戦はそのくらいにしてくれ。そのギルドマスターに呼ばれているからな、すぐいかなきゃならん。道をあけてくれ」


 二人を取り囲んでいた観客は、まだ『聞き足りない』と渋々だったが囲みをといた。


 ハラダは観客の横を抜け壁に木槍を戻し、ゴランの待つギルド長室にハンセンと共に向った。


******


コンコン


「入れ」


 木扉を軽く叩き返事を待ってから、ハンセンが扉を押し中に入った。

 それにハラダも続く。


 部屋の中は両側の壁に書棚があり中央に机がある。それを挟んで麻布張りの背付き長椅子が置いてあるだけの殺風景なものであった。


 奥の板壁には一つ、長柄の斧が掛けてあるがそれだけである。

 ハラダが部屋を見渡していると、奥の椅子に座るゴランから声がかかった。


「まあ座れ」


 そう言われて、ハラダはすでに着席していたハンセンの横に座る。

 ハラダが座ったことを確認して、ゴランはハラダに向き直った。


「まずはハラダ殿。いきなり試すようなことをして申しわけない」


 ゴランは神妙な面持ちで、座ったまま両膝に手をつき頭を下げた。


「いや、頭をあげてください。責任者たるもの得体のしれない男を調べるのは当たり前です、謝るようなことではない」


 ハラダは、すぐさま頭をあげるようゴランに促す。ゴランは、顔をあげたが神妙な面持ちのままだ。

 そんな様子を『ニヤニヤ』と見ていたハンセンが、ゴランに話しかけた。


「ゴラン、どうだ私の目に狂いはなかっただろう? お前、師匠に攻撃が一発も当たらなかったなあ。始まる前の勢いはどうした?」


 ハラダの強さに、ハンセンはちょっと優越感に浸っているようだ。

 ゴランは悔しそうにハンセンを睨んだが、すぐに表情をやわらかくしハラダの方を向く。


「ああ実は、ハンセンの弟子入りを聞いた時に、これは『俺を担ぐつもりだな』と思ったんだ。だから、試合はちょっとしたお仕置きのつもりだったのさ。でも、あっさりとやられたよ。昔<SS>級と手合わせした時以来だ、ここまで完膚なきまでに負けるのは」


 『フッ』と笑い背もたれにもたれかかるゴラン。

 その自信喪失というか少し哀愁が漂う姿に、ハンセンが気を使ったのかハラダに話を振った。


「師匠。実際戦ってみて、ゴランはどうでしたか?」


「うむ、その……なんだ、勝者が語るべきではないと思うのだ……」


(勝者が試合について語れば、敗者に鞭打つことになるのではないか?)

『武士は情けを知る』が持論であるハラダは、口を濁す。


「ハラダ殿。当事者の私からもお願いする。今後の鍛錬の為にも、感想があれば、是非とも教えてもらいたい」


 しかし、相手に直接頼まれれば、ハラダもさすがに断れない。


「了承した。では話そう……ゴラン殿はあの重い木槌を軽々扱える。力については素晴らしいものがあるが、その為か『威力を重視しすぎている』と感じた。連撃中は少ないが、強撃の後に、ほぼ確実に大きな隙が生まれていた」


 ハラダは気付いた事を話す。


「ゴランが木槌を振り回し、師匠を追いかけていた時に観察していたのですな」


「ほう? あのガードは、俺の攻撃後の隙を引き出す為、ワザとですか!?」


 ハラダの観察眼と戦術に感心する二人。


「ガード? ああ<受の形>のことか。そうだ。攻撃的な性格からして、たぶん強撃を出してくると思っていた」


 ハラダはそれを受けて、ゴランの行動を読んでいた事を明かした。


「強撃でない場合の対処は考えていたのですかな?」


「強撃でないなら連撃だろうと。連撃なら受け流しに切り替えて背後をとるつもりだった。その他なら、臨機応変で対応するしかなかったけどね」


 とりあえず二段構えに構えていた事も話した。


「ううむ、アレだけの短い間にそこまで読まれていたとは。俺がハラダ殿に勝つには、予測外の攻撃で尚且つ反応を……」


 ハラダの話に身を乗り出して聞いていたゴランは、ゆっくりと背もたれに身を預け、一人ブツブツと真剣に考え始める。

 そのゴランの顔を見たハンセンは、安堵し含み笑いをした。


「失礼します!」


 声をかける時期を伺っていたのであろうか? 

 話の途切れた絶妙な間で、部屋の外からエリナの声がした。


 その声で、思考の渦に飲まれかかっていたゴランが『ハッ』と声に気付き、我に返った。


「入って来い」


 ゴランが入室許可を出すとエリナが入ってきた。


「エルダーエイプの討伐証明がなされましたので、その報酬と先ほどマスターから指示のあったギルド証をお持ちしました」


「ご苦労。机の上に置いてくれ」


 エリナは持ってきた四角い盆をゴランの前に置いて後ろに控えた。

 机に置かれた盆の上には、大板の金貨一枚と何やら書かれている小札がある。


「まずはエルダーエイプの討伐報酬からだな。エリナ説明を」


「はい、ハラダさんが持ってきたエルダーエイプの耳の切り口が、ギルドに持ち込まれた死体と一致しました。ですのでA級モンスターの統一討伐報酬である、大金貨一枚をお支払いします」


 ゴランが大金貨をハラダに手渡した。

 ハラダはしげしげと眺めていたが、ハンセンに『預かりましょうか?』と言われ、そのままハンセンに金貨を渡す。


「確かに預かりました」


 それを見て二人の事情を知らないゴランは、ハンセンを茶化す。


「なんだハンセン、すでに師匠の金庫番まで務めているのか?」


「ああ、そうだ。まあ、さっきルネに乗せられて散財したばかりだがな」


 思わず口走って『ハッ』と口を押さえるハンセン。

 その様子をみて『ハァ~ッ』と大きく溜息をつくゴラン。


「おいおい、それで金庫番なんて大丈夫かよ? そんなんじゃ、すぐ愛想つかされるぞ? ハラダ殿の強さなら、師匠として引く手数多だろうからな」


 ゴランの言葉を聞いて、心配そうにハラダの顔をうかがうハンセン。

 ハラダは、ハンセンから目線を逸らせた。


「まあいい、次だ次! ハラダ殿の冒険者資格についてだ。コレは俺から説明する」


 ゴランは盆の上の小札を取ると、ハラダに手渡した。

 蘭字に似ているがハラダには、なじみが無い文字だ。

 しかし、眺めているとなんとなく意味がわかるような気がした。


「特別戦闘冒険者?」


「おお! なんだ字読めたのか? エリナから書類は全部ハンセンが書いたと聞いたから読めないのかと思ってたんだがな?」


「師匠! 字読めたんですね、よかったコレでイザというとき伝言を書き残すことが出来ます」


 ゴランとハンセンから喜ばれ、ハラダは『なんとなく』とは言えず苦笑する。


「ゴラン、この<特別戦闘冒険者>とはなんだ? 私も聞いたことが無いぞ?」


 ハンセンが聞いたことが無いというこのギルド証について質問した。


「ああ、これはな、いくつもの戦功をあげた戦闘経験豊富な強者に許される、特別なギルド証だ。通常のランクアップだと、ランクが上がるまで時間がかかるだろ? 緊急戦闘案件の召集時に、ギルド未登録の強者相手に発行できるものだが、普通はまず発行されないな。なぜなら、条件がギルドマスターと試合して引き分け以上であることだからだ」


「なるほどな、普通A級以上で任命されるギルドマスターに勝てる者など、そうそういないからな」


 ハンセンは納得とばかりに、腕組みして深く座り直した。


「それで、コレを発行するってことはだ。今、『緊急の戦闘を含む案件』があるってことだ。」


「ああ、あの山賊の大規模討伐の事だろう?」


「そうだ! と言いたいが……ちょっと違う。ハンセンに依頼したのは陽動作戦の方だからな」


「陽動!? てことは別の本命があるのか?」


 ハンセンは自分が依頼された作戦が<陽動>だと知り驚く。


「本命はある。それにハラダ殿の参加を願いたい。急だが、明日の山賊討伐の特別依頼を受ける気は無いか?」


 ゴランは本題を切り出した。


「特別依頼だと!? そんなに高難度作戦なのか? どんな作戦なんだ?」


 ハンセンは内容をゴランに問う。


「当たり前だが、陽動とは全然違う作戦だ。ハンセンへの依頼は増えすぎた山賊の掃討&陽動作戦で難易度Cだったが、こっちは少数精鋭で砦に乗り込み壊滅する作戦で難易度Aの難しい特別依頼だ」


 ゴランは砦を壊滅させる作戦だと打ち明けた。


「敵の本拠地に、少数で乗り込んで壊滅するだと? 山賊の本拠地は、周辺の魔物と潰し合いさせる為に、今まで捨て置いてワザと残していたんだろ?」


 ハンセンは機密情報まで、持ち出してゴランに問いただした。

 

「おい、それは機密だぞ? 迂闊に喋るな……まあいい、偵察情報によるとだな、最近魔物が砦内にいることが確認されたんだ。どうやら山賊達に優秀な魔物使いが仲間入りしたらしい。山賊と魔物が潰しあわずに、戦力を増強している。コレを捨て置けないから、山賊掃討作戦を囮にして、同日に壊滅作戦もやることになったのさ」


「大部隊で動くと総力戦になる。それを避ける為の少数精鋭か……それにしても、明日だろ? 難しい依頼なのに急だな? 師匠を参加させなくちゃいけない理由でも出来たのか? もしかして、主要メンバーにドタキャンでもされたか?」


 ハンセンは冗談気味にゴランに聞いてみた。


「よく判ったなそのとおりだ。ちょっと前にメンバーの一人、雑貨屋のルネが急にやって来てな。『気に入った男がいる。ハラダを参加させないと行かない』と言い出したんだ」


「なんだって? ルネが?」


 目を見開くハンセン。


「こちらは『そんな名前も知らない奴を入れられない』って突っぱねたんだが。譲らなくてな。『わかった、試して使えそうなら入れる』と約束して納得させたのさ」


「(ルネめ、あいつ何とか師匠と繋がりを作ろうと企んだな)師匠! この依頼やめましょう。悪い予感しかしません」


「なんだ、ハンセン? そんなに心配なら、お前も特別依頼を受ければいいじゃないか?」


 ゴランがハンセンを誘うが、それに対し難色を示すハンセン。


「普通の山賊退治ならまだしも、本拠地に少数で乗り込むと確実に死角が出来る。私が死角からの攻撃にトラウマがあるのは知ってるだろ!」


「お前、本当に死角が嫌いだよなあ」


 ゴランはあきれたようにつぶやく。

 ハラダも渋るハンセンに意思を示す。


「ハンセン殿。私は、山賊討伐依頼を受ける為にここに来た。だから依頼は受けるぞ」


 ハラダは山賊討伐を受けた。


「おお、ハラダ殿受けてくれるか! じゃあ頼む」


「ゴラン決めるの早いぞ! エリナ嬢! 君も止めてくれよ」


 エリナに助けを求めるハンセン。


「ハンセンさんヤキモチはやめましょう。私はギルド職員ですよ? ギルドの依頼を受けてくれる人を止めたり出来ませんよ? 大体ルネ様がハラダさんを狙っても、何も問題ないでしょう? 恋愛は自由ですから」


「し、しかしだな……師匠に悪い虫がつくのは……」


 反論できず、しどろもどろになるハンセン。


「あら? ハンセンさん、もしかして男色ですか?」


 エリナが、そこに爆弾を放り込む。


「ち、違う! 私はルネのことが!…… ハッ!」


 ニヤニヤと、してやったりの顔で、ハンセンを見つめるゴランとエリナ。


 ハンセンは、顔を赤くし下を向く。

 ハラダは、状況がよく分からず、双方の顔を見比べている。


「まあいい、エリナもいったが恋愛は自由だからな。そうだハンセンに良いことを教えてやろう。ルネがハラダ殿を推した理由はだな、娘で星占い師のルナが元々作戦参加に否定的だったからだ」


「えっ、そうなのか?」


 ゴランの言葉にハンセンが顔をあげる。


「ああ、それでだ、お前達がさっき、店に行ったとき店奥でルナに言われたらしい。『あのハラダさんが行くなら作戦に参加していいよ』ってな。それで風魔法で二人より先に、すっ飛んで来たんだよなあ、ルネ?」


「えっ、ルネ!?」


 ゴランの発言にその視線の先、後ろの扉を振り返るハンセン。

 そこにはニヤニヤと、意地悪い顔をしたルネが立っていた。


「い、いつからそこに!」


「ついさっき。安心しな、アンタが私のことを『好き』って言いかけたなんて、聞いて無いから」


「ウグウウウウウウウッ」


 茹で上がった蛸のように、頭まで真っ赤になって身悶えるハンセン。


「そうさね、私もアンタのこと嫌いじゃないが、弱い男はね圏外なのさ。山賊退治ぐらいは素直に受けてもらわないとねえ」


 ルネの言葉に、急に真顔になるハンセン。


「受けます! マスター。私もその特別依頼受けさせてください!」


 ハンセンはゴランの手を取り、特別依頼を受けると言い出す。


「おっおう。お前がマスターって呼ぶなんて調子狂うんだが……いいだろハラダ殿と二人で頼む。そうなれば、ルネには陽動部隊の指揮を頼めるからな」


「ルネ、見てろよ依頼達成して、強いところを見せるからな」


 鼻息荒く、ルネに宣言するハンセン。


「はいはい、頑張って。それでやっと、スタートラインに立つだけだけどね。じゃあゴラン、私は指揮する他のリーダー達と会議するから一階の部屋を借りるよ」


 ルネはそっけなく言って、姿を消した。


「あ、アレッ」


 登った梯子を外された人のように、『ポカン』とするハンセン。


「さてと、まず作戦内容を説明するぞハラダ殿。ハンセンよ、私事は後にしてくれ」


 そして、そうなることが分かっていたように、冷静に作戦について話し始めるゴラン。


(上手くやられたな。ハンセン殿)

その、様子を見て内心苦笑するハラダであった。


******


 印籠内の小さな空間に光は灯らず、小さな白髭の爺さんも現れない。しかし、声は聞こえる。


「うーむ、多少この神力とつながりが強化された事でわかった事じゃが、このハラダ。神の力で極限まで強くなっているのう。よほどの事が無いと負けぬじゃろうよ。ワシも少し軌道変更じゃな、神力を貰うのではなく、使わせてもらう使用権をもらおう。ハラダはすでに強化された身体を持っておるし、エネルギー源が必要じゃからな。神が人から力を奪うわけにはイカンからな」


 <元神>はそう言って静かになった。




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