第7話 ジョニーは作戦を立てる

「というわけで、ダンジョンの核を取ってくる事になった」

「……本当に大丈夫ですか?」

「ジュルジュル」


 ギルドの受付を出てから、早速ダンジョンまで向かう道中でスライムとフェアリーを呼んで話をする。

 俺の言葉に不安そうな表情だ。


「まあ、間違いなく今の戦略のままだとダンジョンの核を持って帰るのは難しい。スライムを囮にする……なんて作戦は無理だしな」

「……やっぱり、ついて行く人を間違えたかも……」

「グジュル」


 悩むようなフェアリーを慰めるように蠢くスライム。この前から仲良くなっているな。俺が放置されているようでちょっと寂しくなってきた。

 まあ、それはそれとしてだ。


「まず、圧倒的に手数が足りない。現状の手札で考えるのが一番楽しいが……選択肢がなさすぎるっていうのは、まずその楽しさすらないからな」

「はあ」

「つまりだ……新戦力を見つけるぞ」


 そう、俺は召喚術士なのだ。新しい戦力を見つけ出してからダンジョンの核を奪取する。それも一つの手段だろう。

 初心者ダンジョンにあらかじめ予習として潜っていくことも重要だ。ということで、新しい仲間を探しに行く。


「ということで、フェアリー。他に契約してくれそうなモンスターとか見分ける方法はないか?」

「……それはちょっと難しいです。その、前にも言ったと思いますけど私は隠れていたので他の方について詳しくないので……」


 悲しい事実を言われてしまった。

 とはいえ、いわば知性のあるモンスターがフェアリーだけという事は無いだろうと思ってさらに聞いてみる。


「フェアリーみたいに交渉できるモンスターの行き先とかに心当たりとかはないか?」

「んん……基本的に、私みたいに契約出来るような意志を持ってる種族の方は余り戦闘をしたがらない場合が多いので……隠れているとは思いますが心当たりは……」

「戦闘をしたがらないのか?」

「そこまで好戦的ではないですね。冒険者さんに倒されると、一度魔力に戻ってしまうんです。そこからもう一度復活するんですが、その時に意志を失う可能性があるので……だから、ダンジョンから出て行く魔力を蓄えるなんて強い意志を持ってる方でないと戦闘は行いません」

「……なるほど。そりゃ見つからないわけだ」


 自我が死ぬというわけか。不滅に見えるモンスターだが、実際は復活する度に魔力が減るという被害があるわけだ。

 ……そうなると、疑問はある。


「なんでフェアリーは戦闘に参加してたんだ? 苦手なんだろ?」

「……他の方の参加するよな? みたいな圧に……こ、断り切れなくて……戦わなさすぎると、同族の方にこう……やられてしまうので」


 なるほど。不必要な機能は切り捨てるというわけか。とはいえ、その仕様のおかげで契約を出来たのでこっちとしては有り難いが。

 しかし、そうなればダンジョンで戦闘に積極的でなく逃げ隠れしているであろうモンスターを見つけて話を持ちかけるのが正解か。


「なら、今回はボスに挑まずに隅から隅までじっくりダンジョン探索をしていくか」

「そうですね……私も探すお手伝い、頑張ります!」

「グジュウ!」


 張り切る俺達は、今度は初心者ダンジョンへ仲間捜しのために初心者ダンジョンへと向かうのだった。



 ――ダンジョンの入り口へとやってくる。

 初心者ダンジョンではあるが、時期としてそろそろ現実を知った冒険者未満の人間が諦め、初心者ダンジョンを超えた人間が一歩を踏み出して他のダンジョンに挑み始める時期なので誰もいない。


「……あれ? そういえば俺の認定っていつになるんだ?」

「認定ってなんですか?」

「冒険者としてちゃんと認められるための認定だよ。まだ俺は立場としては見習いだからなぁ」


 初心者ダンジョンを踏破し、審査を抜けて認められたものは銅級冒険者となる。まだ冒険者ギルドから認められていない俺は色すらないヒヨコの状態だ。

 ……ああ、いや。銅級になってしまえば初心者ダンジョンは使えなくなる。あの依頼を受けれないから特例措置というわけか? 納得したような、言いように使われているような……まあいいか。別に何が変わるというわけでもないし。


「冒険者って大変なんですねぇ」

「大変だよ。ダンジョンの攻略には最大でも5人だけだから、ちゃんと仲間を見つけないと駄目だからなぁ」


 ダンジョンの攻略は5人だけという制限がある。これは別に冒険者たちの考えたルールというわけではない。ダンジョンの機能に関係しているのだ。

 魔力によって生きる生物であるダンジョンは、捕食をするために冒険者たちを中へと誘い込んでくる。最初の頃は貴重な資材目当てということで、国などが騎士団アドを使って物量で攻略しようとしたこともある。しかし、その時に起きたのはダンジョン中の魔力を消費しながら数え切れないモンスターの軍団による迎撃だった。


(一つのグループは5人までが限界。それを超える場合には排除機能が働いて大量のモンスターによって襲撃される……だったな)


 多少抜け道はある。短時間で内部で合流するなどであれば発生しないことはある。しかし、それもギャンブルではあるのだが。

 問題は、軍団が発生するとダンジョンは内部の様々な資材を魔力に変換してモンスターを生成するのだ。そのせいで、軍団の発生したあとのダンジョンからは魔石も資材もなくなり、モンスターすら魔石を落とさなくなる。よく考えられた機能だ。

 5人というのも、あくまでも限界値であり基本的に4人以下であればいいとされている。冒険者というのはロマンではなく飯を食う職業だからな。そんなことを考えながらダンジョンに入っていく。


「……よし、魔具も正常に稼働してるな」


 薄暗い洞窟の中で俺はランタンと魔力器を起動する。

 ダンジョンの中は非常に濃度の高い魔力で満ちている。そのため、地上ではまともに起動しないような魔力を使う道具もダンジョンの中であれば魔力を取り込んで起動してくれる。

 そういった魔力によって起動する独自の道具は魔具と呼ばれ、場合によっては地上でも運用されるのだ。あくまでも地上の魔力だと足りないだけであり、運用する手段は一つではないのだ。


(こういうのに関する抜け道考えるのも面白いよな……と、ダンジョンの道が変化してるな)


 一定期間でダンジョンは内部を組み替えて構造を変える。

 以前だったら楽に最奥に到達出来ても、次は道中で引き返す羽目になる……なんてことも少なくない。まあ、ダンジョンも侵入者を殺して餌として捕食するのが目的だからな。リソースを少なく最大効率を狙うのは当然だ。三叉路になっている中でどれを選ぶか考える。


「……どの道を行くのが良いと思う?」

「真ん中が良いと思います」


 フェアリーの答えに従ってまっすぐに進んでいく。

 魔力の扱いに長けているフェアリーは、冒険者から逃げるためにも魔力探知で探っていたらしい。なので、こういった探索にも優秀なのだ。本当に戦闘や本来の役割には適さないがそれ以外が優れている。実に素晴らしい。俺の好きな癖のある感じだ。


(そういえば、普通の冒険者だと技術を持った斥候の出来る奴を連れて行くらしいけど……どのくらい凄いんだろうなぁ)


 受付嬢さん曰く、銅級の駆け出しでも能力や魔具を利用することで先の部屋の数や道の行く先を把握することが出来るのだとか。

 それを考えると、フェアリーの探索は俺よりはマシだが本職に及ばない器用貧乏という感じは否めない。


「……魔力の気配があります……警戒しましょう」

「よし、スライム」


 俺の肩に乗っていたジュルジュルとしたスライムが元気よく地面に降り立つ。スライムって普通に動く分にはめちゃくちゃ遅いので肩に乗せている。

 目の前から足音が聞こえてくる。そのまま息を潜めて待っていると、目の前に現れたのは――


「グゲ?」

「ゴブリンか……!」


 さて、毎回のように追いかけられているゴブリンが現れる。

 それを見た瞬間に、スライムは地面から飛び上がりゴブリンへと取りつく。突然のことに混乱しながらも引き剥がそうとするゴブリンに持っていたナイフで突き刺して一撃。


「グゲッ」


 小さな断末魔を上げると、体が消滅してそこには小さな魔石が残る。魔力によって出来た鉱石であり、様々な燃料や道具として使われるものだ。

 とはいえ、このサイズだとクズ石であり地上で燃料にも使われる事も無い。というわけで……


「ほら、スライム。食べて良いぞ」

「ジュル」


 スライムが魔石を取り込んで吸収していく。モンスターにとっては魔石は食事になるらしく、こうして魔力を補給して強くなるのだとか。

 まあ、メリットばかりではないのだがそれでも無駄に魔石を捨てる必要もないのは気分的に良い。


「……他の気配はないですね。進んでも大丈夫です」

「すぐに見つかるわけがないとはいえ、いるかも分からない奴を探すのは気が遠くなりそうだな……」


 そうボヤきながら進んでいくと、そこには開けた空間になっていた。

 こういう空間はダンジョンの部屋と呼ばれていて、ダンジョン内のモンスターが住処として扱っているのだ。そこを休憩として利用したりダンジョン産の物資や、冒険者の残した遺品が回収されている事もある。とはいえ、こういう初心者ダンジョンで見つかるもので価値があるものは稀だ。なので、休憩程度にしか使えない空間をスルーして先に進んでいく。


「……そういえば、このダンジョンってゴブリンとフェアリーしか出会ったことないよな」

「そうですね。ダンジョンにはそれぞれ呼び出す傾向があるんです。それ以外は出てこないですね」


 その言葉に、ある事実に気づいた。

 初心者ダンジョンで見つかるというモンスターがその2種類だけなら……


「……これ、選択肢が無くないか?」

「ええっと、なんというか……」


 ……もしかして、場所選びから失敗してるんじゃないだろうか?

 そんな禁句を告げないように無言になりながら、食事を取ってご機嫌なスライムを肩に乗せて先を進んでいくのだった。

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