7-1


 エメはエミルとともに中庭に出ていた。

 エミルが見つけて来た無詠唱の初級の魔法は三つ。そのどれかひとつでも身に付ければ、護身用にできる。しかし、エメが何度試しても魔法は発動しなかった。

「条件は揃っているはずなんですが」

 首を傾げるエミルに、エメはしょんぼりして肩を落とす。そんな彼の頭を撫で、エミルは優しく言った。

「おそらく、加護の問題なのではないかと思います」

 エメは首を傾げた。加護というと、クリスタ王妃に授けられた【祈り】の効果のことだろう。

「加護によって与えられる魔法の属性は完全なランダムです。三つの魔法の中に、加護の魔法の属性と相性の良いものがなかったんでしょうね」

 クリスタ王妃による【祈り】は、付随して中位セカンド以上のスキルや上位レアの魔法を獲得することがある。エメはいまのところ新しく得たものはない。

「加護の魔法はいつ開花するかわかりません。いままで【癒し手】に付随したいくつかのスキルを獲得したようですが、魔法はまだ得ていないようですね」

 エメが両手を見て首を傾げるので、エミルはさらに言う。

「【癒し手】は光属性です。けど【癒し手】の保有者が使える光魔法は【癒し手】のみです」

 エメはまた首をこてんと横に倒した。

最上位エクストラスキルは魔法に値します。最上位エクストラスキルを持っていれば魔法は得やすいとされていますが、光属性なので、これに付随する属性はありません。水や炎と違い、光属性は独立した属性ですからね」

 それはエメには少し難しい話だった。ぽかんとするエメを見たエミルが、腰を屈めてさらに言う。

「付随というのは、簡単に言えば『おまけ』です。たとえば水属性を持っているとして、魔法で雨を降らせます。すると、足元の土がぐちゃぐちゃになりますよね? そこで土を操る魔法を得る。水属性に地属性が付随して土魔法を使えるようになる、ということです」

 わかりますか、と問うエミルにエメはこくこくと頷いた。

「まれに、光属性から闇属性が派生することはあるそうですが。派生というのは、たとえば【癒し手】の対象者が闇属性を得る可能性があるということです」

 エミルの説明に対するエメの反応を観察しながら、ニコライは堪えきれずにニヤニヤしている。ラースは柱に寄り掛かりながら、そんな部下に溜め息を落とした。

「おい、エメ坊ちゃんがエミル様の指導を受けてるぞ」

 こそこそと話す声が聞こえて振り向くと、宮廷魔法使いのふたりが廊下からエメとエミルを見ていた。

「羨ましいよな……」

「そうだな。俺だって……俺だって、エメ坊ちゃんに魔法をお教えしたい……! そりゃもう手取り足取り!」

「エミル様は騎士なのに! 有能すぎるんだ!」

 ふたりの宮廷魔法使いは、ようやくラースに気付いた様子でハッと顔を上げた。そして慌てて言う。

「ラース様、このことはどうかご内密に……」

「なんのことだ?」

 そう言って不敵に笑うラースに、ふたりの宮廷魔法使いは安堵に胸を撫で下ろした。失礼します、と丁寧に頭を下げて去って行く。ニコライがまたニヤニヤと笑いながらふたりの背中を見送った。

「エメ坊ちゃんの魅力は、留まるところを知らないっスね」

「子どもに甘いだけだろ」

「そんなこと言って~。先輩だって可愛いと思ってるんでしょ? わかってるんスからね」

 人を苛立たせる顔をするニコライにラースがアイアンクローを繰り出したとき、授業を終えたらしいエメがラースに駆け寄って来た。顔を掴まれて悲鳴を上げているニコライに目を丸くするので、気にするな、とラースは言った。

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