丑の刻参りRTA

ViVi

圧倒的なスピードで

 BANG! BANG! BANG!!


 某月某日、夜。

 某神社の敷地内に、すさまじい音がとどろいていた。


 BANG! BANG! BANG!!


 夜――具体的には、午前一時をいくらか回ったころだった。

 中宮真夜なかみや・まや(以下マヤ)は、工具を手に、御神木(と呼ばれている樹。実際にどのていどの霊験があるのかは定かでない)に向き合っていた。

 このとき彼女が使っている工具は、いくぶん専門的なそれだった。

 具体的には“ネイルガン”と呼ばれるそれで、釘を打ち込むための道具である。

 この場合は、とくに炸薬をもちいるタイプであり、それゆえ、ひときわすさまじい音が発生しているのだ。


 BANG! BANG! BANG!!


 ここまで説明すれば、博識なる読者諸氏には、もうお分かりのことだろう。

 ご存知、“丑の刻参り”の儀式である。


 “丑の刻参り”はまさしく必殺技と呼べるものだが、しかし、現代においては、少々、あつかいがむずかしい。

 神社も都市の一部であるし、ならば深夜といえども(あるいは深夜だからこそ)、警察官などが警邏している。

 しかも、神社だって戸締まりをする。深夜に出入りするのが、まず容易ではないのだ。

 目立つ白い装束をまとって、七日にわたって、無事に儀式を終えるなど、どうにも現実的ではない。

 ぶっちゃけてしまえば、ターゲットの自宅に直接おもむいて襲ったほうが、いくらもマシといえよう。

 あたらない必殺技に意味はないし、あたるならば小技でも充分である。


 ……そんな逆境をおそれず、マヤは、あえて丑の刻参りに挑戦した。

 むろん、無策ではない。


――この儀式には、攻略法がある。


 マヤは、そう思っていた。マヤはRTAゲーマーだった。


 その鍵は、「七日にわたって儀式を繰り返す」という条件への懐疑にある。

 いうまでもなく、それは、大昔の情報だ。ネットも電子辞書もない時代のそれだ。

 時間の経過とともに「伝承」として定着してしまったが、そういうところにこそ、余地があるものなのだ。


 そこに目をつけたマヤがよくよく検証を重ねたところ、見立てはただしく、「七日」は正確な条件ではなかった。

 実際には、「午前1時から午前3時のあいだに、一定回数にわたって、釘を打ち込む」ことが条件だったのだ。

 いってしまえば、連打スピードが必要なだけだ。

 それがたまたま、七日目くらいになると、行為への慣れや筋力の成長などによって、所定回数に達することが多い――それゆえ、七日として定着してしまった。(もしくは、単純に「大きな数」の概念として「七」の値が使われた)


 そこまでわかれば、話は単純だ――釘を、高速で打ち込めればよいだけなのだから。

 警邏に見つからないよう、短時間で終わらせられるくらいのスピードで。

 あるいは、見つかってすらも成し遂げられるほどの、圧倒的なスピードで。


 そこでネイルガンである。


 ネイルガンとは、「釘を、安定して、迅速に、打ち込む」ための道具だ。

つまり、丑の刻参りのためにある道具だ。

 生身で玄翁ハンマーを振り回すのとは、明確に次元ステージが違う。


 BANG! BANG! BANG!!


 しかも、ネイルガンは強い。

 うまくすれば、警邏が襲いかかってきても、返り討ちにすることすら可能だろう。セカンドプランというやつだ。


 とはいえ、早いに越したことはあるまい。

 そう思って、マヤはあらたな道具を取り出した。


 


 右手にネイルガン、左手にネイルガン――

 すなわち、ネイルガンの二挺拳銃だ!


 RATATATATATATATATAT!!!!


 二挺が交互に奏でる撃音は、機関銃めいて御神木を蜂の巣にしていく!

 ネイルガンの反動に慣れた今だからこそできる、最終決戦形態アルティメットフォーム

 擬音表記オノマトペも、RTAリアルタイムアタックと好相性だ!


 次元ステージを、さらに数段も飛び越えて、状況はもはや飽和攻撃と呼ぶべきものだった。

 御神木は、完膚なきまでに穿たれ、穿たれ、穿たれている。


 だが、まだ足りなかった。

 おそらくは、神秘のうすれた現代であるためだろう、そもそも御神木に宿っている力がとぼしいのだ(やっぱりろくな御神木じゃなかった! 人騒がせな!)。


 ――なら、奥の手だ!


 マヤは、用意周到だった。ついでに、あきらめることを知らなかった。


 彼女が備えていたのは、なにもふたつめのネイルガンだけではない。

 こんなこともあろうかと、最終決戦形態アルティメットフォームを超えた絶対決戦形態アブソリュートフォームが、あった。


 そう。

 無数の刃がモーターの力で高速回転し、それをもって万物を断裁する武器――チェーンソーである。


 チェーンソーとは、「小さな金属片を、超高密度で、打ち込み続ける」道具だ。

 つまり、丑の刻参りのためにある道具だ。

 サメ退治にもつかえる。


 妖怪めいて唸りをあげたチェーンソーは、御神木に、深く、深く深く、抉りこんでいく。

 釘をいくら打ち込んでも呪いは成就しなかったが、しかし、伐り倒してしまえば話は別だ。

 御神木がもつ(なけなしの)力のすべてが、呪いに注ぎ込まれていく!


 こうなってしまえば、決着まではもう間もない。

 のこはあっさりと樹木の直径を踏破し、鈍い轟音ひとつ、御神木が伐り倒される!!


 かくして儀式は成り、マヤの仇敵は呪殺された。


 おわかりいただけただろうか?

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