第4話 悪霊騒動!! とりあえず悪霊をぶん殴ってみよう!!

 夏休みに入る少し前の事……


 僕『犬島 鉄也』は男友達の家に向かっている。


 なんでも昨夜、心霊スポットの廃病院に行ってから男友達の様子がおかしいらしい。一点を見つめボーッとしてみたり、聞き取れないくらいの小声でボソボソと何か喋ってみたり、食事は一切摂取せず、水分すら摂らないらしい。そして時折男であるはずの彼から女性のような高い声で『はいれた』と言うらしい。


 男友達の母親は僕が霊能力者と思い込んでいるらしく『1度見てもらいたい』と言われ僕は男友達の家へ向かっている。


 正直なところ、僕は霊の姿を見たり、霊の声を聞いたり、霊をぶん殴ったりする事は出来る。


 だが心霊現象などは専門外だ。僕の力でなんとか出来るのか正直なところ不安でしかない。


 けど、知り合いが苦しんでいるのに見て見ぬ振りは出来ない。


鉄也

「……僕の力で……解決出来るような霊ならいいのですが……」


 僕はそう呟かずにはいられなかった。


 そうこうしている内に男友達の家に到着する。男友達はどこにでもあるような一軒家だが、そこに霊がいるのは分かった。


 これは僕だけな感覚かもしれないが、霊がいる場所からはお墓に備える線香のような匂いがする。


鉄也

「……いる……。これは……マジもん……だな……。はぁ、こりゃ手こずりそうだな……」


 僕が家のチャイムを鳴らすと男友達の母親が出てきて、僕を男友達の部屋まで案内する。男友達の部屋から線香の匂いが強くなる。間違いない。霊は男友達の部屋にいる。匂いの強さからしてそれなりに強い霊のようだ。


男友達の母親

「息子を……どうか息子を……助けてください!!」


鉄也

「出来る限りのことはやってみます。あまり期待はしないでください。もしも僕でどうにか出来ない時には僕の知り合いの霊媒師に連絡します。ここも危険になるかもしれません。今日のところはここ離れて過ごしてください。翌日になって僕から連絡がない時にはこの紙に記した電話番号にかけてください」


 そう言い、僕は知り合いの霊媒師の連絡先を書いてある紙を男友達の母親に渡す。


鉄也

「そろそろ部屋の中に入ります。貴女はこの家から離れてください」


 僕がそう言うと男友達の母親は家から出ていった。


鉄也

「ふぅ……。さて、何が出るか……」


 僕はそう呟きながら男友達の部屋の扉を開いた。





 男友達は天井をボーッと見つめて『はいれたはいれた』と小声で呟いていた。その隣には黒いモヤのようなモノあった。


鉄也

「……姿を表せよ。そして僕の友達から出て行け」


 僕がその黒いモヤに話し掛けると黒いモヤから男が裏声を無理矢理出した時のような高い声がした。


黒いモヤ

「嫌よん!! アチシ好みのゴリラ顔のいい男なのよおおぉぉん!! アチシ!! この男と添い遂げるって決めたのよん!!」


鉄也

「貴方、添い遂げるって……。貴方はもう死んでいるじゃないですか……」


 まぁ、確かに男友達はゴリラみたいな顔をしていて一部からは『ゴリラ』ってあだ名で呼ばれているけど……。


黒いモヤ

「黙らしゃあああぁぁぁぁいぃぃん!! アチシは体は死んでも心は生きてるのよん!! 魂はいつまで経っても不滅なのよおおおぉぉん!!」


 黒いモヤは徐々に綺麗な純白ウェディングドレスを着たガチムチのハゲたオッサンの姿になっていった。


ハゲたオッサン

「アチシは!! アチシの好みのこのゴリラ顔のウホッといい男と添い遂げるのよおおおぉぉぉぉん!! 邪魔はさせないわよおぉぉぉん!!」


鉄也

「な、なんでオッサンがウェディングドレスを着てるんだ!?」


ハゲたオッサン

「黙らしゃああああぁぁぁぁいぃぃん!! アチシは体は男でも心は乙女なのよおおおぉぉぉぉぉん!!」


鉄也

「もう体は死んでますよ」


ハゲたオッサン

「黙らしゃああああぁぁぁぁいぃぃん!! アチシの下半身はまだまだヤレるのよおおぉぉぉぉん!!」


鉄也

「下半身どころか体もうないんですけどね。ほら足無いですし」


ハゲたオッサン

「あぁぁら!! やだぁぁん!! これじゃ人魚姫みたいねえぇん!!」


鉄也

「ウェディングドレス着ているのに人魚姫なんですか? しかもオッサンで? 属性の渋滞がしていますよ」


ハゲたオッサン

「黙らしゃああああああぁぁぁぁぁぁぁぁいぃぃん!! アンタ!! 一々うるさいのよあぁぁん!!」


鉄也

「どっちかと言ったらそっちの方がうるさいような……」


ハゲたオッサン

「黙らしゃああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁいぃぃん!!」


鉄也

「ほら。そっちの方がうるさい。それより、僕の男友達の体から出てってくださいよ」


ハゲたオッサン

「あぁぁらぁぁぁん。アチシをどうにか出来ると思っているのかしらあああぁぁぁぁぁぁぁぁん? アチシはこれでもそれなりに強い悪霊よおぉん。アンタのような子供にどうにもならないわよぉぉん。逆にアンタの綺麗な体に風穴空けてあげるわあぁぁん!!」


鉄也

「つまり力尽くでいいと」


 話し合いで解決しないとって思っていたけど、力尽くでいいなら楽だなって思いながら僕は右手をギュッと握り、拳振り上げる。


 そして……


鉄也

「ウラアアアアアアァァァァァァァァ!!!!」


 全力でオッサンの顔をぶん殴る!!


ハゲたオッサン

「プギィヤァァァァァ!?!?」


 ハゲたオッサンは顔を抑えながら床でのたうち回る。


ハゲたオッサン

「な、殴ったわねええええええええええぇぇぇぇぇぇぇぇ!?!? 乙女の穢れなき純粋な顔を殴ったわねええええええぇぇぇぇぇぇ!?!? アンタ躊躇いもなく!! しかもグーで!?!?」


鉄也

「いやー。殴る時は躊躇っちゃいけないかなーって」


ハゲたオッサン

「た、躊躇いなさいよおおおぉぉぉぉん!! これでも乙女よぉぉん!!」


鉄也

「うるさい!!」


 僕は今度は左手で思いっきり『バチイィィィィィィン』とビンタする!!


ハゲたオッサン

「うぎゃああああああぁぁぁぁぁ!?!? アンタ!! また殴ったわねえええええぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!?!?」


鉄也

「今度はパーだからビンタです」


ハゲたオッサン

「お父さんの友達のお爺ちゃんのお嫁さんの友達のお母さんにも殴られた事ないのにいいいいぃぃぃぃぃ!!」


鉄也

「それ赤の他人じゃん!!」


 僕は左手で思いっきり『バチイィィィィィィン』とビンタする!!


ハゲたオッサン

「アウゥゥゥゥッチィィィィ!?!?」


鉄也

「さてとこれから貴方が男友達から離れるまで殴り続ける!!」


ハゲたオッサン

「くっ!! こんな!! こんな小娘なんかにいいいいぃぃぃ!!!!」


鉄也

「女の子じゃないもん!!」


 僕は女の子と勘違いされた事にキレてハゲたオッサンを本気で殴ってしまった。


ハゲたオッサン

「ヴァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!?!?!? アチシのお稲荷さんがああああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!?!?」


 っ!? しまった!! ハゲたオッサンの腹を殴るつもりが下半身を殴っちゃった!! なんかがぐちゃりと潰れる感覚がした!?


 ハゲたオッサンは泡を吹いて下半身を押さえて気絶した。


鉄也

「……幽霊って気絶するんだ……。初めて知った……」


 とりあえずこのハゲたオッサンの股間は大丈夫なのだろうか? まぁ、幽霊だけど……。幽霊って下半身が潰れた時って大丈夫なのだろうか?


 とりあえず、この幽霊を元いた場所まで殴り飛ばせば一件落着かな?


 僕は男友達の部屋の窓を開けてハゲたオッサンのケツを蹴り飛ばし例の心霊スポットの廃病院にぶっ飛ばした。


鉄也

「よし。除霊完了」


 その後、男友達の母親から感謝されて何故かイカの塩辛を大量にもらった。

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