第0話 守護者の誓い
僕は絶望していた。自身を救い出してくれた恩人達のような誰かを救い、護り、導ける正義の味方になりたかった。そしていつの日か恩人達に恩返しをしたいと願っていた。
しかし、現実はそんな都合良く進む事など無い。僕の恩人であり師匠である人が殺された。
彼女は国を裏側から護る戦士の一人だった。いつか戦いの中で死ぬ事は彼女だって覚悟していたはずだ。僕だってその事は覚悟していた。しかし、あんな惨たらしく死んでいい人ではなかった。
復讐の鬼と化し、命令が下れば容赦なく敵を殺す殺戮兵器となっていった。
仲間からいくら罵倒されようが、誰にも評価されなかろうが関係なかった。僕の力でより多くの人の命が救えるのなら、仲間が戦いで傷付き倒れる事が無ければ、師匠を苦しめて殺した奴のような極悪人を一人でも多く殺せるのならそれで良かった。
復讐する相手を殺した時にその事にようやく気付いた。
僕が助けようとした者達からは恐怖の対象としてその目に映っていた。
僕には誰かを救い、護り、導けるような力は無かった。誰かの命を救う事が出来ても心の傷を癒す力は僕には無い。僕は恩人達のようにはなれない。その事に酷く絶望した。
そして仲間の目からは『手柄を独り占めにしたがる死にたがり、戦い好きの狂人、人の心を理解しない殺人鬼』として映っていた事が悲しかった。
家の近くの公園の大きな桜の木の下で『どうすれば良かったのか』悩んでいた。まだ肌寒い春。日が沈みかけた時だった。
僕は何故か満開に咲き誇る大きな桜の木に質問するのだ。『どうすれば良かったのか』と。桜の木がその答えをくれる訳が無いのに。
気が付くと見知った少女が背後に立っていた。黒真珠のような綺麗な黒髪。整った顔立ち。白いワンピース姿。
彼女は絶望し切った僕を抱きしめ、涙を流しながら言うのだ。
『もういいんだよ。戦わなくていいんだよ。貴方はもう鬼になる必要は無いんだよ。貴方は誰かの為に戦って、傷付いて、救って来たんだよ。もう苦しまなくてもいい。もう休んでいいんだよ。これから貴方に降り掛かる災いから私が護るから。だから貴方は私のそばにいて』
その言葉に僕は心のどこかにあった重しから解放された気がした。
こんな殺戮兵器と成り果て敵からも味方かも『銀色の鬼神』と呼ばれたこんな僕でも誰かのそばにいてもいいのだと。
そして僕は僕を必要としてくれた彼女の為にこれから生きよう。彼女の害になる者達から彼女を護り、支えて生きていこうと思えた。
僕は『犬島 アルト』の盾となり剣となって彼女を護ろうと心に誓ったのだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます