2-8
深夜の台所に、うごめく影がひとつ。タメ息を漏らすとその影は、戸棚から冷蔵庫の前へと移動すると扉を開く。
「なんだよ。コンニャクくらいしかそのまま食べられそうなものないじゃん」
どうしてもお腹がすいて耐えられなくなった俺は、台所中をひっくり返す勢いで食べ物を探していた。
残念ながらそのまま食べられそうな物は見つけられなかった。恥ずかしい事なのかもしれないが、俺は調理ができない。
もちろんしようと思った事はあったのだけど、包丁を使う手があまりにも危なっかしいからと、料理をするなと母さんから禁止されているのだ。
現状を鑑みて食料にありつけないと知った胃袋がぐぅーと警告音を鳴らす。
「……こうなりゃ買いに行くしかないか」
きっとこのままベットに入ったとしても、眠りにつく事は叶ないだろう。育ち盛りの胃袋が許してくれるはずがない。
善は急げと自室に戻ると財布と自転車の鍵を取り家を出る。
この時間だと開いているのはコンビニくらいか……普段は知り合いに会うのを避ける為、コンビニは利用しないようにしているのだけど、この時間なら問題ないだろう。
「よし」
目的地を定めると俺は愛車に跨がり、ゆっくりとペダルを漕ぎ出した。
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十分ほどかかってコンビニに到着。愛車を店の前に停めると、まずは窓越しに店内を注視した。
見える範囲には他の客の姿はないようだ。安堵して店内に踏みいると、お馴染みの入店音が響き渡る。
入った正面、すぐに弁当コーナーを見つけ歩みよるも、俺は落胆を隠せなかった。
「弁当は全部売り切れ……残ってるのはサラダパスタにレタスとハムのサンドイッチ、そして梅おにぎりか……ないな」
どれも腹の足しになりそうもない、都会のOLが好みそうなラインナップだ。
あくまでイメージで都会のOLがどんな物か知っているわけではないが……
そして、唯一腹にたまりそうな梅おにぎりは個人的にない。苦手なのだ。唯一の嫌いな食べ物と言ってもいい。
「困ったな……」
これじゃここまで来た意味がない。どうしたものかと思案していると
「こんな時間に出歩いているなんて、少年は不良なのか?ん?よくよく考えてみれば初めて会ったのもこのくらいの時間だったか」
背後から唐突に声をかけられた。不意なことに驚いて肩が跳ねた。
顔を動かさないで見える範囲を、目だけ動かして見渡してみるも、俺と声をかけてきた人物以外に人の姿はない。どうやら俺にかけられた物で間違いはなさそうだ。
一度、深呼吸をしてから恐る恐る振り返る。そこには、見知った女性の姿があった。
「なんだ……朋美さんか。びっくりさせないでくださいよ」
「なんだとはなんだ?失礼だぞ少年?行き遅れの私で悪かったな。どうせ私は行き遅れだよ。ふん。少年は誰がお望みだったのかな」
俺の言葉を受けて、朋美は捲し立てるように言葉を並べ立てる。その後にタメ息を吐き出すと、アルコールの匂いがほんのりと伝わってきた。
「いやいや、そういう意味で言った訳じゃないです。むしろ朋美さんで安心したくらいです」
「ふーん」
一瞬怒っているのかと思ったのだけど、そうでもなかったようで俺の返答には適当に相槌を打つだけだった。
「で、こんな時間にこんなところでなにをしているんだい?少年」
「あー、それはですね夜中にお腹が減って買い出しに来たんですけど……」
言いながら冷蔵庫に視線を向ける。どうやらそれだけで朋美は理解してくれたようで、「ほほう、なるほどな……」と頷き不適な笑みを浮かべると続ける。
「だったら、ちょうど良い。私の晩酌に付き合いたまえ。なんか適当な物を振る舞ってやろう」
言うや朋美は振り返ると、レジへと向かう仕草を見せた。朋美の手には買い物かごが握られていて、その中には大量のお酒が入れられている。
「いや、でも……」
「なにをしている?さあ、行くぞ少年。着いてこい」
どうやら拒否権は無いようだった。
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