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 君が亡くなった知らせを聞いてから、1年経ったある日、僕の元に小包が届いた。

その中には僕が以前、君に貸していた『アングレカムを君に捧ぐ』の本と手紙が入っていた。

『アングレカムを君に捧ぐ』の本からほのかに君の匂いを感じて涙が零れてきた。

もう、泣いて泣いて涙も枯れたと思っていたけど、とめどもなく涙が溢れた。

「メイ~!」僕は叫んでいた。

手紙は芽衣のご両親からだった。


 倉橋 糸 様

突然のお手紙お許しください。

私達は、芽衣のあまりにも急な死が受け止められず、毎日、泣き暮らしておりました。

何も手につかず、辛い辛い日々を過ごしておりました。

この度、一周忌の法要を無事、済ませ、やっと芽衣の遺品を手にすることが出来ました。

芽衣は、事故をしたあの日、倉橋様に会う予定だったのですね。

芽衣が事故をした日のカバンの中に本が入っていました。芽衣の買った本なのか誰の本なのか分からず、そのままにしておりましたが、つい、先日、芽衣の机の引き出しの中の日記帳を目にして、中を恐る恐る読んでみました。そこには倉橋様と出逢った事で毎日が楽しく生き生きとしたものであった事が記されていました。私達は声を上げて泣きました。私達はそれまで芽衣はもし生きていればもっともっと楽しい事や嬉しい事もいっぱいあったであろうと不憫に思っておりました。しかし、芽衣は倉橋様と出逢って恋をして最後まで幸せいっぱいだったのだと知り、救われた気持ちになりました。

そして、本の持ち主が倉橋様だという事も分かりました。しかも本の間に倉橋様宛の手紙も挟んでありました。これはやはり倉橋様にお渡ししなければならないと判断し、学校の先生に事情を話して住所を教えて頂きました。

芽衣が本当にお世話になりありがとうございました。心からお礼申し上げます。

倉橋様におかれましても、辛い日々だったと思います。

申し訳ありません。学校をお休み中とお伺いしたもので、心配しております。

この手紙がかえって倉橋様の悲しい心の傷を思い出させてしまったら本当に申し訳ありません。お許しください。

倉橋様のご両親もきっと心を痛めておられると思います。

どうか、倉橋様には私達の娘の分まで元気で生きて頂きたいと願っております。

どうかよろしくお願いします。

                     芽衣の父母より

  




 あぁ、そうだ。辛いのは僕だけじゃない。芽衣のご両親はもっともっと辛いはずだ。

そして僕の両親も、こんな僕を見て悲しんでいる。

僕は自分の事しか、考えていなかった。他の人の事まで考える余裕もなかった。


本をペラペラめくって見たら間に、手紙が挟んであった。

封筒の表には、メイの可愛い字で ”いとくんへ” と書いてあった。




 大好きないとくんへ


いとくんの貸してくれた本、めちゃくちゃ感動して、メイはずっと泣きっぱなしだったよ。

私の気持ちはこの本の主人公の恋人とおんなじ気持ちだったよ。


彼女が最期に残した言葉。

もしも、私があなたより先に死んだら、一日だけ私の為に思い切り泣いて欲しい。

一日中、私を思って泣いて欲しい。

私が死んだあと、一日だけ私を思って泣いてくれたらそれで私は幸せです。

けれど、あとはもう泣かないで。

笑って前を向いて歩いて欲しい。

あなたの人生を生きて欲しい。

私はそんなあなたを傍でいつも応援しています。

私が好きな『アングレカム』の花言葉をあなたに送ります。

『アングレカム』の花言葉は、「祈り」「いつもあなたと一緒」です。


私、グッときちゃった。

私も彼女の立場だったら、きっと同じように思うよ。

私はいとくんに、アングレカムの花言葉のようなこの言葉を捧げるよ。

『心はいつもあなたの隣』

忘れないでね。離れていてもずっと心はいとくんの隣にいて応援してるよ。

覚えてる?

私は、いとくんの笑顔がずっと見たかったから、あの時、声をかけたんだよ。


                     あなたのメイより   




       *******





 あれから3年が経った。

1年、留年したけど、頑張って高校も卒業したよ。

僕は20歳になった。猛勉強して希望の大学にも入った。

メイ、僕はもう泣いてなんかいないよ。

君が「心はいつもあなたの隣」って言ってくれたから。

笑顔が見たいと言ってくれたから。

いつも、傍に君を感じることが出来るよ。

だけど、どうしたんだろう。

最近、君とのあの素敵な時間は、まるで夢のような感じがするんだ。

君に貸してた本、返してもらったはずのあの本も、ご両親の手紙も、君からの手紙も、いつの間にか何処にいったのか分からない。消えてしまったんだ。

君は、僕に何か伝えるために現れた天使だったのだろうか。

だから、僕は君との事を決して忘れないために、君との事を思い出しながら小説を書いたんだ。そして、コンクールに応募してみた。

すると、第33回丸川夏樹ファンタジー賞に選ばれた。すごいだろ?

君は「やったね!」って満面の笑顔を向けて喜んでくれるだろうか。



 小説の題名は『アングレカムを君に捧ぐ』

著者名は僕と君の二人の名前、倉橋糸と須山芽衣からとった

倉須くらす 芽糸めいと

そして、書き出しはこうだ。


「おかけになった電話番号は現在使われておりません…………」

 ツー、ツー、ツー、ツー、





       完





近況ノートにアングレカムの花の画像あります。

https://kakuyomu.jp/users/cocopin/news/16816927862784688766

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「アングレカム」を君に捧ぐ この美のこ @cocopin

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