第4話 

「姉さんと結実ゆみに話してきた」

誠子を呼び出して、行きつけのバーで飲んでいる。

「そう。驚かれたでしょう?」

「まあね、想定内だったけどね」

「伯父さん伯母さんには?」

「言ってない。二人に止められた」

「そっか……」

「俺さ、もう、家、出ようと思って」

「縁を切るってこと?」

「そう、なるのかな?」

「伯父さんと伯母さんには本当のこと話さずに?」

「話しても、理解してもらえるとは思えない」

「あれくらいの世代になると難しいだろうね……」

「まあ、腹は決めたんだ。ただ、何で出て行きたいのかっていう『嘘』の理由が思いつかなくて、相談したくてさ」

「凄い重たい相談するよね」

誠子は笑った。


「伯父さんの会社を継ぐ気はない、自由にさせてほしい。でいいような気もするけど」

「自由にさせてもらえても、結局、結婚だの子供だの言ってくるだろ、特におふくろが」

「そうだねえ……難しいね」

「なんで、『普通』じゃないことで、こんなに困らなきゃなんないんだろうな」

「『普通』っていう意識が定着してしまっていて、それ以外の自由な生き方が難しくなる。『おかしい』と思われる。そこに事実があるのに隠そうとする。ホント、どうかしてるよね、この世の中」

「かもな。俺も、罪悪感しか感じないもんな」

「朔ちゃんは、何て言ってるの?」

「朔には話してない」

「そっか……」


「いっそ、同性婚する?」

誠子がポツリと言った。

「日本じゃ難しいだろ。会社にいるのも気まずくなるし……」

「いっそ、海外って手もあるかもね。柊平も朔ちゃんも英語堪能だしさ」

「海外。か……」



「おかえりー」

朔が来ていた。

「柊ちゃん、お姉さん来てた」

「え? 出たのか?」

「うん。何回もピンポン押して、柊ちゃんの名前呼んで、ドンドンドンドンってやるからさ、ご近所迷惑かなあと思って」

「何か言われたのか?」

「『幾ら払ったら、柊平と別れてくれますか?』って。」

「……最低だな。」

歯がギリギリいうほど噛みしめる。

「朔は何て?」

「『お金なんか要りません。柊平さんが僕のことを要らないって言えば別れます。』って」

「ごめん。本当にすまない。傷つけてしまって……。ごめん……」

窓から夜景を見ながら話していた朔を、後ろからギュッと抱きしめる。ガラスに泣いている朔が映る。こっち向きに抱き寄せて、何度も何度もキスをした。

「男が男を愛するって、そんなに変なことなのかな……」

泣きながら、朔が言う。

 その問いかけに答えられない自分を、何よりもどかしく思った。



 「決めたよ」

誠子に電話する。

「そう。寂しくなるけど」

「ありがとな」



「朔、どこまでも一緒に行ってくれるか?」

「当たり前でしょ」

「親兄弟に縁を切られるかもしれないんだぞ?」

「あはは。駆け落ちじゃん。望むとこだね」

「本当にいいんだな?」

「いいよ」

「ロサンゼルス支店に転勤させてもらうことにした」

「おー、海外進出!」

「ロスは、LGBTにとても理解のある街らしい」

「もしかして、結婚とかできるかも?」

「かもな」

朔が飛んできて俺に抱きついた。

「最高じゃん。行こうよ、ロス!」



 ロサンゼルスへの転勤は簡単に決まって、俺は朔と一緒に飛び立った。二人共、親兄弟には連絡先も知らせていない。それでも良かった。


 まだ、この先、どんな障害が待ち受けているかも知れないけれど、

 自分たちの人生は自分たちの物だと信じたい。

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「普通」の恋って何だろう? 緋雪 @hiyuki0714

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