第47話 お昼は楽しく

 ようやく落ち着いたか。

 昼食の準備や写真撮影などに追われていた俺だが、少し休む時間ができた。ふと見つけた、空いているベンチへと腰を下ろす。


「安藤君くん、おつかれさまでした」


「あ、ああ。小枝もお疲れだったな」


 すると、こちらも仕事を終えたのか……隣に小枝がやってくる。それも大量の料理をトレイにのせて。


「お前、そんなに食うのか?」


「心配しなくても、ちゃんと安藤君の分もありますよ」


「いや、俺はいい」


「ダメです! 頑張った方はしっかり食べなきゃ」


 そういわれて、皿に積まれた串焼きを一つ渡される。途端に、すきっ腹なのを思い出したのか……体が食料を求めだす。せっかくの行為なので遠慮なく受け取り、串焼きを頬張る。


「うん、美味いな。労働の後は格別の味だ」


「ろんろんらべれくらさい、あんろうくわん」

訳:どんどん食べてください、安藤くん


 相も変わらず腹の立つ奴。お前のほうがどんどん食ってるだろうが。こいつの食事中言葉が少しづつ理解できるようになっている自分が少し怖い。


「安藤君のおかげで、最高の昼食で嬉しいです~」


「ふん。俺のせい……でだろ?」


「はい?」


「またトラブルを起こしてまった。嫌になっちまう」


「まだそんなこと気にしてるんですか?」


「そんなこととはなんだ。一大事だったんだぞ」


「でも、どうにかなったからよくないですか?」


 料理を頬張りながらも、どこかキョトンとした顔の小枝。俺は溜息と共に思いを吐き出す。


「正直いうと、お前の提案がなかったらどうなってたか……俺のことだし、また投げ出してたかもしれん」


「そんなことないと思いますよ」


「なんで言い切れるんだ?」


「安藤君、この遠足の為にすごく頑張ってくれてましたから。私が何かしなくても、きっとみんなでどうにかしたと思います。私たちってそういうクラスじゃないですか」


 三科教諭が二つ返事で、あの無茶な提案を了承したことが腑に落ちる。

 なんだかんだ、俺はクラスの連中をまだよくわかっていないのかもな。


「そんな顔してたらせっかくのお料理が冷めてしまいますよ。はい、どうぞ」


「あっちぃ!!」


 小枝が食べやすいようにと、俺の口元へ寄せた串焼きが俺の唇を焼く。


「す、すいません。熱かったですか?」


「当たり前だろ。熱かったぁ~」


「うっ、ぐふふふ、すいません……今の安藤君のお顔」


 こいつ、俺の慌てた表情見て笑ってやがる。馬鹿馬鹿しい。なんかどうでもよくなってきた。


「ったく。俺の分の料理、他にも食わせろ」

 

「は~い」


 遠足の日もまた、小枝とお昼を過ごす俺なのであった。

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