第41話 ミュージアム

 歌謡ショーもほどほどに、バスは目的地へと到着した。未来ミュージアム博物館という場所で、恐竜の化石や彫刻類のレプリカ、アート庭園、プラネタリウムなど様々な芸術に触れられるという場所らしい。どこが未来なのかという点についてはこの際触れないでおくが、日程や時間帯が合えば中央劇場でオーケストラなども鑑賞できるそうな。


(ふ~ん、田舎だから土地が余ってんのかねぇ)


 パンフレットを見つめながら、意外と鑑賞できるエリアの多さに感心する俺。

 見学は各自、自由行動で、集合は2時間後の12時……半日くらいいても退屈しないような設計なので、見て回れる場所は自然と限られてくる。

 本当なら、どっかで参考書でも眺めていたいのだが、週明けにレポートの提出があるので、さぼるわけにもいかないのが辛いところだ。


「手始めに、まずは恐竜の化石コーナーあたりか」


「それよりも庭園がいいですよ。美しそうです」


「いやいや、ここはロマンのある化石だろ」


「あ、庭園には水場の風景もあるそうですよ。鯉とかいますかねぇ~」


「……小枝、あのなぁ」


 いつの間にか隣にいて、俺のパンフをのぞきながらあれこれと提案してくる小枝。


「どうかしました?」


「なぜ俺と一緒に見て回ろうとしている」


「でももう、みんな行っちゃいましたよ?」


「なら一人で回ればいいだろう。どっかでクラスメイトと合流しろ。俺には、俺独自のルートがある」


「またまたぁ、ご冗談を」


「腹立つなぁ、それやめろっての」


「それよりも時間がありませんよ。まずは庭園にレッツラ・ゴー! なのです」


「お、おい! 待て! 同行を了承した覚えはないぞー!」

 

 俺は小枝に、半ば強制的に庭園エリアへ引きずられて行くのだった。


♢♢♢


『こうして、昔の方々は素敵な絵を夜空に描いてきたのです』


 結局、小枝とミュージアムを見て回ることになってしまった。それはいつものことで諦めがつくが、同行を許可する上でどうしても譲れないポイントが一つ。早い段階でプラネタリウムを鑑賞することだ。集合時間ギリギリだとゆっくり楽しめないからな。

 というわけで、庭園を一通り回り終え、今のプラネタリウム鑑賞に至るわけだ。


「星がきれいです」


「きれいなだけじゃない。星は文明に大きく役立ってきたんだ。年間を通して太陽が通る道の黄道12星座、それにより一年という概念ができ、その積み重ねによるこよみが作られたんだ」


「12星座……星占いとかで使われるやつですね。私は4月生まれなので、牡羊おひつじ座です。安藤君は何座ですか?」


「さそり座。言っておくが、誕生月にその星座が見れるわけじゃないぞ」


「ええっ!? そうなんですか?」


「天体は常に動いているんだ。夜に見えるってだけで、昼にも星座は昇っている。お前の誕生月である4月に見える星座はしし座といったところか。牡羊座が見たいなら12月の下旬くらいだな」


「ほぇ~」


「星座を探すコツとしてはまずは見つけやすいものを目印にすることだな。見てみろ」


 俺はドーム天井に投影されている星たちの中から、冬の星座・おおいぬ座の一等星シリウスを指さし、冬の大三角形を描く。その右側にあるわかりやすい形がオリオン座、さらにその隣のおうし座、牡羊座と順を追って形を描き、説明していく。


「どうだ? 見つけられたか?」


「ええっと、その……難しいです」


「あのなぁ……ったく、俺のわかりやすい説明を返せ」


「いやはや、天文学的数字なもので~」


「お前、それ言いたいだけだろ」

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