第3話 クラスメイト達

柊冬しゅうとう学院高校からきた安藤です。これからよろしくお願いします」


 気を取り直して、自己紹介をさせられる俺。

 しかし、この挨拶というもの……苦手この上ない。淡々としゃべるとつまらないし、だからといって場を和ませようと気を遣ってもかえって静まり返る。恥をかくのはごめんなので、やはり前者の無難な自己紹介で済ませることにすると、思いの他熱い拍手を送られた。予想外である。


「じゃあ紹介も済んだし、安藤の席は……」


 担任が教室内を軽く見回すと、それとほぼ同時に勢い良く手を上げる奴がいた。


「はいはい! 私の隣、空いてますよ~!」


(こ、この声は……)


 一番後ろで、窓側から一つ隣の席。そこには今朝会ったあいつが元気よく手を上げてアピールしていた。


「おっ、いい場所があるじゃないか。安藤、お前は小枝さえだの隣な」


 さすがに担任の指示を嫌がるわけにもいかないので、仕方なくそいつのもとへと向かい、隣の席へと座った。


「えへへ、今朝ぶりですね♪ 安藤君、これからよろしくです♪」


「お前、俺がこのクラスに入ること知ってたのか?」


「はい、先生から転校生が来ると事前に聞いていたので。それで今朝ピンと来たわけなのです」


「なるほどね。しかし、妙なクラスだな」


「みんないい子ばかりですよ。安藤君ともきっとすぐ仲良くなれます」


「だといいがな」


 ニコニコ顔のそいつとそんな会話を交わし、一限目の授業が始まった……のだが。


(う、嘘だろ)


 一限目、数学の授業内容に俺は愕然とする。地方の学校で、ある程度の遅れは想定していたものの、この内容は高1の初期。いや、下手をすれば中学3年レベルだ。さすがにこれは予想の範疇はんちゅうを大きく超えている。

 おいおい、ここは高2のクラスだろ? 来年は受験だぞ。なのに、まだこの単元では先が思いやられる。舌打ち交じりに、俺は自分の愛用している問題集を取り出し、授業そっちのけで問題集を解いて過ごすことにした。


♢♢♢


 休み時間になると、案の定、クラスメイト達に席を囲まれる。転校は人生で初めての経験なので、実際こういうシチュエーションってあるんだなぁと新鮮な気持ちであった。


「ねぇねぇ、柊冬学院高校って有名な進学校でしょ?」


「金持ちも多いし、東大とか、京大とかも普通に視野に入れてるらしいぜ」


「すげーなぁ。それよりも都会から来たんだろ? 生活ってどんな感じ?」


 こういう時、どう答えるのがベストなのか。そりゃあ、鬱陶しいから構わないでほしいとありのままを答えればいいのだろうが、本音を漏らせば初日からトラブルは必須。クラスのトラブルはしばらくはごめんである。前の高校で十分すぎるほどりた経験があるからな。


「みんな一斉に聞きすぎです! 安藤君も困っています!」


 戸惑う俺をみかねてか、隣の席の小枝が助け舟を出す。おかげで面倒な受け答えを回避できそうだ。

 ざっと見た感じ、クラスメイトの総数は俺を合わせて7名ほど。まず隣の小枝。そして、担任が信頼していそうな真面目そうな男子の南田だっけか。それに質問を投げかけてくる没個性のモブ男子と、没個性モブ女子、さらに茶髪のチャラ男らしきやつと……うさぎ? うさぎの着ぐるみ? なんか謎めいた奴がいるぞ?


「転校生くん、スタイリッシュだピョン」


「う、うん」


 うさぎの着ぐるみを纏ったかのような人物。スカートなので、とりあえず女子のようだが……いや、メスという表現が適切か? よくわからんが、この場に馴染なじんでいい奴なのか判断に困る。

 いや、ここは田舎の高校だ。何があろうと不思議じゃない。とりあえずクラスメイトの一人で間違いないと無理やり自分を納得させた。

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