第51話 棒倒し 中編!

「よっしゃ! サールザン学園撃破だぜ!」


 俺はガッツポーズをする。

 とりあえず最初の奇襲は決まったようだ。


 エリカが囮になってカインが俺を転移魔法によって一番気を取られた学園の後ろに飛ばす。そして俺が棒を倒すというシンプルな作戦だったんだがここまで綺麗に決まるとは幸先がいいスタートだ。


「一旦陣地に戻るか……」


 俺は項垂れているサールザン学園の生徒を横目に走って自軍まで戻るのだった。




 途中何度か攻撃されそうになったが、右腕を振るおうと構えを取るとすぐに距離を置いてきたので楽に帰れた。

 わざと本気で殴ったが正解だったようだ。


「リック! おかえり!」


「成功して良かったわ!」


 と2人が嬉しそうに言った。


「おう!」


 と俺も笑顔で返事をしてから片手を出す。

 2人も俺の意図を理解してくたようで手を出してくれた。そして俺たちはパンッとお互いの手を叩いてハイタッチをした。


「お前達何を勝手な事をしているんだ!?」


 とソールド先輩怒ってが近づいてきた。

 ……作戦内容話してなかったからなー。そりゃ怒るわな。

 まあソールド先輩に限っては自分より先に平民の俺が棒を倒した事が気に入らないのだろうが。


「いやー、エリカの作戦っすよ」


 俺が考えた作戦だけどここはエリカの名前を出した方が早く話が終わるだろうと思いそう言った。


「ちょ、ちょっと!」


 と反論しそうになったエリカに耳打ちで頼む、とお願いしておく。


「ほ、本当なのですか?」


 ソールド先輩はドギマギしながらエリカに尋ねた


「はい、私が考えました」


 とエリカが言うとソールド先輩はへこへこし始めた。


「そ、そうだったのですか。素晴らしい作戦だったのですが、つ、次からは私達にも相談していただければ協力しますので、何かあればそこの平民よりも私達にお伝えください」


 そこの平民の部分を強調するあたりソールド先輩だなって感じだ。

 それよりそんな話をしている場合じゃない。今この会場で一番狙われるべき立場なのは俺たちだ。


「話終わったんなら守備にに集中しません? ほら、全員こっちを狙ってるみたいですし……」


 俺は周りのこっちを見ている人を顎で指しながらそう言った。


「貴様が指揮をとっているんじゃない。俺が言う! みんな防御に徹するぞ!」


 ソールド先輩がそういうと後ろにいる先輩方は構えを取り気を入れ直したようだ……

 できれば俺が言った時点でそうして欲しいが、高望みしすぎか。


「私達も防御に回った方がいいかしら?」


 とエリカが聞いてきた。


「ああ、今は守った方がいい。だけど隙を見てカインの転移魔法で俺かエリカが不意打ちをしよう」


 俺の言葉に2人が頷いた。

 俺も守りに専念しようとしたその時、寒気が走った。


 俺は突然の事に驚いて辺りを見渡すと遠くからレオナが歩いてきていた。それも敵意を振り撒きつつだ。


「ッ! レオナも出場してたのかよ……」


 クソ、最悪だ。リディアがいない状態でレオナと戦う事になるとは……


「よぉ、リックお前も出場していたとは嬉しいぞ」


 と獰猛な笑みを浮かべながらゆっくりとこっちに歩いてきている。


 今のレオナは隙だらけに見えるがだれも攻撃を仕掛けない。みんな反撃を恐れているのだろう。


「俺は嬉しくないからな! 行くならここじゃなくてほかのチームに行ってくれ!」


「つれない事いうなよぉ」


 レオナは全く止まる気配がない。


「ソールド先輩! ここでレオナと戦えば平民の俺ばっか目立っちゃうっすけどいいんっすか?」


 レオナの相手なんてまっぴらごめんだ。少しでも擦りつけれる可能性のあるソールド先輩にレオナから目を逸らさず話しかける。


「……今回はお前に譲ってやる! 感謝しろよ平民!」


 とかなり離れたところから声が聞こえる。プライドより自分の安全をとりやがった。恨むぞ。


 俺は諦めて前へ行く。ここで戦うと棒へ被害が出るかもしれないからだ。


「私も行くわよ」


「僕も行くよ」


 とエリカとカインは着いてきてくれるみたいだ。


「助かるぜ」


 俺たちはレオナの方へ歩いていくがほかのチームが手を出してくる気配がない。

 レオナの獲物に手を出して攻撃されるのを恐れているのか。それとも一番厄介なレオナの相手をしてくれるならそっちの方がいいと考えているのかどちらかはわからない。


「アタイを相手にするのに3人で足りるのかい?」


 ある程度近くの距離まできたらレオナは立ち止まってそう言った。


「足りないから見逃してくれって言えば逃してくれのか?」


「逃すわけないだろ! この競技は退屈だと思ってたけどリックがいるなら話は別さ」


 そりゃそうだよな。……でもレオナばかりに気を取られるわけにもいかないのは事実だ。

 チラリと後ろを見ると先輩達が他の4つの学園の攻撃から必死に棒を守っている。


「あん? 後ろが気になって集中できないのかい。なら仕方ないねぇ!」


 と言った瞬間レオナの姿が消えた。攻撃されるのかと思い身構えるが少し離れた位置でドカーン! と大きな音が3回なった。


「め、めちゃくちゃだ」


 カインが思わず言葉を漏らした。


 ……無理もない。レオナが所属する学園とリーヴァイス王国以外の棒が全て壊されていたからだ。


「おぉっと何が起こったんだ! 一斉に3つの学園の棒が壊されたぞー!」


 実況が聞こえてきた。


「ふぅ、これでやれるよな? リック?」


 と肩をクルクル回しながらレオナが戻ってきた。


「しかしみなさんもお気づきでしょう! こんなことができるのは選手の内には1人しかいません! この選抜戦において数々の伝説を残してきたレオナ選手です!」


 実況の声が聞こえた後観客が盛り上がった。


「俺、帰っていいかな?」


 うん、お腹痛くなってきた。


「ふざけたこと言ってるんじゃないわよ!」


 ビシッとエリカからツッコミを入れられた。


「さぁ、存分に楽しもうぜぇ!」


 レオナはまるで狩りをしているハンターの様な目でそう言った。

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