第50話 棒倒し開幕!

「第一競技の棒倒しの選手は所定の位置で待機してください」


 アナウンスがなると棒倒しに出場する選手達が続々と姿を現した。


「ぅぉぉぉぉぉ!!!!」


 会場全体は熱気に包まれている。


「リンさん、今回の競技リックは出場すると思うか?」


 隣にいるレオン君が心配そうに私に尋ねてきた。


 私達がここにいる理由は選抜戦の応援で観客席に座っている。もちろん勝手に抜け出したとかではない。学校行事の一環として参加しているのだ。


「どうでしょうか? 出場するだけの力はあると思いますが……」


 ヴィナス様からの寵愛を受けているリック君なら実力は問題ないだろうが、貴族が出場を許すかどうかは別の話だ。

 彼らは負けることよりも平民であるリック君が出場することの方が恥だと感じるだろう。


「貴族か……」


 レオン君も同じ考えに至ったようだ。


 でも私としてはリック君に出場してもらわないと困る。私にはヴィナス様の素晴らしさを示す仕事があるのだから。彼が選抜戦で力を示せば、きっと入信者も増えるだろう。


「……ん? あれはリック君ではありませんか?」


 出場選手を目で追っているとリック君とエリカさんそれにカイン君が何やら顔を近づけて話し合いをしながら出てきた。


「おぉ! 本当だ! リックのやつ出場できたのか!」


 とは言えあまり歓迎されている様子ではなさそうですね。

 3人とかなり距離を空けて先輩方が歩いているのを見る限りマーリン先生が無理やりねじ込んだのだろうか?

 まあリック君が出場できているのだったらなんでもいい。


 しばらくすると選手達は所定の位置に着いたまるで六角形になるかのような陣地の取り方をしている。


「しかし、棒はどこにあるのでしょうか?」


 選手達が待機している場所を見ても特に棒のようなものがない。


「確かに……」


 そんな事を話していると突然地面が揺れ始めた。


「な、なんだ?」


「何が起こっているんだ?」


 等の不安の声が周りから聞こえてくる。


 するとドゴーンという音共にそれぞれの陣地に5メートルくらいの円柱が飛び出てきた。


「なっ!?」


 会場全体が驚きで声が出ない。選手も同じようだ。いや、少数だが全く驚いていない人もいる。


「すげぇぇぇ!!!」


 わぁと歓声が湧いた。


「只今より、棒倒しの説明をさせていただきます! とは言えルールは簡単! 最後まで棒が折れなかった学園の勝利です!」


 と実況の声が響き渡る。


「では選手の皆さん! 準備はいいですね? ファイト!」


 そして息つく間もなく開始の宣言をした。


「はぁぁぁぁ!!!」


 それとほぼ同時にエリカさんが中央へと飛んだ。


「エクスプロージョン!!」


 中央から他の学園の方に向けて一斉に強力な魔法を放った。王族のような魔力が沢山ある人じゃないとできないパワープレイだ。


 しかし流石というべきかこの程度の魔法ではどの学園の棒も折ることはできない。ちゃんと防御魔法を張っている。


「おっと! リーヴァイス学園のエリカ選手! 全体攻撃だ! しかしこの攻撃ではどの学園も倒せないぞー!」


 と実況は言うが会場は大盛り上がりだ。こんなド派手な幕開けだ。盛り上がるのは必然だろう。


 これが狙いだったのだろうか? だとしたら悪手ではないだろうか? こんな事をすれば全部の学園からのヘイトをかうことになる。


「流石エリカさんだな」


「そうですね……ですがこれでは……」


「うぉぉぉぉ! 破壊拳!」


 と言う声が聞こえたとほぼ同時だろうか? ドゴーン! と言う音共に棒が会場の壁に突き刺さった。


 その瞬間会場が静まり返った。


「こ、これはどう言う事だ!? リーヴァイス学園のリック選手がいつのまにかサールザン学園の棒を吹き飛ばした!? いや殴り飛ばしたー!?!?」


 私達の学園のちょうど正面に陣地を構えていた学園の棒をリック君がへし折ってしまった。


 サールザン学園の生徒達は驚いている。いや、何が起こったのか分からないと言った様子だ。


「まずは1つ目だ! さあ! 次はどこの学園を狙ってやるかな!?」


 とリック君は大声で叫んだ。……エリカさんは囮だったんだ。そしてその間にリック君が棒を倒す作戦だったのか。

 でも一体どうやって?


「残念だがこの競技でのサールザン学園の最下位は決まってしまった! さあ次はどの学園が負けてしまうんだぁ!?」


「わぁぁぁぁぁぁ!!!!!」


 と言う実況の声がした後会場が揺れるくらい盛り上がった。

 

 リック君はすごく盛り上げてくれた。これは私にとっても嬉しい事だ。


「いいぞ! リック!」


「その調子です! リック君!」


 私とレオン君はリック君が次に何をしてくれるのか、楽しみになりながら応援をするのだった。

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