第7話 初めての魔法

「ファイア!」


 魔法練習場にきた俺は早速、的に向かって初級火炎魔法を使おうと右手を構えたが一向に炎はでない。


「あれ? ファイア!」


 で、でない。そもそもこの体になったから魔法が使えるようになると思っていたが、魔法の使い方わからないぞ。


 魔法はイメージだってアニメとかでは言ってるよな。イメージを強く持ってやってみるか。


 数時間後


「全てを煤塵に返す赤き炎よ、我が前に立ち塞がる障害を燃やし尽くせ! インフェルノフレイム!」


 大袈裟なポーズをとりつつ、呪文を詠唱するが、炎は出ない。


「この世全てを白銀の世界に変える。さあ、ここは俺の世界だ! コキュートス・ゼロ!」


 でない。


「天よ、雄大なる自然の力をお貸しください、全てを穿つ雷! ライトニングサンダー!」


 でない、だと。


 俺はその場で膝をつく。だめだ、魔法の発動方法がわかない。


 イメージを強くするために人には聞かせられない詠唱までしてるのに一向に魔法が発動する気配がない。


 ……唯一の救いは今日が入学式でこの練習所を使っている人がいないことぐらいだろう。


 空を見上げると、日が傾きかけていた。


「ここに居ても魔法が使えないなら他の方法を考えるか」


 魔法は諦めて剣の練習を少しでもしようと思い、帰ろうとするとエリカが立っていた。


「エリカ!?」


 思わず叫んでしまう。もしかして今までの恥ずかしい詠唱とか見られてたのか!?


「お前いつからそこに居たんだ?」


「……全てを煤塵に返す。辺りからね」


 ……穴があったら入りたい。


「見てるなら声くらいかけろよな!?」


 恥ずかしさのあまり少し叫んでしまう。


「……そういう気分じゃないの」


 なんだ? 妙にテンションが低いな。それに目元が赤くなっているような……

 

 もしかしてヒーデリックになにかされたのか?


「エリカ、大丈夫か?」


 エリカの近くまで行くと、目が腫れていた。


「……関係ないでしょ」


 エリカはそっぽを向いた。


「関係ないわけだろ! 俺ら幼馴染だろ? ヒーデリックに何かされたのか?」


 何があったのかは分からないが、この状態のエリカは放っておけない。


「違うわよ。……カインと喧嘩したのよ」


 カインと喧嘩? カインの性格は温厚な筈だが何があったんだ?


「何があったんだ?」


「……小さい時に私達3人でよく遊んでいたのは覚えているわよね?」


「あ、ああ」


 俺は頷く。短い期間だった筈だが3人が遊んでいたと言うのは俺も知っている。


「実はその時にカインとある約束をしてたの。……私はいつでもあの約束を果たせるって言ったのに! ……カインが、え? なんの事って言ったのよ!」


 あー、なるほど。あのイベントか。


 小さい頃の約束っていうのは結婚の事だ。


 ただ主人公はその事を完全に忘れている、子供の時の約束だから当然と言えば当然だが、それが原因でエリカと喧嘩するのだ。


 ちなみにこのイベント、後でエリカに謝らないといけないのだが、選択肢をミスるとかなり好感度が下がるだ。


「子供の時の記憶だったんだろ? だったら忘れてても」


 そこまで言って言葉が詰まる。エリカの目つきが人を殺しそうなものに変わったからだ。


 これはミスったか?


「……私だってそんな事分かってるわよ、でもそれじゃあ私が馬鹿みたいじゃない。

 ずっとその約束を覚えて今日再会できてこれは運命だわ! って勝手に舞い上がって」


 自分でも分かっているけどそれを簡単に受け入れる事ができないってことか。


「エリカとカインがどんな約束をしてたのかを聞くつもりはないけど、エリカはこのままでいいのか?」


「……喧嘩しっぱなしはいやだ」


 エリカも少しプライドが高いところがある。自分からは謝りづらいのだろう。


「だろ? だったらやることは1つだ。謝りに行こう。俺もついて行ってやるから仲直りしようぜ」


 俺はにかっと笑いサムズアップをする。


「……そうね、その時はお願いするわ。ありがとう、少し気分が楽になったわ」


 エリカの顔色はここに来た時よりも良くなっている。


「おう。ただエリカだけが悪いって訳じゃないよな。元はと言えば約束を忘れたカインのせいだよな?」


「え、ええ」


「だったらストレス発散だ! あの的をカインだと思って魔法を使おうぜ! その為にここに来たんだろ?」


「そうね! じゃあ早速行くわよ! カインの馬鹿野郎ー!!」


 そう言って右手を構えると巨大な火の玉を的へと放った。


 的に着弾するとドカーン! と音と共に的が吹き飛んだ。 


「なんつー威力だよ」


 多分上級魔法のエクスプロージョンだ。


「オタンコナス!」


 ドーン!


「バカ!」


 ドーン!


「アホ!」


 ドーン!


 次々と魔法を放つエリカに若干引き気味なってしまう。それと同時にエリカは怒らせないようにしようと心に誓った。


「はぁ、はぁ、はぁ」


 ようやく落ち着いたのかエリカは魔法を放つのをやめた。


「落ち着いたか?」


「ええ! お陰様でね!」


 どうやら普段のエリカに戻ったようだ。やっぱエリカはこうじゃないとな。


「そりゃあよかった」


「リックのお陰よ、ありがとう。……それでリックは何をしてたの?」


「魔法の練習だよ、どれだけ頑張っても魔法を発動できないんだよ」


「なるほどね、いいわ! 面倒をかけたお礼に魔法を教えてあげるわ、一度ここで魔法を発動しようとしてみて?」


「マジか! 助かる! コホンッ、ファイア!」


 俺は炎をイメージして右手を構えるが何も起きない。


「なるほどね、リック手を出してみて」


「ん? なんでだ?」


「いいから」


 俺は言われた通り手を出す。


「それじゃあ私が今から魔力を送り込むわ、目を閉じて手に意識を集中してみて」


 そういうとエリカは俺の手を掴んだ。


「おう」


 目を閉じて意識を集中する。


 すると何か温かい感覚が手に流れてきた。


「何か感じる?」


「ああ、手が温かい」


「それが魔力よ」


 これが、魔力か。


「じゃあ次はそれを魔法に変換する方法ね。これはイメージよ。その温かい感覚を炎に変えたり、氷に変えたりする事をイメージしてみて」


 とりあえず炎をイメージしてみるか。


「それよ! できてるじゃない!」


 目を開けると俺の手の上にふよふよと赤い炎が浮かんでいた。


「なあ、これ俺の魔法だよな? 夢じゃないよな?」


 すげえ感動だ。子供の時から憧れていた魔法を使えるなんて。


 そう思っていたら突然ビンタされた。


「なにすんだよ!」


「どう、痛い?」


 夢かどうか確認する為にビンタとか強引すぎるだろ。けど……


「ちゃんといてぇ」


 痛いのがこんなに嬉しい事なんて今までであっただろうか。


 ……別に美少女にぶたれて喜んでる訳じゃないぞ? 本当だぞ?


「じゃあ次はあの的に放ってみて」


「任せろ!」


 俺はエリカが指を指した方の的へ炎を放つ。


 的に着弾して、的には焦げ跡のようなものが残った。エリカに比べるとまだまだだが、それでも嬉しい。


「後はその感覚を何回も練習して掴むだけね」


「ありがとな! エリカがいなかったら俺は魔法が使えてなかった!」


 頭を下げてお礼をすると、エリカは顔を赤らめてそっぽを向いた。


「別にこれくらい普通よ」


 照れ隠しか、可愛いやつめ。


「それで俺はもう少し練習するけど、エリカはどうする?」


「私はもう帰るわ。スッキリしたしね」


「分かった、じゃあまた明日な」


「ええ、明日はお互いに頑張りましょう」


「そうだな!」


 エリカと別れた俺は夜遅くまで魔法の練習に没頭するのだった。

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