猫が美少女になるとは限らない!

タカハシU太

猫が美少女になるとは限らない!

 どうしていいか分からない。完全にお手上げ状態の中にいた。

 僕は売れない脚本家。今、とある短編映画の企画に参加している。美少女アイドルたちが出演する学園ホラーだ。

 けれども、何度シナリオを書き直しても、監督のOKは出ない。毎回毎回まったく別物へと、一からやり直しになる。かれこれ、もう48稿目だ。撮影も近い。キャストのスケジュールは押さえてあるし、今後のリリースも含めると、変更は不可だった。

 もう無理。どうせ書いても、また監督からダメ出しを食らうに決まっている。誰か助けてほしい。冗談抜きで、猫の手を借りたい。

 ああ、そうか。こうやって、執筆に苦しんでいる三流脚本家の前に、猫が助けに来てくれる話を書けばいいじゃないか。しかも、人間の姿をして。みんな、読みたいよな。マンガ化、アニメ化、実写化したら見たいよな。

 作家は世界を、人物を創作できる神なのだ。現れろ、猫耳美少女!


 そして、現れた。

「ニャオ~ン!」

 だけど、猫って、メスだけではないのだ。しかも、若いとは限らない。

 今、僕の部屋にいるのは、猫耳をつけたおっさんだった。でっぷりと肥えた、わがままボディ。しかも、服を着ていない。猫なんだから当たり前だ。しっぽは、長いのが後ろに、短いのが前……ああっ、見たくもないものを見てしまった。

 それに野良猫だから、外を存分に歩き回っているやつなのだろう。汚れがひどいのだ。それ以上に、臭いが。加齢臭ともいう。

 この猫おっさん、人間の言葉をしゃべれない。ニャオ~ン、ニャオ~ンと言いながら、部屋の中で遊び回る。いろんなものを壊しまくる。お願いだからやめてくれ。それに猫のくせに、妙に慕ってきてくれる。抱きついてきたり、ぺろぺろ舐めてきたり。

 もう限界だ。


 僕は部屋を飛び出た。さすがに全裸では追いかけてこなかった。

 幸い、スマホを持ってきていた。僕は一連の出来事を基に、急いでシナリオをでっち上げた。猫耳おっさんに襲われる美少女アイドルたちの話。とりあえず、これで監督に送信した。ボツになっても、クビになっても構うもんか。

 原稿を提出したので、おっさんも元の猫の姿に戻っていることだろう。

 ドアを開けると……まだいるよ、一糸まとわぬおっさんが。

「ニャオ~ン!」

               (了)

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