04.会話も続かない(2)

 魔法・サーチとは。

 自身の周囲にいる人や動物・魔物の大まかな位置を、魔力を用いて調べる魔法だ。この魔法も当然魔法式もとい魔法石が必要となるので装備と魔力に余裕のある者が所持している場合が多い。

 恐らくだがジークはこの魔法を所持していないと思われる。装備品など、パーティの仲間にだって馬鹿正直には話さないのではっきり『ない』と聞いた事はないけれど。そもそも彼にサーチを行う魔力のゆとりはない。


「いいのか? そんな事に魔力を割いて」

「誤差だから」


 ――また! また嫌な言い方をしてしまった!

 何が誤差だ偉そうに、と自身の発言に強めのツッコミを入れる。こういう鼻に付く言動で、故郷では浮いてしまったのに人は同じ過ちを繰り返すものだ。ちょっと一度、病院へ行った方がいいのかもしれない。

 ただそこは懐も心も広いジーク。やはり何かを納得したような顔をしている。


「それもそうだな。俺の基準で話をするのは、お前に失礼だった。サーチで捜して貰った方が早いし、そうして貰うと助かるよ」


 何でこの人、一匹狼気質なんていう気質を背負っているのだろうか。自らでコミュニケーションを取れば即人気者になれそうな大いなる優しさを持っているというのに。

 心中で溜息を吐きながら魔法を起動。

 魔力が自身を中心に広がっていくような感覚と共に、生き物の反応がした方を見やる。進行方向とは真逆だった。サーチを使って良かったと心の底からそう思った。魔力では獣人に勝てるけれど、体力では絶対に敵わないもの。魔物と対峙する前にヘトヘトになってしまう。


「こっち」

「逆だったか……」


 ジークが肩を落とすのが視界の端で見えた。落ち込まないで欲しい。ただ、どうやって徒歩で魔物を捜すつもりだったのかとは思ったけれど。


 ***


 移動する事、十数分。

 広大な畑を進み、ようやく討伐対象を発見した。


「あれだな」


 ジークの呟きに心中で頷く。

 かなり遠いがエーミュウの群れが目視できた。数は恐らく8匹。薬草を貪り食ったおかげか、丸々と肥えている。奴等の肉は非常に固いし羽も固くて毟れないしで食用には適さないのが残念だ。

 筋骨隆々な2本足、日光を受けて鈍色に輝く羽。鋭い嘴。どれをとっても危険生物である。周囲に人は居ない。エーミュウのせいで避難せざるを得なくなったのだろう。


 あちらこちらに思考を飛ばしていると、隣に立ったジークが小声で話し始めた。


「俺は群れには突っ込まず、ここでグロリアに張り付いているよ。寄られたら足止めをする。それでいいか? 正直、エーミュウに見つかるまでは俺の役目はないな。遠距離は非対応だ」

「分かった」

「よし。それじゃあ、早速討伐を開始しようか」


 エーミュウの足は速い。この距離でも人間を見つければすぐに走り寄って来るだろう。その時がジークの出番だ。盾役なので、再度遠距離のグロリアが間合いを取るまで足止めをしてくれるのである。

 よくある作戦だが、そうであるが故に堅実な作戦でもある。相手の知能は獣と相違ないので、こういう作戦の方がよく刺さるというものだ。


 グロリアは倉庫の魔法を起動。そこから魔弓を取り出した。

 『倉庫』は読んで字の如く、あらゆるものを出し入れする為の魔法だ。流石にこれはジークも積んでいる――というか、ギルド員には最早必須の魔法と言っていい。持ち歩くのに不便な装備を持つ者は大勢いる。


 今取り出した魔弓だってそうだ。弓と言うより、大砲。それは優にグロリアの身長を超えている。分厚い重厚な木材が使用され、弦と矢は魔力で生成するので今は存在していない。弓の真ん中に矢の通り道があり、ここから作製した矢を放つ仕組みとなっている。


「いつ見ても大きいな」


 ――ヤバい、何か返事した方が良いかな!? でも独り言っぽいし……。

 コミュ障には判断できかねたので、真剣にやっているふりをしてスルーした。ジークは気にしている素振りがない。やはり大きめの独り言だったのだろうか。


 ともあれ、魔弓を浮かせて弦を張る。といっても魔力を流し込むだけなのだが。

 次は矢の作製。魔弓の上部に中型の魔法石スロットがあるのだが、ここに『矢作製』という魔弓ユーザーしか使わないであろう魔法石がセットされている。これは外す事が出来ない。矢がないと、魔弓使いは何も出来ないからだ。

 この矢作製魔法だが、別の属性魔法と併せて使用する事で初めて矢を作る事が出来る。つまりこの矢はベースの魔法を何にしたかによって威力や飛距離、果てには効果が様変わりするなかなかに奥深い仕様なのだ。


 何故こんな話をしたかと言うと、今回は爆発系や炎上系の矢は作製できない。畑だし、商品となる薬草をあまりにも駄目にしてしまったら、流石にギルドへクレームが入るからだ。

 なので今回作製する矢は貫通力に特化し、吹き飛ばしたり、爆発したりするような矢は基本的に作らない。異常事態が起きて人が死にそうだったりする場合は除く。


 では1本目。矢作製、風撃Ⅰの魔法で矢を作製する。風撃Ⅰで突貫力のある矢へ仕上げた。とにかく前へ前へと進む、鋭い動きをするよう調節した。右手に持っていた矢を番える。そこで久々にジークが口を開いた。


「そろそろ始めるか?」

「うん」


 狙いを定める。魔弓の狙いは大味でいいのだが、今回は範囲攻撃矢ではないので狙いは重要だ。久々に狙い撃ちなんて精密な動きをするので、少々心配である。

 狙いを絞って絞って、そして矢を放つ。

 地面と平行に飛んだそれは、独特な風切り音を奏でながら一直線に進み、そしてエーミュウの1体を音もなく葬り去った。仲間が急に1匹倒れた事により、群れがざわつき始める。


 ――うん、感覚戻ってきた。次からはもっと早く処理できるな。

 一方でグロリアは既に狙って放つ動作の記憶を思い出し、即座に2本目を放つ。命中。あとは魔物がいなくなるまでそれを繰り返すだけだ。邪魔さえ入らなければ絶対に外さない、という謎の全能感が湧き上がって来る。

 何だか危ない思考のように見えるけれど、そうなった時は結局そのまま成功する事をグロリアはよくよく知っていた。


 7匹目を地面に倒した。視界に入っているのは1匹――だったはずだが、状況が変わる。

 のそりのそり、王者のような余裕を以て新たなエーミュウが姿を現したからだ。

 ただでさえ身体の大きなエーミュウなのだが、それでも新たに現れた1匹は遥かに大きい。普通のエーミュウより一回りは巨大だ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る